主税局参事官室参事官補佐 大隅 怜/水野 雅/高倉 俊明/松田 泰尚
本稿は、令和7年度税制改正によっていわゆるグローバル・ミニマム課税を構成する一連のルールの導入が完了したことを踏まえて、その国内法における各ルールの全体像とともに、その我が国の国内法体系との関係を整理することを目的としたものである(本稿の基準時は令和7年4月1日であるが、便宜上、条文を参照する際は、特に断りのない限り未施行の規定を含めた令和7年度改正後の法令によっている*1。)。各ルールを定める個別の規定については、財務省から公表されている各年度の「税制改正の解説」において詳細な説明が行われていることから、併せて参照されたい。
以下では、①我が国でグローバル・ミニマム課税を法制化するに至った国際的な議論の経緯に触れた上で、②関連する国内法令の内容を概説し、③既存の法人税体系との関係で生じ得る法的な論点についての見解を述べる。なお、本文中、制度の解釈や評価に係る部分については、筆者らの個人的意見に基づくものであり、所属する組織や部局の公式な見解ではないことに留意されたい*2。
1 「2本の柱」を巡る国際的な議論
平成24年(2012年)にOECD租税委員会によって立ち上げられた「BEPSプロジェクト」は、公平な競争条件の確保という考え方の下、各国政府・グローバル企業の透明性を高め、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)を防止するために国際課税ルール全体を見直すための取組みである。プロジェクトにおいて示された15の行動計画のうち、行動1では「電子経済の課税上の課題への対応」についての検討が行われていた。
平成27年(2015年)の「BEPS最終報告書」の公表時点では、行動1のうち、消費課税上の課題については見直しが提言された一方、法人課税における対応については合意に至らず、将来に向けて検討を継続することとされていたところ、その後の検討を経て、令和3年(2021年)10月にOECD/G20「BEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework on BEPS)」(以下「IF」という。)において「2本の柱」からなる対応策が合意された。
このうち、「第1の柱(Pillar 1)」は、経済のデジタル化に伴って、市場国に物理的拠点を置かずにビジネスを行う企業が増加したことで、恒久的施設(Permanent Establishment)(以下「PE」という。)の存在を前提とした従来の国際課税原則(いわゆる「PEなければ課税なし」の原則)の下では、十分な課税を実現できないという課題に対応するものである。「第1の柱」では、多数国間条約の締結を通じて、多国籍企業がグローバルな活動によって得た所得を適正に市場国の課税権に服するよう配分する形でこの課題に応えることが目指されているが、現時点では、早期の妥結と各国による署名に向けた交渉が継続されている状況にある。
他方の「第2の柱(Pillar 2)」は、低い税率や優遇税制を利用した外国企業の誘致が活発化すること(いわゆる「法人税引下げ競争(race to the bottom)」)により、各国の法人税収基盤が弱体化し、税制面における企業間の公平な競争条件が阻害されてきたことに対応するための取組みである。本稿のテーマであるグローバル・ミニマム課税は、この「第2の柱」を具体化する仕組みと位置付けられており、一定以上の規模の多国籍企業グループを制度の対象に、これらの多国籍企業グループが世界中のどこで活動する場合でも国際的に合意された最低税率15%以上の税負担を確保することを通じて、各国による法人税引下げ競争を防止し、公平な競争環境を実現することを目的としている。
グローバル・ミニマム課税については、「第1の柱」におけるのと異なり、多数国間条約ではなく、各国が国内法により導入することが前提とされている。各国はグローバル・ミニマム課税の導入を強制されることはないが、導入する場合には、IFにおいて合意されたモデル・ルール(Global Anti-Base Erosion Model Rules(Pillar Two))及びコンメンタリ(Commentary to the GloBE Rules)(以下、両者を合わせて「モデル・ルール等」という。)に沿った仕組みとすることが求められる(こうした枠組みは「コモン・アプローチ」と呼ばれる。)*3。そして、各国で導入された制度の内容やその執行の状況については、今後、IFにおける審査(ピア・レビュー)を通じて、モデル・ルール等に沿った内容となっていることを確認されることが予定されている。
2 グローバル・ミニマム課税の概要
グローバル・ミニマム課税は、①所得合算ルール(Income Inclusion Rule)(以下「IIR」という。)、②軽課税所得ルール(Undertaxed Profits Rule)(以下「UTPR」という。)及び③国内ミニマム課税(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)(以下「QDMTT」という。)の3つのルールにより構成されている*4。
(1)IIR及びUTPR
IIRは、多国籍企業グループ内の子会社等について、その所在する国・地域(所在地国)における実効税率が15%に満たない場合に、その満たない部分の金額について、同じグループ内の親会社等に対して課税する仕組みである。これに対して、UTPRは、例えば親会社等の所在地国における実効税率が15%に満たない場合に、その満たない部分の金額を子会社等に対して課税する仕組みである。
仮に、グローバル・ミニマム課税がIIRのみで構成されるルールであった場合、親会社等を軽課税国に移転し、IIR導入国に子会社等を移転させることによる租税回避に対抗できないことから、こうした場合にはUTPRにより課税を行うこととして、IIRによる課税を補完する機能を果たすように設計されている。すなわち、多国籍企業グループ内の会社等の所在地国のうちに実効税率が15%に満たないものがある場合には、まず、その満たない部分の金額について親会社等の所在地国がIIR課税を行い、その上で、各所在地国における実効税率が15%に満たない部分の金額のうちにIIRの課税対象になっていないものがある場合には、各所在地国のうちUTPRを導入しているものがそれぞれUTPR課税を行うこととなる。
このように、IIRとUTPRの間ではIIRによる課税が優先し、IIRの適用後の残額に対してUTPRによる課税が行われることとされている。
(2)QDMTT
