国際局地域協力課長 津田 夏樹/東京大学 服部 孝洋
津田夏樹 国際局地域協力課長
2002年、東京大学法学部卒業後、財務省に入省。国際通貨基金(IMF)金融資本市場局審議役、財務省理財局国庫課長兼デジタル通貨企画官を経て、2025年7月より現職。2009年コロンビア大学MBA修了。
服部孝洋 東京大学公共政策大学院特任准教授
2008年、一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了後、野村證券に入社。2016年、財務省財務総合政策研究所を経て、2020年に東京大学に移籍し、現在に至る。経済学博士(一橋大学)を取得。
本インタビューの目的
日本の国庫制度については、その概要を明らかにした文献は必ずしも多いとはいえません。国庫制度を理解することは、国の資金の流れを正確に把握するだけでなく、短期金融市場の実務や金融政策等を的確に理解する上でも不可欠です。日銀が有する「政府の銀行」としての機能は国庫金に係る制度そのものと言っても過言ではありません。そこで本稿は、国庫課課長の津田課長との対談を通じて、国庫制度およびその業務についての理解を深めることを目的としています*1。
資金と特別会計とは
服部:特別会計(特会)について理解が難しいものとして、「資金」の概念があります。例えば、外為特会をみていると、外国為替資金という概念が出てきます。また、後ほど政府預金の話をしますが、そこでも資金の概念が出てきます。もっとも、財政における「資金」がどういうものであるかは、意外と説明されていない気がします。「特別会計に関する法律」における外国為替資金特別会計の節を読むと、「外国為替資金特別会計は、政府の行う外国為替等の売買等を円滑にするために外国為替資金を置き、その運営に関する経理を明確にすることを目的とする」とあり、資金とは政府による売買を円滑にするために置いていると記載されています。
津田:例えば、国債整理基金も、国債整理基金という特殊な名称を持つ「資金」です。また、財政融資資金も外国為替資金も「資金」です。その他、様々な「資金」があります。これらの特会は資金を経理するために設定されています。
服部:確かに、国債整理基金特別会計についても、「国債整理基金特別会計は、国債の償還及び発行を円滑に行うための資金として国債整理基金を置き、その経理を明確にすることを目的とする」と説明されており、書きぶりは外為特会と似ていますね。
津田:ここで、財政法上の資金とは何かを説明します。まず、国の資金については歳出ないし歳入として計上するという歳入歳出総計主義という原則があります。特別会計も例外ではなく、一般会計と同じように、歳出と歳入があります。そして、特別会計は、特に歳出について国会での議決を経て、その範囲内でだけお金を使えることになります。一方、前述の「資金」は、資金の受払を歳入歳出外で処理することが特徴です。
一例として国債整理基金で考えると、国債の発行による収入金が入ってきますし、国債の償還日が来たらその基金から償還します。この基金がそれらの取引を行っており、そのお金の動きのうち、歳出と歳入に該当するものだけを特別会計が経理しているという位置づけです。
例えば、国債整理基金は、資金に余裕があれば、日銀と現先取引をしています。日銀と現先取引をするということは、国債の売買を短期的に繰り返していくわけですが、それらをいちいち歳出や歳入として計上していくと、ものすごい金額になってしまいます。そういう形にしない工夫が「資金」になるのです。
外国為替資金の場合も同様です。外貨資産を売買する場合、通常であれば歳出あるいは歳入として計上しなければなりません。これを行うと、100万ドル分の米国債を購入する場合には、予算として事前に100万ドルを米国債購入費として計上しなければなりませんし、それを売却する場合も、売却額を歳入に計上しなければなりません。しかし、そのような運用を歳出や歳入に計上して行うことは機動性を損ない、市場業務に馴染みません。そこで、機動的な売買を可能にするために、特別会計とは別に「資金」を設け、その資金を動かして運用を行い、資金からあがってくる損益を歳出や歳入として計上しているのです。
服部:特別会計の中に機動的な売買を可能にする工夫が施されているということですね。
津田:そうです。外国為替資金は日々売買を繰り返していますが、その中で、売買による差益や保有していた米国債の償還金や利子収入が入ってくることがあります。これらの確定分を、経理するのが特別会計なのです。したがって、特別会計は経理のための勘定に過ぎず、外貨建て資産の在りかは外国為替資金であるという感覚です。
これは国債整理基金も同様です。国債整理基金という資金があり、借換債の発行やJGBの償還といったお金の動きについてはこの資金が担っています。そのうち、運用元金の受払等を除き、その年の公債の償還費や利払い費等を会計処理するのが国債整理基金特別会計であり、その償還費・利払い費の原資が一般会計等から繰り入れられてバランスしています。運用元金の受払を歳入歳出に計上しないのは前述のとおり、機動的な運用が目的であり、国債整理基金はそれを可能にするための仕組みということです。
服部:このあたりは文章だけだとイメージしにくい部分ではありますね。
津田:「資金」という概念については、私は、特別会計が四角い立方体であるとすれば、「資金」はその四角のハコの中に浮かんでいる球体だというイメージをしています。資金は完全に特別会計と密着しているわけでなく、その球体の中で取引をしていて、その一部について、特別会計という立方体に丸い影が投影経理されるイメージです。その影が歳出や歳入として計上されているということです。
いわゆる予算の出入りを管理する世界では、「資金」という概念は基本的にあまり登場しません。右から左、左から右に流れていくものを全て計上することが求められますので。しかし、何らかの資金を運用するとなると、予算外の世界が発生し、しかも、そちらの方が金額規模として大きいということもあります。
学生:各資金によって運用の方法が異なるといったことでしょうか。
津田:そうです。そして、資金は全て法律で定められた存在であるため、何をして良いかも法律で定められています。また経理する上で適当な項目は歳出や歳入として特別会計予算に計上することで、国会に対する説明責任を担保するという制度になっています。
現先と国庫
服部:先ほど、国債整理基金が現先取引を行っていることについて触れられました。現先取引とは、要はレポのことで、担保付きの短期資金運用に相当するのですが、これについてもう少し説明してもらえますでしょうか。
津田:例えば、国債整理基金などで一時的に資金が余る時がありますよね。そうした資金で、日銀との間で現先取引を行います。例えば、日銀が保有するJGBを1ヶ月程度の期間で買い取り、1ヶ月後に売り返すという取引です。これは見方を変えれば、日銀に対して資金を1か月貸し付け、その担保としてJGBを受け取っているということとなり、広くマーケットで用いられている短期資金運用手法の一つです。
