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外為法に基づく対内投資審査制度の近況― 直近の政省令改正およびアニュアルレポートの発行について


国際局調査課投資企画審査室 課長補佐 中村 優志・須納瀬 史也
国際局調査課投資企画審査室 国際係長 宮島 優一郎

はじめに
 国際情勢の複雑化、社会経済構造の変化等に伴い、経済活動に関して行われる国家及び国民の安全を害する行為を未然に防止する重要性が増大している。こうした中、安全保障の裾野が経済領域に拡大するのに伴い、国の安全等に係る産業の生産基盤及び技術基盤や技術・情報、国の安全等のために必要なサービス等の安定供給の重要性が拡大しており、それらの流出・毀損防止措置を講じることが、我が国の安全保障上、極めて重要な課題となっている。
 対内直接投資等の文脈においても、外国投資家が株主権限等を背景に投資先の本邦企業から技術・情報を流出させるおそれや、国の安全等に係る産業やサービス等の毀損のおそれが顕在化するなど、経済安全保障上の懸念が高まっている。
 こうした時流に早急に対応するため、外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)における対内直接投資等に関する手続等を定めた「対内直接投資等に関する政令」及び主務省令、告示の一部を改正し、2025年4月4日に公布、同年5月19日に施行されることとなった。本記事では、政省令改正の内容について紹介するとともに、安全保障に関する当局の取組の説明および透明性確保のために昨年初めて公表した投資審査制度にかかるアニュアルレポートの内容についても触れたい。*1

1.1 現行制度の概要と課題
 外為法では、対外取引自由を原則としつつ、外国投資家が行う対内直接投資等のうち、国の安全等の観点から指定されている業種(指定業種)に係る一定の類型の取引や行為について事前届出を求め、審査することとしている。
 当該制度の目的は、対内直接投資等を介し、国の安全等に係る産業の生産基盤及び技術基盤の維持や技術・情報の流出の阻止、必要な財・サービスの安定的な供給の維持に影響を及ぼすおそれのある場合に勧告・命令等の措置を講ずることで国の安全等を確保することにある。これにより「対外取引の正常な発展並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持」という法目的を達成するものである。
 事前届出がなされた後は、国の安全等の観点から審査を行い、国の安全等に係る投資等に該当すると認める場合には、所定の手続を経た上で、対象となる投資等について、内容変更や中止の勧告・命令を発令する。また、当該勧告・命令に違反する場合には、株式売却等の措置命令を発令することが可能となっている。
 なお、当該制度では、健全な経済活動を促進する観点から、外国投資家が発行会社の秘密技術関連情報にアクセスしないことや役員に就任しないこと、事業の譲渡・廃止を株主総会に提案しないこと等の基準(免除基準)を遵守する場合には、一定の投資について事前届出の免除が認められ得る。ただし、この免除制度の適用関係については、投資家の属性と投資先業種の属性との組合せで適否が分類される。例えば、外国金融機関はすべての指定業種に係る対内直接投資等で免除制度が利用できる(包括免除)。その他の一般投資家については、指定業種のうち、国の安全等に係る対内直接投資等に該当するおそれが大きい業種として指定される特定業種(いわゆるコア業種)への投資等について、議決権等の取得比率が10%以上となる場合には免除の利用ができない他、10%未満であっても、上記の免除基準に要件を上乗せした基準を遵守しない限り事前届出の免除が認められていない。コア業種に該当しない指定業種については、外国金融機関と同様の免除基準を遵守すれば免除利用が可能となっている(一般免除)。*2
 また、外国政府等(中央政府や地方政府、中央銀行、政党等)やこれに支配される国有企業等は、通常の投資家と比較して経済安全保障上のリスクが高いことから、すべての指定業種に係る対内直接投資等で免除制度の利用を認めていない。
 冒頭に記載したとおり、外国投資家が投資を介して本邦企業から技術・情報を流出させるおそれや、国の安全等に係る産業やサービス等の毀損のおそれが顕在化するなど、経済安全保障上の懸念が高まっている。こうした中、類型的に外国政府等と同様のリスクを有するにもかかわらず、事前届出免除制度の利用が可能な投資家類型に該当することで、当局の事前審査を経ることなく投資を行い、情報を流出させる者が存在する可能性がある。これに対応するため、免除制度の適用関係について見直しを行った。

