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太平洋島嶼国からのコルレス銀行の撤退について


国際局地域協力課 鳥羽 建/熊谷 将俊/森 健治郎/大和 崇*1

1.はじめに
 近年、日本と太平洋島嶼国の協力関係の重要性が高まっている。太平洋島嶼国は、その名の通り、太平洋の中心の日本、米国、豪州を結ぶ海上交通路(シーレーン)の結節点に位置している。また、それらの国は、日本にとって、水産物やエネルギーといった資源の重要な供給地であることに加えて、国際場裡でも日本を支持する重要なパートナーでもあり、日本政府が推進する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP:Free and Open Indo-Pacific)」構想の主たるステークホルダーと言える。
 日本と太平洋島嶼国は非常に密接な関係性を有している。歴史を振り返ると、例えば、ミクロネシア3国(パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島)との間では、第二次世界大戦以前の委任統治時代から経済的・文化的な交流が継続している。政府当局間においても、1997年以来、3年に1度、首脳級の「太平洋・島サミット(PALM:Pacific Islands Leaders Meeting)」を日本で開催しており、直近では、2024年7月に「第10回 太平洋・島サミット(PALM10)」を開催している。
 日本と太平洋島嶼国の協力分野は、経済・安全保障・海洋協力・人的交流等多岐にわたる。その中でも、PALM10において、太平洋島嶼国の首脳から、日本の協力に対する高い期待が寄せられた財務・金融分野の課題の一つが、同地域からのコルレス銀行の撤退の問題である。近年、同地域から国際的な銀行が業務撤退することにより、それらの国の政府、企業、家計が海外への送金手段を失い、国際金融市場にアクセスすることが困難となりつつある。その結果、開発援助、貿易決済、出稼ぎ労働者からの仕送り等が滞り、経済活動のみならず社会活動も含めて様々な悪影響が生じてしまう。このような金融インフラの喪失は、例えば自然災害のようにわかりやすく目に見えるものではないが、それらの国の自立性や経済発展の基盤を脅かす見えざる危機と言える。
 日本財務省は、太平洋島嶼国からのコルレス銀行の撤退の問題に対して、米国、豪州といった同志国や、世界銀行、アジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)、国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)といった国際パートナーと連携しながら、様々な施策を通じて解決に向けて取り組んでいる。本稿では、当該問題が生じた背景、足下で起きている事実関係、日本が取り組んでいる支援施策等について、整理して取りまとめていきたい。
 なお、本稿は、当時の業務経験、作業記録、公表資料等を元にして、執筆者が個人として解釈・構成したものであり、政府や財務省の公式な見解を記すものではない。また、本稿に含まれた情報や制度の説明について間違いがありうる。そのような場合、それらは、執筆者の責に帰すことをご承知おきいただきたい。*2

2.太平洋島嶼国の概要
〈太平洋島嶼国とは〉
 太平洋島嶼国は、太平洋南部に位置する、クック諸島、ミクロネシア連邦、フィジー、キリバス、ナウル、ニウエ、マーシャル諸島、パラオ、パプア・ニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツの14か国で構成されている。*3同14か国は、国際連合(United Nations)の小島嶼開発途上国(SIDS:small island developing states)に分類されており、その地理的特性に由来するユニークな開発課題が存在している。*4
 例えば、国土が小さく人口が少ないため、規模の経済が働かない「狭小性」、離島をはじめ国土が広く散在しており、社会サービスを提供するコストが高くなる「隔絶性」、日用品の多くを輸入に頼っている一方で、海外の主要市場から遠く食料価格や燃料価格の価格変動の影響を受けやすい「遠隔性」、海に囲まれており、海面上昇といった自然災害に対する防災上の課題が多い「海洋性」といった開発課題がそれらの国の開発・成長の阻害要因となっている。特に、太平洋島嶼国にとって、気候変動による影響に対する脆弱性は重大な課題であり、ツバル等の海抜が特に低い島嶼国においては、海面上昇による国土の浸食が現実的な問題となっている。
 太平洋島嶼国は、歴史・言語・文化的背景の違いから、ミクロネシア、メラネシア、ポリネシアという3つのサブ地域に分けられる。地域ごとに経済の前提状況も相当に異なる。例えば、メラネシアに含まれるパプア・ニューギニアやフィジーといった国は、人口や経済規模も他の太平洋島嶼国に比べて大きく、中央銀行がキナやフィジードルといった自国通貨を発行している一方、ミクロネシアのパラオ、ミクロネシア、マーシャル諸島は、人口や経済規模が小さく、また米ドル経済圏となっており中央銀行が存在しない。各サブ地域は、米国、豪州、ニュージーランドといった国々との間に歴史的な関係を有しており、安全保障協定や援助協定を結ぶ等、社会経済の様々な面で大きな影響を受けている。
 多くの太平洋島嶼国は、地理的に国土・資源・人口等の生産資源が限られ、主な国内産業が観光業や漁業に偏る結果、経済成長がそれら限られた産業の動向に左右されやすい構造となっている。2020年から始まった新型コロナウイルス感染症のパンデミックにおいては、グローバルに旅行客の往来を含む社会経済活動が制限されたことで、表1 太平洋島嶼国の実質GDP成長率(暦年ベース)*5にあるように、経済に大きな影響を受けることとなった。特にフィジーやパラオといった観光業への依存度が高い国は2ケタ以上の大幅な成長減を経験し、2022年以降、ウィズコロナ政策への転換による観光客の受け入れ再開に伴い、徐々に回復基調に戻っている。他方、食料価格や燃料価格の価格変動の影響を受けやすい「遠隔性」により、ロシアのウクライナ侵攻に伴う物価・エネルギー価格の高騰の影響が経済成長の重しとなっている。
