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アメリカにみる社会科学の実践(第四回)― 地経学、経済安全保障(2)

財務総合政策研究所客員研究員 廣光 俊昭

5.経済安全保障の制度的基盤とその実際
(1)制度的基盤
 経済安全保障を経済的手段を用いて安全保障上の目標を達成する施策であると考えると、広範な措置が経済安全保障の範疇に入ってくる。関税措置のうち、ウクライナ侵攻に際してロシアに取られた、恒久的通常貿易関係の撤回は、明らかに経済安全保障上の措置に入る。トランプが示唆したように、中国が台湾を侵攻したことへの制裁として関税を課すことになれば、このような措置も経済安全保障の範疇に入る。関税措置には、国際緊急経済権限法(IEEPA)という安全保障上の根拠に基づく措置がある。第一次政権では、移民問題を安全保障上の問題と解することで、メキシコに同法に基づく関税措置を課す可能性が取りざたされた。関税措置は不利益を受ける者から訴訟を受ける可能性があり、法的な意味で安全保障の意義は野放図に拡大するわけにはいかない。第一次政権のもとでの通商法301条に基づく貿易戦争、バイデン政権のもとでの同条によるEV等への関税措置は不公正な貿易慣行に対抗するものとされ、法理的には経済の範疇に入る。しかしながら、これらの措置は地政学上の競争相手である中国をターゲットとするものであり、安全保障の基礎をなす富や技術を巡る争いの道具として動員されている実態があり、この実態を重くみる場合、経済安全保障上の措置とする解釈もあるだろう。
 関税措置はモノの動きに課す金銭的インセンティブを操作するものに過ぎないが、アメリカはモノの動きを直接制限することもできるし、カネ、ヒトについても、その移動を制限する規制体系を発達させている。これらの移動の制限を通じて目指すものは、軍事転用可能なモノや技術へのアクセスを制限することや、相手国の経済的困難を増すことで政策転換を強いることなどである。モノの移動への制限には、新疆ウイグルの産品の輸入禁止などもあるが、その主要部分は、商務省(BIS)が2018年輸出管理改革法(ECRA)に基づいて所掌する輸出管理である。カネの移動は、1)金融制裁としての資産凍結やドル取引禁止を財務省(外国資産管理室:OFAC, The Office of Foreign Assets Control)が所掌し、2)アメリカへの直接投資(inbound)の制限をCFIUSが管理する。バイデン政権末期(2025年1月)には、3)アメリカから中国等への投資(outbound)に関する規制が開始される。ヒトの移動としては、大学や研究機関への中国等からの人材の出入りに制限がかけられ、出入国管理などが関与するが、以下ではモノとカネに焦点を当てる。
 モノにしても、カネにしても、規制の方法は、1)人的側面(特定の個人や団体)を切り口とするもの、2)分野や行動の態様(半導体分野への投資、一定の不動産投資など)を切り口にするものがある。政策目的や規制対象の実情を踏まえて、これらのいずれか、またはその組み合わせが用いられる。輸出管理で、人的側面に着目した仕組みとしてはエンティティリスト(Entity List、EL)が知られる。ELに特定の品目の移転を図る際には、BISに許可申請を行わなければならない。金融制裁でELに相当するリストが、SDNリスト(Special Designated Nationals and Blocked Persons List)である。同リストは、アメリカの安全保障を脅かすこと等を理由に指定された個人・団体(および財産)を掲載したリストである。アメリカの個人・団体はリスト掲載者との取引が禁じられ、違反した場合は制裁対象となる。他方、直接投資(inbound)を審査するCFIUSは、人的な切り口ではなく、分野や行動の態様に基づく規制を実施している。CFIUSは、外国からの投資が安全保障に脅威をもたらすかどうかを審査する省庁横断の委員会である。外国人によるアメリカ企業の合併や取得、買収を審査対象とし、安全保障上の脅威があると認定した場合、最終的に大統領に対して取引阻止を勧告する権限を有する。従前、アメリカ企業を支配する取引を対象としていたが、2018年に成立したFIRRMAに基づき、一定の不動産取引、重要インフラ及び技術等に対するマイノリティ投資までも対象となっている。最も新しいアメリカから中国等への投資(outbound)に関する制限も、分野に基づく規制であり、AI、半導体、量子技術に関する投資を制限する。
 規制の運用に関して、アメリカに特徴的なことは、旺盛な域外適用への意欲である。輸出管理における域外適用の例は、(第三回でみた)ファーウェイのサプライチェーン遮断のため、FDPRを用いたものがある。金融制裁では、基軸通貨である米ドルを用いる取引には何らかの形でアメリカの金融機関が関与する可能性があり、アメリカの金融機関が直接関わらない取引でも、アメリカとの接点があるもの(US Nexus)と解され、制限を受ける可能性がある。加えて、非アメリカ人とSDNリスト上の制裁対象者の取引で、アメリカとの接点のないものであっても、制限の対象とする二次制裁(secondary sanction)という手法が用いられる。アメリカは、中国の金融機関のロシアとの取引を牽制するため、この二次制裁を用いると警告している。直接投資(inbound)を審査するCFIUSにおいても、域外適用と同様の含意を持ちうる運用が行われている。友好国の企業によるアメリカへの投資は、安全保障上の含みのある案件に対するものであっても許可されうる。ただ、投資後、その友好国の企業が中国等から出資を受ける際、CFIUSの制限を受ける可能性がある。これらの域外適用は、アメリカの目線からは規制の趣旨を貫徹するために必要なものであるが、友好国を含む国際社会との緊張をはらむものである。
 経済安全保障上の措置の目的は多様であるが、大別すると、1)平時において、脅威となりうる存在の活動一般を制約するための措置、2)平時において、脅威となりうる存在の将来の活動を抑止するための措置、3)有事において、脅威である存在の活動に損害を与えるための措置に分類できる。第一の平時の活動の制約とは、モノ、カネ、ヒトを介して、中国が機微な技術や製品にアクセスすることを制約するものから、通商法301条によるEV等への関税措置のような事実上の大国間の経済覇権の争いを制するための措置を含む。北朝鮮、イランに科されている多様な措置や、あるいは第一次政権時にメキシコに検討された(再び俎上に上がっている)関税措置のように、脅しをかけることで、相手の行動変容を期待するものもある。第二の平時からの脅威の抑止とは、侵略などの悪しき行動を取った場合の制裁を相手に予期させることで、悪しき行動を抑止するものである。第三の有事の措置には、ロシアに対する輸出管理を通じた軍事転用可能な製品の移転の制限、資産凍結等の金融制裁などがある。相手に痛みを与えることで悪しき行動の撤回を促すものから、行動の費用を高めて相手に消耗を強いるものがある。第二と第三の目的は、事前/事後で一体関係にある。また、平時/有事という区別は状況依存的なものである。戦火を交えている際に有事に分類するのは自然だとしても、交戦状態にはないロシアへの制裁を第三(有事)に分類し、高い緊張関係にある北朝鮮やイランを第一(平時)とするのは、ロシアと現に交戦状態にあるウクライナへの軍事支援をアメリカが実施している状況を重くみたものである。
 モノ、カネ、ヒトという措置の対象とその目的との関係は様々である。ロシアに発動されているように、関税措置も有事の措置となりうる。ただし、軍事的活動に必要なモノの移動を阻止する輸出管理や、資金を凍結する金融制裁には即効性があり、第三の有事の措置として重用される。第二の抑止のための措置も、違反のあった場合に直ちに効果を発揮する措置が適合的である。金融制裁には、相手国の金融システムを麻痺させ、経済を混乱に陥れるとのマクロ経済上の効果が期待されることもある。
 措置の実際を対中国の事例で確認する。図2.10 中国の個人・団体に対するEL、FDPR、SDNの適用状況の推移は、エレノア・ヒューム(Eleanor Hume、CNAS:Center for New American Security)らによる整理で、中国の個人・団体に対するEL、FDPR、SDNの適用状況の推移を示す(Hume & Scarpino, 2024。なお、2024年は8月までの計数)。第一次トランプ政権の終わりの2020年と、バイデン政権の後半に件数が伸びていることが読み取れる。制裁の理由をみると、ELでは、中国の弱体化を直接狙った制裁が上位にくる。トランプ政権では、軍近代化(96人)、イラン(71人)、人権(52人)が上位三つであり、バイデン政権では、軍近代化(185人)、ロシア(122人)、イラン(30人)と続き、いずれの政権も中国軍の近代化への危機感を抱いていたことが読み取れる。他方、SDNでは、トランプでは、イラン(91人)、北朝鮮(41人)、大量破壊兵器(36人)が上位三つを占め、バイデンでは、ロシア(171人)、イラン(120人)、大量破壊兵器(62人)が上位三つである。SDNでは、中国自体の弱体化を狙うよりも、中国が国際秩序に与える悪影響を抑止する制裁が多い。中国自体を問題とする制裁は、トランプの香港(35人)、バイデンの人権(19人)が目立つ程度であり、二国間関係に関わる麻薬密輸がトランプで18人、バイデンで51人挙がっている。他方、中国への適用状況をみると、輸出管理に比べて金融制裁の中国への適用にアメリカ政府が慎重であることが読み取れる。機密技術を中国に供与しないという政策目標を達成するためには、広範な金融制裁よりも、ターゲットにマッチした輸出規制の方が適合的であるという計算を反映しているのであろう。
