少子高齢化や人口減少等により日本産酒類の国内市場が縮小傾向にある中、酒類業の所管官庁である国税庁は海外需要を開拓するため様々な取組を行っている。その結果、令和4年の日本産酒類の輸出金額は過去最高を記録し、令和5年もそれに次ぐ水準を維持している。本特集では日本産酒類の海外需要を開拓する国税庁の取組を紹介する。
取材・文向山勇
日本産酒類の輸出動向
日本産酒類の国際的な評価の高まり等を背景に年々増加傾向に
令和5年の輸出金額は令和4年に次ぐ水準に
国税庁は、酒類業の所管官庁として様々な取組を行っている。酒類業の活性化に関する取組もその一つだ。
日本産酒類の国内市場は少子高齢化や人口減少、消費者の低価格志向、ライフスタイルの変化、嗜好の多様化等により、全体として縮小傾向にある。一方で日本産酒類の輸出は、清酒(日本酒)やウイスキー等の日本産酒類の国際的な評価の高まり等を背景に、年々増加傾向にある。
令和5年の日本産酒類の輸出金額を見ると、1,344億円(対前年比3.5%減)で、過去最高となった令和4年に次ぐ水準となった。輸出金額を品目別に見ると、ウイスキーが最も多く501億円(対前年比10.7%減)、次いで清酒が411億円(対前年比13.5%減)となった。
輸出金額が上位の国・地域を見ると、中華人民共和国が322億円(対前年比18.5%減)、次いでアメリカ合衆国が237億円(対前年比11.4%減)、大韓民国が143億円(対前年比156.0%増)となった。世界的な物価高や一部の国・地域における消費減退、米国における長引く在庫調整等の影響により、多くの品目で輸出金額が減少した。
こうした中で国税庁は、酒類事業者の支援や酒類業の振興を行っている。令和6年度予算では、酒類事業者向けの補助金として6.0億円を活用し、インバウンドによる海外需要の開拓等を支援した。また、輸出促進等による酒類振興予算として8.6億円を活用し、海外への販路拡大支援やユネスコ無形文化遺産登録に向けた機運醸成等のための各種PRなどを行った。次ページ以降では、令和5年度から6年度の主な取組内容を紹介する。
販路開拓支援事業
海外の展示会への出展支援や商談会を実施
日本産酒類の更なる輸出促進を図るために、海外で開催される大規模展示会に出展し、国内酒類事業者に商品プロモーションや商談の場を提供しているほか、日本産酒類の更なる流通が期待できる都市に「酒類輸出コーディネーター」を配置し、商談会の企画・実施、日本産酒類プロモーションセミナーなどを実施している。
海外大規模展示会での日本産酒類ジャパンパビリオンの設置
令和5年度においては、英国・ロンドンで開催されたImbibe Live2023をはじめとする大規模展示会に日本産酒類プロモーションブース(ジャパンパビリオン)を設置し、公募により参加した国内酒類事業者等が同ブースに出展し、来場した海外現地酒類事業者やレストラン関係者等へ商品の訴求や商談を実施した。
また、ジャパンパビリオンでは、バーコーナーを設置し、バーテンダーによる日本産酒類を使ったカクテル訴求を行った。
写真 ジャパンパビリオンの様子
酒類輸出コーディネーターが企画・実施する商談会
酒類輸出コーディネーターは、マッチング施策として日本の酒類事業者と、海外バイヤー(現地の酒類インポーターやディストリビューター、レストラン・バー関係者や小売関係者等)とのマッチングを対面又はオンライン型の商談形式で実施している。また、レストラン向け施策として、レストラン等関係者と現地の酒類ディストリビューターとの商談会やセミナーを実施している。
令和5年度には52件の商談会を実施し、329事業者が参加した。商談件数は4,942件に上り、そのうち1,403件が成約見込みとなった。
写真 レストラン等関係者向け商談会の模様
国際的プロモーション事業
