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特集 Future TALK 〇〇さんと日本の未来とイマを考える

石山アンジュさん(起業家・コメンテーター)編

はじめに
岩﨑広報室長 本企画は、財政や税の役割等について読者の皆さまにわかりやすくお伝えするために、様々な分野でご活躍されている方々をお招きして、日本の未来やイマについて対談をする企画です。
今回は、石山アンジュさんをお迎えし、ご専門であるシェアリングエコノミーの話を交え、ご関心のある社会課題や財務省に関する疑問など、率直にお話し頂きたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

石山アンジュさん よろしくお願いします。良い取組みですね。私は、一般社団法人シェアリングエコノミー協会の代表理事をしています。横浜の実家が今で言うシェアハウスです。一人っ子でしたが、それでも血の繋がらないお兄さんやお姉さんがいる環境で育ちました。それがシェアリングをやりたいと思った原点の一つです。他にも、「PMIルールメイキングスクール」という政策立案などを学ぶスクール事業や公務員コミュニティの運営、企業の社外役員、コメンテーターなど色々なことをやっています。自己紹介し始めたら永遠にできてしまうかもしれません(笑)

森田室長 語れることが沢山あっていいですね!
 私は主計局の森田です。社会保障全般に関わる仕事をしています。社会保障は、リスクや負担をシェアする、まさにシェアリングの最たるものと考えています。超高齢社会の下、今の日本の社会保障制度をどうやって未来に引き継いでいくか、すごく悩みながら仕事をしています。制度の持続可能性を考えると、現役世代の負担が大きいからサービス全体を抑えていくとか、誰かに我慢してもらう部分は必ず生じます。それをどうバランスを取り、納得して頂けるように説明するのか、毎日腐心しているところです。

黒野補佐 秘書課の黒野です。職員の働き方を考える仕事をしています。厚生労働省に出向した経験から、様々な人の働き方に関心を持ちました。
 財務省では、この霞ヶ関の建物で約3千人、地方支分部局である財務局、国税局、税関などを合わせると約7万人の職員が働いています。長く勤めることが一般的な職場ではありますし、遠方への転勤もありますので、職員本人だけでなく家庭等の事情も含めた働きやすさを考えています。

石山アンジュさん 7万人!?そんなにいるんですね。
 今日は、シェアリングエコノミーのほか、ルールメイキングや働き方についてもお話したいと思っています!
写真1 左から二人目が石山アンジュさん

シェアリングエコノミーについて
黒野補佐 「シェアリングエコノミー」という言葉自体、個人的にはあまり馴染みがないのですが、どのようなものなのでしょうか。

石山アンジュさん 実は、世界的にも決まった定義はありません。私の解釈では、いわば「お醤油の貸し借りの関係性」だと思っています。ご近所の知り合い同士で成り立つ関係が本来ですが、デジタル社会の現代は、誰がお醤油を持っていて、誰がお醤油を借りたいのか、無数に可視化できる世界です。ご近所だけではない範囲でお裾分けができるようになったのが、近年のニューエコノミーとしてのシェアリングエコノミーだと思っています。
 個人の時代にあっても、それぞれの個性やスキルをみんなでシェアして助け合うことが、より温かく、豊かなあり方のように感じます。「共助」が失われつつある今、そうした人と人との繋がりを再構築することで課題を解決できるような社会を作りたい。それがシェアリングエコノミーをやりたいと思った理由の一つです。
 ニューエコノミーとしてのシェアリングは、アメリカのAirbnbやUberが2008年ぐらいから出てきて、トレンドになりました。日本はそういうテック分野では後進国ですが、実はシェアリングが必要な地域は、高齢化が進んでいるところだったりします。私が関わっているのは、自治体と連携をしながら、地方の地域交通とか、子育て、介護や働き方、こういったものをシェアリングで解決する「シェアリングシティ」という事業で、これはむしろ世界から見ると日本の方が先進的な取り組みとして海外でも取り上げられています。
 私が渋谷で運営する「拡張家族」というコンセプトのシェアハウスでは、新生児から60代まで、多世代の40人ほどが一緒に暮らしています。私も「ちょっと面倒見てて」と言われて他のご家庭のお子さんを一日中預かることもあります。昔の長屋みたいな暮らしを東京のど真ん中でやっている感じです。

黒野補佐 そんなこともされているんですね!面白いです。
写真2 石山アンジュさん

社会保障について
石山アンジュさん 共助の再構築によって、社会保障費をもっと削減できるのではないかと思うことがあります。個人化が進むと、一人に対して制度上保障する内容は増していきますが、お互いにケアする生活が結果的に予防医療の役割を果たしたり、子育てや介護に対する負担をシェアできたりします。昔の日本では当たり前にあった関係性ですが、何か新しい形で再構築できないかなと常に考えていますね。