服部:日銀と直接レポ取引を行っているのは、民間金融機関とレポ取引を行うと規模が大きすぎるため、日銀と行っているということでしょうか。
津田:規模が非常に大きいため、民間金融機関を相手に取引することは必ずしも現実的・経済的ではありません。
服部:金利がプラスになってから変化はありましたか。
津田:ずっと昔から制度としては存在しましたが、マイナス金利時代には日銀との間で現先取引をしても結果的に資金が減るような状況になりえたため、運用が難しかったです。しかし利上げが始まり、短期金利もプラスになったので、現先取引も実施可能になりました。
ただ、我々が運用するのは一時的な滞留資金であるため、1年間といった長期の運用はできません。そのため、1ヶ月の現先取引など短期の取引が中心となります。
服部:国庫が対外的に行う運用としては、日銀向けの現先取引のみでしょうか。
津田:現状、実態としては日銀向けの現先取引のみ、と言っていいと思います。制度上はもう少し広範な取引が可能であり、法的に言えば民間との間でも取引は可能です。ただ、実態としては日銀との間でのみ行われていますね。
資金としては、外国為替資金、国債整理資金、財政融資資金といったものがありますが、法律上それぞれ運用対象資産が異なっています。国債整理基金は財投預託のほか国債のみを運用対象としています。そのため、取引の相手方はともかく、国債のレポや現先といった運用形態に限定されます。一方、財政融資資金はもう少し幅広い運用が可能だったと記憶しています。ただし、現実としては、現在は日銀との間での現先取引しか行われていないというのが私の理解です。外国為替資金になると、話は全く異なり、外貨建て債券の購入もできます。
学生:現先で運用するのは、どのようなお金なのでしょうか。
津田:現先取引で運用されるのは、「資金」の中の一時的に余っているお金です。なぜ一時的とはいえお金が余るのかというと、国債整理基金が毎月平準的に借換債を発行する一方、その資金を四半期ごとの過去に発行した国債の大量償還日に充てるまでの間に、一時的にお金が余るからです。その際、例えば今日資金を調達したものの、次の大量償還日までまだ1ヶ月ほどあるといった状況では、その資金を1ヶ月間そのまま置いておくのはもったいないため、運用したいと考えます。その時、最も簡単に運用できるのが、日銀を相手方とする現先取引であり、1ヶ月間資金を日銀に貸し付けるような状態にします。
学生:大内(2005)では、特別会計の積立金を財政融資資金に預託して運用する、という話も出てきますが、これと資金は異なる話でしょうか。
津田:「資金」も「積立金」も、国の歳出・歳入に計上されて国会から特定の目的での使用について議決を経るものとは異なり、より柔軟な運営のため歳出の外で適宜管理されるべき「資金プール」であるという点では同じです。資金も積立金も、財政融資基金に預託して運用することができます。
政府預金の種類
服部:ここから政府預金について議論を進めていきたいです。財務省のウェブサイトでは、「日本銀行に設けられた国の預金のこと」と説明されています。これは日本政府が日銀に預けた預金といってよいと思いますが、政府預金の中にも複数の種類があります。図表1 政府預金に示される通り、政府預金の中に、「当座預金」があり、他にも別口預金・指定預金があります。
財務省ウェブサイトの説明を参照すると、まず、当座預金については「政府預金の中心をなすものであり、国庫金の受払のうち国庫内振替収支を除く現金によるすべての受払が計上される預金」と説明されます。一方、別口預金は「政府預金の一つで、国庫金として払い込まれた代用納付証券や日本銀行が受払を行った貨幣を当座預金から組み替え、別計理するための預金」であり、指定預金は「政府預金の一つで、財務大臣がその運用方法又は利子等の特別の条件を指定した預金」です。
それぞれの預金については図表2 政府預金増減及び現在高表:令和6年度第4・四半期のように金額が開示されています。これをみればわかるとおり、当座預金は1,500億円であり、一番小さいことが分かります。一方、指定預金が最も大きく、また、変動が大きいことが分かります。*2
政府預金についても文献だけだとなかなか理解が進まなく、イメージがつきやすくなるように議論していきたいのですが、まず、図表1は、大内(2005)から引用したものですが、現在も、基本的にこの構図は変わらないという理解でよいでしょうか。
津田:今もそうです。最も重要なのは指定預金ですね。指定預金には金利が付くからです。
図表1では、政府預金の中に、当座預金がありますが、この図のとおり、全ての資金がまず当座預金を通過します。ある種の窓口のようなもので、全ての収入と支出は当座預金を経由して他の主体へと流れていくのですが、金利がゼロであるため、様々な偶発的な支出に対応できる最低限の預金として1,500億円を維持しています。
しかしそれ以外は、金利が付く指定預金に入れています。その際に、外国為替資金・食料安定供給(食糧管理勘定)・財政投融資(財政融資資金勘定)の3つの特別会計等はそれぞれ独自の口座を持っていますが、それ以外のすべての特別会計と一般会計は、「一般口」という口座で管理されています。
服部:指定預金の金利については、財務省のウェブサイトでは「日本銀行は、特に指定する場合を除き、国内指定預金各口座の日々の残高に対して、次の表の左欄に掲げる直近13週間の政府短期証券の公募入札における募入平均利回りを募入決定額により加重平均した利回り(以下「加重平均利回り」という。)の区分に応じ、それぞれ次の表の右欄に定める利率の国内指定預金金利(ただし、3ヶ月物政府短期証券の流通市場における実勢相場を勘案した利回りを上限とする。)を付するものとし、当該金利の改定は毎週行うものとする」と説明されています。今言及した「次の表」とは図表3 国内指定預金利子の取扱いについてになりますが、図表3をみると、国内指定預金利子の取扱いが記載されています。現在、加重平均利回りは「0.06%超」に相当すると思うので、直近13週のT-Billの平均から0.05%を差し引いた金利が支払われるということだと思います。
僕らが持っている銀行口座でも、流動性確保のために普通預金にいくらかを置いておき、余裕があれば定期預金にも入れますが、指定預金も同じイメージでしょうか。*3
津田:そうです。ただし、こちらの指定預金には定期性はなく、一日ごとに金利が少しずつ付与されるため、普通預金に近い性質を持っています。当座預金に対して利子がつかないのは、個人や法人が民間金融機関で保有する当座預金と同じですね。
服部:日銀とのレポ取引(現先取引)をした方がよいという選択肢はあるでしょうか。
津田:ある程度のまとまったお金を貯められるのであれば1ヶ月間レポ取引をした方が利回りは良いでしょう。しかし、1ヶ月間もお金を拘束できるか分からない場合は、とりあえず低金利でも普通預金のような形で預けるということです。
服部:この利払いは日銀にとってのコストということになりますよね。
津田:そうなります。いずれにせよ、口座別に経理していますので、その利子についてもどの口座のものかを明確にする必要があります。
組替整理