日本酒プロモーションやシンポジウムを実施
国際的プロモーション事業として、米国テキサス州で日本酒やペアリングに関するセミナーの開催や、レストランウィークへの参画を通じた日本酒普及を推進したほか、ジャパンハウス・ロンドンでシンポジウムを実施し、ユネスコ登録に向けた機運醸成を図った。
米国・テキサス州における日本酒プロモーション
テキサス州・オースティンでは、レストラン業界関係者に対し、日本酒の基礎知識(製造方法など)に加え、飲食店における消費者への日本酒の効果的な勧め方や、選びやすいメニュー作り、日本酒とのペアリングの楽しみ方などをテーマにセミナーを開催し、50名が参加した。
また、同時期に開催されたテキサス州・ダラスの一般消費者向けレストランウィーク(令和6年3月20日~24日)に参画し、非日本食を中心としたレストラン7店舗にて、来店者に日本酒の飲み比べセットを提供した。19名の現地インフルエンサーも来店し、各自のプラットフォームにてレストランウィークや日本酒に関する投稿と拡散が行われた。
写真 セミナーの様子
写真 レストランウィークの様子
ジャパンハウス・ロンドンでのシンポジウム
ユネスコ登録に向けた機運醸成事業の一環として、ロンドンにおいて、女性が酒造りに関わることをテーマに、日本の女性杜氏と英国の女性ワイン醸造家の対談を中心に据えたシンポジウムを開催した。メディアやインフルエンサー等を招待した結果、現地の酒類専門誌等から取材を受け、日本酒の将来性等に関する特集記事が掲載されるなど、参加者を超えた波及効果が期待できるものとなった。
写真 シンポジウムの様子
国際的プロモーション事業
海外の酒類専門家を招聘
国際的プロモーション事業では、海外の酒類専門家を招聘し、日本産酒類の強みや弱み、評価軸など、外国人が価値を見出すポイントを地域内の酒類製造者へ指導してもらった。加えて指導内容を広く日本産酒類の製造者へ提供することにより、日本産酒類の更なる輸出拡大を図っている。
日本酒 兵庫県、福岡県の製造場等を訪問
WSET*日本酒コース講師資格者等を招聘。英国、米国、中国から3名の酒類専門家が参加した。令和6年1月22日~1月26日に兵庫県、福岡県の日本酒製造場等を訪問し、もろみ造り等の製造工程の特徴やその酒蔵が立地する気候風土を調査した他、酒造りに必要な水や原料に関わる当該地域の有識者から、ヒアリングを実施した。例えば香り成分等に関するヒアリングを実施し、その内容を基に、日本酒を海外(特に英国・米国・中国)に展開するための知見を共有するセミナーを実施した。
写真 日本酒製造場視察の様子
写真 セミナーの様子
焼酎・泡盛 沖縄県、鹿児島県の製造場等を訪問
WSET*スピリッツ講師資格者等を招聘。英国、米国、フランスから3名の酒類専門家が参加した。令和6年2月5日~2月9日に沖縄県の泡盛製造場や鹿児島県の焼酎製造場等を訪問し、蒸留施設や貯蔵施設、製造工程等を調査した。また、当該地域の有識者から、焼酎・泡盛の原料、香り成分等に関するヒアリングを実施。ヒアリング内容を基に、焼酎・泡盛を海外(特に英国・米国・フランス)に展開するための知見を共有するセミナーを実施した。
*WSET(Wine&Spirit Education Trust):英国・ロンドンに本部を置く世界最大のワイン・スピリッツ等に関する教育機関。
写真 焼酎製造場視察の様子
写真 セミナーの様子
輸出促進に向けた環境整備
輸出促進コンソーシアムを推進
輸出促進に向けた環境整備の観点から、国内の「酒類製造者」と「輸出卸・商社」等が参加する「日本産酒類輸出促進コンソーシアム」を立ち上げ、専門家セミナーの開催、事業者間マッチング、海外商談会・展示会の参加募集等の支援を行っている。コンソーシアム登録事業者数は、令和6年3月末時点で酒類製造者・酒造組合が1,239者、卸売事業者が458者、その他(自治体等)が246者の計1,943者となっている。
