国際機構課長 池田 洋一郎/係長 竹川 優記/係員 原田 龍夫
開発機関課長 津田 尊弘 /係長 後白 翼
巻頭文
2024年10月21日から10月26日にかけて、米・ワシントンにおいて、G20財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)、G7財務大臣・中央銀行総裁会議(G7)、国際通貨金融委員会(IMFC)、世界銀行・IMF合同開発委員会(DC)等の国際会議が開催された。これらの会議は、第79回IMF・世界銀行グループ年次総会(以下、「年次総会」)に合わせて開催されたものである。
以下本稿では、各会議での議論の概要を紹介したい。
1 G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2024年10月23~24日)
今回のG20は、昨年7月25~26日にリオデジャネイロで開催された会議に続く、ブラジル議長下における4回目かつ最後の大臣・総裁級会議となった。日本からは加藤財務大臣、植田日銀総裁が出席した。初日のセッションでは、国際開発金融機関(MDBs)及び金融セクターに関する議論が行われた。2日目のセッションでは、G20財務トラックの立上げから25年目になることも踏まえ、G20の役割や世界経済等に関する幅広い議論が展開された。本セッションにおいて、日本は、ロシアによるウクライナへの不法な侵略はG20の基本的精神と全くそぐわず、世界経済の不確実性を高めている大きな要因であり、最も強い言葉で非難する旨、発言した。併せて、足元では為替市場等の金融市場の変動が引き続き高い状況が続いており、G20として、各国のマクロ政策のスピルオーバーや、投機がもたらす為替市場での過度な変動に注意を払う必要がある旨、主張した。
会合では、2024年7月に引き続き、全てのメンバーの合意に基づく共同声明が採択された*1。共同声明は、世界経済について、ソフトランディングへの良い見通しがある一方、下方リスクとして、戦争と激化する紛争、経済的分断等が存在するとの認識を示した。また、マクロ経済政策運営における負のスピルオーバーの軽減を確認したほか、為替についても、「為替レートの過度な変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得る」とのG20における既存のコミットメントを再確認した。
MDBsに関しては、「より良く、より大きく、より効果的なMDBs」に向けた「G20 MDBロードマップ」を策定・公表した。また、民間資金、国内資金の動員強化に加え、MDBの自己資本を最大限活用する取組であるCAFレビュー継続の重要性に合意した。また、世界銀行グループの国際開発協会(IDA)における、強固で効果的な第21次増資(IDA21)の達成への期待を表明した。
債務問題では、「G20共通枠組」下での低所得国向け債務措置の実施強化へのコミットメントと併せて、「共通枠組下の事例から得られた教訓に関するG20ノート」を策定・公表した。また、スリランカの債務措置の合意や、債務透明性の向上に向けた取組を歓迎した。併せて、共同声明は、短期的な流動性課題に直面する一方、債務は持続可能である脆弱国に対する支援を国際社会に要請した。
国際保健については、2024年10月のパンデミック基金の増資イベントにおけるドナー層の拡大を通じた支援の拡大への期待を表明した。
金融セクターについては、国際金融規制改革の適時の実施への強いコミットメントを再確認した。また、ノンバンク金融仲介セクターの脆弱性への対処や、クロスボーダー送金の改善に係るFSBの取組、並びに暗号資産など新たなデジタル技術に係るFATFの作業を支持した。
国際課税については、「2本の柱」の解決策の迅速な実施へのコミットメントを改めて表明するとともに、多数国間条約の早期署名のため、「第1の柱」のパッケージの交渉の迅速な妥結を奨励した。
このように、今回のG20では、ますます複雑化する国際情勢にもかかわらず、多くの議題について建設的な議論が交わされ日本にとっても重要な主要論点について合意や一定の方向性を見出すことができた。
2 G7財務大臣・中央銀行総裁会議(2024年10月25日)