 また、太平洋島嶼国の多くは、経済規模の小ささから経済的自立が難しく、税収等の国内資金だけでは政府活動に必要な資金を賄えないため、政府歳入の多くを米国、豪州、ニュージーランドといった外国からの政府開発援助(ODA:official development assistance)等に頼る構造となっている。その結果、1人当たり国民総所得(GNI:gross national income)が高くなり、島嶼国としての脆弱性は解消されないまま、一部開発パートナーの支援対象外となってしまっている国もある。例えば、本稿の後段で詳述するが、パラオ、ナウル、ニウエ、クック諸島の4か国は、世界銀行の所得区分上、高所得国に分類されるため、低所得国向けの譲許的資金である国際開発協会(IDA:International Development Association)の資金にアクセスすることができない。その結果、本稿で取り上げるコルレス銀行撤退の問題への対応に当たり、実際の開発ニーズと制度の間にギャップが生じ、日本が資金提供を行って、そのギャップを埋める役割を果たすこととなった。*6
 その他の特徴として、トンガやサモアといった国を中心に、自国内の産業の小ささから、米国、豪州、ニュージーランドといった外国への出稼ぎや、海外に職を求める労働者が増えており、人口・頭脳流出が大きな社会課題となっている。他方、それらの出稼ぎ労働者から母国の家族への仕送り(remittance)が経済を支えている面もあり、例えば、世界銀行の推計では、年間平均仕送り金額の対GDP比について、他の発展途上地域が平均で5%であるのに対して、太平洋島嶼国は10%と高くなっている。特に、トンガでは対GDP比で30%、サモアでは20%に至る等、一国の経済に占める役割が大きい。*7本稿で取り上げるコルレス銀行は、まさにこうした国境を越えた送金の手段として、国全体の経済と国民生活を支えている。
 太平洋島嶼国は、一か国ごとの経済規模等の小ささを補う形で、地域統合・協力の動きが活発である。「太平洋諸島フォーラム(PIF:Pacific Islands Forum)」は、太平洋島嶼国14か国に豪州、ニュージーランド、ニューカレドニア、仏領ポリネシアを加えた16か国・2地域で構成される地域枠組みであり、毎年首脳会合と閣僚級会合等が開催され、太平洋島嶼国の様々な重要課題について議論が行われている。
 同地域は、日本、米国、豪州を結ぶシーレーンの結節点に当たり、貿易や安全保障の要衝として地政学的に重要な場所に位置している。他方、2019年初頭には6か国あった台湾承認国が足下では3か国(パラオ、マーシャル諸島、ツバル)に減少する等、中国の存在感が増している。*8そのような動向も踏まえて、近年、日本のみならず、米国、豪州、ニュージーランドをはじめとした同志国も、これまで以上に同地域を重要視し、その関与を強化している。
〈日本との関係〉
 日本と太平洋島嶼国は、戦前から長い関係を維持してきている。特にミクロネシア3国(パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島)との最初の交流は19世紀に遡り、第一次世界大戦後には、約30年間にわたり日本の委任統治下に置かれた。1922年には、パラオ・コロールに南洋庁が設置され、1944年には、南洋諸島における日本人移民は14万人を超えた。現地には今も多くの日系人が存在している。また、パプア・ニューギニアのラバウルやソロモン諸島のガダルカナル島は第二次世界大戦において激戦地となった。戦争を通じた関係ではあるが、これらの国々では、日本及び日本人に対する感情は概ね好意的である。
 そのような経緯もあり、太平洋島嶼国の中には、日本との間で経済的・文化的な交流を有する親日国が多い。例えば、パラオには、ナカムラといった日本の名字が残っているほか、パラオ語の中にも「トクベツ」といった多くの日本語が受け継がれている。その他、日本の皇室とトンガ王室の間には長い交流の歴史がある。
 また、経済面では、太平洋島嶼国は、日本にとって、水産物・エネルギー等の資源の重要な供給地に当たる。同地域の排他的経済水域(EEZ:exclusive economic zone)で漁獲されるマグロ・カツオ類の多くは日本市場向けとなっている。また、メラネシア各国は資源国であり、金、天然ガス、銅、木材等、日本の天然資源の輸入元となっている。例えば、日本のLNG輸入総量の5.8%はパプア・ニューギニアから輸入されており、国際協力銀行(JBIC:Japan Bank for International Cooperation)も金融面でこれを支援している。*9
 外交面では、日本は、1997年より、PIF加盟国である太平洋島嶼国、豪州、ニュージーランド等の首脳等を日本に招聘して、PALMを三年に一度開催している。*10直近では、2024年7月に、東京で第10回会合(PALM10)を開催し、首脳宣言及び共同行動計画を発出した。また、PALMの準備として、政府の関係府省庁幹部が集まり、「太平洋島嶼国協力推進会議」が定期的に開催されている。*11
 太平洋島嶼国は、国際場裡で日本の立場を支持する重要なパートナーでもあり、日本外交における太平洋島嶼国の重要性は益々増している。*12また、シーレーンの結節点という地政学的に重要な位置関係からも、日本政府が推進しているFOIP構想の主要なステークホルダーであると言える。*13
 また、日本と太平洋島嶼国の財務当局の間でも、様々なレベルで交流が行われている。2024年5月より、ADB年次総会の機会に、閣僚級の「日・太平洋島嶼国財務大臣会議」が開催されており、気候変動への対応、債務の持続可能性、金融の健全性と包摂性といった、太平洋島嶼国が直面する財務・金融分野の開発課題を対象に、太平洋島嶼国における実情と今後の具体的な協力方針について、率直な意見交換が行われている。併せて、日本財務省の幹部が定期的に太平洋島嶼国を訪問し、各国の財務省との間で政策対話を実施し、財務・金融分野の二国間協力関係の強化を図っている。

3.コルレス銀行の撤退について
〈コルレス銀行とは〉
 コルレス銀行(correspondent bank)とは、国境を越えて行われる外国為替取引において、ある銀行(送金銀行:respondent bank)とその顧客(送金人)に代わり、資金決済等を代行する契約(コルレス契約)を結んだ、中継地点となる銀行のことを指す。*14
