評者:渡部 晶
池田 謙一/前田 幸男/山脇 岳志 著
日本の分断はどこにあるのか
スマートニュース・メディア価値観全国調査から検証する
勁草書房 2024年10月 定価 本体3,900円+税
スマートニュース株式会社は、スマートフォン用のニュースアプリを運営する企業である。そのシンクタンクであるスマートニュース メディア研究所(山脇岳志所長)が、世論調査・政治・社会心理学などの学際的な研究会を編成し、日本国内の政治的・社会的分断や、人々のメディア接触状況を概観する「スマートニュース・メディア価値観全国調査」(Smart News,Media,Politics,and Public Opinion Survey 以下SMPP調査)の第一回目調査を2023年3月に実施した。この研究会は、「世界価値観調査」や「アジアンバロメータ調査」の日本の責任者である池田謙一・同志社大教授、社会調査データの保存と共有に先導的役割を果たしている前田幸男・東大教授に共同座長が委嘱された。2023年5月に調査結果が出て分析が行われ、8月から9月にかけて日本政治学会や日本社会心理学会でそれぞれの専門分野について発表された。また、一般への広報として、11月24日にメディア向けシンポジウムが開催され、翌日の読売新聞朝刊では2面と4面を使って大きく報じるなど主要紙で紹介された。
なお、本調査の概要は、財務総合政策研究所が部内向けに開催しているランチミーティング(2024年1月19日)の場で山脇所長に演題「日本の分断とメディア~新しい世論調査とメディアリテラシー教育について」の中で説明の機会をいただいた。
その後学会発表などでの意見・コメントなどを反映し、内容の整理・充実を図ったうえで、2024年10月中旬に書籍として刊行されたものが本書になる。
本書の構成は、まえがき(山脇所長)、序章(池田教授・前田教授)、第Ⅰ部日本の政治的分断の現在地と情報世界の動態として、第1章日米で分極化はどう異なるのか–SMPP調査とアメリカ世論調査(山脇所長・小林哲郎・早稲田大学教授)、第2章SMPP調査が捉えたメディア接触の諸相–伝統メディア、そしてインターネットメディアをめぐる読者の選択(藤村厚夫・スマートニュース メディア研究所フェロー)、第3章人々はメディアをどのように利用しているのか–メディア接触の6パターンとメディア利用意識から(大森翔子・法政大学専任講師)、第Ⅱ部5つの分断軸と日本人の政治意識・行動として、第4章政治対立は日本社会の対立を規定しているか–イデオロギーによる分断(遠藤晶久・早稲田大学教授、田部井滉平・早稲田大学政治学研究科研究生)、第5章私生活志向は何をもたらすか–政治との距離による分析(小林教授)、第6章日本人の道徳的な傾向は分断に結び付いているのか–道徳的価値観による分断(笹原和俊・東京工業大学教授、松尾朗子・東大先端研特任助教)、第7章首相への好悪は有権者における対立を深めたのか–リーダーシップのスタイルによる分断(前田教授)、第8章人々の「統治の不安」はどのような行動につながるのか–政治や社会に対する見通しと評価による分断(池田教授)、あとがき(山脇所長)などとなっている。
第Ⅰ部は、昨年の東京都知事選挙や兵庫県知事選挙でも注目されたが、メディア接触の分析が中心である。日本においても民主主義に参加する市民が目・耳にする共通の情報(基盤)が極めて少なくなりつつあるというのは憂慮すべき事態だ。また、第Ⅱ部では、経済争点(財政出動や増税の是非)については、ほぼイデオロギー差が見られず、むしろリベラル層よりも保守層のほうがやや「大きな政府」志向という従来の知見を確認していること、ジェンダー対立が浸透度合いは大きいことが注目される。特に、昨今の税負担をめぐる議論に関連すると考えるが、政治に関与しない傾向が高い人は、公助の重要性認知が低い一方、自助努力を重視する傾向があるという分析は重いものがある。小さい政府志向と親和性の高い自助努力志向は、日本ではイデオロギーと相関しない一方で政治非関与傾向とは相関しているという。
本書は、極めて豊富な内容を含んでおり、刊行後、主要紙で有識者が書評やコラムで様々にとりあげている。それらについては、スマートニュース メディア研究所のホームページでシンクタンクの成果物のパブリシティとして模範となるようなわかりやすい形で整理されている。それも導きとして一読をお勧めする1冊である。
なお、本調査については、継続性が重視され、2年毎の10年計画(スマートニュース社としてコミット)を予定していることを高く評価したい。第二回調査は2025年1-2月に実施された。
