評者:政策研究大学院大学博士課程(政策プロフェッショナルプログラム)在籍 渡部 晶
赤井 伸郎/上村 敏之/亀田 啓悟 編著
関西公共経済学研究会/関西学院大学産業研究所 編
財政学・公共経済学の発展と展望
関西学院大学出版会 2025年2月 定価 本体2,700円+税
関西公共経済学研究会は関西在勤・在住の研究者が参加する研究会であり、我が国で長期間続く活動的な財政学・公共経済学研究会だ。「このたび、二〇周年を迎えるにあたり、この二〇年の財政学・公共経済学研究を振り返り、今後の二〇年に向けた財政学・公共経済学研究をリードしてきた関東在住の著名な研究者六名に関西にお越しいただき、関西公共経済学研究会の場でお話をしていただくことにしました。本書は、二〇二三年一二月九日に行われた『関西公共経済学研究会20周年記念講演会』での講師六名の報告内容をまとめたものです」(はじめに)。
構成は、はじめに(赤井伸郎・大阪大学大学院国際公共政策研究科教授、上村敏之・関西学院大学経済学部教授、亀田啓悟・関西学院大学総合政策学部教授)、Ⅰ部 財政学・公共経済学における政府機能と政策評価、第1章 過去二〇年の公共経済学・財政学の研究について(井堀利宏・政策研究大学院大学名誉教授)、第2章 厚生経済学と政策評価(岩本康志・東京大学大学院経済学研究科教授)、第Ⅱ部 公共経済学の実証・理論研究、第3章 地方財政に関する近年の実証分析について(林正義・東京大学大学院経済研究科教授)、第4章 公共経済理論―日本人研究者の研究動向のこれから(小川光・東京大学経済学研究科大学院教授)、第Ⅲ部 日本の財政(歳出・歳入)の在り方、第5章 日本の財政政策の来し方行く末(土居丈朗・慶應義塾大学経済学部教授)、第6章 税制のイノベーション(佐藤主光・一橋大学大学院経済学研究科教授)、あとがき(山口隆之・関西学院大学産業研究所長)となっている。
第1章では、2000年代の研究を、所得再分配機能、資源配分機能、経済安定化機能に分けて、日本における財政学研究を主導してきた執筆者の研究も含めて俯瞰されている。この中では、日本の財政政策では景気順応的な財政運営=プロシクリカルな政策が行われ、「ここ一〇年ぐらい日本の財政運営が政治的圧力に弱くなってきているといえそうです」という。また、望ましい財政健全化戦略を論じ、「我が国の場合は、財政規律が甘く、コミットメントが軽視されすぎてきました。これからはコミットメントの便益をより重視して、財政健全化を進めるべきでしょう」とする。
第2章では、政策の規範分析の最近の理論展開と我が国の政策評価の実践の課題が展望される。執筆者の大学院での授業「財政理論」の抜粋だという。厚生効果の評価の実践において、「定量的な評価は不十分で、政策効果の定量的な把握が現在の大きな課題」という。参考文献にあがっている「政策効果の定量的把握」(『レファンレンス』825号)をみると、日本の行政評価の現状について、本書より厳しい指摘がなされている。
第3章では、地方財政の実証研究が分析され、執筆者の『税制と経済学』(2024年8月 中央経済社)でも指摘されている「日本のデータを利用した学術研究の質と量の拡充」の重要性がここでも強調されている。
第4章では、日本の公共経済研究の動向が考察・分析され、今後のトピックで執筆者が重要と考えている「経済のデジタル化」「税務研究」「政府の目的と政策形成」があげられる。最後のトピックは、評者が勉強中の『政策過程論』の理論動向にも関連していて示唆深い。
第5章では、執筆者が20年間における日本財政の出来事・取組みのうち、歳出の視点から「日本財政・名(迷)言ベストテン」を取り上げている。執筆者の巧みなプレゼンで講演会場が沸いたが、日本経済新聞の『経済論壇から』を長年執筆してきた幅広い視野からそれぞれの話題が今回巧みに文字化された。第一位は「アベノミクス」である。
第6章は、20世紀最大の税のイノベーションとして「付加価値税(消費税)」をあげ、21世紀の税のイノベーションとして、「法人税のキャッシュフロー税への転換」「消費税のリバースチャージ(買い手による消費税の徴収)「所得税の源泉徴収と統合した『付加価値型取引税』」「生涯所得の累進課税」などを考察する。
評者は、2004事務年度の主税局広報担当企画官の際、赤井先生のお誘いで研究会に参加、税制の説明をして御縁ができたと記憶する。記念講演会には財務総合政策研究所長として参加した。講演会終了後の懇親会ではご挨拶や諸先生と旧交を温める機会を得た。組織としても新たな御縁の機会となった。研究会のますますの発展を祈念したい。