多国籍企業グループ内の会社等が自国に所在する場合、自国内の会社等に係る実効税率が15%を下回る場合には、他国からIIRやUTPRにより課税を受ける可能性がある。この場合、その多国籍企業グループにとっては15%を下回る部分の金額についていずれの国のグローバル・ミニマム課税で課税されるかは基本的に問題ではない一方、実効税率が15%を下回る所在地国にとっては、実効税率15%に至るまでの部分をみすみす他国に課税されるままにしておく理由はない。
こうした状況を念頭に、QDMTTは、多国籍企業グループ内の会社等の所在地国の実効税率が15%に満たない場合に、当該所在地国がその満たない部分の金額について、他国のIIRやUTPRに先んじて当該会社等に対して課税する仕組みである。QDMTTによる課税がIIRやUTPRによる課税に優先することで、一般に導入国にとって、QDMTTは、他国のIIRやUTPR課税から自国の歳入を防衛するための仕組みとして機能することとなる。
これらのいずれのルールにおいても、実効税率の計算はグループ内の会社等の所在地国ごとに行われる。したがって、例えば、ある国に複数の子会社等が所在している場合には、個々の子会社等ごとに実効税率の計算を行うのではなく、当該複数の子会社等をまとめて、所在地国あたりの実効税率を計算することになる。
3 我が国におけるグローバル・ミニマム課税
(1)総論
コモン・アプローチの下、我が国のグローバル・ミニマム課税も、モデル・ルール等の規定に則った内容となっている。
我が国では、法人税法において関連する規定を措置しており、令和5年度税制改正においてIIR(「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」)を、また令和7年度税制改正においてUTPR(「各対象会計年度の国際最低課税残余額に対する法人税」)及びQDMTT(「各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税」)をそれぞれ導入している。この令和7年度税制改正により、我が国におけるグローバル・ミニマム課税を構成する一連のルールの導入は完了したこととなる。
法人税法の総則に納税義務者(法法4①・③)や課税所得等の範囲(法法6の2~6の4、8の2、8の3)、対象会計年度の意義(法法15の2)といった基本的な規定を定めた上で、内国法人については第2編第2章に、また外国法人については第3編第3章において税額の計算等に関する規定を定めている。
また、第4編において、グループの全体像やグローバル・ミニマム課税に関する計算の明細等を税務当局に対して提供する仕組みとして情報申告制度(特定多国籍企業グループ等に係る報告事項等の提供制度)(法法150の3)が措置されている。
(2)制度の対象となる多国籍企業グループ
グローバル・ミニマム課税の対象となるのは「特定多国籍企業グループ等」である。この特定多国籍企業グループ等には、典型的には、グループの総収入金額が7.5億ユーロ以上*5であって複数の国・地域にグループに属する会社等を持つ財務会計上の連結企業グループが該当する(法法82四)。そして、グループ内の最終親会社等(法法82十)の連結等財務諸表(法法82一)に連結して記載されることなどによってグループに属する会社等やその恒久的施設等は「構成会社等」と呼ばれる(法法82二イ、十三)。
(3)対象会計年度
納税義務を負担するのは特定多国籍企業グループ等内の個々の法人である*6(法法4①・③)。特定多国籍企業グループ等の最終親会社等の連結等財務諸表の作成に係る期間を「対象会計年度」といい(法法15の2)、IIR/UTPR/QDMTTに係る税額は、いずれもこの期間について生じることとなる(法法6の2~6の4、8の2、8の3)。
(4)基本的な税額計算の流れ
ある対象会計年度の特定多国籍企業グループ等について、その進出先の国・地域における実効税率が最低税率15%を下回るか否かが問題となる典型的なケースにおける税額計算の流れは大要以下のとおりである*7*8。
【IIR(「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」)における税額計算】
① 特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等単位の所得金額及び税額の計算
② 構成会社等の所在地国ごとの実効税率(「国別実効税率」)の計算
③ 特定多国籍企業グループ等単位の国際最低課税額(「グループ国際最低課税額」)の計算
④ 各所在地国における各構成会社等単位の国際最低課税額(「会社等別国際最低課税額」)の計算
⑤ 納税義務者となる法人の負担すべき国際最低課税額の計算
【UTPR(「各対象会計年度の国際最低課税残余額に対する法人税」)における税額計算】
① グループ国際最低課税額のうち各国のIIRによる課税額等を控除した残額(「グループ国際最低課税残余額」)の計算
② 我が国で課税すべきUTPR税額の総額(「国内グループ国際最低課税残余額」)の計算
③ 納税義務者となる法人の負担すべき国際最低課税残余額の計算
【QDMTT(「各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税」)における税額計算】
① 特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等のうち、我が国を所在地国とするものに係る構成会社等単位の所得金額及び税額の計算
② 我が国の実効税率(「国内実効税率」)の計算
③ 我が国を所在地国とする構成会社等が負担すべきQDMTT税額の総額の計算
④ 納税義務者となる法人の負担すべき国内最低課税額の計算
【IIRにおける税額計算】
① 構成会社等単位の所得金額及び税額の計算
特定多国籍企業グループ等について進出先の各国・地域において最低税率15%(法人税法上は「基準税率」(法法82三十一)と呼ばれる。)以上の税負担が確保されているか否かを判断するに当たっては、特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等の所在する国・地域(「所在地国」(法法82七))ごとの実効税率(「国別実効税率」(法法82の3②一イ(3)))を計算する必要がある。
国別実効税率は、所在地国単位での一定の所得に対する税負担の割合であり、その所在地国にある各構成会社等ごとの「個別計算所得等の金額」(法法82二十六)と「調整後対象租税額」(法法82三十)を算出することが、その計算の起点となる。
「個別計算所得等の金額」とは、特定多国籍企業グループ等の最終親会社等の連結等財務諸表の作成の基礎となる各構成会社等の個別財務諸表に係る会計上の純損益(「当期純損益金額」)に一定の調整を加えることで得られる金額であり(法法82二十六)、調整の結果、「個別計算所得等の金額」が正の値となるときには「個別計算所得金額」、ゼロ又は負の値となるときには「個別計算損失金額」と呼ばれる(法法82二十七・二十八)。