服部:図表4 主な国内指定預金は先程ふれた指定預金口座それぞれの説明になりますが、まず広い一般口があり、それ以外に3つ(外国為替資金口、食糧管理口および財政融資資金口)が用意されています。*4
図表5 指定預金の組替整理が大内(2005)の図ですが、ここでは、財政融資資金に「5億円」と記載されています。当座預金合計として1,500億円を保有すべきということですが、財政融資資金については5億円を最低限保有すべき、という意味でしょうか。
津田:その通りです。財政融資資金でも当座預金を一定程度もつ、ということです。財政融資資金全体で、例えば100億円の一時的な余裕資金があれば、そのうち5億円は当座預金として無利子で持ち、残りの95億円は財政融資資金の指定預金口に預金として入れて金利を得る、ということです。しかし、もしその95億円の一部に向こう1ヶ月以上使う予定がないのであれば、さらに利回りの良い日銀現先で運用することも可能です。
指定預金は外国為替資金でも全て円貨です。外国為替資金はFB(政府短期証券)を発行して、償還期日が来ると借り換えています。その場合、何らかの理由で一時的にお金が余った時に、こちらの口座に入れるというケースがあります。また、ドル売り円買い介入を行った際に、大量の円キャッシュが流入しますので、まずこの指定預金口座で受け入れ、FBを償還する、といった流れになります。
一般口は、その他全ての会計分をまとめて、国庫課が管理する口座です。いわば「親口座」のようなものです。それぞれで指定預金口座を持つ3つの特会に対して適宜協力を頼んだり、面倒を見たりします。
学生:例えば、国庫余裕金の繰替使用であれば、国庫内の資金融通なので、日銀を全く介さずに、帳簿上で「こちらの特別会計からあちらの特別会計に移します」と記録するだけということになるかと思います。当座預金と指定預金の間では、きちんと日銀に「これだけの金額を指定預金に移します」という手続きを行う、ということになりますか。
津田:当座預金と指定預金の間での移動はもとより、国庫余裕金の繰替使用についても、日銀に通知することになります。例えば夫婦間で資金を貸し借りする際に、わざわざ普通預金口座の数字を細かく調整する必要はないですよね。家族という括りとして、一般会計や特別会計の内部だけでやり取りが完結し、当座預金に影響しない範囲であれば、互いに記録しておくだけで良いですよね。
ただ、口座間の資金を移動させない場合も、日銀に経理をしてもらっています。日銀は、資金計理だけでなく国庫計理の事務もしてくれているので、日銀は把握する必要があります。「とりあえずメモしておいてください」と言うようなイメージです。そうでないと、最終的に政府が把握する数字と日銀が管理する数字が一致しないという問題が生じてしまいます。
別口預金について
服部:政府預金には「別口預金」というものもありますね。
津田:別口預金は特殊な存在です。これは、デジタルではない、当座預金や普通預金に入れられないお金を指します。例えば、政府が小切手を受け取った場合、それが現金化されるまでの間、ここで管理されます。
最も典型的なケースは、硬貨の受け払いに関するものです。金融機関で硬貨が余り、「金庫に入りきらないし、すぐに使う需要もないので日銀さんに一旦返却します」といった場合や、「この硬貨は曲がってしまっていて使えないので日銀さんに返却します」といったケースがあります。そうすると、一時的にマネーではなくなるため、一旦この別口預金で受け入れておき、その後、市中で硬貨が不足した時に再びそれを使用するか、あるいは曲がってしまった硬貨は別口預金から引き出して、造幣局において単なる金属の塊にして管理する、といったことが行われます。
国庫の資金繰り
服部:大内(2005)では国庫の資金繰りを一つの節として設けています。これから国庫の資金繰りについて議論を進めていきたいと思います。以前議論したとおり、政府の歳出と歳入には実際には「波動」があり、必要に応じてFBを発行するという議論をしました。
一方、いざという時のために、1,500億円を当座預金で流動性を確保しておき、それを超えた場合、基本的には金利が付く国内指定預金(一般口)に置いておくということだと思います。大内(2005)では、「政府当座預金の操作を『国庫全体の資金繰り』」と説明しています。
大内(2005)では当座預金の残高を1,500億円に維持しておくための努力について記載してあります。具体的には、「こうした変動に対して、無利子の当座預金に国庫金を必要以上に積んでおくと財政に対してその分余計な資金調達コストがかかる一方、逆に当座預金残高が不足する場合には国庫金の円滑な支払いが阻害されることとなるため、国庫大臣(財務大臣)は日々の国庫金の受払いについて予め予想をたて、⑴ 当座預金残高の不足が見込まれる場合には、財務省証券分としてのFBの発行等を通じて資金を調達し、⑵ 必要以上の余剰が生ずる場合には、有利子の国内指定預金(一般口)への組替整理を行う」(p.55)としています。
津田:一般口には、一般会計だけでなく特別会計(一部の勘定等を除く)の資金が入っていますので、それぞれの会計の資金繰りを見ることになります。そして、もしどこかの特別会計が資金不足を訴えた場合、他の一般会計にある資金を融通しよう、という形で国庫余裕金の繰替使用を行うのです。
特に、国債整理基金特別会計は一般口に属しています。財政融資資金は独自の口座を持っていますが、国債整理基金は持っていませんからね。ですから、国債整理基金を含めて一般口で資金繰りを見ているということは、最も巨額の資金を扱っているということになります。
服部:一般口の中に、外国為替資金、食料安定供給(食糧管理勘定)および財政融資資金を除く、他の特別会計が全て入っている訳ですよね。
津田:はい。そして、それぞれの特別会計は、各時点で常に残高がプラスである状態を維持すべきとされています。そうでないと、区分経理する意味がないですからね。底に穴の開いたバケツがいくつもあっても仕方がないので。
服部:財務省のウェブサイトでは、国庫の資金繰りの方法として2つのステップで説明されています。具体的には、(1)国庫収支見込の作成、(2)国庫収支見込による資金繰り方針の決定、という手順です。図表6 国庫資金繰りの方法がその概要ですが、まずはステップ1として、支出と収入の予測を正確にするということですね。次に、国庫内で余裕があれば適時繰替使用等を行い、逆に資金が不足したらFBを発行するということかと思います。不確実性の度合いという観点では、やはり、歳出・歳入の予測が大切なわけですね。*5
津田:その通りです。もちろん、各省庁が正しい歳出見込みを登録しているという前提もあります。
服部:最近は金利が上がってきましたが、何か変化はありましたか。*6
津田:今のところはあまり大きな影響はないのではないかと感じています。確かに、金利が上昇したことで利払い費が多少増えるといったことは今後あると思います。ですが、徐々に影響は出ているものの、この大きな枠組みが変更されるような事態にはなっていません。
FBについて