森田室長 そうですね。おっしゃる通り、社会保障は共助の集合体なんだと思いますが、あまりに規模が大きすぎて、どう助け合っているのか実感できないのが課題だと思います。
 本当は、みんなで各々の能力に応じて貢献し、必要なときは助けてもらう素晴らしい制度であるはずなのに、一方では負担が大きく取り上げられ、他方では給付ばかり受けているように取り上げられる。制度的にも現役世代と高齢者、支える側と支えられる側との分断が生じているように感じています。
 ミクロでは色んな助け合いがそこら中にあると思いますが、財務省の人間としては物事をマクロで見ることも重要であり、その両者をどのように折衷するのかが悩みどころです。

黒野補佐 確かに、社会保障はお金を介したやり取りであって、助け合うのにお互いが知り合い同士である必要がないので、経済効率の面でも精神的な負担の面でもとても優れている点があると思います。ただ、それだと引き換えに心理的な充足感はないですよね。
 例えば、私と石山さんも広い意味では制度上は助け合っていますけど、お会いしたときにそんな実感はなかったのではないでしょうか。
 制度として設計するのは難しいですが、両方無いとちょっと寂しくなるんじゃないかなと思うことはありますね。

石山アンジュさん すごく共感します。シェアリングエコノミーがいいなと思う、もう一つの理由はそこです。資本主義経済の中でも、より人柄を感じられる、顔が見える仕掛けだと思うんです。そこにすごく可能性があると感じています。クラウドファンディングみたいな一人ひとりが参加できる「意思ある再分配」のような仕組み、社会保障に当てはめられるかはわからないけど、そうした視点は必要かなと思います。

森田室長 すごく通じるところがあると思います。それをどう制度に落とし込むかは、僕らが考えていかなければなりませんね。

石山アンジュさん 近年、一人当たりの接する相手がSNS上で増えているように見えて、実は個々人はとても分断していると思うんです。
 私は数年間、渋谷のシェアハウスと大分県にある田舎の古民家との二拠点生活をしていました。大分では仕事や年齢に関係なく、色んな人との地域の繋がりがありましたが、今の時代、特に都会に居るとなかなか無いことですよね。生活において自分と交わらない人が格段に増えた結果、知らない層の人たちへの寄り添う力や思いを馳せる機会がなくなっていることも分断を生んでいる要因の一つではないでしょうか。
写真3 主計局社会保障企画室 室長 森田 茂伸

人口減少と持続可能性について
岩﨑広報室長 人と人との繋がりが大切である一方、今、人口が減っているじゃないですか。特に地方が顕著だと思いますが、シェアリングエコノミーで何かできることはありますか。

石山アンジュさん 大いにあると思います。人口減少により財源としての税収が減り、公共サービスを維持していくのが難しくなる。そうした中で、シェアリングエコノミーが公助を補完する役割を果たすのではないかと思います。
 例えば過疎地では、おばあちゃんが病院に行きたくても、バスや電車は廃線、お客さんがいないからタクシーもいません。そんな時、隣町に行く誰かがついでに「送って行くよ」っていう市民の共助があれば解決できる。介護や子育ても、助けが必要な人たちを結びつけてコミュニティの中で協力していくことが、地域の持続可能性を高めると思います。
 最近特に、人口をシェアする発想の「関係人口」の創出に力を入れています。これまで自治体は、人口を増やす移住者促進が一丁目一番地の政策だったように思いますが、マクロで人が減っている中で、自治体同士が人口を奪い合う形になっては意味がないと思います。そうではなく、一人ひとりが、思いを馳せられるいくつかの地域に滞在先を持ち、ヒトとモノとおカネが隅々まで流動して行くような仕組みを作ることが、地域の持続可能性を高めることになると思います。

ルールメイキングについて
黒野補佐 行政全体として、シェアリングや関係人口を増やすといった考えを、良い制度にするのが苦手というか、今まであまり成功してこなかった分野だと思っています。シェアリングを広める上で、難しいと感じられることや、もっとこうしたら上手くいくのではないかと感じられることがあればぜひ伺いたいです。

石山アンジュさん 難しい質問ですね~。取組自体は良いけど、制度や法律が追いついていないとか、世の中から理解されていないとか、普及にあたっての壁はいくつもありました。制度を作る上では、そのビジネスでどれくらい儲かるかといった利害調整が必要になりますが、より上位の概念として、そもそもなぜそれが必要なのか、本来誰を助けたいのかということから話をすると、関係者の理解や共感を得られやすいと感じました。