専用ウェブサイト上でコンソーシアム登録事業者に向けて(1)輸出関連セミナー等の開催情報、(2)商品の情報発信・検素機能、(3)専門家の支援、(4)マッチング支援などのサービスを提供している。令和5年度には、全13回のセミナー参加者数がのべ872者、マッチング件数はのべ154件、輸出に向けた商談成立件数108件、輸出に至った件数が66件となった。
コラム
能登半島地震の被災事業者を支援
令和6年能登半島地震を受けて政府は「被災者の生活と生業支援のためのパッケージ」を1月25日に取りまとめた。このパッケージでは、「被災した酒類業者に対する支援のため、被災状況や酒類業者のニーズを踏まえつつ、被災酒類に係る酒税相当額の還付手続の特例措置等を実施するほか、酒蔵が数多く存在する能登地域を始めとする、被災酒蔵等への技術支援を行う」とされた。
また、「被災地の復旧・復興状況を踏まえつつ、特に被害を受けた能登地域については、ウェブの特設サイトや販促イベント等を通じ、能登半島ならではの物産品の販路拡充支援等を行い、地場産品の消費拡大を図る」ことも明示された。このうち、免許、酒税に関して下記の2つの措置が講じられている。
免許等の手続に関する弾力的な措置
被害を受けた酒類製造者及び酒類販売業者の方々の免許等に係る手続について、被災状況等を踏まえ、弾力的な措置を講じることとした。
被災酒類に係る酒税相当額の救済措置
販売のために所持していた酒類が地震により被災(容器の破損による酒類の流出等)した場合には、酒税相当額の救済措置を講じることとした。
国税庁による技術支援の例
製造技術基盤の強化
臨場による相談
製造者のところに臨場し、現場における技術的課題を把握し、解決策を提案。
面談等による相談
製造者が有する技術的課題について、来局等による相談に応じ、解決策を提案。
成分分析
成分分析により、酒類の特徴や問題点を把握し、結果を製造者に提供。
品質評価(きき酒)
品質評価により、製造及び品質管理上の技術的課題を把握し、結果を製造者に提供。
「伝統的酒造り」のユネスコ無形文化遺産登録に向けた取組
シンポジウムの開催やALT(小中学校等の外国語指導助手)等を通じた広報を実施
「伝統的酒造り」のユネスコ無形文化遺産登録について
令和6年12月5日(日本時間)、パラグアイで開催されたユネスコ政府間委員会において、日本から提案していた「伝統的酒造り」について、ユネスコ無形文化遺産への登録が決定された。
「伝統的酒造り」とは、伝統的なこうじ菌を用いて、近代科学が成立・普及する以前の時代から、杜氏・蔵人等が経験に基づき築き上げてきた酒造り技術のことで、日本各地の自然の特徴や気候風土を反映する形で発展を遂げ、日本酒、焼酎・泡盛、みりんなど様々な種類の酒が生み出されている。
これまで、国税庁では、ユネスコ無形文化遺産への登録に向けた取組として、文化庁や「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」等と連携し、「伝統的酒造り」シンポジウムを国内外で開催したほか、ALT(小中学校等の外国語指導助手)等を通じた広報を行ってきた。
ユネスコ無形文化遺産への登録をきっかけに、国内外の文化との交流・対話の促進や、「伝統的酒造り」を含む日本の魅力の世界発信につながることが期待される。
登録無形文化財登録
1登録要件
米などの原料を蒸すこと
手作業で伝統的なこうじ菌を用いてバラこうじを製造すること
並行複発酵を行っており、水以外の物品を添加しないこと等
2保持団体
日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会