池田 謙一/前田 幸男/山脇 岳志 著
日本の分断はどこにあるのか
スマートニュース・メディア価値観全国調査から検証する
勁草書房 2024年10月 定価 本体3,900円+税
スマートニュース株式会社は、スマートフォン用のニュースアプリを運営する企業である。そのシンクタンクであるスマートニュース メディア研究所(山脇岳志所長)が、世論調査・政治・社会心理学などの学際的な研究会を編成し、日本国内の政治的・社会的分断や、人々のメディア接触状況を概観する「スマートニュース・メディア価値観全国調査」(Smart News,Media,Politics,and Public Opinion Survey 以下SMPP調査)の第一回目調査を2023年3月に実施した。この研究会は、「世界価値観調査」や「アジアンバロメータ調査」の日本の責任者である池田謙一・同志社大教授、社会調査データの保存と共有に先導的役割を果たしている前田幸男・東大教授に共同座長が委嘱された。2023年5月に調査結果が出て分析が行われ、8月から9月にかけて日本政治学会や日本社会心理学会でそれぞれの専門分野について発表された。また、一般への広報として、11月24日にメディア向けシンポジウムが開催され、翌日の読売新聞朝刊では2面と4面を使って大きく報じるなど主要紙で紹介された。
なお、本調査の概要は、財務総合政策研究所が部内向けに開催しているランチミーティング(2024年1月19日)の場で山脇所長に演題「日本の分断とメディア~新しい世論調査とメディアリテラシー教育について」の中で説明の機会をいただいた。
その後学会発表などでの意見・コメントなどを反映し、内容の整理・充実を図ったうえで、2024年10月中旬に書籍として刊行されたものが本書になる。
本書の構成は、まえがき(山脇所長)、序章(池田教授・前田教授)、第Ⅰ部日本の政治的分断の現在地と情報世界の動態として、第1章日米で分極化はどう異なるのか–SMPP調査とアメリカ世論調査(山脇所長・小林哲郎・早稲田大学教授)、第2章SMPP調査が捉えたメディア接触の諸相–伝統メディア、そしてインターネットメディアをめぐる読者の選択(藤村厚夫・スマートニュース メディア研究所フェロー)、第3章人々はメディアをどのように利用しているのか–メディア接触の6パターンとメディア利用意識から(大森翔子・法政大学専任講師)、第Ⅱ部5つの分断軸と日本人の政治意識・行動として、第4章政治対立は日本社会の対立を規定しているか–イデオロギーによる分断(遠藤晶久・早稲田大学教授、田部井滉平・早稲田大学政治学研究科研究生)、第5章私生活志向は何をもたらすか–政治との距離による分析(小林教授)、第6章日本人の道徳的な傾向は分断に結び付いているのか–道徳的価値観による分断(笹原和俊・東京工業大学教授、松尾朗子・東大先端研特任助教)、第7章首相への好悪は有権者における対立を深めたのか–リーダーシップのスタイルによる分断(前田教授)、第8章人々の「統治の不安」はどのような行動につながるのか–政治や社会に対する見通しと評価による分断(池田教授)、あとがき(山脇所長)などとなっている。
第Ⅰ部は、昨年の東京都知事選挙や兵庫県知事選挙でも注目されたが、メディア接触の分析が中心である。日本においても民主主義に参加する市民が目・耳にする共通の情報(基盤)が極めて少なくなりつつあるというのは憂慮すべき事態だ。また、第Ⅱ部では、経済争点(財政出動や増税の是非)については、ほぼイデオロギー差が見られず、むしろリベラル層よりも保守層のほうがやや「大きな政府」志向という従来の知見を確認していること、ジェンダー対立が浸透度合いは大きいことが注目される。特に、昨今の税負担をめぐる議論に関連すると考えるが、政治に関与しない傾向が高い人は、公助の重要性認知が低い一方、自助努力を重視する傾向があるという分析は重いものがある。小さい政府志向と親和性の高い自助努力志向は、日本ではイデオロギーと相関しない一方で政治非関与傾向とは相関しているという。
本書は、極めて豊富な内容を含んでおり、刊行後、主要紙で有識者が書評やコラムで様々にとりあげている。それらについては、スマートニュース メディア研究所のホームページでシンクタンクの成果物のパブリシティとして模範となるようなわかりやすい形で整理されている。それも導きとして一読をお勧めする1冊である。
なお、本調査については、継続性が重視され、2年毎の10年計画(スマートニュース社としてコミット)を予定していることを高く評価したい。第二回調査は2025年1-2月に実施された。