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男鹿の発展に向けた取り組み
男鹿市総務企画部企画政策課 主幹吉田 平

1.男鹿市の概要
 男鹿市は秋田県沿岸の中央部に位置し、日本海に突き出た男鹿半島は、豊富な水産資源や景観美に恵まれ、一市単独で国定公園の指定を受けています。
 「なまはげ」行事は男鹿市の伝統的な行事で、国指定重要無形文化財に指定されており、平成30年には「男鹿のナマハゲ」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。古くから東北有数の観光地であるほか、農業では稲作、和梨、メロン等、漁業では秋田県内の約半数の漁獲量を占めています。
 一方、人口は昭和30年の約6万人をピークに減少を続けており、令和2年の国勢調査人口では約2.5万人とピーク時の半数以下となっています。人口減少は様々な要因が複雑に絡み合っており、人口減少そのものを避けることはできませんが、そうした中にあっても男鹿に暮らす全ての人々が生きがいと誇りを持ち、地域で豊かに安心して暮らしていけるよう地方創生を推進しています。
 ここでは、本市における男鹿駅前周辺整備や、洋上風力発電事業を契機とした船川港の進化について紹介します。

2.JR男鹿駅前の移転新築を含めた周辺エリアの整備
(1)現状と課題
 男鹿市は、国定公園の指定を受けたダイナミックな自然景観やジオパーク、ユネスコの無形文化遺産に登録されている「男鹿のナマハゲ」などの多彩な観光資源を有しており、経済波及効果や雇用創出力が期待される観光を農業、漁業と並ぶ基幹産業と位置付け、観光振興による地域経済の活性化に取り組んできました。
 しかしながら、昨今の旅行形態や消費者ニーズの変化などにより、観光入込客数は減少傾向で推移しており、豊かな自然環境が育む農産物や水産物にスポットを当てた観光資源の磨き上げや付加価値の高いサービスの提供による消費額拡大、中心市街地の求心力回復など、新たな観光誘客対策が課題となっていました。

(2)秋田県と連携した複合観光施設の整備
 これらの地域課題を解決するため、地域資源を有効に活用しながら地域の個性を磨き上げ、持続可能な地域づくりに資する取り組みを支援する県単独事業の「あきた未来づくり交付金」を活用し、観光振興による交流人口の拡大と地域活性化の拠点づくりを目的とした複合観光施設の整備に着手し、地域観光の再構築と世界に通用するブランド力の強化に乗り出しました。

(3)複合観光施設と新JR男鹿駅の開業
 こうした機運の高まりを受けて、JR東日本では複合観光施設の整備と時を同じくして、地域と連携した男鹿駅周辺の活性化を推進するため、駅舎の移転新築に着手しました。
 すそ野の広い分野に好影響をもたらす観光振興や地域活性化に着目した2つの取り組みは、市民の大きな期待を背負い平成30年7月に華々しく同時開業を迎えました。
写真 男鹿駅周辺広場の概要

(4)男鹿駅周辺広場の整備
 市内周遊観光による交流人口の拡大や地域活性化の拠点を担う複合観光施設「道の駅おが(愛称:なまはげの里オガーレ)」とJR男鹿線終点の駅として「東北の駅百選」に選定されている男鹿駅の開業により、駅周辺エリアでは新たな人の動きが生まれはじめました。この流れを確かなものとし、駅周辺エリアの求心力を高め、近隣の商店街はもとより市内全域に経済効果が波及するよう、両施設の間に位置する鉄道用地を新たに取得し、多くの人々の交流の場として男鹿駅周辺広場を整備しました。
写真 整備前 整備後 男鹿駅周辺広場整備前後の状況

(5)男鹿駅周辺広場の活用状況と今後の展望
 男鹿駅周辺広場においては、「男鹿日本海花火」や「なまはげ柴灯まつり」など、市の核となる誘客イベントのサテライト会場として多くの人々が集うほか、近接する重要港湾船川港に寄港したクルーズ船からは、距離的なメリットを生かし、乗船客やクルーが船旅の合間に憩いのひと時を過ごす姿が見られます。
 市では、男鹿駅周辺エリアをまちづくりの拠点と位置付け、多様な主体による交流や地域課題の解決に向けたチャレンジの取り組みを後押ししながら、複合観光施設の整備当初に掲げた、「~“住んでよし、訪れてよし”の男鹿の共創~」の実現に向けて引き続き努めていきます。
写真 にぎわいを創出する男鹿駅周辺広場