(2)カネに関する措置
 経済安全保障の制度的基盤の全体像をみたが、以下では、カネに関する措置(金融制裁、対内投資規制、対外投資規制)の詳細を検討する。カネに関する措置がロシアへの金融制裁で脚光を浴びた経緯があるほか、FIRRMAの成立や対外投資規制の導入という重要な制度改正が相次いでいるからである。
 金融制裁は、国際緊急経済権限法やグローバル・マグニツキー法などの行政に制裁権限を委任する法律に基づき実施するもので、財務省傘下のOFAC(TFI:テロ・金融インテリジェンス部)により管理されている。OFACは国務省、ホワイトハウス(NSC)との連携のもとにあり、外交上の方針・大枠を国務省やNSCが決め、OFACは対象の子会社など関係者を悉皆的に調査し、制裁対象者のSDNリストを作成する。アメリカ人(US persons)は、SDNリスト掲載者との一切の取引を禁止され、米銀を介した取引が一切できなくなる。アメリカ外の個人・団体であっても、彼らがSDNリスト掲載者と取引を行い、米ドル決済の際に米銀が関与すれば、それが意図的なものでなかったとしても、「米銀を違反させた」として罰金を科せられる。SDNリストには12,000以上の団体・個人が掲載されており、OFACのHP上で公開されている。OFACは必要に応じ、制裁対象者との取引許可(ライセンス)を発行することがある。
 ローワン・スカルピーノ(Rowan Scarpino、CNAS)らによると、2023年、アメリカは879人の個人と1,621の団体からなる2,500人をSDNリストに追加し、これは2022年に指定された2,275人から10%増加した(Scarpino & Trainer, 2024)。ロシアのウクライナ侵攻、中国との競争の激化、中東の安全保障環境の悪化などにより、歴史上例のない数の制裁を科している(2017年から2021年の間に年間制裁人数は平均815人)。2023年も、ロシアは引き続きSDNリストの大きな部分を占めており、ロシアは国別指定全体の61%を占めている。その他、イラン、ベラルーシ、ミヤンマー、北朝鮮などを引き続き標的とし、汚職、人権、テロ、麻薬、大量破壊兵器、サイバーに関連する活動と戦うための制裁を科している。
 金融制裁について、財務省はたびたび考え方を整理している。2016年には、当時の財務長官ジェイコブ・ルー(Jacob Lew)が、これまでの教訓を明かにした講演を行い(Lew, 2016)、イエレンのもとでは2021年10月にまとまったレビューを公開している(Department of the Treasury, 2021)。これらの整理の根柢にあるのは、金融制裁が多用される割に相手の行動変容を引き出すことができていないという問題意識である。そして、制裁が米ドルの地位を掘り崩し、いずれはデジタル通貨などの技術革新が制裁の効果を減殺するのではないかという危機感であった。2021年のレビューでは、1)制裁を明確な政策目的とリンクさせること、2)多国間協調を実現すること、3)意図せぬ経済的・政治的・人道的影響を避けるため、制裁を調整すること、4)制裁に関するコミュニケーション、アウトリーチを改善すること、5)デジタル資産についての知見を深めることなど近代化に取り組むことを勧告している。このレビューの翌年、ロシアへの金融制裁が実施されており、次節ではその実際についてレビューとも突き合わせて検討する。
 アメリカへの対内投資は、包括貿易・競争力法(OTCA:Omnibus Trade and Competitiveness Act of 1988)に基づいて規制されている*15。財務長官を議長とし、九つの機関の参画するCFIUSが投資の審査を行う。重要な技術・インフラ・個人情報に関わるビジネスや、一定の不動産取引に関しては、届け出(notification)が義務付けられている。CRS(2024b)によると、通常の審査を求める事前通知(notice)の件数は、2018年の229件から、2023年には233件で推移している。CFIUSは、2018年以降、簡便な届け出となるdeclarationという仕組みを設けており、その利用は増加傾向にある(2018年の20件から2023年には109件)。DeclarationとしてCFIUSに入った案件であっても、必要に応じて正式な審査に移行することもある。CFIUSは届け出を怠った疑わしい案件を見つけ出すことに人的資源を割いている。ライバル企業からの内報を受け付け、届け出のない案件には時効を設けないことで、適切な届け出がなされる環境整備に努めている。CFIUSの勧告に基づいて、大統領は投資をブロックすることができる。ただし、困難な案件であっても、企業は政府の懸念を緩和する措置(mitigation)を約束することで*16、CFIUSからの承認を引き出す道がある。また、決定に至る前に申請を取り下げることも可能である。2024年までにブロックにまで至った案件は8件と限定的である*17。いったん決定が下ると,司法プロセスでも、サブスタンスについてはアピールができず、決定は最終的なものとなる*18。
 対内投資規制は、中国からの投資にどのような影響を及ぼしているのか。図2.11 CFIUSへの中国と日本からの届け出件数の推移は、CFIUSの年次報告(CFIUS, 2017-2024)に基づき、中国と(比較相手として)日本の届け出件数の推移を示したものである。FIRRMAの成立した2018年以降、中国からの案件が抑制されていることが読み取れる。Declarationの利用は、日本と比べて中国では限定的である。また、重要な技術に関わる投資案件も日本と比べて抑制されている。ブロックに至った案件には、先端技術を持つ企業への中国企業などによる投資案件が含まれる。2017年には、Lattice Semi-conductor社に対するCanyon Bride Capital Partnerという中国系米国法人による買収がブロックされている。2018年には、Broadcom社(シンガポール)によるQualcomm社の買収がブロックされている。2024年までにブロックされた事案では、中国との直接/間接の関わりが取りざたされていた。ブロックの数は限定的であるが、これらは中国企業による投資への一定の萎縮効果を生んだ。
 FIRRMAの立法過程の議論では、投資促進と安全保障のトレードオフが論点のひとつであった。2023年年次報告(CFIUS, 2024)によると、2023年に提出された233件の通知のうち、57件(24%)が取り下げられた。このうち43件は2023年か2024年に再提出されているが、9件はCFIUSが有効な緩和措置がない旨を通知企業に伝えたか、CFIUSが通知企業にとっては受け入れがたい緩和策を提案したために最終的に断念に至ったものである。取り下げられた案件のうち5件は、商業的な理由で企業側が自主的に断念したものである。24%という数字は決して低くはないが、3.9%(9/233)は著しく高い数字ではない。Declarationの活用など負担軽減に配慮を払っている甲斐もあってか、(第三回の図2.4の示唆する通り)アメリカへの投資は活況を呈している。中国からの投資も、重要な技術に関わる事案では萎縮効果がみられるものの、中国から投資は2023年の通知件数で一位(33件)を維持している。(第三回の)図2.4でみた通り、金額でみても中国の対米投資は(減少傾向のなかでも)底堅さをみせている。安全保障上のリスクを軽減しつつも、アメリカは中国を含む世界からの投資の恩恵を享受しつづけている。
 カネに関する措置で最も新しい展開が、対外投資への規制導入である。2025年1月から、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく大統領令により、AI、半導体、量子技術に関する中国等への投資の規制がはじまる。規制の管理は財務省のOffice of Investment Securityで行われる。規制分野において中国等と取引する場合、財務省への届け出が義務付けられ、安全保障に特に深刻な脅威をもたらす場合には取引が禁止される。対外投資規制は、投資を期に機微な技術が流出するとの懸念に基づくもので、公開市場で売買される証券への投資など規制の例外を定めている。規制は対象を三つの先端分野に絞っており、サリバンの「スモールヤード、ハイフェンス」の精神に沿ったものといえるだろう。
 規制手法として本措置に特徴的なことは、ELやSDNのように不適格な投資先をリスト化する手法を取らず、AI等の分野(セクター)を示す手法を採用したことである。対外投資規制については行政の裏で連邦議会での検討も進められている。現在(2024年12月)までに成案を得ていないものの、議会ではリスト方式の導入を主張する議員もいた(パトリック・マッケンリー下院金融サービス委員長、2025年1月で退任)。リスト方式では、忌避すべき投資先が明確になり、民間企業の負担軽減になる。他方、アメリカ政府に規制対象の中国の業界事情についての情報が不足する場合、実効的な規制にはならない*19。セクター方式ならば、届け出を通じ、政府は中国側の事情への理解を深めることもできる。議会にはより厳しい規制を求める声もあり、極超音速技術とスーパーコンピュータなどより広範な分野に規制の網をかぶせるべきとの主張がある(マイケル・マコール下院外交委員長)。また、規制対象となる投資形態を拡大し、公開市場で売買される証券への投資なども規制すべきとの指摘もあった(マイク・ギャラハー)。これらの厳しい提案は、米中対立を不可避とみてデカップリングを進める立場からすると、自然な道行ではある。2025年からはじまる議会では、共和党が上下院の過半を押さえている。共和党は対外投資規制を強化する方向へのバイアスを持っていると思われるが、ビジネス(全米商工会議所)やウオール街は規制を快く思っていない。規制の運用状況を横目に、規制の今後の発展の方向性から目を離せない状況がつづく。
