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津田夏樹課長に聞く、日本の国庫制度(中編)

国際局地域協力課長 津田  夏樹/東京大学 服部  孝洋

津田夏樹 国際局地域協力課長
2002年、東京大学法学部卒業後、財務省に入省。国際通貨基金(IMF)金融資本市場局審議役、財務省理財局国庫課長兼デジタル通貨企画官を経て、2025年7月より現職。2009年コロンビア大学MBA修了。

服部孝洋 東京大学公共政策大学院特任准教授
2008年、一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了後、野村證券に入社。2016年、財務省財務総合政策研究所を経て、2020年に東京大学に移籍し、現在に至る。経済学博士(一橋大学)を取得。
 
本インタビューの目的
 日本の国庫制度について、その概要を明らかにした文献は必ずしも多いとはいえません。国庫制度についての知識は、国の資金の流れを正確に理解するだけでなく、金融政策等について正確に理解する上でも必須です。日銀が有する「政府の銀行」としての機能は、国庫金に係る制度そのものと言っても過言ではありません。そこで本稿では、国庫課課長の津田夏樹課長との対談を通じて、国庫制度およびその業務についての理解を深めます。本稿が短期金融市場の実務家にとっても役に立つ文章になることを期待しています*1。
 なお、本記事は、「津田夏樹課長に聞く、日本の国庫制度(前編)」を前提としているため、そちらも参照していただければ幸いです(同記事については「前編」と記載します)。

財政資金対民間収支の見込み
服部:財務省は財政資金対民間収支の内訳に関する統計を毎月リリースしています。財政資金対民間収支とは、国庫金の動きの中でも、対民間部分に焦点をあてたものといえますが、その定義は後程議論するとして、まずは、この統計がどのように見られているのかという観点で議論を進められればと思います。財政資金対民間収支はFB(政府短期証券)と深くかかわっており、短期金融市場の市場参加者は必ず見ている統計です。
 まず、最初にどのような形で統計がリリースされているかを確認します。図表1 財政資金対民間収支(令和7年6月中見込)が2025年6月冒頭(6月3日)にリリースされた6月中見込み分です。

津田:この統計は、月の初めの第二営業日に、前月の「実績」と当月の「見込」を出しています。このうち、当月の「見込」において、その月のT-Bill(FBはTB(割引短期国債)と合わせてT-Billとして発行されています)の公募発行の規模と、翌月の公募発行の目安を出しています。短期金融市場関係者は、特にT-Billの公募発行の見込額などを見ていると言われています。

服部:図表1をみると、大項目として、(1)一般会計、(2)特別会計等があり、(3)小計があります。その後、資金調達に相当する(4)国債等と(5)国庫短期証券(FB+TB)等という項目が来て、(6)小計と(7)合計があります。各種用語は財務省のウェブサイトに説明があります*2。
 注意が必要なのは、公表されている財政資金対民間収支の統計表には「見込」と「実績」の2種類があるという点です。図表1は「見込」の統計表であり、「実績」より「見込」の方が市場参加者により多く見られています。図表2 統計表一覧(財政資金対民間収支)は、財務省のウェブサイトに掲載されている「統計表一覧(財政資金対民間収支)」です(2025年7月時点)。直近月は「見込」になっていますが、翌月には実績にかわります。
 図表3 財政資金対民間収支(令和〇年〇月中実績)の概要は財務省のウェブサイトにある「財政資金対民間収支(令和〇年〇月中実績)の概要」の一部を抜粋したものです。こちらは上図に一般会計と特会の「受」があり、下図に一般会計と特会の「払」があるという形で整理されています。
 先ほどこの統計が市場参加者に見られているという話をしましたが、その理由として、この統計の中には、どのくらいT-Billが公募発行されるかの情報が含まれていることがあります。通常、国債の発行計画は毎年12月末にその詳細が明らかになるのですが、T-Billは12月末のタイミングで公表されません。なぜかというと、T-Billには短期の資金繰りのために発行されるFBが含まれているためです。
 資金繰りが必要になった際、FBを発行しますが、お金が足りるかどうかは直前にならないと分からないので、FBを発行するかどうかという判断は直前になされるわけです。そしてFB発行額は、具体的には、財政資金対民間収支の統計の中における「見込」の部分で明らかにされます。発行額は本当に直前にならないと確定しないのですが、その見込について、2段階に分けてマーケットにメッセージをくれます。
 なお、FBは市場に対して、TBと合わせてT-Billとして発行されています。このため、資金繰りを踏まえ、FBの発行額が決まるとともに、TBの発行額を合わせたうえで、T-Billとしての公募発行額が決まることになります。
 図表4 財政資金対民間収支(令和7年6月中見込)は、図表1における下半分を切り出して拡大してみたものですが、右側に6月における(T-Billの)「公募発行見込額」があり、約29.0兆円であることがわかります。もっとも、7月の(T-Billの)公募見込み額については一ヶ月前の6月時点で、すでにレンジが示されています。図表4の下側に、「令和7年7月の国庫短期証券の公募発行見込額は次のとおりである」とありますが、6月時点で、翌月(7月)のT-Bill発行額のレンジが示されるわけです。