また、「調整後対象租税額」とは、当期純損益金額に係る法人税等であって「対象租税」(法法82二十九)に当たるものの額を基に調整を加えた金額である(法法82三十、法令155の35)。この調整においては、例えば、構成会社等の持分を有する他の構成会社等(親会社等)がCFC税制により課されている税額や、税効果会計の適用によって計上される法人税等調整額などが考慮される。
② 国別実効税率の計算
①で計算された各所在地国の構成会社等ごとの調整後対象租税額の合計額(「国別調整後対象租税額」という(法法82の3②一イ(3)(i))。)が、個別計算所得金額及び個別計算損失金額のネットの合計金額(「国別グループ純所得の金額」という(法法82の3②一イ(1))。)に占める割合を求めることで、その所在地国にある構成会社等全体としての実効税率に相当する「国別実効税率」を計算する(法法82の3②一イ(3))。
③ グループ国際最低課税額の計算
各所在地国ごとに、国別グループ純所得の金額から、所在地国内の構成会社等に係る一定の人件費(給与適用除外額)及び有形資産の額(有形資産適用除外額)を控除*9した残額に対して、基準税率から国別実効税率を控除した割合を乗じることで、国別グループ純所得の金額のある所在地国において、国別実効税率が基準税率を下回ることによって生ずるべき税額である「当期国別国際最低課税額」(法法82の3②一イ)が計算される。また、所在地国においてQDMTTが課されている場合には、この金額から更にQDMTTによる課税額(法法82の3②一ニ)を控除する(法法82の3②一)。
(計算方法)
[(国別グループ純所得の金額)-〔(給与適用除外額)+(有形資産適用除外額)*10〕]x[(基準税率15%)-(国別実効税率)]-(QDMTT税額)
各所在地国にある構成会社等についてこれによって計算された当期国別国際最低課税額の合計額が「構成会社等に係るグループ国際最低課税額」となり*11、特定多国籍企業グループ等に係る共同支配会社等がない場合には、この金額が「グループ国際最低課税額」となる(法法82の3①)*12。
④ 会社等別国際最低課税額の計算
次に、グループ国際最低課税額をその生じた各所在地国ごとに、その所在地国内の各構成会社等に係る個別計算所得金額に応じて比例的に配分することで、「会社等別国際最低課税額」を計算する(法法82の3①、法令155の36①一)。これにより、所在地国ごとに計算された基準税率を下回る部分に対応する税額に相当する金額のうち、その所在地国内の個々の構成会社等に帰属すべき金額が算出されることになる。
⑤ 納税義務者となる法人の負担すべき国際最低課税額の計算
原則として、特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等である内国法人で我が国を所在地国とするもののうち、最終親会社等であるものがIIRの納税義務者となる。我が国に所在する構成会社等のうちに最終親会社等に該当するものがなく、その最終親会社等の所在地国がIIRを導入していない場合などには、我が国に所在する内国法人のうち、最終親会社等よりも下位の資本階級に位置する構成会社等(中間親会社等又は被部分保有親会社等*13)に該当する内国法人が国際最低課税額に係る納税義務者となる(法法82の3①一イ)*14。
納税義務者となる内国法人が負担する国際最低課税額は、会社等別国際最低課税額を有する構成会社等に対する直接・間接の所有持分(法法82八)を基礎に計算される(法法82の3①一イ、法令155の37②)。
【UTPRにおける税額計算】
① グループ国際最低課税残余額の計算
IIRの過程で計算されたグループ国際最低課税額から、各国のIIRにより課税された金額等を控除することで*15、各国でUTPRの課税対象となるべき金額の総額に相当する「グループ国際最低課税残余額」を計算する(法法82の11②)。
② 国内グループ国際最低課税残余額の計算
上記①で計算したグループ国際最低課税残余額を基に、我が国におけるUTPR課税額の総額に相当する「国内グループ国際最低課税残余額」を計算する。
この国内グループ国際最低課税残余額は、我が国に所在する構成会社等の有する従業員等の数及び有形資産の額のそれぞれの合計数・額の、UTPRを導入している各所在地国にある構成会社等の有するこれらの合計数・額に占める割合に応じて決定される。計算方法の詳細は、
図表4 「国内グループ国際最低課税残余額」の計算(国・地域単位の配分計算)記載のとおり(法法82の11②柱書)。
図表4 「国内グループ国際最低課税残余額」の計算(国・地域単位の配分計算)記載のとおり(法法82の11②柱書)。
③ 納税義務者となる法人の負担すべき国際最低課税残余額の計算
上記②のプロセスで計算された国内グループ国際最低課税残余額について、同様に、我が国で納税義務者となるべき法人にその有する従業員等の数及び有形資産の額に応じて配分する。計算方法の詳細は、図表5 「国際最低課税残余額」の計算(構成会社等単位の配分計算)記載のとおり(法法82の11①)。この金額が「国際最低課税残余額」として、個々の法人の最終的なUTPR税額となる。
上記②・③のプロセスにおいては、いずれも、構成会社等の有する従業員等の数と有形資産の額を参照しているが、これは、構成会社等による実体ある経済活動の行われている国や地域において、これらに所在する構成会社等の実体に応じてUTPRによる課税を行わせることを趣旨とするものである。
【QDMTTにおける税額計算】
① 我が国を所在地国とする構成会社等に係る構成会社等単位の所得金額及び税額の計算
QDMTTにおいても、我が国を所在地国とする各構成会社等について、「個別計算所得等の金額」及び「国内調整後対象租税額」を求めることが税額計算の起点となる。「個別計算所得等の金額」については、IIRにおけるのと同義である(法法82の19②一、82の3②一イ(1)及び82二十六~二十八参照)。また、「国内調整後対象租税額」は、IIRにおける「調整後対象租税額」(法法82三十)に一定の調整を加えた金額である(法法82の19②一イ)*16。
② 国内実効税率の計算
QDMTTの税額計算において基準税率との比較に用いる実効税率は「国内実効税率」と呼ばれ、「国内グループ調整後対象租税額」の「国内グループ純所得の金額」に占める割合を指す(法法82の19②一イ(3))。
ここでいう「国内グループ調整後対象租税額」とは、我が国を所在地国とする全ての構成会社等の「国内調整後対象租税額」の合計額である(法法82の19②一イ(3)(i))。また、「国内グループ純所得の金額」とは、我が国に係る「国別グループ純所得の金額」(法法82の3②一イ(1))である(法法82の19②一柱書)。
③ 我が国を所在地国とする構成会社等が負担すべきQDMTT税額の総額の計算