服部:次に、FB(政府短期証券)そのものに議論をすすめていこうとおもいます。まず、そもそも、FBは、国庫の現金不足の際、一時的なつなぎ資金を調達するために発行される証券です。図表7 政府短期証券(FB)の概要が国庫課のウェブサイトに記載されているFBの概要ですが、年間発行がなされているものに、財務省証券、外国為替資金証券、石油証券、食糧証券があります。この図表にもある通り、FBは現在、市中公募発行がなされています。
津田:1999年までは、国庫のFB発行は定率公募残額日銀引受方式により、基本的には市中で売り切れなかった場合に日銀が引き受けるという形でした。その後、金融ビッグバンや円の国際化などもあり*7、FBは市中発行を原則とするようになりました。それ以降、日銀による直接引受は、ごく例外的なケースを除いて行われなくなりました。
服部:円の国際化の議論と共にFBの市中発行が決まったのは歴史的には重要な事実ですよね。先ほど、指定預金について触れましたが、この制度もFBの公募化と関係しています。大内(2005)では「国内指定預金とは、従来の内地指定預金を改正した預金であり、財務大臣の定める手続きにより、国庫の運営上発生した余裕金について、政府預金内において当座預金から組替整理したものである。この改正の背景としては、政府短期証券(FB)を定率公募残額日銀引受方式により発行していたときには、実質的にはFBのほぼ全額を日本銀行が保有していたため、余裕金が発生した場合には政府は随時日本銀行保有FBの繰上償還を行い調整することができたもの、平成11年4月のFBの公募入札発行に伴い、原則として繰上償還ができなくなったことがある」(p.53)と説明しています。*8
財務省では、FBは国債ではないという整理がなされているという話も聞きます。国庫課のウェブサイトでは、FBの発行は市中公募入札発行を原則としつつも、「(1)公募入札において募集残額等が生じた場合及び国庫に予期せざる資金需要が生じた場合には、日本銀行は、例外的に所要のFBの引受を行うものとする」「(2)日本銀行は、上記(1)による例外的な引受のほか、自らの業務運営上の必要に応じ、FBの引受を行うことができる」と記載しています。
津田:我々は国債とFBを区別しています。国債は、本来、その年度の税収やその他収入で賄うべき国の歳出のうち、これらで賄えない歳出需要を賄うために発行していますが、一方でFBは、日々の国庫の資金繰りを行う上で、国庫金の短期の資金繰りのために、また特別会計の一時的な資金不足を賄うために発行しており、発行目的が異なります。なお、政府短期証券(FB)は割引短期国債(Treasury Bills、略称:TB)と合わせて、国庫短期証券(Treasury Discount Bills、略称:T-Bill)という統一名称の下で発行され市中で流通しています。
服部:FBについて具体的に議論をしたいのですが、外国為替資金証券(為券)はよく議論になるので、ここでは食糧証券と石油証券についてお話を聞きたいです。まず、食糧証券についてですが、最近では、備蓄米が話題ですよね。
津田:食糧証券ですね。政府は食料安定供給特別会計の食糧管理勘定において、政府備蓄米の管理を行っています。前述のように、政府の財政活動においては、日々の国庫金の受払のタイミングのズレにより、一時的に資金が不足したり、資金に余裕が生じるため、食糧証券によってその調整を行っています。
服部:備蓄米に関する国庫金の受払のタイミングのズレとは、どのようなものですか。
津田:具体的には、政府備蓄米の購入にあたっては、毎年度必要となる予算額が措置されていますが、特別会計においては、政府備蓄米の購入・飼料用等への売り払い、更には外国からの麦の購入・売却も行っているため、年間を通じて考えれば、資金の入りと出のズレが発生しており、一時的にそれを埋めているものが短期政府債務証券である食糧証券です。
服部:石油証券についてはどうでしょうか。
津田:大内(2005)をみると、「国家備蓄石油の購入に要する費用の財源に充てるため」と記載されています。これも、ウクライナ紛争の後などに、石油備蓄がどれだけあるかといった形で話題になりますよね。
服部:具体的には、石油の備蓄についてはエネルギー対策特別会計で管理されています。図表9 エネルギー対策特別会計がエネルギー対策特別会計の概要であり、「エネルギー需給勘定」「電源開発促進勘定」「原子力損害賠償支援勘定」があることが分かりますが、石油の備蓄はエネルギー需給勘定の燃料安定供給対策の中で実施されています。*9
こちらも先ほどの食糧証券のような形で、FBを発行し、資産サイドで石油を保有し、いざという時のために備蓄しているということだと思います。石油であれば、確かに価格変動リスクはありますが、米のように賞味期限が切れるということはないという特徴があると思います。
津田:その通りです。これも結局、円を調達して石油を買い入れている、石油トレーダーのようなポジションになっているわけです。
服部:債務管理リポートを見ると、石油証券の方が残高は多いですね。石油証券は、約1兆円あります。一方、食糧証券の残高は1千億円台から2千億円程度です。特別会計ガイドブックにエネルギー対策特別会計のバランスシートが記載されていますが、FBが約1.2兆円(令和4年度)計上されているのに対し、資産側に1.4兆のたな卸資産が計上されており、「将来のリスクに備える国家石油備蓄等」と説明されています。
津田:石油証券の方が食糧証券よりも残高が多いのは、石油と米などの備蓄規模の違いということによるのでしょうね。
図表8 円の国際化の推進策とFBの公募化
*1) なお、本対談は2025年6月に実施されており、以下における肩書や組織名は2025年6月当時である点に注意してください。また、本稿を記載するにあたり、安斎由里菜さんと新田凜さんの協力を得ました。
*2) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/reference/exchequer_report/data.htm
*3) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/reference/laws/01.pdf
*4) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/summary/index.htm
*5) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/index.htm
*6) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/02.pdf
*7) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/03.pdf
*8) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/03.pdf
*9) https://www.mof.go.jp/policy/budget/topics/special_account/fy2024/2024-kakuron-6.pdf