3.進化する船川港(港湾機能強化と関連産業の振興)
 船川港はこれまで、日本海に突き出した半島の優位性から、古くから天然の良港として知られ、交易の拠点、船舶が避難する「風待ち港」として利用されてきました。
 特に、日本鉱業株式会社(現ENEOS株式会社)による大規模な石油精製事業が展開された昭和30年~50年代、それに続く国家石油備蓄基地が建設された昭和50年~平成初頭にかけては、それぞれ船川港の第1次並びに第2次隆盛期でした。しかしながら、それ以降は取扱貨物量や入港船舶数が減少し、魅力ある港湾としての役割が低下してきています。
 こうした中、令和2年10月、国では深刻化する地球温暖化対策の一環として2050年カーボンニュートラルが宣言され、その実現に向け、再生可能エネルギー、とりわけ洋上風力発電の導入拡大を最優先で進める方針が示されました。
 現在、国内でも洋上風力発電事業が特に進展する日本海側北部において、船川港は秋田、能代の両基地港湾の中間に位置し、冬季でも広大な静穏海域を有する優位性から、将来の浮体式洋上風力までを見据えた事業展開をはじめ、関連産業の人材育成や運営・保守拠点など、多面的な役割が期待されています。
 こうした将来性を踏まえ、昨年4月以降、洋上風力発電関連の訓練センター「風と海の学校 あきた」や、日本海側最大の船揚場を有する大型船舶等の修理拠点が順次整備され、具体の動きが着実に進んでいます。さらに、能登半島地震の教訓を踏まえ、能登半島と立地条件が類似している男鹿半島で災害が発生した場合に備え、半島防災の観点から、海上からの救援物資やDMAT等の救援人員の受入・輸送拠点としての期待も高まっており、港湾施設の耐震性強化や老朽化対策など、災害に強い港湾整備も急務となっています。
 こうした洋上風力発電事業の進展等を見据え、港湾機能の強化が求められる中、昨年8月、実に27年ぶりに船川港港湾計画が改訂されました。改訂された港湾計画では、水深12メートルの大水深岸壁の整備とふ頭用地・工業用地合わせて約36ヘクタールの造成、洋上風力発電事業の運営・保守の拠点化に向けた小型船舶の係留施設の整備のほか、延長185メートルの耐震強化岸壁整備などが盛り込まれています。
 今後、計画に基づき、船川港の機能強化が着実に進むことにより、地域産業の振興や新たな雇用創出はもちろん、物流・人の流れが活発化し、宿泊や飲食、観光誘客や特産品の需要拡大など、地域全体への多大な波及効果が期待されています。
写真 男鹿の発展を支える船川港

これからの発展が期待できる男鹿市について
地方創生コンシェルジュ
東北財務局秋田財務事務所 藤田 康介
 開業から6年が経ち、市内観光の人気スポットとしてすっかり定着した「道の駅おが オガーレ」ですが、店内には男鹿周辺で獲れた海産物が驚くほどの安価で売られており、毎回「クーラーボックスを持ってくるんだった」と悔しい思いをさせられます。また、季節には特産のメロンや梨といった農産物も豊富で、平日も人の流れができているのが感じられます。
 オガーレに程近い船川港は、今後、男鹿市沖を含む秋田県沖合での洋上風力発電の風車建設等の拠点として、港湾計画に基づく整備発展が見込まれており、この2つの拠点の相乗効果で地域の活性化が進んでいくことを期待しています。
 なお、オガーレはJR男鹿駅から徒歩3分の距離にあり、男鹿産の素材を用いたジェラートも評判なので、ぜひ一度お越しください。


「回る経済」
真庭市総務部財政課 課長有富 基高

1.真庭市の概要
 本市は、2005年に9町村の合併によって誕生しました。岡山県北部で中国山地のほぼ中央に位置し、東西に約30km、南北に約50km、総面積は828km2、人口約41,000人の中山間地域です。
 市の北部は、「国立公園 蒜山(ひるぜん)」の一部であり、蒜山高原などの広大な高原地帯で、ジャージー牛などの酪農と牧歌的な高原風景を満喫できる観光リゾートの拠点となっています。
 また、湯原温泉や、のれんの町並みで知られる勝山町並み保存地区などの多くの観光資源があり、南部には肥沃な平坦地が広がり、農業地帯が旭川支流一帯に形成されています。
写真 (GREENable HIRUZEN)