我が国に所在する構成会社等について国内実効税率が基準税率を下回り、国内グループ純所得の金額がある場合に生じるQDMTT税額の総額が「当期グループ国内最低課税額」である(法法82の19②一イ)。
その計算方法は、IIRにおける当期国別国際最低課税額の計算と同様である。すなわち、国内グループ純所得の金額から、我が国に係る給与適用除外額と有形資産適用除外額を控除した値に対して、国内実効税率が基準税率15%を下回る部分の税率を乗じることで計算する。
(計算方法)
[(国内グループ純所得の金額)-〔(給与適用除外額)+(有形資産適用除外額)〕]x[(基準税率15%)-(国内実効税率)]
④ 納税義務者となる法人の負担すべき国内最低課税額の計算
当期グループ国内最低課税額を基に、各構成会社等の当期グループ国内最低課税額を生じさせたことに係る帰責性に応じて納税義務者となる個々の法人の負担すべきQDMTT税額である「構成会社等に係る国内最低課税額」を決定する*17。すなわち、我が国を所在地国とする各構成会社等に係る国内調整後対象租税額をそれぞれの個別計算所得等の金額に基準税率を乗じた金額(個別基準税額)と比較した上で、当期グループ国内最低課税額を、各構成会社等の国内調整後対象租税額が個別基準税額を下回る部分の金額に応じて比例的に配分する(法法82の19②一イ、法令155の62①)。具体的な配分方法については、図表6 国内最低課税額の基本的な計算方法を参照。
特定多国籍企業グループ等に係る共同支配会社等で我が国に所在するものがない場合には、「構成会社等に係る国内最低課税額」が国内最低課税額となる。
(5)課税標準及び税率
内国法人に係るIIR及びUTPRの課税標準はそれぞれ「各対象会計年度の課税標準国際最低課税額」(法法82の4①)、「各対象会計年度の内国法人に係る課税標準国際最低課税残余額」(法法82の12①)である。そして、ここでいう「各対象会計年度の課税標準国際最低課税額」は「各対象会計年度の国際最低課税額」(法法82の4②)を、また「各対象会計年度の内国法人に係る課税標準国際最低課税残余額」は「各対象会計年度の国際最低課税残余額」(法法82の12②)を指す。いずれも税率は90.7%である(法法82の5、82の13)。
また、内国法人に係るQDMTTの課税標準は「各対象会計年度の内国法人に係る課税標準国内最低課税額」とされ、これは「各対象会計年度の国内最低課税額」を指す(法法82の20①・②)。QDMTTの税率は75.3%である(法法82の21)*18*19。
(6)申告・納税等
① 税務申告と納税
我が国のIIR/UTPR/QDMTTに係る申告・納税期限は、いずれも各対象会計年度の終了の日の翌日から1年3月以内であるが(法法82の6①本文、82の14①本文、82の22①本文)、その特定多国籍企業グループ等における初回の申告・納付については、各対象会計年度の終了の日の翌日から1年6月以内とされる(法法82の6②、82の14②、82の22②)*20。
② 情報申告
また、グローバル・ミニマム課税においては、租税債務の正確性を評価するために必要な情報を税務当局に提供することを目的に、情報申告(GIR:GloBE Information Return)制度が設けられている。これに対応して、我が国の国内法においては、IIR及びUTPRについて「グループ国際最低課税額等報告事項等」の提供制度、QDMTTについて「グループ国内最低課税額報告事項等」の提供制度がそれぞれ措置されている*21。
これらの情報申告においては、基本的に、我が国を所在地国とする各構成会社等が、それぞれが別個に、我が国の税務当局に対して報告事項等の提供を行うこと(ローカル・ファイリング方式)が原則とされているが(法法150の3①・④)、その特定多国籍企業グループ等の最終親会社等の所在地国の税務当局が、我が国の税務当局に対して情報交換の枠組みを通じて情報申告に係る報告事項等の提供を行うことができる一定の場合においては、日本国内に所在する構成会社等に係る報告事項等の提供義務は免除される(セントラル・ファイリング方式)(法法150の3③・⑥)。
情報申告についても、その申告期限は、原則として各対象会計年度の終了の日の翌日から1年3月以内とされているが(法法150の3①・④)、上記の税務申告と同様、初回の申告期限の延長措置が設けられている(法法150の3⑨)*22。
(7)デミニマス除外とセーフハーバー
① デミニマス除外
イ 収入金額等に関するデミニマス除外
IIR及びUTPRについて、各対象会計年度において特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等の所在地国について次の要件を全て満たす場合には、その所在地国に係る当期国別国際最低課税額を零とみなすことを選択できる(法法82の3⑦)*24。QDMTTの当期グループ国内最低課税額についても同様のデミニマス除外が設けられている(法法82の19⑧)*25。
✓ 当期及び直前の過去2対象会計年度に係る収入金額*26の平均が1,000万ユーロ未満であること
✓ 当期及び直前の過去2対象会計年度に係る利益又は損失の金額*27の平均が100万ユーロ未満であること*28
ロ 連結除外構成会社等に係るデミニマス除外
特定多国籍企業グループ等内に重要性が乏しいことを理由に連結の範囲から除かれている「連結除外構成会社等」が含まれる場合には、こうした連結除外構成会社等について個別計算所得等の金額や調整後対象租税額を計算することに係る事務負担軽減の観点から、簡易な方法による実効税率の計算等を許容する固有のデミニマス除外のルールの適用を選択できる(法法82の3⑧)。なお、QDMTTにおいても同様のルールが措置されている。
② QDMTTセーフハーバー
IIR及びUTPRについて、特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等が、我が国又は外国・地域において以下の要件を満たすQDMTTを課されている場合には*30、その所在地国の構成会社等に係るグループ国際最低課税額*31をゼロとすることを選択できる(法法82の3⑥)。これにより、例えば、我が国を最終親会社等の所在地国とする特定多国籍企業グループ等である日本企業にとっては、その構成会社等の所在地国においてこれらの要件を満たすQDMTTを課されている場合には、当該所在地国に係るグループ国際最低課税額をゼロとすることで、我が国のIIR課税に係る計算を省略することが可能となる。
✓ そのQDMTTに関する法令が、本税制における当期純損益金額の計算に関する規定と同様であると認められる規定が設けられている法令であること(QDMTT会計基準)
