公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 副事務総長・最高財務責任者 小野 平八郎
本年4月13日から10月13日まで、半年間にわたり大阪の夢洲(ゆめしま)で2025年日本国際博覧会(以下、「大阪・関西万博」という)が開催される。
登録博と言われる最も本格的な万国博覧会であり、日本で開催されるのは2005年の愛・地球博(愛知県)以来20年ぶり3回目となる。
今なぜ日本で万博か
私は2023年9月から日本国際博覧会協会に派遣され、万博開催のお手伝いをしている。財務省で30余年にわたり主として財政政策に携わってきたが、万博とは全く無縁で関心もなかったというのが正直なところ。半世紀前の大阪万博に親が行ったという話を聞いたことはあるが、愛知万博の時は万博が開催されているという記憶すら殆どない。大阪・関西地区に住むのも初めてだ。
そもそも高度成長期の日本ならともかく、「今、なぜ日本で万博を開催する必要があるのか」ということにすら納得しないまま、仕事を始めたというのが実情だ。
万博の歴史を紐解くと、もともとヨーロッパで19世紀後半に始まった(1851年のロンドン万博が最初の国際博覧会と言われる)。産業革命を経て市民社会が確立し、人類の活動がグローバルになった時代で、多くの新しい科学技術や世界各地の文化を一堂に集めて多くの人々に周知するという趣旨であった。日本からも1867年のパリ万博に徳川幕府などが出展し、渋沢栄一が随行したのは有名な話だ。日本の様々な美術品や鎧兜などが出品され、ちょんまげ姿の日本人と相まって人気を集めたという。当初の開催国は欧米のいわゆる「列強」が中心で、万博の開催が国力の誇示という面もあったと考えられる。明治初頭1877年の日本で、日本勧業博覧会が開催されたが、これは1873年のウィーン万博に明治政府として初めて参加し、欧米との技術や生産能力の差を再認識した大久保利通が、日本の技術や文化の水準を向上させる殖産興業を目的として実施したと言われる。
それから約100年後の1970年、高度成長の真っただ中で、アジア初の万博が大阪で開催され、当時の人口の半数を超える6千万人超の観客を集める歴史的イベントとなった。当時の万博の目玉は、米ソの冷戦構造の中で月の石に象徴されるアメリカ館やソ連館の宇宙開発関連の展示であった。その後、先進国全般が低成長化する中、万博の主眼も地球温暖化などグローバルな社会課題にどう対応するかといったテーマに移ってきた。開催地も欧米が中心だったが、2010年上海、2021年ドバイ、大阪関西の次の2030年はリヤドと、高成長国か資金を豊富に有する国が多くなっている。
こうした中、なぜ今日本で万博を開催するのか。財政事情も厳しく、多くの社会課題を有する日本が今更万博を主催する意味がどれほどあるのか、万博自体、いわゆる「オワコン」ではないのか、着任前は正直そう思っていたが、準備を進め、関係者と様々な議論をするうちに、以下のように考えるようになった。
我が国は、(1)世界最速の少子高齢化の進展、(2)世界最悪水準の財政状況、(3)元来省エネ先進国であったが原発事故の影響もあり温暖化ガス削減に高いハードルがある、(4)自動車産業を始めとするモノづくりで成長を確保してきたが、EV市場には乗り遅れ、電機、鉄鋼といったかつての主要産業の世界的地位は凋落し、ITなど先進産業には乗り遅れている中で、成長のドライブとなる産業を見つけ切れていないこと、などなど、まさに課題先進国である。実質賃金は長期にわたって伸び悩み、貿易収支の黒字が縮小する中、資本収支で経常収支の黒字を維持(かつて稼いだ遺産で食いつないでいる)し、それがゆえに可能となる大量の国債発行による財政の下支えで国民の生活の質を維持しているのが実情だ。様々な中長期的な課題に解を見つけていかないと、生活の質の低下は免れない。
