講師 松本 めぐみ 氏(松本興産株式会社 取締役)
演題
田舎企業がIT人材ゼロからDX日本一へ
~松本興産の取組と組織を動かすリーダーシップ~
令和6年10月4日(金)開催
はじめに
松本興産株式会社取締役の松本です。よろしくお願いいたします。
本日は「田舎企業がIT人材ゼロからDX日本一へ~松本興産の取組と組織を動かすリーダーシップ~」と題しまして、お話させていただきます。
松本興産はここ数年DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでまいりました。
そのDXに取り組む中で、いかにリーダーシップを発揮してきたか、いかにみんなを動かしてきたか、ということについて重点的に皆さんにお伝えさせていただきます。
1.松本興産について
初めに、松本興産についてご紹介させていただきます。弊社は埼玉県の秩父郡小鹿野町というところにございまして、従業員は全部で240名、全グループの売上が45億円の会社で、高級車の部品を主に作っております。
小鹿野町は本当に年々、若者がどんどん減ってきておりまして、労働人口で言いますと、たったの5,000人です。
私が十年ほど前に松本興産に入社した時は、いかに会社のブランディングをすると若者に入社してもらえるだろうか、というのを色々試行錯誤したのですが、それではうまくいかないことに気付きまして、そうであれば、今いる社員たちをいかに教育して、リスキリングでITができる人材に育てていくか、を考え始めました。
2.田舎×六重苦に悲鳴
私たちが当初抱えていた課題は6つになります。
1つ目は非効率な作業が多かったことです。
松本興産は創業して約60年ですが、ずっと紙に書いたデータを使っていたりと、やり方が担当者に属人化していて、「このやり方が正しい」とずっとやってきているものが多いので、非効率であることに気付けないこともありました。
2つ目は風通しが悪いことです。
部署同士が昔はあまり仲良くなかったのです。会社全体で一緒の価値観を共有することが組織上どうしても難しくて、自分の部署の利益が良ければいいとか、自分の部署が楽できればいい、という感じになっておりました。
3つ目はIT人材ゼロです。
自動車部品を粛々と作ってきた企業ですので、コンピューターですとか、ITに長けている人材が本当にゼロ、全くおりませんでした。
4つ目は予算がないことです。
中小企業ですので、機械1台買うにも渋るぐらいなので、どうしても予算が限られていました。
5つ目はDXへの嫌悪感です。
4年ほど前ですが、生産管理システムをどうにかしないといけないと思い立ちまして、1,500万円かけて大きなシステムを導入した経験があるのですが、結局、ファンクションが多すぎることと、中小企業ではとても使いこなせないということで、その1,500万円を無駄にした経験があります。
この経験があるので、弊社の社員たちはDXへの嫌悪感がありました。「どうせやってもまた失敗するでしょう」という雰囲気が漂っていました。
6つ目は業務のブラックボックス化です。
システム上にデータがないため、属人化していて、誰がどのデータをどんな時に取っているのか、その情報がどこにあるのか、がブラックボックス化しておりました。
これら6つの課題に加え、4年前にコロナ禍が起きてしまって、赤字が続いた月があり、社内がとても暗い雰囲気に包まれた時期がありました。
この赤字がきっかけで、私もDXに踏み切らないと大変なことになるな、という危機感でDXに踏み切りました。
崖っぷちのところから、一歩一歩取り組んだDXということでございます。
3.DX実現へのアプローチ
次に実際にDX実現へのアプローチをどのようにして進めていったのか、ということをご説明させていただきます。
まず、私が組織を改革するときに必ず頭に置いているのが「イノベーター理論」です。
改革するときに、100人いたらいきなり100人を変えていこうとするのではなくて、正規分布表で言うと山の形をしたグラフの一番左端の部分、この2.5%の人たちをいかに巻き込んでいくか、ということをやっていきます。
そして徐々に増やしていくのですが、この山に沿って実際に何を行動していったのかをこれからご説明します。
まず、改革する前に心理学の先生を工場にお呼びして、全社員の性格診断を行ってもらいました。私は、この性格診断(「論理的」「創造的」「行動的」「調和型」「信念」「遊び心」の6タイプに分別)が非常に重要だと考えています。
