「メリハリ消費」から見る消費行動の変化
大臣官房総合政策課 調査員 伊藤 祐嗣/酒井 亮
本稿では、メリハリ消費の実態を分析するとともに、物価高を経た消費行動の変化について考察する。
メリハリ消費とは
「メリハリ消費」とは、生活必需品では節約を徹底する一方、趣味や娯楽など自身の充実感につながる分野では積極的な消費を行う消費スタイルである(図表1 メリハリ消費と関連ワード)。物価の高騰が長引き、消費者の物価見通しも高止まっているなか、節約疲れによりメリハリ消費が活発になっている可能性がある(図表2 消費者物価指数の推移、図表3 1年後の物価の見通し)。
実際に、家計調査の基礎的支出(必需品的なもの)と選択的支出(贅沢品的なもの)の構成比を見ると、物価高局面で抑制されやすいはずの選択的支出は、物価が上昇し始めた21年以降も堅調に推移している(図表4 基礎的支出と選択的支出の具体例、図表5 基礎・選択消費の構成比推移(二人以上の世帯))。
以降では、基礎的支出と選択的支出の区別を踏まえながら、メリハリ消費について分析する。
(出所)総務省「消費者物価指数」「家計調査」、内閣府「消費動向調査」
メリハリ消費の対象は何か
まずはメリハリ消費の対象を確認する。家計調査の10大項目の構成比を見ると、「食料」と「教養娯楽」の支出割合が高まっている。それぞれの変化を分析すると、どちらも消費総額は増加しているが、選択的支出が牽引していることが見て取れる。物価高が影響し基礎的支出も増加しているが、メリハリ消費により選択的支出の伸びが顕著である可能性が考えられる(図表6 支出項目ごとの構成比の変化、図表7 食料と教養娯楽における選択的支出の割合)。
代表的な品目の推移を見る。食料に関して、自炊など内食の伸びは限定的だが、選択的支出中心の外食関連は伸びている。教養娯楽財については、比較的安価なスポーツウェアやペット用品が堅調である一方、パソコンなど高額な耐久財には節約志向が見られる。他方、宿泊料や映画・演劇等入場料など教養娯楽サービスの伸びは顕著であり、体験に価値を見出す「コト消費」の活況と整合的である。必需品や高額品は節約され、サービス等は積極的に支出されている可能性がある(図表8 食料、教養娯楽の名目消費支出(二人以上の世帯、後方12ヶ月移動平均))。
(注)内食は、調理食品、菓子、飲料、酒類を除く食品として筆者作成。
(出所)総務省「消費者物価指数」「家計調査」
誰がメリハリ消費をしているか
“外食以外の食料”は低下傾向にある一方、選択的支出の割合が高い“外食”や“宿泊”は各年代で増加傾向にあり、可処分所得に左右されず幅広い世代で積極的な支出が見られる。コロナ禍からのリベンジ消費やインバウンドによる価格上昇等の影響には留意が必要だが、物価高局面でも根強く上昇している要因としてメリハリ消費も考えられる(図表9 世帯主の年齢階級別実質消費支出(二人以上の世帯、後方12カ月移動平均))。
マクロミルによるアンケート調査からも家計調査と同様の傾向が確認できる。内食(自宅の食事)や教養娯楽財(家電やモバイル端末)に類する品目への支出は抑えられつつも、外食や教養娯楽サービス(旅行、映画等)への支出が上向きである。また、外食や飲み会を筆頭とした「コト消費」への支出意欲も足元では強まっていることが確認できる(図表10 過去1週間に購入した品目の推移、図表11 今後1週間に購入したい品目の推移)。
(注)図表9の実質化は対応するCPIの項目により筆者試算。図表10・11は回答者アンケート調査による、回答者全体の中での回答割合(複数回答可の調査)。
(出所)総務省「家計調査」「消費者物価指数」、マクロミル「Macromill Weekly Index」
メリハリ消費の現状と課題
これまで見た通り、一部の選択的支出について拡大傾向がある。その一方、長期的に物価高が続いていたことに伴い、消費者の節約意識も高まっている(図表12 価値観の変化、図表13 商品購入時に節約のために行っていること)。消費の分配先が見直され、メリハリ消費が活発になっていると考えられる。
消費者側は、インターネット等を通じ、多くの情報やチャネルを吟味しながら出費先を決めていることが想定される。特に若年層は購買力に乏しくも、ネット情報へのアクセスに長けることから、「メリとハリ」をシビアに分けていることが推察される(図表14 購買チャネルの世代間比較)。
「今後お金をかけたいもの」を調査したアンケート結果より、上位項目に旅行・外食・趣味等が確認され、今後もメリハリ消費が一層の広まりを見せると考えられる。ただし、足下では貯蓄志向が高まっていることも確認でき、個人消費を活気づけるためには所得環境の更なる改善が求められるだろう(図表15 昨年のお金を使ったことと、今年お金をかけたいこと)。
(注)図表12・13・15はアンケート調査による、回答者全体の中での回答割合(複数回答可の調査)。
(出所)デロイトトーマツグループ、SVPジャパン「新たな消費行動を牽引するZ世代といま起きている3つの大きな変化」、博報堂生活研究所「値上げ・物価高騰に関する生活者調査」、「2025年生活気分」
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。