このページの本文へ移動

コラム 経済トレンド127

電気自動車市場の現状と展望
大臣官房総合政策課 西村  海生/大村  直人

本稿では、電気自動車市場の現状と展望について考察する。

電気自動車市場の動向
地球規模での脱炭素や持続可能な社会の実現に向け、各国・自動車メーカーは電気自動車(EV)シフトを表明している。その中、EV販売台数は増加しており、足もとのEVの販売シェアは30%弱と成長してきている(図表1 世界の自動車販売台数)。
環境面のメリットだけではなく、EVの性能向上(軽量化による航続距離延伸や高効率の電池・電動機の登場等)などもシェア増加の要因として挙げられる他、政府の補助金や減税が適用されており、ガソリン車と価格競争が出来ていることに加え、環境意識の高いアーリーアダプタ層による購入等も増加の一因と考えられる(図表2 電気自動車のメリット・デメリット)。
EVの新車販売割合は国によって温度差があり、日本は各国比で出遅れている状況にある。国際エネルギー機関(IEA)の「EV Outlook2024」によると、各国政府が公表した政策や目標をもとにしたシナリオでは、「2035年のEV新車販売は世界の新車販売の5割超を占める」と予測されている。自動車産業のカーボンニュートラル(CN)目標に鑑みれば、日本においてもEVの普及は一層進むものと考えられる(図表3 主要国の新車販売に占めるEVの割合)。
(出所)Marklines、IEA「Global EV Data Explorer」、「EV Outlook2024」

電気自動車販売の伸び鈍化とその背景
2023年から2024年にかけ、米国・欧州各国政府は、税額補助等の個人向け購入支援の縮小を進めつつ、安価な中国製自動車に対する輸入関税を引き上げる等の動きを進めている。関税率の引き上げには、中国で生産された価格の安いEVが持ち込まれる、「デフレ輸出」に対する危機感が背景にあると考えられる(図表4 各国におけるEV関連政策の動向)。
米国およびドイツにおける電動車の新車販売台数をみると、2024年に入ってからEVの販売台数の伸びがHV,PHEVの販売の伸びを下回っており、先述した政府による購入支援縮小の影響が表れたものと指摘されている(図表5 米・独 新車販売台数(うち電動車))。
米国の自動車ローン関連データを確認すると、自動車ローン金利(5年)及び自動車ローン延滞率(30日)はいずれも高い水準にある。但し、米国における新車販売台数は斯かる状況下でも底堅く推移するなど、消費者マインドは悪くない。各国における所得環境の動向がEVを含む自動車販売の先行きに及ぼす影響は大きく、注視する必要がある(図表6 米国自動車ローン金利・延滞率,図表7 ミシガン大学マインド調査)。
(出所)Motor Intelligence、JETRO「ビジネス短信」、丸紅経済研究所「主要国・地域の電気自動車動向アップデート」、セントルイス連銀、FRB、ミシガン大学、各種報道等

電動化によるマクロ経済への影響
日系自動車メーカー各社は、電動車比率やCNの達成時期など、具体的な数値目標を掲げている(図表8 日系自動車メーカーの電動化目標)。
電動化に向けた先行投資は活況を呈しており、主要各社の研究開発費及び設備投資額は、新型コロナウイルス禍や半導体の供給制約といった影響を受けたものの回復し、足もとではその増勢が一層強まっている(図表9 日系自動車メーカーの研究開発費・設備投資額)。
一方、電動化の進展により将来的な雇用者数が減少する可能性が指摘されている。欧州自動車部品工業会は、2035年迄に新車の殆どがEVに移行した場合、欧州における雇用者数に数十万人単位の影響が生じると試算している(図表10 電動化による雇用者数の予測)。
自動車製造における上流領域の重要性も高まっている。リチウムイオン電池(LiB)の最大生産国である中国が、EVの販売・登録台数においても過半のシェアを占めるなど、中国への依存度が高いサプライチェーンとなりつつある(図表11 各国におけるLiB・EVシェア)。
(出所)自動車各社公表資料、欧州自動車部品工業会(CLEPA)、IEA「EV Outlook2024」

今後の展望
各国における電源構成をみると、再生可能エネルギーの導入や火力発電の活用など、状況は大きく異なっている。環境に良いとされているEVではあるが、走行時に使用する電気が化石燃料由来の場合、実質的にはCO2排出を抑制出来ておらず、真に環境に良いとは言えるかは議論の余地がある(図表12 各国における電源構成)。
環境目標を達成するうえでは再生可能エネルギーの導入が重要ではあるが、再エネ比率の高い欧州では、電気料金も高くつく。EVの販売拡大という観点において、電気料金とガソリン価格の差を意識した取り組みも必要となるだろう(図表13 家庭用電気料金の各国比較,図表14 ガソリン価格の各国比較)。
ライフサイクルアセスメントという考え方も重要となる。環境目標の達成に向けては、走行時のみならず、製造から廃棄、燃料供給といった経路におけるCO2排出量も精査したうえで、最適なパワートレイン(内燃機関、電動、ハイブリッド等)の選択がなされるべきである(図表15 自動車におけるライフサイクルアセスメント,図表16 ライフサイクルアセスメントベースでのCO2排出量(※))。
環境影響、コスト負担、産業競争力など様々な視点から、社会的な受益の最大化が実現されることに期待したい。
(※)試算前提は年間走行1.5万km、使用期間10年、EVは電池容量80kWh、PHVは10.5kWh(EV走行6割前提)
(出所)IEA HP、Global Petrol Prices、環境省、IEA「EV Outlook2020」、日本自動車工業会
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。