財務省関税局・税関では、国民生活の安全・安心を脅かす麻薬・覚醒剤等の不正薬物等や内国消費税の納税を回避するための金地金の密輸入を水際で阻止するため取締りを実施している。本特集では、令和6年の全国の税関における関税法違反事件の取締り状況を紹介する。
取材・文 向山勇
不正薬物等
押収量は初めて2年連続で2トンを超え、過去3番目を記録する深刻な状況に
令和6年における全国の税関における不正薬物全体の摘発件数は1020件(前年比24%増)となり、押収量では約2579kg(同6%減)となった。不正薬物全体の押収量は、令和元年に約3,339kgに達したのもの、その後は2トンを下回る状況が続いていた。ところが令和5年に再び2トンを上回り約2,741kgを記録した。そして、令和6年の押収量も約2,579kgと2トンを超えた。これは過去3番目の押収量であり、2年連続で2トンを超えるのは初めて。深刻な状況となっている。この背景には、海上貨物や航空貨物による大口の摘発があったことや、覚醒剤の押収量が引き続き高水準で推移していること、さらには大麻や麻薬の押収量が大幅に増加したことがある。
覚醒剤
摘発件数、押収量ともに減少するも、押収量は過去3番目を記録
不正薬物等のうち、覚醒剤の摘発件数は139件(前年比53%減)、押収量は約1,761kg(同22%減)で共に減少したものの、押収量は過去3番目に高い水準となっている。押収した覚醒剤を薬物乱用者の通常使用量に換算すると約5,870万回分、末端価格では約1,162億円に相当する。
覚醒剤の押収量を密輸形態別に見ると、海上貨物が約1,015kg(同7%増)と前年より増加したが、航空貨物は約394kg(同47%減)、国際郵便物は約41kg(同70%減)と、大幅に減少している。また、航空機旅客は約311kg(同26%減)と減少したものの、引き続き高水準で推移している。
覚醒剤の密輸を仕出地別に見ると、摘発件数の割合は北米が40%(55件)と最多で、アジア34%(47件)、中南米13%(18件)と続いた。また、押収量の仕出地別割合は、中南米が56%(約977kg)と最大となり、北米32%(570kg)、アジア9%(163kg)と続いている。
覚醒剤の摘発事例
事例1
メキシコから到着した海上貨物(コンテナ)に隠匿された覚醒剤約531kgを摘発した。
(令和6年4月・横浜税関)
事例2
メキシコから到着した航空貨物(ブルーベリーのプラスチック容器)に隠匿された覚醒剤約59kgを摘発した。
(令和6年10月・横浜税関等)
事例3
カナダから成田国際空港に到着した旅客の携帯品(スーツケース)に隠匿された覚醒剤約19kgを摘発した。
(令和6年6月・東京税関)
事例4
タイから到着した国際郵便物(石鹸)に隠匿された覚醒剤約4kg を摘発した。
(令和6年4月・門司税関)
大麻
摘発件数は2.9倍、押収量は2倍に
大麻(大麻草・大麻樹脂等)の摘発件数は390件(前年比約2.9倍)、押収量は約344kg(同約2倍)と共に増加し、摘発件数は過去最高を記録した。大麻草の押収量は約211kg(同約2.4倍)、大麻樹脂等(大麻樹脂のほか、大麻リキッド・大麻菓子等の大麻製品を含む。)の押収量は約133kg(同59%増)と共に増加した。
大麻の摘発件数を仕出地別に見ると、タイが47%と最多となり、米国26%、ベトナム10%と続き、アジア及び北米で約9割を占めている。
※大麻草には、令和6年12 月12 日に施行された大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律における、麻薬である大麻を含み、大麻樹脂等には、同法における、麻薬であるTHC類製品も含まれる。THC類製品とは、大麻の有害成分であるTHC類(テトラヒドロカンナビノール類)を含有する液体・菓子類をいう。
大麻の摘発事例
事例5
タイから成田国際空港に到着した旅客の携帯品(スーツケース)に隠匿された大麻草約16kgを摘発した。
(令和6年9月・東京税関)
事例6
タイから関西国際空港に到着した旅客の携帯品(スーツケース等)に隠匿された大麻草約5kgを摘発した。
(令和6年4月・大阪税関)
麻薬 指定薬物 銃砲・拳銃部品
麻薬の摘発件数は過去最高を記録
麻薬(ヘロイン、コカイン、MDMA等)の摘発件数は322件(前年比34%増)、押収量は約464kg(同49%増)、錠剤型は約67千錠(同37%増)と共に増加し、摘発件数は過去最高を記録した。コカインの摘発件数は54件(同24%減)と減少し、押収量は約260kg(同約2.1倍)と増加した。MDMA等の摘発件数は90件(同48%増)と増加し、押収量は約139kg(同19%増)、錠剤型は約67千錠(同37%増)と共に増加した。