(3)ロシア制裁
 2022年2月のロシアのウクライナ侵攻に対し、アメリカとそのパートナーは経済・金融制裁を科した。北朝鮮やイランに比べて、ロシアへの制裁は必ずしも厳しいものではないが、ロシアのような比較的大きな経済への踏み込んだ制裁は近年例がない。
 図2.12 ロシア経済の動向(IMF, 世界経済見通し(WEO))は、ロシアの主な経済指標の動きをみたものである。実線は2024年10月のIMFの世界経済見通し(WEO)に基づき、2024年は実績見込み、以降は予測である。点線は、ウクライナ侵攻直後の2022年4月の同見通しによる当時の予測を示す。ロシア経済は2022年に緩やかな収縮(▲1.2%)を経験したが、2023年には3.6%と成長を回復し、2024年にも同程度の成長を見込んでいる。侵攻当初、2022年の経済の収縮として▲8.5%を見込んでいたことに比べ、落ち込みは穏やかなものにとどまった。その後、戦時経済体制への移行に支えられ、経済は堅調に推移している。インフレ率と失業率については、2022年にはそれぞれ21.3%、9.3%と民生への打撃を示唆する予測が出ていたが、実際にはそこまでは悪化せず、2023年以降、速やかに回復した。戦時経済への移行に伴い、失業率は低下をつづけている。他方、同じ理由からインフレが最近ぶり返しており、目下の政策上の焦点となっている。これらの指標に比べると、経常収支については、侵攻直後のIMFの見通しは大きくは外していない。
 この推移を踏まえ、ロシア制裁は期待したほどの効果はなかったとみる向きがある。オレグ・イツホキ(Oleg Itskhoki、ハーバード大学)らは、制裁によって経済危機を起こしやすい国の条件として、1)大きな経常収支赤字、政府赤字を持つこと、2)大きな対外債務を持つこと、3)国内経済のドル化(特に国内の貸借において)の進展という三つの条件を挙げている(Itskhoki & Ribakova, 2024)。彼らは、ロシアはこれらのいずれの条件も満たしていなかったと指摘する。ロシアは2014年のクリミア侵攻への制裁を経験して以来、制裁への準備を進めていた。それでも、イホツキらは、(仮定の問いに確実な回答を与えるのは困難としつつ)仮に侵攻直後に効果的なフルスケールの制裁を科すことができていれば、ロシアの市場を崩壊させ、経済金融危機を引き起こすことができたかもしれないとする。しかしながら、実際の制裁は、ロシアが徐々に適応できるような断片的なアプローチによるものとなった。欧州等がロシアの石油・天然ガスの輸入を減らすのにほぼ一年かかった。時間が経つにつれ、制裁相手は代替手段を見出し、制裁の効果は漸減する。貿易上の措置のうち、(ロシアからのエネルギー・穀物の)輸出制限よりも、ロシアの(軍需・民需の)輸入の制限に重みが置かれたことも、ロシアの経常収支の改善を助け、金融危機の回避の役に立った。中国がロシアの最大の貿易相手国となり、インドと中国が欧州に代わってロシアのエネルギーの最も重要な輸入国になった。2022年12月から稼働をはじめたロシア産石油の輸入に関する上限価格(プライスキャップ)は、ロシアの石油収入の減に貢献しているが、2022年中の動きとしては、商品価格の高騰等により、ロシアは過去最高の貿易黒字を記録することになった。
 侵攻直後から、ロシアへの迅速かつ包括的な制裁を主張していたのが、エドワード・フィッシュマン(Edward Fishman、アトランティック・カウンシル)である。フィッシュマンはクリミア侵攻時の国務省で対ロシア制裁を担当していた。フィッシュマンらは、2022年の2月28日付のフォーリンアフェアーズ誌で、制裁による侵略行為の抑止は失敗したが、ロシアの経済・技術的な消耗(attrition)を狙って包括的な制裁を科すべきであると指摘した(Fishman & Miller, 2022a)。この2月の論考、続く5月の論考(Fishman & Miller, 2022b)では、ロシアの石油輸出を劇的に減少させるための二次制裁の脅しの活用、(SWIFTからの除外は意義が低いため)大銀行への制裁などを通じ、ロシアに対する制裁を最大化することを求めた。
 イツホキらのいう、侵攻直後のフルスケールの制裁は、フィッシュマンらの提案したエネルギー部門を含む最大限の制裁と合致するものであろう。その結果がどうであったか仮定の質問に答えることはできない。しかしながら、2022年当時の欧州にもアメリカにも、エネルギー価格の一段の高騰を受忍する政治的意思がなかったことも、明白であったと思われる。(第一回の)図1.3の示すように、アメリカでインフレは二けた目前(6月の全品目CPIは9.1%)まで昂進していた。アメリカは2022年11月に中間選挙を控え、インフレが最大の争点のひとつに浮上していた。2022年中にアメリカ政府が追求した施策は、石油価格の安定を通じ、西側経済の安定とロシアの石油収入抑制の両立を図る、プライスキャップの導入であった。戦争当初から、ロシアの打倒を目標とすることに懐疑的な論者もいた。(第三回で慎重論者として挙げた)ジョージタウン大学のカプチャンは、2022年4月の論考で、アメリカが理想を掲げて戦い、悲惨な結果を迎えた過去に触れつつ、プーチンは次の10年も権力の座にとどまりうるのだから、現実的に考え、ロシアと選択的な関係構築を模索すべきと訴えた(Kupchan, 2022)。彼はオバマ政権の大統領特別補佐官を務めた、クリミア危機の当事者である。カプチャンは、2023年4月、リチャード・ハース(Richard Haass、CFR:Council on Foreign Relations)との共著論文で、当面はウクライナによる(当時の)攻勢を支援しつつも、2023年のうちには停戦し、交渉のテーブルに着くべきであると述べた*20。カプチャンらは、ウクライナの大部分を守りえている現状を固めることが重要であるとした。フィッシュマンらの議論は制裁を中心に物事をみており、部分均衡的な鋭さとバランスの悪さが併存している。他方、カプチャンの議論は、米欧の政治情勢や世界全体を俯瞰するもので、一般均衡論なバランスの良さが際立つ(地政学的イベントは、国際銀行の活動を通じても国内に影響を及ぼす。その影響については、コラム2.4を参照)。
 ホワイトハウスで制裁を指揮したダリープ・シン(Daleep Singh)は、2024年の講演で、制裁の目的をロシアの戦争遂行のコストを引き上げ、中期的にロシアの戦力投射能力を低下させることであると再定義している(Brookings, 2024)。このような制裁目的の定義は他の論者にも広く受容されており、制裁を巡る最近の議論は落ち着きをみせている(e.g., PIIE, 2024)。フィッシュマンも、成功の基準を戦争の終結におくならば制裁は失敗であるとしつつも、制裁の目的をシンと同様のラインに調節し、プライスキャップを積極的に評価するようになる(Fishman et al., 2022)。これらの議論には、半導体や工作機械などが第三国から(シンによると、中国経由が半導体で90%、工作機械で70%)でロシアにわたっているという分析、その対策として二次制裁が有効であるという見解、戦争と制裁が長期的なロシア経済の見通しに悪影響を与えていることなどが含まれる。マキシム・クピリン(Maxim Chupilkin、EBRD)らは、ロシアの輸入財の商標を分析している。彼らの分析によると、表2.5 ロシアの輸入状況(2021年、2023年)の示す通り、Dual-use goodsで、西側の商標の直接の輸入が46.9パーセンテージポイント減ったのは良いとしても、西側の商標の間接輸入が9.3パーセンテージポイント、中立国の商標の輸入が10.8パーセンテージポイント増加することで、減少の4割以上(19.8+22.9)が埋めあわされている(Chupilkin et al.,2024)。
 先述のウクライナ侵攻前に財務省が出したレビューは有益な視座を提供している。その第一の勧告、「制裁を明確な政策目的とリンクさせること」については、現在ではロシアの戦争のコストを高めるとい支配的見解が出来上がっている。ただ、当初はロシアに甚大な打撃を与えるという政治的ステートメントが先行する場面があったのも事実である*21。制裁への支持を獲得するため、制裁の目標や効果のプレゼンテーションは積極化するが、高まった期待が失望に変わる時、制裁への支持を危うくする。期待値の管理はチャレンジングな課題である。第二の「多国間協調を実現すること」については、欧州やG7にとどまらず、豪州、韓国などパートナーとの連携のもとで制裁を推進したことは評価できる。ただし、先進国の経済的比重が低下するなか、中国はもちろん、インドなどグローバルサウスの多くがロシアと通常の経済関係を維持した。紛争当事者の間の裁定取引を通じ、中立国は利益を得ることができる。第三の「意図せぬ経済的・政治的・人道的影響を避けるため、制裁を調整すること」については、制裁が欧州経済等に与える影響を考慮し、綿密な調整が行われた。ロシアの穀物の輸出を許容したことも、途上国を含む世界経済への影響を考慮した証左である。第四の「制裁に関するコミュニケーション、アウトリーチを改善すること」はどうか。国内やパートナー間の期待値の管理という意味では、先述したシンのほか、サリバンやイエレンなどの政府首脳が尽力したことは認められて然るべきである。ただし、中立国へのアウトリーチという点では、道義に訴えるコミュニケーションは経済的実利を覆すほどの効果は持たなかった。第五の「デジタル資産など」については、ロシアへの金融制裁に鑑み、BRICS決済システムや中国のCIPS(Cross-Border Interbank Payment System)、mBridgeなど代替決済システムの実装の取り組みが加速したことを指摘する必要がある。
