主計局主計官 寺﨑 寛之
文中、〔 〕書きの金額は、令和6年度当初予算比の増減を表す。
〇 経済産業省予算
1 概観
経済産業省の令和7年度一般会計予算は、エネルギー対策特別会計への繰入の削減等により、対前年度当初予算で▲189億円の8,506億円となっている。
主な項目で見ると、エネルギー対策特別会計において、カーボンプライシングで得られる将来の財源を裏付けとした「GX経済移行債」を発行し、官民のGX投資を促進することとしており、次世代太陽電池等のサプライチェーン構築等に必要な予算を計上している。また、経済対策で決定した「AI・半導体産業基盤強化フレーム」に基づき、次世代半導体の量産化に向けた金融支援や、先端半導体設計拠点等の整備等に必要な予算を計上している。
科学技術振興費について、科学技術立国の観点から、特に、新産業創出につながる先進的な研究開発、サイバーセキュリティ対策等に必要な予算を計上している。
また、価格転嫁対策の推進、経営改善・事業承継等に係る支援体制の整備など、持続的な賃上げに向けた環境整備等に必要な予算を計上している。(政府全体及び中小企業庁計上の中小企業対策費は、前年度を上回る予算を措置。)
東日本大震災復興特別会計においては、復興の進展も踏まえ、避難指示解除区域等への企業立地の促進や、福島国際研究教育機構におけるロボット分野の研究開発の実施等に必要な予算を計上し、引き続き復興支援を推進することとしている。
2 GX・半導体・エネルギー対策
エネルギー対策特別会計において、カーボンプライシングで得られる将来の財源を裏付けとした「GX経済移行債」を発行し、官民のGX投資を促進することとしている。また、経済対策で決定した「AI・半導体産業基盤強化フレーム」に基づく支援を実施することとしている。
(1)GX(GX経済移行債)
カーボンプライシングで得られる将来の財源を裏付けとした「GX経済移行債」の発行により、官民のGX投資を促進することとし、計7,258億円の支援を実施。
具体的には、ビルの壁面などに設置可能な軽量で柔軟なペロブスカイト太陽電池等の製造設備等への投資支援や従来の太陽電池では設置が難しい場所へのモデル導入に対し660億円〔+112億円〕、次期航空機の機体の軽量化やエンジンの高効率化に向けた技術実証等に対し81億円〔新規〕、CO2の発生を抑える製鉄手法の導入に必要な設備投資に対し256億円〔▲71億円〕等を計上している。
(2)AI・半導体(AI・半導体産業基盤強化フレーム)
経済対策で決定した「AI・半導体産業基盤強化フレーム」に基づき、次世代半導体の量産化に向けた金融支援や、先端半導体設計拠点等の整備等、計3,328億円の支援を実施。
※なお、支援に当たっては、第三者の外部有識者による評価等の下で、支援フレーム全体及び支援対象事業の政策目的の達成状況を検証するとともに、大規模な支援対象事業については適切なマイルストーンを設定し、その達成状況等を確認しながら、事業計画の認定・見直しや支援継続の要否等を議論する枠組みを設ける。その上で、事業者の営業秘密の観点に配意しつつ、その確認結果や判断内容を公表するなど、透明性を持って説明責任を果たしながら支援を行っていく。
具体的には、次世代半導体の量産設備の整備等に係る資金需要の対応や財務基盤の強化等のために、次世代半導体事業者に対して出資支援※を講じるべく、(独)情報処理推進機構(IPA)への出資に1,000億円〔新規〕を計上している。
※次世代半導体の量産等に向けた金融支援等を実施するために必要な法案を、通常国会に提出。
また、我が国企業が共同利用可能な先端半導体設計拠点等の整備を行い、設計ツールの提供や設計サポート等を行うことで、半導体分野への参入や先端半導体の開発等を支援するために318億円〔新規〕、革新的AI半導体の開発を目指し、超低消費電力を実現するデバイスや回路技術の設計・開発に向けた研究開発に400億円〔新規〕等を計上している。
(3)燃料安定供給・エネルギー需給構造高度化対策(石油石炭税財源)