大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」である。「いのち」をキーワードとして、環境の問題、高齢者や障がい者を含む多様な方々が共生できる社会、平和、そして、そうした社会を実現するツールとしての未来社会における様々な技術を紹介、考えることが目的とされている。160近くの世界の国々がリアルに一つの場に集う機会となり、多様な価値観が交流しあい、いのちの在り方を見直すことで未来への希望を世界に示す。単なる展示に限らず、テーマウィークといった枠組みで様々な社会課題について海外の識者も含め議論する機会もある。上記のような日本が抱える諸課題についても、様々な側面から解決の糸口を探るきっかけになろう。
例えば、万博で使用するEVバスの多くは中国製であり、空飛ぶクルマについては、日本以外の企業が開発した機体も飛行し、日本勢は主役ではない。他方で、カーボンリサイクルの実証や、IPS細胞を使った臓器の展示など、日本の強みを発揮できる分野も多くある。日本の参加企業や海外の参加国は、こぞってそれぞれの最先端技術を展示・紹介するはずである。海外からは、万博の場に多くのビジネスミッションも訪れる。
この機会に日本が世界から遅れている分野については冷静な目で見つめ、しっかりと課題・危機感を共有することが大切だ。そして日本の強みを発揮できる分野については、万博を通じて交流することが可能な海外の企業とも連携しつつ、新たな成長エンジンとする道を探っていくきっかけとすることができれば、必ずや将来の日本経済の成長に貢献する万博となる。ある論文によれば、現在の円ドルの実質実効為替レートを指数比較すると、ちょうど前回の大阪万博が行われた1970年頃と同水準になるという。違いは当時の日本が高成長で上り坂、現在は人口減少に伴い低成長化しているという点だ。こうした中、世界の中での日本の立ち位置を自覚し、今後の戦略を考える契機として、万博という場を有効に活用することが大切である。
また、中東やウクライナなど世界各地で紛争が起こる中で、紛争当事国も含め、万博に参加し、リアルに交流を持てる機会は極めて貴重である。今回の万博には、イスラエル、パレスチナ、ウクライナといった紛争当事国が参加している。こうした場を提供できるのも、日本の外交面での強みの一つだと考える。世界の諸課題を議論するテーマウィークでも、平和について議論する場が設けられる。
何でもオンラインで済む昨今、このように将来の日本の経済的地位の維持向上、外交的存在感の発揮が、リアルな交流を通じて図ることができるという点を考えれば、今、日本で万博を開催する意義は大きい。万博は決して「オワコン」ではない。
何より、上に掲げたような様々な困難な課題を抱えながらも、日本ではすべての国民が治安の良さ、一定の生活水準を享受できており、長期にわたる国際イベントを開催できる底力があるということを世界に示す良い機会にもなると考える。
なぜ大阪・関西か
オリンピックは東京で2回実施され、万博は大阪で2回目ということになる。やはり上方は昔から文化芸能の中心地、坂東は武者たちの活躍する場でスポーツということなのだろうか。
大阪関西地区は古くから電機、製薬など製造業、特に中小企業の多い土地柄であることを考えれば、上記のように万博で様々な未来の技術が展示され、多くの国のビジネスミッションの来日が予想される中、こうした中小企業にとっては大きなビジネスチャンスとなる。
また、大阪は日本第二の都市とはいいながら、その経済的地位は相対的に低下が続いている。東京を中心とする極に加え、やはり大阪を中心とした経済構造が対極として存在することは、災害の多い我が国のことを考えても是非とも必要である。ものづくりを中心とする輸出立国から、インバウンドも含めた多様な稼ぎ方をしていかねばならない我が国の将来を考えても、京都奈良というインバウンド向け最大の観光地を持つ関西地区の潜在力は大きい。大阪・関西万博を契機に関西地区全体が活性化すれば、日本経済全体も活性化するはずである。予定されるイベント等の内容にも人形浄瑠璃、吉本興業パビリオン、宝塚など多くの関西発祥の文化が含まれており、大阪関西で万博を開催する意義は大きいと考える。
