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アジア太平洋地域における地域金融協力の推進(ASEAN+3,日中韓,日・太平洋島嶼国財務大臣・中央銀行総裁会議)

国際局地域協力課長 城田 郁子/地域協力調整室長 鳥羽 建/課長補佐 執行 奈々美/係長 小林 諒/森 健治郎/熊谷 将俊

 2025年5月4日(日)、アジア太平洋地域における地域金融協力関連の会議として、「第28回ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議」がイタリア・ミラノで開催された。日本からは、加藤財務大臣が出席した。本会議は、1997年のアジア通貨危機を契機として、アジアの金融セーフティーネットを構築する機運が高まる中、1999年に「ASEAN+3財務大臣会議」が開催されたことをその始まりとする(中央銀行総裁は2012年から参加)。なお、本会議と合わせて、「第25回日中韓財務大臣・中央銀行総裁会議」も開催された。
 また、5日(月)には、太平洋島嶼国との連携強化を念頭に、「第2回日・太平洋島嶼国財務大臣会議」が開催された。以下、本稿では、これらの会議における議論の概要を紹介したい。

写真 ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議の様子。加藤大臣は前列左から5番目。

I.第28回ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議
1.世界と域内の経済・金融見通しや政策対応
 本会議では、ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)、アジア開発銀行(ADB)、国際通貨基金(IMF)より、世界・域内経済の見通しについて説明があり、2024年のASEAN+3域内の経済成長率について、+4.3%と力強い成長を記録したことを確認した。また、2025年も、引き続き4%程度の堅調な成長が予想されるものの、貿易保護主義の高まりや世界的な金融市場の不安定化などの課題に直面していることを確認した。加えて、経済・金融の安定化に向けて地域として連携していくことの重要性について、あらためて確認した。
2.地域金融協力
チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)
 1997年に発生したアジア通貨危機を教訓に、ASEAN+3では、2000年に二国間通貨スワップ契約から構成されるチェンマイ・イニシアティブ(CMI)が立ち上げられた。その後、スワップ発動の際の当局間の意志決定の手続きを共通化し支援の迅速化を図るためのCMIのマルチ化契約(CMIM)締結、資金規模の倍増といった機能強化が図られてきた。
 そして、2023年に日本が共同議長を務めた際に議論を主導した「緊急融資ファシリティ」が、今般の会議において正式に創設に至った。同ファシリティは、パンデミックや自然災害といった外生的ショックを起因として要請国に外貨不足が生じている場合に、他のメンバー国が外貨を供給することで迅速に支援を行うものであり、災害の多いアジアにおいて、自然災害等に対する財政金融面でのレジリエンス強化や、迅速な危機対応能力の向上に資するものとして期待されている。今後、各国の国内手続きを経て正式に稼働を開始することとなる。
 また、グローバル金融セーフティーネットの更なる補完を視野に行われている、スワップベースのCMIMから払込資本型への移行の検討については、今後、IMFに類するモデルを中心に議論を行うことで合意した。
ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)
 CMIMの実施支援に当たっては、ASEAN+3域内・各国経済のリスクを早期に発見し、各国に改善措置の速やかな実施を求めることが必要不可欠である。このため、域内のサーベイランス機関として、2011年にASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)が設立された(その後、2016年に国際機関化)。日本はその設立以来、事務局長を含めた人材の輩出や拠出金の貢献等を通じてAMROを支援してきている。
 今回の会議では、5月26日に任期満了を迎えるリー・コウチン事務局長の貢献に対する謝意が示されたほか、次期事務局長である渡部康人氏を歓迎し、各国からAMROの役割強化への期待が表明された。
アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)
 ASEAN諸国において、二重のミスマッチ(ドル等の外貨を海外から短期で借り入れ、自国通貨建てで国内の長期融資を実施)が、アジア通貨危機の一因となったことから、その解消のため、ASEAN+3域内の現地通貨建て債券市場を育成し、域内の貯蓄を投資へ活用することを促進する取組として、2003年にアジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)が開始された。ABMIの開始以来、ASEAN+3域内の現地通貨建て債券市場は着実に拡大している(例えば、ASEANの現地通貨建て債券市場の規模*は、取組開始から20年間で6.8倍に拡大)。
(*)本文中の統計データは、Asian Bond Onlineを出所とする。なお、ミャンマーのデータは取得不可のため、ミャンマーを除く9か国の債券市場規模を集計。
 今回の会議では、脱炭素化やデジタル等の新たな潮流を踏まえた「2023-2026中期ロードマップ」の進捗が歓迎された。また、日本が共同議長として支援しているASEAN+3債券市場フォーラム(ABMF)へのカザフスタンのオブザーバー参加表明が歓迎された。
災害リスクファイナンス(DRF)
 日本は、国向け災害保険を提供する仕組みである「東南アジア災害リスク保険ファシリティ(SEADRIF)」の立ち上げを主導するなど、自然災害に対する財務強靭性の向上に係る取組に積極的に関わってきている。2023年からは災害リスクファイナンス(DRF)がASEAN+3財務トラックの「第4の柱」となっている。
 今回の会議では、域内の災害リスクに対する各国の財務強靭性を更に向上させるため、DRFの今後3年間のロードマップ(2026~2028年)の大枠に合意した。