今回のG7は、昨年7月24日にリオデジャネイロで開催された会議に続く、イタリア議長下における5回目の大臣・総裁級の会議となった。主な議題はウクライナ支援であり、今回も、ウクライナのマルチェンコ大臣の対面での参加も得て議論を行った。会議後、議論の成果をまとめた共同声明を発出した。日本からは加藤財務大臣・植田日銀総裁が出席した。
以下、発出された共同声明の概要について紹介したい。
世界経済については、ソフトランディングが依然として最も可能性の高いシナリオであるとの認識を共有し、為替を含む過去のG7における政策対応に関するコミットメントを再確認した。
ウクライナ支援については、必要とされる限りの揺るぎないウクライナへの支援を再確認し、ロシアに対して戦争の即時終結を求めた。ウクライナへの財政支援に関しては、2024年6月のプーリア・サミットのG7首脳声明において、凍結されているロシアの国家資産から得られる特別な収益を活用し、「ウクライナのために支出する特別収益前倒し融資(ERAローン)」を年内に立ち上げ拠出することが表明された。G7財務トラックでは同首脳声明に沿って、G7のみならず世銀やIMFも含め、ERAローンに関する議論を重ねてきた。今回採択された共同声明では、G7財務大臣が約500億米ドル(450億ユーロ)をウクライナのために支出するERAローンイニシアティブの原則と技術的事項を承認したことを発表し、併せて、別途「ERAローンイニシアティブに関するG7財務大臣声明」も採択・公表した。なお、同声明と同時に、G7首脳声明も公表された。
中東情勢については、ガザの人道状況の悪化やレバノン情勢等に深刻な懸念を表明した。
人工知能(AI)については、金融システム及び経済へのリスク最小化も含む、安全、安心かつ信頼できる方法で、AIを生産性と成長の向上に活用するための議論を推進することへのコミットメントを確認した。また、G7への報告書を作成するために設置したハイレベル専門家パネルによる、AI、経済及び金融の政策立案に関する報告書への期待を表明した。
国際租税協力については、「第1の柱」の実施は最優先事項であること、そして、早期に多数国間条約に署名するため、OECD/G20「包摂的枠組み」において利益Bの未解決問題を解決することへのコミットを確認した。また、国際租税協力に関する国連枠組み条約のための基本的事項が採択されたことに留意し、コンセンサスに基づく意思決定をする重要性を再確認した。
これらに加え、MDBs、債務、保健、金融セクター等に係るG20における取組の歓迎・支持を表明したほか、共同声明の最後には、日本議長国下での成果を踏まえ、ウェルビーイング等を進める政策の採用について検討する第7回OECDウェルビーイング世界フォーラム(2024年11月開催)への期待も表明された。
上記の通り、G7間で率直な議論が行われた結果、ERAローンの枠組み具体化を含む、多くの成果を得ることができた。
3 国際通貨金融委員会(IMFC)(2024年10月24日~25日)
年次総会の終盤となる10月24日から25日にかけて、第50回国際通貨金融委員会(IMFC)*2が開催され、日本からは加藤財務大臣と植田日銀総裁が出席した。会合では、2024年がIMF設立に合意したブレトンウッズ会議から80周年にあたることも踏まえ、世界経済の動向やIMFが果たしてきた役割、IMFの今後のあり方について議論が行われた。
日本は、世界経済への認識や為替に関する日本の立場を表明するとともに、(1)低所得国支援、気候変動・パンデミック対応に関わる支援及び能力開発をIMFのコア業務と位置付けること、(2)同業務を支える持続的な財源確保策を検討すべきこと、(3)これらをコア業務と位置付けるのであれば同業務への加盟国からの財政貢献は、IMFの投票権の基礎であるクォータの算定要素とすべきこと等を主張した。
以下、発出された成果文書の概要について紹介する。IMFCにおける議論の結果はコミュニケとして発出されることとなっているが、2021年10月の会合を最後に、コミュニケは発出されていない。今回も、各国間で粘り強い交渉と調整が続けられたが、声明冒頭の地政学的要因に関する文言について加盟国間での合意が得られず、「地政学以外の事柄については全メンバーで合意した」旨を明記した議長声明が発出された。地政学に関しては、ウクライナ、中東その他の「戦争及び紛争が世界的なマクロ経済・金融に与える影響について議論」し、「IMFCが、地政学的及び安全保障問題を解決するフォーラムではないことを認識」したとの文言が記載された。また、全メンバーが合意した世界経済の箇所において、「進行中の戦争及び紛争は世界経済に大きな負担を課し続けている」との文言を明記した。