なお、「食」も大阪・関西万博の目玉の一つである。私も大阪に住むのは初めてだが、上方の「だし文化」の影響か、飲食店の味は良く、客の評価も厳しいのでコストパフォーマンスもよい。大阪の食を提供する大阪外食パビリオンのほか、多くの外食施設が出展し、各参加国もそれぞれの国の「食」を提供すると思われるので、「食」をテーマにした展示・体験も万博の楽しみ方の一つであろう。
地方創生への貢献
大切なのは関西地区だけではない。日本経済の再生・活性化のためには地方創生・地方の活性化が欠かせない。大阪・関西万博では全国各地から数多くの自治体等が、地方の祭りなどを集めて毎日のように会場内で披露する。40以上の府県・市町村などが文化芸術の発信、物産販売などを実施予定だ。インバウンドを含む多くの来場者がこうしたイベントを契機にその地方へ観光に行ってみようということもあるだろう。万博のチケット購入サイトでは、チケット購入者に地方への観光案内サイトへ誘導する仕組みも設けている。また、参加国と地方の万博国際交流プログラムなどを通じて、地方の方々や企業が様々な国と文化的交流をしたり、ビジネスチャンスを広げることも可能である。
展示内容、イベントの紹介
次に、大阪・関西万博の展示内容等について概説しよう。
まず万博会場の全体像だが、会場の中心は「大屋根リング」と呼ばれる高さ20メートル(内側は12メートル)、周囲2キロに及ぶ世界最大の木造構造物だ。巨大な梁と柱を、釘を使わない日本の伝統工法を活用して建設した。円は「世界は一つ」ということを象徴している。大屋根リング上には階段、エスカレーター、エレベーターで昇ることができ、大阪市内から神戸・六甲、瀬戸内海側の明石海峡大橋から淡路島まで遠望することができる。内側を見れば色とりどりの海外のパビリオンが所狭しと立ち並ぶ姿が見られる。なお、リングに使用される木材の約15%には福島県浪江町の製材所で製材された福島県産木材が使用されており、復興の象徴ともなっている。
大屋根リングの内側の中心部には森を造成し、にぎやかな会場の中で「静けさの森」と呼ぶ空間を創出する。静けさの森の木々の多くは、1970年の大阪万博の会場跡に植えられた木々を移植しており、55年の成長を経て、新たな万博会場へ訪れる来場者に憩いの場を提供してくれる。
また、大屋根リングの南側には水を張り、史上初の「海の万博」を象徴する場所「ウォータープラザ」とし、連日夜になると音と光を駆使した水上ショーが行わる。
森と水辺の間には、日本の8名のプロデューサーがそれぞれ「いのち」をテーマに「シグネチャーパビリオン」を運営し、アンドロイドやアニメ、食といった様々な体験をすることができる。
これらの中心部を囲むように海外160近くの国々の「海外パビリオン」が大屋根リング内にひしめき合う。51棟は各国独自のパビリオン、その他の国々は複数の共同館の中に展示スペースを持つ。独自パビリオンは建築自体が個性的で見るだけで楽しむことができるほか、各国とも目玉の展示を用意しており、人気のパビリオンは行列必至である。なお、会期中は参加国のナショナルデーを決めており、その日はパビリオンだけでなく、会場内全体でその国にちなんだ様々なイベントが行われる。184日間の会期で160カ国近くが参加しているので、ほぼ毎日が、いずれかの国のナショナルデーということになり、その国の文化を思う存分味わうことができる。
大屋根リングの外側には「日本館」、「大阪や関西広域連合のパビリオン」、「民間企業のパビリオン」などが立ち並ぶ。こちらも様々な個性的な建築デザインを楽しむことができるとともに、展示内容もガンダムや鉄腕アトムといった鉄板コンテンツを含め、バラエティに富む。
大屋根リングの北西部は「フューチャーライフゾーン」と呼ばれ、様々な未来技術の展示が行われる。「未来の都市」という巨大パビリオンでは様々な分野の未来技術の展示が行われるし、「空飛ぶクルマ」の発着場もこの地域にある。場内にはEVバスを常時走らせ、その一部ではレベル4の自動運転(運転手不要)を実施するほか、走行中自動給電の実演も行う。夢洲北側の船着場を利用して船で会場に来ることも可能だが、その中で水素燃料電池船の運行も予定している。