 通常、金融機関が海外で外国通貨による決済を行うためには、相手国で外国通貨建ての預金口座を保有する必要がある。あるA国の送金者が外国であるB国の受取人にクロスボーダーで外貨を送金する場合、もし、送金銀行がB国に支店を持っており、受取銀行が同一であれば、銀行内で決済が可能となる。他方、送金銀行の支店がB国になく、送金銀行と受取銀行が異なる場合、外国現地で資金の取り扱いができない。そのような場合、送金銀行と受取銀行の間で、外国預金口座(コルレス勘定)を開設し、コルレス契約に基づき、SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)を利用して支払指図を行い、互いに開設している口座を用いて資金決済を行うこととなる。また、仮に送金銀行と受取銀行の間に直接コルレス契約がない場合は、それぞれの銀行とコルレス契約を結んでいる中継銀行を介して資金決済を行うこととなる(図2 コルレス銀行関係のイメージ)。送金人・受取人の所在国によっては、2つ以上の中継銀行が介在する必要が生じることもある。*15
 なお、送金銀行と受取銀行、もしくは中継銀行との間でコルレス契約が締結されている業務提携関係を「コルレス銀行関係(CBR:correspondent banking relationship)」と呼ぶ。
 コルレス銀行業務を行う金融機関に対しては、金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force)が策定したマネロン・テロ資金供与・大量破壊兵器の拡散にかかる資金供与対策のための勧告(国際基準)を満たすよう、所在国の法令において、コルレス契約の相手金融機関のマネロン対応の態勢整備の状況、顧客のリスク評価、所在国のマネロン等リスクの評価をはじめとした厳格な審査が契約締結時及び締結後に継続的に求められている。*16
〈コルレス銀行の撤退の動向〉
 従来、欧米の国際的な金融機関を中心にコルレスサービスが提供されてきたが、2000年代以降、それらの金融機関が、マネロン等のリスク回避や対応コストの増加の忌避等の観点から、リスクの高い顧客との取引関係を制限するもしくは打ち切る(デリスキング(de-risking))傾向が続き、グローバルにコルレス銀行関係は減少している。*17SWIFTのデータによれば、2011年から2022年の間の約10年間で、グローバルに30%のコルレス銀行関係が失われたと推計されている。他方、地域によって影響は異なっており、本稿で取り上げる太平洋島嶼国では、同期間に約60%のコルレス銀行関係が失われたと推計されており、デリスキングの影響は太平洋島嶼国においてより深刻となっている。
 太平洋島嶼国には、政府系も含めて現地金融機関が活動している。国際的な銀行にとって、現地金融機関に対してコルレスサービスを提供しても、コルレス勘定の開設・維持に伴うコンプライアンス関連コスト、マネロン関連のリスク、リスクイベントが生じた場合のレピュテーションリスクに見合うだけの取引規模や収益を見込みづらい。その結果、これまでコルレス契約を結んでいた場合でも、ビジネス上持続可能ではないと判断されて、契約が更新されない場合がある。
 また、太平洋島嶼国における最近の動向として、コルレス契約の解除に加えて、国際的な銀行が、それらの国から業務自体を撤退するケースも相次いでいる。例えば、2020年に、豪州系のWestpac銀行が、パプア・ニューギニアとフィジーの銀行事業売却を発表した(その後、2023年10月に当該国の事業の売却中止を正式に表明)。*18また、ナウルでは、国内の唯一の銀行でもあった豪州系のBendigo銀行が、2023年11月に、同国からの業務の撤退を正式に決定・発表した。*19その後、Bendigo銀行は撤退時期を2025年6月まで延長したものの、本稿執筆時点(2025年6月)では、同国における業務の停止は予定通り実行される見込みである(後述するが、ナウルにおけるBendigo銀行の業務は、豪州政府の関与もあり、同じく豪州系のCommonwealth銀行に引き継がれることとなった)。
〈コルレス銀行の撤退に伴う影響〉
 コルレス銀行関係が失われると、どのような支障が生じるのだろうか。上記のとおり、コルレス銀行関係はクロスボーダー送金の経路であり、その喪失は国際的な送金のチャネルが双方向で断絶されてしまうことを意味する。太平洋島嶼国の文脈では、(1)貿易決済や対内投資の受け取り、(2)開発援助等資金の支払い及び(3)海外の出稼ぎ労働者等の仕送りへの影響、並びに(4)非公式な送金手段の利用の拡大によるマネロン等のリスクの増加が想定される。
 太平洋島嶼国は、土地や資源が限られるため、国内で農業や畜産を行うことが難しく、自ずと食料・エネルギーをはじめとした生活必需品のほとんどを輸入に頼る構造となっている。輸入代金の決済はクロスボーダーで行うため、コルレス銀行関係を喪失すると、貿易実務に影響が生じる。また、多くの太平洋島嶼国は経済成長を目的に海外からの直接投資(FDI:foreign direct investment)を呼び込もうとしているが、投資資金の受け入れにも支障が出る。更に、多くの太平洋島嶼国の産業構造は観光業に大きく依拠しているが、観光収入の受け取りは通常外貨で決済するため、その観点からも影響を受けることとなる。
 太平洋島嶼国の多くは、自国の経済が未発達であることもあり、歳入の多くを豪州やニュージーランドといった海外政府や国際機関からのODA等で賄って、基礎インフラの整備や必要な行政サービスの提供を行っている。それらの援助資金はコルレス銀行関係を通して払い込まれており、その喪失はインフラプロジェクトの執行の遅延や行政サービスの未達という形で、それらの国の社会経済に影響を及ぼし得る。
 トンガやサモアといった太平洋島嶼国は、海外労働者からの送金に経済が大きく依存しており、コルレス銀行関係の喪失は、このような小口送金にも影響を与える。送金コストも課題である。例えば、世界銀行のRemittance Prices Worldwide (RPW)によれば、2024年の第3四半期時点で、200米ドルの送金にかかるコストのグローバル平均が6.62%であるのに対して、豪州から太平洋島嶼国への送金にかかるコストは、フィジーが4.78%、トンガが7.19%、サモアが7.28%、バヌアツが11.37%となっている。*20これは、国連のSDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」で定められた、2030年までに移住労働者による送金コストを3%未満に引き下げるという目標に比べて相当に高い水準である。*21コルレス銀行関係が失われると、競争原理が働かなくなり、このコストが更に上がることが懸念される。
 コルレス銀行関係が失われると、送金者が代替手段として非公式な送金手段に流れることも懸念される。例えば、ハワラ(hawala)型送金*22や暗号資産等を用いた送金が増加すると、規制・監督当局が資金の流れを補足しづらくなり、マネロン等のリスクの増加につながる。
