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エルサルバドルに向けた新しいIMFプログラム
国際通貨基金(IMF) エコノミスト 澤田 亮太郎

はじめに
 筆者は、2023年7月より、国際通貨基金(IMF)西半球局で勤務している。2024年12月にIMFとエルサルバドル政府との間で、私がIMFチームの一員として交渉に携わった、長期融資制度(Extended Fund Facility(EFF))の下での、40か月、約14億米ドルの新しいIMF支援プログラムにスタッフレベルで合意。その後、2025年2月にIMF理事会にて同プログラムが承認され、スタッフレポート*1が公表されたことから、本稿では、スタッフレポートに沿ってその主な内容を紹介したい。なお、本稿で示す見解は、筆者の個人的な見解であり、IMFやその理事会、マネジメントの見解を代表するものではない。

エルサルバドルについて
 多くの日本人におけるエルサルバドルについてのイメージは、ビットコインの活用に積極的な国、もしくは大規模な刑務所を建設し、多くのギャングを収容している国だろう。特に巨大刑務所(スコット)は、日本の複数のメディアが内部の潜入報道を行っており、目にされた読者の方もいるかもしれない。また、他の中米諸国同様、コーヒー豆の生産地のイメージもあるかもしれない。
 エルサルバドルの面積は、2.1万平方キロメートルで九州の約半分と、中米の中で最も面積が小さい国である。公用語はスペイン語で、人口約640万人の国民の大半は、スペイン系白人と先住民の混血である。2001年にドル化が進み、国内では主に米ドルが使われている。名目GDPは353億米ドル、一人当たりGDPは5,344米ドルで、一人当たりGDPでアジアの国々と比較すると、ベトナムとモンゴルの中間くらいである。主な貿易相手国は米国や中米で、アメリカ等への移民からの家族送金がGDP比で24%と、中米の他の国々と同様に非常に高い。
 エルサルバドルは、ギャングによる殺人及び暴力行為が後を絶たず、歴史的に殺人率の高い国だった。しかし、その後2019年に就任したブケレ大統領による非常事態宣言の下でのギャング等の大規模な取り締まりによって、治安が劇的に改善。2024年には、10万人当たり1.9人と中南米で最も安全な国にまで殺人件数が減少した。(図表1 中南米及びカリビアン地域における殺人率(人口10万人当たり))2022年3月から続く非常事態宣言により、長期間にわたり国民の権利が保障されないことについて、複数の市民社会グループや国際機関から懸念が示されている一方で、この急速な治安の改善は、国内の経済活動の活発化とコロナウイルス感染症によるパンデミック後の大幅な海外観光客の増加をもたらしている。
 しかし、深刻なマクロ経済の不均衡は依然として続いており、2020年にGDP比8.2%に達した財政赤字は、2022年から2024年にかけて、平均してGDP比約4%と高い水準で推移した。地方への交付金の削減努力はあったものの、この継続的な財政赤字は、様々な要因の中でも、治安維持費や人件費への歳出(保健や教育分野を含む)の増加によるものである。また、公的債務は高く、2024年末にはGDP比87%に達すると推定されている。こうした財政赤字と高債務から生じる財政上の資金調達に対する懸念により、国内金融システムと年金制度に過剰な圧力がかかっている。その結果、マクロ経済上のバッファーが枯渇し、特にドル化経済による硬直性*2を考慮すると、経済財政状況は脆弱な状況だと言える。
 足もとでは、2025年予算で示された財政健全化策と短期的な資金需要を軽減するために実施された債務管理策*3により、2023年末には700bpsを超えていた国債のスプレッドは350bps程度まで、大幅に低下してきている。(図表2 EMBIスプレッド(ベーシスポイント))IMFプログラム下での複数年にわたる政策アジェンダの継続的な実施は、スプレッドの更なる低下と海外直接投資の増加を促すことが想定される。

