主計局給与共済課 前課長補佐 秋山 稔/前課長補佐 末松 智之/課長補佐 小谷 陽/前給与第5係長 久保 輝幸/
給与第5係長 畝川 翔太/給与第5係 谷 源太郎/給与第4係長 曽部 優貴/前給与第4係 絹川 真由/給与第4係 赤阪 怜美/
前給与第2係長 下田 滉太/前給与第1係 西山 隼矢
1.はじめに
「宿泊費(現行:宿泊料)・宿泊手当(現行:日当)の水準をどのように設定すべきか。」
今般、国内外の経済社会情勢の変化に対応するとともに職員の事務負担軽減を図るため、国の旅費制度を抜本的に見直すこととなったが、その見直しに当たり、この論点が最も難しかったと言っても過言ではない。足元では、最近のインバウンドの増加や為替・物価の変動等に伴い宿泊料の定額が実際の相場と乖離している部分がある中で、上限となる宿泊費の基準が実際の相場と比べて低すぎては見直しの意味をなさなくなる一方で、国費の適正な支出を図る観点から当然ながら不必要に高い金額とすることは適当ではない。また、日当から構成要素を大きく変更した宿泊手当についても、実費相当として妥当な金額を設定することが求められた。制度を所管する立場として、実際に支出する金額に直結する基準を設定するに当たって「適切な」水準を追求することに頭を悩ませることとなる。
見直しの背景や「国家公務員等の旅費に関する法律」(昭和25年法律第114号。以下「旅費法」という。)の改正の概要については『ファイナンス』令和6年7月号において、「国家公務員等の旅費に関する法律施行令」(令和6年政令第306号。以下「旅費法施行令」という。)の概要についてはその続編となる『ファイナンス』令和6年10月号において既に紹介しているが、更なる続編となる本稿では、三部作の最終編として、「国家公務員等の旅費支給規程の一部を改正する省令」(令和6年財務省令第70号。以下「改正旅費法省令」という。)の内容を紹介する。
本格的な内容に入る前に、まず旅費法における宿泊料・日当の歴史や現行法下での課題に少し触れておく。
旅費法の制定は昭和25年であるが、その源流は明治時代まで遡ることができる。内国旅行の旅費を初めて定めた明治19年閣令第14号は、旅費種目として、汽車賃、汽船賃、車馬賃及び日当を規定し、外国旅行の旅費を初めて定めた明治20年閣令第12号は、旅費種目として、船舶料、汽車料、客舎料、食卓料、日当及び支度料を規定した。このとおり、日当は明治時代の制定当初から旅費種目として規定されており、その定額は、内国で50銭から4円*1、外国で60銭から4円*2となっていた。また、宿泊料については、明治19年閣令第14号では明確に規定されておらず、「公務ノ都合ニ依リ宿泊ヲ要スルトキハ宿泊ノ數ニ應シテ日當ヲ支給スヘシ*3」として、宿泊に要する費用は日当で支弁することとしていた(宿泊料としては、明治30年の改正により旅費種目に追加)。一方、明治20年閣令第12号においては、外国旅行における宿泊に要する費用を支給する旅費として客舎料が規定され、その定額は1円50銭から8円*4であった。当時と現代との物価の違いもあり、どの程度の支給水準であったかなど正確なところは判然としないものの、金額の違いを見るだけでも、旅費法の持つ長い歴史を感じることができるであろう。
その後、幾多の改正を経て、現行の旅費法において、日当は内国で1,700円から3,800円、外国で3,200円から13,100円、宿泊料は内国で7,800円から19,100円、外国で9,700円から40,200円となっており、金額だけを見ると相当の増額がなされてきた。
しかしながら、前述のとおり、最近ではインバウンドの増加や為替・物価の変動等により、特に宿泊料の定額と実際の宿泊料金に乖離が生じる事例が増加している。このような事態に対して、財務省としては、必要な旅費を支給することができるよう、旅費法の規定に基づき、各府省等と協議のうえ旅費を増額して支給することができる調整を行うとともに、増額手続に係る職員の事務負担の軽減を図るため、包括的な協議の締結や個々の協議の事務簡素化を行い、対外的な説明責任を果たしつつ事務の合理化を実施してきた。しかしながら、これらの運用による対応も年々難しくなってきていることなどもあり、今般の抜本的な見直しに繋がったのである。