赤井 伸郎/上村 敏之/亀田 啓悟 編著
関西公共経済学研究会/関西学院大学産業研究所 編
財政学・公共経済学の発展と展望
関西学院大学出版会 2025年2月 定価 本体2,700円+税
関西公共経済学研究会は関西在勤・在住の研究者が参加する研究会であり、我が国で長期間続く活動的な財政学・公共経済学研究会だ。「このたび、二〇周年を迎えるにあたり、この二〇年の財政学・公共経済学研究を振り返り、今後の二〇年に向けた財政学・公共経済学研究をリードしてきた関東在住の著名な研究者六名に関西にお越しいただき、関西公共経済学研究会の場でお話をしていただくことにしました。本書は、二〇二三年一二月九日に行われた『関西公共経済学研究会20周年記念講演会』での講師六名の報告内容をまとめたものです」(はじめに)。
構成は、はじめに(赤井伸郎・大阪大学大学院国際公共政策研究科教授、上村敏之・関西学院大学経済学部教授、亀田啓悟・関西学院大学総合政策学部教授)、Ⅰ部 財政学・公共経済学における政府機能と政策評価、第1章 過去二〇年の公共経済学・財政学の研究について(井堀利宏・政策研究大学院大学名誉教授)、第2章 厚生経済学と政策評価(岩本康志・東京大学大学院経済学研究科教授)、第Ⅱ部 公共経済学の実証・理論研究、第3章 地方財政に関する近年の実証分析について(林正義・東京大学大学院経済研究科教授)、第4章 公共経済理論―日本人研究者の研究動向のこれから(小川光・東京大学経済学研究科大学院教授)、第Ⅲ部 日本の財政(歳出・歳入)の在り方、第5章 日本の財政政策の来し方行く末(土居丈朗・慶應義塾大学経済学部教授)、第6章 税制のイノベーション(佐藤主光・一橋大学大学院経済学研究科教授)、あとがき(山口隆之・関西学院大学産業研究所長)となっている。
第1章では、2000年代の研究を、所得再分配機能、資源配分機能、経済安定化機能に分けて、日本における財政学研究を主導してきた執筆者の研究も含めて俯瞰されている。この中では、日本の財政政策では景気順応的な財政運営=プロシクリカルな政策が行われ、「ここ一〇年ぐらい日本の財政運営が政治的圧力に弱くなってきているといえそうです」という。また、望ましい財政健全化戦略を論じ、「我が国の場合は、財政規律が甘く、コミットメントが軽視されすぎてきました。これからはコミットメントの便益をより重視して、財政健全化を進めるべきでしょう」とする。
第2章では、政策の規範分析の最近の理論展開と我が国の政策評価の実践の課題が展望される。執筆者の大学院での授業「財政理論」の抜粋だという。厚生効果の評価の実践において、「定量的な評価は不十分で、政策効果の定量的な把握が現在の大きな課題」という。参考文献にあがっている「政策効果の定量的把握」(『レファンレンス』825号)をみると、日本の行政評価の現状について、本書より厳しい指摘がなされている。
第3章では、地方財政の実証研究が分析され、執筆者の『税制と経済学』(2024年8月 中央経済社)でも指摘されている「日本のデータを利用した学術研究の質と量の拡充」の重要性がここでも強調されている。
第4章では、日本の公共経済研究の動向が考察・分析され、今後のトピックで執筆者が重要と考えている「経済のデジタル化」「税務研究」「政府の目的と政策形成」があげられる。最後のトピックは、評者が勉強中の『政策過程論』の理論動向にも関連していて示唆深い。
第5章では、執筆者が20年間における日本財政の出来事・取組みのうち、歳出の視点から「日本財政・名(迷)言ベストテン」を取り上げている。執筆者の巧みなプレゼンで講演会場が沸いたが、日本経済新聞の『経済論壇から』を長年執筆してきた幅広い視野からそれぞれの話題が今回巧みに文字化された。第一位は「アベノミクス」である。
第6章は、20世紀最大の税のイノベーションとして「付加価値税(消費税)」をあげ、21世紀の税のイノベーションとして、「法人税のキャッシュフロー税への転換」「消費税のリバースチャージ(買い手による消費税の徴収)「所得税の源泉徴収と統合した『付加価値型取引税』」「生涯所得の累進課税」などを考察する。
評者は、2004事務年度の主税局広報担当企画官の際、赤井先生のお誘いで研究会に参加、税制の説明をして御縁ができたと記憶する。記念講演会には財務総合政策研究所長として参加した。講演会終了後の懇親会ではご挨拶や諸先生と旧交を温める機会を得た。組織としても新たな御縁の機会となった。研究会のますますの発展を祈念したい。