石油石炭税収を財源とするエネルギー需給勘定において、石油・天然ガスの安定供給確保のため、必要な開発案件への支援や国内石油精製機能の強化等による石油供給構造の高度化等に必要な経費を計上している「燃料安定供給対策」、内外の経済的、社会的環境に応じた安定的かつ適切なエネルギー需給構造の構築を図るため、再生可能エネルギーの利用拡大のための技術開発に要する経費及び省エネルギー設備等の導入支援に要する経費等を計上している「エネルギー需給高度化対策」を実施。
具体的には、洋上風力発電事業の実施可能性が見込まれる海域を対象として、風況調査や海底地盤調査など、洋上風力発電事業の採算を分析するために必要な基礎調査を実施する洋上風力発電の導入拡大に向けた基礎調査事業91億円〔+26億円〕、地熱開発促進に向けて、(独)エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)による噴気試験を含むポテンシャル調査等を実施する地熱発電の資源量調査等事業121億円〔+1億円〕等を計上している。
(4)電源立地・利用対策(電源開発促進税財源)
電源開発促進税収を財源とする電源開発促進勘定において、発電設備の建設と運転を円滑にすることを目的とする「電源立地対策」、発電用施設の利用促進と安全確保等を目的とする「電源利用対策」及び「原子力安全規制対策」を実施。
具体的には、「電源立地対策」及び「電源利用対策」の経済産業省所管分として、それぞれ1,599億円〔+25億円〕、113億円〔▲35億円〕を計上している。このうち、発電用施設等の立地の促進及び運転の円滑化を図るため、立地自治体に対して交付する電源立地地域対策交付金について、設備容量や発電電力量等に基づき777億円〔+17億円〕を計上している。また、「福島復興の加速のための迅速かつ着実な賠償等の実施にむけて」(令和5年12月22日原子力災害対策本部決定)を踏まえ、中間貯蔵施設費用相当分について、原子力損害賠償・廃炉等支援機構に対する交付金として470億円〔同額〕を計上している。
3 科学技術関係
科学技術立国の観点から、新産業創出につながる先進的な研究開発やサイバーセキュリティ対策等に必要な経費を確保しており、一般会計の科学技術振興費で1,143億円〔▲51億円〕を計上している。
具体的には、先導研究・懸賞金型事業に43億円〔+23億円〕を計上しているほか、産業サイバーセキュリティ対策の強化に向けた環境整備事業に54億円〔+10億円〕(中小企業対策費3億円含む)、カーボンニュートラル等の実現に向けたデータ収集手法の開発事業に667億円の内数〔新規〕を計上している。
※一般会計の科学技術振興費については、令和6年度予算から、独法等に対するサイバー攻撃等監視に係る第二GSOC(政府関係機関情報セキュリティ横断監視・即応調整チーム)のシステム更改に係る一時的な経費が剥落(▲57億円)。
4 中小企業対策
中小企業対策費は、経済産業省予算のほか、財務省予算及び厚生労働省予算に計上されており、一般会計全体で1,695億円〔+1億円〕を計上している。
特に令和7年度予算においては、価格転嫁対策、経営改善・事業承継等に係る支援体制の整備など、持続的な賃上げに向けた環境整備等に必要な予算を計上している。
具体的には、下請Gメンによる取引実態の把握・活用や指導の徹底等により下請法を厳正に執行するほか、「下請かけこみ寺」における相談対応等を実施する中小企業取引対策事業29億円〔+1億円〕、収益力改善や事業再生等の支援やマッチング支援等を実施する中小企業活性化・事業承継総合支援事業144億円〔▲2億円〕、中小企業・小規模事業者が抱える様々な経営課題に対応するワンストップ相談窓口を設置し、経営課題の解決に向けた支援等を実施する中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業34億円〔▲0.4億円〕、中小企業が大学・公設試験機関等と連携して行う研究開発等の取組を支援する成長型中小企業等研究開発支援事業123億円〔▲5億円〕を計上している。資金繰り対策については、(株)日本政策金融公庫による低利融資や信用保証協会の債務保証等を円滑に行うため823億円〔+28億円〕を計上している。
5 復興関係(東日本大震災復興特別会計)