✓ そのQDMTTに関する法令が、最終親会社等又は被部分保有親会社等がその国・地域を所在地国とする全ての構成会社等に係る持分の全てを有する場合にのみQDMTTを課することとされているものでないことその他の一定の要件を満たすものであること(整合性基準)
この要件はコモン・アプローチに沿ったものであることから、我が国がQDMTTセーフハーバーの要件を満たしたQDMTTを導入していることで、例えば、日本企業の子会社に当たる構成会社等の所在地国の法制の下で、最終親会社等の所在する我が国のグループ国際最低課税額に相当する金額をゼロとすることも同様に可能となる。
これらの我が国を含めた各国のQDMTTがQDMTTセーフハーバーとしての要件を満たすか否かについては、各国が個別に判断するのではなく、今後OECDにおけるIFによるピア・レビューにより審査されることとなる。
(8) 移行期間CbCRセーフハーバー(経過措置)
令和8年12月31日以前に開始し、令和10年6月30日までに終了する対象会計年度については、所定の要件のいずれかを満たす国・地域について、グループ国際最低課税額及び国内最低課税額を零とすることを選択できる「移行期間CbCRセーフハーバー」と呼ばれる経過措置が設けられている(IIR/UTPRについて令5改正法附則14、QDMTTについて令7改正法附則18)。
移行期間CbCRセーフハーバーにおいては、QDMTTセーフハーバー等と同様に情報申告において適用を選択する必要があることに加えて、その対象会計年度において移行期間CbCRセーフハーバーの適用を受けるためには、過去のいずれの対象会計年度においてもその適用を受けていることが要件とされている(令5改正法附則14②一・二、令7改正法附則18②一・二)。
4 我が国の法体系との関係
(1)法人税法上の位置付け
既に述べてきたとおり、我が国のグローバル・ミニマム課税については、法人税法の本則中に既存の「各事業年度の所得に対する法人税」(以下「法人所得税」という。)と並列する新たな章を設けた上で、関連する各規定を創設している。これについては、令和5年度税制改正の解説(乾慶一郎・山田尚功・水野雅・大隅怜「国際課税関係の改正」752頁)において以下のとおり説明されている(下線は筆者による。)。
「グローバル・ミニマム課税は、法人等の集合体であるMNEグループが、当該グループを構成する会社等の所在する国・地域で稼得した所得等について負担する法人所得等に係る実効税率が、国際的に合意された最低税率より低いことを問題にして課税を行う仕組みです。既存の『各事業年度の所得に対する法人税』が、原則として単体の法人の稼得する所得に着目して課税を行う仕組みであるという理解を前提とすれば、グローバル・ミニマム課税は、法人の稼得する所得等に着目して行われる課税である点では『各事業年度の所得に対する法人税』に類似する一方、主として企業集団としてのMNEグループに着目する点においては、異なる性質を持つものといえます。
また、グローバル・ミニマム課税は、上記のとおり、従来の国際課税ルールの見直しの一環として国際的な最低税率の導入を目的とするものですので、その性質上、臨時的・特別的に措置する制度というより、一般的・基本的な制度ということができます。
これらの観点を踏まえて、我が国におけるグローバル・ミニマム課税は、従来の法人所得税体系とは異なる新たな課税類型としての特徴を持つ国際課税上の新たな基本的ルールとして、法人税法本法において既存の法人所得税体系と並列的に措置することとされました。」
グローバル・ミニマム課税においては、連結ベースでの総収入金額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループが制度の対象とされ、制度を構成する各ルールは、いずれも、そのグループに所属する会社等の所在地国における実効税率を参照して税額を決定しつつも、実際に納税義務を負担する会社等はグループ内の他の会社等となり得ることが当然に想定されている。このようなグローバル・ミニマム課税の性質は、この制度が、法人の集団としての活動に着目する仕組みであることを示すものと評価できることから、上記解説は、こうした特徴も踏まえて、グローバル・ミニマム課税を従来の法人所得税体系とは異なる新たな課税類型として措置することが適当としたことを説明するものといえる。
他方で、グローバル・ミニマム課税に関して、法人所得税とは区別して規定を設けることが適当とした場合でも、これを法人税法本法に措置するか、租税特別措置法に措置するかは別途の問題となる。
この点、租税特別措置法は、法人税を始めとした所定の税目について、当分の間、その軽減・免除や還付のほか、納税義務や課税標準、税額計算等の特例を設けることについて規定するものであり(同法1条)、同法による租税特別措置は、「経済政策、社会政策その他の政策的理由に基づいて、租税制度に加えられた臨時的な、例外的措置」(武田昌輔「DHCコンメンタール法人税法6」(第一法規)102頁)と解されている。他方で、グローバル・ミニマム課税は、冒頭で述べたとおり、従来の国際課税ルールを見直す取組みとして国際的に合意され、経済のデジタル化・グローバル化に合わせて新たなルールを構築するものであることから、上記解説は、「その性質上、臨時的・特別的に措置する制度というより、一般的・基本的な制度」として法人税法本法に規定を設けることが適当である旨を説明するものと理解できる。
(2)我が国の法体系との関係における論点
① 問題の所在
上記のとおり、IIR及びUTPRにおいては、グループ内のある構成会社等の所在地国について計算された実効税率が最低税率15%を下回る場合には、その構成会社等とは別個の、他の構成会社等である会社等について課税が生じる可能性がある。これは、具体的には、我が国を所在地国としない構成会社等について計算された税額が日本国内の内国法人等に係る納税義務として課される形で問題となる。
また、QDMTTとの関係でも、国内に複数の構成会社等が所在する場合に、ある構成会社等の実効税率が相対的に低廉であることなどを原因として他の構成会社等にQDMTT税額が発生する場合には、同様の問題を生じ得る。
これらは換言すれば、ある構成会社等の所得に係る課税が不十分であること(構成会社等の所在地国に係る実効税率が最低税率に満たないこと)を理由に、なぜ別人格である他の構成会社等に対して課税を行うことが許容されるのかという問題である。
② 検討
この点を検討する前提として、グローバル・ミニマム課税の政策的な必要性については、一般に肯定できるものと考えられる。すなわち、経済のグローバル化やデジタル化の進展により、国境を越えた企業グループ内での軽課税国への利益移転は極めて容易になっており、こうした企業活動について従来の国際課税ルールの枠組みのみで対応することには限界がある。この点に、個々の企業の取引に着目するのではなく、企業グループを一体的な経済活動主体と捉えてグローバル・ミニマム課税の対象とすることには政策的な必要性があり、冒頭で述べた2021年10月のIFでの国際合意は、各国のこうした現状認識が前提にあるものと理解できる。