津田夏樹 国際局地域協力課長
2002年、東京大学法学部卒業後、財務省に入省。国際通貨基金(IMF)金融資本市場局審議役、財務省理財局国庫課長兼デジタル通貨企画官を経て、2025年7月より現職。2009年コロンビア大学MBA修了。
服部孝洋 東京大学公共政策大学院特任准教授
2008年、一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了後、野村證券に入社。2016年、財務省財務総合政策研究所を経て、2020年に東京大学に移籍し、現在に至る。経済学博士(一橋大学)を取得。
本インタビューの目的
日本の国庫制度については、その概要を明らかにした文献は必ずしも多いとはいえません。国庫制度を理解することは、国の資金の流れを正確に把握するだけでなく、短期金融市場の実務や金融政策等を的確に理解する上でも不可欠です。日銀が有する「政府の銀行」としての機能は国庫金に係る制度そのものと言っても過言ではありません。そこで本稿は、国庫課課長の津田課長との対談を通じて、国庫制度およびその業務についての理解を深めることを目的としています*1。
資金と特別会計とは
服部:特別会計(特会)について理解が難しいものとして、「資金」の概念があります。例えば、外為特会をみていると、外国為替資金という概念が出てきます。また、後ほど政府預金の話をしますが、そこでも資金の概念が出てきます。もっとも、財政における「資金」がどういうものであるかは、意外と説明されていない気がします。「特別会計に関する法律」における外国為替資金特別会計の節を読むと、「外国為替資金特別会計は、政府の行う外国為替等の売買等を円滑にするために外国為替資金を置き、その運営に関する経理を明確にすることを目的とする」とあり、資金とは政府による売買を円滑にするために置いていると記載されています。
津田:例えば、国債整理基金も、国債整理基金という特殊な名称を持つ「資金」です。また、財政融資資金も外国為替資金も「資金」です。その他、様々な「資金」があります。これらの特会は資金を経理するために設定されています。
服部:確かに、国債整理基金特別会計についても、「国債整理基金特別会計は、国債の償還及び発行を円滑に行うための資金として国債整理基金を置き、その経理を明確にすることを目的とする」と説明されており、書きぶりは外為特会と似ていますね。
津田:ここで、財政法上の資金とは何かを説明します。まず、国の資金については歳出ないし歳入として計上するという歳入歳出総計主義という原則があります。特別会計も例外ではなく、一般会計と同じように、歳出と歳入があります。そして、特別会計は、特に歳出について国会での議決を経て、その範囲内でだけお金を使えることになります。一方、前述の「資金」は、資金の受払を歳入歳出外で処理することが特徴です。
一例として国債整理基金で考えると、国債の発行による収入金が入ってきますし、国債の償還日が来たらその基金から償還します。この基金がそれらの取引を行っており、そのお金の動きのうち、歳出と歳入に該当するものだけを特別会計が経理しているという位置づけです。
例えば、国債整理基金は、資金に余裕があれば、日銀と現先取引をしています。日銀と現先取引をするということは、国債の売買を短期的に繰り返していくわけですが、それらをいちいち歳出や歳入として計上していくと、ものすごい金額になってしまいます。そういう形にしない工夫が「資金」になるのです。
外国為替資金の場合も同様です。外貨資産を売買する場合、通常であれば歳出あるいは歳入として計上しなければなりません。これを行うと、100万ドル分の米国債を購入する場合には、予算として事前に100万ドルを米国債購入費として計上しなければなりませんし、それを売却する場合も、売却額を歳入に計上しなければなりません。しかし、そのような運用を歳出や歳入に計上して行うことは機動性を損ない、市場業務に馴染みません。そこで、機動的な売買を可能にするために、特別会計とは別に「資金」を設け、その資金を動かして運用を行い、資金からあがってくる損益を歳出や歳入として計上しているのです。
服部:特別会計の中に機動的な売買を可能にする工夫が施されているということですね。
津田:そうです。外国為替資金は日々売買を繰り返していますが、その中で、売買による差益や保有していた米国債の償還金や利子収入が入ってくることがあります。これらの確定分を、経理するのが特別会計なのです。したがって、特別会計は経理のための勘定に過ぎず、外貨建て資産の在りかは外国為替資金であるという感覚です。
これは国債整理基金も同様です。国債整理基金という資金があり、借換債の発行やJGBの償還といったお金の動きについてはこの資金が担っています。そのうち、運用元金の受払等を除き、その年の公債の償還費や利払い費等を会計処理するのが国債整理基金特別会計であり、その償還費・利払い費の原資が一般会計等から繰り入れられてバランスしています。運用元金の受払を歳入歳出に計上しないのは前述のとおり、機動的な運用が目的であり、国債整理基金はそれを可能にするための仕組みということです。
服部:このあたりは文章だけだとイメージしにくい部分ではありますね。
津田:「資金」という概念については、私は、特別会計が四角い立方体であるとすれば、「資金」はその四角のハコの中に浮かんでいる球体だというイメージをしています。資金は完全に特別会計と密着しているわけでなく、その球体の中で取引をしていて、その一部について、特別会計という立方体に丸い影が投影経理されるイメージです。その影が歳出や歳入として計上されているということです。
いわゆる予算の出入りを管理する世界では、「資金」という概念は基本的にあまり登場しません。右から左、左から右に流れていくものを全て計上することが求められますので。しかし、何らかの資金を運用するとなると、予算外の世界が発生し、しかも、そちらの方が金額規模として大きいということもあります。
学生:各資金によって運用の方法が異なるといったことでしょうか。
津田:そうです。そして、資金は全て法律で定められた存在であるため、何をして良いかも法律で定められています。また経理する上で適当な項目は歳出や歳入として特別会計予算に計上することで、国会に対する説明責任を担保するという制度になっています。
現先と国庫
服部:先ほど、国債整理基金が現先取引を行っていることについて触れられました。現先取引とは、要はレポのことで、担保付きの短期資金運用に相当するのですが、これについてもう少し説明してもらえますでしょうか。
津田:例えば、国債整理基金などで一時的に資金が余る時がありますよね。そうした資金で、日銀との間で現先取引を行います。例えば、日銀が保有するJGBを1ヶ月程度の期間で買い取り、1ヶ月後に売り返すという取引です。これは見方を変えれば、日銀に対して資金を1か月貸し付け、その担保としてJGBを受け取っているということとなり、広くマーケットで用いられている短期資金運用手法の一つです。
服部:日銀と直接レポ取引を行っているのは、民間金融機関とレポ取引を行うと規模が大きすぎるため、日銀と行っているということでしょうか。