津田:1段階目として最初に出すものは、あくまで一ヶ月前時点での見込みなので、レンジが大きくなる傾向がある点が特徴です。

服部:市場参加者は、実際のT-Billの発行額は見込額のレンジのおよそ真ん中になる、と予測を立てます。その予測の多くは当たるという印象ですが、例えばコロナの時期のように、財政支出が大きく動くと予測から外れることもあります。

四課調整
服部:素朴な質問になってしまいますが、財政資金対民間収支の見込を作るのはやはり大変でしょうか。歳出については各省庁がシステムに3週間前に入力してくれるとのことなので、それを集約すれば歳出の見込は立ちそうですが。

津田:はい。歳出の見込自体は、各省が登録したデータなどを基に作成することができますが、特殊要因などもありますので、精査が必要です。歳入については、各省が登録したデータがない租税などについても見込を立てた上で、いくらFBを発行するかを見込まねばならない、という点が問題となります。
 この調整については、四課調整という会議体でやっています。四課というのは、理財局の中の国庫課と国債業務課、国債企画課、財政投融資総括課です。

服部:四課調整はどのような頻度で実施されているのでしょうか。

津田:四課調整は毎月実施しています。財政資金対民間収支を出す際に、T-Billの公募発行見込額を出しており、それは前月の四課調整によって協議をして決めています。

服部:国債業務課はどのような役割を果たしているのでしょうか。

津田:国債業務課は、T-Billを含めた国債を市中から調達する業務を担っており、国債市場の需給を踏まえてどの程度発行できるかを見ています。

服部:FBの市中発行額は国庫課が決めるのでしょうか。

津田:国庫課だけで決めているというわけではないです。国庫の資金繰り上、〇〇円調達したいという要請に対し、足元の国債市場の需給環境等を踏まえて安定的に調達できるかを国債業務課と調整しながら、市中発行額を決めています。
 また、例えば国債整理基金が何らかの理由で一時的にお金に余裕があれば、それを使ってFBを引き受けてもらうということもあります。これを「国庫内引受」といいます。同じように、財政融資資金にも一時的に余っているお金があれば、FBをマーケットに発行せずに財政融資資金に引き受けてもらうという形がとれます。その議論をするために、国債整理基金を所管している国債企画課と、財政融資資金を所管している財政投融資総括課が調整に参加します。したがって、まず国庫全体で融通し合えないかを探るための場としても四課調整があります。それでもなお、お金が足りない場合には、その不足額をマーケットから調達します。国庫内引受は、発行期間をきめ細かく調整できますので、可能な限り国庫内引受を活用することで、利払い費を抑えられます。国庫課にとって最も優先順位が高い目標は、資金不足に陥ることを避けることですが、その上でどうやって調達コストを最小化するかということも重要です。

服部:発行するFBの年限を3か月にするか6か月にするか、といったことについても、国庫課が関与して決めるのでしょうか。

津田:その点は、市場のニーズや動向に応じて、どの年限で(T-Billとして)FBを市中発行するのが適切かといった話になるので、国債業務課が得意とする範疇です。一方で、国庫課の資金繰りとしては、恒常的に資金不足に直面しているわけではなく、3ヶ月ごとの国債償還月などスポットでお金が必要なタイミングがあるため、そのタイミングで調達できれば良いわけです。