このようにグローバル・ミニマム課税が企業グループのグループとしての活動に着目した仕組みであることを突き詰めていけば、究極的には、その納税義務もグループ全体で負担することが望ましいとも考えられるが、現実の執行に当たっての納税義務の帰属先は、法的に責任財産の属する個々の法人格を持った構成会社等を基礎とせざるを得ない。
こうした前提の下で、なぜ実際に軽課税国に所在する構成会社等(より端的には実効税率が基準税率を下回ることによりグローバル・ミニマム課税による課税の原因を作り出した構成会社等)ではなく、他の構成会社等が課税を受けることが許容されるのかを検討するに当たっては、その構成会社等について、課税を基礎付けるだけの帰責性が認められるのかという観点が重要と考えられる。
イ IIR
IIRにおいて納税義務者となるのはそのグループの最終親会社等を始めとした資本関係の上位に位置する親会社等であり、その税額は、税額発生の原因となった所在地国にある構成会社等に対する所有持分を基礎に決定される。こうした親会社等である構成会社等は、直接・間接の所有持分の保有を通じて資本関係の下流に位置する他の構成会社等に一定の支配力を有することが想定されることから、軽課税国に所在する構成会社等に対してその支配が及んでいることをもって、グループ内の構成会社等について所在地国において生じた軽課税状態の創出への帰責性を認めることができる。
ロ UTPR
UTPRにおいて納税義務者となる構成会社等は、必ずしもグループ内の親会社等に限られないから、IIRのようにグループ内で支配的な地位にあることをもって、UTPR課税に係る帰責性を直接に基礎付けることは難しい。とはいえ、IIRのみではインバージョンを通じて容易に課税の潜脱を許すこととなりかねず*32、グローバル・ミニマム課税の目的を達する上では、IIRとは異なる仕組みによって、資本関係の下流側からも課税を確保する仕組み自体は必要というほかない。また、グループが全体として稼得した所得についてその一部が軽課税国に移転されている場合においては、本来はその稼得された国・地域で応分の課税が行われるべきである一方、現に軽課税国の構成会社等において認識されている所得について、その移転が行われた所得がもともと稼得された国・地域を特定することは、現実的には困難が伴う。
こうした点を踏まえて、UTPRにおいては、各国の構成会社等が、その有する従業員等の数・有形資産の額に応じてIIR課税後の税額を比例的に負担する仕組みを採用しているものと理解できる。これらは、各構成会社等の人的・物的資本であって、その構成会社等がグループの一員として生み出す事業上の利益の基盤と評価できる。そうすると、UTPR課税を受ける構成会社等は、グループ内の親会社等の支配の下、グループの一部として事業上の利益を生み出す基盤を有し、その結果、そのグループが進出先の国・地域において軽課税の状態を生じているといえ、この点に、UTPR課税を基礎付ける帰責性を認めることができると考えられる。
このように考えるとしても、納税義務者となる構成会社等にグループ外の株主等(少数株主等)がいる場合には、当該少数株主等にとって予期しない形で投資先である構成会社等にUTPR課税が生じる可能性がある。
もっとも、これらの少数株主等にとっても、支配株主等を始めとした他の株主等が存在すること自体は関知し得るのであって、また、投資先がUTPRを始めとした各種の税制の適用を受けることについても、同様に知り得るところである。そうだとすれば、少数株主等に関して、その投資先がUTPRの適用による課税を受ける可能性があることを一般的な投資リスクと切り離して論じる意義は乏しく、許容すべき投資リスクの範疇の問題と考えられる。また、少数株主等にとっては、従前から投資していた会社等が、UTPR施行後、買収等により新たにUTPR課税の対象となるグループに属することとなる場合も考えられるものの、こうした場合であっても、グループに属することとなって以降、具体的なUTPRに係る納税義務が成立するまでの間において、持分の譲渡等を通じた投下資本の回収自体は一般に可能であることを踏まえれば、少数株主等に許容し得ないほどの負担を強いるものではないと考えられる。
ハ QDMTT
QDMTTにおいては、ある国で生じたQDMTT税額の総額をその国を所在地国とする各構成会社等間で配分する方法についてモデル・ルール等に規定はなく、各国の裁量に委ねられている。
そこで、我が国のQDMTTにおいては、当期グループ国内最低課税額から各構成会社等ごとの国内最低課税額を計算するに当たって国内の構成会社等に係る国内調整後対象租税額が個別基準税額(個別計算所得等の金額に基準税率を乗じて計算した金額)を下回る部分の金額を計算した上で、この金額が日本国内の各構成会社等に係る当該金額の合計額に占める割合を乗じることにより計算することとする(法法82の19②一イ)など、QDMTT税額発生への帰責性に応じて各構成会社等の具体的な国内最低課税額が決定される仕組みが採用されている(上記3(4)【QDMTTにおける税額計算】④を参照)。
5 最後に
令和7年度税制改正によって、グローバル・ミニマム課税に関する制度の創設という観点からは一応の区切りが付いたこととなる。今後は、先行して適用が開始しているIIRを念頭に、制度の適正な実施という観点からの議論が活発化していくものと見込まれるものの、法制的な観点から見てみても、令和8年度以降の税制改正において引き続きUTPR及びQDMTTを含めたグローバル・ミニマム課税全般について国際的な議論を踏まえた改正が必要となることが見込まれており*33、当面の間は、いわば「走りながら」制度の手直しを行っていく状況が継続するだろう。
また、今般のグローバル・ミニマム課税をめぐる一連のルールの法制化に際しては、令和5年度から令和7年度の税制改正にかけて外国子会社合算税制の見直しも併せて行われてきたが、これについても、「令和8年度以降の税制改正においては、『第2の柱』の実施等に伴う環境の変化を踏まえつつ、国際的な経済活動により生じる課税上の問題に適正に対処する観点等から必要な検討を行う」(自由民主党・公明党「令和7年度税制改正大綱」15頁)とされており、近年、同制度については主として「第2の柱」の導入に伴う事務負担の軽減の観点から行われていたのとは趣の異なる観点からの見直しが検討される可能性がある。