津田:規模が非常に大きいため、民間金融機関を相手に取引することは必ずしも現実的・経済的ではありません。
服部:金利がプラスになってから変化はありましたか。
津田:ずっと昔から制度としては存在しましたが、マイナス金利時代には日銀との間で現先取引をしても結果的に資金が減るような状況になりえたため、運用が難しかったです。しかし利上げが始まり、短期金利もプラスになったので、現先取引も実施可能になりました。
ただ、我々が運用するのは一時的な滞留資金であるため、1年間といった長期の運用はできません。そのため、1ヶ月の現先取引など短期の取引が中心となります。
服部:国庫が対外的に行う運用としては、日銀向けの現先取引のみでしょうか。
津田:現状、実態としては日銀向けの現先取引のみ、と言っていいと思います。制度上はもう少し広範な取引が可能であり、法的に言えば民間との間でも取引は可能です。ただ、実態としては日銀との間でのみ行われていますね。
資金としては、外国為替資金、国債整理資金、財政融資資金といったものがありますが、法律上それぞれ運用対象資産が異なっています。国債整理基金は財投預託のほか国債のみを運用対象としています。そのため、取引の相手方はともかく、国債のレポや現先といった運用形態に限定されます。一方、財政融資資金はもう少し幅広い運用が可能だったと記憶しています。ただし、現実としては、現在は日銀との間での現先取引しか行われていないというのが私の理解です。外国為替資金になると、話は全く異なり、外貨建て債券の購入もできます。
学生:現先で運用するのは、どのようなお金なのでしょうか。
津田:現先取引で運用されるのは、「資金」の中の一時的に余っているお金です。なぜ一時的とはいえお金が余るのかというと、国債整理基金が毎月平準的に借換債を発行する一方、その資金を四半期ごとの過去に発行した国債の大量償還日に充てるまでの間に、一時的にお金が余るからです。その際、例えば今日資金を調達したものの、次の大量償還日までまだ1ヶ月ほどあるといった状況では、その資金を1ヶ月間そのまま置いておくのはもったいないため、運用したいと考えます。その時、最も簡単に運用できるのが、日銀を相手方とする現先取引であり、1ヶ月間資金を日銀に貸し付けるような状態にします。
学生:大内(2005)では、特別会計の積立金を財政融資資金に預託して運用する、という話も出てきますが、これと資金は異なる話でしょうか。
津田:「資金」も「積立金」も、国の歳出・歳入に計上されて国会から特定の目的での使用について議決を経るものとは異なり、より柔軟な運営のため歳出の外で適宜管理されるべき「資金プール」であるという点では同じです。資金も積立金も、財政融資基金に預託して運用することができます。
政府預金の種類
服部:ここから政府預金について議論を進めていきたいです。財務省のウェブサイトでは、「日本銀行に設けられた国の預金のこと」と説明されています。これは日本政府が日銀に預けた預金といってよいと思いますが、政府預金の中にも複数の種類があります。図表1 政府預金に示される通り、政府預金の中に、「当座預金」があり、他にも別口預金・指定預金があります。
財務省ウェブサイトの説明を参照すると、まず、当座預金については「政府預金の中心をなすものであり、国庫金の受払のうち国庫内振替収支を除く現金によるすべての受払が計上される預金」と説明されます。一方、別口預金は「政府預金の一つで、国庫金として払い込まれた代用納付証券や日本銀行が受払を行った貨幣を当座預金から組み替え、別計理するための預金」であり、指定預金は「政府預金の一つで、財務大臣がその運用方法又は利子等の特別の条件を指定した預金」です。
それぞれの預金については図表2 政府預金増減及び現在高表:令和6年度第4・四半期のように金額が開示されています。これをみればわかるとおり、当座預金は1,500億円であり、一番小さいことが分かります。一方、指定預金が最も大きく、また、変動が大きいことが分かります。*2
政府預金についても文献だけだとなかなか理解が進まなく、イメージがつきやすくなるように議論していきたいのですが、まず、図表1は、大内(2005)から引用したものですが、現在も、基本的にこの構図は変わらないという理解でよいでしょうか。
津田:今もそうです。最も重要なのは指定預金ですね。指定預金には金利が付くからです。
図表1では、政府預金の中に、当座預金がありますが、この図のとおり、全ての資金がまず当座預金を通過します。ある種の窓口のようなもので、全ての収入と支出は当座預金を経由して他の主体へと流れていくのですが、金利がゼロであるため、様々な偶発的な支出に対応できる最低限の預金として1,500億円を維持しています。
しかしそれ以外は、金利が付く指定預金に入れています。その際に、外国為替資金・食料安定供給(食糧管理勘定)・財政投融資(財政融資資金勘定)の3つの特別会計等はそれぞれ独自の口座を持っていますが、それ以外のすべての特別会計と一般会計は、「一般口」という口座で管理されています。
服部:指定預金の金利については、財務省のウェブサイトでは「日本銀行は、特に指定する場合を除き、国内指定預金各口座の日々の残高に対して、次の表の左欄に掲げる直近13週間の政府短期証券の公募入札における募入平均利回りを募入決定額により加重平均した利回り(以下「加重平均利回り」という。)の区分に応じ、それぞれ次の表の右欄に定める利率の国内指定預金金利(ただし、3ヶ月物政府短期証券の流通市場における実勢相場を勘案した利回りを上限とする。)を付するものとし、当該金利の改定は毎週行うものとする」と説明されています。今言及した「次の表」とは図表3 国内指定預金利子の取扱いについてになりますが、図表3をみると、国内指定預金利子の取扱いが記載されています。現在、加重平均利回りは「0.06%超」に相当すると思うので、直近13週のT-Billの平均から0.05%を差し引いた金利が支払われるということだと思います。
僕らが持っている銀行口座でも、流動性確保のために普通預金にいくらかを置いておき、余裕があれば定期預金にも入れますが、指定預金も同じイメージでしょうか。*3
津田:そうです。ただし、こちらの指定預金には定期性はなく、一日ごとに金利が少しずつ付与されるため、普通預金に近い性質を持っています。当座預金に対して利子がつかないのは、個人や法人が民間金融機関で保有する当座預金と同じですね。
服部:日銀とのレポ取引(現先取引)をした方がよいという選択肢はあるでしょうか。
津田:ある程度のまとまったお金を貯められるのであれば1ヶ月間レポ取引をした方が利回りは良いでしょう。しかし、1ヶ月間もお金を拘束できるか分からない場合は、とりあえず低金利でも普通預金のような形で預けるということです。
服部:この利払いは日銀にとってのコストということになりますよね。
津田:そうなります。いずれにせよ、口座別に経理していますので、その利子についてもどの口座のものかを明確にする必要があります。
組替整理
