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「まだない挑戦」が、未来をつくる。


株式会社On-Co 代表取締役
水谷 岳史

 挑戦者の想いから始まる不動産マッチングサービス『さかさま不動産』。まだ社会に存在しない問いと仕組みに取り組む中で見えた、私たちの“あり方”の話をさせてください。
 さかさま不動産は、物件情報ではなく、「こんなことをやってみたい」「こんな空間があったら…」という借主の“想い”を出発点にします。想いをヒアリングして言語化し、記事として公開。それを見た物件オーナーが「この人に使ってほしい」と思えば、さかさま不動産に連絡。そして、マッチングが生まれる。そんな仕組みです。
 そしてさかさま不動産では不動産仲介は行わず、契約は地域の専門事業者にお任せし、私たちは“想い”と“物件”が出会うきっかけをつくり続けることに注力しています。
 特徴は、開始から5年が経った今も、ユーザーから利用料を一切いただいていないこと。この話をすると、よく聞かれます。「お金をもらえばいいのに」「どうやって会社を続けているの?」と。その背景には、私たちの原体験があります。当時、空き家を使って何かを始めたくても、資金はありませんでした。しかし、自分たちの想いを社会に伝えることで、理解ある大家さんたちと出会い、少ない資金でも数多くの挑戦が実現できた。その経験があるからこそ、「挑戦者や大家さんからお金をもらう仕組みに違和感がある」のです。
 さらに考えました。社会課題の多くは、収益化が難しいから放置されているのではないか? もし課題解決が儲かるなら、すぐに誰かが解決するはずだ。そう考えました。
 この2点から、私たちは不動産の課題を、不動産のビジネスモデルではなく、別の仕組みで解決できないかと考え、5年間この方針を貫いてきました。
 うまくいかなくても「この方法では難しい」という知見が共有されれば、それだけで価値がある。仮にビジネスにならなくても、その考え方が流通し、文化になることが課題解決に近づくのではと、仲間と共に本気で取り組んできました。
 結果として、まちづくり、コミュニティ、企画、建築、パブリックリレーションズ戦略の策定と実装など、業界を問わず多方面からお声がけをいただき、今も事業は続いています。
 最近では、大学と共同開発したAIを導入し、「移住・空き家・創業」に関する相談窓口も立ち上げました。もとは自分たちの業務効率化のためにつくった仕組みが、行政DXにもつながる可能性を見せ始めています。これも“やってみたからこそ”得られた知見でした。
 こうした“まだ社会にない挑戦”は、私たち自身を大きく育て、共創も広がっています。
誰もやったことがないことほど、社会にとって意味がある。そこには唯一の原体験と知見があり、物事に向き合い続ける重みがあります。
 小さな違和感でも、誰にも理解されなくても、「こうだったらいいのに」という声には、未来を変える種が眠っている。
 さかさま不動産の他にも、名古屋の「madanasaso(マダナサソ)」や「丘漁師組合」など、名前も形も定まらないプロジェクトが生まれ続けています。
 その根底にあるのはいつも同じ。
 誰からも理解されないような「まだない挑戦」で、未来をつくる。
 その問いと向き合い続けることが、私たちの存在意義です。お読みいただき、ありがとうございました。