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東京・名古屋新幹線通勤日記

名古屋国税不服審判所 所長 江崎 純子

1 はじめに
 令和6年7月、名古屋国税不服審判所勤務を命じられた。東京の自宅から新幹線を使って片道3時間弱、普通、単身赴任の距離である。夫は家事がひととおりできるため、高校生と中学生の子を夫に任せて単身赴任をすることもかなり考えたが、「お母さんだけ名古屋に行ったきり、でいいから~」と、嬉しそうに子供達から言われると、「いや、待て」、再考せざるを得なかった。“多分、私がいないと、全く勉強しない、家のこともしない。好き放題してしまう。帰宅したら、散らかしまくった自宅の掃除で週末がなくなる。”という不安である。
 そうして選んだ方法が、“新幹線通勤ときどき在宅勤務”、であった。もちろん、人それぞれに事情があり、この方法がいいとか、おこがましいことを言うつもりは全くない。ただ、一昔前であれば、「単身赴任」一択しかなかった所に、働き方改革もあって違う選択もできるようになったのは悪いことではないのではないか。少々大変な面もあるけれど、楽しみもある“東京・名古屋新幹線通勤”について、勤務先である国税不服審判所のPRも兼ねて、以下、簡単にご紹介したい。
写真 桜と名古屋城写真提供:(公財)名古屋観光コンベンションビューロー

2 名古屋国税不服審判所の組織と人
(1)国税不服審判所とは
 国税不服審判所は、国税に関する法律に基づく処分(税務署長や国税局長などが行った更正・決定や差押えなど)についての審査請求に対する裁決を行う機関(国税通則法第78条第1項)で、国税庁の特別の機関にあたる。国税不服審判所は、税務行政部内における公正な第三者的機関として、適正かつ迅速な事件処理を通じて、納税者の正当な権利利益の救済を図るとともに、税務行政の適正な運営の確保に資することを使命とし、審査請求人と税務署長や国税局長などとの間に立つ公正な立場で審査請求事件を調査・審理して裁決を行っている。審判所での事案の審理は、基本的に書面審理が主体であるが、請求人の方との面談の際には話をよく聞き、場合によっては職権調査も行い、納得のいく裁決となるよう、組織一丸となって日々努めているところである。
 令和5年度の審査請求の発生件数は全国で3,917件、処理件数は2,873件である。処理件数のうち、納税者の請求が何らかの形で受け入れられた件数(認容件数)は279件(一部認容139件、全部認容140件)で、その割合は9.7%となっている*1。また、審査請求について、標準審理期間を1年と定めており、令和5年度の1年以内の処理件数割合は99.1%である。
(2)国税不服審判所の組織における多様性
 国税不服審判所には、東京(霞が関)にある本部のほか、全国に12か所の支部と7か所の支所があるが、組織の特色の一つとして、審理の公正性を担保するため、多様な人材が集まって仕事を進めているということがある。
 その一つとして、本部の国税不服審判所長並びに大規模支部である東京支部及び大阪支部の首席国税不服審判官には、発足以来、裁判官又は検察官出身者が就任している。また、弁護士や税理士、公認会計士などの職にあった民間の専門家も特定任期付職員として採用され(令和7年2月末現在50名在籍)、全国の審判所で活躍している*2。その他、裁判官、検察官、裁判所書記官からの出向者も配置されているし、国税組織からの出身者も、所得税や法人税といった事務系統の垣根を超えて、事件の審理を担当している。そういった点で、通常の税務署や国税局とは違う多様性があり、多角的な面からの審理が行われている点に特色がある。
写真 名古屋国税不服審判所著者撮影
(3)名古屋国税不服審判所の組織
 名古屋支部は全国12ケ所の支部の一つで、場所は名古屋市中区三の丸の官庁街の1角にある。名古屋支部の職員数は47名(静岡支所含む)で、国税出身者が多いが、国税審判官として、弁護士出身者2名、税理士出身3名、公認会計士出身1名の6名の特定任期付職員の方が勤務しており、また裁判官から1名、裁判所書記官から1名の出向者も配置されている。
 国税不服審判所としての事務運営は全国統一のため、名古屋支部独自の運営といったものはないが、東京支部のように人数が多くはないため、部門を超えての意見交換や他支部とのWeb会議での意見交換など、活発に行われており、全職員が顔の見える関係で、チーム力が高いことが強みとしてあるように思う。
 なお、仕事を進めるにあたって、読み込むべき資料は大量にあるが、職場のパソコンを持ち帰れば、自宅からも通常どおり仕事が可能であるため、私自身、仕事の状況に応じ不定期ではあるが、週1日程度、東京の自宅で在宅勤務をしている。自宅と職場をつないでのWeb会議も可能であり、私だけでなく、名古屋支部として、ワークライフバランスやBCP(事業継続計画)の観点から在宅勤務を推奨しているところである。