服部:歳出と歳入が多いタイミングは、ある程度予測できるわけですよね。これは、民間でも短資会社が予測しています。

津田:いわゆる「波動」と呼ばれるものですね。図表5 財政資金対民間収支の月別波動が財政資金対民間収支の月別波動を示しています。

服部:この波動はやはり意識していますよね。

津田:もちろん意識しています。例えば、日本は3月末決算法人が多いですが、3月末決算だと5月末までに法人税を払うことになるので、法人税はその時期にまとまって入る、といったことですね。*3

服部:また、年度当初の4月には支出が多いため、FBを先に発行して、その後の租税収入が入るタイミングでFBを償還するということですね。

津田:そうです。4月の支出というと、例えば普通交付税の交付や年金の定時払いなどですね。年度当初は何かとお金が必要なので、そこを乗り越えるために、FBを必要に応じて発行しています。

国庫課と国債業務課の役割の違い
服部:国庫課と国債業務課はどのような関係にあるのでしょうか。

津田:例えば、先ほどの波動などからも分かるとおり、資金ニーズは月によって変わります。したがって国庫課としては、必要な時に必要なだけ調達できればいいという考えで、単に資金不足を回避できれば良いし、調達コストが低ければなお良いという、短期的な視点です。
 他方、国債業務課は、当該調達がマーケットに与える影響を踏まえて安定的に調達できるかを考えています。そのため、市中発行額が平準的で予見可能性が高いという状態を確保したいという中長期的な視点という違いがあります。

服部:歳出や歳入には、先ほどお話しした制度的な観点等で生まれる波動があるわけですから、ボラタイルそのものですよね。

津田:その波動に対応して資金繰りを行うことこそ国庫課の仕事ということです。

服部:そのようなバランスでFBの発行額が決まるのですが、必要以上にFBで調達してしまった場合は、一時的に資金余剰分が生じてしまう、といった話になるわけですね。

津田:そうです。例えば、予想に反して歳出があまり出なかったとなると、調達した分が手元に残ることになってしまいます。このため、精緻に資金繰りの見込みをたてることが重要となります。

FB発行にかかる歳入歳出の予測
服部:FBを発行するうえで、キャッシュフローベースの歳入と歳出を予測することが必要になりますが、どのように予測しているのでしょうか。歳出については各省庁がシステムに入力するので、ある程度予測できそうですが、歳入の予測は難しそうです。

津田:歳入の予測は、国庫課で様々な指標を見ながら推計しています。主税局で税収の見積り、主計局でその他の歳入の見積りをしていますが、他局と国庫課ではその目的が違います。国庫課は1日単位での資金繰りが大事なので、日次レベルで細かく把握しています。

服部:他局の場合、もう少し長い期間でみているということですよね。

津田:彼らは、一年間の歳入の見積りを行うということがミッションですが、国庫課は毎日の動きを見ているという点で違います。

服部:図表6 令和7年度一般会計予算歳出・歳入の構成は、一般会計における歳入と歳出の内訳であり、財務省が出している図表で最も人々に見られているものの一つだと思いますが、一般会計歳入については、あくまでも翌年度の歳入見積りであり、その見積りを計算しているのは主税局と主計局です。

津田:一般会計歳入見積りについては、制度改正要因などを反映する必要があります。例えば、税制改正があれば、税収にはその改正の影響を織り込んだものが国会に提出されることになります。ただし、この歳出も歳入も両方予算には記載されていますが、歳出については実際にこの図表6に記載されている金額を支出しても良いわけです。例えば、国債費は予算として国会で承認を受ければ、282,179億円まで支出する権利があるということです。一方で、歳入についてはこの数字はあくまで見積りでしかありません。例えば、企業に対して法人税を192,450億円分払わせる権利は無いということです。
 国庫課は自分たちの業務のために、歳入を一日単位で細かく見なければならず、それは自分たちでやるしかありません。歳出については、各省が登録してもらい、そのデータを集計しているということです。