〈コルレス銀行の撤退の要因〉
 なぜ、太平洋島嶼国においてコルレス銀行の撤退がグローバルに比べて深刻に進んでいるのだろうか。
国際決済銀行(BIS:Bank for International Settlement)によれば、近年、銀行は、コンプライアンス関連コストの上昇や顧客デュー・ディリジェンス(CDD:customer due diligence)をどこまで行わなければならないか不透明であるといった点を主な理由として、コルレス銀行関係を縮小しているという。加えて、リスクイベントが生じた際の当局からのペナルティとレピュテーションリスクの大きさも勘案して、コルレスサービスの提供に対して慎重になっている。その結果、(1)コンプライアンス関係費用を賄えるほどの規模が見込めない銀行、(2)リスクが高すぎると受け止められる法域に所在する銀行、(3)適切にリスク評価を行う際に必要な情報が欠けている顧客と取引のある銀行、(4)マネロンリスクの高い商品・サービス提供をしているもしくは顧客がいるような銀行に対するコルレスサービスの提供の停止につながっているという。*23
 世界銀行等によれば、太平洋島嶼国におけるコルレス銀行撤退の要因は、BISの上記の指摘とも整合的であるようである。*24
 まず、太平洋島嶼国の「狭小性」等の地理的特性により送金の取引規模が小さくなり、規模の経済が働かないことが要因の一つとされている。コルレス銀行には、契約時及びそれ以降、CDD等のコンプライアンス対応が求められる他、相当のシステム投資が必要となる。また、多くの太平洋島嶼国は、電子本人確認(e-KYC:electronic Know Your Customer)や国民IDシステムといったインフラが整備されていないため、コンプライアンス対応を手動で行うこととなり、負担は更に増加する。これは、取引ごとに発生する変動費用と異なり、固定費用となるため、規模の経済が働くある程度の取引規模が見込まれないと平均費用の上昇につながり、収益率の悪化につながる。
 また、太平洋島嶼国の政府及び現地金融機関のマネロン対応等の態勢・キャパシティの不足も要因の一つである。太平洋島嶼国は元々人口が限られていることに加えて、外国への人口・頭脳流出が社会課題であることは既に述べた。一般的に、金融規制・監督分野に限らず様々な分野で人手不足が深刻であり、自ずと、他地域に比べて、現地政府のマネロン対応に関する法規制や監督態勢、現地金融機関のマネロン対応の態勢整備が不十分となる。また、太平洋島嶼国の中には、過去にオフショア金融センターとして租税の不透明性を指摘された国や、自国の市民権を海外に販売している国等もあり、マネロンに関するリスクが指摘されている。国際的な金融機関の立場からすると、コルレス契約を結んで、仮に契約先でリスクイベントがあった場合に、自国の規制当局から摘発され莫大なペナルティ・コストを課されるリスクとレピュテーションリスクを負うこととなる。一点目で指摘したように、太平洋島嶼国のビジネスはそもそも規模の経済が働かず収益性が低いところ、ビジネス上の判断として、他地域とも比較しながら、あえて太平洋島嶼国のコルレス業務を継続して、そのようなリスクを受容するかどうかをシビアに判断せざるを得ない構図となっている。
〈太平洋島嶼国における対応の動き〉
 このような状況に対して、2022年8月にバヌアツで開催された、PIFの経済大臣会合(FEMM:Forum Economic Ministers Meeting)で、地域からのコルレス銀行の撤退への対応について議論が行われ*25、PIFから世界銀行に対して、同問題の原因の特定及び問題解決に向けた対応の策定を含む診断的調査(diagnostic survey)の実施を要請することとなった。同要請を受け、世界銀行は、太平洋島嶼国からのコルレス銀行の撤退に関する調査を行い、原因分析等の調査結果と問題解決に向けてPIFが取り組むべき8つの勧告(recommendations)を報告書として取りまとめ、2023年8月のFEMMに提出した。
 FEMMは、同報告書を承認するとともに、FEMMの下に設置された次官級の実務者会合であるPacific Economic Sub-Committee Meeting(PESC)とPIF事務局に対して、8つの勧告を具体化するロードマップの策定を指示した。同指示を踏まえて、PIF事務局が、世界銀行の協力を受けながら、8つの勧告を37の必要なアクションに細分化し、「太平洋コルレス銀行関係ロードマップ(Pacific Correspondent Banking Relationships Roadmap、以下「CBRロードマップ」)」として取りまとめた。
 PIFでコルレス銀行の撤退への対応が議論される中、太平洋島嶼国から日本に対しても、本問題の提起とCBRロードマップの施策の推進を含めた問題解決の取組に対する協力の要請があった。
 例えば、財務当局間では、2024年5月に開催された「日・太平洋島嶼国財務大臣会議」において、「金融の健全性と包摂性」のアジェンダの下、多くの国より、同地域からのコルレス銀行の撤退が経済面だけでなく社会的にも悪影響を及ぼし、太平洋島嶼国の持続可能な開発の障害となり得るとして、強い懸念が示された。それらの懸念を踏まえて、日本と太平洋島嶼国の財務当局間で、会議後も同問題について更に議論していくことに合意した。*26
 また、2025年5月に実施した第2回目の「日・太平洋島嶼国財務大臣会議」においては、「コルレス銀行関係の維持」をアジェンダとして直接的に取り上げ、日本と太平洋島嶼国の間で率直な意見交換を行った。大臣達は、コルレス銀行撤退の問題が太平洋地域の経済・社会の重大な脅威であることをあらためて強調するとともに、島嶼国側から、(後述する)世界銀行の太平洋島嶼国向け「コルレス銀行関係プロジェクト」に対する日本の資金支援をはじめとした支援の取組に対して深い謝意が示された。
 首脳レベルでも、2024年7月に開催されたPALM10において、太平洋島嶼国各国の首脳達から、コルレス銀行の撤退への対応の必要性について問題提起がなされ、同会議の成果文書である「共同行動計画」において、PALMパートナー(日本とPIFメンバーで構成)がCBRロードマップの実施を支援するために、共に取り組むという方針が明記された。*27

4.日本と同志国・国際パートナーの対応
