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特集 令和7年度税制改正(関税)について


関税局関税課 関税企画調整室長 籠島 敬幸

 令和7年度の関税改正は、国税と同様に、与党における税制改正プロセスを経て、「令和7年度税制改正の大綱」(令和6年12月27日閣議決定)にその内容が盛り込まれた。本稿においては、「令和7年度税制改正の大綱」のうち関税の主な内容について説明したい。

1.暫定税率等の適用期限の延長等
 暫定税率は、政策上の必要性等から、適用期限を定めて基本税率を暫定的に修正する税率である。令和7年3月31日に適用期限が到来する、とうもろこしや麦芽等411品目に係る暫定税率について、国内の生産者及び消費者等に及ぼす影響、国際交渉との関係、産業政策上の必要性等を考慮し、411品目に係る暫定税率の適用期限を1年延長する。
 ウルグアイ・ラウンド合意に基づいて関税化された米、麦、乳製品等については、輸入数量が一定の水準を超えた場合等に関税率を一時的に引き上げる特別緊急関税制度が設けられている。国内産業保護等の観点から、令和7年3月31日に到来する同制度の適用期限を1年延長する。
 国内産糖と競合関係にある加糖調製品(砂糖と砂糖以外のココア粉やミルク等の混合物)については、WTO協定税率の範囲内で関税と糖価調整制度における調整金が設定されている。国内産糖への支援の原資となる調整金の取り幅を拡大することが可能となるよう、加糖調製品のうち5品目の暫定税率を引き下げる。
 沖縄振興特別措置法に基づき、国際物流拠点産業集積地域(以下「国際物流地域」という。)における関税制度上の特例措置として、選択課税制度等が講じられており、令和7年3月31日にその適用期限が到来する。選択課税制度等は、国際物流地域における企業誘致の観点から一つの魅力になっていると考えられるほか、国際物流地域における企業集積及び新規雇用者数の増加等にも寄与し得ることから、その適用期限を令和9年3月31日まで2年間延長する。また、沖縄振興特別措置法に基づく国際物流地域の範囲が見直される場合、見直し後の国際物流地域においても、これらの制度の適用を認める。
 幼稚園、小学校等の学校及び児童福祉施設等において提供される給食用脱脂粉乳は、発育途上にある児童や生徒の心身の健全な発育等を図ることを目的として、関税の軽減措置が講じられている。今般、子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律により、児童福祉法上に乳児等通園支援事業が新設されることとなった。乳児等通園支援事業の実施に当たっては、行政による関与を受けることとなるため、現行の給食用脱脂粉乳に対する関税軽減措置の対象施設の考え方と照らしても整合的である。こうした点を踏まえ、令和7年4月より新設される乳児等通園支援事業を行う施設において児童に提供される給食用脱脂粉乳について、関税軽減措置の適用対象に加える。
 特恵関税制度は、開発途上国からの輸入物品に対して、一般の関税率より低い関税率(特恵税率)を適用する制度である。後発開発途上国(LDC)に対しては、特別特恵関税制度として、約98%の輸入物品を無税無枠とする一層の優遇措置を講じている。特別特恵受益国は、国際連合総会の決議によりLDCでなくなってから1年以内に特別特恵関税の適用が除外される。WTOにおいて、2023年10月、LDC卒業後の円滑かつ持続的な移行期間を提供することを奨励する旨の一般理事会決定が採択された。諸外国においても、EU(独、仏、伊)及び英国がLDC卒業国に対して特恵関税をLDC卒業後も3年適用する措置を導入済みの状況にあることから、G7広島サミット等で開発途上国との連携の重要性を訴えてきた我が国としても、特別特恵関税の適用期限を、現行のLDC卒業後1年以内から3年以内に延長する。さらに、我が国として、開発途上国との連携を強化していくとの方向性を踏まえ、特恵関税制度全体として、開発途上国の成長に一層寄与するとともに、必要とする国に恩恵が行きわたるものとなるよう、制度の在り方全体を検討し、特恵関税制度の期限到来(令和12年度末)を待たず不断の見直しを図ることが必要である。

2.個別品目の関税率の見直し
 リチウム=ビス(オキサラト)ボラート(LiBOB)は、電気自動車等に使用されるリチウムイオン電池(LIB)用の電解液に使用される添加剤であり、引き続き高い需要が見込まれる化学品である。現在、国内生産者は存在せず、当分の間は国産化の可能性が低いことから、引き続き全量を輸入する状況が続くと予想される。従って、関税を無税とすることは、仕入れに係るコストの低減を通じて、関連国内産業の競争力強化に資すると認められる。他方、特定重要物資であるLIBを含む蓄電池のサプライチェーンに係る物資については、安定的な供給の確保が肝要である。従って、代替品の開発・生産支援を将来的に行う可能性も含めて、関連サプライチェーンの将来的な展開をよく見極める必要があるため、暫定税率を無税とする。
 シクロヘキシル(エチル)(ジメチル)アンモニウム=ブロミド(CEDMAB)及びシクロヘキシル(エチル)(ジメチル)アンモニウム=ヒドロキシド(CEDMAH)は、ディーゼルエンジンの排ガス浄化に使用されるSCR触媒に用いられるゼオライトの原料であり、国内外における自動車排ガス規制の強化への対応に向けて、需要拡大が見込まれている化学品である。当該品目は、その用途がSCR触媒に用いられるゼオライトの製造原料に限られており、需要が限定的であるため、国内生産者は存在せず、今後も引き続き全量を輸入する状況が続くと予想される。以上を踏まえ、調達安定性の確保及び国内ゼオライトメーカー等の国際競争力の維持を図るため、CEDMAB及びCEDMAHに係る基本税率を無税とする。
 1,6-ヘキサンジオールは幅広い製品に加工される各種化学製品の中間材料として利用される化学品であり、最終製品には国民生活に密接に関わるものが多く、引き続き高い需要が見込まれる。当該品目は、国内生産が既に終了し、安価な海外製品が市場に出回っていることに加え、国内生産の再開には多額の費用がかかることから、今後の国産化の可能性も極めて低く、関税を無税にすることによる当該品目の国内生産への追加的な影響は乏しい。以上を踏まえ、1,6-ヘキサンジオールを利用した最終製品の製造コストの抑制を通じた国内関連産業の競争力の強化のため、1,6-ヘキサンジオールに係る基本税率を無税とする。
写真 リチウム=ビス(オキサラト)ボラート(LiBOB)

3.納税環境の整備
 現行制度において、申告納税方式が適用される貨物を業として輸入する者は、電子取引を行った場合には、一定の要件に従って、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録(以下「電子取引データ」という。)を保存しなければならないとされている。電子取引データに記録された事項に関しては、書面によってその書類等を保存する場合と比べて、複製・改ざん行為が容易であり、また、その痕跡が残りにくいことから、納付すべき税額等の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されたものがある場合において、重加算税が賦課されるときは、その重加算税の額は、通常の重加算税の金額に、重加算税の基礎となるべき税額に10%の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とされている(原則割合:過少申告 35%、無申告 40%、加重後割合:過少申告 45%、無申告 50%)。
 近年、請求書等の電子取引において、データの保存及び処理を自動化するシステムが流通しているところ、輸入取引の電子取引データについて、その保存及び処理を自動化するシステムを利用した上で、一定の要件を満たして保存がされれば、その保存及び処理の適正性が確保され、電子取引データの複製・改ざん行為が困難であると認められることから、関税においても内国税と同様に、当該電子取引データに関連する隠蔽・仮装行為について、重加算税の加重の適用対象から除外する。