イベント関連では、会場内には2千人収容の大催事場「EXPOホール」や1万6千人収容の「EXPOアリーナ」をはじめ多くのイベントスペースを設けており、連日、有名アーティストによるコンサート、歌舞伎、宝塚、大相撲など多くのイベントが実施される。日本全国の様々な祭りも数多く実演される予定だ。
単なる見せ物だけではなく、会期中、テーマウィークという枠組みで、「地球の未来と生物多様性」「健康とウェルビーイング」「平和と人権」「未来への文化共創」といった様々な社会課題について、内外の識者を集めた対話・交流の場も開催される。「サステナドーム」という省エネ型のコンクリートドームは、子供たちが環境問題などについて学ぶことができる場となる。
おわりに
「なんとなく大阪で万博を開催することは知っているけれど、さして関心がない」というのが、派遣前の私を含め、多くの方々の感触だと思う。ただ、上記のような万博の内容を知っていただき、160近くの国々の文化をリアルに目にできる機会は他にはないということを知れば、多くの方が「行ってみたい」と思うようになると思うし、これを契機に関西、ひいては日本の経済活性化につながることを期待したい。いろいろ御託を並べてきたが、ともかく来ていただければ単純に楽しい体験ができるので、多くの方にご来場いただきたいと思う。
なお、財務省関係(造幣局を含む)で博覧会協会に派遣され勤務している「MOF人」は計13名、様々な部署で能力を発揮していただいている。博覧会協会には民間企業、各省庁、大阪を中心とする自治体から多くの出向者が働いている。これらの方々や、万博に参加する国々や民間企業などの参加者と多くの交流ができ、これまでにない経験をすること ができる。ここでの経験を財務省のそれぞれの部署で活かしていただければ、財務省の活性化にも寄与すると思いたい。
会場でみなさまのお越しをお待ちしております。
※大阪・関西万博 公式サイト
https://www.expo2025.or.jp/
写真 独創的な建築物が立ち並ぶ開幕1か月前の万博会場の様子
本年4月13日から10月13日まで、半年間にわたり大阪の夢洲(ゆめしま)で2025年日本国際博覧会(以下、「大阪・関西万博」という)が開催される。
登録博と言われる最も本格的な万国博覧会であり、日本で開催されるのは2005年の愛・地球博(愛知県)以来20年ぶり3回目となる。
今なぜ日本で万博か
私は2023年9月から日本国際博覧会協会に派遣され、万博開催のお手伝いをしている。財務省で30余年にわたり主として財政政策に携わってきたが、万博とは全く無縁で関心もなかったというのが正直なところ。半世紀前の大阪万博に親が行ったという話を聞いたことはあるが、愛知万博の時は万博が開催されているという記憶すら殆どない。大阪・関西地区に住むのも初めてだ。
そもそも高度成長期の日本ならともかく、「今、なぜ日本で万博を開催する必要があるのか」ということにすら納得しないまま、仕事を始めたというのが実情だ。
万博の歴史を紐解くと、もともとヨーロッパで19世紀後半に始まった(1851年のロンドン万博が最初の国際博覧会と言われる)。産業革命を経て市民社会が確立し、人類の活動がグローバルになった時代で、多くの新しい科学技術や世界各地の文化を一堂に集めて多くの人々に周知するという趣旨であった。日本からも1867年のパリ万博に徳川幕府などが出展し、渋沢栄一が随行したのは有名な話だ。日本の様々な美術品や鎧兜などが出品され、ちょんまげ姿の日本人と相まって人気を集めたという。当初の開催国は欧米のいわゆる「列強」が中心で、万博の開催が国力の誇示という面もあったと考えられる。明治初頭1877年の日本で、日本勧業博覧会が開催されたが、これは1873年のウィーン万博に明治政府として初めて参加し、欧米との技術や生産能力の差を再認識した大久保利通が、日本の技術や文化の水準を向上させる殖産興業を目的として実施したと言われる。