(令和3年4月16日 設立)
会長:小西(こにし)新右衛門(しんうえもん)氏
写真 蒸きょう
写真 こうじ造り
写真 もろみ管理
写真 こうじ菌(国菌)
図表 「伝統的酒造り」シンポジウム(国内)
写真 パネルディスカッションの模様
写真 酒造り唄の披露
「伝統的酒造り」シンポジウム(海外)
令和5年2月2日パリ日本文化会館
ユネスコ各国大使や仏の酒類関係者等を招待し開催。現地の清酒製造者や仏人講師等を交え、ワインと比較しながら、日本の酒造りを訴求
令和5年5月23日在フランクフルト日本国総領事公邸
行政、メディア関係者等を対象としたセミナー及びレセプションを開催。日本料理や西欧フュージョン料理とのペアリング体験を実施
令和5年9月25日ジャパンハウス・ロンドン
伝統産業(日本酒・ワイン)に携わる日英の女性醸造家による対談(トークセッション)を実施
令和5年11月15日~20日在スペイン日本国大使公邸等
行政やメディア関係者を対象とし、日本食普及親善大使や利き酒師によるセミナー等を実施
令和6年3月7日~11日ローマ文化会館等
メディアや料飲業者等を対象とし、伊人酒サムライや日本の酒蔵によるセミナー及びパネルディスカッション等を実施
令和6年9月10日在デンマーク日本国大使公邸
料飲業者等を対象としたセミナー及びパネルディスカッションを開催。終了後のレセプションでは、デンマーク料理とのペアリングを実施。
ALT(小中学校等の外国語指導助手)等を通じた広報
・日本に滞在中のALT等の在留外国人向け酒蔵見学ツアーを開催
・令和5年11月~令和6年3月に、北海道から沖縄までの36道府県で、520名が参加
・体験談は本人SNSを通じ母国へ情報発信のほか、自治体国際化協会の機関誌に体験記を掲載
図表 日本産酒類の輸出額の推移
図表 令和6年度酒類業関係予算
図表 令和5年度の海外大規模展示会での日本産酒類ジャパンパビリオンの設置状況
図表 ユネスコ無形文化遺産登録までの経緯
図表 日本の「伝統的酒造り」の紹介動画
図表 「伝統的酒造り」のリーフレット
取材・文向山勇
日本産酒類の輸出動向
日本産酒類の国際的な評価の高まり等を背景に年々増加傾向に
令和5年の輸出金額は令和4年に次ぐ水準に
国税庁は、酒類業の所管官庁として様々な取組を行っている。酒類業の活性化に関する取組もその一つだ。
日本産酒類の国内市場は少子高齢化や人口減少、消費者の低価格志向、ライフスタイルの変化、嗜好の多様化等により、全体として縮小傾向にある。一方で日本産酒類の輸出は、清酒(日本酒)やウイスキー等の日本産酒類の国際的な評価の高まり等を背景に、年々増加傾向にある。
令和5年の日本産酒類の輸出金額を見ると、1,344億円(対前年比3.5%減)で、過去最高となった令和4年に次ぐ水準となった。輸出金額を品目別に見ると、ウイスキーが最も多く501億円(対前年比10.7%減)、次いで清酒が411億円(対前年比13.5%減)となった。
輸出金額が上位の国・地域を見ると、中華人民共和国が322億円(対前年比18.5%減)、次いでアメリカ合衆国が237億円(対前年比11.4%減)、大韓民国が143億円(対前年比156.0%増)となった。世界的な物価高や一部の国・地域における消費減退、米国における長引く在庫調整等の影響により、多くの品目で輸出金額が減少した。
こうした中で国税庁は、酒類事業者の支援や酒類業の振興を行っている。令和6年度予算では、酒類事業者向けの補助金として6.0億円を活用し、インバウンドによる海外需要の開拓等を支援した。また、輸出促進等による酒類振興予算として8.6億円を活用し、海外への販路拡大支援やユネスコ無形文化遺産登録に向けた機運醸成等のための各種PRなどを行った。次ページ以降では、令和5年度から6年度の主な取組内容を紹介する。
