財務省では税関における知的財産侵害物品の差止実績を昭和62年から公表している。令和6年の輸入差止件数は3万3019件となり、公表開始以来、最多の件数となった。本特集では令和6年の税関における知的財産侵害物品の差止状況を紹介する。
取材・文 向山勇
令和6年の税関における知的財産侵害物品の差止状況
輸入差止件数は33,000件を超え過去最多。輸入差止点数も前年比22.8%増の高水準
令和6年の税関における知的財産侵害物品の輸入差止件数は33,019件となり、昭和62年に公表を開始して以来、過去最多となった。輸入差止点数についても1,297,113点で前年比22.8%の増加となり、引き続き高水準の状態が続いており、1日平均で、90件、3,544点の知的財産侵害物品の輸入を差し止めていることになる。また、輸入差止価額は約282億円となった。これは税関で差し止めた知的財産侵害物品それぞれを正規品であったと仮定した推計価額となる。
仕出国(地域)別輸入差止実績
輸入差止状況を仕出国(地域)別に見ると、輸入差止件数では、中国を仕出しとするものが26,604件(構成比80.6%、前年比5.3%増)で引き続き最多となった。次いでベトナムが3,215件(同9.7%、同19.5%増)、マレーシアが979件(同3.0%、同101.4%増)、韓国が785件(同2.4%、同4.5%増)となった。
輸入差止点数は、中国を仕出しとするものが931,082点(構成比71.8%、前年比1.0%増)、次いで台湾が237,430点(同18.3%、約42倍)、香港が47,612点(同3.7%、同71.8%増)、ベトナムが45,407点(同3.5%、同31.7%減)となった。
知的財産別輸入差止実績
知的財産別に見ると、輸入差止件数は、偽ブランド品などの商標権侵害物品が31,212件(構成比93.6%、前年比2.5%増)で、引き続き全体の大半を占め、次いで偽キャラクターグッズなどの著作権侵害物品が1,380件(同4.1%、同59.9%増)となった。輸入差止点数は、商標権侵害物品が443,887点(構成比34.2%、前年比11.4%減)、次いで著作権侵害物品が317,293点(同24.5%、同300.5%増)、意匠権侵害物品が298,131点(同23.0%、同32.6%減)となった。
品目別輸入差止実績
品目別では、輸入差止件数は、衣類が11,774件(構成比31.1%、前年比13.2%増)で最多、次いで財布やハンドバッグなどのバッグ類が7,293件(同19.3%、同19.2%減)、靴類が4,228件(同11.2%、同4.9%減)、身辺細貨類が2,083件(同5.5%、同51.5%増)となった。輸入差止点数は、煙草及び喫煙用具が191,976点(構成比14.8%、前年比39.6%減)で最多となり、次いで衣類が74,160点(同5.7%、同12.1%減)、イヤホンなどの電気製品が57,516点(同4.4%、同16.6%減)、紙製品が36,830点(同2.8%、同76.2%増)となった。また、エンブレムやシートベルトキャンセラーなどを含む自動車付属品の輸入差止点数は23,668点で、前年と比べて11.9%増加している。なお、その他(同58.2%)が大きな比率を占めているが、これはシールや包装用品などが含まれるため、点数が多くなっているもの。
輸送形態別輸入差止実績
輸送形態別に見ると、輸入差止件数は、郵便物が28,948件(構成比87.7%、前年比3.5%増)と大半を占め、一般貨物が4,071件(同12.3%、同10.1%増)となった。輸入差止点数は、郵便物が359,883点(構成比27.7%、前年比4.4%減)、一般貨物が937,230点(同72.3%、同37.9%増)となった。件数と点数の構成比に相違が見られるのは、1件当たりで見ると、郵便物は比較的少数の物品である一方、一般貨物は海上コンテナなどで多数の物品が差し止められる場合もあるためである。
差し止めた知的侵害物品の例
輸入差止めが多い物品
写真 スニーカー(商標権)
写真 ゲームコントローラ(特許権)
写真 加熱式たばこ用カートリッジ(意匠権)
輸入差止めが増加した物品
写真 シャワー器具(商標権)
写真 イヤホン(意匠権)
写真 帽子(商標権)
健康や安全を脅かす危険性のある物品
写真 医薬品(商標権)
写真 グミキャンディー(商標権)
写真 送風機(意匠権)
告発事例
商標権を侵害する衣類の密輸入事犯を告発
東京税関は、福島県警察と共同調査を実施し、商標権を侵害する衣類34点を中国から密輸入しようとした日本人1名を関税法違反で告発した。(令和6年10月)
差止回避工作事例
他のイヤホンの外箱の中に商標権を侵害するイヤホンを隠匿していた事例
写真 (1)開放した状況
写真 (2)外箱
写真 (3)外箱の中から別の外箱等を発見
