大臣官房総合政策課 課長補佐兼経済動向調査官 本庄 登/経済動向調査係長 本野 大幹
1.はじめに
全国の地価は、景気が緩やかに回復している中、三大都市圏のみならず地方圏においても、上昇基調が強まっていると言われている(国土交通省、2024)。ただし、地価の変動は地域によって差異がみられ、その差異は、人口動態、経済状況、社会的・政策的要因など、地域の様々な動向を反映していると考えられる。
こうした、地域の現状を映し出す鏡とも言える地価をレンズとし、地域の変化と影響を与える要因を読み取るとともに、地域の活性化に寄与する事例を紹介すべく、令和7年1月30日に開催した全国財務局長会議・管内経済情勢報告において、地価を通してみる地域経済の動向と地域活性化の取組と題する特別調査(以下、「本調査」という。)の結果を報告した。
本稿では、そのうち、「地価を通してみる地域経済の動向」について取りまとめた調査結果の一端を紹介したい。なお、本調査では、定量分析と、地理情報システムより作成したマップに基づく定性分析をミックスさせた分析手法を採用している。
2.地域間でみられる地価の格差とその変遷
図1 過去30年間の地価は、日本の過去30年間の地価(住宅地)を、価格帯別に色分けしてマッピングしたものであり、「都道府県地価調査」が提供する郵便番号レベルのデータを利用した。マップ上の濃い色のドットは、地価がより高いことを意味している。
まず、マップの上部に記載した平均地価が示すように、1990年代から2010年代にかけて地価は下落したものの、2020年代は2010年代と比べて地価は上昇している。また、三大都市圏ではドットの色が濃く、相対的に地価の水準が高い一方、三大都市圏以外では地価が低下した地域もみられる。これらは、バブル期の地価の急上昇とその後の長期的な調整期を経て、地域間で地価の格差が生じていることを示唆している。
続いて、三大都市圏の地価にフォーカスした図2 三大都市圏の地価をみると、三大都市圏の都市周辺部では、1990年代から2010年代にかけて地価が高いエリアが縮小している。しかしながら、2010年代から2020年代にかけて、高地価のエリアが拡大しており、都市周辺部においては土地需要が再び高まっている様子が観察された。
3.地価の地域間格差をもたらす要因は何か
では、どのような要素が地価の格差を生じさせているのだろうか。さらに、地価が高いエリアと低いエリアとでその関係性の強弱に差異はみられるだろうか。
先行研究では、人口動態と地価の関係性が指摘されている(Mankiew and Weil, 1988; Tamai et al., 2017; Takáts, 2012)。中村・才田(2007)は、居住人口の増加による土地需要の高まりによって、地価が上昇する可能性があると指摘する。こうした先行研究の指摘を踏まえると、たとえば、都市の中心部や職場(雇用機会)へのアクセス、充実したインフラ、優れた子育て環境などの都市アメニティを備えているエリアは、子育て世帯をはじめとする多様な世代の人々を惹きつけ、他の市区町村からの転入を増やし、地価が高くなる傾向があると考えられるだろうか。他方で、一人当たり所得と地価の関係を分析した先行研究(光多ほか,2012)があるが、高賃金を支払える企業が集積するエリアでは、所得の高い人々が居住し、地価も高くなるかもしれない。
本調査の関心の一つである、三大都市圏等とそれ以外の地域とで地価の格差が生じる要因を検討するにあたっては、ヘドニック・アプローチ的*1な視点を持ちつつ、マクロ経済要因を考慮することが必要かもしれない。
以上を踏まえ、本調査では、以下の三つの要素と地価の関係性を分析した。
(ア)出生率(出生数/人口)
(イ)純転入者人口比率(純転入者数/人口)
(ウ)一人当たり所得(課税対象所得/人口)
4.地価と三つの要素に関する分析
上記の(ア)出生率、(イ)純転入者人口比率、(ウ)一人当たり所得について、それぞれ市区町村別のデータをマッピングした(図3 出生率、純転入者人口比率、一人当たり所得のマッピング)。いずれのマップも、三大都市圏をはじめとするエリアにおいて色が濃くなっている。このマップは、先にみた図1を想起させ、高地価エリアでは、(ア)(イ)(ウ)も高いという関係性を暗示している。
この定性的な分析を踏まえ、地価が高い市区町村と低い市区町村に分けて、地価と(ア)(イ)(ウ)との相関を確認した(図4 出生率、純転入者人口比率、一人当たり所得と地価との相関)。その結果、高地価の市区町村では、一人当たり所得と地価の間に強い正の相関が観察された一方、低地価の市区町村では、高地価の市区町村と比べ、出生率と地価の間に相対的に強い正の相関がみられた。