こうして見ると、国際課税をめぐる状況は引き続き変革の過渡期にあるというべきであって、「第2の柱」に限ってみても100年に1度ともいわれた国際課税ルールの改革は依然として道半ばというべきかもしれない。とはいえ、これまで見てきたように、我が国においてグローバル・ミニマム課税という従来の法人所得税とは異なる税制が新たに創設された意義は決して小さくないものと思われ、今般の一連の改正による我が国におけるグローバル・ミニマム課税の導入が、今後の国際課税ルールの発展の一助となることを願っている。
図表1 2本の柱について
図表2 グローバル・ミニマム課税の概要
図表3 UTPRにおける税額(国内最低課税残余額)の計算フロー
図表7 グループ国際最低課税額等報告事項等の提供制度の概要(ローカル・ファイリング方式)*23
図表8 グループ国際最低課税額等報告事項等の提供制度の概要(セントラル・ファイリング方式)
図表9 連結除外構成会社等に係るデミニマス除外
図表10 連結除外構成会社等の範囲*29
図表11 QDMTTセーフハーバーにおけるQDMTT会計基準と整合性基準
図表12 IIR及びUTPRに係る移行期間CbCRセーフハーバー
図表13 QDMTTに係る移行期間CbCRセーフハーバー
*1) グローバル・ミニマム課税に係る令和7年度改正事項のうちUTPR及びQDMTTに係る部分の規定は、令和8年4月1日以降に開始する対象会計年度から適用することとされている。
*2) 本稿では、各法令は以下のとおり表記しているほか、各年度の税制改正に係る改正法附則については、略記した元号を付した上で「令〇改正法附則」のように表記している。
法人税法:「法法」/法人税法施行令:「法令」/法人税法施行規則:「法規」/地方法人税法:「地法法」
*3) モデル・ルール及びコンメンタリについては、以下のOECDのウェブサイトにおいて公表されている。モデル・ルール及びコンメンタリの合意後も、IFにおいて制度の詳細な内容を定める執行ガイダンス(Administrative Guidance)が累次にわたって検討・公表されており、国際的に合意された執行ガイダンスは順次、コンメンタリに統合されることが予定されている。
(参考)https://www.oecd.org/en/topics/sub-issues/global-minimum-tax/global-anti-base-erosion-model-rules-pillar-two.html
*4) 後述のとおり、国内法においてはこれらと異なる名称がそれぞれ用いられているが、説明の便宜上、本稿では、特に個別の国内法上の規定に関連して言及すべき場合を除いて、IIR/UTPR/QDMTTの各略称を用いる。
*5) 総収入金額が7.5億ユーロ以上か否かの判定は、原則として、その対象会計年度の直前の4対象会計年度のうち2以上の対象会計年度においてグループの総収入金額が7.5億ユーロ以上か否かによって行う(法法82四)。
*6) IIRにおいて課税を受けるのは、特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等である内国法人のみであるが(法法6の2)、UTPRやQDMTTにおいては、こうした内国法人のほか、特定多国籍企業グループ等に属する我が国を所在地国とする恒久的施設等を有する構成会社等である外国法人も対象となる(法法6の3、6の4、8の2、8の3)。さらに、QDMTTにおいては、連結等財務諸表に連結して記載されず会計上の持分法の適用を受けるにすぎない共同支配会社等(法法82十五)も対象となる(法法6の4、8の3)。
*7) 特定多国籍企業グループ等に係る共同支配会社等(法法82十五)についても、その所在地国における実効税率の計算等を行うが、共同支配会社等については同じ所在地国内の構成会社等とは区別して資本系統ごとに実効税率を計算するなど(法法82の3④参照)、構成会社等とは異なる規定が適用される場面がある。本稿では紙幅との関係を踏まえて構成会社等の場合に限って記載している。
*8) このほか、所在地国の実効税率が最低税率以上である場合や、所在地国全体として所得が生じていないような場合などであっても、例えば、ある対象会計年度において、過去の対象会計年度の実効税率の計算で考慮されていた税額が減少し、その結果、過去の対象会計年度における実効税率が15%を下回ることとなったときには、その当該対象会計年度において別途の税額が発生する場合がある(法法82の3②一ロ・ハ、二、三参照)。この点は基本的にQDMTTにおいても同様である。
*9) この給与適用除外額と有形資産適用除外額とを合わせて一般に「実質ベースの所得除外(SBIE:Substance-based Income Exclusion)」と呼んでいる。
*10) 原則として、給与適用除外額は構成会社等に係る人件費の5%相当、また、有形資産適用除外額は、構成会社等の有する有形資産簿価の5%相当とされているが、令和6年4月1日から令和14年12月31日までの間に開始する対象会計年度については、経過措置により5%より高率の控除割合が定められている(令5改正法附則14⑤・⑥)。
*11) なお、当期国別国際最低課税額以外にIIR税額が生じる場合として、脚注8を参照。こうした税額がある場合には、その当期国別国際最低課税額との合計額が「構成会社等に係るグループ国際最低課税額」となる。
*12) 特定多国籍企業グループ等内に共同支配会社等がある場合には、「共同支配会社等に係るグループ国際最低課税額」との合計額が「グループ国際最低課税額」となる(法法82の3①)。
*13) 「中間親会社等」及び「被部分保有親会社等」はいずれも、特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等(恒久的施設等に該当するものは除く。)のうち、同じグループ内の他の構成会社等や共同支配会社等に対する所有持分を直接又は間接に有するものであり、基本的に資本的支配関係の中間に位置する会社等が想定されている(法法82十一・十二イ参照。最終親会社等や各種投資会社等は除外される。)。その上で、被部分保有親会社等は、グループ外の者によって一定の所有持分を20%超、直接・間接に保有されている構成会社等であり(法法82十二ロ)、中間親会社等と被部分保有親会社等の両者に該当する構成会社等については、被部分保有親会社等への該当性が優先される(法法82十一括弧書き)。
*14) このように特定多国籍企業グループ等内で資本関係上、上位に位置するものから優先的に納税義務者とされる原則を「トップダウン・アプローチ」と呼んでいる。なお、構成会社等に該当する内国法人のうちに被部分保有親会社等に該当するものがある場合には、最終親会社等や中間親会社等と並列的に、被部分保有親会社等が納税義務者となるときがある。