写真 (4)商標権を侵害するイヤホンを発見
知的財産侵害物品の差止申立制度
権利者の差止申立てで知的財産侵害物品の効果的かつ効率的な水際取締りが可能に
権利者からの差止申立てを受けて効率的に知的財産侵害物品を取締り
差止申立制度とは、知的財産のうち、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権及び育成者権を有する者又は不正競争差止請求権者が、自己の権利を侵害すると認める貨物が輸出入されようとする場合に、税関長に対し、当該貨物の輸出入を差し止め、認定手続を執るべきことを申し立てる制度。
知的財産は、特許庁に登録されている権利だけでも膨大な数があり、税関が全てを把握するのは難しい面がある。
そこで差止申立制度では、権利者から、権利が有効であることを示す資料、侵害の事実を疎明するための資料、真正品と侵害品とを区別する資料、その他取締りに有用な情報の提出を受けている。差止申立てが行われることにより、税関は提出された情報を活用し、知的財産侵害物品の効果的かつ効率的な取締りを行うことが可能になる。また、税関では、差止申立制度の積極的な活用を進めるため、権利者からの事前相談も受け付けている。
水際取締りに必要となる認定手続とは
認定手続とは、税関による審査・検査により発見された知的財産侵害物品に該当すると思料される貨物について、侵害物品に該当するか否かを認定するための手続き。
税関は、商標権や著作権などの知的財産を侵害すると思料される物品を発見した際、権利者と輸入者の双方に対して、認定手続の開始を通知する。その上で、権利者・輸入者双方から提出された証拠・意見に基づき、税関はその物品が侵害物品に該当するかどうかを認定する。この認定手続の結果、侵害物品に該当する場合には、税関は当該物品を没収して廃棄することができ、該当しなければ輸入が許可される。
輸入差止申立てに係る貨物は簡素な認定手続の対象に
税関が発見した疑義物品について、権利者から輸入差止申立てが行われている場合には、認定手続きにおいて簡素化手続が執られる。簡素化手続では、輸入者から侵害物品の認否について争う旨の書面の提出がなければ、権利者は税関に証拠・意見を提出する必要がなくなり、侵害物品の差止めに係る業務負担が軽減される。
差止申立ては、全国9つの税関のうち、いずれか1つの税関で手続きを行うことにより、全国の税関で取締りが行われる。申立ての有効期限は最長4年間で、延長も可能となっている。なお、知的財産侵害物品を輸出入しようとした者には、10年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金が課され、又はこれらが同時に課されることがある。
差止申立ての状況
令和6年末時点で税関が受理している輸入差止申立て件数は781件で、前年に比べて6.1%増加した。知的財産別では、商標権の申立てが503件(構成比64.4%、前年比5.5%増)、次いで意匠権の申立てが144件(同18.4%、同13.4%増)、著作権の申立てが92件(同11.8%、同2.2%増)、特許権の申立てが36件(同4.6%、同5.9%増)となっている。一方、輸出差止申立ての件数は、商標権10件、意匠権2件となっている。
税関が受理している輸入差止申立ての例(写真は全て真正品)
写真 コミテ アンテルナショナル オリンピック洋服類等(商標権)
写真 カンロ株式会社グミキャンディー(商標権)
写真 岩谷マテリアル株式会社椅子(意匠権)
写真 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構カンキツ(育成者権)
写真 日本テレビ放送網株式会社DVDおよびその他記録媒体(著作権)
写真 株式会社MTGヘアブラシ(意匠権)
財務省・税関からメッセージ
効果的・効率的な知的財産侵害物品の水際取締りのためには、知的財産の権利者による差止申立てをはじめとする情報提供が極めて重要。権利者の皆様においては、積極的に差止申立てを活用していただきたい。また、消費者の皆様におかれても、極端に価格が安い場合や品質表示・保証の内容が十分に確認できない場合は購入を避けるなどの自己防衛をお願いしたい。財務省関税局・税関は、権利者の権利保護、日本の産業競争力の強化および消費者の健康・安全の確保の観点から、引き続き、知的財産侵害物品の厳正な水際取締りに取り組んでいく。
税関における知的財産侵害物品等の水際取締りについて
詳しくはこちらから
http://www.customs.go.jp
知的財産侵害物品
図表 知的財産侵害物品の輸入差止実績の推移
図表 仕出国(地域)別 輸入差止件数構成比の推移
図表 品目別輸入差止実績構成比
図表 輸送形態別輸入差止実績構成比の推移
図表 主な知的財産
図表 差止申立ての流れ
図表 認定手続の流れ