IMFプログラムにおける政策枠組み
 エルサルバドルに対するIMFプログラムは、債務の持続可能性を再確立し、中央銀行の準備金のバッファーを強化し、ガバナンスと透明性を高めることで潜在的な成長と投資を促進することを目的としている。中期的には、(1)歳出改革を中心とした取り組みにより、3年間でGDP比約3.5%の基礎的財政収支の改善を目指す、成長に配慮した財政健全化策のパッケージを確保すること、(2)銀行の流動性バッファーと中央銀行の準備金を再構築することで、金融安定性と対外セクターの健全性を強化すること、(3)財政の透明性の向上と汚職の防止及びAML/CFTの枠組みの強化等によりガバナンスを改善すること、(4)法改正等を通じて、ビットコインの民間部門で受け入れは任意としつつ、公的部門では、税金の支払いも含めて使用しないことを明記する等、ビットコインによるリスクを軽減すること、を含んだ包括的な政策パッケージの実施を予定している。
 また、融資額は、中央銀行の緩衝能力の低さ、大幅な対外純投資ポジションの赤字、市場アクセスの脆弱性から生じる国際収支上の必要額を根拠として、クォータ比の360%(10億3392万SDRまたは約13.7億米ドル)としている。融資スケジュールは、国際収支上の必要額の推移、他の公的資金源からの外部資金調達の見込み、および主要な改革の実施時期を踏まえたものとなっている。
 IMFからの融資資金は、予算支援および中央銀行の準備金の引き上げに利用される。プログラム総額の約40%(5.7億米ドル)が中央銀行に割り当てられ、中央銀行の準備金の増加に用いられる。残りの約60%(8億米ドル)は、(1)中央銀行における非金融公共部門(NFPS)の預金の積み増し(2028年までに歳出の約1か月分の流動性バッファーを確保するため、6億米ドル増額)、および(2)財政赤字の補填(2億米ドル)に使われる予定。これにより、財政および対外不均衡の是正が進む中で、対外資金調達ニーズの緩和が促進される。また、プログラムによる融資は、ソブリン・バンク・ネクサスのリスク*4を軽減するとともに、民間セクターに対する信用供与の確保と年金基金の資産の多様化を促すことが想定されている。さらに、後述の財政健全化の取り組みとあわせて、国債のスプレッドはさらに縮小し、エルサルバドル政府は2027年までにより低い金利で国際金融市場にアクセスできるようになることが期待されている。
 また、IMFからの融資に加えて、世界銀行(WB)、米州開発銀行(IDB)、その他の地域開発銀行(中米経済統合銀行(CABEI)、ラテンアメリカ・カリブ開発銀行(CAF))からの追加的な資金援助も見込まれており、プログラム期間中には、総額35億米ドルを超える資金調達パッケージが実現する見込みである。
 IMFプログラムのレビューは、最初の2回は四半期毎のレビューを、その後は半年ごとのレビューを予定している。最初の四半期毎のレビューは、プログラムの信頼性と触媒効果を高めるために重要な早期のプログラム実施を確保するために、その後の半年毎のレビューは、構造改革を実施するために必要な期間を前提にしている。

1.財政健全化策
 財政の持続可能性を回復するために、IMFプログラム下では、非金融公共部門の基礎的財政収支を3年間でGDP比約3.5%改善し、2027年末までにGDP比3.7%の基礎的財政黒字を達成することを目指す。2025年予算の下で、GDP比1.7%程度の改善が見込まれており、2025年にはGDP比1.9%の基礎的財政黒字が達成される見通し。
 エルサルバドルは、すでに他の諸国と比較して高い税負担率となっているため、当局の計画は支出の合理化に重点を置いている。(図表3 財政調整の内訳)
 歳出面では、人件費の削減が重点的に実施される。具体的には、早期退職等により欠員となった役職の廃止、給与の増額停止、医療分野における自動昇給*5の適用を低賃金労働者に限定すること、および今後の雇用契約における新たな給付の付与を停止することが含まれる。さらに、物品・サービスへの歳出の実質ベースでの削減や、2023年の自治体数削減に伴い、自治体への交付金がより一層合理化される予定。これらの措置により、2025年にはGDP比1.4%の削減が見込まれる。翌年以降、2027年末までにGDP比2.8%の歳出削減を累積で達成するためには、更なる取り組みが必要であり、世界銀行の技術支援を受けて2025年6月末までに取りまとめられる予定の公務員改革計画では、自治体数削減と公務の効率化が見込まれている。
 一方で、国内におけるインフラおよび社会格差が大きいことを踏まえ、IMFプログラムでは、GDP比2.5%を下限とした公共投資とGDP比1.5%を下限としたソーシャルプログラムへの的を絞った支出が優先的に確保される。また、効果的な支出を担保するため、開発パートナーの支援をもとに、社会支援のための制度枠組みを強化するためのロードマップの策定や、IMFにより2019年に実施された公共投資管理評価(Public Investment Management Assessment(PIMA))の勧告に基づく公共資産の管理の強化も想定されている。
 歳入面では、物品税や手数料、インボイスの電子化の取り組みを含む、税務行政の強化に向けた取り組みが継続され、2025年にはGDP比0.3%の歳入の増加が見込まれる。翌年以降は、健康や環境への外部性を考慮しながら、課税ベースの拡大と税支出の削減を目指す。
 また、年金制度の持続可能性を回復するため、エルサルバドル政府は2022年の年金制度改革に伴う潜在的な財政コストを抑制するとともに、公的・私的を問わず、すべての年金関連の支払いに対する公的保証から生じうるリスクを定量化し、政策決定に役立てるため、年金制度の持続可能性に関する定期的な評価を再開し、独立した保険数理評価を2025年7月末までに公表する予定。さらに、この評価をもとに、IMFの技術支援のもとで、年金制度の持続可能性を確保するため、財政上のコストと偶発債務を抑制する改革案が2026年2月に公表されるとともに、2026年から実施される予定。
 なお、エルサルバドル政府は、ドル化体制の下では財政政策によってショックに対応する必要があることを認識しており、財政の資金不足が生じた場合には、公務員人件費以外の優先順位の低い歳出の更なる削減に合意している。また、資金不足が大きい場合には、手数料やその他の税金の引き上げ、課税ベースの拡大等の改革を加速させることによって歳入を確保することも検討されうる。