その他、クォータについては、第16次クォータ見直しの下での50%増資の発効に向けて加盟国が期限までに国内承認を得るべく取り組むべきこと、次回の第17次クォータ見直しの下で、計算式の見直しを含む幅広いアプローチを2025年6月までに取りまとめるよう取り組むことを再確認した。また、サブサハラ・アフリカ地域の発言権と代表制を強化する、理事会における同地域のための、25番目の新たなIMF理事を歓迎するとともに、IMFの新しい加盟国となったリヒテンシュタインを歓迎した。このほか、クリスタリーナ・ゲオルギエヴァ専務理事の2期目の5年間の任期の開始についても歓迎した。
4 世界銀行・IMF合同開発委員会(DC)(2024年10月25日)
世界銀行・IMF合同開発委員会では、ブレトンウッズ機関の創設80周年を踏まえ、将来に向けた世界銀行グループの在り方について議論が行われた。特に、世界銀行グループは「より良く、より大きな銀行」を目指し、世銀改革とも呼ばれる業務モデル及び財務モデルの見直しを図る一連の取組を行っており、かかる取組の進捗報告が行われた。日本からは加藤財務大臣が出席した。
以下、成果文書の概要について紹介したい。今回は、上述のIMFCと同様の経緯によりコミュニケ発出の合意には至らず、前回に引き続き議長声明としての発表となった。同声明では、世銀改革の進捗として、ハイブリッド資本やポートフォリオ保証等による財務能力の強化の進展を称賛するとともに、最低対貸出資本比率(E/Lレシオ)の引下げや「強化された請求払資本(ECC)」の創設を歓迎した。加えて、「居住可能な地球基金」の設立を歓迎するとともに、ドナーによる追加的な貢献を慫慂した。業務面では、新しいWBGスコアカードの運用開始や、国際復興開発銀行(IBRD)の金利体系の見直し等に対し支持を表明。更に、世銀が本年次総会の機会を捉えて発表したWBGジェンダー戦略2024-2030とその実施計画を歓迎した。IDAについては、そのインパクト重視の戦略的方向性と新しい政策パッケージを歓迎し、新規ドナーの参加を求めるとともに、強固で野心的なIDA第21次増資の完了へのコミットを表明した。
日本国ステートメントでは、世銀改革の進展を歓迎するとともに、日本が世銀と取り組む知見共有や途上国の能力構築への貢献を紹介した。また、ロシアによるウクライナ侵略を非難しつつ、IBRD融資に対する信用補完等、日本の世界銀行グループを通じた支援を紹介。また、ウクライナ支援のための新たな金融仲介基金が世銀に設立されたことを歓迎し、今後とも同グループと連携しながらウクライナが必要とする財政ニーズや復興需要に対応していく旨を述べた。また、日本が特に重要視する地球規模課題について、国際保健、気候変動・インフラ、債務問題、太平洋島嶼国に関し日本と世銀が共同で実施する取組を紹介し、日本として支援を継続・強化していく旨を述べた。最後に、IDA第21次増資について、引き続き相応の貢献をしていく姿勢を示すとともに、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、危機への備え、質の高いインフラ投資、債務の持続可能性、サプライチェーンの強靭化といった日本が重視する開発課題へ着実な対応を求めた。
また、開発委員会と同日、加藤財務大臣は世銀のバンガ総裁と面会を行い、その中でポートフォリオ保証プラットフォーム*3に関する合意書に調印した。
*1) 地政学に係る文言については、7月会合と同一の議長声明を共同声明とは別に発出。
*2) 国際通貨金融委員会(IMFC)は、国際通貨および金融システムに関する諸問題について、IMF総務会に助言および勧告を行うことを目的として、1999年に前身であるIMF暫定委員会を常設化・改編することで設置された。通常春と秋の年2回開催。各IMF理事選出国・母体を代表する大臣級の委員24名から構成される(現在の議長はサウジアラビアのアルジャドアーン財務大臣。日本からは加藤財務大臣がIMFC委員として参加)。
*3) ポートフォリオ保証プラットフォームとは、ドナー国が世銀の融資全体に保証を提供する信用補完の枠組。日本は10億ドルの保証を提供。