特定復興再生拠点の避難指示解除を踏まえ、被災地域における企業立地の促進等について、地域の実情に応じた支援の重点化を進めるために必要な予算を計上している。また、福島国際研究教育機構に関し、経済産業省関連では、ロボットやエネルギー、放射線の産業利用といった分野の研究開発について、これまでの研究の進捗を踏まえ、必要な予算を計上している。
具体的には、東日本大震災及び原子力災害によって産業が失われた避難指示解除区域等において、雇用の創出及び産業集積を図り、被災者の自立・帰還を加速するため、工場等の新増設の支援を実施するため110億円〔▲12億円〕、災害現場等の過酷環境下や人手不足の産業現場等でも対応可能となるようなロボットの研究開発を実施するとともに、再生可能エネルギーを動力源として利用する水素エネルギーネットワークの構築等の技術開発等を実施するため63億円〔+2億円〕等を計上している。
〇 環境省予算
1 概観
環境省の令和7年度一般会計予算は、3,096億円を計上しており、うち1,173億円がエネルギー対策費、452億円が公共事業関係費、295億円が科学技術振興費、720億円がその他経費、456億円が原子力規制委員会関係となっている。また、東日本大震災復興特別会計において2,536億円を計上している。
2 エネルギー対策費
2050年カーボンニュートラル及び2030年度削減目標の実現に向けて、エネルギー対策特別会計において、令和4年度に創設された地域脱炭素移行・再エネ推進交付金について、達成目標の明確化等の制度見直しや中間評価を踏まえた事業のブラッシュアップ等を行った上で、自営線を用いたマイクログリッド構築等を支援する交付金(特定地域脱炭素移行加速化交付金)とあわせて385億円〔▲40億円〕を計上しているほか、我が国のエネルギー消費の約15%を占める家庭部門のCO2削減目標達成に貢献するため、住宅のZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)化及び断熱リフォームの支援に85億円〔▲25億円〕を計上している。また、経済成長や地方創生を同時に達成するため、循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行に向けて、先進的な資源循環技術や設備の導入支援に150億円〔+100億円〕を計上している。そのほか、COP29(国連気候変動枠組条約第29回締約国会議)における議論等を踏まえ、我が国のCO2排出量削減にも資する脱炭素インフラ等の輸出を推進するため、日本企業による優れた脱炭素技術のパートナー国への導入支援に143億円〔▲0.2億円〕を計上している。
3 公共事業関係費
平成初期以降にダイオキシン類対策等のために整備した一般廃棄物処理施設の老朽化による更新需要に対応するため、都道府県が策定した長期広域化・集約化計画に基づき、更なる広域化・集約化に取り組む自治体に対する支援を拡充した上で、廃棄物処理施設の災害強靱化や地球温暖化対策の強化を推進するため、274億円〔+1億円〕(※)を計上している。
※廃棄物処理施設の整備については、一般会計の公共事業関係費において、環境省予算274億円のほか、国土交通省予算(北海道・離島)で23億円、内閣府予算(沖縄)で12億円を計上している。
4 科学技術振興費・その他経費
GOSAT(温室効果ガス観測技術衛星)等を活用し、気候変動の影響及び適応に関する調査・研究を推進するとともに、PFAS(有機フッ素化合物)等の現下の環境問題対応のために必要な研究基盤の構築等を推進するために172億円〔+0.2億円〕を計上しているほか、2030年までに生物多様性の損失を止め、回復軌道に反転させる「ネイチャーポジティブ」の実現を目指すため、地域生物多様性増進法等に基づく計画の認定加速化や活動支援を行い、OECM(保護地域以外の生物多様性保全に資する地域)の設定等を推進するため、6億円〔+3億円〕を計上している。
5 原子力規制委員会
原子力規制に必要な知見を有する人材を育成し、審査・検査体制等の充実・強化につなげるため、国内の大学等における原子力規制に係る教育研究プログラム確立に5億円〔+0.3億円〕を計上しているほか、令和6年能登半島地震において地盤の隆起や変位・変形が生じたことを踏まえ、断層の活動性の評価手法等について新たな知見を取得し、審査ガイドラインの見直し等を実施するために5億円〔+2億円〕を計上している。
