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「気候変動に強靱(きょうじん)な債務条項(CRDC)」を導入するためのパイロット・プログラムの開始について


国際局開発政策課 課長補佐 日向寺 裕芽子/係長 橘高 秀

 財務省・外務省と独立行政法人国際協力機構(JICA)は令和6年11月13日、自然災害で被災した国に対して、円借款の返済を猶予する仕組みである「気候変動に強靱(きょうじん)な債務条項(CRDC)」を導入するパイロット・プログラムの開始を公表しました。本稿では、このプログラム導入の背景及びその内容について説明します。
 日本が開発途上国に対して行う政府開発援助(ODA)の各種協力のうち、低利で長期の緩やかな条件で開発資金を貸し付ける枠組みである「円借款」では、主に経済や生活に欠かせない道路や鉄道、発電所などのインフラ建設支援を通じて発展を援助しています。相手国の所得階層や適用金利により異なるものの、一般に数十年に及ぶ長期の償還期限が設けられています。
 近年、台風や洪水等、気候変動による自然災害が激甚化している中、円借款供与の対象となるような開発途上国では未だ多くのインフラや建築物が脆弱なため、先進国に比してより甚大な被害が出やすい傾向にあります。
 今回のプログラムで導入する「気候変動に強靱(きょうじん)な債務条項(Climate Resilient Debt Clause, CRDC)」と呼ばれる債務措置では、特定の自然災害が発生した際、円借款の償還を一時的に繰り延べることで、被災国が資金の流動性を確保し、財政的負担を緩和することを可能にします。
 制度設計に細かい相違はあるものの、同様の債務措置は既に、世界銀行や米州開発銀行の行う貸付にパイロット形式で導入されている他、実際に導入したイギリスによるグレナダへの貸付において、2024年夏に発生したハリケーンによる被害を事由に1年間の利子支払が繰り延べられる事例が報じられています*1。
 G20財務大臣・中央銀行総裁会議においても、CRDCの導入が積極的に議論されており、日本も、2024年5月の日・太平洋島嶼国財務大臣会議にて、島嶼国等を対象としたパイロット・プログラムの立ち上げを表明しました。
 今回日本が導入する2年間のパイロット・プログラムでは、太平洋島嶼国など16カ国*2を対象としており、JICA円借款による新規貸付に対して、相手国との交渉に応じて導入されます。対象となる自然災害は、一定以上の強度を持つ台風及び地震*3です。実際に自然災害が発生した場合には、元本及び利子を最長2年間繰り延べます*4。
 先行して実施している機関においても、実際の運用状況を観察しながら制度の見直しを不断に行っているところであり、日本のプログラムにおいても、被支援国の意向や、導入に係る事務負担、及び先行実施機関・諸外国の動向を踏まえつつ、パイロット終了後の時点で、本格導入の有無や制度の改変について改めて検討する予定です。

写真 2024年11月COP29のサイドイベントの場でパイロット・プログラムについてプレゼンする渡邉副財務官

*1) Financial Times, Grenada triggers ‘hurricane clause’ to suspend bond payments (2024年8月23日)
https://www.ft.com/content/06bdabb2-2abb-45ab-9ee4-94e1c328598f
https://www.ft.com/content/06bdabb2-2abb-45ab-9ee4-94e1c328598f
*2) キリバス共和国、サモア独立国、ソロモン諸島、ツバル、トンガ王国、バヌアツ共和国、ナウル共和国、ニウエ、パプア・ニューギニア独立国、パラオ共和国、東ティモール民主共和国、フィジー共和国、マーシャル諸島共和国、ミクロネシア連邦、モルディブ共和国、ブータン王国。
*3) 台風は、国際的に用いられている持続的な風速に基づいた5段階尺度で、カテゴリー3以上である最大風速時速178km(1分平均計測の場合)以上、又は時速119km(10分平均計測の場合)以上。地震は、マグニチュード7.0以上、かつ、震源の深さ175km以内。
*4) 繰延前後で債権の平均残存期間を維持するような方法で、償還スケジュールを組みなおします。