1.2 改正の概要
 外国政府等と同様のリスクを有する投資家として、外国の法令や外国政府との契約等により、当該外国政府等(イコールインテリジェンス活動)に協力する法的義務(以下「情報収集義務」という。)を負う個人又は法人その他の団体(以下「組織」という。)が想定される。このような個人又は組織による対内直接投資等は、軍事転用の可能性がある技術や、我が国の基幹インフラの安定稼働に係る機微情報の流出又は毀損により国の安全等に懸念を生じさせるリスクという点において、外国政府等による対内直接投資等と同様に評価できる。これを踏まえ、情報収集義務を負う個人又は組織(以下「情報収集義務者」という。)及び情報収集義務者が議決権数や役員数等を一定程度占有することにより支配を受ける組織を「特定外国投資家」として、事前届出免除制度の利用について外国政府等と同様の制限を課す。
 加えて、更に間接的なカテゴリーとして、例えば組織自身に対し情報収集義務が課されていなくとも、外国政府等がその意思決定に影響を及ぼす蓋然性等から「特定外国投資家に準ずる者」についても、リスクの度合いに応じ、一部の投資(「特定コア事業者」に対する投資)等について免除制度の利用を制限する。
 なお、外国金融機関については、現行制度上コア業種を含むすべての指定業種について、免除基準を遵守する場合には事前届出が免除されることとなっているが、今般改正により、上記「特定外国投資家」又は「特定外国投資家に準ずる者」に該当することとなる外国金融機関については、包括免除の対象外とする(すなわち、特定外国投資家又は特定外国投資家に準ずる者としての規制に服することとなる)。

1.3 各論
(1)特定外国投資家
ア 情報収集活動に協力する義務を負う個人又は法人その他の団体
 我が国の安全保障に関する情報を外国政府等に示すよう、当該外国の法令や外国政府等との間の契約により義務付けられた個人や法人その他の団体(情報収集義務者)を「特定外国投資家」とし、従来の制度における外国政府等や国有企業と同様に、すべての指定業種への投資等に事前届出を義務付ける。
 なお、情報収集義務とは、国家の情報収集活動に対し一般的・恒常的に協力する義務であり、例えば犯罪捜査等につき個別事案ごとに刑事司法当局から協力を求められた際や、金融機関が監督当局に対し金融監督上必要な情報を提出することが法定されていること等により、直接・間接の開示義務を負うような場合は含まれない。また、情報収集活動に協力する義務であっても、国の安全等に係る情報の収集がその対象から除かれている場合には、「特定外国投資家」の対象外としている。
イ 情報収集義務者の被支配企業等
 従前の制度において、国有企業のような「外国政府等の被支配組織」については、外国政府等の直接的な支配により強い影響を受けているため、外国政府等と同様、すべての指定業種に係る投資等について免除制度の利用を認めていない。
 これら被支配組織への該当性は、外国政府等による出資比率や役員比率等の基準により判断することとなっている。他方、外国政府等に対する情報収集義務者はリスク上当該外国政府等と同様に評価するという整理によれば、出資比率等を算出する際に当該外国政府等に対する情報収集義務者による影響も合算する必要があるため、以下のとおり規定を改正した。
・議決権50%以上を占める組織
 外国政府等及び当該外国政府等に対する情報収集義務者が保有する議決権の数が、議決権比率の50%以上を占める組織
・黄金株を保有している組織
 外国政府等又は当該外国政府等に対する情報収集義務者が拒否権付き種類株式(いわゆる黄金株)を所有している組織
・株式又は出資金の50%以上を占める組織
 外国政府等、当該外国政府等に対する情報収集義務者及びこれらの者により議決権の50%以上を保有される組織が、株式数、出資額等の比率で50%以上を占める組織
・役員の1/3以上を占める組織
 役員のうち1/3(又は代表権を有する役員のうち1/3)以上を、外国政府等又は当該外国政府等に対する情報収集義務者が任命・指名した者や、外国政府等又は当該情報収集義務者の役員や使用人、当該外国政府等に対する情報収集義務者である個人が占める組織
・議決権行使の指図権限を保有している組織
 外国政府等又は当該外国政府等に対する情報収集義務者が、対内直接投資等に係る議決権行使の指図権限を有している組織
 なお、「特定外国投資家」については、特定取得(法第26条第3項)における事前届出制度及びその免除制度においても、対内直接投資等と同様のリスクがあることから、同旨の措置を講じる。
(2)特定外国投資家に準ずる者
 類型的に高いリスクを有する者に対応するという改正の趣旨に照らして、規制の潜脱を防止する観点から、形式的には「特定外国投資家」の要件に該当しない投資家であっても、外国政府等への情報流出の懸念がある投資家については「特定外国投資家に準ずる者」として事前届出免除制度の利用に制限を設ける。
 「特定外国投資家に準ずる者」の詳細については、主務省令において以下のとおり定義している。
・情報収集義務者が実質的な意思決定を行っている組織
・組織の設立国と異なる国に所在する事務所等において実質的な意思決定を行うことにより、情報収集義務を課す外国の法令等の影響を受ける組織及びその子会社等
・情報収集義務者や国有企業等との契約により外国政府等による情報収集活動に協力するために情報を開示する義務を負う個人又は組織、及び当該個人又は組織との契約により同旨の義務を負う個人又は組織
「特定外国投資家に準ずる者」については、外国政府等の関係で直接的に情報収集義務を負っていない。したがって、外国政府等と同様の規制とするのではなく、外為法における対外取引自由の原則を踏まえた「必要最小限」の規制として、新たな投資先類型である「特定コア事業者」(後述)に係る投資について事前届出を義務付ける。また、特定コア事業者以外のコア業種に係る投資についても、議決権等の取得比率が10%以上となる場合には事前届出を義務付ける。10%未満の投資については免除制度の利用を認めるものの、免除基準及び一般投資家が遵守する「上乗せ基準」に加え、すべての非公開情報にアクセスしないことや、役員だけでなく従業員の派遣や勧誘を行わないといった「更なる上乗せ基準」を遵守することを条件とする。
 「特定コア事業者」は、政令において、外為法上のコア業種に属する事業を営む事業者のうち事業の継続的かつ安定的な実施に支障が生じた場合に国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれがあるものと規定している。具体的な対象は主務省令において「コア業種に属する事業を営む事業者のうち、経済安保推進法における特定社会基盤事業者(基幹インフラ)」としている。例えば、一部の電気通信事業者や発電・ガス事業者、鉄道事業者等がこれに当たることとなる。
 また、子会社等が「特定コア事業者」に該当する場合、その親会社に対する投資についても特定コア事業者に対する投資と同様の扱いとしなければ、間接的に特定コア事業者の議決権等を取得されることとなるため、「子会社等が特定コア事業者にあたる親会社への投資等」についても規制対象としている。
 なお、特定外国投資家については対内直接投資等だけでなく特定取得にも同様の規定を置いたが、特定取得における特定外国投資家に準ずる者及び特定コア事業者の規定の要否については、現行制度においてもすべてのコア業種について事前届出の免除を認めていないことから、今般改正による新たな措置は講じていない。

