スポットワーク市場の動向と展望について
大臣官房総合政策課 調査員 酒井 亮/横山 修平
本稿では、スポットワーク市場の動向と展望について考察する。
労働市場の動向とスポットワークの登場
人手不足感が強まる状況が続いている中(図表1 雇用人員判断DI(全産業)推移)、「スポットワーク」と呼ばれる働き方が注目を集めている。スポットワークとは「単発・短期」で働くことを指し、継続した雇用関係を持たず、数時間~数日間の期日で働くことを意味する。
スポットワークの形態として、広義には雇用契約を結ばない“ギグワーク”を含めるとの考え方もあるが、本稿では従業員と雇用主が短期の雇用契約を結んで働く“単発バイト”をスポットワークとして扱う(図表2 スポットワークの形態)。
総務省の就業構造基本調査によると、「普段仕事をしている人」のうち、「主な仕事以外の仕事(副業)」にも就いている人について、割合・人数ともに増加傾向にある(図表3 副業者数と副業者比率の推移)。企業側の人手不足が深刻であることや、労働者側の働き方が多様化していることを背景として、スポットワークの活用が広まっている(図表4 スポットワーク登録者数推移)。
(出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査(2024年9月)」、総務省「就業構造基本調査(2022)」、日経MJ(2024年8月3日)、一般社団法人スポットワーク協会HP
スポットワークの概要と動向
一般的に企業がスポットワーカーを募集する際、スマートフォンのアプリやウェブサービス上で企業と求職者とのマッチングを成立させる。そのマッチングサービスを提供する“スポットワーク仲介事業”に参入する企業が増えてきている(図表5 代表的なスポットワーク仲介事業者)。仲介事業者はテクノロジーの進化を経て、マッチングサービスだけでなく、雇用契約や給与支払いに関する事務手続きまで一気通貫した支援が出来るようになってきている。各仲介事業者は利便性の向上等を競いながら登録ユーザー数や登録社数を伸ばしている。
ツナグ働き方研究所が公表しているスポットワークの有効求人倍率とハローワークの有効求人倍率を比較してみると、スポットワークの方が高い傾向にある。ただし、スポットワークの有効求人倍率は変動が大きい点には留意が必要である(図表6 有効求人倍率に関する比較)。
同研究所が公表しているスポットワークの平均時給額を見てみると、毎月勤労統計におけるパートタイム労働者の時間当たり給与と比較すると低水準であるものの、上昇基調であることが確認出来る(図表7 賃金に関する比較)。
(出所)厚生労働省「有効求人倍率」「毎月勤労統計調査(本系列)」、ツナグ働き方研究所HP、一般社団法人スポットワーク協会HP、HRog「いまさら聞けない“スポットワーク”をまるごと解説!特徴や課題、大手5サービスを知ろう」
スポットワーク市場拡大の背景
本頁ではスポットワーク市場拡大の背景にあるユーザーの声に注目し、就業者・雇用者のニーズ、通常のアルバイトと比較したスポットワークのメリットについて考察していく。
スポットワークを活用している就業者の声を見ると、スポットワークの特徴でもある「仕事決定までのハードルが低い点」や「隙間時間に働くことができる点」において、通常のアルバイトと比較して魅力を感じる者が多い(図表8 スポットワークとスポットワーク以外のアルバイトの利便性比較)。また、アルバイト探しの必須条件に関する調査では、「シフトの融通がきく」がトップにあげられており、スポットワークがこうしたニーズを満たした形態であることが登録者数増加の背景にあると推測される(図表9 アルバイトの必須条件(上位))。
また、スポットワーク人材の活用を進める企業も「融通性」や「単発性」にメリットを感じており、人手不足が深刻化する中での一時的な欠員補充など、スポットワークならではの特徴が企業のニーズにマッチしている(図表10 スポットワーク人材を採用する際のメリット・デメリット)。副業を認める企業の増加といった働き方改革の進展もあり、スポットワーク登録者の属性をみても「正社員」の割合が過半を占めている(図表11 スポットワーク登録者の属性)。
(出所)(株)タイミー「“スキマバイト”と“スキマバイト以外のアルバイト”による利便性比較アンケート調査」「スポットワーカーに関するアンケート」、マイナビキャリアリサーチLab「アルバイト就業者調査(2024)」、「非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2024年5-6月)」
スポットワーク市場の課題と展望
一方で、課題も表面化してきた。スポットワーカーの活用にあたっては、企業が労務管理の煩雑さや人材のスキル等に対する不安を抱えており(図表12 スポットワーカー採用に対する懸念)、政府による労働分野のルール見直しのほか、企業による業務の分割化や就業規則の変更など新たな働き方に対する受入体制整備が求められる(図表13 スポットワークが加わった働き方に対して企業が求められる対応)。
また、労働条件の相違などトラブルに対する労働者保護の強化や、犯罪実行者を募る“闇バイト”への悪用防止といった労働市場の質を確保することも課題であり、スポットワークのプラットフォーマー(仲介業者)の在り方が重要である。「スポットワークの健全な発展」を掲げる一般社団法人「スポットワーク協会」により(図表14 スポットワーク協会会員)、資格認定・教育等による品質向上・担保が進められているが、健全な発展のためには、政府による認証制度の導入や規制強化などが必要となる可能性も考えられる。
今後の展望としては、社会環境の変化を背景にさらなる利用者の拡大や活用例の多様化が進むだろう(図表15 個人の働き方・仕事の選択におけるニーズの多様化)。活用の幅が広がっていくことで、就業者・雇用者のミスマッチが減少することや労働市場の流動化が期待される。様々な期待と課題を抱える市場であるが、スキマ時間を活用した新たな働き方の動向に今後も注目していきたい。
(出所)マイナビキャリアリサーチLab「非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2022年9-10月)」、一般社団法人スポットワーク協会HP、KPMGコンサルティング(株)「スポットワークが促す将来の働き方変化と企業の人材獲得におけるポイント」
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。