6 東日本大震災復興特別会計
福島の復興を着実に支援するため、福島県内で発生した除去土壌等を最終処分するまでの間、安全かつ集中的に管理・保管するための中間貯蔵施設の整備及び管理運営等の実施に1,045億円〔+37億円〕、帰還困難区域の復興・再生に取り組むため、同区域内に定められた特定復興再生拠点区域における除染・家屋解体等の実施に200億円〔▲171億円〕、及び、新たに定められた特定帰還居住区域における除染・家屋解体等の実施に620億円〔+170億円〕を計上している。
※上記環境省予算のほか、内閣府予算(原子力防災担当)において、地域防災計画・避難計画の具体化・充実化を進めるため、道府県が行う原子力災害時の防災活動に必要な放射線測定器、防護服等の資機材の整備を促進するほか、緊急時避難円滑化事業により、避難経路の強靱化やヘリポートの整備等、避難の円滑化の着実な推進に123億円(エネルギー対策特別会計)を計上している。
〇 裁判所、警察庁、法務省予算
1 裁判所
裁判所の令和7年度一般会計予算は、3,352億円〔+42億円〕を計上している。このうち人件費は、2,711億円〔▲1億円〕である。
裁判手続等のデジタル化を着実に進めるとの観点から、民事訴訟事件及び家事・民事非訟事件等の各種手続のデジタル化に係るシステム整備や、ウェブ会議の実施のための環境整備等の実施として126億円〔+70億円〕を計上している。
また、令和6年5月に成立した民法等の一部を改正する法律に伴う家族法の改正を受け、その円滑な施行に向けた体制整備のため、家庭裁判所の紛争解決能力の強化として55億円〔+2億円〕を計上している。
2 警察庁
警察庁の令和7年度一般会計予算は、3,113億円〔+4億円〕(デジタル庁一括計上額239億円を含む)を計上している。このうち人件費は、1,094億円〔+32億円〕であり、交通反則金収入を原資とする交付税及び譲与税配付金特別会計の繰入金が471億円である。
分野別では、いわゆる「闇バイト」に端を発する凶悪な強盗事件等が相次いで発生するなど、国民の体感治安に大きく影響を及ぼす深刻な事態が生じている中、重点的な対策を行うために必要な対処能力の強化として17億円〔+13億円〕、サイバー空間の脅威が極めて深刻な情勢にあることを踏まえ、サイバー犯罪・サイバー攻撃への対処能力の強化として53億円〔+7億円〕を計上している。
また、安全かつ快適な交通を確保するために円滑な交通環境整備の推進として165億円〔▲4億円〕、犯罪被害給付制度の改正に伴う犯罪被害者等給付金の支給額の引上げに対応するとともに、犯罪被害者等の支援のための多機関ワンストップサービスを都道府県単位で整備する等、犯罪被害者等に対する支援を推進するための経費として22億円〔+9億円〕、警察庁施設等の老朽化等が進む中、耐震性能の不足や狭隘化が顕著な状況を踏まえ、建替え・改修等の実施として141億円〔+4億円〕を計上している。
3 法務省
法務省の令和7年度一般会計予算は、8,055億円〔▲6億円〕(デジタル庁一括計上額619億円を含む)を計上している。このうち人件費は、5,384億円〔+35億円〕である。
分野別では、安全・安心な社会の実現に向けて、第二次再犯防止推進計画等を踏まえた再犯防止対策等を推進するとともに、令和7年6月に施行が迫っている拘禁刑の創設への対応や、保護司の安全確保に係る対応の充実、法テラスについて、犯罪被害者等支援弁護士制度の体制整備を含めた総合法律支援体制の充実を図るための経費として495億円〔+11億円〕を計上している。
また、育成就労制度の創設を始めとする出入国管理及び難民認定法等の改正への対応を含め、円滑かつ厳格な出入国管理体制や外国人材の受入れ体制の整備及び共生社会の実現に向けた取組の強化として253億円〔+10億円〕を計上している。
その他、戸籍上の氏名の振り仮名記載法制化に係る対応、戸籍事務へのマイナンバー活用などによる国民の利便性向上を図るとともに、所有者不明土地の問題への対応等を着実に推進するための経費として611億円〔▲30億円〕を計上している。
図表 経済産業省予算
図表 環境省予算
図表 裁判所、警察庁、法務省予算