今般の旅費法の改正と旅費法施行令の制定を経て、冒頭で触れた宿泊費基準額と宿泊手当の定額は、現行の宿泊料と日当の定額から内容を大幅に見直したことに加え、規定する法令についても旅費法から改正後の「国家公務員等の旅費支給規程」(昭和25年大蔵省令第45号。以下「旅費法省令」という。)へと大きく移動した。
続く2章及び3章では、旅費法省令の改正の内容を紹介する。
2.改正旅費法省令の概要
改正旅費法省令は、国家公務員等の旅費に関する法律の一部を改正する法律(令和6年法律第22号)及び旅費法施行令の施行に伴い、改正後の旅費法及び旅費法施行令の委任に基づき、旅費の種目及び内容に係る細則その他法令の実施のために必要な事項を規定している。その概要は、【図1 「国家公務員等の旅費支給規程の一部を改正する省令」について】のとおりである。
改正旅費法省令は、令和6年10月31日から11月29日にかけてパブリックコメントを実施した上で、12月20日に公布された。施行日は、旅費法改正に合わせて、令和7年4月1日としている。
3.改正後の旅費法省令の規定内容
(1)旅費の種目及び内容に係る細則
改正後の旅費法省令は、旅費法施行令の委任に基づき、旅費の種目及び内容に係る細則を規定している。今回はその中でも宿泊費基準額と宿泊手当の定額などの主な内容を紹介する。
(ア)宿泊費基準額等
宿泊費基準額は、内国においては都道府県ごとに、外国においては在外公館所在都市を基本単位として、職階区分に応じた金額を定めている。職階区分は、現行の6ないし7区分から簡素化し、「内閣総理大臣等」、「指定職職員等」及び「職務の級が十級以下の者」の3区分としている。(【図2 宿泊費基準額】)
『ファイナンス』令和6年7月号でも紹介(以下、それぞれの旅費種目の概要についても同様。)したとおり、宿泊費は、定額支給方式を改め、上限付き実費支給方式としている。その上限となる宿泊費基準額は、都道府県や外国の都市ごとに、ビジネス目的で利用された宿泊先・宿泊費・泊数等の実勢データを調査し、その結果等を踏まえて設定した。なお、その時々の経済社会情勢に合わせて設定していく必要があることから、毎年実勢データの調査を行い、その結果を踏まえて適時適切に見直していくこととしている。
また、宿泊費基準額の範囲内で宿泊できない場合であっても、現行の運用等を踏まえ、一定の条件に合致するときは、財務大臣への協議を経ることなく各庁の長(旅行命令権者)の判断により宿泊費基準額を超えた実費額を支給することを可能としている。(【図3 宿泊費基準額を超えた実費額を宿泊費として支給できる条件】)
(イ)宿泊手当(現行:日当)の定額等
宿泊手当の定額は、内国と外国のいずれも国ごとに、職階区分を設けることなく金額を定めている。(【図4 宿泊手当の定額】)
宿泊手当は、現行の日当を見直し、宿泊を伴う旅行に必要な諸雑費(夕朝食代の掛かり増しを含む。)に充てるための旅費として、定額を支給することとし、その金額は、民間企業の支給水準等を参考に設定している。
宿泊手当は夕朝食代の掛かり増しを含むため、二重支給を防止する観点から、宿泊費の中に夕朝食代相当額が含まれており、かつ、夕朝食代相当額が不明でその金額を宿泊料金から控除して宿泊費本来の金額(素泊まりの金額)を算出することができない場合は、機械的に宿泊手当を減額する。同様に、移動中に宿泊する場合(例:機中泊)で、交通費の中に食事代相当額が含まれているときも、宿泊手当を減額する。また、旅行中に自宅(及びこれに相当する場所)に宿泊する場合は、宿泊を伴う旅行に必要な諸雑費(夕朝食代の掛かり増しを含む。)が発生しないと想定されることから、宿泊手当を全く支給しないこととしている。(【図5 宿泊手当の考え方】)
