個別旅客輸送の未来とロボットタクシー
大臣官房総合政策課 調査員 齊之平 大致/瀧岡 信太朗
本稿では、国内の個別旅客輸送の現状について考察し、ロボットタクシーの可能性について展望する。
個別旅客輸送の現状
昨今、インバウンド需要の高まり(図表1 訪日外国客数)や高齢化の進展(図表2 年齢別人口推移)を背景に、訪日外客の移動手段(図表3 外国人が滞在時に利用する移動手段)や高齢者の「生活の足」(図表4 高齢者の自動車運転免許保有率、5 目的別の平均外出頻度)として、大量輸送を行う公共交通機関では対応しきれない、パーソナライズされた移動手段にかかる需要が一定程度あると考えられる。
他方で、こういった個別旅客輸送に対応し得る代表的な交通機関であるタクシーにおいては、ドライバーの減少、高齢化が進んでいる(図表6 タクシー運転者数、7 タクシー運転者の年齢構成)。
個々人の移動ニーズに対応する輸送手段が減少しつつある現状を踏まえ、今後の展望について考察していきたい。
(出所)日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」、内閣府「移動実態等に関する調査結果(令和6年調査)」、内閣府「交通安全白書(令和6年版)」、国土交通省「全国都市交通特性調査(令和3年調査)」、国土交通省「数字で見る自動車2024」、厚生労働省「賃金構造基本統計調査(令和5年)」
個別旅客輸送の確保に向けた取組み
前述の課題に対応すべく、様々な施策が講じられている。その一つとしてライドシェアが挙げられる。ライドシェアは、アプリなどを通じて運転手と同乗者をマッチングさせるサービスであり、事業者が車を貸し出すカーシェアとは区別される概念である(図表8 ライドシェアとカーシェアの比較)。タクシーに限らず広く一般として交通手段を提供し得るため、有用な選択肢となり得よう。
世界的にもライドシェア市場は拡大しつつある。そうした背景もあり、2024年より我が国においても「日本版ライドシェア(自家用車活用事業)」が導入されたが、現行は法規制の枠組みのもとで一定の制限下で導入されているものであり、海外と比べると普及拡大へのブレーキとなっている事情が推察される(図表9 日本版ライドシェアの概要)。
そのほか、近年は配車アプリの拡大により、スマホなどを通じてより手軽にタクシーを利用することが可能となっている。2024年実施のアンケート調査によると年間利用率は約2割で、今後も利用者の増加が期待される(図表10 配車アプリの利用率、11 配車アプリ・ライドシェア利用者数の推移・予測)。
(出所)(株)三井住友銀行「タクシー業界の動向と今後の方向性」、国土交通省「日本版ライドシェア、公共ライドシェア等について」、(株)ICT総研「2024年 タクシー配車アプリ・ライドシェア利用動向調査」、(株)第一生命経済研究所「日本版ライドシェアとは?」
自動運転技術の概要と取り巻く環境
一方、自動車業界を取り巻く状況として、近年、自動運転技術が注目されつつある。
国土交通省による先進安全自動車推進計画によれば、自動運転は、「運転者ではなくシステムが、運転操作に関わる認知、予測、判断、操作の全てを代替して行い、車両を自動で走らせること」と定義される。また、自動運転の技術レベルについて、米国の自動車技術会によって示された基準にしたがえば、自動化の度合いに応じた5段階評価が可能である(図表12 自動運転レベルの一覧)。こちらの基準に即してみると、現時点における自動運転の技術水準は、未だ発展途上段階のものと考えられるが、現在の技術革新を踏まえると、今後急速な拡大を見せる示唆もある(図表13 レベル別の自動運転市場予測、14 電気自動車市場に占める自動運転車のレベル別割合)。
現在、北米や中国などを中心に盛り上がりを見せる自動運転業界であるが、こうした世界的な潮流を背景に、我が国においても、自動運転実用化に向けた政府指針が示されているなど、国内の自動運転市場の今後の拡大にも期待が持たれる(図表15 国・地域別の自動運転市場予測、16 自動運転にかかる政府取組み)。
(出所)国土交通省自動車局先進安全自動車推進検討会「先進安全自動車(ASV)推進計画 報告書 -第6期ASV推進計画における活動成果について-」、矢野経済研究所「2022 自動運転システムの可能性と将来展望」、RBC Capital Markets「Autos - RBC ADAS and AV Forecast」、富士キメラ総研「2024 自動運転・AIカー市場の将来展望」、国土交通省「自動運転の実現に向けた取り組みについて」
今後の展望
こういった自動運転の技術は、個別旅客輸送の分野において活用が期待される。ドライバーの減少により供給力低下が不安視される中、高まる需要に応えていくうえで大いに活躍を期待できよう。
最近では、レベル4以上の自動運転技術を搭載した輸送インフラとして「ロボットタクシー」が注目されている。国内外において、実際の運用に向けた取組みが図られており(図表17 国内外の主な「ロボットタクシー」にかかる取組みの例)、今後さらなる飛躍が期待される領域だ(図表18 「ロボットタクシー」にかかる収益予測)。
なお、いまだ発展途上の自動運転の運用にあたっては、技術的な課題のほか(図表19 「ロボットタクシー」実用化に向けて求められる機能水準)、社会的側面からクリアしていくべきポイントなど障壁は多々あろう(図表20 「ロボットタクシー」実用化に向けた課題)。アンケート結果などを踏まえても、新たな交通手段としての期待の声がある一方、現時点における技術レベルなどを勘案して安全性やコスト面を懸念する声もきかれる(図表21 「ロボットタクシー」にかかるアンケート調査)。
日本社会における個別旅客輸送を安定確保していくうえでも、自動運転技術のさらなる発展、そして「ロボットタクシー」の今後の躍進に期待したい。
(出所)各種報道等、PwC「デジタル自動車レポート2022」、国土交通省「自動運転の実現に向けた取り組みについて」、野村総合研究所「ロボタクシーサービスのグローバル消費者意識調査-NRI 自動車業界レポート 2023-」
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。