 ロシア制裁は壮大な社会実験であったが、その教訓のひとつは、制裁は有用であるものの、silver bulletではなく、外交、軍事などの他の手段との連携のもとで用いるものであるということである。シンは2023年のイベントで、侵攻前に制裁とともに大規模な軍事支援で応ずることを明らかにしていたなら、抑止力を高めることができていたはずだと述懐した(Atlantic Council, 2023)。この指摘は、制裁を事態の進展に応じて秩序立てて用いるよう事前に計画することの難しさを浮き彫りにする。二度目の侵攻であったから、西側にある程度の準備ができていたことは、侵攻後直ちに制裁が発動された経緯から読み取ることができる。ただ、大規模な制裁、軍事支援が後に続いたのは、なによりも、ゼレンスキーの欧州首脳らへの効果的な働きかけ、ウクライナ国民の予想外の奮戦がなければ到底考えられなかった。

コラム2.4:地政学的イベントと国際銀行の活動
 地政学的なイベントは、アメリカなどの先進国の銀行融資にどのような影響を与えるのか。金融機関はどのように対応しているのか。米銀の外国アセットはアセット全体の20%程度を占め、うち半分が支店・子会社によるローカル・クレイムであり、自国が直接戦争に巻き込まれなくても、カネの経路を通じて、自国にも影響が及ぶことがある。
 フリデリーケ・ニップマン(Friederike Niepman、FRB)らは、国毎の地政学リスク指標(Geopolitical risk index:新聞記事のテキスト解析に基づく指標)を用い、銀行ごとの地政学リスクへのエクスポージャーを指数化し、当該指数と米銀の国内貸し付けの関係を回帰分析した。その結果、指数の1標準偏差の上昇は、国内貸し付けを16%減らすことを見出した(Niepmann & Shen, 2024)。この減少は、銀行が資本要件を満たすためには、国内融資を減らすことが最も簡単な方法であることによってもたらされる。
 意外なことに、地政学的リスクにさらされた銀行は、対外貸付のかなりの部分を継続していることも分かった。対外貸付には、1)海外支店や子会社から現地で融資を行う場合と、2)国境を越えて融資を行う場合があるが、彼らの分析によれば、リスクが高まっている国では、国境を越えた融資を減らしつつも、現地での貸出は維持されているか、むしろ増加していた。ニップマンらは、このパラドックスに対し、ウクライナ侵攻による逸話的証拠から光を当て、海外資産の売却はコストがかかりすぎることが背景にあると推察する。

(4)対中制裁についてのアメリカの議論
 ロシア制裁の傍らで、アメリカでは台湾有事を念頭に対中制裁についての頭の体操が行われていた。チャーリー・ヴェスト(Charilie Vest、ロジウムグループ)らは、アトランティック・カウンシルと共同で、G7による対中制裁、中国によるG7への逆制裁についての報告書をまとめている(Vest & Kratz, 2023; Wright et al., 2024)。対中制裁の報告書では、台湾海峡で戦争に至らない程度の大規模なエスカレーションが発生した場合、G7が取りうる制裁を検証している。ヴェストらがターゲットとして検討したのは、1)金融セクター、2)政治・軍事指導部に関連する個人と団体、3)軍事に関連する産業部門の三つである。彼らは、多くの人が大規模な金融制裁ばかり思い描いているが、ミドルレベルの制裁に注意を向ける必要があるとする。最大規模の金融機関に対する制裁を含む最大限のシナリオでは、少なくとも3兆ドルが即座に途絶のリスクにさらされると推定し、この規模の影響は戦時シナリオ以外では政治的に困難であるとする。最大限の金融制裁は、G7にとっても壊滅的であり、実際に取りうるのは個別銀行の制裁にとどまると示唆する。ミクロレベルの個人制裁はシンボリックな意味を持つものの、オルガリヒからプーチンが力を得ていたロシア以上に、中国では効かないとみる。これら上下両端の制裁に代わり、ウェストらが注意を払うのは、アシンメトリーのある産業分野であり、例えば、航空宇宙産業では軍事的衝突よりも下のレベルの事態で制裁の意味のある使い方ができるかもしれないとする。これらの分析に基づき、彼らは、制裁は軍事的・外交的手段に代わるものではなく、それを補完するものであると指摘する。制裁に過度に依存し、その短期的な効果を過信することのないよう警告する。
 続いてヴェストらがまとめた中国からの逆制裁に関する報告書では、中国の手段は貿易と投資に偏り、金融によるものは限定的であるとしつつも、中国がすでに経済的威圧(コラム2.1参照)の多様な手段を充実させ、実践していることに注意を促す。アメリカの対中輸出を抑制するという中程度のシナリオでも、790億ドル以上のアメリカの製品およびサービスの輸出がリスクにさらされ、G7全体による対中制裁措置を含む、よりエスカレートしたシナリオでは、G7の対中輸出総額約3,580億ドルがリスクにさらされる。輸入面では、G7は中国からの4,770億ドル以上の輸入品に依存しており、それらが中国の輸出規制の対象となる可能性があり、投資に関しては、G7の直接投資資産の少なくとも4,600億ドルがリスクにさらされるとする。他方、彼らは、中国の1億人以上の雇用は海外の最終需要に依存しており、逆制裁は中国にもリスキーであることにも注意を促す。このため、中国は非対称的な痛みを与えることのできる分野を標的にする可能性があり、特にレアアース、医薬品有効成分等が標的になるとする。また、中国はG7を分裂させるように努め、G20の各国が中立を維持するよう、二国間融資を含む誘因を用いる可能性があると指摘する。さらに、ヴェストらは、人民元建ての取引ネットワークなどを開発することで、中国が制裁に対する耐性を作りだそうとしていることに注意を向ける。人民元ベースのネットワークが米ドル建てのグローバル金融システムに取って代わることはないとしつつも*22、中国独自のネットワークは制裁下で、融資や貿易取引へのアクセスを維持するという狭い目標には役に立つとする。ヴェストらによると、CIPSは直接な参加者間の通信シャネルを有し、銀行間送金を処理することができる。ホールセールのデジタル通貨であるmBridgeは、2021年2月、人民銀行とタイ、UAE、香港の三つの中央銀行の取り組みから開始し、現在では豪韓を含む32の中央銀行をオブザーバーとして含むまでに拡大している。mBridgeを大規模に実装すれば、ドルベースのネットワークの代替として機能しうるという。中国は通商関係や一帯一路をテコに世界各国と金融面でも結びつきを強めており、次第に成果を生み出している(中国と各国の金融面の関係については、コラム2.5を参照)。
 対中制裁については、エミリー・キルクリーズ(Emily Kilcrease、CNAS)による研究もある。彼女はその報告を「No Winners in This Game」と題した(Kilcrease, 2023)。キルクリーズは、アメリカが検討しうる多くの経済的措置を検証し、中国に厳しい制裁を科す選択肢は限られていると結論している。まず、1)中国への技術供与を拒否する取組は、効果を発揮するには時間がかかり、紛争が発生する直前期にはあまり役に立たない。2)輸出管理も、ロシア制裁の例をみても制裁回避の例が多い。3)金融制裁については、中国が貿易や金融でドルに依存しており、アメリカは優位性を持っているが、中国の銀行の規模に鑑みて制裁がもたらす経済、市場の混乱は甚大であると指摘する。キルクリーズは、制裁のタイミングにも問題があるとする。すなわち、制裁が抑止的な役割を果たすためには、紛争が起こるかなり前に、厳しい制裁を科すという強い決意を示すことで制裁の信頼性を高める必要があると指摘しつつも、制裁を発動するという政治的決意は、危機の瞬間にしか生まれないという。