 太平洋島嶼国からのコルレス銀行の撤退への対応は、主にCBRロードマップに沿って、PIFと太平洋島嶼国に加えて、世界銀行、ADB、IMF等の国際パートナーや、日本、米国、豪州、ニュージーランド等の二国間ドナーといったプレーヤーが緊密に連携・協力しながら、各種の支援施策を実施している。以下、日本が関与しているものを中心に、それらの施策の内容について簡単に説明をしていく。
〈パシフィック・バンキング・フォーラム〉
 「パシフィック・バンキング・フォーラム(PBF:Pacific Banking Forum)」は、CBRロードマップの勧告5に対応する取組である。2023年10月、豪州のアルバニージー首相と米国のバイデン大統領(当時)が、太平洋島嶼国のコルレス銀行撤退の問題に対処すべく、官民のステークホルダーが一堂に会して問題の所在や解決策について議論する会議体を開催することを共同で表明した。同表明を受けて、これまでPBFは実施されている。*28
 第1回会合は、豪州財務省・米国財務省の共催により、2024年7月に、豪州・ブリスベンにおいて開催された。同会議には、豪州、米国、日本等のパートナー国、太平洋島嶼国の財務省・中央銀行、豪州・米国等の規制当局のほか、IMF・世界銀行・ADB・アジア太平洋マネー・ローンダリング対策グループ(APG:Asia/Pacific Group on Money Laundering)等の国際パートナーや、国際的な銀行をはじめとする民間金融機関といった多様な関係者が参加し、太平洋島嶼国からのコルレス銀行撤退の問題について、それぞれの立場から視点を共有し問題解決に向けた率直な意見交換を実施した。
 日本からは、財務省が参加し、2024年9月から就任するAPGの共同議長としての支援方針を説明するとともに、引き続き米国・豪州等のパートナー国と連携して本課題に取り組んでいくことをコミットした。*29
 同年10月に、米国・ワシントンDCで第2回会合が開催され、第1回会合で各パートナーがコミットした内容についてアップデートが行われた。*30
〈世界銀行の太平洋島嶼国向け「コルレス銀行関係プロジェクト」〉
 世界銀行は、PIFの要請を受けて実施した診断的調査の結果を踏まえて、CBRロードマップ実施の一環として、太平洋島嶼国向け「コルレス銀行関係プロジェクト(正式名称:Pacific Strengthening Correspondent Banking Relationships Project)」を組成し、同プロジェクトは、2024年8月に同行内で理事会承認された(以下、「世銀プロジェクト」)。
 同プロジェクトは、CBRロードマップの勧告1、3に対応するものである。支援内容は2フェーズで構成されており、足下では、フェーズ1が先行して実施されている。フェーズ1のプロジェクト総額は7,690万米ドル、実施主体(implementing agency)はPIF事務局、プロジェクト期間は6年間、プロジェクトの支援対象は、フィジー、サモア、バヌアツ、キリバス、ツバル、トンガ、マーシャル諸島、ソロモン諸島の8か国となっている。*31
 フェーズ1は、大きく、コルレス銀行を失った国に対する短期的なセーフティネットの提供と、地域及び各国のマネロン対応に関する技術協力で構成されている。前者は、実施主体であるPIF事務局とコルレスサービスを提供できる主体(世界銀行の文書では、CBR Service Providerと呼称)の間で、対象国の最後のコルレス銀行関係が喪失した場合に代わりにコルレスサービスを提供する契約をあらかじめ締結しておくことで、実際にそのような事態が生じた場合に備えた短期的なセーフティネットを張っておくというものである。後者は、CBR Service Providerとの契約に当たり、対象国の政府当局や現地の金融機関がマネロン対応等の国際基準を満たすことが前提となるため、制度整備や態勢整備等に関する技術協力を通じて側面支援を行うというものである。
 フェーズ2は、中長期的な解決策として、クロスボーダー送金に関する集中決済機関(Payment Aggregation Mechanism)を構築する取組である。上記のとおり、太平洋島嶼国からコルレス銀行が撤退する要因の一つは、取引規模が小さく規模の経済が働かない一方で、コンプライアンス対応等の負担やリスクイベント発生時のペナルティ・コストが高く、事業として採算が見込めない事業構造である。規模の経済を働かせる観点からは、各国の現地金融機関と個別にコルレス契約を結ぶよりも、複数の国の送金を束ねた方が取引規模を稼ぐことができ、効率的となる。そのような観点から、規模の経済を働かせて独立採算が可能となる仕組みの構築を目指すこととしている。他方、実際の構築に当たっては、ビジネスモデル、法的な位置づけ、ガバナンス構造等を精査していく必要があるため、まずは、フェーズ1と並行して、実施可能性調査(feasibility study)を行うこととなっている。*32
 なお、世銀プロジェクトの原資は、同行の譲許的資金であるIDAを活用している。IDAは、低所得国向けの開発支援を目的としており、高所得国であるパラオ、クック諸島、ニウエ、ナウルの4か国はIDAの対象に含まれない。他方、それらの国においても、コルレス銀行の撤退の問題は深刻であるため、世界銀行は、それらの国をプロジェクト対象に含めるために必要な資金を他のドナーから調達しようと模索していた。その状況を踏まえて、日本は、非IDA対象4か国をプロジェクト対象に含めるために必要な資金として、令和6年度補正予算において280万米ドルを措置しており、今後、それらの国も支援対象となる見込みである。
〈IMFの太平洋島嶼国向け「送金回廊リスク評価」のパイロット実施〉
 「送金回廊リスク評価(Remittance Corridor Risk Assessment)」は、2020年に金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)が策定した「クロスボーダー送金の改善に向けたG20ロードマップ」を受け、IMFと世界銀行が主体となり、マネロン対応に関する金融機関のリスクベースアプローチを推進する観点から、低リスクの送金ルートを特定する取組である。CBRロードマップにおいては、太平洋島嶼国に対して、評価フレームワークを策定、パイロットとして実践し、その結果を周知することが勧告2として盛り込まれている。