それから約100年後の1970年、高度成長の真っただ中で、アジア初の万博が大阪で開催され、当時の人口の半数を超える6千万人超の観客を集める歴史的イベントとなった。当時の万博の目玉は、米ソの冷戦構造の中で月の石に象徴されるアメリカ館やソ連館の宇宙開発関連の展示であった。その後、先進国全般が低成長化する中、万博の主眼も地球温暖化などグローバルな社会課題にどう対応するかといったテーマに移ってきた。開催地も欧米が中心だったが、2010年上海、2021年ドバイ、大阪関西の次の2030年はリヤドと、高成長国か資金を豊富に有する国が多くなっている。
こうした中、なぜ今日本で万博を開催するのか。財政事情も厳しく、多くの社会課題を有する日本が今更万博を主催する意味がどれほどあるのか、万博自体、いわゆる「オワコン」ではないのか、着任前は正直そう思っていたが、準備を進め、関係者と様々な議論をするうちに、以下のように考えるようになった。
我が国は、(1)世界最速の少子高齢化の進展、(2)世界最悪水準の財政状況、(3)元来省エネ先進国であったが原発事故の影響もあり温暖化ガス削減に高いハードルがある、(4)自動車産業を始めとするモノづくりで成長を確保してきたが、EV市場には乗り遅れ、電機、鉄鋼といったかつての主要産業の世界的地位は凋落し、ITなど先進産業には乗り遅れている中で、成長のドライブとなる産業を見つけ切れていないこと、などなど、まさに課題先進国である。実質賃金は長期にわたって伸び悩み、貿易収支の黒字が縮小する中、資本収支で経常収支の黒字を維持(かつて稼いだ遺産で食いつないでいる)し、それがゆえに可能となる大量の国債発行による財政の下支えで国民の生活の質を維持しているのが実情だ。様々な中長期的な課題に解を見つけていかないと、生活の質の低下は免れない。
大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」である。「いのち」をキーワードとして、環境の問題、高齢者や障がい者を含む多様な方々が共生できる社会、平和、そして、そうした社会を実現するツールとしての未来社会における様々な技術を紹介、考えることが目的とされている。160近くの世界の国々がリアルに一つの場に集う機会となり、多様な価値観が交流しあい、いのちの在り方を見直すことで未来への希望を世界に示す。単なる展示に限らず、テーマウィークといった枠組みで様々な社会課題について海外の識者も含め議論する機会もある。上記のような日本が抱える諸課題についても、様々な側面から解決の糸口を探るきっかけになろう。
例えば、万博で使用するEVバスの多くは中国製であり、空飛ぶクルマについては、日本以外の企業が開発した機体も飛行し、日本勢は主役ではない。他方で、カーボンリサイクルの実証や、IPS細胞を使った臓器の展示など、日本の強みを発揮できる分野も多くある。日本の参加企業や海外の参加国は、こぞってそれぞれの最先端技術を展示・紹介するはずである。海外からは、万博の場に多くのビジネスミッションも訪れる。
この機会に日本が世界から遅れている分野については冷静な目で見つめ、しっかりと課題・危機感を共有することが大切だ。そして日本の強みを発揮できる分野については、万博を通じて交流することが可能な海外の企業とも連携しつつ、新たな成長エンジンとする道を探っていくきっかけとすることができれば、必ずや将来の日本経済の成長に貢献する万博となる。ある論文によれば、現在の円ドルの実質実効為替レートを指数比較すると、ちょうど前回の大阪万博が行われた1970年頃と同水準になるという。違いは当時の日本が高成長で上り坂、現在は人口減少に伴い低成長化しているという点だ。こうした中、世界の中での日本の立ち位置を自覚し、今後の戦略を考える契機として、万博という場を有効に活用することが大切である。
また、中東やウクライナなど世界各地で紛争が起こる中で、紛争当事国も含め、万博に参加し、リアルに交流を持てる機会は極めて貴重である。今回の万博には、イスラエル、パレスチナ、ウクライナといった紛争当事国が参加している。こうした場を提供できるのも、日本の外交面での強みの一つだと考える。世界の諸課題を議論するテーマウィークでも、平和について議論する場が設けられる。