3 名古屋までの通勤の実際
(1)東海道新幹線
 東京駅から名古屋駅まで、新幹線「のぞみ」で最短1時間33分。朝6時から次々に新幹線は動いており、本数も多いため、直前にスマホで予約しても全然OKである。私は、朝6時台の新幹線に乗ることが多いが、新横浜を過ぎたあたりから、満席に近い状態になることも多く、いきなりパソコンを開いて、仕事モードに入るビジネス客も多い。東海道新幹線は、日本の大動脈と言われるが、まさに日本経済の大動脈であることを早朝から実感する。
私自身は、守秘義務もあって職場のPCや資料を新幹線の中で開くのは厳禁であるため、自分のiPadで電子ブックを読むか動画配信サービスの視聴が多い(新幹線の中の無料Wi-Fiは弱いので、事前に自宅でダウンロードすることをお勧めする。)が、これが実は結構楽しく、車窓とモーニングコーヒーと韓流ドラマで始まる一日にハズレはない、と思えるほどである。
 帰りは、午後6時前後に名古屋駅発の「のぞみ」に乗ることが多いが、この時間帯となると、一般の旅行客も多く、美味しそうな駅弁とビールで一息つく乗客、爆睡モードに入る人等、様々である。日本は平和だ~などと思いながら、ここでまた一息つくと、あっという間に東京駅到着である。
 早起きが少々辛いが、行きも帰りも快適な新幹線の旅のため、それほど疲れは残らない。しかし、これを毎日連続でやると、さすがに体力的にキツいため、編み出した策が、間に名古屋泊を入れる、である。
写真 のぞみ<早朝の東京駅にて>著者撮影
写真 駅弁(60周年記念弁当)<旅のお供にはこれ>著者撮影
(2)名古屋のビジネスホテルと名古屋モーニング、なごやめし
 名古屋に週1,2泊程度であれば、家庭の方も何とかなるかということで、東京・名古屋間の日帰り往復だけではなく、名古屋市内のビジネスホテルにも週1、2回程度、泊まるようにしている。名古屋は全国有数のビジネスの街だけあってホテル数も多く、ホテル代は比較的リーズナブルなものが多い(宿泊サイトでうまくみつければ、職場近くのビジネスホテルで一泊朝食付き6千円代に。)*3。
 また、名古屋といえば、“名古屋モーニング”。たっぷりの濃いめのコーヒーに厚切りトーストと卵とサラダで800円ほど*4である。朝からゆっくりジャズを流す喫茶店で、優雅に“名古屋モーニング”。こんな楽しみも、名古屋勤務ならでは、である。そして、晩御飯は、旨い・安い・早いの三拍子が揃った“なごやめし”。健康管理上、毎回食しているわけではないが、これも名古屋泊の楽しみの一つである。
写真 イチオシ!なごやめし写真提供:(公財)名古屋観光コンベンションビューロー
(3)その他
 東京・名古屋新幹線通勤での金銭面の負担についてはよく聞かれるところであり、付言しておきたい。現在、東京・名古屋間の新幹線運賃は片道9,800円(EX早特21ワイドの場合)であり、定期券を買うとすれば月27万円超となる*5。私自身は、都度払いのEX早特を使うことが多く、ホテル代を含めても、月20万円から24万円程の出費であるが、単身赴任ではないので単身赴任手当は出ず、通勤手当のみ頂いている状況である。この通勤手当であるが、国家公務員の通勤手当*6は、この3月まで上限が月75,000円(新幹線通勤手当を含む)で、上限額を超える額は自己負担となるため、正直、なかなか家計に厳しい状況であった。しかし、令和7年4月から上限が月15万円となり、かなりほっとしているところである。今後は、遠距離への異動であっても、単身赴任一択でなく、在宅勤務も採り入れながら新幹線通勤をする、という働き方も十分考えられる選択肢になるのではないだろうか(東京・名古屋間はイレギュラーなケースとは思うが。)。

4 さいごに
 ワークライフバランスを模索し続けた20年間近くであったが、肩肘はらず、しかし仕事も家庭も充実してやらせてもらった20年近くであったように思う。子供達が小学生のときは、夫を東京に残して子連れでの地方勤務だったのが、中学・高校生になり子連れ赴任は厳しい、けれど単身赴任は難しい状況になり、その打開策としての今回の新幹線通勤。在宅勤務など多様な働き方が広がっていることで可能になったと思うが、国税不服審判所という組織が、このような働き方を後押しできる、多様性を尊重する土壌があることも大きいように思う。
 一緒に働く皆さんと家族に感謝しつつ、引き続き東京・名古屋新幹線通勤を楽しんでいきたい。
(本稿に関係ないが)東海道新幹線、60周年おめでとう!これからもよろしくです。
写真 MIRAIタワー<夜景がキレイ。職場近くのおススメスポット。>著者撮影
写真 富士山〈東海道新幹線新富士駅付近の車窓から〉写真提供:名古屋国税不服審判所 職員

*1) 国税不服審判所ホームページ「令和5年度における審査請求の状況」
*2) 渡辺隆「国税不服審判所の50年~半世紀 変わらぬ使命 これからも~」ファイナンス令和2年5月号14頁
*3) 東京・仙台間の新幹線通勤をしたツワモノの後輩女性は、自身の経験から駅前のカプセルホテル泊を強く勧めたが、私が泊まるのは、あくまでビジネスホテルである。
*4) 名古屋駅近くには、もっと安い店もあるようだが、職場近くのおシャレな喫茶店での値段。
*5) 東海道新幹線の定期券「FREX(通勤用)」は、運賃計算キロ300キロの範囲でしか発行されないため、東京・名古屋間で定期券を購入する場合、2つの区間で定期券を購入しなければならない。1月定期の最安は「東京―小田原」、「小田原-名古屋」の合計273,910円である。なお、この定期券は、新幹線の普通車自由席の使用が基本で、指定席は別途料金が必要となるため、通勤日数によるが、EX早特21(指定席が使用可能)での都度払いの方が安く、便利なように思う。
*6) 一般職の職員の給与に関する法律第12条