(ウ)転居費(現行:移転料)の算定方法等
転居費は、赴任に伴う転居に要する費用を実費額で支給することとしており、改正後の旅費法省令では、その実費額の算定方法を定めている。その算定方法は、大きく分けて以下の3つの方法としている。
①引越業者(旅行者が複数の見積りを徴取し、最も経済的なものを選択。)を利用する方法
②旅行役務提供者(あらかじめ国と旅行役務提供契約を締結した者。引越業者を想定。)を利用する方法
③宅配便や自家用車を利用する方法
このうち、①と③は現行の運用における実費額の算定方法を本則化するものであり、②は新設された旅行役務提供者を利用する場合に対応するものである。外国旅行では冗費節約を図る観点から、民間企業等の実態を踏まえて、家財運送量(容積又は重量)の上限を運送方法別に定めている。
なお、偏に転居に要する費用といってもその内容は様々であるため、現行の運用等を踏まえ、国費による支給が適当でない費用(「国家公務員等の旅費に関する法律等の運用方針」(令和6年12月20日付財計第4707号。以下「運用方針」という。)で規定するもの)や他から支給を受けた転居に係る旅費等については、転居費の金額から控除することとしている。
(エ)渡航雑費(現行:旅行雑費)の細則
渡航雑費は、外国旅行に要する雑費について支給するものであり、対象となる費用は旅費法施行令で列挙しているが、改正後の旅費法省令では旅費法施行令からの委任を受け、さらに細かな費用を列挙している。
具体的には、現行の支度料に係る運用で支給対象としていた費用などを定めているが、旅行先や公務の内容により「外国旅行に要する雑費」の内容も多岐にわたることから、旅費法施行令や改正後の旅費法省令において規定している費用以外に必要な費用が生じた場合に機動的に対応できるよう、運用方針への委任規定を設けている。なお、旅費法施行令や改正後の旅費法省令において規定した類型の費用であれば無条件に支給するといった野放図な執行とならないよう「公務のため特に必要とするものに限る」としている。
(オ)死亡手当の定額
死亡手当は、職員、その配偶者又は子が外国において死亡した際に必要となる諸雑費に充てるための費用として支給するものであり、改正後の旅費法省令では、その定額を定めている。
現行の旅費法において、死亡手当には、ご遺体の搬送やご遺体の引取りに必要な費用、葬祭の費用、出張・赴任を続けるための交通費などが含まれていたが、国内で死亡した際の取扱いとの均衡等を考慮すると葬祭のための費用は旅費として支給することが妥当ではないこと、交通費に相当する費用は改正後の旅費法において実費を支給することとしていることから、死亡手当の構成要素は、ご遺体の搬送等に必要な費用(交通費を除く。)に限る見直しをしている。
このような見直しのもと、死亡手当の定額は、各在外公館所在都市において、邦人が死亡し、本邦へのご遺体の搬送等を行うために要する金額を調査し、その結果を踏まえて設定している。
(2)法令の実施のために必要な事項
今般の旅費制度見直しでは旅行命令や旅行依頼、旅費の請求に係る「様式」を廃止することとしており、改正後の旅費法省令では、その「様式」に代えて、旅行命令等を行う際に必要となる記載事項又は記録事項を規定している。これまでは書面での手続を想定して記載又は記録すべき事項を「様式」として定めていたが、デジタル化の進展に伴う旅費システムの開発・導入に当たってはその存在が障害となっていた一面がある。今回の「様式」の廃止によって、より自由度の高いシステムの開発・導入が可能となることから、更なる事務負担の軽減が期待される。
また、上記以外にも、旅費の返納において差引きの対象となる給与の種類、旅行経路に通勤手当の支給を受ける区間が含まれている場合の旅費の調整、実地監査に必要な手続など、法令を実施するために必要な技術的事項について定めている。