このため、このイノベーター理論を使う時に、次の山の13.5%までのところにはどういうタイプの人間を入れていくのかとか、次の34%までのところにはどういうタイプを入れていったらいいのか、ということもご説明したいと思います。
4.第1章 自社でDXが出来るようになるまで
(1)経営層が本気で舵を切った
まず初めの山の2.5%までの部分です。
これはすごくシンプルです。とにかく「トップがどれだけ本気を見せるか」です。トップが本当にがむしゃらにやる、というのが今後の山を作れるか作れないかの勝負どころでして、例えば社員たちや部長に「DXを進めたいから、君たちで何かやってみなさい」などと言ったとしても、絶対に山は作れません。
このため、とにかく初めはトップが現場に入ることがすごく大事です。
ポイントは「現場に任せきりにしない」「リーダーが手を動かす」です。初めの2.5%が作れるかどうかは、トップのやる気次第です。
「どうしてDXを始めるのか」「なぜこれが本当に大事なのか」を、私自身も自分の中にすごく問いかけて、すごく深いところまで腹落ちさせました。私の中で腹落ちさせて、その理由がちゃんと筋が通っていれば、社員たち一人一人に語ることができます。
私たちがDXをやったのは、「従業員の幸福のため」です。みんなが幸せになるため、無駄な作業で大切な人生の1時間を費やしたりしてほしくない、ということをすごく語りました。
(2)Excelファイルが属人化
松本興産の場合、とにかくExcelファイルが多く、それぞれの部署、それぞれの人で自由自在にExcelをカスタマイズして使っているような状況でしたので、Excelファイルが属人化しており、作成した人しかデータを読み解けませんでした。
(3)Excelファイルを全て印刷して考えた
3年以上前、DXに取りかかった時に一番初めにやった作業は、Excelファイルを全部印刷したことです。生産管理部、製造部、品質保証部、経理部が持っているExcelファイル、それらを、本当にすごい量だったのですが、全部印刷しました。
パソコン上でExcelのファイルを開いたところで、どうしても人間の脳は把握するのに限界がありますので、全部印刷して、全部のセルに何のデータがどう入っているのかを、全部付箋に書き出して、ホワイトボート上に貼り出しました。
例えば、お客様からもらえるデータは何だろう、と考えると、それには「得意先ナンバー」があったり、「客先コード」があったり、「科目」があったりとなります。
次に、そのお客様から製品の内容データをいただいたら「製品名」や「図面のナンバー」がありました。そして、そこから受注になると、「受注ナンバー」がありました、という感じで、全て業務フローをすべて書き出して貼っていきました。
これがすごく泥臭くて、途方もない作業なのですが、一番初めに本当に泥臭い作業をやる、ちゃんとこういうことをやっていれば、取り組みを進めた時に後戻りしなくて済みます。ですから、この作業がすごく大事になってきます。
(4)全社員に性格診断を行った
この作業をしつつ、先ほどお話したように全社員に性格診断を行いました。
性格診断における6つのタイプの特徴ですが、「行動的」な方々は、リスクが大好きなタイプです。これがプラスなポイントですけれども、マイナスなポイントとしては、長続きしない、すぐに飽きてしまうタイプです。
「調和型」は働いている時の心理的安全がすごく大事で、高圧的な上司がいないこと、横の同僚とのハーモナイズ、調和・安心感をすごく大事にするそうです。
「創造的」な社員は自分の頭の中でいろいろな創造をすることがすごく得意らしいです。ただ、例えば、「このアプリを作ってみて」という大きな目標だけを与えてしまうとパニックになってしまうそうです。ですから、この「創造的」タイプの部下に対しては、「今日はこれをここまでやってみてください」というように事細かに指示、オーダーを出すようにしました。
「論理的」ですが、「論理的」タイプがいかにやる気を持ってくれて、DXをやる意義を腹落ちしてくれて、自分で自ら動いてくれるか、というのが、DXを成功させるか、失敗させるかの大きな鍵を握っています。
「信念」タイプは、すごくリーダーシップがあって、こうやるべきですとか、自分の価値観をすごく言うのが得意です。ただ、プロジェクトに入った時にこのタイプが多すぎますと、みんな価値観を言い合ってぶつかったりすることがありますので、この「信念」タイプを何割ぐらい入れるのか、というのも私の中ではすごく計算してやっております。