*15) グループ国際最低課税額から各国のIIRによる課税額を控除した残額がグループ国際最低課税残余額となることが原則であるが(法法82の11②一柱書)、UTPRはあくまでIIRの補完的な課税制度であることから、グループ国際最低課税額のうち、最終親会社等の所有持分に対応する部分について漏れなくIIR課税が確保されているといえる一定の場合には、各構成会社等の会社等別国際最低課税額(我が国を所在地国とする構成会社等について我が国の法令によって計算した場合に算出される金額と合わせて「会社等別国際最低課税額等」という。)の合計額をグループ国際最低課税額から控除する(その結果、グループ外の者の持分に帰属することでいずれの国・地域でIIR課税されていない部分の会社等別国際最低課税額等も控除される)ことが認められている(法法82の11②一イ・ロ)。
*16) QDMTTにおいては、実効税率計算に当たって日本国内の構成会社等の持分を有する他の構成会社等がCFC税制の適用によって課されている税額が考慮されないなど、IIRと異なる取扱いが求められており、この点が、この「調整後対象租税額」から「国内調整後対象租税額」への調整過程に反映されている(法令155の61①)。
*17) なお、当期グループ国内最低課税額以外にQDMTT税額が生じる場合として、脚注8を参照(あわせて法法82の19②一ロ・ハ、二、三参照のこと)。こうした税額がある場合には、④において当期グループ国内最低課税額について各構成会社等の帰責性に応じて計算された税額との合計額が「構成会社等に係る国内最低課税額」となる。
*18) UTPR及びQDMTTについては、外国法人が納税義務者となる場合があることから、同旨の規定が置かれている(UTPRについて法法145の3①・②、145の4、QDMTTについて法法145の7①・②、145の8)。
*19) IIR/UTPRとQDMTTとで税率が異なる理由については、自由民主党・公明党「令和6年度税制改正大綱」(令和5年12月14日)15-16頁に以下の記載がある。
「IIR・軽課税所得ルール(UTPR:Undertaxed Profits Rule)は、外国に所在する法人等が稼得する所得を基に課税する仕組みであり、課税対象と地方公共団体の行政サービスとの応益性が観念できないため、地方税である法人住民税・法人事業税(特別法人事業税を含む。以下同じ。)の課税は行わないこととし、現行の税率を基に法人税による税額と地方法人税による税額が907:93の比率となるよう制度を措置する。」(15・16頁)
「QDMTTは、内国法人等が稼得する所得を基に課税する仕組みであり、応益性が観念できること等を踏まえ、国・地方の法人課税の税率(法人実効税率29.74%の内訳)の比率を前提とした仕組みとする。簡素な制度とする観点から、QDMTTにおける法人住民税・法人事業税相当分については、地方法人税に含めて国で一括して課税・徴収することとし、地方交付税により地方に配分する。これらを踏まえ、法人税による税額と地方法人税による税額が753:247の比率となるよう制度を措置する。」(16頁)
これを踏まえて、我が国の法人実効税率29.74%の内訳を見てみると、それぞれ法人税率と地方法人税率との比が907:93、法人税率と地方法人税・法人住民税(法人税割)・法人事業税所得割(特別法人事業税込)の税率との比が753:247となるから、IIR/UTPRとQDMTTにおける各税率はこの比率を念頭に置いていることが分かる(なお、地方法人税における税率は、IIR/UTPRに係るものが93/907、QDMTTに係るものが247/753である(地法法24の3、24の10参照)。)。
*20) 外国法人については法法145の5及び法法145の9を参照。
*21) これらの情報申告制度は、移転価格税制における、いわゆるCbCR(Country by Country Reporting)の仕組み(我が国においては「特定多国籍企業グループに係る国別報告事項」の提供制度(措法66の4の4))をベースとして措置されている。
*22) モデル・ルールにおいては、情報申告についてのみ、提供期限が定められており、確定申告書の提出期限についての定めはないが、我が国の国内法においては、いずれについても、モデル・ルールにおける提供期限にあわせた期限とされている。
*23) QDMTTに係る情報申告制度であるグループ国内最低課税額報告事項等の提供制度も、基本的に同様の仕組みである。なお、いずれの場合も、報告事項等の提供義務を負う法人が複数ある場合には、代表して提供する法人を指定することで、その指定された法人以外の法人については提供義務が免除される(法法150の3②・⑤)。
*24) この選択はグループ国際最低課税額等報告事項等(他国・地域の制度の下で提出する場合にはこれに相当する事項)において行う必要がある(法法82の3⑩)。連結除外構成会社等に係るデミニマス除外、QDMTTセーフハーバー及び移行期間CbCRセーフハーバーにおいても同様である(法法82の3⑩、令5改正法附則14②一、令7改正法附則18②一)。
*25) IIR/UTPR/QDMTTのいずれの場合においても、構成会社等が「各種投資会社等」(法法82十六)に該当する場合には、デミニマス除外の適用は認めれない(法法82の3⑦柱書、82の19⑧柱書)。
*26) 収入金額の調整について法令155の55①一、法規38の44(QDMTTについては法令155の79、法規38の66)参照。
*27) ここにいう利益・損失の金額には、基本的に個別計算所得金額と個別計算損失金額を用いる(法令155の55②)。QDMTTにおいても同様である(法令155の79①)。
*28) 構成会社等が連結除外構成会社等(法法82の3⑧柱書)に該当する場合には、連結除外構成会社等に係るこれらの収入金額や利益・損失の金額の計算について異なるルールの適用を選択することが認められる(法令155の55③)(QDMTTについては法令155の79①)。この選択についても情報申告において行う必要がある。
*29) 法規38の44④(QDMTTについては38の66②)参照。
*30) 我が国のQDMTTはこの要件を満たすように設計されている。
*31) 無国籍構成会社等については、その無国籍構成会社等に係るグループ国際最低課税額(法法82の3⑥柱書)。
*32) 例えば、軽課税国の子会社を親会社に、IIR導入国の親会社を子会社にする形に資本構成を変更することで、グループとしての活動実態を大きく変えることなく容易にIIR課税の潜脱を行うことができてしまう。
*33) 自由民主党・公明党「令和7年度税制改正大綱」(令和6年12月20日)においても「引き続き令和8年度以降の税制改正において、今後発出されるガイダンスの内容等を踏まえた見直しを検討するとともに、『第2の柱』との関係を踏まえて適正な課税を確保する観点から既存の税制について必要な検討を行う」こととされている(14頁)。