4.おわりに
改正後の旅費法省令では、旅費の金額に直接関わる宿泊費基準額や宿泊手当の定額を定めていることもあり、パブリックコメントの開始後には、直接適用される各府省等のみならず、旅費法を参照している地方自治体や公法人等からの問い合わせが急増し、旅費制度の影響する範囲が広いことを改めて実感させられた。
改正旅費法省令と運用方針の公布によって、旅費制度は、約70年ぶりとなる抜本改正を果たすことができた(【図6 現行の旅費法からみた改正後の旅費法令(イメージ)】は、改正前の旅費法で規定されていた各条の内容が、改正後の法体系のどこで規定されることとなったかをイメージとして整理したものである)。これは、これまで旅費制度を支え知恵を絞ってきた先達が、その実績や知見を積み重ねてきたからこそ成し遂げられたものである。旅費制度の現在の担当者として改めて深謝いたしたい。
かくして、改正旅費制度はその産声をあげ、本年4月から歩みを進めていくこととなる。忘れてはならないのは、この旅費制度はあくまで現状に応じた諸般の基準を定めたものであって、そこから無数に生まれる旅費の執行を円滑に行うためには、制度を所管する立場として、各府省等の運用実態等を踏まえた適切なメンテナンスを不断に行う必要があるということだ。今後とも経済社会情勢の変化に対応し、旅費法の目的である「公務の円滑な運営に資すること」と「国費の適正な支出を図ること」を満たす二刀流の制度設計・運用を図ることができるよう励んでまいりたい。
※本稿内の意見に関する部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。
*1) 地域・職階ごとに区分し、最低額が50銭、最高額が4円となっていた。
*2) 地域・職階ごとに区分し、最低額が60銭、最高額が4円となっていた。
*3) 明治19年閣令第14号第7条ただし書で規定していた。
*4) 地域・職階ごとに区分し、最低額が1円50銭、最高額が8円となっていた。
給与第5係長 畝川 翔太/給与第5係 谷 源太郎/給与第4係長 曽部 優貴/前給与第4係 絹川 真由/給与第4係 赤阪 怜美/
前給与第2係長 下田 滉太/前給与第1係 西山 隼矢
1.はじめに
「宿泊費(現行:宿泊料)・宿泊手当(現行:日当)の水準をどのように設定すべきか。」
今般、国内外の経済社会情勢の変化に対応するとともに職員の事務負担軽減を図るため、国の旅費制度を抜本的に見直すこととなったが、その見直しに当たり、この論点が最も難しかったと言っても過言ではない。足元では、最近のインバウンドの増加や為替・物価の変動等に伴い宿泊料の定額が実際の相場と乖離している部分がある中で、上限となる宿泊費の基準が実際の相場と比べて低すぎては見直しの意味をなさなくなる一方で、国費の適正な支出を図る観点から当然ながら不必要に高い金額とすることは適当ではない。また、日当から構成要素を大きく変更した宿泊手当についても、実費相当として妥当な金額を設定することが求められた。制度を所管する立場として、実際に支出する金額に直結する基準を設定するに当たって「適切な」水準を追求することに頭を悩ませることとなる。
見直しの背景や「国家公務員等の旅費に関する法律」(昭和25年法律第114号。以下「旅費法」という。)の改正の概要については『ファイナンス』令和6年7月号において、「国家公務員等の旅費に関する法律施行令」(令和6年政令第306号。以下「旅費法施行令」という。)の概要についてはその続編となる『ファイナンス』令和6年10月号において既に紹介しているが、更なる続編となる本稿では、三部作の最終編として、「国家公務員等の旅費支給規程の一部を改正する省令」(令和6年財務省令第70号。以下「改正旅費法省令」という。)の内容を紹介する。
本格的な内容に入る前に、まず旅費法における宿泊料・日当の歴史や現行法下での課題に少し触れておく。