森田室長 社会保障の世界でも、利害調整が本当に大変です。あっちを立てればこっちが立たずになりがちなので、どのように対応するかが難しいです。おっしゃる通り、ミクロで起きていることにもしっかり目を向けることが、マクロを考える上でも大事なんだなと思いました。

石山アンジュさん あと、ルールメイキングスクールという、誰もが政策提言できるスキルを学ぼうという学校をやっています。自分もそうでしたが、この制度が社会に必要だと思った時に、それがどういう過程で作られているとか、関連の政策のことも学ばないで大人になったと思うんですよね。行政とか公共事業に関わってない大多数の方は、そんな感じなんだと思います。それはすごくもったいない話で、何か制度を変えるべきだとか、こういう仕組みが変わっていくべきだっていう一人ひとりの思いがあることは本来いいことだと思っています。みんなでルールメイキングしていくため、正しい知識を持って社会に参画していくという土壌は重要なんじゃないかなと思いますね。
写真4 大臣官房秘書課 課長補佐 黒野 瑠夏

働き方、雇用について
石山アンジュさん 働き方についてもお話させてください。個人が自分の空いている時間に、自分の得意分野やスキルを活かして、シェアリングエコノミーのプラットフォーム上で働く「シェアワーカー」という働き方を自治体と一緒に広めようとしています。
子育て中の人が隙間時間なら働けるとか、障害のある人が家にいながら働けるみたいな、誰もが、自分の暮らしたい地域にいながら、社会参画しやすい働き方がシェアリングエコノミーで格段に広がるんじゃないかと思っています。
 一方で、こうしたフリーランスの働き方は、労働法で産休や失業手当などが保障されない現実があります。働き方が多様化していく中で、もう少し守られるように議論されるべきではないかと思います。

黒野補佐 社会保障含め、今は人生全般にかかる様々な制度が雇用と強く結びついています。多様な働き方がある中で、被用者とそれ以外との段差が大きくなっていると感じます。

森田室長 社会保障においても、働き方に中立的な制度にしていくことは、非常に大きなテーマだと思っています。多様な働き方に応じた制度の見直しは行っていますが、フリーランスの方々をどう守っていくかは、労働法制の中でも一番最前線の課題ではないかと思います。

石山アンジュさん シェアリングエコノミーではシニアワーカーの方もたくさんいます。例えば外食産業の定年退職後に始めた包丁研ぎのオンラインレッスンが盛況で80歳ぐらいまで続けたい方とか。そういう元気で生き生きと、自分の得意を生かして働ける人が増えていくと、年金受給開始年齢の繰り下げも可能かもしれません。お元気な人が社会に参画するための受け皿をもっと作れるといいなと感じます。

岩﨑広報室長 「関係人口」の話で言えば、制度の関係人口というのもありますよね。役人が作った自分の知らない制度によって、お金が取られたり入ってきたりする。そうではなく、私はこういう働き方だからこうしてほしいと、積極的に制度作りに参加する関係人口になることで、制度に対する納得感が生まれるのではないかと思いました。

石山アンジュさん なるほど!制度の関係人口、面白いですね。おっしゃる通りだと思います。
 ちなみに、財務省で働くのは外から見て大変そうに思いますが、お二人はどう感じていますか?

森田室長 そうですね・・・10年くらい前と比べたら相当変わってると思いますね。IT環境も整って、必ずしも職場に来なければ仕事ができないわけではなくなっています。

黒野補佐 数字で見ると残業時間は減っていますし、テレワークやフレックスなどの制度は整っています。ただ、文化はなかなかすぐには変わるものではないので、まだまだ道半ばかと思います。

石山アンジュさん 私が運営している若手の国家公務員向けコミュニティの参加者からよく聞くのは、忙しすぎて民間の人や他省庁の人と交流する機会が少ないということです。財政が厳しい、難しい時代の中で、将来的には、これまで行政が担ってきた機能を民間が担う必要性もあるように思いますし、逆もしかりで、行政側がより民間のことを理解しつつ、民間的な要素を入れていくことも大切だと思います。そういう意味では、官民の交流を通じてお互いのリアリティを知り、その視点で政策やビジネスを考える機会をもっと増やしていけるといいと感じます。

岩﨑広報室長 そうした場には、ぜひ財務省職員も参加させてください!

石山アンジュさん もちろんです!ぜひ!正解を導き出すのが難しい時代だからこそ、セクターを越境することの必要性が今後は増していくだろうと思います。

おわりに
岩﨑広報室長 お話も尽きないところですが、本日はここまでとさせて頂きます。大変有意義な議論ができました。次回また違った切り口でお話を伺いたいです。本日はありがとうございました。
写真5 中央が石山アンジュさん