販路開拓支援事業
海外の展示会への出展支援や商談会を実施
日本産酒類の更なる輸出促進を図るために、海外で開催される大規模展示会に出展し、国内酒類事業者に商品プロモーションや商談の場を提供しているほか、日本産酒類の更なる流通が期待できる都市に「酒類輸出コーディネーター」を配置し、商談会の企画・実施、日本産酒類プロモーションセミナーなどを実施している。
海外大規模展示会での日本産酒類ジャパンパビリオンの設置
令和5年度においては、英国・ロンドンで開催されたImbibe Live2023をはじめとする大規模展示会に日本産酒類プロモーションブース(ジャパンパビリオン)を設置し、公募により参加した国内酒類事業者等が同ブースに出展し、来場した海外現地酒類事業者やレストラン関係者等へ商品の訴求や商談を実施した。
また、ジャパンパビリオンでは、バーコーナーを設置し、バーテンダーによる日本産酒類を使ったカクテル訴求を行った。
写真 ジャパンパビリオンの様子
酒類輸出コーディネーターが企画・実施する商談会
酒類輸出コーディネーターは、マッチング施策として日本の酒類事業者と、海外バイヤー(現地の酒類インポーターやディストリビューター、レストラン・バー関係者や小売関係者等)とのマッチングを対面又はオンライン型の商談形式で実施している。また、レストラン向け施策として、レストラン等関係者と現地の酒類ディストリビューターとの商談会やセミナーを実施している。
令和5年度には52件の商談会を実施し、329事業者が参加した。商談件数は4,942件に上り、そのうち1,403件が成約見込みとなった。
写真 レストラン等関係者向け商談会の模様
国際的プロモーション事業
日本酒プロモーションやシンポジウムを実施
国際的プロモーション事業として、米国テキサス州で日本酒やペアリングに関するセミナーの開催や、レストランウィークへの参画を通じた日本酒普及を推進したほか、ジャパンハウス・ロンドンでシンポジウムを実施し、ユネスコ登録に向けた機運醸成を図った。
米国・テキサス州における日本酒プロモーション
テキサス州・オースティンでは、レストラン業界関係者に対し、日本酒の基礎知識(製造方法など)に加え、飲食店における消費者への日本酒の効果的な勧め方や、選びやすいメニュー作り、日本酒とのペアリングの楽しみ方などをテーマにセミナーを開催し、50名が参加した。
また、同時期に開催されたテキサス州・ダラスの一般消費者向けレストランウィーク(令和6年3月20日~24日)に参画し、非日本食を中心としたレストラン7店舗にて、来店者に日本酒の飲み比べセットを提供した。19名の現地インフルエンサーも来店し、各自のプラットフォームにてレストランウィークや日本酒に関する投稿と拡散が行われた。
写真 セミナーの様子
写真 レストランウィークの様子
ジャパンハウス・ロンドンでのシンポジウム
ユネスコ登録に向けた機運醸成事業の一環として、ロンドンにおいて、女性が酒造りに関わることをテーマに、日本の女性杜氏と英国の女性ワイン醸造家の対談を中心に据えたシンポジウムを開催した。メディアやインフルエンサー等を招待した結果、現地の酒類専門誌等から取材を受け、日本酒の将来性等に関する特集記事が掲載されるなど、参加者を超えた波及効果が期待できるものとなった。
写真 シンポジウムの様子
国際的プロモーション事業
海外の酒類専門家を招聘
国際的プロモーション事業では、海外の酒類専門家を招聘し、日本産酒類の強みや弱み、評価軸など、外国人が価値を見出すポイントを地域内の酒類製造者へ指導してもらった。加えて指導内容を広く日本産酒類の製造者へ提供することにより、日本産酒類の更なる輸出拡大を図っている。
日本酒 兵庫県、福岡県の製造場等を訪問