服部:現実的に、その年に税金や社会保険料が具体的にどれだけ支払われるかというのを、ミクロに予想するのはかなり難しい作業ですよね。

津田:税収や社会保険料収入の予測も難しいことに加えて、着金日の問題もあります。例えば税金をペイジーで払ったのか、銀行の窓口に来て払ったのかで、着金日が異なる場合があります。払った日がT日だとして、着金するのは、ペイジーがT+1日で、窓口だとT+2日という場合です。国庫課にとっては、受払のタイミングが1日ずれると、全然話が変わってくるということがあり得るので、ややこしい問題です。
 なので、実際に税収がいくらになるとわかったとしても、支払い方なども考慮する必要があり、最近のキャッシュレス決済のトレンドなどもある程度加味しながら、前年と比較した予測などを行っています。

学生:例えば誰かが保険料を払って、それが着金したとします。国庫課の目線から、その口座残高の増加が保険料のお金だということは分かるものなのでしょうか。

津田:分かります。着金する時に、何のために誰から払われたお金か、ということが分かるようになっているからです。そのあたりを明確にしておかないと大変なことになります。例えば年金保険料を管理する人が、誰が支払った保険料かということを知っていないと、その人の保険料にならないですよね。

学生:それは、所管の各省庁ではなくて、国庫課が直接見るのでしょうか。

津田:一義的には、所管の各省庁に行きます。一番細かい情報は、基本的に各省庁に集まります。年金保険料の支払いについて、国庫課の業務では、年金保険料の集計にあたって、「今日1億円を着金した」という情報がFBの発行額を決定する上で重要であり、それが誰からの支払いかという情報は、国庫課としては必要ないわけです。必要な情報の細かさは、それを使う役所によって違うということですね。

服部:図表1をみると、財政資金対民間収支の見込では、保険は、▲48,650億円と記載されています。

津田:保険の項目の大半は年金特会ですが、年金特会でいうと、年金保険料が入ってくる部分と、年金支払いとして出す部分があります。それを差し引きすると、▲48,650億円、すなわち年金支払いなど、保険料として出す部分が48,650億円多い、と予測されるということです。

服部:図表1の財政資金対民間収支には、「国債等」という形で、国債そのものも項目に含まれていますよね。国債の発行額は、年末に発行計画の中で出てきて、例えば、10年債であれば、月ベースで〇兆円発行されるといったことが開示されます。図表7 カレンダーベース市中発行額が国債発行計画のうち、「カレンダーベース市中発行額」をみたものですが*4、10年債が「2.6兆円×12回=31.2兆円」発行されるということがわかります。一方、図表7は国債の発行計画なので、資金繰りの証券であるFBが含まれていないこともわかります。*5

津田:図表1における財政資金対民間収支における「国債等」の項目には、償還や新発の調達等を諸々ひっくるめた結果、6月はネットで5兆9,400億円の受入超過の見込が立っている、という意味合いのことが書かれています。

国庫内引受および国庫余裕金繰替使用
服部:再び四課調整に話を戻しますが、四課調整では国債企画課や財政投融資総括課がFBの国庫内引受をできないかを議論する、ということでしたね。

津田:はい。そもそも国庫内引受とは、市場への影響を与えることなく資金不足の会計にきめ細かく対応するために、余裕資金の運用手段としてFBを引き受けてもらうことです。例えば、国債企画課が所管する国債整理基金特別会計に余裕資金があれば、それを活用してFBを引き受けるという形をとったほうが、市場に影響することなく、また、例えば1週間単位でも国庫内で資金調達することが可能となります。FBをきめ細かく発行することで、発行期間を短縮できれば、国全体での利払い費を抑えることができます。このようなFBについては、国債整理基金特別会計のほか、財政投融資総括課が所管する財政融資資金も同じように引き受けることができます。

学生:図表8 FBの引受先別残高の推移がFBの引受先別残高ですが、この内訳は四課調整で決めているのですか。

津田:そうですね。まず国庫課が、日々の収入と支出から「要調達額」を決めます。四課調整では、図表8における「国庫内引受等」や「国庫余裕金繰替使用」によりFBの公募発行額の圧縮を図り、それでも賄いきれない金額について「公募発行分」として、(T-Billとして)FBをマーケットに対して発行するということを決定しています。