 ヴェストら、キルクリーズによる研究を通じて浮かび上がってくるのは、制裁による抑止を考えることの難しさである。辛うじて、ヴェストらは非対称性のあるミドルクラスの制裁を用いる可能性を残しているが、キルクリーズは問題点を指摘するところから踏み込まない(No Winners)。このような論調のなかで、ジェラルド・ディピッポ(Gerald DiPippo、CSIS→ブルームバーグ)は、ジュード・ブランシェット(Jude Blanchette、CSIS)との共著で、戦争が起これば、制裁以上の影響が事実上生じるとして、制裁の抑止効果にシニカルな見方を示している(DiPippo & Blanchette, 2023)。彼らは、二つの抑止力、すなわち、1)普段から効果を持つ一般的な抑止力、2)危機が迫った時に効果を持つ即時的(immediate)な抑止力を区別し、経済制裁は一般的な抑止力にしかならないとする。ディピッポはCIAで中国経済の分析をし、CSISに移籍した際、対中制裁を研究するとしていた人物である。その後、ディピッポはブルームバーグに移籍し、台湾海峡で戦争が起きた場合の経済的影響を試算している(Welch et al., 2024)。試算によると、最初の1年間にGDPに与える影響は、台湾は▲40%、中国▲16.7%、日本▲11.5%、アメリカ▲6.7%である。世界全体では、▲10.2%で10兆ドルのコストがかかるという。台湾封鎖の場合には、台湾▲12.2%、中国▲8.9%、アメリカ▲3.3%、世界▲5.0%となる。この規模の経済コストが侵攻を思いとどまる抑止力になるのかどうかは、事に至る文脈次第であろう。一般的な抑止力にはなるとしても、即時的な抑止力となるかは、首脳レベルの心象風景に関わる(台湾危機については、コラム2.6を参照)。
 ディピッポとブランシェットの論文にみられる、戦争が起きれば制裁以上のコストが生ずるという割り切りは、真理の一面を突いている。ただ、制裁は、国の安全に関わる問題であるから、制裁にまつわる意思決定は十分な情報に基づいて行う必要がある。ヴェストらやキルクリーズの研究は、その決定に必要な情報的基礎となるものであり、その意義が滅却されることはない。これらの研究は、ロシア制裁の教訓とベクトルとしては同じことをより強い調子で訴えている。制裁を実施するパートナーは幅広いものである必要がある。ただ、グローバルサウスには中立の立場を取る誘因がある。さらに、(第三回の)図2.6で見た通り、中国との通商関係における米欧の相違は、米欧が異なる利害計算を持ちうることを示唆する。他方、制裁だけではその抑止力に限りがあるとしても、このことは中国との緊張を管理する上で制裁が何の役割も持たないという意味ではない。制裁は、外交、軍事、経済力を含めたアメリカの持つ多様の手段の一部であり、その全体のなかでどのように活用すべきか、検討が重ねられていくだろう。

コラム2.5:中国と世界各国の金融関係
 レベッカ・レイ(Rebecca Ray、ボストン大学)は、ボストン大学の管理する「China’s Overseas Development Finance(CODF)Database」を用いて、中国の2大開発金融機関である中国開発銀行(CDB)と中国輸出入銀行(CHEXIM)の新規融資額が2016年にピークを迎えて以来、減少していると報告している(Ray, 2023, 2024)。世界銀行(IBRD, IDA)とのコミットメントベースの比較では、2013年から2017年までの間、中国は世界銀行を量的に凌駕したものの、その後、世界銀行を下回って推移している。図2.13 中国開発金融機関(棒)と世界銀行(折れ線)のエネルギー部門への融資動向(2001-2023年、10億ドル)は、エネルギー分野への融資について、2001年から2023年の間の中国(棒)と世界銀行(折れ線)を比較したものである。レイによると、世界銀行と中国では、これまでは貸し出し案件に明確な違いがあったが、近年はその傾向が弱まり、中国もより注意深く、リスク回避的になってきたという。レイは、政治的に中国と協力する時期ではあるかどうかは別としつつも、中国の開発金融機関と健全な競争ができうる環境に近付いているとの認識を示している。
 他方、セバスチャン・ホーン(Sebastian Horn、ハンブルグ大学)らは、中国による対外金融活動が別のフロントでは依然として活発であることを報告している(Horn et al., 2023)。具体的には、中国は2008年から2021年にかけて22か国に2,400億ドルもの救済資金支援を実施しており、この量は過去10年間のIMF融資総額の20%以上に相当するという。中国はグローバル・スワップ・ラインを活用し、1700億ドルを超える流動性支援を行ったほか、中国の国有銀行・企業が700億ドルの追加融資を国際収支のサポートのために実施したという。これらの救済金融は、一帯一路のインフラ建設に充てた融資の返済に苦しむ国が増えたため、近年急増しているという。ホーンらは、中国の救済融資について、1)不透明であること、2)比較的高金利であること、3)ほぼ中国の一帯一路構想の債務者だけを対象としていることという問題点を指摘している。図2.14 中国による救済の対象国、タイミングは、救済の対象国と救済のタイミングを示したものであり、近年でも活発な活動状況をうかがうことができる。

コラム2.6:アメリカでの台湾危機のシミュレーション
 ゲーム理論は、すべての帰結が等しく起こることを想定しているわけではない。相互の選択の結果として、決して起きることのない帰結もある。それでも、その帰結の存在はゲームの不可欠の一部をなす。その起こらない帰結の性質を理解することが、ゲームをプレイする前提条件なのである。「主は国々の争いを裁き、多くの民を戒められる。彼らは剣を打ち直して鋤とし、槍を打ち直して鎌とする。国は国に向かって剣を上げず、もはや戦うことを学ばない」とは『イザヤ書』の一節である。「主」のような存在を想定しないゲーム理論では、戦わないためには、戦うことを学ぶ必要がある。ワシントンでは、台湾侵攻を想定したwar gameがおこなわれ、そのなかには一般に公開されているものもある。日本の目線からのゲームの報告には岩田他(2022)の例があるが、ここではワシントンのシンクタンクの最近の取り組みをみる。
 CSISでは、マーク・カンシアン(Mark Cancian)らが、2026年を想定した台湾侵攻を想定したゲームを開発し、24回実施している(Cancian et al., 2023)。ほとんどのシナリオでは、米国、台湾等は中国を撃退し、台湾の独立を維持した。カンシアンらは、撃退の条件として、1)台湾が抵抗し、降伏してはならないこと、2)米軍が速やかに直接戦闘に参加しなければならないこと(海上封鎖を受ける台湾では、ウクライナの場合のように、参戦せずに軍事支援を行う余地はない)、3)アメリカが日本にある米軍基地を作戦に使用できること、4)中国の防衛圏の外側から、アメリカが中国の艦隊を迅速かつ一斉に攻撃できなければならないことの四点を挙げる。他方、カンシアンらは、防衛には大きな犠牲が伴うことを指摘する。表2.6 ベースシナリオと悲観シナリオにおける航空機、艦船のロス(CSIS)はベースシナリオと悲観シナリオでの航空機と艦船のロスを示し、アメリカと同盟国は、二隻の空母を含む数十隻の艦船、数百機の航空機、そして数万人の軍人を失うという。台湾は経済的に大打撃を受ける。多大な犠牲はアメリカの世界的な地位を長年にわたって傷つける。中国も大きな損失を被り、台湾を占領できなかったことで中国共産党の支配が不安定になる可能性もあるという。これらのゲームから、カンシアンらは、米国は直ちに抑止力を強化する必要があると勧告する。より小型で生存性の高い艦船へのシフト、潜水艦の優先などのほか、台湾には非対称的な能力の整備(small, many, mobile, lethal; Porcupine)を求める。また、多くの死傷者を出しても作戦を継続する必要性を認識すること、中国本土を攻撃すべきではないという勧告も目を引く。
 もうひとつの報告は、CNASのステイシー・ペティジョン(Stacie Pettyjohn)らによるものである(Pettyjohn et al., 2022)。彼らは、ギャラハー下院議員(当時)ら有力な政治家を含むチームで2027年を舞台とするゲームを行った。その様子はNBCで放映された。ゲームの結果は、中国、アメリカのいずれも直ちに勝利を収めることはできないことを示す。ゲームは中国の直面するジレンマを浮き彫りにした。すなわち、中国は、1)戦争を限定してアメリカが介入しないことを期待するか、2)侵攻の成功確率を高めるために在日米軍基地を含むアメリカの目標への先制攻撃をするかという選択を迫られ、ゲームでは中国は先制攻撃を選択している。ペティジョンらの報告に特徴的なことは、戦争が急速にエスカレートする可能性を示唆していることである。中国がアメリカの介入を阻止または終結させるために核の脅しを使うほか、核戦力の限定的行使へと進む可能性があるとし、ゲームでは中国はハワイ近隣での高高度核爆発を実施している。図2.15 エスカレーション(CNAS)は、中国によるグアムや在日米軍基地等の先制攻撃、アメリカによる中国本土への反撃、ハワイ近隣での核使用に至る経緯を一枚の地図にまとめている。ペティジョンらの勧告も、抑止力向上の緊要性という点でカンシアンらの報告と類似している。ただ、長期戦をどのように戦い、どのよう終結させるかを検討すべきとしている点は特徴的である。
 中国の台湾へのアプローチは、実際のところ、戦わずして目的を達することを優先するとみられる。アメリカのシンクタンクでは、戦争に至らない、隔離(quarantine)、封鎖(blockade)などを想定した研究も行われている。これらの研究を行う人々は決して好戦的なわけではないだろう。戦わないためにも、戦うことを学ぶ必要があるとの認識に立っているものと考えられる。

6.人類の存続
(1)リスクと二つのガバナンス欠如