 上記のように、トンガやサモアといった太平洋島嶼国は、海外への出稼ぎ労働者からの仕送りといった小口のクロスボーダー送金が多い傾向にある。そのような小口送金は、大口のホールセール送金に比べて相対的に低リスクと見込まれる。他方、足下の太平洋島嶼国におけるコルレス銀行実務においては、実際のリスクに関わらず一律にリスク回避がなされる傾向にある。そのため、IMFが送金ルートの評価を行い、低リスクのルートを特定・公表することで、金融機関のコンプライアンス対応負担を緩和し、過度なリスク回避を解消することがその目的となる。併せて、太平洋島嶼国および送金元国の当局に対して、(低リスクの小口送金を扱う金融機関に関する)規制および監督指針の明確化や緩和、各国間の規制・監督の調和(harmonization)といった具体的措置が取られるよう働きかける方針となっている。
 日本は、令和6年度補正予算を通じて、IMFによるリスク評価の実施を支援している。2025年5月に、サモアを対象とした評価結果が公表され、サモアの主要な送金ルートについて、マネロン等のリスクは限定的であると結論づけられている。今後、他の太平洋島嶼国に対しても、同様の取組が展開されていく見込みである。*33
〈アジア太平洋マネーロンダリング対策グループ(APG)共同議長国としての取組〉
 マネーロンダリング・テロ資金供与・拡散金融(マネロン等)対策の国際基準(FATF基準)を策定し、各国の取組を監視する多国間の枠組みとして、FATFが存在している。FATFには、OECD加盟国を中心に、38か国・地域と2地域機関が加盟しているが、FATF基準を各地域においても効果的に実施するため、FATF型地域体(FSRB:FATF-Style Regional Bodies)が地域ごとにそれぞれ設立されている。アジア・太平洋地域においては、APGがその役割を担っており、日本、ASEANメンバー国、太平洋島嶼国等を含む42の国・地域が加盟している。
 日本は、2024年9月より、豪州とともに、APGの共同議長(任期約2年)に就任しており、共同議長として、域内マネロン等対策強化に向けた国際協力の一環として、太平洋島嶼国のマネロン等対策の強化に向けた取組を、優先事項の一つとして位置づけている。*34具体的には、現地当局向けの研修等の能力構築や、ハイレベルなコミットメントを求めるための共同議長等による政府高官等との面談を通じた対応要請といった取組を推進しており、2025年4月には、フィジーにおいて、日本の任意拠出金の活用や日本財務省からの講師の派遣等を通じて、太平洋地域を主な対象とした相互審査準備のためのワークショップの開催等を支援している。
〈豪州政府による豪州系銀行の太平洋島嶼国業務の維持等に関する働きかけ〉
 上記のように、これまで、豪州系のWestpac銀行やBendigo銀行といった国際的な銀行による太平洋島嶼国の業務撤退・縮小の動きが続いていたが、足下で、豪州政府の働きかけにより、それらの銀行が太平洋島嶼国の業務の撤退方針を撤回するもしくは新規の業務進出を表明するといった動きが見られている。
 例えば、2024年11月、豪州のチャ―マーズ財務大臣は、豪州財務省が同国の4大商業銀行の一つであるオーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ銀行)と太平洋島嶼国における業務の継続に関して行っている協議が最終段階にあり、業務の維持の確保について早晩確保できる見込みであることを、講演において表明した。*35その後、2025年3月には、豪州政府とANZ銀行の間で、政府が同行に対して太平洋地域の支店・業務を維持するため最大20 億豪ドルの保証を付与することや、ANZ銀行が太平洋向けのデジタル・バンキングの強化を目的として5,000万豪ドルを投資するといった内容について合意したことが対外公表された。*36ANZ銀行は、太平洋地域の9か国(パプア・ニューギニア、ソロモン諸島、フィジー、バヌアツ、キリバス、サモア、トンガ、クック諸島に加えて東ティモール)に支店を有しており、これらの国においては、当面の間、国際的な銀行のプレゼンスの維持が確保されたこととなる。
 また、Bendigo銀行の撤退が問題となっていたナウルについて、2024年12月、豪州政府は、同国とナウルとの新条約(Nauru-Australia Treaty)の締結に当たり、同国から撤退するBendigo銀行に代わり、2025年からCommonwealth銀行が銀行業務を開始する旨を報道発表した。*37
 これらの取組の他にも、ADB等の国際機関や二国間パートナーが、コルレス銀行の撤退の問題への対応として、様々な支援に取り組んでいる。例えば、ADBは、国際的な銀行のコンプライアンス対応の負担を緩和するため、太平洋島嶼国のマネロン等対応に関する関連法規制の整備や現地当局の能力構築を支援することに加えて、e-KYCや国民IDシステム等のインフラ整備の分野について、技術協力等を通じて支援を実施している。*38

5.おわりに
 本稿では、太平洋島嶼国が近年直面している主要な開発課題の一つである、同地域からのコルレス銀行撤退の問題について、課題の所在や足下の動向を取りまとめた。コルレス銀行関係をはじめとした金融インフラは、道路や水道といったハードインフラのような日常生活で直接的に触れる馴染みがある存在ではない。金融当局や金融機関の決済担当者でなければ、自ずと意識されづらい存在であろう。他方、本稿で見てきたように、そうした金融インフラが一旦喪失してしまえば、貿易決済、開発援助、出稼ぎ労働者の仕送りといった、地域の経済にとって重要な活動に大きな支障が生じてしまう。
 足下で、本問題について国際的な認知が少しずつ高まってきているが、コルレス銀行関係という一般に認知されづらい分野について、太平洋島嶼国という特定の地域に焦点を当てて、日本語でまとめている資料は限られている。本稿がこの問題の認知・理解の向上に少しでも貢献するようであれば、執筆者として望外の喜びである。
 金融インフラは、開発政策の世界において、道路や水道等の伝統的な基礎インフラと異なり、これまでの実績が乏しく、知見・経験の蓄積が少ない新しい分野でもある。本稿の中で、世界銀行やIMFの取組を紹介したが、それらの国際パートナーも、実態としては、プロジェクトを実施しながら、試行錯誤を通じて知見・経験を積み上げようとしている。今まで取り上げられてこなかった新しい分野であるからこそ、日本はじめパートナーの支援の重要性が高く、またレバレッジが効く分野であるとも言える。
 この分野は、大きな可能性も秘めている。例えば、近年、ASEAN等では、デジタルツールを使った決済手段が国内及びクロスボーダーの送金において普及しつつある。コルレス銀行関係は、確立された銀行のネットワークに基づく伝統的な送金手段であるが、将来的な代替手段として、例えば、中央銀行デジタル通貨(CBDC:central bank digital currency)といったデジタル決済手段の活用が進んでいくことで、送金手段間で競争原理が働き、コルレス銀行関係を通じた送金コストの押し下げ、延いては企業や家計の利便性の向上に繋がる可能性もある。そうした新しい技術の動向も注視していくことが望ましいだろう。