「遊び心」タイプですが、新しいことが大好きで、すごいムードメーカーです。このため、プロジェクトには必ず一人は入ってもらいます。プロジェクトがうまくいかない時でも盛り上げてくれるのです。
組織で何かを成し遂げていこうという時に、必ずこの6タイプの人たちがみんなで協力し合うのがすごく大事になってきます。
(5)16%の先行社員
正規分布表でいう最初の2.5%はトップのやる気次第とお伝えしましが、次の13.5%までのところは、「論理的」タイプと「創造的」タイプを選抜してチームを作っていきました。
そして、このチームを「ファーストペンギンチーム」と名付けました。
「IT促進部」とか「DX推進課」とかを作ってしまうと、やはり字が難しくて、どうしても怖いイメージを与えてしまうからです。
中小企業はDXだけに特化するチームを作るのが難しいです。「ファーストペンギンチーム」のメンバーは、製造部だったり、工場管理部だったり経理部だったり、通常業務を行いながら、プラスアルファでDXをやってくれたのです。そんな大変な中やってくれた、「なんか初めに海に飛び込んでくれるファーストペンギンみたいだよね」、という感じで、そのように名付けました。「いやあ、すごい、ファーストペンギンだよね」という感じで言うと、みんなの心も和らぐのと、心理的安全もつくれるので、こういったネーミングを使いました。
(6)小さな「成功体験」から始めた
私たちは、いきなり大きな成功を求めるのではなく、小さな「成功体験」から始めていきました。
ポイントの1つ目は、「全社員の8割が関わる業務」をDX化第一号に選びました。例えば1割の社員しか関わらない業務でDXをしたところで、今後、社内にうねりを呼び起こすことは難しいなと思いましたので、なるべく多くの人が携わる業務を選びました。
ポイントの2つ目は、性格診断で最初のアプリ作成者を選定しました。メンバーの一人は、性格診断の結果、「創造的」なことが得意であると判定を受けました。また別のメンバーは、決してコミュニケーションがうまい方ではなくて、挨拶の声も小さいのですが、黙々と一人で集中して、自分の世界に入って取り組む作業が得意であるということが性 格診断で分かりましたので、彼もメンバーに入れました。
性格診断をやっていると、声掛けも変わってきます。やらされている感じではなくて、こんなことが自分でもできたのだ、という感動を与えることがすごく大事になってくると思います。
(7)アプリ第一弾:検査記録アプリ
弊社は自動車部品を全部目視検査しているのですが、アプリを作ることによって、検査した結果を紙には一切書かずに、全部タブレットで入力できるようになりました。これがアプリ第一弾です。
検査結果をタブレットで入力できることになったことで、年間1万時間以上が削減できました。
結果的に人件費なども削減できましたので、これで1,500万円の削減になりました。
「隣の社員の一歩が、全社員の希望になった」こと、これが本当に大事で、例えば「こういったアプリを作ってください」と外注でお願いしても波及していきません。
でも、今まで隣に座っていたこの彼がこんなすごいアプリを作った、となったら、「私でもできるかもしれない」というふうに、他の社員たちがすごくいい刺激をもらい、「ちょっと僕もやってみようかな」という希望になってくれました。
この検査員の使っている検査アプリにはちょっと工夫をしまして、ほっこりと笑顔が生まれる雰囲気作りをしました。
60名ぐらいの女性従業員たちが検査してくれるのですが、検査して「検査送信」を押すと、100回に1回ぐらいの確率で「当たり」が出ます。「当たり」が出ると、プレゼントがもらえるのです。女性が働きやすい雰囲気にするには、個々のほっこり笑顔をいかに職場に増やせるか、ということをすごく考えています。
(8)一般社員への波及が始まった
13.5%の先行社員に続く次の山の34%のところをご紹介します。
34%のところまで来ると、山が半分できてきたので、ここで全部のタイプの社員を巻き込む段階になります。
13.5%の山ができてインフラが整ってきますと、段々みんなの中で「私でもDXができるかもしれない」という雰囲気が、社内の中に生まれてきます。
(9)うねりが続くように気を付けたこと
私は、会社全体にうねりを続かせたかったので、気を付けたポイントが3つあります。