服部:図表4 主な国内指定預金は先程ふれた指定預金口座それぞれの説明になりますが、まず広い一般口があり、それ以外に3つ(外国為替資金口、食糧管理口および財政融資資金口)が用意されています。*4
図表5 指定預金の組替整理が大内(2005)の図ですが、ここでは、財政融資資金に「5億円」と記載されています。当座預金合計として1,500億円を保有すべきということですが、財政融資資金については5億円を最低限保有すべき、という意味でしょうか。
津田:その通りです。財政融資資金でも当座預金を一定程度もつ、ということです。財政融資資金全体で、例えば100億円の一時的な余裕資金があれば、そのうち5億円は当座預金として無利子で持ち、残りの95億円は財政融資資金の指定預金口に預金として入れて金利を得る、ということです。しかし、もしその95億円の一部に向こう1ヶ月以上使う予定がないのであれば、さらに利回りの良い日銀現先で運用することも可能です。
指定預金は外国為替資金でも全て円貨です。外国為替資金はFB(政府短期証券)を発行して、償還期日が来ると借り換えています。その場合、何らかの理由で一時的にお金が余った時に、こちらの口座に入れるというケースがあります。また、ドル売り円買い介入を行った際に、大量の円キャッシュが流入しますので、まずこの指定預金口座で受け入れ、FBを償還する、といった流れになります。
一般口は、その他全ての会計分をまとめて、国庫課が管理する口座です。いわば「親口座」のようなものです。それぞれで指定預金口座を持つ3つの特会に対して適宜協力を頼んだり、面倒を見たりします。
学生:例えば、国庫余裕金の繰替使用であれば、国庫内の資金融通なので、日銀を全く介さずに、帳簿上で「こちらの特別会計からあちらの特別会計に移します」と記録するだけということになるかと思います。当座預金と指定預金の間では、きちんと日銀に「これだけの金額を指定預金に移します」という手続きを行う、ということになりますか。
津田:当座預金と指定預金の間での移動はもとより、国庫余裕金の繰替使用についても、日銀に通知することになります。例えば夫婦間で資金を貸し借りする際に、わざわざ普通預金口座の数字を細かく調整する必要はないですよね。家族という括りとして、一般会計や特別会計の内部だけでやり取りが完結し、当座預金に影響しない範囲であれば、互いに記録しておくだけで良いですよね。
ただ、口座間の資金を移動させない場合も、日銀に経理をしてもらっています。日銀は、資金計理だけでなく国庫計理の事務もしてくれているので、日銀は把握する必要があります。「とりあえずメモしておいてください」と言うようなイメージです。そうでないと、最終的に政府が把握する数字と日銀が管理する数字が一致しないという問題が生じてしまいます。
別口預金について
服部:政府預金には「別口預金」というものもありますね。
津田:別口預金は特殊な存在です。これは、デジタルではない、当座預金や普通預金に入れられないお金を指します。例えば、政府が小切手を受け取った場合、それが現金化されるまでの間、ここで管理されます。
最も典型的なケースは、硬貨の受け払いに関するものです。金融機関で硬貨が余り、「金庫に入りきらないし、すぐに使う需要もないので日銀さんに一旦返却します」といった場合や、「この硬貨は曲がってしまっていて使えないので日銀さんに返却します」といったケースがあります。そうすると、一時的にマネーではなくなるため、一旦この別口預金で受け入れておき、その後、市中で硬貨が不足した時に再びそれを使用するか、あるいは曲がってしまった硬貨は別口預金から引き出して、造幣局において単なる金属の塊にして管理する、といったことが行われます。
国庫の資金繰り
服部:大内(2005)では国庫の資金繰りを一つの節として設けています。これから国庫の資金繰りについて議論を進めていきたいと思います。以前議論したとおり、政府の歳出と歳入には実際には「波動」があり、必要に応じてFBを発行するという議論をしました。
一方、いざという時のために、1,500億円を当座預金で流動性を確保しておき、それを超えた場合、基本的には金利が付く国内指定預金(一般口)に置いておくということだと思います。大内(2005)では、「政府当座預金の操作を『国庫全体の資金繰り』」と説明しています。
大内(2005)では当座預金の残高を1,500億円に維持しておくための努力について記載してあります。具体的には、「こうした変動に対して、無利子の当座預金に国庫金を必要以上に積んでおくと財政に対してその分余計な資金調達コストがかかる一方、逆に当座預金残高が不足する場合には国庫金の円滑な支払いが阻害されることとなるため、国庫大臣(財務大臣)は日々の国庫金の受払いについて予め予想をたて、⑴ 当座預金残高の不足が見込まれる場合には、財務省証券分としてのFBの発行等を通じて資金を調達し、⑵ 必要以上の余剰が生ずる場合には、有利子の国内指定預金(一般口)への組替整理を行う」(p.55)としています。
津田:一般口には、一般会計だけでなく特別会計(一部の勘定等を除く)の資金が入っていますので、それぞれの会計の資金繰りを見ることになります。そして、もしどこかの特別会計が資金不足を訴えた場合、他の一般会計にある資金を融通しよう、という形で国庫余裕金の繰替使用を行うのです。
特に、国債整理基金特別会計は一般口に属しています。財政融資資金は独自の口座を持っていますが、国債整理基金は持っていませんからね。ですから、国債整理基金を含めて一般口で資金繰りを見ているということは、最も巨額の資金を扱っているということになります。
服部:一般口の中に、外国為替資金、食料安定供給(食糧管理勘定)および財政融資資金を除く、他の特別会計が全て入っている訳ですよね。
津田:はい。そして、それぞれの特別会計は、各時点で常に残高がプラスである状態を維持すべきとされています。そうでないと、区分経理する意味がないですからね。底に穴の開いたバケツがいくつもあっても仕方がないので。
服部:財務省のウェブサイトでは、国庫の資金繰りの方法として2つのステップで説明されています。具体的には、(1)国庫収支見込の作成、(2)国庫収支見込による資金繰り方針の決定、という手順です。図表6 国庫資金繰りの方法がその概要ですが、まずはステップ1として、支出と収入の予測を正確にするということですね。次に、国庫内で余裕があれば適時繰替使用等を行い、逆に資金が不足したらFBを発行するということかと思います。不確実性の度合いという観点では、やはり、歳出・歳入の予測が大切なわけですね。*5
津田:その通りです。もちろん、各省庁が正しい歳出見込みを登録しているという前提もあります。
服部:最近は金利が上がってきましたが、何か変化はありましたか。*6
津田:今のところはあまり大きな影響はないのではないかと感じています。確かに、金利が上昇したことで利払い費が多少増えるといったことは今後あると思います。ですが、徐々に影響は出ているものの、この大きな枠組みが変更されるような事態にはなっていません。
FBについて
