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ファイナンスライブラリー

評者:渡部 晶

神田 眞人 監修・編著
G20/OECD コーポレートガバナンス原則
財経詳報社 2024年6月 定価 本体1,200円+税

 「G20/OECD(経済協力開発機構)コーポレートガバナンス原則」は、G20首脳にも承認された企業統治にかかる世界唯一の国際標準である。これを議論、策定するOECDコーポレートガバナンス委員会議長を8年間務める神田眞人前財務官(同委員会の議長を日本人や非欧州人が務めるのは初めて)は、前回改定のG20承認を主導したが、今回の三度目の改訂(2023年改訂)も、全てのG20加盟国やFSB加盟国を含めて多くの新興・途上国を委員会に参加してもらいながら推進した。本誌2022年12月号で紹介した神田氏が監修・編著の『世界のコーポレートガバナンス便覧』(『OECD Corporate Governance Factbook 2021』の邦訳版))はその見直しの基礎資料の一つである。その後、G20首脳サミットは2023年9月にこの原則改訂を承認した。
 神田氏は、改訂承認に際して日本経済新聞(2023年9月12日付朝刊)およびFinancial Times(2023年9月20日)に寄稿し、「我々の経済が今日直面している課題は本質的にグローバルなものである。だからこそ、グローバルに協調した解決策が求められる。G20・OECDコーポレートガバナンス原則の改訂をもって、OECDとG20はそのパズルを1ピース進めた」とした。
 本書は、この改訂G20/OECDコーポレートガバナンス原則(原題:G20/OECD Principles of Corporate Governance)の邦訳版である。
 神田氏の執筆になる本書の「はしがき」中、「見直しの概要」(同書4頁)及び「改訂の主な論点」(同書5頁)により全体を概観できる。まず、見直しの目的として、「企業による株式市場へのアクセスの改善」及び「企業の持続可能性と強靭性の向上に資するコーポレートガバナンス」が示される。また、改定の主な論点として、「デジタル化への対応」、「機関投資家のスチュワードシップ活動」、「企業グループの捕足」、「取締役会の機能」、「サステナビリティ」を掲げる。
 このうち、「サステナビリティ(持続可能性)を巡る課題への対応については、投資家がESG(環境・社会・ガバナンス)課題に関する重要なリスクと機会への企業の対応を注視する中、企業が多様なステークホルダーの利益を考慮しつつ持続的な成長を実現するための企業統治の枠組みについて包括的な提言をまとめた新章を創設した」という。そして、「環境変動リスクが企業の業績にとって重要なものとなりうる点をコンセンサスとして示し、これらの課題が自社の事業活動にもたらすリスクと機会を取締役会が考慮し、質の高いサステナビリティ関連情報開示を促進すべきことを明記した」とする。また、「機関投資家によるスチュワードシップ活動の質の向上に向け、投資先企業に対するエンゲージメントを推進し、その手法の一つとして、日本でも導入されたスチュワードシップ・コードの導入を例示した」という。
 同原則の意義について、「世界の分断と不安定化が進み、グローバルな合意が次第に困難になりつつある中、企業統治分野でこのようなコンセンサスを得られたのは極めて稀有なことである」という。そして、「唯一の世界基準を維持することは、企業統治分野における共通理解を助け、資本市場における根本的な要素である投資家の信頼につながり、グローバルな資本の流れを促進する」とする。「コーポレートガバナンスは市場経済を再活性化して、持続可能で強力な経済発展を取り戻すとともに、企業と社会の長期的利益の調和を通じて社会的、人類的課題を克服する中核的手段の一つである」と締めくくる。
 なお、「OECD Corporate Governance Factbook」は2014年に初めて発行され、2015年から2年ごとに作成されており、第6版となる2023年版は2023年9月に公表されている。2023年版は、サステナビリティ、企業グループ、バーチャル又はハイブリット形式の株主総会に関する同原則の改訂を考慮している。コーポレートガバナンス委員会の活動で収集した49カ国の執行機関の情報を編纂したものであり、これらの内容も十分に咀嚼され、我が国のコーポレートガバナンスがさらに進展することを期待したい。