 国際金融を所掌する日本財務省にとって、通貨に対する信頼の維持及び外国為替の安定の確保を図る観点からも、インド太平洋における地域金融の安定及び持続可能かつ包摂的な成長の実現は重要なミッションである。太平洋島嶼国は、経済、文化、歴史等様々な面で日本にとって身近かつ重要な存在である。太平洋を共有する隣人として、それらの国の自立的な成長を支える観点からも、引き続き地域の見えざる脅威である本問題の解決に向けて、豪州、米国といった同志国や国際パートナーと連携しながら取り組んでいくことが期待されている。


図1 太平洋島嶼国・地域の概観
表2 世界銀行報告書及びCBRロードマップの8つの勧告の内容
*1) 執筆者の肩書は、令和7年6月30日現在
*2) 本稿の執筆に当たっては、関係者の方々に多くのアドバイスをいただいた。この場を借りて厚く御礼申し上げたい。
*3) これらの14か国に加えて、仏領ポリネシア、ニューカレドニアといった独立国家ではないが太平洋諸島フォーラム(PIF)の加盟国も存在。
*4) United Nations “List of SIDS” https://www.un.org/ohrlls/content/list-sids
*5) The World Bank “Pacific Economic Updates”
https://www.worldbank.org/en/region/eap/publication/pacific-economic-updates
*6) このような観点から、国連等の場で、ODAの基準として、一人当たりGNIではなく、「多次元脆弱性指標(Multidimensional Vulnerability Index (MVI))を導入すべきではないかという議論もある。
*7) このような太平洋島嶼国の特殊な経済構造を、MIRAB経済と呼ぶこともある(移民(Migration)、送金(Remittance)、開発援助(Aid)、官僚制度(Bureaucracy))。
*8) 2019年にソロモンとキリバスが、2024年にはナウルが中国と国交を樹立した。
*9) 国際協力銀行「パプア・ニューギニア独立国 PNG LNGプロジェクトに対する資源金融供与」2011年12月
https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2011/1209-6285.html
*10) 2018年より、ニューカレドニアと仏領ポリネシアがPALMに正式参加した。
*11) 外務省「第9回太平洋島嶼国協力推進会議の開催」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/ocn/pageit_000001_00719.html
*12) 「国家安全保障戦略」(令和4年12月閣議決定)においても、島嶼国を始めとする途上国等に対して、持続可能で強靱な経済・社会を構築するための支援を行うことを明記している。
*13) 外務省「河野外務大臣の対太平洋島嶼国政策に関する政策スピーチ(令和元年8月5日)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000504746.pdf
*14) 国際決済銀行(BIS)の決済・市場インフラ委員会(CPMI: Committee on Payments and Market Infrastructures)における定義では、「an arrangement under which one bank (correspondent) holds deposits owned by other banks (respondents) and provides payment and other services to those respondent banks.」を指すものとされている。
*15) 日本銀行の決済システムレポート(2024)においては、この状況を「バケツリレー」方式と表現している。
*16) コルレスサービスを提供する銀行は、ウォルフスバーグ・グループ(the Wolfsberg Group)という非政府組織が公表している質問事項(CBDDQ: Correspondent Banking Due Diligence Questionnaire)に、毎年回答することとされている。この質問事項は、13章132項目に及ぶ網羅的かつ詳細なマネロン等対策に関するコンプライアンス項目で構成されており、回答作成に当たっては、自行の評価に加えてコルレス先の銀行のリスク評価やリスク削減策の対応状況等の確認が必要となる。更に、リスクが高いと認められる国や金融機関に対しては、現地訪問や面談による実情確認が求められる場合もある。
*17) FATFはデリスキングを次のように定義している。” the phenomenon of financial institutions terminating or restricting business relationships with clients or categories of clients to avoid, rather than manage, risk in line with the FATF's risk-based approach”
*18) Westpac “Westpac to retain its Pacific banking businesses” 4 October 2023
https://www.westpac.com.au/about-westpac/media/media-releases/2023/04-October/
*19) Bendigo Bank “Joint statement from Bendigo Bank and the Government of Nauru” 14 November 2023
https://www.bendigobank.com.au/media-centre/joint-statement-from-bendigo-bank-and-the-government-of-nauru/
*20) Remittance Prices Worldwide https://remittanceprices.worldbank.org/
