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特集 令和7年度 農林水産関係予算について

主計局主計官 山川 清徳


1.令和7年度農林水産関係予算の基本的考え方
 昨年、農政の基本理念や政策の方向性を示す「食料・農業・農村基本法」(以下、「基本法」という。)が四半世紀ぶりに改正され、「食料安全保障の確保」が法律上明記された。
 我が国の農林水産業については、地政学リスクの顕在化等や農業の担い手の急減等による食料供給基盤の弱体化など、取り巻く環境が大きく変化する中で、国民に対する食料の安定的な供給の確保が益々重要な課題となっている。
 このような状況の下、令和7年度予算については、以下のような基本的な考え方に立って編成を行った。

(1)「食料・農業・農村基本法」の改正を踏まえた施策の方向性
 基本法の改正を受け、政府として、「初動5年間で農業の構造転換を集中的に推し進められるよう」*1、関連施策を実行していくこととしている。
 この点、財政制度等審議会の「令和7年度予算の編成等に関する建議」(令和6年11月。以下、「建議」という。)では、「現在の農業の構造的課題は、生産・経営において多額の国民負担に基づく財政支援や種々の規制等が存在することにより、生産性向上・経営の効率化が十分に進まず、収益性の向上を通じた産業としての自立化が進まないことにある」としつつ、「こうした農業構造を今後も国民の多くの負担により支え続けることは持続可能ではなく、我が国の財政事情の厳しさを鑑みれば現実的でもない」、「食料安全保障を強固なものとするため、農業構造を転換し、産業としての自立を果たしていくことが強く求められている」との指摘がなされた。
 政府として、こうした基本的な方向性も参考にしながら、農業の将来像を描きつつ、農業を支える合理的な国民負担や財政支援の在り方を含めた構造転換について検討し、施策に反映することが重要である。
ア 食料安全保障の強化
 主要作物である米・麦・大豆に対する財政支援のうち主なものとしては、水田において主食用米以外の作付を行う場合の所得補填である「水田活用の直接支払交付金」や、小麦・大豆等について生産コストと販売価格の差額を補填する「畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)」等の経営所得安定対策等として、当初予算の2割~3割に当たる規模となる年間5,000~6,000億円規模の多額の財政支援を行っている。これにより、例えば、飼料用米については、水田における転作奨励という目的で、10a当たり8.8~11.3万円もの財政支援がなされていることになる。
 主食用米の需要は減少が続いていることを背景に、補助金によって水田での作付に馴染まない作目への転作が恒常化しているが、こうした状況から脱却するためにも、野菜や、麦・大豆等の需要のある畑作物について、畑地での本作化を進める必要がある。
 このため、令和7年度予算では、水田を畑地化して野菜や麦・大豆等の畑作物の生産に取り組む農業者の支援を実施した。
 また、水田活用の直接支払交付金については、畑地化の進展に伴い、令和7年度産における交付対象水田が減少することに加え、飼料用米の一般品種の支援単価が令和6年度に引き続いて段階的に引き下げられること*2等を予算額に反映した*3。
 この他、例えば農林水産物・食品の輸出額を5兆円とする目標を達成するため、生産から現地販売までの一気通貫した新たなサプライチェーンの構築に向けた取組等の推進を行うなど、国内生産の増大だけでなく、食料・生産資材の安定的な輸入の確保や官民合わせた総合的な備蓄体制の推進、輸出の促進を図るための取組を措置し、総合的に食料安全保障の強化を推進することとしている。
イ 環境と調和のとれた食料システムの確立
 食料システムを持続可能なものとするには、食料の生産が環境に負荷を与える側面にも着目し、温室効果ガスの排出削減や生物多様性の保全といったことに配慮していくことも重要である。
 このため、令和7年度予算では、有機農業や減農薬・減肥料といった環境負荷低減の取組に加え、生産力の向上や気候変動への対応を可能とする品種改良を実施していくこととしている。
ウ 農業の持続的な発展
 食料生産の基盤である農地を維持するためには、農業水利施設を含む農業生産基盤の保全により、良好な営農条件を備えた農地を確保し、それらをより有効に活用することで生産性の向上を図る必要がある。
 令和7年度予算では、農業農村整備事業等による農地の大区画化等を一層推進することで、生産性・収益性等の向上やスマート農業の導入に向けた基盤整備を進めるとともに、国土強靱化のための農業水利施設の更新・長寿命化等を支援した。
 また、地域計画により明らかになった地域農業の将来像の実現に向け、老朽化した共同利用施設について、次なる修繕・更新等に係る積立計画の作成を要件に再編集約・合理化を支援し、生産性向上等による農業の構造転換を推進することとした。
エ 農村の振興
 農村においては、高齢化や人口減少が続いており、中山間地域等の機能低下、荒廃農地の増大、鳥獣被害の発生等が課題となっている。
 令和7年度予算では、農林水産業に関わる地域のコミュニティの維持、農山漁村の活性化・自立化、鳥獣被害の防止に資する取組等を支援することとしている。


