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特集 令和7年度国債発行計画について



理財局国債企画課長 佐藤 伸樹

 本稿では、令和6年12月27日に公表した令和7年度国債発行計画の内容を中心として、国債発行を取り巻く最近の動きについて概要を説明したい。

1.国債管理政策の方向性
(1)現下の国債市場の状況
 令和6年3月、日本銀行により金融政策の枠組みの見直しが決定され、マイナス金利が解除されるとともに、長短金利を操作する「イールドカーブ・コントロール」が撤廃された。その後7月には、短期金利の誘導目標が0.25%へ引き上げられたほか、月間の長期国債の買入れ予定額を、原則として毎四半期0.4兆円程度ずつ減額し、令和8年1~3月に3兆円程度とする計画が決定された。
 金融政策が大きく見直される中、国債金利については、令和6年前半は上昇基調で推移した。8月に世界的な金融市場の動揺を受けて大幅に低下したものの、その後、国内の物価・経済環境が堅調に推移するとともに、米大統領選挙を経て米国債金利が上昇傾向に転じる中、再び上昇基調となり、年末に長期金利(10年債金利)は1.1%付近に到達した。

(2)「国の債務管理に関する研究会」における議論
 このように、国債市場を取り巻く環境は大きく変化しているところであり、国債発行当局としては、引き続き、中長期的な調達コストを抑制しつつ、確実かつ円滑な国債の発行を実現するため、様々な投資家層による国債保有を促進することが重要な課題となっている。こうした中、昨年5月・6月に「国の債務管理に関する研究会」(以下、「研究会」という)を開催し、今後の国債の安定的な発行をどのように図っていくか、有識者の方々に中長期的な視点から議論いただき、昨年6月21日に「今後の国債の安定的な発行・消化に向けた取組について(議論の整理)」を取りまとめていただいた。
 「議論の整理」においては、市場環境や市場のニーズの変化に応じた国債発行計画としていくことを基本としたうえで、更に今後求められる取組として、例えば、以下のような取組が考えられるとされている。
●銀行
資本等に関する規制やリスク管理の枠組みによる制約がある中、銀行の国債保有を促進する観点から、発行年限の短期化や変動利付国債の発行等、市中に供給する金利リスク量の縮減を図る対応も必要。
●生命保険会社
規制対応の進捗や、人口動態等の構造的な制約を踏まえると、中長期的に生命保険会社の国債保有額が大幅に増加していくという展望は見込み難いため、これまで発行額を増額してきた超長期債についても、実際の投資動向を注視しつつ、今後の発行額を調整していく必要。
●個人投資家等
非営利法人や個人経営的な未上場法人等といった層の中には、元本保証のない金融商品への投資を避ける傾向がある主体も存在し、こうした投資ニーズに合った商品性の国債があれば、国債保有の促進につながる。


2.令和7年度国債発行計画の概要
 市場環境や研究会における議論を踏まえつつ、昨年11月・12月に実施した「国債市場特別参加者会合」及び「国債投資家懇談会」等において、市中発行の年限構成等について市場関係者(機関投資家、証券会社等)との対話をきめ細かく実施し、令和7年度国債発行計画を策定した。以下、その概要を述べる。

(1)発行根拠法別発行額
 令和7年度の国債発行総額は176.9兆円となっており、前年度当初比▲5.1兆円と減少傾向にはあるものの、依然として極めて高い水準が続いている。
発行根拠法別の内訳(図表4 令和7年度国債発行計画の概要左)をみると、まず、一般会計予算の歳入となる新規国債(建設国債・特例国債)は、前年度当初比▲6.8兆円の28.6兆円となっている。
 復興債は、東日本大震災からの復興のための施策に要する費用の財源に充てるため、復興特別税等の収入が確保されるまでのつなぎとして発行されるものであり、令和7年度は0.1兆円の発行を予定している。
 GX経済移行債は、今後10年間で150兆円を超えるGX投資を官民協調で実現すべく、国として20兆円規模の大胆な先行投資支援を実行するために創設され、令和7年度は0.7兆円の発行を予定している。
 子ども特例債は、こども・子育て政策の抜本的な強化に当たり、令和10年度にかけて安定財源を確保するまでの間に財源不足が生じないよう、必要に応じ、つなぎとして発行される。令和7年度の発行額は1.1兆円を予定している。
 財投債は、財政融資の新規貸付規模や財政融資資金全体の資金繰り等を勘案した結果、令和7年度は10.0兆円の発行を予定している。
 借換債は、過去に発行した国債の満期到来に伴う借換えのために発行するものであり、令和7年度の借換債発行額は136.2兆円となっている。

(2)消化方式別発行額
 消化方式別の内訳(図表4右)をみると、市場環境等を踏まえ、カレンダーベース市中発行額は172.3兆円とした。具体的な年限構成については、市場のニーズを踏まえて、需給が極めて逼迫している短期国債や、銀行等による需要が期待される5年債を増額した上で、40年債・30年債について、主要投資家である生命保険会社からの需要減退を踏まえ減額した。なお、クライメート・トランジション国債は、GX経済移行債及びその借換債のうち、資金使途等を定めたフレームワークに基づいて個別銘柄として発行するものであり、令和7年度は1.2兆円の発行を予定している。
 個人向け販売分は、足元の販売状況等を踏まえ、前年度当初比1.1兆円増の4.6兆円としている。


3.国債の保有促進に向けた取組
 研究会における議論やその後の検討を踏まえ、令和7年度国債発行計画の策定にあわせ、国債の保有促進に向けた取組を公表した。
 まず、銀行等の投資需要を踏まえ、短期金利に連動した変動利付国債について、今後の発行に向けて具体的に準備することとしている。当局及び市場関係者によるシステム改修・体制構築等に一定期間を要することから、発行の開始が可能となるのは早くとも令和8年度中を見込んでおり、実際の発行開始時期は、今後の市場動向や市場関係者の意見も踏まえて検討する。
 また、安定保有層の拡大に向け、個人向け国債の販売対象に非営利法人や非上場法人等を含めることを検討していくこととした。販売対象の拡大時期は、令和8年度中を見込んでいる。


4.おわりに
 令和7年度国債発行総額は、コロナ前との比較では依然として高い水準となっており(図表6 国債発行総額の推移)、国債発行残高についても、令和7年度末に約1,219.4兆円に達すると見込まれている(図表7 国債発行残高の推移)。
 国債市場を取り巻く国内外の環境が大きく変わる中、今後も国債を確実かつ円滑に発行しつつ、中長期的な調達コストの抑制を図っていく国債管理政策は一層重要となってきている。
国債発行当局としては、引き続き金利の動向や投資家のニーズを見極めながら、市場との対話を丁寧に行い、安定的で透明性の高い国債発行に努めていく所存である。

図表1 年限別国債金利の推移
図表2 国債及び国庫短期証券(T-Bill)の保有者別残高の推移
図表3 「今後の国債の安定的な発行・消化に向けた取組について(議論の整理)」(令和6年6月21日)(抜粋)
図表5 カレンダーベース市中発行額の推移