2.木を使い切る
 市域の約8割を占める森林を生かしたバイオマスの利活用・林業再生のまちづくりが特徴的で、原木の生産から製材、さらには販売までの木材に関するサプライチェーンが整っており、木材製品が真庭市の製造品出荷額の27%を占めるという、全国的にもまれに見る木材産業集積都市です。
 官民出資の真庭バイオマス発電所は、木材をチップ化したものを燃料とし、発電能力は1万kWで、年間で約2万2,000世帯分の電力を生産しています。
 燃料となるチップの原料は、林地残材や製材端材であり、素材業者や製材業者から、それまでは産業廃棄物として処分されていた端材や樹皮、山に放置されていた未利用材を資源として買い取ることにより、無価値であったものが、商品として市内に還元されています。
 「木を使い切る」構造を創出するとともに、売電収入の一部を山主に還元し、山主の森林への関心を喚起することで、持続可能な木材産業構造の構築を目指しています。
 また、発電所のみで約68,000tのCO2削減効果が認められ、さらに発電所や集積基地などのバイオマス関連事業で雇用が創出されています。ここで発電した電力は市内の小中学校や公共施設に供給されており、環境負荷の低減と市内エネルギー自給率の向上にも寄与しています。
写真 (真庭バイオマス発電所)

3.混ぜれば「ごみ」分ければ「資源」
 真庭市くらしの循環センターでは、従来、廃棄物として焼却処理していた「生ごみ」と、水処理していた「し尿」「浄化槽汚泥」をメタン発酵して液体肥料「バイオ液肥」に再生します。この過程で発生したメタンガスは、発電に利用しています。
 ごみ処理コストの削減や低コスト農業など循環型のくらしを実践しています。今後は、家畜糞尿等を活用したバイオガス発電による循環型酪農システムの構築を図っていきます。

4.スーパーアプリ「まにあぷり」
 市民の6割以上が使っている、真庭市デジタル地域通貨「まにこいん」は、スマートフォンを使った電子決済機能や、歩数に応じて「健幸ポイント」が付与されるヘルスケア機能など、デジタル通貨と健康促進活動を連動させ、健康意識向上を目指し、地域経済の活性化とともに市民一人ひとりの生活の質向上につながっています。
 さらに、防災やこども・子育て、窓口案内、観光、移住定住といった内容に加え、ゴミ出しカレンダー、オンデマンド交通や公共施設利用の予約、休日夜間診療機関などの行政情報にとどまらず、事業者等が実施するイベント、ポイントキャンペーンなどの情報が集約された、日々の生活をより便利にする市民参加型の地域スーパーアプリ「まにあぷり」へと進化しています。
 市民や観光客は地域で起きている最新の出来事や、おすすめの観光地、イベントなどの情報に簡単にアクセスすることができ、地域経済の循環が促進されます。
 マイナンバーカード等により本人認証すれば、各種行政サービスのお知らせやアンケートが届き、さらに今後は行政手続きの電子申請の拡充やふるさと納税にも対応します。
写真 (まにあぷり)

5.まとめ
 地域資源である木を従来からの製材にとどまらず、再生可能エネルギーとして活用することや、有機廃棄物を利用した循環型農業から生まれた農産物の地産地消、市外に流出していたお金が市内で循環する仕組みなど「回る経済」を確立させていきます。
 また、これらの取り組みを学んだり体験できる「真庭SDGs・バイオマスツアー」を一般社団法人真庭観光局が行うなど、市民、企業、自治体が一丸となって、経済・環境・社会の3側面をつなぐ統合的な取組を行っています。

地域資源とデジタル技術を活用した循環型のまちづくりが加速!
地方創生コンシェルジュ
中国財務局岡山財務事務所長 小田川 浩二
 市域の約8割を森林が占める真庭市では、豊富な森林資源の徹底活用や生ごみ等の資源化により、バイオマス発電やバイオ液体肥料を生み出す循環型エネルギーの仕組みを構築。さらにデジタル技術を活用した地域スーパーアプリの導入で市民参加を促し地域経済活性化に取り組んでいます。
 真庭市で加速する、環境と経済が地域内で「回る」取組は、これからの持続可能なまちづくりのヒントが詰まっています。


斜面地を考える~活用に向けた具体策~
福岡財務支局 管財部管財総括第一課 国有財産管理官奥村 浩介

1.斜面地のイメージ
 みなさんは「斜面地」という言葉からどんな場所を思い浮かべますか?私は国有地を管理していることもあり、「角度が急な階段」「成長著しい草」「車が入らない」など、少しネガティブなイメージが湧いてきます。
 そんな斜面地ですが、日本の国土のおよそ4分の3が山地ということもあり、日常的に目にする機会は多いはずです。また、斜面地が抱える課題を耳にすることも多くなってきたように思います。
 こうした中、当局は、斜面地に多くの公有地を抱える自治体と、情報共有や共通の課題について意見交換することを目的として、令和4年11月、「斜面地に所在する国公有財産に関する意見交換会」(以下「シャ活」という。)を立ち上げました。
写真 斜面地の階段