開発機関課長 津田 尊弘 /係長 後白 翼
巻頭文
2024年10月21日から10月26日にかけて、米・ワシントンにおいて、G20財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)、G7財務大臣・中央銀行総裁会議(G7)、国際通貨金融委員会(IMFC)、世界銀行・IMF合同開発委員会(DC)等の国際会議が開催された。これらの会議は、第79回IMF・世界銀行グループ年次総会(以下、「年次総会」)に合わせて開催されたものである。
以下本稿では、各会議での議論の概要を紹介したい。
1 G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2024年10月23~24日)
今回のG20は、昨年7月25~26日にリオデジャネイロで開催された会議に続く、ブラジル議長下における4回目かつ最後の大臣・総裁級会議となった。日本からは加藤財務大臣、植田日銀総裁が出席した。初日のセッションでは、国際開発金融機関(MDBs)及び金融セクターに関する議論が行われた。2日目のセッションでは、G20財務トラックの立上げから25年目になることも踏まえ、G20の役割や世界経済等に関する幅広い議論が展開された。本セッションにおいて、日本は、ロシアによるウクライナへの不法な侵略はG20の基本的精神と全くそぐわず、世界経済の不確実性を高めている大きな要因であり、最も強い言葉で非難する旨、発言した。併せて、足元では為替市場等の金融市場の変動が引き続き高い状況が続いており、G20として、各国のマクロ政策のスピルオーバーや、投機がもたらす為替市場での過度な変動に注意を払う必要がある旨、主張した。
会合では、2024年7月に引き続き、全てのメンバーの合意に基づく共同声明が採択された*1。共同声明は、世界経済について、ソフトランディングへの良い見通しがある一方、下方リスクとして、戦争と激化する紛争、経済的分断等が存在するとの認識を示した。また、マクロ経済政策運営における負のスピルオーバーの軽減を確認したほか、為替についても、「為替レートの過度な変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得る」とのG20における既存のコミットメントを再確認した。
MDBsに関しては、「より良く、より大きく、より効果的なMDBs」に向けた「G20 MDBロードマップ」を策定・公表した。また、民間資金、国内資金の動員強化に加え、MDBの自己資本を最大限活用する取組であるCAFレビュー継続の重要性に合意した。また、世界銀行グループの国際開発協会(IDA)における、強固で効果的な第21次増資(IDA21)の達成への期待を表明した。
債務問題では、「G20共通枠組」下での低所得国向け債務措置の実施強化へのコミットメントと併せて、「共通枠組下の事例から得られた教訓に関するG20ノート」を策定・公表した。また、スリランカの債務措置の合意や、債務透明性の向上に向けた取組を歓迎した。併せて、共同声明は、短期的な流動性課題に直面する一方、債務は持続可能である脆弱国に対する支援を国際社会に要請した。
国際保健については、2024年10月のパンデミック基金の増資イベントにおけるドナー層の拡大を通じた支援の拡大への期待を表明した。
金融セクターについては、国際金融規制改革の適時の実施への強いコミットメントを再確認した。また、ノンバンク金融仲介セクターの脆弱性への対処や、クロスボーダー送金の改善に係るFSBの取組、並びに暗号資産など新たなデジタル技術に係るFATFの作業を支持した。
国際課税については、「2本の柱」の解決策の迅速な実施へのコミットメントを改めて表明するとともに、多数国間条約の早期署名のため、「第1の柱」のパッケージの交渉の迅速な妥結を奨励した。
このように、今回のG20では、ますます複雑化する国際情勢にもかかわらず、多くの議題について建設的な議論が交わされ日本にとっても重要な主要論点について合意や一定の方向性を見出すことができた。
2 G7財務大臣・中央銀行総裁会議(2024年10月25日)