旅費法の制定は昭和25年であるが、その源流は明治時代まで遡ることができる。内国旅行の旅費を初めて定めた明治19年閣令第14号は、旅費種目として、汽車賃、汽船賃、車馬賃及び日当を規定し、外国旅行の旅費を初めて定めた明治20年閣令第12号は、旅費種目として、船舶料、汽車料、客舎料、食卓料、日当及び支度料を規定した。このとおり、日当は明治時代の制定当初から旅費種目として規定されており、その定額は、内国で50銭から4円*1、外国で60銭から4円*2となっていた。また、宿泊料については、明治19年閣令第14号では明確に規定されておらず、「公務ノ都合ニ依リ宿泊ヲ要スルトキハ宿泊ノ數ニ應シテ日當ヲ支給スヘシ*3」として、宿泊に要する費用は日当で支弁することとしていた(宿泊料としては、明治30年の改正により旅費種目に追加)。一方、明治20年閣令第12号においては、外国旅行における宿泊に要する費用を支給する旅費として客舎料が規定され、その定額は1円50銭から8円*4であった。当時と現代との物価の違いもあり、どの程度の支給水準であったかなど正確なところは判然としないものの、金額の違いを見るだけでも、旅費法の持つ長い歴史を感じることができるであろう。
その後、幾多の改正を経て、現行の旅費法において、日当は内国で1,700円から3,800円、外国で3,200円から13,100円、宿泊料は内国で7,800円から19,100円、外国で9,700円から40,200円となっており、金額だけを見ると相当の増額がなされてきた。
しかしながら、前述のとおり、最近ではインバウンドの増加や為替・物価の変動等により、特に宿泊料の定額と実際の宿泊料金に乖離が生じる事例が増加している。このような事態に対して、財務省としては、必要な旅費を支給することができるよう、旅費法の規定に基づき、各府省等と協議のうえ旅費を増額して支給することができる調整を行うとともに、増額手続に係る職員の事務負担の軽減を図るため、包括的な協議の締結や個々の協議の事務簡素化を行い、対外的な説明責任を果たしつつ事務の合理化を実施してきた。しかしながら、これらの運用による対応も年々難しくなってきていることなどもあり、今般の抜本的な見直しに繋がったのである。
今般の旅費法の改正と旅費法施行令の制定を経て、冒頭で触れた宿泊費基準額と宿泊手当の定額は、現行の宿泊料と日当の定額から内容を大幅に見直したことに加え、規定する法令についても旅費法から改正後の「国家公務員等の旅費支給規程」(昭和25年大蔵省令第45号。以下「旅費法省令」という。)へと大きく移動した。
続く2章及び3章では、旅費法省令の改正の内容を紹介する。
2.改正旅費法省令の概要
改正旅費法省令は、国家公務員等の旅費に関する法律の一部を改正する法律(令和6年法律第22号)及び旅費法施行令の施行に伴い、改正後の旅費法及び旅費法施行令の委任に基づき、旅費の種目及び内容に係る細則その他法令の実施のために必要な事項を規定している。その概要は、【図1 「国家公務員等の旅費支給規程の一部を改正する省令」について】のとおりである。
改正旅費法省令は、令和6年10月31日から11月29日にかけてパブリックコメントを実施した上で、12月20日に公布された。施行日は、旅費法改正に合わせて、令和7年4月1日としている。
3.改正後の旅費法省令の規定内容
(1)旅費の種目及び内容に係る細則
改正後の旅費法省令は、旅費法施行令の委任に基づき、旅費の種目及び内容に係る細則を規定している。今回はその中でも宿泊費基準額と宿泊手当の定額などの主な内容を紹介する。
(ア)宿泊費基準額等
宿泊費基準額は、内国においては都道府県ごとに、外国においては在外公館所在都市を基本単位として、職階区分に応じた金額を定めている。職階区分は、現行の6ないし7区分から簡素化し、「内閣総理大臣等」、「指定職職員等」及び「職務の級が十級以下の者」の3区分としている。(【図2 宿泊費基準額】)