服部:「国庫余裕金繰替使用」(図表9 会計間での一時的な融通(国庫余裕金繰替使用))については、国庫課の説明では「国庫全体において余裕金が発生している場合であっても、個別の特別会計等で現金不足となっている場合があります。一般的には、現金不足となっている会計等では、一時借入金や政府短期証券の発行により資金調達を行います。そのときに、あるところで余裕金が生じているにもかかわらず、別のところで利子負担をしながら資金調達を行う、ということになったら非効率です。そのため、国庫全体で生じている余裕金を、現金不足の会計等に無利子で融通(繰替使用)することにより、利払費を軽減し国庫全体としての資金効率が高まることとなります」*6としています。国庫余裕金振替使用は、国庫全体で余裕金が発生している場合において、資金不足の特別会計に対し、無利子で一時的に資金融通するものです。一方で、国庫内引受は、国債整理基金特別会計と財政融資資金に一時的な資金余裕がある場合に、その運用手段の1つとしてFBを引き受けるものであり、運用手段でもあるという点で違いがあります*7(なお、この場合FB発行会計からFB引受会計に対しては利子の支払が行われることになります)。*8

国庫内振替収支・国庫対日銀収支・
国庫対民間収支
服部:ここまで財政資金対民間収支について議論を進めてきましたが、ここからは国庫収支全体の中での財政資金対民間収支の概念を確認できればとおもいます。そもそも、財務省のウェブサイト上では、国庫収支の説明として、「国庫収支とは、国庫金の受払いを整理したものです。国庫収支は、国から見た場合、受払の相手方がどこであるかによって、(1)国庫内振替収支、(2)国庫対日銀収支及び(3)国庫対民間収支の3つに区分されます」*9と書かれています。
 この部分は、国庫についての書籍などで、紙面を割いて説明される点です。図表10 国庫金の流れと国庫収支の概要は、財務省内でもよく使われている国庫収支についての図に、実際の金額をいれたものです。

津田:まず、国庫収支とは、国庫金の受払を整理したものですが、国庫金を(1)国庫内、(2)対日銀、(3)日銀以外の対民間セクターと3つの区分をした上で、それぞれとのやり取りをまとめたものです。つまり、国庫の動きをこの3つのセクターに分けて考えるという区分法です。
 図表10の概念図をみると、図表10の真ん中に、(1)の「国庫内振替収支」がありますが、これをみると、一般会計と特会のやり取りや、特会同士のやり取りが記載されています。これは政府預金内の資金の動きであり、単に内訳を変えているだけなので、政府預金の量は減ったり増えたりしないですよね。これが国庫内振替収支です。先ほど説明した国庫内引受や国庫余裕金繰替使用がこれに該当します。
 一方、この図の右側は、政府預金と日銀が直接やり取りを示していますが、これが(2)の「国庫対日銀収支」です。この一般会計と特会内の政府預金内のやり取りを超えて、例えば、日銀に対しての受払が発生すると、国庫対日銀収支になるわけです。例えば、日銀が金融政策の実施によって国債を購入すると、日銀は国から利払いを受けることになりますし、そのまま満期を迎えれば償還の資金を国から受け取ることになります。また、逆に日銀の利益のうち、国庫納付金として国に納められるものも含まれます。
 最後に、この図の左側に、国民など民間と政府預金のやり取り(国庫対民間収支)が記載されています。例えば、財務省が国債を発行して、民間銀行などが買うと、その代金が政府預金に入ってきて、国庫金として受け入れることになります。これがこの図の左側のことですね。

服部:図表10を見ると、国民からの資金の入りが740兆円あり、国民への資金の支払いが667兆円あります。この図の中では、まず、国庫対民間収支の規模が非常に大きいということがわかります。また、地方交付税交付金は国から地方自治体に渡るお金ですが、「前編」で議論したとおり、地方自治体の資金は国庫に含まれないので、これは国庫内でのやり取り(国庫内振替収支)ではなく、国庫対民間収支ということになるわけですね。

津田:その通りです。国庫対民間収支については、国債の償還や発行も含められるので、ものすごく大きな規模になります。税収自体は数十兆円規模であるところ、対民間収支が数百兆規模の資金の動きになるのは、金融取引があるからです。

学生:図表10を見た際に、日銀はこの図表の中心に配置されるべきではないかと感じました。実際の資金の流れを考えると、民間からの資金は民間銀行等を通じて、まず日銀に集約されて、政府預金に入ってくるからです。