 最後に大国間の競争のかげで進む、人類規模の問題を検討する必要がある。なぜならば、50年、100年後の人々は、この問題への対処に失敗したことを、我々の時代の最大の痛恨事と考える恐れがあるからである。大国間の競争は人類規模の災厄に共同して対処する意欲を後退させ、グローバルなガバナンスの機能不全を招く恐れがある。ガバナンスは大国間の地理的競争の間で失われるだけではない。今日の問題が厄介なのは、技術進歩により、現在の利益と将来のリスクとの間の異時点間のトレードオフが険しさを増していることにある。地理間と異時点間でのガバナンスの欠如はリスクを相乗的に悪化させる。
 地球環境に潜むリスクについては、ヨハン・ロックストローム(Johan Rockström、Potsdam Institute for Climate Impact Research)ら欧米の研究者が、プラネタリーバウンダリーの概念を提唱している(Rockström et al., 2009)*23。プラネタリーバウンダリーとは、人間活動の圧力にさらされる九つの環境領域において、自然の回復力の限界を示したものである。2023年改定版によると、九つの領域のうち、気候変動、自然環境への新規物質の流入、窒素・リン循環、淡水、土地システム、生物・遺伝的多様性の六つの領域ですでに地球環境は回復不可能な域にまで悪化しており、大規模で不可逆的な環境変化が発生するリスクが高まっている。ニック・ボストロム(Nick Bostrom、オックスフォード大学)は、人類の存亡リスクを「地球起源の知的生命体の早すぎる絶滅か、その知的生命体が持つ望ましい未来への潜在力の永続的かつ劇的な破壊が生ずるリスク」と定義する(Bostrom, 2013)。ボストロムは、熱核戦争や気候変動に限らず、ナノテクノロジー、AI、バイオテクノロジーなどの新しい技術に由来するリスクに目を向ける。斬新な軍事技術が軍拡競争を引き起こし、先手を打った方が決定的な優位に立つ事態となることを憂慮し、合成生物学によって簡単に手に入る材料で何百万人もの人々を殺すことができるようになることを懸念する。彼はこのような事態を「ポスト・ヒューマン」社会への移行と呼び、現在の「半無政府状態」では適切な対応ができないとする。すべての技術は善であるとの想定を疑い、世界規模の監視システムの導入を提言する。
 ボストロムの「監視システム」という提言は、言葉尻をとれば、反発を呼びかねない。ただ、核兵器、気候変動などのプラネタリーバウンダリーの侵害から、最近のAIの兵器転用の脅威まで、すべてに通底する問題が半無政府状態、ガバナンスの欠如にあることに異論はないのではないか。核兵器については米ソ冷戦時代にも、複雑な抑止システムを作り上げるとともに、核の利用と規制を両立するための査察(監視)の制度を導入した。ただ、今日、ロシアによる核使用の脅し、核保有国の増加などの綻びがみられる。気候変動については、科学的知見の集約(IPCC)は進んでいるが、1990年以降、世界の二酸化炭素排出量は60パーセント以上増加している。図2.16 表明済み施策に基づく炭酸ガスの排出予測、2050年ネットゼロへの経路(全世界、Gt CO2)は、国際エネルギー機関(IEA)の集計した、1)現在までに実施が表明された施策に基づく温暖化ガスの排出の予測、2)2050年にネットゼロを実現するために必要なガスの削減パスを並記したものである(IEA, 2024)。二つの線の差分は、1)国境を越えた地理的な公共財の過小供給であると同時に、2)近視眼的決定による異時点間ガバナンスの失敗との合成物である。先進国と途上国の利害対立は解決困難な問題と化している。その結果、図2.16の二つの線分の差が広がっていくが、この差の拡大は、各国が共謀して未来の人々を犠牲にしているのと結果的には同じである。(第一回のコラム1.3でみた)サステナブルファイナンスを通じ化石燃料への資金提供を絞り、その開発を切り詰める方法も追求されてきた。ただ、フィージブルなエネルギー転換を伴わずに化石燃料の開発を絞ると、エネルギー危機を招きかねない*24。世界銀行などの国際開発銀行に期待する声もある。しかしながら、(第一回で格差問題で取り上げた)コーネル大学のカンバーのいう通り、融資機関に過ぎない開発銀行は気候変動への適応(防潮堤の建設など)には対処しえても、気候変動の緩和(炭酸ガス排出の削減)という純粋公共財の供給には困難を抱える(Kanbur, 2023)(脱炭素のうち、食の脱炭素については、コラム2.7を参照)。プラネタリーバウンダリーの他の領域についても、国際的枠組みのある領域(生物多様性、砂漠化等)もあるが、合意に手間取っているのは同様である。新技術の開発と利用について、AIを核兵器の使用に関与させないとの米中首脳間の合意があったこと(2024年11月)はよいとしても、あまりに多くのことが半無政府状態にある。軍事においては兵士が無事に帰還することにプライオリティが置かれる。民生と異なる価値観のもとで技術開発が進むことを、大戦中の核開発の経験は示唆する。AIの他にも、神経工学や意識を巡る研究にもリスクがあらわれている。サラ・ゲアリング(Sara Goering,、ワシントン大学)は、経験してもいないことを経験したかのように神経的に操作してみせる、動物実験の含意を考えている(Goering & Klein, 2020)。ニタ・ファラファニ(Nita Farahany、デューク大学)は、政治信条を把握するために脳に尋問することが可能となった時代の倫理を考察している(Farahany, 2023)。技術が人類の長期的な存続を脅かす時代に、ガバナンスが分断していくのは、実に厄介な問題である。

コラム2.7:食の脱炭素
 化石燃料使用の削減については、電化という大きな方向性が示されているが、まだ、充分に手のつかない問題もある。世界全体の温暖化ガスの排出量のうち、20~30%は食に関連する部門から排出されている。世界的な生活水準の向上に伴い、良質な動物性たんぱく質への需要は高まる一方であるが、畜産は温暖化ガスを大量に排出する。ガリーナ・ヘイル(Galina Hale、UCサンタクルーズ)らは、食料システムを変えることなくしてパリ協定の目標を達成することはできないとする(Hale et al., 2023)。ヘイルらの試算によると、食品廃棄の軽減、収量向上、健康な食生活の普及のみでは、食料部門に許容される枠内に排出量を抑えることができないという。2050年までに、植物由来・培養由来による代替食品によって動物性食品をほぼ100%置き換えるところまでやってようやく、気候目標に整合的な水準に近づくことができるとする。図2.17 カーボンバジェットと食料部門からの排出量によると、横線が1.5度目標と整合的なカーボンバジェットである。自然体(BAU)と比べても、食品廃棄の軽減(W)、収量向上(Y)、健康な食生活(HD)ではほとんど温暖化ガスの排出を減らすことができないことが読み取れる。
 ヘイルによると、畜産は一万年前の古い非効率的な技術であり、牛肉では25カロリー投下して、1カロリーしかリターンがない。技術革新の加速が必要であり、代替エネルギーに提供されたものと類似する政策介入が必要であるとする。ただ、畜産ロビーは強力で、イタリアで畜産業の反対で代替肉が使えなくなるなどの後退に見舞われているという。需要サイドにも問題があり、長年動物福祉団体が運動してきて、ようやくビーガン人口が2%、ベジタリアンが6%と需要サイドの変化は遅々としている。ただし、アメリカでは外食が多く、その食材をつくる外食産業は寡占状態にある。外食産業の使う食材を非動物由来のものに切り替えることができれば、代替を効率的に進めることもできるとも指摘する。

(2)新しい道徳的基礎
 未来のことを考える際、長らく哲学者たちは基礎的な問いと格闘してきた。その問いとは、デレク・パーフィット(Dereck Parfit)の提出した「非同一性問題」と呼ばれる問題である(Parfit, 1984)。パーフィットは、我々現在生きている者の行為は物事の進み方(歴史)を変え、未来に誰が生まれるのかまでも変えてしまう。たとえ、我々の行為が未来に悪をなしているようにみえても、その未来の人々当人は、その行為がなければ生まれてこなかったのだから、我々の行為を咎めることはできない。パーフィットはこう指摘し、なんとか自らこの問題を解こうとした。
 問いとの格闘は現在も続いている。ただ、有力な解決策が提案されるようになり、未来に関する哲学(世代間倫理)は次第により強固な基礎を持つようになってきた。ルーカス・マイヤー(Lukas Meyer、グラーツ大学)は、一定の敷居を基準とし、行為の結果として敷居値を下回る人物が存在するのであれば、その人物に危害が加えられたと認めればよいという提案をしている(Meyer, 2003)。