何でもオンラインで済む昨今、このように将来の日本の経済的地位の維持向上、外交的存在感の発揮が、リアルな交流を通じて図ることができるという点を考えれば、今、日本で万博を開催する意義は大きい。万博は決して「オワコン」ではない。
何より、上に掲げたような様々な困難な課題を抱えながらも、日本ではすべての国民が治安の良さ、一定の生活水準を享受できており、長期にわたる国際イベントを開催できる底力があるということを世界に示す良い機会にもなると考える。
なぜ大阪・関西か
オリンピックは東京で2回実施され、万博は大阪で2回目ということになる。やはり上方は昔から文化芸能の中心地、坂東は武者たちの活躍する場でスポーツということなのだろうか。
大阪関西地区は古くから電機、製薬など製造業、特に中小企業の多い土地柄であることを考えれば、上記のように万博で様々な未来の技術が展示され、多くの国のビジネスミッションの来日が予想される中、こうした中小企業にとっては大きなビジネスチャンスとなる。
また、大阪は日本第二の都市とはいいながら、その経済的地位は相対的に低下が続いている。東京を中心とする極に加え、やはり大阪を中心とした経済構造が対極として存在することは、災害の多い我が国のことを考えても是非とも必要である。ものづくりを中心とする輸出立国から、インバウンドも含めた多様な稼ぎ方をしていかねばならない我が国の将来を考えても、京都奈良というインバウンド向け最大の観光地を持つ関西地区の潜在力は大きい。大阪・関西万博を契機に関西地区全体が活性化すれば、日本経済全体も活性化するはずである。予定されるイベント等の内容にも人形浄瑠璃、吉本興業パビリオン、宝塚など多くの関西発祥の文化が含まれており、大阪関西で万博を開催する意義は大きいと考える。
なお、「食」も大阪・関西万博の目玉の一つである。私も大阪に住むのは初めてだが、上方の「だし文化」の影響か、飲食店の味は良く、客の評価も厳しいのでコストパフォーマンスもよい。大阪の食を提供する大阪外食パビリオンのほか、多くの外食施設が出展し、各参加国もそれぞれの国の「食」を提供すると思われるので、「食」をテーマにした展示・体験も万博の楽しみ方の一つであろう。
地方創生への貢献
大切なのは関西地区だけではない。日本経済の再生・活性化のためには地方創生・地方の活性化が欠かせない。大阪・関西万博では全国各地から数多くの自治体等が、地方の祭りなどを集めて毎日のように会場内で披露する。40以上の府県・市町村などが文化芸術の発信、物産販売などを実施予定だ。インバウンドを含む多くの来場者がこうしたイベントを契機にその地方へ観光に行ってみようということもあるだろう。万博のチケット購入サイトでは、チケット購入者に地方への観光案内サイトへ誘導する仕組みも設けている。また、参加国と地方の万博国際交流プログラムなどを通じて、地方の方々や企業が様々な国と文化的交流をしたり、ビジネスチャンスを広げることも可能である。
展示内容、イベントの紹介
次に、大阪・関西万博の展示内容等について概説しよう。
まず万博会場の全体像だが、会場の中心は「大屋根リング」と呼ばれる高さ20メートル(内側は12メートル)、周囲2キロに及ぶ世界最大の木造構造物だ。巨大な梁と柱を、釘を使わない日本の伝統工法を活用して建設した。円は「世界は一つ」ということを象徴している。大屋根リング上には階段、エスカレーター、エレベーターで昇ることができ、大阪市内から神戸・六甲、瀬戸内海側の明石海峡大橋から淡路島まで遠望することができる。内側を見れば色とりどりの海外のパビリオンが所狭しと立ち並ぶ姿が見られる。なお、リングに使用される木材の約15%には福島県浪江町の製材所で製材された福島県産木材が使用されており、復興の象徴ともなっている。
大屋根リングの内側の中心部には森を造成し、にぎやかな会場の中で「静けさの森」と呼ぶ空間を創出する。静けさの森の木々の多くは、1970年の大阪万博の会場跡に植えられた木々を移植しており、55年の成長を経て、新たな万博会場へ訪れる来場者に憩いの場を提供してくれる。