しかし、この結果からは、関係性の強さやその統計的有意性を、複数の変数を考慮した上で確認することはできない。そこで、被説明変数を「地価」、説明変数を「出生率」、「純転入者数」、「一人当たり所得」として、重回帰分析を実施した。その際、高地価/低地価の市区町村の各ケースにおいて、地価と(ア)(イ)(ウ)の関係性に差異がみられるかを確認するため、(1)全ての市区町村、(2)高地価の市区町村、(3)低地価の市区町村の三つに分けて分析をした(表1 重回帰分析の結果)。
(1)については、出生率の1%の増加は、約6,950円の地価の増加と関係し(p<0.05)、一人当たり所得の1千円の増加は、約204円の地価の上昇と関係していた(p<0.001)。続いて(2)では、一人当たり所得のみ有意な結果が得られ、一人当たり所得の1千円の増加は、約326円の地価上昇と関係し(p<0.001)、(1)(3)よりも地価との強い関係性が示された。興味深いことに、高地価の市区町村では、一人当たり所得が地価の約7割をも説明できている。(3)は、全ての説明変数について、0.1%水準で有意な結果が得られた。特に、出生率は、その1%の増加が約19,119円の地価上昇と関係し、(1)、(2)よりも地価との関係性がより強かった。ただし、この結果の決定係数は0.31とやや低く、他にも地価と大きく関係する要素の存在が示唆された。
5.まとめ
本調査の結果から、大都市圏をはじめとする高地価の地域では、高所得者の存在が地価と密接に関係しているのに対して、低地価の地域では人口動態、とりわけ出生率が地価と強く関係している可能性が示された。このことは、大都市圏と非大都市圏とで地価形成の背景に差異がみられ、その差異は、経済力の二極化を反映しているとも言える。
東京への一極集中が続いている現状が指摘されて久しい。非大都市圏から大都市圏への人口流出が続いており、これは本稿の結果が示すように、非大都市圏の低地価とも関連していると考えられる。しかし、非大都市圏においても、企業・産業が集積し、雇用機会が創出され、充実したアメニティを備えたエリアが生まれれば、子育て世帯をはじめとする人々を引きつけ、人口の維持・増加を促進し、結果として地域経済の活性化が期待できるかもしれない。
本稿でご紹介した内容に加え、各地域における都市再開発、企業誘致、産業集積、インバウンド等による地価へのポジティブな影響など各財務局が調査した事例は財務省ホームページで御覧いただけます。
地価を通してみる地域経済の動向と地域活性化の取組(特別調査)https://www.mof.go.jp/about_mof/zaimu/kannai/202404/tokubetsu.pdf
※文中、意見にわたる箇所は、個人の見解であり、財務省の公式見解を示すものではありません。
コラム:全国財務局管内経済情勢報告について
日本の経済は日々変化しており、その動向は企業経営や政策決定、私たちの生活にも大きく影響を与えます。その経済の最新状況を地域ごとに分析し、四半期に1度公表しているのが「全国財務局管内経済情勢報告」です。
この報告は、全国の財務局(※)が経済指標の分析を行うとともに、企業や官公庁の皆様の貴重なご協力を頂きながら、現場の生の声を丁寧に収集し、各地域の景気動向を、個人消費、生産活動、雇用情勢などの項目別に詳しくまとめたものです。日頃よりご協力いただいている皆様には、心より感謝申し上げます。財務局は、地域に密着した視点を大切にし、経営者や地元関係者と直接対話を重ねながら、現場の実態をきめ細かく把握しています。たとえば、「建設業は人手不足の影響を受けている」「小売業は消費者の節約志向の強まりから売上が伸び悩んでいる」といった具体的な状況や変化の兆しが示されます。
また、この報告には「特別調査」を設けており、経済の変化や社会の関心が高い事柄について掘り下げています。近年では、「地域企業における賃上げ等の動向」や「地域企業における物価高・円安への対応事例」などを取り上げました。こうした特別調査を通じて、企業活動や家計に影響を与える要因を多角的に分析しています。
全国の財務局が行うこうした調査は、経済の現状を客観的に把握する一つの手がかりとなるものです。「全国財務局管内経済情勢報告」は財務省のホームページで公開されていますので、関心のある方はぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。
==
財務省「全国財務局管内経済情勢報告」
https://www.mof.go.jp/about_mof/zaimu/kannai/index.html
(※)財務局:全国に10の財務(支)局(北海道、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州、福岡)が置かれるほか、沖縄県内は沖縄総合事務局財務部が置かれる。
(参考文献)
Mankiw, N.G. and Weil, D.N. (1988). The Baby Boom, the Baby Bust, and the Housing Market. NBER Working Paper 2794, December.