『ファイナンス』令和6年7月号でも紹介(以下、それぞれの旅費種目の概要についても同様。)したとおり、宿泊費は、定額支給方式を改め、上限付き実費支給方式としている。その上限となる宿泊費基準額は、都道府県や外国の都市ごとに、ビジネス目的で利用された宿泊先・宿泊費・泊数等の実勢データを調査し、その結果等を踏まえて設定した。なお、その時々の経済社会情勢に合わせて設定していく必要があることから、毎年実勢データの調査を行い、その結果を踏まえて適時適切に見直していくこととしている。
また、宿泊費基準額の範囲内で宿泊できない場合であっても、現行の運用等を踏まえ、一定の条件に合致するときは、財務大臣への協議を経ることなく各庁の長(旅行命令権者)の判断により宿泊費基準額を超えた実費額を支給することを可能としている。(【図3 宿泊費基準額を超えた実費額を宿泊費として支給できる条件】)
(イ)宿泊手当(現行:日当)の定額等
宿泊手当の定額は、内国と外国のいずれも国ごとに、職階区分を設けることなく金額を定めている。(【図4 宿泊手当の定額】)
宿泊手当は、現行の日当を見直し、宿泊を伴う旅行に必要な諸雑費(夕朝食代の掛かり増しを含む。)に充てるための旅費として、定額を支給することとし、その金額は、民間企業の支給水準等を参考に設定している。
宿泊手当は夕朝食代の掛かり増しを含むため、二重支給を防止する観点から、宿泊費の中に夕朝食代相当額が含まれており、かつ、夕朝食代相当額が不明でその金額を宿泊料金から控除して宿泊費本来の金額(素泊まりの金額)を算出することができない場合は、機械的に宿泊手当を減額する。同様に、移動中に宿泊する場合(例:機中泊)で、交通費の中に食事代相当額が含まれているときも、宿泊手当を減額する。また、旅行中に自宅(及びこれに相当する場所)に宿泊する場合は、宿泊を伴う旅行に必要な諸雑費(夕朝食代の掛かり増しを含む。)が発生しないと想定されることから、宿泊手当を全く支給しないこととしている。(【図5 宿泊手当の考え方】)
(ウ)転居費(現行:移転料)の算定方法等
転居費は、赴任に伴う転居に要する費用を実費額で支給することとしており、改正後の旅費法省令では、その実費額の算定方法を定めている。その算定方法は、大きく分けて以下の3つの方法としている。
①引越業者(旅行者が複数の見積りを徴取し、最も経済的なものを選択。)を利用する方法
②旅行役務提供者(あらかじめ国と旅行役務提供契約を締結した者。引越業者を想定。)を利用する方法
③宅配便や自家用車を利用する方法
このうち、①と③は現行の運用における実費額の算定方法を本則化するものであり、②は新設された旅行役務提供者を利用する場合に対応するものである。外国旅行では冗費節約を図る観点から、民間企業等の実態を踏まえて、家財運送量(容積又は重量)の上限を運送方法別に定めている。
なお、偏に転居に要する費用といってもその内容は様々であるため、現行の運用等を踏まえ、国費による支給が適当でない費用(「国家公務員等の旅費に関する法律等の運用方針」(令和6年12月20日付財計第4707号。以下「運用方針」という。)で規定するもの)や他から支給を受けた転居に係る旅費等については、転居費の金額から控除することとしている。
(エ)渡航雑費(現行:旅行雑費)の細則
渡航雑費は、外国旅行に要する雑費について支給するものであり、対象となる費用は旅費法施行令で列挙しているが、改正後の旅費法省令では旅費法施行令からの委任を受け、さらに細かな費用を列挙している。
具体的には、現行の支度料に係る運用で支給対象としていた費用などを定めているが、旅行先や公務の内容により「外国旅行に要する雑費」の内容も多岐にわたることから、旅費法施行令や改正後の旅費法省令において規定している費用以外に必要な費用が生じた場合に機動的に対応できるよう、運用方針への委任規定を設けている。なお、旅費法施行令や改正後の旅費法省令において規定した類型の費用であれば無条件に支給するといった野放図な執行とならないよう「公務のため特に必要とするものに限る」としている。