今回のG7は、昨年7月24日にリオデジャネイロで開催された会議に続く、イタリア議長下における5回目の大臣・総裁級の会議となった。主な議題はウクライナ支援であり、今回も、ウクライナのマルチェンコ大臣の対面での参加も得て議論を行った。会議後、議論の成果をまとめた共同声明を発出した。日本からは加藤財務大臣・植田日銀総裁が出席した。
以下、発出された共同声明の概要について紹介したい。
世界経済については、ソフトランディングが依然として最も可能性の高いシナリオであるとの認識を共有し、為替を含む過去のG7における政策対応に関するコミットメントを再確認した。
ウクライナ支援については、必要とされる限りの揺るぎないウクライナへの支援を再確認し、ロシアに対して戦争の即時終結を求めた。ウクライナへの財政支援に関しては、2024年6月のプーリア・サミットのG7首脳声明において、凍結されているロシアの国家資産から得られる特別な収益を活用し、「ウクライナのために支出する特別収益前倒し融資(ERAローン)」を年内に立ち上げ拠出することが表明された。G7財務トラックでは同首脳声明に沿って、G7のみならず世銀やIMFも含め、ERAローンに関する議論を重ねてきた。今回採択された共同声明では、G7財務大臣が約500億米ドル(450億ユーロ)をウクライナのために支出するERAローンイニシアティブの原則と技術的事項を承認したことを発表し、併せて、別途「ERAローンイニシアティブに関するG7財務大臣声明」も採択・公表した。なお、同声明と同時に、G7首脳声明も公表された。
中東情勢については、ガザの人道状況の悪化やレバノン情勢等に深刻な懸念を表明した。
人工知能(AI)については、金融システム及び経済へのリスク最小化も含む、安全、安心かつ信頼できる方法で、AIを生産性と成長の向上に活用するための議論を推進することへのコミットメントを確認した。また、G7への報告書を作成するために設置したハイレベル専門家パネルによる、AI、経済及び金融の政策立案に関する報告書への期待を表明した。
国際租税協力については、「第1の柱」の実施は最優先事項であること、そして、早期に多数国間条約に署名するため、OECD/G20「包摂的枠組み」において利益Bの未解決問題を解決することへのコミットを確認した。また、国際租税協力に関する国連枠組み条約のための基本的事項が採択されたことに留意し、コンセンサスに基づく意思決定をする重要性を再確認した。
これらに加え、MDBs、債務、保健、金融セクター等に係るG20における取組の歓迎・支持を表明したほか、共同声明の最後には、日本議長国下での成果を踏まえ、ウェルビーイング等を進める政策の採用について検討する第7回OECDウェルビーイング世界フォーラム(2024年11月開催)への期待も表明された。
上記の通り、G7間で率直な議論が行われた結果、ERAローンの枠組み具体化を含む、多くの成果を得ることができた。
3 国際通貨金融委員会(IMFC)(2024年10月24日~25日)
年次総会の終盤となる10月24日から25日にかけて、第50回国際通貨金融委員会(IMFC)*2が開催され、日本からは加藤財務大臣と植田日銀総裁が出席した。会合では、2024年がIMF設立に合意したブレトンウッズ会議から80周年にあたることも踏まえ、世界経済の動向やIMFが果たしてきた役割、IMFの今後のあり方について議論が行われた。
日本は、世界経済への認識や為替に関する日本の立場を表明するとともに、(1)低所得国支援、気候変動・パンデミック対応に関わる支援及び能力開発をIMFのコア業務と位置付けること、(2)同業務を支える持続的な財源確保策を検討すべきこと、(3)これらをコア業務と位置付けるのであれば同業務への加盟国からの財政貢献は、IMFの投票権の基礎であるクォータの算定要素とすべきこと等を主張した。
以下、発出された成果文書の概要について紹介する。IMFCにおける議論の結果はコミュニケとして発出されることとなっているが、2021年10月の会合を最後に、コミュニケは発出されていない。今回も、各国間で粘り強い交渉と調整が続けられたが、声明冒頭の地政学的要因に関する文言について加盟国間での合意が得られず、「地政学以外の事柄については全メンバーで合意した」旨を明記した議長声明が発出された。地政学に関しては、ウクライナ、中東その他の「戦争及び紛争が世界的なマクロ経済・金融に与える影響について議論」し、「IMFCが、地政学的及び安全保障問題を解決するフォーラムではないことを認識」したとの文言が記載された。また、全メンバーが合意した世界経済の箇所において、「進行中の戦争及び紛争は世界経済に大きな負担を課し続けている」との文言を明記した。