2.令和7年度農林水産関係予算のポイント
(1)農林水産関係予算の全体像
 令和7年度の農林水産関係予算については、上記1.の考え方に沿って、令和6年度補正予算と一体として編成を行い、改正基本法に基づき、食料安全保障の強化等に関係する施策を充実・強化し、特に農業の構造転換を集中的に推し進める観点から「新基本計画推進集中対策」を措置するなど、所要の予算を計上した結果、令和7年度農林水産関係予算が2兆2,706億円(対前年度+20億円)、令和6年度補正予算が8,678億円となったほか、農畜産業振興機構(ALIC)を活用した特別対策として100億円を計上した。
(2)主な施策の概要
 主な施策の概要は以下のとおり(括弧内の金額は対前年度当初予算増減額)。
ア 食料安全保障の強化
 水田を畑地化して野菜や麦・大豆など畑作物の生産に取り組む農業者を支援(畑作物の定着までの一定期間の支援や、土地改良区の地区除外決済金の支援等)。
 水田活用の直接支払交付金については、畑地化の進展に伴い、令和7年度産における交付対象水田が減少することに加え、飼料用米の一般品種の支援単価が令和6年度に引き続いて段階的に引き下げられること等を適切に予算額に反映。
・ 畑作等促進整備事業 22億円(±0億円)
・ 水田活用の直接支払交付金等 2,760億円(▲145億円)
  うち畑地化促進助成 2億円(±0億円)
・ コメ新市場開拓等促進事業 110億円(±0億円)
・ 畑地化促進事業 [令和6年度補正予算]450億円
・ 畑作物産地形成促進事業 [令和6年度補正予算]160億円
・ 畑作物産地生産体制確立・強化緊急対策事業 [令和6年度補正予算]58億円
・ 国産野菜サプライチェーン連携強化緊急対策事業 [令和6年度補正予算]6億円
 農林水産物・食品の輸出額を5兆円とする目標を達成するため、生産から現地販売までの一気通貫した新たなサプライチェーンの構築に
向けた取組、認定品目団体・ジェトロ・JFOODOと連携した現地市場の開拓、輸出先国の規制やニーズに対応した大規模輸出産地の形成等を推進。
・ 農林水産物輸出の拡大に向けた支援 124億円(+22億円)
 畜産・酪農の生産基盤の維持・強化を図り、安定的な供給を確保するため、食肉処理施設・乳製品加工施設等の再編集約・合理化、産地における自給飼料の生産に係る取組等を支援するほか、物価高騰等による和牛肉の需要減少に対応するための取組を支援。
・ 食肉流通構造高度化・輸出拡大事業 12億円(▲12億円)、[令和6年度補正予算]123億円
・ 飼料生産基盤立脚型酪農・肉用牛産地支援 56億円(皆増)
・ 和牛肉需要拡大緊急対策 [令和6年度補正予算]170億円
・ 肉用牛緊急特別対策 [ALIC 特別対策]100億円
 持続的な食料の供給が可能となるよう、合理的な価格の形成に向けたコスト構造等に関する調査、コスト指標の作成の促進、取引実態の調査、消費者等の理解醸成を図る取組等を支援。
・ 適正取引推進・消費者理解醸成対策事業 0.5億円(+0.2億円)
イ 環境と調和のとれた食料システム
 有機農業をはじめとする環境負荷低減の取組に加え、生産力の向上や気候変動への対応を可能とする品種改良を支援。
・ 環境保全型農業直接支払交付金 28億円(+2億円)
・ みどりの食料システム戦略実現技術開発・社会実装促進事業 17億円(▲1億円)、[令和6年度補正予算]10億円
・ みどりの食料システム戦略推進総合対策 6億円(▲0億円)、[令和6年度補正予算]38億円
ウ 農業の持続的な発展
 老朽化した共同利用施設について、次なる修繕・更新等に係る積立計画の作成を要件に再編集約・合理化を支援し、生産性向上等による農業の構造転換を推進。
・ 共同利用施設の整備支援 200億円(+79億円)
  うち新基本計画実装・農業構造転換支援事業 80億円(皆増)、[令和6年度補正予算]400億円