(オ)死亡手当の定額
死亡手当は、職員、その配偶者又は子が外国において死亡した際に必要となる諸雑費に充てるための費用として支給するものであり、改正後の旅費法省令では、その定額を定めている。
現行の旅費法において、死亡手当には、ご遺体の搬送やご遺体の引取りに必要な費用、葬祭の費用、出張・赴任を続けるための交通費などが含まれていたが、国内で死亡した際の取扱いとの均衡等を考慮すると葬祭のための費用は旅費として支給することが妥当ではないこと、交通費に相当する費用は改正後の旅費法において実費を支給することとしていることから、死亡手当の構成要素は、ご遺体の搬送等に必要な費用(交通費を除く。)に限る見直しをしている。
このような見直しのもと、死亡手当の定額は、各在外公館所在都市において、邦人が死亡し、本邦へのご遺体の搬送等を行うために要する金額を調査し、その結果を踏まえて設定している。
(2)法令の実施のために必要な事項
今般の旅費制度見直しでは旅行命令や旅行依頼、旅費の請求に係る「様式」を廃止することとしており、改正後の旅費法省令では、その「様式」に代えて、旅行命令等を行う際に必要となる記載事項又は記録事項を規定している。これまでは書面での手続を想定して記載又は記録すべき事項を「様式」として定めていたが、デジタル化の進展に伴う旅費システムの開発・導入に当たってはその存在が障害となっていた一面がある。今回の「様式」の廃止によって、より自由度の高いシステムの開発・導入が可能となることから、更なる事務負担の軽減が期待される。
また、上記以外にも、旅費の返納において差引きの対象となる給与の種類、旅行経路に通勤手当の支給を受ける区間が含まれている場合の旅費の調整、実地監査に必要な手続など、法令を実施するために必要な技術的事項について定めている。
4.おわりに
改正後の旅費法省令では、旅費の金額に直接関わる宿泊費基準額や宿泊手当の定額を定めていることもあり、パブリックコメントの開始後には、直接適用される各府省等のみならず、旅費法を参照している地方自治体や公法人等からの問い合わせが急増し、旅費制度の影響する範囲が広いことを改めて実感させられた。
改正旅費法省令と運用方針の公布によって、旅費制度は、約70年ぶりとなる抜本改正を果たすことができた(【図6 現行の旅費法からみた改正後の旅費法令(イメージ)】は、改正前の旅費法で規定されていた各条の内容が、改正後の法体系のどこで規定されることとなったかをイメージとして整理したものである)。これは、これまで旅費制度を支え知恵を絞ってきた先達が、その実績や知見を積み重ねてきたからこそ成し遂げられたものである。旅費制度の現在の担当者として改めて深謝いたしたい。
かくして、改正旅費制度はその産声をあげ、本年4月から歩みを進めていくこととなる。忘れてはならないのは、この旅費制度はあくまで現状に応じた諸般の基準を定めたものであって、そこから無数に生まれる旅費の執行を円滑に行うためには、制度を所管する立場として、各府省等の運用実態等を踏まえた適切なメンテナンスを不断に行う必要があるということだ。今後とも経済社会情勢の変化に対応し、旅費法の目的である「公務の円滑な運営に資すること」と「国費の適正な支出を図ること」を満たす二刀流の制度設計・運用を図ることができるよう励んでまいりたい。
※本稿内の意見に関する部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。
*1) 地域・職階ごとに区分し、最低額が50銭、最高額が4円となっていた。
*2) 地域・職階ごとに区分し、最低額が60銭、最高額が4円となっていた。
*3) 明治19年閣令第14号第7条ただし書で規定していた。
*4) 地域・職階ごとに区分し、最低額が1円50銭、最高額が8円となっていた。