Rosen, S. (1974). Hedonic prices and implicit markets:product differentiation in pure competition. Journal of Political Economy. 82 (1):34–55.
Tamai, Y., Shimizu, C., and Nishimura, K. G. (2017). Aging and property prices:A theory of very-long-run portfolio choice and its predictions on Japanese municipalities in the 2040s. Asian Economic Papers, Vol. 16, No. 3, 48-74.
Takáts, E. (2012) Aging and house prices. Journal of Housing Economics, 21(2), p.131-141.
国土交通省(2024)「令和6年都道府県地価調査の概要」、
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_fr4_000044.html
中村康治, 才田友美(2007)「地価とファンダメンタルズ-加重平均公示地価指標を用いた長期時系列分析-」、日本銀行ワーキングペーパーシリーズ、No.07-J-6,2007
光多長温,後藤和雄,宍戸駿太郎(2012),わが国の地価変動とその経済要因に関する一考察,地域学研究,2012,42巻,2号,p.271-285
*1) 地価変動の要因を分析するにあたっては、ヘドニック・アプローチ(Hedonic Pricing Approach)と呼ばれる手法がある。この手法は、地価が土地や住宅に関する特性(面積、都心からの距離、自然環境、社会環境等)によって形成されると考え、地価と関係する要因を、回帰分析を用いて分析するものである(Rosen,1974)。さらに、地価に影響を与えるマクロ経済要因(所得水準や人口動態など)を考慮し、地価や住宅価格の形成要因を分析する研究もある(例えば、Mankiw and Weil,1988、中村・才田,2007)。
1.はじめに
全国の地価は、景気が緩やかに回復している中、三大都市圏のみならず地方圏においても、上昇基調が強まっていると言われている(国土交通省、2024)。ただし、地価の変動は地域によって差異がみられ、その差異は、人口動態、経済状況、社会的・政策的要因など、地域の様々な動向を反映していると考えられる。
こうした、地域の現状を映し出す鏡とも言える地価をレンズとし、地域の変化と影響を与える要因を読み取るとともに、地域の活性化に寄与する事例を紹介すべく、令和7年1月30日に開催した全国財務局長会議・管内経済情勢報告において、地価を通してみる地域経済の動向と地域活性化の取組と題する特別調査(以下、「本調査」という。)の結果を報告した。
本稿では、そのうち、「地価を通してみる地域経済の動向」について取りまとめた調査結果の一端を紹介したい。なお、本調査では、定量分析と、地理情報システムより作成したマップに基づく定性分析をミックスさせた分析手法を採用している。
2.地域間でみられる地価の格差とその変遷
図1 過去30年間の地価は、日本の過去30年間の地価(住宅地)を、価格帯別に色分けしてマッピングしたものであり、「都道府県地価調査」が提供する郵便番号レベルのデータを利用した。マップ上の濃い色のドットは、地価がより高いことを意味している。
まず、マップの上部に記載した平均地価が示すように、1990年代から2010年代にかけて地価は下落したものの、2020年代は2010年代と比べて地価は上昇している。また、三大都市圏ではドットの色が濃く、相対的に地価の水準が高い一方、三大都市圏以外では地価が低下した地域もみられる。これらは、バブル期の地価の急上昇とその後の長期的な調整期を経て、地域間で地価の格差が生じていることを示唆している。
続いて、三大都市圏の地価にフォーカスした図2 三大都市圏の地価をみると、三大都市圏の都市周辺部では、1990年代から2010年代にかけて地価が高いエリアが縮小している。しかしながら、2010年代から2020年代にかけて、高地価のエリアが拡大しており、都市周辺部においては土地需要が再び高まっている様子が観察された。
3.地価の地域間格差をもたらす要因は何か
では、どのような要素が地価の格差を生じさせているのだろうか。さらに、地価が高いエリアと低いエリアとでその関係性の強弱に差異はみられるだろうか。