2.金融安定化策
 銀行セクターは、自己資本比率は15.4%と法定最低水準の12%を大きく上回り、不良債権比率は総資産の1.9%と低水準、収益性比率もおおむね堅調である。他方で、法定準備は、預金の12%にとどまっており、パンデミック前の20%程度から大きく減少している。その結果、2024年10月時点での超過準備は、預金の1.2%程度にとどまっている。また、銀行による国債保有は、2024年10月時点で総資産の11.6%と、パンデミック前の水準(6.1%)を大幅に上回っており、ソブリン・バンク・ネクサスのリスクが高まっている。
 中央銀行は、IMFプログラムの下で、金融システムの流動性枠組みの改善に向けた取り組みを実施する。まず、中央銀行は、2025年1月末に法定準備を預金の12%に引き上げる規制を発効させた。さらに、流動資産要件の追加的引上げにより、流動資産は、2025年6月末に預金の13%、2025年12月末に預金の14%、2026年6月末に預金の15%と段階的に引き上げられる。なお、流動資産要件の追加的な引き上げ分は、米国債、少なくとも2つの格付機関からA以上の格付を得ているその他の証券、または厳格な引き出し規則に則った、事前承認済みの高格付金融機関に預け入れられた制限のない米ドル預金、といった高品質で流動性の高い資産に限定される。
 さらに、金融セクターの監督および規制の枠組みも見直される予定。具体的には、新たな金融安定法が採択され、IMFによる技術支援の勧告および国際基準に沿って、早期介入、破綻処理、危機管理、預金保険の枠組みが2025年6月末までに改善される予定。また、2025年12月末までには、中央銀行の財務基盤を強化するため、資本再編計画が採択される予定。

3.財政の透明性とガバナンスの向上
 財政責任法が2020年に停止されたことに伴い、財政の透明性についての取り組みが後退していたが、エルサルバドル政府は、議会が承認した2025年度予算と、公的年金の費用と年金債務の利払い費用の予想額を含む3ヵ年財政計画を公表した。その他にも、エルサルバドル年金機構に関する財政データおよび財政フローと債務残高に関する情報、2023年および2024年の予算のすべての修正、公的企業の所有権に関する情報等を公表した。
 さらに、プログラム下では、(1)2025年3月末までに公的企業の包括的な情報の公表、(2)現在、米州開発銀行の技術支援を受けて策定中の、新たな持続可能な財政責任法(Fiscal Sustainability and Responsibility Law(FSRL))の2025年5月の議会承認、(3)2025年3月末までの公共契約の定期的な公表、および公共契約を獲得したすべての法人における実質的支配者情報の公表、(4)2025年10月末までに、今後の予算案に添付する財政実績および予測のより詳細な情報提示、といった財政の透明性の向上策が予定されている。
 ガバナンスについては、汚職防止の枠組みの強化、会計検査院の機能強化、公共調達枠組みの強化が実施される予定。
汚職から生じる脆弱性に対処するため、公務員による資産開示に関するG-20ハイレベル原則に沿った資産申告制度を定めた新たな汚職防止法が議会で承認され、制定された。
 会計検査院については、2025年12月末までに、法改正により、会計検査院の自主性、独立性、権限が強化される予定。この法改正により、会計検査院の法的枠組みが、国際的なベストプラクティス*6に則った形となるとともに、会計検査院と汚職の摘発及び捜査を担当する検察庁との間の情報交換や照会手続きを含む協力が、法的に担保される。
 公共調達については、2025年3月末までに、入札プロセスを経ずに物品やサービスの購入を認める例外の範囲を制限するとともに、すべての公共契約の実質的支配者の氏名と国籍を定期的に公表することで、調達枠組みの強化を予定している。
 AML/CFT の枠組みの強化には、GAFILAT *7による最近の相互評価を受けて実施される予定。具体的には、(1)2025年8月までに、仮想資産および仮想資産サービスプロバイダー(VASPs)等の内容が含まれる新技術に関するFATF勧告15に沿って、AML/CFTシステムを適合させること、(2)2025年12月末までに、FATF勧告28に沿って、弁護士、公証人、会計士、監査人をリスクベースの監視枠組みの下に置くとともに、エルサルバドルで登録されたすべての法人および事業体に対して、FATF基準で定義された実質的支配者情報の提出と更新を義務付けることで、関係当局が当該情報を入手できるようにすることが含まれる。