WSET*日本酒コース講師資格者等を招聘。英国、米国、中国から3名の酒類専門家が参加した。令和6年1月22日~1月26日に兵庫県、福岡県の日本酒製造場等を訪問し、もろみ造り等の製造工程の特徴やその酒蔵が立地する気候風土を調査した他、酒造りに必要な水や原料に関わる当該地域の有識者から、ヒアリングを実施した。例えば香り成分等に関するヒアリングを実施し、その内容を基に、日本酒を海外(特に英国・米国・中国)に展開するための知見を共有するセミナーを実施した。
写真 日本酒製造場視察の様子
写真 セミナーの様子
焼酎・泡盛 沖縄県、鹿児島県の製造場等を訪問
WSET*スピリッツ講師資格者等を招聘。英国、米国、フランスから3名の酒類専門家が参加した。令和6年2月5日~2月9日に沖縄県の泡盛製造場や鹿児島県の焼酎製造場等を訪問し、蒸留施設や貯蔵施設、製造工程等を調査した。また、当該地域の有識者から、焼酎・泡盛の原料、香り成分等に関するヒアリングを実施。ヒアリング内容を基に、焼酎・泡盛を海外(特に英国・米国・フランス)に展開するための知見を共有するセミナーを実施した。
*WSET(Wine&Spirit Education Trust):英国・ロンドンに本部を置く世界最大のワイン・スピリッツ等に関する教育機関。
写真 焼酎製造場視察の様子
写真 セミナーの様子
輸出促進に向けた環境整備
輸出促進コンソーシアムを推進
輸出促進に向けた環境整備の観点から、国内の「酒類製造者」と「輸出卸・商社」等が参加する「日本産酒類輸出促進コンソーシアム」を立ち上げ、専門家セミナーの開催、事業者間マッチング、海外商談会・展示会の参加募集等の支援を行っている。コンソーシアム登録事業者数は、令和6年3月末時点で酒類製造者・酒造組合が1,239者、卸売事業者が458者、その他(自治体等)が246者の計1,943者となっている。
専用ウェブサイト上でコンソーシアム登録事業者に向けて(1)輸出関連セミナー等の開催情報、(2)商品の情報発信・検素機能、(3)専門家の支援、(4)マッチング支援などのサービスを提供している。令和5年度には、全13回のセミナー参加者数がのべ872者、マッチング件数はのべ154件、輸出に向けた商談成立件数108件、輸出に至った件数が66件となった。
コラム
能登半島地震の被災事業者を支援
令和6年能登半島地震を受けて政府は「被災者の生活と生業支援のためのパッケージ」を1月25日に取りまとめた。このパッケージでは、「被災した酒類業者に対する支援のため、被災状況や酒類業者のニーズを踏まえつつ、被災酒類に係る酒税相当額の還付手続の特例措置等を実施するほか、酒蔵が数多く存在する能登地域を始めとする、被災酒蔵等への技術支援を行う」とされた。
また、「被災地の復旧・復興状況を踏まえつつ、特に被害を受けた能登地域については、ウェブの特設サイトや販促イベント等を通じ、能登半島ならではの物産品の販路拡充支援等を行い、地場産品の消費拡大を図る」ことも明示された。このうち、免許、酒税に関して下記の2つの措置が講じられている。
免許等の手続に関する弾力的な措置
被害を受けた酒類製造者及び酒類販売業者の方々の免許等に係る手続について、被災状況等を踏まえ、弾力的な措置を講じることとした。
被災酒類に係る酒税相当額の救済措置
販売のために所持していた酒類が地震により被災(容器の破損による酒類の流出等)した場合には、酒税相当額の救済措置を講じることとした。
国税庁による技術支援の例
製造技術基盤の強化
臨場による相談
製造者のところに臨場し、現場における技術的課題を把握し、解決策を提案。
面談等による相談
製造者が有する技術的課題について、来局等による相談に応じ、解決策を提案。
成分分析
成分分析により、酒類の特徴や問題点を把握し、結果を製造者に提供。
品質評価(きき酒)