先行研究では、人口動態と地価の関係性が指摘されている(Mankiew and Weil, 1988; Tamai et al., 2017; Takáts, 2012)。中村・才田(2007)は、居住人口の増加による土地需要の高まりによって、地価が上昇する可能性があると指摘する。こうした先行研究の指摘を踏まえると、たとえば、都市の中心部や職場(雇用機会)へのアクセス、充実したインフラ、優れた子育て環境などの都市アメニティを備えているエリアは、子育て世帯をはじめとする多様な世代の人々を惹きつけ、他の市区町村からの転入を増やし、地価が高くなる傾向があると考えられるだろうか。他方で、一人当たり所得と地価の関係を分析した先行研究(光多ほか,2012)があるが、高賃金を支払える企業が集積するエリアでは、所得の高い人々が居住し、地価も高くなるかもしれない。
本調査の関心の一つである、三大都市圏等とそれ以外の地域とで地価の格差が生じる要因を検討するにあたっては、ヘドニック・アプローチ的*1な視点を持ちつつ、マクロ経済要因を考慮することが必要かもしれない。
以上を踏まえ、本調査では、以下の三つの要素と地価の関係性を分析した。
(ア)出生率(出生数/人口)
(イ)純転入者人口比率(純転入者数/人口)
(ウ)一人当たり所得(課税対象所得/人口)
4.地価と三つの要素に関する分析
上記の(ア)出生率、(イ)純転入者人口比率、(ウ)一人当たり所得について、それぞれ市区町村別のデータをマッピングした(図3 出生率、純転入者人口比率、一人当たり所得のマッピング)。いずれのマップも、三大都市圏をはじめとするエリアにおいて色が濃くなっている。このマップは、先にみた図1を想起させ、高地価エリアでは、(ア)(イ)(ウ)も高いという関係性を暗示している。
この定性的な分析を踏まえ、地価が高い市区町村と低い市区町村に分けて、地価と(ア)(イ)(ウ)との相関を確認した(図4 出生率、純転入者人口比率、一人当たり所得と地価との相関)。その結果、高地価の市区町村では、一人当たり所得と地価の間に強い正の相関が観察された一方、低地価の市区町村では、高地価の市区町村と比べ、出生率と地価の間に相対的に強い正の相関がみられた。
しかし、この結果からは、関係性の強さやその統計的有意性を、複数の変数を考慮した上で確認することはできない。そこで、被説明変数を「地価」、説明変数を「出生率」、「純転入者数」、「一人当たり所得」として、重回帰分析を実施した。その際、高地価/低地価の市区町村の各ケースにおいて、地価と(ア)(イ)(ウ)の関係性に差異がみられるかを確認するため、(1)全ての市区町村、(2)高地価の市区町村、(3)低地価の市区町村の三つに分けて分析をした(表1 重回帰分析の結果)。
(1)については、出生率の1%の増加は、約6,950円の地価の増加と関係し(p<0.05)、一人当たり所得の1千円の増加は、約204円の地価の上昇と関係していた(p<0.001)。続いて(2)では、一人当たり所得のみ有意な結果が得られ、一人当たり所得の1千円の増加は、約326円の地価上昇と関係し(p<0.001)、(1)(3)よりも地価との強い関係性が示された。興味深いことに、高地価の市区町村では、一人当たり所得が地価の約7割をも説明できている。(3)は、全ての説明変数について、0.1%水準で有意な結果が得られた。特に、出生率は、その1%の増加が約19,119円の地価上昇と関係し、(1)、(2)よりも地価との関係性がより強かった。ただし、この結果の決定係数は0.31とやや低く、他にも地価と大きく関係する要素の存在が示唆された。
5.まとめ
本調査の結果から、大都市圏をはじめとする高地価の地域では、高所得者の存在が地価と密接に関係しているのに対して、低地価の地域では人口動態、とりわけ出生率が地価と強く関係している可能性が示された。このことは、大都市圏と非大都市圏とで地価形成の背景に差異がみられ、その差異は、経済力の二極化を反映しているとも言える。
東京への一極集中が続いている現状が指摘されて久しい。非大都市圏から大都市圏への人口流出が続いており、これは本稿の結果が示すように、非大都市圏の低地価とも関連していると考えられる。しかし、非大都市圏においても、企業・産業が集積し、雇用機会が創出され、充実したアメニティを備えたエリアが生まれれば、子育て世帯をはじめとする人々を引きつけ、人口の維持・増加を促進し、結果として地域経済の活性化が期待できるかもしれない。
本稿でご紹介した内容に加え、各地域における都市再開発、企業誘致、産業集積、インバウンド等による地価へのポジティブな影響など各財務局が調査した事例は財務省ホームページで御覧いただけます。
地価を通してみる地域経済の動向と地域活性化の取組(特別調査)https://www.mof.go.jp/about_mof/zaimu/kannai/202404/tokubetsu.pdf