4.ビットコイン関連リスクの軽減
 エルサルバドル政府はブケレ政権の下、2021年9月にビットコイン法を成立させ、米ドルに加えて、ビットコインを法定通貨として採用、またChivoを設立しビットコインによる支払いとビットコインと米ドル間の交換サービスを開始*8、2022年11月には、政府が毎日1ビットコインを購入する政策を発表するなど、ビットコインに親和的な政策を策定してきた。*9暗号資産は、決済をより安価かつ迅速に行う可能性を秘めている一方で、その広範な普及はマクロ経済の安定性を脅かし、財政リスクを高める恐れがある。
 現時点において、エルサルバドルでは、米ドルも自由に使える状況下でビットコインの流通が限定的であるため、金融及び財政の安定性に対するリスクは抑えられている。第一に、ビットコインの価格変動が激しく、その技術に対する信頼度の低さから、ビットコインの決済手段としての利用は限られている。ビットコインプロジェクトのピーク時に実施された調査によれば、約20%の企業がビットコインを決済手段として受け付け、売上の約4.9パーセントがビットコインで支払われたとのことである。家族送金も全体の約1.2%程度しか暗号資産を通じて行われていない。また、金融セクターはビットコインの取引に関与していない。さらに、財政上のリスクも抑制されている。政府が負担しているChivoの年間運営コストはGDP比で約0.1%と比較的小さく、ビットコインによる納税もわずかである。政府のビットコイン管理機関がコールドウォレット上で保有するビットコインの価値はレポート作成時点で、約6億米ドル(約6,070ビットコイン、GDP比2%程度)*10と評価されている。
 IMFプログラム下では、ビットコインによるリスクをより一層軽減するため下記が実施、もしくは予定されている。
 まず、2025年2月に行われたビットコイン法の改正では、ビットコインの法的性質が明確化され、通貨という概念が法から削除されたほか、取引において政府部門および民間部門がビットコインを受け入れる義務を排除することで法定通貨の本質的な性質が排除され、民間部門によるビットコインの受け入れは任意となり、政府部門による使用は制限された。また、規制により、税の支払いは米ドルのみで支払われることが明確化された。この法改正により、国の金銭上の義務はビットコインで支払われないことが保証され、ビットコインと米ドルの交換メカニズムを提供する政府の義務が撤廃された。
 次に、Chivoに関しては、(1)流動性管理方針および政府との資金授受が記載された財務諸表の概要の公表、(2)顧客資産の分離と保護が実施された。また、2025年7月末までに予定されているChivoの民営化に向けて、Chivoへの公的支援を2025年7月末までに廃止するための政府の事業計画の公表と採択を2025年3月末までに行うこと、および独立監査人によるChivoの財務諸表の監査と監査済み財務諸表の公表を2025年7月末までに行うことが予定されている。さらに、Chivoへの公的支援のための信託基金であるFidebitcoinの清算とその会計監査の公表や、Chivoの顧客の米ドル資産の中央銀行への保護も2025年7月末までに予定されている。
 さらに、政府保有のビットコインについては、ビットコイン管理庁にて管理されているが、まず最初に政府部門が所有または管理するすべてのビットコインのコールドウォレットのアドレスの公表が実施された。さらに、2025年7月末までに、ビットコイン管理庁の会計監査の公表、2025年12月末までに、政府保有のビットコインおよびその他の暗号資産の管理枠組みを作ることで、ビットコイン管理庁(またはIMFスタッフとの合意によりこの目的のために設立された新たな機関)のガバナンス、透明性、説明責任、投資慣行の強化が予定されている。また、プログラム期間を通じて、(1)政府はビットコインを蓄積しないこと、および、(2)政府の債務を意味する、ビットコインに連動またはビットコイン建ての、あらゆる種類の公的債務またはトークン化された金融商品の発行および保証を行わないことを確約している*11。これに伴い、ホットウォレットおよびコールドウォレットのすべてのビットコイン・ウォレットの公開アドレス、および公共部門が所有または管理するすべてのビットコインに関する定期的な報告を通じて、監視と透明性が強化される。また、既存の資産を管理するために、IMFスタッフとの合意がある場合を除いて、ビットコイン事業に参画する公的機関の新設は行われない予定である。
 最後に、暗号資産に対する監督および規制を強化するための取り組みとしては、イノベーションに適した環境を維持しながら、IMFの技術支援の下、暗号資産の発行者やサービス提供者を含む暗号資産の活動や市場の規制と監督を全面的に見直すための法改正が、2025年8月までに議会に提出される予定。具体的には、金融安定性やサイバーセキュリティリスクに加え、FATF勧告15に沿ったマネーロンダリング/テロ資金供与リスクへの対応が重視される。さらに、市場の健全性および消費者保護政策(詐欺防止、相場操縦防止、透明性の確保)の強化、ガバナンス、データ枠組み、支払能力、流動性、資産の分別保管、その他の健全性の確保に向けた法改正も重要である。