 生産性・収益性等の向上やスマート農業の導入に向けて、農業農村整備事業等による農地の大区画化等を一層推進すべく、基盤整備を進めるとともに、国土強靱化のための農業水利施設の更新・長寿命化等を支援。
・ 農業農村整備事業関係 4,464億円(+1億円)、[令和6年度補正予算]2,037億円
 農業者の急減が想定される中で、これからの農業を担う人材を確保していくため、就農にあたっての資金交付や初期投資支援、地域における新規就農者の誘致や就労条件等の労働環境の整備等を支援。
・ 新規就農者育成総合対策 107億円(+11億円)
・ 雇用就農総合対策等 33億円(+4億円)
・ 新規就農者確保緊急円滑化対策 [令和6年度補正予算]54億円
・ 雇用就農緊急対策 [令和6年度補正予算]13億円
 将来像が明確化された地域計画の早期実現を後押しするため、地域の中核となる担い手の農地引受力の向上等に必要なスマート農機を含む農業用機械・施設の購入・リース導入を支援。
・ 農地利用効率化等支援交付金 20億円(+9億円)
・ 担い手確保・経営強化支援事業 [令和6年度補正予算]27億円
エ 農村の振興
 高齢化や人口減少による中山間地域等の機能低下、荒廃農地の増大、鳥獣被害の発生等の課題に対応するため、農林水産業に関わる地域のコミュニティの維持、農山漁村の活性化・自立化、鳥獣被害の防止に資する取組等を支援。
・ 中山間地域等直接支払交付金 285億円(+24億円)
・ 多面的機能支払交付金 500億円(+15億円)
・ 鳥獣被害防止対策 100億円(±0億円)、[令和6年度補正予算]55億円
オ 林業の成長産業化の推進
 カーボンニュートラルの実現及び花粉発生源対策にも資する森林資源の循環利用と適正な管理を推進するとともに、建築用木材等の利用拡大に向けた環境整備、森林の集積・集約化に向けた取組を支援する等、林業の成長産業化を推進。
・ 森林整備事業 1,256億円(+2億円)
・ 林業・木材産業循環成長対策 62億円(▲3億円)
・ 森林の集約化モデル地域実証事業 5億円(皆増)
・ 林業・木材産業国際競争力強化総合対策 [令和6年度補正予算]154億円
・ 花粉の少ない森林への転換促進緊急総合対策 [令和6年度補正予算]56億円
カ 水産業の成長産業化の推進
 不漁問題等に対応する観点から、資源管理に取り組む漁業者に対する経営安定対策等を着実に実施するとともに、海洋環境の変化を踏まえた操業形態の転換や収益性向上、海業の全国展開を支援する等、水産業の成長産業化を推進。
・ 漁業収入安定対策事業 160億円(▲42億円)、[令和6年度補正予算]225億円
・ 水産業成長産業化沿岸地域創出事業 30億円(±0億円)
・ 漁業構造改革総合対策事業 12億円(+1億円)
・ 養殖業の成長産業化 11億円(▲0億円)
・ 海業振興支援事業 3億円(皆増)
・ 水産業競争力強化漁船導入緊急支援事業 [令和6年度補正予算]70億円
・ 漁業構造改革総合対策事業 [令和6年度補正予算]70億円
・ 養殖業体質強化緊急総合対策事業 [令和6年度補正予算]16億円
・ 海業振興緊急支援事業 [令和6年度補正予算]2億円


資料1 「食料・農業・農村基本法」の改正
資料2 「経済財政運営と改革の基本方針2024」(令和6年6月閣議決定)の抜粋
資料3 土地利用型農業に対する財政負担
資料4 水田活用の直接支払交付金
資料5 農林水産関係予算の推移
資料6 新基本計画推進集中対策の概要

*1) 「経済財政運営と改革の基本方針2024」(令和6年6月閣議決定)
*2) 飼料用米の一般品種(主食用米と同等の品種)の支援単価について、令和6年産から令和8年産にかけて、単価(令和5年産:5.5万円~10.5万円/10a)を段階的に5.5万円~7.5万円/10aまで引き下げることとされている。
*3) 令和9年度に向けては、生産性向上に向けて、水田政策の見直しについて検討を進める。