※文中、意見にわたる箇所は、個人の見解であり、財務省の公式見解を示すものではありません。
コラム:全国財務局管内経済情勢報告について
日本の経済は日々変化しており、その動向は企業経営や政策決定、私たちの生活にも大きく影響を与えます。その経済の最新状況を地域ごとに分析し、四半期に1度公表しているのが「全国財務局管内経済情勢報告」です。
この報告は、全国の財務局(※)が経済指標の分析を行うとともに、企業や官公庁の皆様の貴重なご協力を頂きながら、現場の生の声を丁寧に収集し、各地域の景気動向を、個人消費、生産活動、雇用情勢などの項目別に詳しくまとめたものです。日頃よりご協力いただいている皆様には、心より感謝申し上げます。財務局は、地域に密着した視点を大切にし、経営者や地元関係者と直接対話を重ねながら、現場の実態をきめ細かく把握しています。たとえば、「建設業は人手不足の影響を受けている」「小売業は消費者の節約志向の強まりから売上が伸び悩んでいる」といった具体的な状況や変化の兆しが示されます。
また、この報告には「特別調査」を設けており、経済の変化や社会の関心が高い事柄について掘り下げています。近年では、「地域企業における賃上げ等の動向」や「地域企業における物価高・円安への対応事例」などを取り上げました。こうした特別調査を通じて、企業活動や家計に影響を与える要因を多角的に分析しています。
全国の財務局が行うこうした調査は、経済の現状を客観的に把握する一つの手がかりとなるものです。「全国財務局管内経済情勢報告」は財務省のホームページで公開されていますので、関心のある方はぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。
==
財務省「全国財務局管内経済情勢報告」
https://www.mof.go.jp/about_mof/zaimu/kannai/index.html
(※)財務局:全国に10の財務(支)局(北海道、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州、福岡)が置かれるほか、沖縄県内は沖縄総合事務局財務部が置かれる。
(参考文献)
Mankiw, N.G. and Weil, D.N. (1988). The Baby Boom, the Baby Bust, and the Housing Market. NBER Working Paper 2794, December.
Rosen, S. (1974). Hedonic prices and implicit markets:product differentiation in pure competition. Journal of Political Economy. 82 (1):34–55.
Tamai, Y., Shimizu, C., and Nishimura, K. G. (2017). Aging and property prices:A theory of very-long-run portfolio choice and its predictions on Japanese municipalities in the 2040s. Asian Economic Papers, Vol. 16, No. 3, 48-74.
Takáts, E. (2012) Aging and house prices. Journal of Housing Economics, 21(2), p.131-141.
国土交通省(2024)「令和6年都道府県地価調査の概要」、
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_fr4_000044.html
中村康治, 才田友美(2007)「地価とファンダメンタルズ-加重平均公示地価指標を用いた長期時系列分析-」、日本銀行ワーキングペーパーシリーズ、No.07-J-6,2007
光多長温,後藤和雄,宍戸駿太郎(2012),わが国の地価変動とその経済要因に関する一考察,地域学研究,2012,42巻,2号,p.271-285
*1) 地価変動の要因を分析するにあたっては、ヘドニック・アプローチ(Hedonic Pricing Approach)と呼ばれる手法がある。この手法は、地価が土地や住宅に関する特性(面積、都心からの距離、自然環境、社会環境等)によって形成されると考え、地価と関係する要因を、回帰分析を用いて分析するものである(Rosen,1974)。さらに、地価に影響を与えるマクロ経済要因(所得水準や人口動態など)を考慮し、地価や住宅価格の形成要因を分析する研究もある(例えば、Mankiw and Weil,1988、中村・才田,2007)。