また、大屋根リングの南側には水を張り、史上初の「海の万博」を象徴する場所「ウォータープラザ」とし、連日夜になると音と光を駆使した水上ショーが行わる。
森と水辺の間には、日本の8名のプロデューサーがそれぞれ「いのち」をテーマに「シグネチャーパビリオン」を運営し、アンドロイドやアニメ、食といった様々な体験をすることができる。
これらの中心部を囲むように海外160近くの国々の「海外パビリオン」が大屋根リング内にひしめき合う。51棟は各国独自のパビリオン、その他の国々は複数の共同館の中に展示スペースを持つ。独自パビリオンは建築自体が個性的で見るだけで楽しむことができるほか、各国とも目玉の展示を用意しており、人気のパビリオンは行列必至である。なお、会期中は参加国のナショナルデーを決めており、その日はパビリオンだけでなく、会場内全体でその国にちなんだ様々なイベントが行われる。184日間の会期で160カ国近くが参加しているので、ほぼ毎日が、いずれかの国のナショナルデーということになり、その国の文化を思う存分味わうことができる。
大屋根リングの外側には「日本館」、「大阪や関西広域連合のパビリオン」、「民間企業のパビリオン」などが立ち並ぶ。こちらも様々な個性的な建築デザインを楽しむことができるとともに、展示内容もガンダムや鉄腕アトムといった鉄板コンテンツを含め、バラエティに富む。
大屋根リングの北西部は「フューチャーライフゾーン」と呼ばれ、様々な未来技術の展示が行われる。「未来の都市」という巨大パビリオンでは様々な分野の未来技術の展示が行われるし、「空飛ぶクルマ」の発着場もこの地域にある。場内にはEVバスを常時走らせ、その一部ではレベル4の自動運転(運転手不要)を実施するほか、走行中自動給電の実演も行う。夢洲北側の船着場を利用して船で会場に来ることも可能だが、その中で水素燃料電池船の運行も予定している。
イベント関連では、会場内には2千人収容の大催事場「EXPOホール」や1万6千人収容の「EXPOアリーナ」をはじめ多くのイベントスペースを設けており、連日、有名アーティストによるコンサート、歌舞伎、宝塚、大相撲など多くのイベントが実施される。日本全国の様々な祭りも数多く実演される予定だ。
単なる見せ物だけではなく、会期中、テーマウィークという枠組みで、「地球の未来と生物多様性」「健康とウェルビーイング」「平和と人権」「未来への文化共創」といった様々な社会課題について、内外の識者を集めた対話・交流の場も開催される。「サステナドーム」という省エネ型のコンクリートドームは、子供たちが環境問題などについて学ぶことができる場となる。
おわりに
「なんとなく大阪で万博を開催することは知っているけれど、さして関心がない」というのが、派遣前の私を含め、多くの方々の感触だと思う。ただ、上記のような万博の内容を知っていただき、160近くの国々の文化をリアルに目にできる機会は他にはないということを知れば、多くの方が「行ってみたい」と思うようになると思うし、これを契機に関西、ひいては日本の経済活性化につながることを期待したい。いろいろ御託を並べてきたが、ともかく来ていただければ単純に楽しい体験ができるので、多くの方にご来場いただきたいと思う。
なお、財務省関係(造幣局を含む)で博覧会協会に派遣され勤務している「MOF人」は計13名、様々な部署で能力を発揮していただいている。博覧会協会には民間企業、各省庁、大阪を中心とする自治体から多くの出向者が働いている。これらの方々や、万博に参加する国々や民間企業などの参加者と多くの交流ができ、これまでにない経験をすること ができる。ここでの経験を財務省のそれぞれの部署で活かしていただければ、財務省の活性化にも寄与すると思いたい。
会場でみなさまのお越しをお待ちしております。
※大阪・関西万博 公式サイト
https://www.expo2025.or.jp/
写真 独創的な建築物が立ち並ぶ開幕1か月前の万博会場の様子