指定薬物の摘発件数は163件(同14%増)と増加し、押収量は約10kg(同22%減)と減少した。
銃砲の摘発件数は26件(同26倍)、押収量は27丁(同27倍)と共に増加した。拳銃部品の摘発件数は1件、押収量は1点と共に増減なしとなった。
麻薬の摘発事例
事例7
千葉県沖において洋上取引されたコカイン約178kgを千葉県館山市の漁港において摘発した。
(令和6年5月・横浜税関等)
事例8
オランダから到着した国際郵便物(浄水器)に隠匿されたケタミン約3kg を摘発した。
(令和6年9月・名古屋税関)
事例9
カナダから到着した航空貨物(入浴剤)に隠匿されたMDMA約2kgを摘発した。
(令和6年6月・名古屋税関等)
事例10
台湾から那覇空港に到着した旅客の携帯品(紙製箱)に隠匿されたヘロイン約4.2gを摘発した。
(令和6年3月・沖縄地区税関)
指定薬物の摘発事例
事例11
フランスから到着した国際郵便物に隠匿された指定薬物(亜硝酸イソペンチル)約129gを摘発した。
(令和6年7月・函館税関等)
事例12
タイから福岡空港に到着した旅客の携帯品(ポーチ等)に隠匿された指定薬物(亜硝酸イソブチル)約2.9gを摘発した。
(令和6年4月・門司税関)
金地金
入国制限の緩和などを受けて、摘発件数は約2.3倍、押収量は約4倍の大幅増加に
金地金(金塊に加え、一部加工された金製品を含む。)の密輸入事件では、摘発件数が493件(前年比約2.3倍)、押収量は約1,218kg(同約4倍)と共に増加した。摘発実績を密輸形態別に見ると、摘発件数493件のうち、航空機旅客によるものが429件となり、全体の約9割を占めた。また、摘発押収量約1,218kgのうち、航空貨物によるものが約656kgと全体の約半数を占めた。
摘発実績を仕出地別に見ると、アジアからの摘発件数が492件と大宗を占めた。このうち香港からの摘発が全体の約6割を占め、281件となった。
令和4年10月に新型コロナウイルスに関する入国制限が緩和されて以降、訪日外国人客数が急速に回復していること、最近になって金価格が高騰していること等が要因として考えられる。また、近年では密輸の手法にも変化がみられ、金を塊ではなく粉状にして持ち込むケースも散見される。
金地金の摘発事例
事例13
愛媛県沖において洋上取引された金地金約40kgを愛媛県今治市の浮桟橋において摘発した。
(令和6年11月・門司税関)
事例14
香港から到着した航空貨物(プラスチック製パレット)に隠匿された金地金約160kgを摘発した。
(令和6年1月・大阪税関)
密輸情報提供のお願い
財務省関税局では不正薬物等の押収量が初めて2年連続で2トンを超えたことを受けて、関係機関との連携をさらに深め、厳正な水際取締りを実施していく。また、国民においては、密輸に加担してしまうことにもなりかねないことから、海外旅行先などで安易に荷物を預かることがないように呼び掛けていく。身の回りで「何かおかしな光景」を目にした際には、税関密輸情報窓口に連絡をされたい。
こんなことはありませんか?
街でこんなことに出会った
・あまり親しくない人に、外国から荷物が着くので、名前と住所を貸して欲しいと依頼された。
・暴力団員風の者や普段見なれない人がひんぱんに出入りし、何か物を出し入れしている倉庫などを発見した。
海外旅行に行った時
・海外旅行先で見知らぬ人から中身の良く分からない荷物を預かった。
・飛行機内で寒くもないのにコートなどで厚着をして汗をかいている旅客、機内食を全く食べず落ち着きのない旅客を見かけた。
港でこんなことがあったら
・何か貨物の入っているような漂流物・漂着物を発見した。
・漁具を積まず出港したり、しけの日や夜間に出入りするなど、おかしな行動をとる船を見かけた。
密輸ダイヤル(24時間)
0120-461(シロイ)-961(クロイ)
密輸情報提供サイト(インターネット)
写真 税関ホームページ
写真 密輸情報提供サイトはこちらから
情報提供の際には、「いつ」、「誰が」、「何を」、「どこからどこに」、「どのようにして」密輸するのかなど、具体的な内容をお寄せください。また、インターネットで情報をお寄せ頂く際には、場合によってはこちらからご質問させて頂く事もありますので、連絡先についてもご記入頂ければ幸いです。
※密輸に関する情報で、緊急の場合は、税関密輸ダイヤル0120-461-961までお電話をお願いします。
図表 不正薬物の摘発件数と押収量の推移
図表 覚醒剤の密輸形態別の摘発件数と押収量
図表 覚醒剤・仕出地域別件数
図表 覚醒剤・仕出地域別押収量
図表 大麻の摘発件数と押収量の推移
図表 大麻の仕出地別摘発件数
図表 密輸形態別の摘発状況(R6)
図表 金地金の過去10年間の摘発状況
図表 密輸仕出地別の摘発件数(R6)