おわりに
 パンデミック初期にエルサルバドルに対するIMFのRapid Financial Instrument(RFI)*12による融資が承認された後、エルサルバドル政府は、IMFプログラムへの関心を示していた。しかし、最終的に今回のIMFプログラムがスタッフレベルで合意に至ったのは2024年末であり、ビットコインに関するコンディショナリティを設定した最初のIMFプログラムである。エルサルバドル政府の経済財政計画は、インフラ整備と社会支出の余地の確保と、公的債務の削減とバッファーの再構築という目標をバランスさせるように慎重に設計されている。また、財政健全化策、金融安定化策、財政の透明性及びガバナンス、ビットコインの分野において事前に政策が実施されたことは、エルサルバドル政府の主導力と実行能力を示している。プログラム期間を通じて政策が継続的に実施されることにより、エルサルバドルは、深刻なマクロ経済および構造的な課題に対処することができ、その過程において、国民の生活水準と環境が永続的に改善することを期待したい。


*1) IMF Country Report No. 25/58 “El Salvador Request for Extended Arrangement under the Extended Fund Facility”
*2) 国際金融のトリレンマにおいて、自由な資本移動、為替相場の安定、金融政策の独立性の3つの目標は同時に達成できないと示されてい
  るように、ドル化経済では、金融政策の独立性が達成できないため、マクロ経済政策が財政政策に頼らざるを得ず、硬直的である。
*3) 債務管理策として、2024年10月にレンパ川流域の自然保護のための債務スワップと11月の10億米ドルのユーロ債発行に伴う対外債務と
  国内延滞債務の解消が行われた。債務スワップは、JPモルガン・チェースからの10億米ドルの融資、米国開発金融公社(IFC)からの10
  億米ドルの政治リスク保険、およびラテンアメリカ・カリブ開発銀行(CAF)からの2億米ドルのスタンバイ信用状により資金を活用し
  て、償還前のユーロ債を割引価格で買い戻すことにより、その節約分をレンパ川流域の水保全、保護、回復に充てるもの。
*4) ソブリン・バンク・ネクサス(Sovereign-Bank Nexus)は、政府と銀行の相互連関を指し、一方で発生したショックが負のループを引
  き起こし、ショックの影響を増幅させうるリスクを指す。IMF ワーキングペーパー ”The Sovereign-Bank Nexus in Emerging Markets
  in the Wake of the COVID-19 Pandemic”を参照。
*5) エルサルバドルでは、‘escalafón’と呼ばれる公務員給与の自動昇給制度がの公務員給与体系に盛り込まれている。
*6) 国際的なベストプラクティスは、ここではINTOSAIメキシコ宣言、UNODCアブダビ宣言を指す。
*7) GAFILATはFinancial Action Task Force of Latin Americaを指す。
*8) Chivoは銀行口座を持たない個人や販売業者に金融サービスを提供し、アクセスできるようにすることを目指したもの。
*9) ビットコイン法の前文では、「人口の約70パーセントが従来の金融サービスを利用できない」ことと、「金融包摂の促進は国家の義務であ
  る」ことが強調されており、エルサルバドル政府は、ビットコインは金融包摂を促進し、投資を呼び込み、経済成長を促進することを目指
  していた。
*10) スタッフレポート作成時の2025年2月12日時点。
*11) これらは、Continuous Quantitative Performance Criteriaとして、日々モニタリングされる。
*12) Rapid Financial Instrument(RFI)は、 緊急を要する国際収支上のニーズを抱える加盟国に迅速な金融支援を提供するもの。