 サミュエル・シェフラー(Samuel Scheffler、ニューヨーク大学)は、人類の存続が我々ひとりひとりに持つ意味を考えることから、新しい世代間倫理を立ち上げている(Scheffler, 2013, 2018)。シェフラーは、自らの死後の人類の存続(afterlife, 死後の生)が個人の生の継続よりむしろ重要であるとする。なぜならば、人類の存続があってはじめて個人の生存中の活動が価値を持つからだという。シェフラーは、誰も早死にするわけではないが、今後地上に子どもがひとりも生まれなくなる不妊のシナリオなどに訴え、人類が個人的死のあとに続くことの意味を説明する。これらシナリオは賦課方式年金の機能不全などの問題を引き起こすが、シェフラーによれば、本当の問題は社会に蔓延する無気力だという。我々人間は生まれた時から人々に囲まれて多くのことを学ぶ。そして、亡くなる時に後から来た人々に物事を託す。このことは人間の自己理解の基本的な特徴であり、脚本(script)を世代間で書き継いでいくという人間の営みは普遍的なものだという。シェフラーは、人間が将来世代のことを気にかける理由として、利害、愛、価値、互恵性の四点を挙げている。我々の関わる事業は個人の寿命を超えた長期の目標を持ち、自分の死後の事業のなり行きに我々は関心を持つ(利害)。我々は自分の後継者への利他的動機を持つ(愛)。我々は芸術活動に個人的愉しみを見出すのみならず、その活動が死後に引き継がれることを望む(価値)。現世代から将来世代に対して、現世代の振る舞いが将来世代に影響するという因果的関係がある一方、将来世代から現世代に対しては、現世代の生きる価値が将来世代の存在そのものに依存するという関係があり、全体として互恵関係が成り立つ(互恵性)。我々は人類が存続することに関心を持っており、この動機を持っていることを人々に説得することで、必要な政策への支持を高めることができると、シェフラーは期待する。シェフラーの議論を通じ、我々は自身の関心を地理的、時間的に拡大することができる(コラム2.8では、マイヤーやシェフラーの議論を「実験」により検証する試みを紹介する)。

コラム2.8:実験による哲学的命題の検証
 経済学の命題を実験により検証することを「実験経済学」という。ジョシュア・ノーブ(Joshua Knobe、イエール大学)らは、哲学の命題を実験で検証することを「実験哲学」と呼んでいる(Knobe & Nichols,2008)。将来世代への危害や人類の存続が重大な関心事であることを、マイヤーやシェフラー個人の単なる哲学的直観であると言わせず、客観的な証拠で裏付けることができないものか。ノーブとの意見交換を経て、筆者は多数の人々に訊いてみることにしてはどうかと考えるようになった。
 筆者は、日本人の代表的サンプル(n=415)へのサーベイにより、将来世代に配慮する八つの道徳原理(moral principles)に関し、人々が適切とみなす程度、その原理に従って行動する意欲の程度を計測した(Hiromitsu, 2024)。検証対象とした道徳原理は、1)平等主義(各世代を平等に処遇すべきである)、2)功利主義(世代を通じた効用を最大化すべきである)、3)共同体主義(我々と将来世代は同じ共同体の一員である)、4)利他主義(将来世代を愛すべきである)、5)危害原則(将来世代を傷つけてはならない)、6)十分主義(将来世代が最低限満足できる程度の幸福は享受できるようにすべきである)、7)間接互恵性(先行世代から継承した活動を発展させ、将来世代に引き継ぐべきである)、8)世界の存続(自らが原因となって、人類や文明が途絶えることがあってはならない)の八つである。マイヤーによる、敷居値以下の状態にあることを危害を与えたとみなすとの議論は五番目の危害原則、シェフラーの注目した人類の存続は八つ目の世界の存続に相当する。
 図2.18 どの道徳原理を、誰が評価しているか(a)は、0(非常に不適切なものである/まったくそれに基づいて行動したいとは思わない)から6(非常に適切なものである/非常にそれに基づいて行動したいと思う)の7段階で回答者が評価した各原理のスコアの平均値である(中央値は3)。平等主義や功利主義という古典的道徳原理が低迷するなか、危害原則と世界の存続が高い評価を得ている。図2.18(b)は、世界の存続を適切と感ずるか、そのスコアリングを年齢別に整理したものである。年齢の高い者ほど、世界の存続を適切だと考える者が多いことがわかる。同様のサーベイは、日本以外でも実施することができるはずであり、現在、そのプロジェクトが進んでいる。

(3)新しいガバナンス
 哲学者たちの指摘する通り、我々人間が未来への関心を持っているとすると、次に問題になることは、その関心を社会の側でどう制度化するかということである。人類の存続の危機は半無政府状態からもたらされており、その解決にはガバナンスを確立する必要がある。ステファン・ガーディナー(Stephen Gardiner、ワシントン大学)、様々なリスクから後続世代を保護するためのグローバルな制憲会議を開催することを提案する(Gardiner, 2014)。ガーディナーは、現状を現在が将来に対して暴君のように振る舞っている状況とみて、制憲会議を開き、現在の行いを抑制する必要があるとする。いわば合衆国憲法の制定に至るフィラデルフィアの制憲会議に相当する会議を招集するのである。制憲会議の主なスペックとして、ガーディナーが第一に挙げるのは包括性である。すなわち、会議は地球規模の長期的含意のある広範な問題を検討する。問題に基礎的なレベルで焦点を当て、制度改革を勧告する。第二は常設機関とすることである。第三は、異なる時代に生き、異なる出生コホートのメンバーであることが予想される人々が自身の代表を持つことである。第四は、少なくとも数百年、おそらくは数千年という長い時間軸の中で、代表者を定めることである。第三と第四が示唆する通り、ガーディナーは想像上の将来世代の利害を制憲会議に取り入れようとしている。
 他方、ガーディナーは制憲会議という箱を作るところで提案を止めている。ガバナンスの下部構造を具体的には語らず、ましてや気候変動などの個別のリスクへの対処には触れていない。マイケル・マッケンジー(Michael Mackenzie、ピッツバーグ大学)は、ガバナンスの下部構造を考えている論者のひとりである(Mackenzie, 2017, 2021)。民主主義は近視眼的であり、権威主義的体制の方が優れているのとのナラティブに対し、彼は民主主義の枠内で複数の制度的手当を講ずることで、民主主義に長期的視野を与えようとする。彼は市民間や議会内でおこなわれる熟議に信頼を置きつつも、熟議を取りまく制度的手当(議員任期の長期化、専門家のサポートなど)を見直すことを提案する。イニゴ・ゴンザレス‐リコイ(Iñigo González-Ricoy、バルセロナ大学)とアクセル・ゴセリ(Axel Gosseries、ルーヴァン・カトリック大学)の編集した、Institutions For Future Generations(2017)には、欧米の論者から具体的な制度改革の提案が寄せられている。その提案には、将来世代の利害に基づくオンブズマンの設置、憲法への将来世代の権利擁護規定の加筆、選挙制度改革などが含まれている。
 もっとも、人類は無からガバナンスを作り出す必要はない。既存のものには使えるものもある。デイヴィッド・ヴィクター(David Victor、UCサンディエゴ)は、アメリカの相対的力の衰えた現在、大きなガバナンスを作るのは困難であるとしつつ、(京都議定書とは対照的に)ローカルな実践を積み上げるパリ協定のスタイルに可能性を見出す(Sabel & Victor, 2022)。ロバート・スターヴィンス(Robert Stavins、ハーバード大学)は、今後の気候変動対策でカギを握るのは、パリ協定の6.2条すなわち炭素市場ルールを活用することであるとする(Ranson & Stavins, 2015)。この規定は途上国にとっては必要な資金を得る機会になり、先進国の民間企業にとっても目標を達成する手段になる。アゼルバイジャンで2025年11月に開かれた、国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)は、炭素市場ルールの最終合意に達している。AIについても、2023年、日本がG7の議長国としてまとめた「広島AIプロセス」(G7 Summit, 2023a)に基づき、2024年12月、G7やOECD加盟国などがAI開発事業者にリスク報告を求める枠組みに合意している。現在あるガバナンスの資産を活かしつつ、そのなかからガーディナーらの提案するような時間的視野の拡大を伴う、より包括的なガバナンスへの進化を進める必要がある。
 楽観は許されない。アメリカに視野を限っても、トランプの反科学のエートスがどのような形を取るのか注意を払う必要がある。トランプはパリ協定や国連気候変動枠組み条約からの離脱を示唆している。反ワクチン派などの幹部への起用は、オペレーション・ワープ・スピードでコロナ・ワクチンの早期開発を成し遂げた、第一次政権での自らの業績を傷つける。ウィリアム・マカスキル(William MacAskill、オックスフォード大学)は、技術革新を止めることはできず、技術によってリスクを軽減することを重ねる綱渡りをつづけるほかないとする(MacAskill. 2022)。たしかにその通りだが、その場合、人類はますます多くのことを専門家に委ねることになる。専門家によるガバナンスと民主的ガバナンスの折り合いを付ける必要性は、いつになく高まっている。

7.地経学、経済安全保障についての総括
 第三回と第四回では、アメリカとの世界との関わりにおいて、(法律家や哲学者を含む)社会科学者らが、なにを議論してきたかを検証してきた。以下では総括として三点述べたい。
 ひとつは、J.S.ミルが『自由論』(1859)で述べた、言論の自由市場(marketplace of ideas)が、社会科学者の間ではまだ生きていることである。社会科学者たちは全体として時流に流されることなく、多様な見地から時の課題を検証する言論空間を保ち続けている。第一次トランプ政権、バイデン政権を経て、大国間競争がアメリカ外交における支配的な課題となった。分断の著しい政治において、超党派で一致できる唯一の課題は対中政策であるともいわれる。それでも、三つ巴と表現したアプローチ間の相違とその間の応酬は持続している。民主党系と共和党系の論者の間には共通点が大きいものの、それでも、デリスキング/デカップリング、管理/勝利などの重要な争点がある。そして、経済学者と一部の国際政治学者の間から、対中政策の慎重な吟味を求める声が上がっている。アメリカの社会科学者の中国観もひとつに収斂していない。そして、アメリカが世界への関与に躊躇をみせるなかでも、人類の存続に関わるグローバルな課題への危機感が表明され、欧州の専門家とも協力しつつ、グローバル・ガバナンスの模索を続けている。