1つ目は、取り残されるのではないかという恐怖、2つ目は人事評価の恐怖、3つ目は仕事がなくなるのではないかという恐怖、これらを社員たちに思わせないために心理的安全をきちんと作っておこうと注意しておりました。
ア)誰も置いていかないデジタル化
まず、1つ目の、取り残されるのではないかという恐怖ですが、これについては「誰も置いていかないデジタル化」を掲げました。
弊社は若手も多いのですが、検査員などは50歳代、60歳代の社員が活躍してくれています。まだスマホじゃなくてガラケーを使っている社員たちもいますので、そういった社員たちに「アプリ化する」と言った時に、抵抗を感じさせたくありませんでした。
そこで、画面にちょっとした工夫を施してみました。画面に可愛らしい検査員の女性のイラストを置いてみるとか、画面のボタンを「記録スタート」1つだけにして迷わなくて済む仕組みにしたりしました。
イ)DXで人事評価は落ちない
2つ目の人事評価の恐怖というのも、誰しもあると思いますので、人事評価の中には入れないと決めました。
弊社の人事評価には業績のほかにKPI(重要業績評価指標)というのがあるのですが、アプリを頑張った人はKPIで賞与に上乗せすることにして、従来の人事評価の中に「あなたはDXを頑張ったかどうか」みたいな項目は一切入れませんでした。
人事評価の中に入れてしまうと、恐怖で社員たちを操ることになるのです。恐怖ではなくて、愛を起点というか、「みんなのためにやってくれる」「こういうアプリができたら、自分も充実するし、嬉しい」という感じで、愛を起点に経営したいなと思っているので、賞与に上乗せの方にしました。
ウ)仕事はなくならない。創造する時間へ。
仕事がなくなるのではないかという恐怖に関しては、時間が短縮できて余った時間は創造する時間に変換しました。
製造部においてもいろいろなアプリを作ってくれて、本当に業務が効率化できました。そして、効率化できた時に、彼らが何を始めたかと言いますと、自分たちが欲しいものを、自分たちでデザインして、設計して、作ってくれるようになりました。例えば、「春夏秋冬それぞれのデザインを施した猪口」や「お箸」などを作ってくれました。
今まで私たちは自動車部品製造会社として、お客様からいただいた図面をいかに正確に品質よく作るかという軸だけで働いてきました。それが、時間ができることによって、一から自分で欲しいものを考えて、自分の頭の中で想像して、それをノートに書いて、それをプログラミングして、「自分の欲しいものがこんなに作れる」となると、想像力も膨らみますし、生きている充実感が違うのです。
本当にDXをやって良かったなと思うのは、こういった時間をみんなが作れるようになったことです。
5.第二章 うねりを継続するためのDX
(1)さらにDXに勢いが付く
半分の山がやっと軌道に乗ってきましたので、ここから頑張っていただくのは、「論理的」タイプと「創造的」タイプの社員になります。
ここまでのタイムラインは約2年です。
ここからの山はそれを継続する力です。継続に向いているタイプは「論理的」と「創造的」の2タイプです。
(2)「論理的」タイプにどう腹落ちしてもらうか
この「論理的」タイプがすごく重要なのですが、「論理的」タイプがずっと動いてモチベーション高くやってもらうには工夫が必要になります。
まず1つ目は腹落ちするほど理解してもらうことがすごく大事になってきます。
2つ目は数値戦略です。「論理的」タイプは、目的と結果が数字で表せていないと腹落ちしていきません。
弊社は赤字の時にDXを始めました。その次の期も赤字の予測でした。
次の期の赤字額が4,000万円だったので、だからDXをやって4,000万円の固定費を削減するぞ、という感じで数値戦略をまず伝えました。これで徐々に腹落ちしていきます。
ただ、4,000万円の固定費削減をしないといけない、だけでは持続はできません。
業績理解です。会社の業績を毎月教えて、今どういう状況なのかを常に伝えることによって「自分ごと化」させていきました。
この業績理解はすごく大きなポイントで、会社の決算試算表を毎月全社員に教えています。
この場合、数字の羅列だと、製造現場で理解できる人はほぼいないので、後でご説明しますが、ビジュアル化して全社員に教えています。
会社の業績を教えながら、数字でDXの必要性を納得するということがすごく大事になってきます。
(3)「論理的」タイプが腹落ちした後のDX