II.第25回日中韓財務大臣・中央銀行総裁会議
 本会議は、2000年以降、ASEAN+3の会議と合わせて開催されており、日中韓の3か国で率直な意見交換を行う重要な場となっている。今年は、中国の藍仏安財政部長、潘功勝人民銀行行長の共同議長の下、各国の経済・金融情勢及び地域金融協力について意見交換が行われ、日中韓の連携の重要性が確認された。

III.ASEAN+3財政政策対話
 今年は、初めての試みとして、ASEAN+3の財務大臣が財政政策に関する意見交換を行う「ASEAN+3財政政策対話」が実施された。同会議では、域内の財政当局が共通して直面する課題である「成長戦略と財政規律の両立」及び「高齢化社会への対応」について意見交換が行われた。日本からは、「経済あっての財政」との考え方の下、経済成長と財政健全化の両立を進めていることや、全世代型社会保障制度の構築に向けた取組などについて説明を行った。

IV.第2回日・太平洋島嶼国財務大臣会議
 太平洋島嶼国と日本は、経済・文化・人的交流等幅広く長い交流の歴史を有する重要なパートナーであることに加え、同地域の地政学的重要性が足下で増している。このような背景から、日本は昨年から日・太平洋島嶼国財務大臣会議を開催している。本年は、加藤財務大臣が、トンガのアイサケ・エケ首相兼財務大臣とともに共同議長を務め、太平洋島嶼国12か国*及びアジア開発銀行(ADB)の上級スタッフが参加した。
(*)クック諸島、ミクロネシア連邦、フィジー共和国、キリバス共和国、マーシャル諸島共和国、ナウル共和国、パラオ共和国、パプアニューギニア独立国、サモア独立国、ソロモン諸島、トンガ王国、ツバル
 同会議においては、昨年の合意に基づき、2回目の財務大臣会議が開催されたことが歓迎されるとともに、太平洋島嶼国の持続的かつ包摂的な開発のために重要な政策分野における日本の長年の支援に対する深い謝意と継続した支援に対する強い期待が表明された。
 また、(1)コルレス銀行関係の維持、(2)災害リスクファイナンスの推進、(3)国内資金動員の強化の3つの開発課題を中心に、加藤大臣から1年間の日本の取組の進捗が紹介され、その後、各国のこれまでの取組及び今後の協力方針について、率直な意見交換が行われた。
 会議では、コルレス銀行撤退の問題が太平洋地域の経済・社会の重大な脅威であることが強調され、太平洋島嶼国から、世界銀行の太平洋島嶼国向け「コルレス銀行関係プロジェクト」に対する日本の支援等の取組に対して謝意が表明された。また、同地域の自然災害に対する財務強靱性の強化に向け、災害リスクファイナンスの推進が重要であることが再確認されたほか、日本の、「気候変動に強靭な債務条項(CRDC)」のパイロット・プログラムの開始等の取組の進捗が歓迎された。更に、持続的な財政運営に当たり、国内資金動員の強化が重要であることが強調され、日本から、OECD、IMF、世界銀行及びADBといった国際パートナーと連携し、太平洋島嶼国の国内資金動員の強化のための追加的支援を提供する用意があることを表明した。
 また、経済・金融の問題について、日本と太平洋島嶼国の関係を更に強化するため、様々なレベルで緊密なコミュニケーションを継続することに合意し、同会議をADB総会の機会に定期的に実施することで一致した(次回は、2026年にウズベキスタン・サマルカンドで開催予定)。

写真 日・太平洋島嶼国財務大臣会議で発言する加藤大臣