 第二に注意を寄せたいのは、この言論の自由市場の公開性の高さである。ロシア、中国への制裁への考え方、(コラム2.6で検討した)war gameは広く公開され、その含意はだれもが参加可能なカンファレンスで討議されている。対外投資規制などの新しい規制の導入に際しては、民間企業などは様々な説明を受け、意見を申し述べ、連邦議会では政府案への批判や代案が取り上げられる。友好的ではない外国を対象とする施策について、あけっぴろげな議論が行われていることは実に印象的である。個々の専門家にとって成果を世に出すことは、業界でのポジショニングを高めるのに必要なステップである。個人的動機にも基づく活動は、相手国に手の打ちをみせることになり、ミクロでの弊害がないとも言い切れない。しかしながら、縦横斜めから施策を叩き、政府内外の社会科学者や議会関係者の知見を組み合わせることで、より良い施策に近付くことができる。また、安全保障は重大事であるから、広く国民一般の理解は欠かせない。とりわけ、経済安全保障のような民間の経済活動に関わることには、民間も多大な関心を寄せている。
 この第二の点は、第三の点、言論の自由市場のより広い外部との関わりへと我々を導く。政権内外の社会科学者、議会の関係者に開かれているとは言っても、一定の方法論を共有する専門家の間のことに過ぎない。現在ますます問題になっているのは非専門家との関係である。貿易を巡る議論が経済学者にとって不満足なものとなって久しい。チャイナ・シンドロームに捉われている人々に、どうすれば経済学者の言葉を届けることができるのか。人類の存続を図るために、我々はますます専門家の力を借りるほかない。気候変動問題でも、保健の問題でも、専門家がなにかずるいことをしているわけではないことを人々が理解するにはなにが必要なのか。
 いまや政治を取り上げるのに良いところまで議論が進んだようである。次回以降、二回にわたり、アメリカの政治と民主主義についての議論へと進む。
(次号につづく)

(謝辞)
本稿の第三回、第四回の執筆に際し、以下の方々と個人的に意見交換させていただき、実に実り豊かな時間を頂戴した。記して感謝する。秋元諭宏(Sasakawa USA)、ダロン・アセモグル(MIT)、ティム・アダムス(IIF)、マスード・アハメド(CGD)、グリゴーレ・アレクサンドル(SIDLEY)、グレゴリー・アレン(CSIS)、伊藤嘉秀(Mayer Brown)、デイヴィッド・ヴィクター(UCサンディエゴ)、スティーブン・ヴォーゲル(UCバークレイ)、アンドリュー・ウォルダー(スタンフォード大学)、アナ・ウォン(ブルームバーグ)、ジョナサン・ウエイクリー(COVINGTON)、チャーリー・ヴェスト(ロジウムグループ)、ジョン・オーウェン(ヴァージニア大学)、大越匡洋(日本経済新聞)、デイヴィッド・オーター(MIT)、ステファン・ガーディナー(ワシントン大学)、チャールズ・カプチャン(ジョージタウン大学)、ロバート・カプロス(財務省)、ケント・カルダー(ジョンズ・ホプキンス大学)、ラビ・カンバー(コーネル大学)、スコット・キーフ(ジョージワシントン大学)、ティモシー・キーラー(Mayer Brown)、メアリー・ギャラガー(ミシガン大学)、エミリー・キルクリーズ(CNAS)、マシュー・グッドマン(CFR)、ジェイミーソン・グリア(King & Spalding、通商代表(予))、サラ・ゲアリング(ワシントン大学)、アナ・ゲルペン(ジョージタウン大学)、スコット・ケネディ(CSIS)、小西秀男(ボストンカレッジ)、斎藤ジン(Observatory)、デイビッド・サックス(CFR)、ローレンス・サマーズ(ハーバード大学)、サミュエル・シェフラー(ニューヨーク大学)、デレク・シザーズ(AEI)、アイヴァン・シュレーガー(Kirkland & Ellis)、ロバート・スターヴィンス(ハーバード大学)、ミレア・ソリス(ブルッキングス)、ラリー・ダイアモンド(スタンフォード大学)、高木優(NHK)、デイヴィット・ダンクス(UCサンディエゴ)、ビクター・チャ(ジョージタウン大学)、ジョー・ディクソン(財務省)、クリスティーナ・デイビス(ハーバード大学)、ジェラルド・ディピッポ(ブルームバーグ)、デイビッド・ドラー(ブルッキングス)、フランチェスコ・トレビ(UCバークレイ)、ダニエル・ドレズナー(タフツ大学)、ジョシュア・ノーブ(イエール大学)、ライアン・ハス(ブルッキングス)、マイケル・ハーソン(22V Research)、マーガレット・ピアソン(メリーランド大学)、マルチン・ピョンツコフスキ(世界銀行)、テイラー・ファーベル(MIT)、ニタ・ファラファニ(デューク大学)、エドワード・フィッシュマン(アトランティック・カウンシル)、トーマス・フェド(ジョージメイソン大学)、ダニエル・プライス(ロック・クリーク)、ジュード・ブランシェット(CSIS)、マーク・プロトキン(COVINGTON)、ガリーナ・ヘイル(UCサンタクルーズ)、マイケル・ベックリー(タフツ大学)、アンディ・ボーコル(財務省)、アダム・ポーゼン(PIIE)、アンドリュー・ホフマン(ミシガン大学)、ネイト・ボリン(DLA PIPER)、マーティン・ホワイト(ハーバード大学)、オリアナ・マストロ(スタンフォード大学)、デイビッド・マルパス(前世界銀行総裁)、エイメン・ミール(Freshfields)、ジェームズ・メイデルホール(SIDLEY)、望月洋嗣(朝日新聞)、スコット・モリス(CGD)、ラグラム・ラジャン(シカゴ大学)、ニコラス・ラーディー(PIIE)、メグ・リスマイヤー(ハーバード大学)、ダニエル・ルンデ(CSIS)、レベッカ・レイ(ボストン大学)、ブライアン・レイサウス(Freshfields)、スコット・ロジール(スタンフォード大学)、松山公紀(ノースウエスタン大学)、ロバート・ロス(ボストンカレッジ)、ポール・ローゼン(財務省)、ジェシカ・ワイス(コーネル大学)、ケン・ワインスタイン(ハドソン研究所)。在米機関の中国の方々とは率直な意見交換をさせて頂くことができた。在米日本国大使館の服部孝徳氏には原稿を確認して頂いた。

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*15) 対内投資審査を導入する契機になったのは、当時の日本からの対米投資攻勢であった。
*16) 承認に至った措置は会計事務所がモニタリングし、その執行状況をCFIUSに報告、確認を受けるのが通例である。
*17) バイデンは、2025年1月3日、日本製鉄によるUSスチールの買収をブロックした。本稿では、足許で動いている本件について論評する用意はない。
*18) ただし、デュープロセスについて争うことは可能である。実際、2012年にブロックされた、中国系のRalls Corporationによるワシントン州の風車の買収(買収後、米軍から訓練を妨げるとの苦情の申し立てがあった)について,Ralls社はなぜブロックされたのか理由の説明がないとして争い,Ralls社が勝訴した(2014年7月15日、コロンビア特区連邦上訴合議法廷)。この件以来,CIFUSは決定の理由を説明するようになった。
*19) アメリカ政府勤務経験者で、この分野で一定の声望のある有識者のひとりが、私的な懇談の場で筆者に対し、アメリカのインテリジェンスコミュニティの情報力をもってすれば、懸念すべき中国企業の特定は可能であると主張していた。他方、別の政府勤勤務経験者は、中国企業の特定は可能としつつ、コミュニティはアメリカ人の行動について情報収集することを禁じられており、この点にデータのギャップがあると主張していた。外国人である筆者には、これらの主張の妥当性は評価しにくい。
*20) 2023年7月のNBCの報道では、ハースとカプチャンらが、同年4月にロシアのラブロフ外相と面会して、「戦争を終わらせるための潜在的な交渉の基礎を築く」ために話し合ったとの報道が出ている(NBC, 2023)。
*21) 「我々の経済制裁と輸出管理の全てがロシア経済を押しつぶしています。ルーブルはその価値の半分以上を失っています。最近は1ドルになるのに約200ルーブルかかるそうです。モスクワ証券取引所は、2週間も完全に閉鎖されていますが、それは彼らが開いた瞬間におそらく崩壊することを知っているからです。信用格付け機関は、ロシア政府をジャンクに格下げし、経済をジャンクに格下げした。ロシアから撤退する企業や国際企業のリストは、日ごとに増えています」(Biden、2022年3月11日)。
*22) 人民元の国際化の障害は、国際収支の資本勘定の管理にある。中国は2014-15年にも資本勘定の改革に失敗している。財産権の保障のない中国では、資本勘定の管理がないと、海外への資金逃避が起こる恐れがある。
*23) この節においては、アメリカだけではなく、欧州の社会科学者等の貢献も大きい。
*24) 気候変動問題を一番に考える論者のなかには、エネルギー危機が起こってもよいと考えている者もいると思われるが、エネルギー危機を招けば、却って気候変動対策への市民の支持に打撃を与えるのではなかろうか。