*21) G20クロスボーダー送金強化プロジェクトにおいても、この目標が再確認されている。
https://www.fsb.org/work-of-the-fsb/financial-innovation-and-structural-change/cross-border-payments/g20-targets-for-enhancing-cross-border-payments-2/
*22) 非公式な仲介人ネットワークを使い現地で相手に現金を渡す手段。
*23) Bank for International Settlement, “Correspondent banking”, 2016
https://www.bis.org/cpmi/publ/d147.pdf
*24) Pacific Islands Forum “The Decline of Correspondent Banking in Pacific Island Countries” July 2023
https://forumsec.org/sites/default/files/2024-05/CBR%20Report_FINAL.pdf
*25) Pacific Islands Forum “REPORT: Outcomes of the Forum Economic Ministerial Meeting, FEMM 2022” 19 August 2022
https://forumsec.org/publications/report-outcomes-forum-economic-ministerial-meeting-femm-2022
*26) 財務省「日・太平洋島嶼国財務大臣会議の開催について(令和6年5月3日)」
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/other/20240503.html
*27) 外務省「第10回太平洋・島サミット(PALM10)(令和6年7月16~18日)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/ocn/pagew_000001_00252.html
*28) Australia Prime Minister’s Office, “United States-Australia Joint Leaders' Statement - Building an innovation alliance” 25 October 2023
https://www.pm.gov.au/media/united-states-australia-joint-leaders-statement-building-innovation-alliance
*29) Australian Treasury “Pacific Banking Forum Outcomes Statement” 12 July 2024
https://treasury.gov.au/media-release/pacific-banking-forum-outcomes-statement
*30) 本稿執筆時点(2025年6月)で、第3回目のフォーラム開催については明らかとなっていないが、同フォーラムの実施はCBRロードマップのアクションの一つでもあるため、引き続き開催されるものと見込まれる。
*31) ソロモン諸島は当初不参加であったが、2025年5月に追加で参加することとなった。
https://www.worldbank.org/en/news/press-release/2025/06/05/solomon-islands-joins-regional-initiative-to-safeguard-financial-lifelines-as-pacific-banking-project-goes-live
*32) 同FSの実施に対して、日本は米国等のパートナーと連携して資金支援をしている。
*33) International Monetary Fund “Remittances to Samoa: A Safe Payment Corridor” 15 May 2025
https://www.imf.org/en/Publications/selected-issues-papers/Issues/2025/05/14/Remittances-to-Samoa-A-Safe-Payment-Corridor-566996
*34) 財務省「我が国のAPG共同議長就任について~我が国の取組方針とアブダビ総会の様子を中心に~」
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202411/202411e.pdf
*35) Ministers Treasury portfolio “Address to the Australian Institute of International Affairs” 11 November 2024
https://ministers.treasury.gov.au/ministers/jim-chalmers-2022/speeches/address-australian-institute-international-affairs
*36) ANZ Bank “Update regarding ANZ’s Pacific operations” 14 March 2025
https://www.anz.com.au/newsroom/media/2025/march/Update-regarding-ANZs-Pacific-operations/?utm_source=chatgpt.com
*37) Prime Minister of Australia “Nauru-Australia Treaty” 9 December 2024
https://www.pm.gov.au/media/nauru-australia-treaty
*38) Asian Development Bank “ADB Supports Digitalization and Financial Inclusion in Fiji” 04 October 2024
https://www.adb.org/news/adb-supports-digitalization-and-financial-inclusion-fiji