「論理的」タイプが腹落ちした後のDXは本当凄まじいものがありまして、プロでもこんなの作れないのではないか、というようなことを、彼らは自分たちでYouTubeですとか、ネットで勉強しながらやっていきます。
ア)業績モニターアプリ
そうした事例のひとつが、「論理的」タイプの女性経理社員が作った業績モニターアプリです。
彼女は今までは会社の業績をExcelファイルで全社員に発信してくれていたのですが、やはりそれだと社員が分かりにくいということで、アプリ化してくれました。貸借対照表を豚の貯金箱にして、損益計算書を風船に変換して、ビジュアル化して全社員に教えています。
毎月売上がどんどん累計して増えているので、風船がどんどん膨らんでいくのです。風船の中には費用が入っています。
こういうふうにしてくれると、全社員がいつでもアプリを見ることができて、今売上これぐらいだ、とか、今現金をこれだけ持っているのだ、とか、在庫はこれだけあるのだな、といったことがリアルタイムで確認できることになりました。
イ)製品利益率モニターアプリ
製品利益率モニターアプリも経理社員が作ってくれました。
弊社ではメインの製品が100種類ぐらいあります。Excelファイルではその原価計算みたいなデータがあるのですが、目で追えないぐらい膨大な数です。でもこのアプリによって、製品別の費用や利益率が風船に変換されました。
上に浮いている風船群は利益率が高い製品で、下の風船群は赤字になりかけている製品です。
このようにして、目視で誰でも分かるようにすることによって、例えば、削り方を変えて1台の機械から1日に作れる数を増やせないか、お客様に価格転嫁して売価を変えてもらわないといけない、とか、様々なアイデアが生まれるようになりました。
(4)ChatGPTの活用
最近私は「ChatGPTの有料版を使いたい社員はどんどん使いなさい」と言っておりまして、みんな使いこなしています。ChatGPTは全部署で使っているのですが、やはりいいな、と思うのが納品書の処理が楽なことです。
中小企業の場合、納品書はまだ紙で届いたりするのですが、納品書の写真を撮って「納品書内の文字を起こしてください」とChatGPTに頼むと、1秒もかからず、起こしてくれるのです。これをそのまま、Excelとかに持ってきたらいいので、処理がすごく便利になりました。
今までは納品書を目で見ながら、入力していたため、ミスもあったりしたのですが、やはりChatGPTはすごいです。
私も広報の文章作成を始めとして、本当にいろいろなことに活用しております。
(5)全社員がデジタル人材へ
最後に、全社員がデジタル人材へ、ということについてご説明します。
ここも同じです。「論理的」タイプと「創造的」タイプがずっと引っ張っていってくれている感じです。
DXを進めて、赤字になりそうな4,000万円を削減できました。
お金の削減ということも大事ですが、やはり一番のご褒美だと思ったのが、社員たちの自己肯定感がすごく高まったことです。
弊社はド田舎の会社なので、人も集まらなくて、誰からも注目されることなく、作っているものも自動車部品なので、本当に地味で目立たず、モチベーションを保つことがすごく大変です。
でも今は、社員たちはいろいろなアプリを作って、同僚からは「すごいね」とか、社長からは「こんなのが作れるの?」というふうに言ってもらうことで、どんどん働く喜びというか、生きる喜びというか、そういうものが芽生えていきました。
(6)働き方改革が起こった
DXをやることによって、働き方改革が起こりました。
多くの業務が自動化され、在宅勤務や柔軟な労働時間が実現しました。
女性管理職と男女比をみると、女性がどんどん活躍できるようになりました。
なぜDXが進むと女性が活躍できるのか、と言いますと、弊社は製造業なのでどうしても男性が花形なのです。花形の部署は製造部もしくは営業部で、製造部は男性が主体なので、どうしても女性が活躍するのが難しかったのです。
しかし、DXでアプリが作れるようになると、経理であろうが、総務であろうが、生産管理であろうが、女性でもすごいアプリを作り出すのです。「自動車部品を作れるぐらいすごいね」と言ってもらえるので、女性もどんどん活躍してくれるようになりました。
在宅勤務ができることもすごいです。DXが進むと、今までなら会社に行かないと資料が見られなかったのですが、DXが進むことによって、在宅でも小さいお子さんがいるママさんたちでも力を発揮できるようになりました。
(7)社会的課題への貢献を果たした