津田:それは政府の銀行としての日銀ですよね。政府の銀行としての日銀は、この破線の枠の中として表現されています。国庫の全ての口座は、日銀にあります。言わば日銀という巨大な箱の中に、国庫が収まっているというイメージです。
 この資料自体は国庫収支の説明を目的としているため、このように表現されています。

財政資金対民間収支
服部:国庫対民間収支の概念について確認しましたが、次に、前半で議論してきた「財政資金対民間収支」に話を進めていきたいと思います。図表11 国庫収支と財政資金対民間収支が国庫収支を、「財政資金対民間収支」に変換したものです。この図も、国庫関係の資料をみると、頻繁に出てくる図です。先ほど、国庫収支は(1)国庫内振替収支、(2)国庫対日銀収支、(3)国庫対民間収支の3つに分解されると説明されましたが、図表11でもこの3つの合計が国庫収支全体になっていることが分かります。この中で、国庫収支の中で、国庫対民間収支を取り出して一定の調整を加えたものが財政資金対民間収支です。財務省のウェブサイトでは、「対民収支」とも略されます。
図表11に「調整項目」がありますが、これは主に時期のずれに関する調整と、日本政策金融公庫など国庫預託義務を有していない公的金融機関の影響の調整を行うものです*10。
 まず、財政資金対民間収支の解釈について議論していきたいです。結論としては、国庫対民間収支を財政資金対民間収支に変換している目的は、国庫収支の中から、金融市場や金融政策などで関心が高い、マネーに影響を与える部分を切り出すためと解釈できると思います*11。

津田:日銀との関係でも、当然、政府預金の量は変化するわけですが、当然それは日銀と政府の中の相対の取引なので、マネタリーベース自体に影響を与えませんよね。つまり、対日銀収支は政府預金を増減させる一方で、マネタリーベースには影響がありません。また、国庫内振替収支は、政府預金内の処理なので、政府預金にもマネタリーベースにも影響がありません。
 対民間収支は、政府当座預金だけでなくマネタリーベースも増減させます。その意味で、財政資金対民間収支はマネタリーベースに影響を与えるものを切り出しているというわけです。

服部:日銀のマネタリーベースの定義の中に政府預金は含まれませんよね。このようにしてみると、マネタリーベースはあくまで民間に出回っているマネーに焦点を当てたいため、定義として政府預金が含まれていないと解釈することができます。

津田:対民間との受払いが発生すると、金融政策上の意味が出てきます。例えばT-Billを発行してお金を集めると、市中のお金の量が減り、金融引き締めになります。それを避けるために、日銀は少し国債を買い戻して、資金供給を行うなど、金融調節をする必要があります。この動きに着目したのがこの財政資金対民間収支です。*12

服部:図表12 政府預金や通貨量との関係についても、国庫関係の資料をみると必ず出てくる図といってよいのですが、これは先ほど3つに分解される国庫の動きのうち、当座預金への影響を整理しているものであり、まさに日銀が関心を持つ部分です。
 短期金融市場や日銀の書籍をみると、必ず当座預金の変動要因というのが出てきます。当座預金の変動は、財政等要因と銀行券要因が出てきますが、財政資金対民間収支は財政等要因に近い印象ですね*13。だから国庫の全体の動きを、財政等要因に変換しているように見えますね。

津田:そのとおりです。

服部:図表13 日銀当座預金増減要因と金融調節は、日銀が毎営業日リリースしている「日銀当座預金増減要因と金融調節」です。そもそも日銀当座預金とは、日銀が取引先の金融機関等から受け入れている当座預金のことですが*14、図表13では、日銀当座預金増減の要因として「銀行券要因」と「財政等要因」の動きが示されています。さらに、その下に金融調節として、具体的なオペの影響が記載されています。財政支出の変化があると、日銀当座預金が変化するので(通貨量が変化するので)、金融政策的な文脈で、緩和効果や引き締め効果を持つということです。

津田:その緩和ないし引き締め効果を調整するために、日銀がオペを行うということですね。日銀が政府の銀行として国庫金の管理を担うのは、もちろん法律上それをやらなければいけないからという理由はありますが、一方で日銀としても、結局のところ、国庫の動きが金融政策に影響を与えるので、統計作成を通じて把握する必要があるということなのだと思います。

