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ファイナンスライブラリー

評者:渡部 晶

久保田 勇夫 著/文
令和への提言Ⅱ戦後レジームからの脱却を
産経新聞出版 2024年10月 定価 本体1,700円+税

 1966年大蔵省に入省し、副財務官、国際金融局次長、関税局長、国土事務次官などを歴任した後、郷里の福岡に戻り西日本シティ銀行頭取等を務めた著者(現在は同行特別顧問)による12冊目の本である。
 構成は、戦後レジームからの脱却、「アベノミクス」を超えて、「バブル」崩壊から30年、アメリカとは何か、競争社会としてのアメリカ、日米交渉とポール・ボルカー、変動する世界秩序の7つの章と「転機の世界・転機の日本」(「あとがき」に代えて)からなっている。いずれも著者が、産業経済新聞九州・山口特別版の「一筆両断」に寄稿したエッセイの一部をとりまとめたものである。
 加えて本書には、これまで著者が別途行った4人の、いずれも大蔵省時代の同僚との対談が収録されている。4名は大蔵省の中でもそれぞれドイツ派、イギリス派、アメリカ派、フランス派を代表する国際派だという。
 ○「変動する世界 『しぶとい日本人』を取り戻せ」(勝栄次郎氏、元財務次官)
 ○「プラザ合意、バブル経済の教訓 Too much,Too late」(荒巻健二氏、東京大学名誉教授)
 ○「アメリカを知ることの大切さ ウクライナ危機を踏まえて」(中尾武彦氏、元財務官・ADB総裁)
 ○「緊迫する世界情勢 欧州と日本 新しい秩序を構築するために」(古澤満宏氏、元財務官・IMF副専務理事)
 これらの対談は、本書で取り扱われている事項について、ユニークな視点を提供している。
 読者は、この本の「戦後レジームからの脱却を」というタイトルから、憲政史上最長を記録した安倍晋三内閣の諸政策、特にその「国家主義的」とも言われる政策の推奨をするものと思うかもしれないが、そうではない。
 むしろ、公務員時代欧米諸国を相手に多くの国際金融交渉を手がけた著者が、わが国の今後の諸政策について各種の問題提起をしようとする書である。その底流にある考えは、わが国のアイデンティティを問い直せという観点からの「いわゆる戦後レジームを再検討せよ」ということと「アメリカとは何かをもっと知るべきだ」の二つである。
 前者については、今日のわが国の制度の骨格は、その憲法に象徴されるように、第二次大戦後わが国が独立を否定されていた時代に、連合国最高総司令部の強い指導の下に出来あがったものであり、そもそもわが国にそぐわなかったものや、今や時代に適合しなくなった制度や仕組みがある。これらを見直すべきではないか、ということである。その観点から、わが国のアイデンティティを国民に問うた安倍内閣を高く評価している。
 「アメリカとは何か」というテーマは、既に経済的な格別深い関係にあるアメリカとは、近年政治的にも「同盟国」と表現される程密接になっているが、そのアメリカという特異な国についてもっと知るべきではないか、という問題提起である。
勿論この二つのテーマは裏腹の関係にある。
 近時、安倍内閣の事績やその考え方が、その政策に直接参加した人達も含めて、公に示され、その評価の議論が活発である。また、今回のトランプ大統領の再選によって、アメリカを知ることが更に重要となってきた。著者としても図らずもタイムリーな書となったのではないかと推察する。広く一読を勧めるものである。