その他、クォータについては、第16次クォータ見直しの下での50%増資の発効に向けて加盟国が期限までに国内承認を得るべく取り組むべきこと、次回の第17次クォータ見直しの下で、計算式の見直しを含む幅広いアプローチを2025年6月までに取りまとめるよう取り組むことを再確認した。また、サブサハラ・アフリカ地域の発言権と代表制を強化する、理事会における同地域のための、25番目の新たなIMF理事を歓迎するとともに、IMFの新しい加盟国となったリヒテンシュタインを歓迎した。このほか、クリスタリーナ・ゲオルギエヴァ専務理事の2期目の5年間の任期の開始についても歓迎した。
4 世界銀行・IMF合同開発委員会(DC)(2024年10月25日)
世界銀行・IMF合同開発委員会では、ブレトンウッズ機関の創設80周年を踏まえ、将来に向けた世界銀行グループの在り方について議論が行われた。特に、世界銀行グループは「より良く、より大きな銀行」を目指し、世銀改革とも呼ばれる業務モデル及び財務モデルの見直しを図る一連の取組を行っており、かかる取組の進捗報告が行われた。日本からは加藤財務大臣が出席した。
以下、成果文書の概要について紹介したい。今回は、上述のIMFCと同様の経緯によりコミュニケ発出の合意には至らず、前回に引き続き議長声明としての発表となった。同声明では、世銀改革の進捗として、ハイブリッド資本やポートフォリオ保証等による財務能力の強化の進展を称賛するとともに、最低対貸出資本比率(E/Lレシオ)の引下げや「強化された請求払資本(ECC)」の創設を歓迎した。加えて、「居住可能な地球基金」の設立を歓迎するとともに、ドナーによる追加的な貢献を慫慂した。業務面では、新しいWBGスコアカードの運用開始や、国際復興開発銀行(IBRD)の金利体系の見直し等に対し支持を表明。更に、世銀が本年次総会の機会を捉えて発表したWBGジェンダー戦略2024-2030とその実施計画を歓迎した。IDAについては、そのインパクト重視の戦略的方向性と新しい政策パッケージを歓迎し、新規ドナーの参加を求めるとともに、強固で野心的なIDA第21次増資の完了へのコミットを表明した。
日本国ステートメントでは、世銀改革の進展を歓迎するとともに、日本が世銀と取り組む知見共有や途上国の能力構築への貢献を紹介した。また、ロシアによるウクライナ侵略を非難しつつ、IBRD融資に対する信用補完等、日本の世界銀行グループを通じた支援を紹介。また、ウクライナ支援のための新たな金融仲介基金が世銀に設立されたことを歓迎し、今後とも同グループと連携しながらウクライナが必要とする財政ニーズや復興需要に対応していく旨を述べた。また、日本が特に重要視する地球規模課題について、国際保健、気候変動・インフラ、債務問題、太平洋島嶼国に関し日本と世銀が共同で実施する取組を紹介し、日本として支援を継続・強化していく旨を述べた。最後に、IDA第21次増資について、引き続き相応の貢献をしていく姿勢を示すとともに、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、危機への備え、質の高いインフラ投資、債務の持続可能性、サプライチェーンの強靭化といった日本が重視する開発課題へ着実な対応を求めた。
また、開発委員会と同日、加藤財務大臣は世銀のバンガ総裁と面会を行い、その中でポートフォリオ保証プラットフォーム*3に関する合意書に調印した。
*1) 地政学に係る文言については、7月会合と同一の議長声明を共同声明とは別に発出。
*2) 国際通貨金融委員会(IMFC)は、国際通貨および金融システムに関する諸問題について、IMF総務会に助言および勧告を行うことを目的として、1999年に前身であるIMF暫定委員会を常設化・改編することで設置された。通常春と秋の年2回開催。各IMF理事選出国・母体を代表する大臣級の委員24名から構成される(現在の議長はサウジアラビアのアルジャドアーン財務大臣。日本からは加藤財務大臣がIMFC委員として参加)。
*3) ポートフォリオ保証プラットフォームとは、ドナー国が世銀の融資全体に保証を提供する信用補完の枠組。日本は10億ドルの保証を提供。