服部:財政資金対民間収支を「対民収支」とシンプルに記載しているものを見ることがありますが、予算でいうところの財政収支とはどう違うのでしょうか。

津田:財政資金対民間収支というのは、いわゆる予算でいうところの財政収支とは異なる概念です。例えば、先ほどの説明でいえば、財政資金対民間収支には、FBで市中からお金を調達することも含まれますよね。以前も説明しましたが、FBは発行しても別に歳入には影響を与えないので、プライマリーバランスのような財政的な意味での財政収支には、何の影響も与えないのです。しかし、キャッシュフローにおいては、FBの発行があれば動きはありますよね。

服部:財政資金対民間収支は、キャッシュフローに着目した概念というイメージでしょうか。

津田:はい。だから、PL・BSを作っている世界と、キャッシュフロー計算書を作っている世界とでは数字が異なり、国庫課は基本的にキャッシュフロー計算書を見ているというイメージです。そして当然、なぜそのキャッシュが入ってきたのかということも把握する必要があるので、必要に応じてタグ付けをしているわけです。

服部:なお、現在のように超過準備が日常的になる前は、当座預金の変動を考える上で、「銀行券要因」と「財政等要因」の動きが大切でした。日銀のオペについても、銀行券要因や財政要因に基づく当座預金の短期的な増減に見合って実行されるオペレーションを「一時的オペ」と呼んでいます*15。
 当座預金の変動の予測が大切であった理由は、当座預金の変動に伴い日銀の政策金利である短期金利が影響を受けることが大きな理由です。もっとも、今日的には、短期金利は補完当座預金制度における付利金利に紐づいて決定されています。この詳細は服部(2025)などを参照してください。
(後編に続く)

参考文献
大内聡(2005)「我が国の国庫制度について―入門編―」『ファイナンス』p.42-62. p.16-22.
白川方明(2008)「現代の金融政策:理論と実際」日本経済新聞出版
服部孝洋(2025)「はじめての日本公債」集英社新書
 
*1) なお、本対談は2025年6月に実施されており、以下における肩書や組織名は2025年6月当時である点に注意してください。また、本稿を記載するにあたり、安斎由里菜さんと新田凜さんの協力を得ました。
*2) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/reference/receipts_payments/term.htm
*3) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/summary/13.pdf
*4) こちらは年末に公表されたものから、令和7年6月に変更された内容になっている点に注意。
*5) https://www.mof.go.jp/jgbs/issuance_plan/fy2025/calender250623.pdf
*6) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/06.pdf
*7) 国債整理基金等においては、FBの引受以外にも運用手段がある一方で、国庫全体の資金繰りにおいては、手元現金残高の調整手段が限定的であるため、まずは国庫余裕金の繰替使用による手元現金残高の調整を検討することになります。
*8) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/01.pdf
*9) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/summary/index.htm#02
*10) 大内(2005)では調整項目として下記を記載しています。
(1)国庫金経理の仕組み上、実際の民間との資金受払と国庫収支の計上の時期に2~4日のズレが生じる場合があり、このズレ分を調整する。
(2)国庫預託義務を有していない一部の公庫(国民生活金融公庫、公営企業金融公庫)、日本政策投資銀行及び国際協力銀行の収支は国庫対民間収支には含まれないが、これらの機関の資金は実質的には国庫金と同様であると考えられることから、財政資金対民間収支に含めている。
(注)なお、その後に行われた公的金融機関の統廃合を踏まえ、現在は、日本政策金融公庫、国際協力銀行が「調整項目」に計上されています。
*11) 大内(2005)では、国庫対民間収支について、「財政資金対民間収支に、国庫金の受払いが金融市場に及ぼす影響を加味すべく所要の調整を行ったものが財政資金対民間収支(「対民収支」とよばれる)」と説明しています。
*12) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/summary/index.htm
*13) なお、両者の主な相違点は以下のとおりです。
1.「財政資金対民間収支」に含むが、「財政等要因」に含まない項目:「調整項目」に含まれる日本政策金融公庫等の日銀当座預金の増減
2.「財政資金対民間収支」に含まれないが、「財政等要因」に含む項目:海外預り金勘定を経由する海外中央銀行等と日本銀行との取引
*14) https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/kess/i07.htm
*15) ここの記載は白川(2008)のp.153に基づいています。