2.当局が管轄する地域の状況
 当局が管轄する地域には、北九州市、長崎市及び佐世保市といった斜面地を多く抱える都市がありますが、当局が管理する斜面地財産を見ると、「買い手が見つからない」「利活用が進まない」といった状況にあります。
 こうした中、これまでのシャ活を踏まえ、斜面地が抱える課題を大きく次の3つに整理しました。
(1)管理コストの削減
(2)利用困難財産の有効活用
(3)空き家への対応

3.第3回「シャ活」開催
(1)開催地、長崎市について
 第1回を北九州市、第2回を佐世保市で開催したシャ活ですが、第3回は長崎市での開催となりました。
 長崎市は、人口40万人弱の中核市であり、海と山に囲まれた坂のまちとして有名です。特に、長崎市を取り囲む山々から見る夜景は日本や世界における「三大夜景」として認定されるなど、重要な観光スポットとなっています。他方で、全国的にも目立つ転出超過の問題や斜面地における空き家増加の問題などを抱えています。
写真 長崎市の夜景(写真提供:(一社)長崎県観光連盟)

(2)第3回「シャ活」の概要
 さて、今回のシャ活ですが、先に述べた課題の解決に向け、民間会社等をお招きしその取組事例を紹介していただくなど、令和6年11月5日・6日の2日間にわたり開催しました。

〈初日〉
 初日は、斜面地を活用するに至った経緯や目的について講義していただいた後、実際に現地を見学させていただきました。
 まず、長崎都市・景観研究所の平山所長より、空き地活用の一例として「さかのうえん」をご紹介いただきました。
 「長崎における価値観の再構築」などを目的とし、様々な取組みを行っている同研究所ですが、「坂」と「農園」を組み合わせた「さかのうえん」もその取組みの1つになります。空き地を農園として活用することで、除草作業などの管理コストの削減につながるほか、周辺住民との交流の場になるなど、斜面地の活性化にもつながっています。
 なお、「さかのうえん」には、管理委託という国の制度に基づき、国有地を活用しているものもあります(写真参照)。売払いの見通しが立たず、今後の管理コストの増加が懸念されていた本地ですが、「日当たり」「景観」といった面から農園に最適とのことで、営利を目的としない交流型市民農園として、同制度を活用することとしたものです。
 続いて、有限会社明生興産の尾上社長より、空き家活用の一例として「贈与型賃貸住宅制度」をご紹介いただきました。
先に述べた通り、長崎市は転出超過という課題を抱えており、その要因の1つが家賃の高さといわれています。さらに、斜面地の古い物件を現地で建替える場合、費用的にも割高となるほか、法的にも様々な条件をクリアする必要があります。
 こうした中、同社は、「空き家対策」「子育て支援」等を念頭に、入居当初は賃貸住宅として住み続け、子育てのめどが立つ10年後に賃貸のまま住み続けるか、贈与で譲り受けるかを選択できる「贈与型賃貸住宅」という取組みを行っています。同社が安く購入等した空き家をリノベーションすることで家賃も割安になっており、子育て世帯をはじめとした若い世代が斜面地に住むことになるなど、斜面地の活性化につながっています(写真参照)。
写真 さかのうえん
写真 リノベーション後の一室

〈二日目〉
 二日目は、初日に見聞きした点を踏まえ、意見交換を行いました。様々な組織に所属する様々な年代の方が真剣に解決策について話し合う有意義な意見交換だったと思います。「提供可能な財産の情報提供や地域需要の把握に課題」「今回のようなプレイヤーを見つけることが重要」など、様々な意見が出されたところ、各々が所属する組織においても、斜面地財産の活用に向けた取組みが進んでいくことが期待されます。

4.まとめ
 今回改めて感じたのは、需要を的確につかむことの重要性です。利活用が難しく感じていた斜面地財産ですが、シャ活を通じて様々な需要の存在に気付かされました。
 さらに、「地域課題の解決」に対する関心の高さについても再認識させられました。真剣に意見交換する参加者の様子に加え、多くのマスコミの方に会議の様子を取り上げていただいたこと、その報道を見た団体等から反響があったことも、非常に印象的でした。
 今後も様々な方と意見交換しながら、斜面地をはじめとした多種多様な地域課題の解決に向け、取り組んでいきたいと思います。