DXで5つの壁を取り除きました。DXに取り組むことで、言語の問題を克服する、順番に決められたボタンを押すだけで簡単に仕事ができる、不登校の子供たちにパソコンを教える、人に頼まなくてもデータが入手できる、女性でも活躍の場が広がる、といったことが実現して、「国籍の壁」「障がいの壁」「不登校の壁」「経歴の壁」「ジェンダーの壁」と5つの壁を克服することができました。
(8)DXによる業績向上とコスト削減
DXによる業績向上とコストの削減についてお話いたします。
まず利益です。2024年の売上総利益額が2023年比で236%アップしました。
次はベースアップです。私たちはベースアップをすごく重視していて、2022年は5.5%アップ、2023年は2.3%アップ、2024年は4.7%アップ、弊社は9月決算であり、多分すごくいい結果だったので、2025年はもうちょっとベースアップを、という感じでやりたいと思っております。
次が業務効率化です。
定型業務が3万時間以上あったのですが、DX後は9,500時間になり、約68%カットすることができました。
次が在庫の削減です。データがリアルタイムで見られることによって、「これは多すぎるからもう作らなくていいのではないか?」といったコミュニケーションがすごく増えましたので、以前は1億6,000万あった在庫が6,000万まで減りました。
さらに、固定費が4,000万円カットできております。
(9)取材・講演実績
DXを頑張ると、いいことがいっぱいあるなと感じております。先日も関東財務局で講演させていただいたり、本日こうやって講演に呼んでいただいたり、「日経トップリーダー」で特集を組んでくださったり、いろいろなところで取材を受けさせていただけることになりました。
また賞につきましても、日本中小企業大賞の「働き方改革賞」で最優秀賞を受賞させていただいたり、「日本DX大賞」で優秀賞ですとか、あと「JAPAN HR DX AWARDS」の最優秀賞、「Forbes Women AWARD」についても審査結果があったのですが、1,700社の中で2位を受賞させていただいたりしました。
中小企業は本当にこういうことがありがたいのです。広告宣伝費にお金を出すことができないので、賞を取ったり、講演に呼んでいただけると、それだけで広告になったりしますので、それがどんどん良い効果を生んでおります。
(10)成果
4,000万円固定費が削減できたので、いろいろな幸せが生まれました。
幸せの一つはもちろんベースアップとプラス賞与です。
その他に、医療費年間100万円支給という松本興産独自の取り組みがあります。みんなで出した利益を何かしら使えないか、ということで話し合って、癌などの難病を抱える社員やパートが、治療費や移動に使えるよう、年間100万円をプレゼントしております。
みんなでDXを頑張ると、こういった救える源にもなるのだ、というふうに社員たちが分かると、なんか人間らしいですよね。こういうのが私は好きだなと思っております。
また、オフィスガーデンも計画しています。秩父工場の隣に、社員たちがガーデンを眺めながら仕事ができたりする福利厚生施設を建設しようかなと思っております。
最後に
最後になりますが、冒頭、「田舎企業がIT人材ゼロでもDX日本一へ」と申し上げましたが、DXを始めるまでは私自身も正直、松本興産は田舎企業だからこんなもんでしょう、みたいな感じでいた気がします。
でも、赤字になりそうだ、という崖っぷちに立たされた時に、できるものは何でもやってやろう、という感じでやってきました。
トップが「私、本当に本気だからね」というのを醸し出していくと、だんだん社員たちも、「俺らでもやれるんじゃないか」という感じで、灯火がみんなに点いていったかなと思っています。
これが松本興産のDXの改革になります。
ご清聴いただきまして、どうもありがとうございました。
以上
講師略歴
松本 めぐみ(まつもと めぐみ)
松本興産株式会社 取締役
アメリカ半導体企業へ就職、エンジニアを経験後、スイスへ留学しMBAを取得。2015年、夫が経営する松本興産株式会社の取締役に就任。あらゆる問題に直面する中、会社が利益を上げつつ、同時に経営者と従業員が共に幸せでいられる方法を模索し、心理学や脳科学、仏教等を勉強、「風船会計メソッド」の考案に至る。2022年にStar Compass株式会社を設立し、「風船会計メソッド」の特許を取得。
著書に『風船会計メソッド』(2023年、幻冬舎)など。