品質評価により、製造及び品質管理上の技術的課題を把握し、結果を製造者に提供。
「伝統的酒造り」のユネスコ無形文化遺産登録に向けた取組
シンポジウムの開催やALT(小中学校等の外国語指導助手)等を通じた広報を実施
「伝統的酒造り」のユネスコ無形文化遺産登録について
令和6年12月5日(日本時間)、パラグアイで開催されたユネスコ政府間委員会において、日本から提案していた「伝統的酒造り」について、ユネスコ無形文化遺産への登録が決定された。
「伝統的酒造り」とは、伝統的なこうじ菌を用いて、近代科学が成立・普及する以前の時代から、杜氏・蔵人等が経験に基づき築き上げてきた酒造り技術のことで、日本各地の自然の特徴や気候風土を反映する形で発展を遂げ、日本酒、焼酎・泡盛、みりんなど様々な種類の酒が生み出されている。
これまで、国税庁では、ユネスコ無形文化遺産への登録に向けた取組として、文化庁や「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」等と連携し、「伝統的酒造り」シンポジウムを国内外で開催したほか、ALT(小中学校等の外国語指導助手)等を通じた広報を行ってきた。
ユネスコ無形文化遺産への登録をきっかけに、国内外の文化との交流・対話の促進や、「伝統的酒造り」を含む日本の魅力の世界発信につながることが期待される。
登録無形文化財登録
1登録要件
米などの原料を蒸すこと
手作業で伝統的なこうじ菌を用いてバラこうじを製造すること
並行複発酵を行っており、水以外の物品を添加しないこと等
2保持団体
日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会
(令和3年4月16日 設立)
会長:小西(こにし)新右衛門(しんうえもん)氏
写真 蒸きょう
写真 こうじ造り
写真 もろみ管理
写真 こうじ菌(国菌)
図表 「伝統的酒造り」シンポジウム(国内)
写真 パネルディスカッションの模様
写真 酒造り唄の披露
「伝統的酒造り」シンポジウム(海外)
令和5年2月2日パリ日本文化会館
ユネスコ各国大使や仏の酒類関係者等を招待し開催。現地の清酒製造者や仏人講師等を交え、ワインと比較しながら、日本の酒造りを訴求
令和5年5月23日在フランクフルト日本国総領事公邸
行政、メディア関係者等を対象としたセミナー及びレセプションを開催。日本料理や西欧フュージョン料理とのペアリング体験を実施
令和5年9月25日ジャパンハウス・ロンドン
伝統産業(日本酒・ワイン)に携わる日英の女性醸造家による対談(トークセッション)を実施
令和5年11月15日~20日在スペイン日本国大使公邸等
行政やメディア関係者を対象とし、日本食普及親善大使や利き酒師によるセミナー等を実施
令和6年3月7日~11日ローマ文化会館等
メディアや料飲業者等を対象とし、伊人酒サムライや日本の酒蔵によるセミナー及びパネルディスカッション等を実施
令和6年9月10日在デンマーク日本国大使公邸
料飲業者等を対象としたセミナー及びパネルディスカッションを開催。終了後のレセプションでは、デンマーク料理とのペアリングを実施。
ALT(小中学校等の外国語指導助手)等を通じた広報
・日本に滞在中のALT等の在留外国人向け酒蔵見学ツアーを開催
・令和5年11月~令和6年3月に、北海道から沖縄までの36道府県で、520名が参加
・体験談は本人SNSを通じ母国へ情報発信のほか、自治体国際化協会の機関誌に体験記を掲載
図表 日本産酒類の輸出額の推移
図表 令和6年度酒類業関係予算
図表 令和5年度の海外大規模展示会での日本産酒類ジャパンパビリオンの設置状況
図表 ユネスコ無形文化遺産登録までの経緯
図表 日本の「伝統的酒造り」の紹介動画
図表 「伝統的酒造り」のリーフレット