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コラム 経済トレンド131

日本の住宅市場について考える

大臣官房総合政策課 調査員 西村 海生/横山 修平
本稿では、新設住宅・中古住宅・空き家の現状、今後を分析・考察する。

新設住宅市場の動向
日本の新設住宅着工戸数は、新型コロナウイルス禍に伴うテレワーク普及による住環境意識の高まりを背景に、新築需要が一時的に増加する局面もあったが、長期的には下落トレンドとなっており、直近80万戸で推移している。足元では、人件費や資材価格の高騰によって持家、分譲住宅等の需要が落ち込み、相対的に貸家等の賃貸需要が高まっている傾向にある。また直近では賃金上昇に伴って、硬直的であった家賃相場も緩やかに上昇傾向にあり、これらの傾向が続くか注視していく必要がある。
将来的には、日本においては人口減少と少子高齢化が見込まれており、住宅需要の減少、供給力不足による長期的な下落トレンドが続き、2040年には58万戸まで落ち込むと予測されている(図表1 新設住宅着工戸数の推移)。
地価上昇の他、世界的なインフレや円安による建設資材高並びに、労働時間の上限規制(2024年問題)に伴う工期長期化による労務コストの増加で建築コストは高騰しており、新設住宅は低位な状況が続く可能性が高い(図表2 公示地価推移、3 建設技能労働者過不足率、4 建設資材物価指数(全国平均))。
(出所)野村総合研究所「2040年の住宅市場と課題」、国土交通省「令和7年地価公示」、「建設労働需給調査結果」、建設物価調査会「建設物価指数月報」

足元の首都圏新築マンション市場動向
足元、首都圏の新築マンション市場の総販売戸数は減る一方、平均販売価格は伸びている。昨今の株高による金融資産増加や金融機関の積極的な住宅ローン貸出(年収倍率の増加や共働き増加に伴うペアローン活用、ローン残存年数の長期化等)の他、都心の超高級住宅や富裕層・海外投資家需要によるタワマン等の増加による影響が見られる(図表5 首都圏新築マンション市場動向、6 首都圏新築マンション購入世帯の年収倍率、7 首都圏新築マンション購入世帯の
共働き率・ペアローン率)。
今後は、金利上昇を背景に借入金額の縮小による販売価格の低下要因が存在するものの、マンション用地の仕入苦戦に加え、建築コストの上昇が続いているため、デベロッパーは供給戸数を絞ることで価格を維持する方向と考えられる。新築マンションの価格はしばらく高止まりの状況が続くとみられる(図表8 首都圏マンション用地仕入進捗状況)。
高止まりする新築マンション価格に対し実需側としては、代替となる中古住宅・賃貸への退避をしない場合、郊外・駅遠・借地権等の条件選択や専有面積・設備仕様を天秤にかけ、坪単価・購入価格を抑えるようになるだろう。建築コスト上昇の反映は避けられないものの、実需層が納得して購入できるマンション開発を期待したい(図表9 首都圏新築マンション専有面積推移)。
(出所)不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向」、内閣府、東京カンテイ「新築マンション年収倍率」、リクルート「2023年首都圏新築マンション契約動向調査」、
三菱UFJ信託銀行「2024年上期 デベロッパー調査」

中古住宅市場の動向
新設住宅価格の高騰が続く中、相対的に安価な中古住宅への需要が高まっている。国土交通省の調査によれば、中古住宅を選択した理由として「予算的にみて中古住宅が手頃だったから」の回答割合が最も高く(図表10中古住宅にした理由(令和5年度、複数回答、上位))、中古住宅において一次取得者(今回の住宅取得が初めて)の割合が高まっている(図表11 住宅取得回数)。
需要の高まりを受け、中古住宅販売量は緩やかな増加傾向にある(図表12 中古住宅販売量の推移)。中古マンション価格も上昇が続いており、成約価格と在庫価格の乖離からは、新築住宅より相対的に安い中古住宅の高価格帯が取得されていると推測される(図表13 首都圏中古マンション価格の推移)。
新築志向の和らぎの中で中古住宅市場の活発化がみられるが、国際的には日本における中古住宅の流通シェアは依然として低い(図表14 既存住宅流通シェアの国際比較(2023年))。各国とは税制や規制など政策面の違いはあるものの、日本の中古住宅の活用余地は大きく、品質を明らかにし消費者の安心につなげることで流通促進を図る建物状況調査(インスペクション)の普及や(図表15 建物状況調査に係る調査業者のあっせんについて(令和6年4月、n=398))、高齢化・人口減少の中で増加傾向にある空き家の活用などが期待される。
(出所)国土交通省「令和5年度住宅市場動向調査報告書」、「既存住宅販売量指数」、「令和5年度 住宅経済関連データ」、東日本不動産流通機構「月刊マーケットウォッチ」、
全国宅地建物取引業協会連合会「既存住宅流通の現状と課題について」

空き家の動向
空き家数は2023年に900万戸と過去最高となり、空き家率(総住宅数に占める空き家の割合)も13.8%と過去最高となった。内訳として、特に「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家(385万戸)」が増加傾向にあり(図表16 空き家数及び空き家率の推移、17 空き家の種類と説明)、空き家率を都道府県別にみると、西日本を中心に地方で高い傾向にある(図表18 空き家率上位の都道府県(2023年))。
空き家の放置は景観・環境悪化、災害・犯罪リスクなど様々な問題を引き起こす要因となり得る。適切な管理・除却・利活用に向けては、利活用意識の向上や、利活用促進を目的とする空き家バンクの認知度の低さが課題の一部にある(図表19 空き家の将来の利用意向(n=3,912)、20 空き家・空き地バンクの認知度)。
空き家問題の背景には、日本人は住宅へのこだわりが強いことと、ライフステージに適した住宅は異なる中で、住宅新設の際に住み替えがあまり考慮されてこなかったことによって、増加している空き家物件のスペックと、需要者のニーズにミスマッチが生じている。「MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト」のように、既存の団地の躯体と敷地を生かして自由度の高い住まいを実現する例などが注目される。
空き家の抑制やスムーズな除却、利活用のためには、相続登記の義務化等による所有者把握や略式代執行等の法的手続きの円滑化を進め、「空家等活用促進区域」の指定など、自治体による地域単位での集中的な対応が重要になると考える。
(出所)総務省「令和5年住宅・土地統計調査住宅数概数集計(速報集計)結果」、国土交通省「我が国の空き家の現状と最新の政策動向について」、「土地問題に関する国民の意識調査」
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。