服部:次に、FB(政府短期証券)そのものに議論をすすめていこうとおもいます。まず、そもそも、FBは、国庫の現金不足の際、一時的なつなぎ資金を調達するために発行される証券です。図表7 政府短期証券(FB)の概要が国庫課のウェブサイトに記載されているFBの概要ですが、年間発行がなされているものに、財務省証券、外国為替資金証券、石油証券、食糧証券があります。この図表にもある通り、FBは現在、市中公募発行がなされています。
津田:1999年までは、国庫のFB発行は定率公募残額日銀引受方式により、基本的には市中で売り切れなかった場合に日銀が引き受けるという形でした。その後、金融ビッグバンや円の国際化などもあり*7、FBは市中発行を原則とするようになりました。それ以降、日銀による直接引受は、ごく例外的なケースを除いて行われなくなりました。
服部:円の国際化の議論と共にFBの市中発行が決まったのは歴史的には重要な事実ですよね。先ほど、指定預金について触れましたが、この制度もFBの公募化と関係しています。大内(2005)では「国内指定預金とは、従来の内地指定預金を改正した預金であり、財務大臣の定める手続きにより、国庫の運営上発生した余裕金について、政府預金内において当座預金から組替整理したものである。この改正の背景としては、政府短期証券(FB)を定率公募残額日銀引受方式により発行していたときには、実質的にはFBのほぼ全額を日本銀行が保有していたため、余裕金が発生した場合には政府は随時日本銀行保有FBの繰上償還を行い調整することができたもの、平成11年4月のFBの公募入札発行に伴い、原則として繰上償還ができなくなったことがある」(p.53)と説明しています。*8
財務省では、FBは国債ではないという整理がなされているという話も聞きます。国庫課のウェブサイトでは、FBの発行は市中公募入札発行を原則としつつも、「(1)公募入札において募集残額等が生じた場合及び国庫に予期せざる資金需要が生じた場合には、日本銀行は、例外的に所要のFBの引受を行うものとする」「(2)日本銀行は、上記(1)による例外的な引受のほか、自らの業務運営上の必要に応じ、FBの引受を行うことができる」と記載しています。
津田:我々は国債とFBを区別しています。国債は、本来、その年度の税収やその他収入で賄うべき国の歳出のうち、これらで賄えない歳出需要を賄うために発行していますが、一方でFBは、日々の国庫の資金繰りを行う上で、国庫金の短期の資金繰りのために、また特別会計の一時的な資金不足を賄うために発行しており、発行目的が異なります。なお、政府短期証券(FB)は割引短期国債(Treasury Bills、略称:TB)と合わせて、国庫短期証券(Treasury Discount Bills、略称:T-Bill)という統一名称の下で発行され市中で流通しています。
服部:FBについて具体的に議論をしたいのですが、外国為替資金証券(為券)はよく議論になるので、ここでは食糧証券と石油証券についてお話を聞きたいです。まず、食糧証券についてですが、最近では、備蓄米が話題ですよね。
津田:食糧証券ですね。政府は食料安定供給特別会計の食糧管理勘定において、政府備蓄米の管理を行っています。前述のように、政府の財政活動においては、日々の国庫金の受払のタイミングのズレにより、一時的に資金が不足したり、資金に余裕が生じるため、食糧証券によってその調整を行っています。
服部:備蓄米に関する国庫金の受払のタイミングのズレとは、どのようなものですか。
津田:具体的には、政府備蓄米の購入にあたっては、毎年度必要となる予算額が措置されていますが、特別会計においては、政府備蓄米の購入・飼料用等への売り払い、更には外国からの麦の購入・売却も行っているため、年間を通じて考えれば、資金の入りと出のズレが発生しており、一時的にそれを埋めているものが短期政府債務証券である食糧証券です。
服部:石油証券についてはどうでしょうか。
津田:大内(2005)をみると、「国家備蓄石油の購入に要する費用の財源に充てるため」と記載されています。これも、ウクライナ紛争の後などに、石油備蓄がどれだけあるかといった形で話題になりますよね。
服部:具体的には、石油の備蓄についてはエネルギー対策特別会計で管理されています。図表9 エネルギー対策特別会計がエネルギー対策特別会計の概要であり、「エネルギー需給勘定」「電源開発促進勘定」「原子力損害賠償支援勘定」があることが分かりますが、石油の備蓄はエネルギー需給勘定の燃料安定供給対策の中で実施されています。*9
こちらも先ほどの食糧証券のような形で、FBを発行し、資産サイドで石油を保有し、いざという時のために備蓄しているということだと思います。石油であれば、確かに価格変動リスクはありますが、米のように賞味期限が切れるということはないという特徴があると思います。
津田:その通りです。これも結局、円を調達して石油を買い入れている、石油トレーダーのようなポジションになっているわけです。
服部:債務管理リポートを見ると、石油証券の方が残高は多いですね。石油証券は、約1兆円あります。一方、食糧証券の残高は1千億円台から2千億円程度です。特別会計ガイドブックにエネルギー対策特別会計のバランスシートが記載されていますが、FBが約1.2兆円(令和4年度)計上されているのに対し、資産側に1.4兆のたな卸資産が計上されており、「将来のリスクに備える国家石油備蓄等」と説明されています。
津田:石油証券の方が食糧証券よりも残高が多いのは、石油と米などの備蓄規模の違いということによるのでしょうね。
図表8 円の国際化の推進策とFBの公募化
*1) なお、本対談は2025年6月に実施されており、以下における肩書や組織名は2025年6月当時である点に注意してください。また、本稿を記載するにあたり、安斎由里菜さんと新田凜さんの協力を得ました。
*2) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/reference/exchequer_report/data.htm
*3) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/reference/laws/01.pdf
*4) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/summary/index.htm
*5) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/index.htm
*6) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/02.pdf
*7) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/03.pdf
*8) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/03.pdf
*9) https://www.mof.go.jp/policy/budget/topics/special_account/fy2024/2024-kakuron-6.pdf