2.2023年度版「外為法・対内投資審査制度-アニュアルレポート(年次報告書)の刊行について
 上述のように、近年の経済安全保障を巡る環境の変化を背景に、対内投資審査制度を効果的に執行し、国の安全を損なうおそれのある投資等への適切な対処が一層重要となっている。他方で、現在、政府としては、世界に開かれた国際金融センターとして日本の地位を確立することを目指しており、取引自由の原則の下、健全な経済発展に寄与する対日投資を一層促進する必要性との適切なバランスを確保することも重要である。そうした中、投資審査制度に係る透明性の向上や投資家とのコミュニケーション促進のため、2023年度版「外為法・投資審査制度-アニュアルレポート(年次報告書)」(以下「本アニュアルレポート」という。)を2024年9月に公表し、同年11月には英語版も公表した。その構成は4章で構成されており、序章の巻頭言に引き続き、第2章の制度の概要(制度総論)にて、外為法や投資審査制度の概要、投資審査制度の対象となる外国投資家や対内直接投資等の類型、指定業種、事前届出免除制度を俯瞰して、株式取得時の事前届出のフローチャートを提供している。第3章では、対内直接投資審査制度を巡る最近の状況を紹介しており、2023年度の状況、審査・モニタリング体制の強化の状況や国内外関係機関との連携について説明している。また、第4章の制度執行の状況においても定量的データを公表しており、事前届出、平均審査期間、事前届出の取下げ、報告徴求、中止・措置命令、罰則、無届、事前届出免除制度の各件数を公表している。ここでは第4章からいくつかデータを紹介したい。
(1)事前届出件数の推移
 2020年の改正外為法の施行から4年が経過し、制度改正の影響は概ね平準化していると言える。事前届出件数については、2022年度は2,426件であり、2021年の2,859件と比べてやや減少したが、2023年度は過去最高の2,871件となり2021年度実績と概ね同水準となっている。なお、国際的に比較すると、日本の投資審査制度は、対象業種が相対的に広いこと等を理由に、事前届出件数が非常に多くなっている。
(2)業種別・国別の内訳
 2019年度に追加されたサイバーセキュリティ関連業種が毎年6割前後と最大の割合を占めており、2023年度は58%であった。2023年4月にはサプライチェーン保全等のための業種追加が行われたが、届出のうちこれに該当したのは5%であった。株式取得についての国籍別の内訳については、上位は、日本、米国、英領ケイマン、シンガポールとなっている。なお、一位が日本になっているのは、居住者外国投資家(非居住者や外国法人に議決権の過半数を保有されている日本の会社等)による届出件数が多いためである。
(3)平均審査期間
 投資審査制度上、審査期間は30暦日とされているが、国の安全等を損なうリスクのない場合には迅速かつ柔軟に審査を終了するよう実務的に対応しており、2023年度の平均審査期間は9.1営業日で、68.3%の事前届出について2週間以内で審査が終了している。

おわりに
 政省令改正や本アニュアルレポート公表の取組を通じて、健全な投資の促進と安全保障の両立を図っていきたい。

図1 事前届出免除制度(改正前)
図2 外為法上の対内投資審査制度の概要・補強の必要性
図3 事前届出免除制度(改正後)
図4 特定外国投資家
図5 特定外国投資家に準ずる者
図6 事前届出件数の推移
図7 業種別の事前届出の割合
図8 国籍別の取得時事前届出件数(2023年度)

*1) 本稿のうち、意見にわたる部分は個人の見解であり、組織を代表するものではない。
*2) なお、非上場株式の場合、コア業種に係る株式取得については、投資家の属性に依らずすべての投資家が事前届出を義務付けられている。