評者:国際局為替市場課長 徳岡 喜一
アジア開発銀行総裁首席補佐官 瀧村 晴人
JICA広報部長 川淵 貴代
国際協力銀行 執行役員 外国審査部長 横堀 直子
大矢 俊雄 著
霞が関官僚の英語格闘記「エイゴは、辛いよ。」
東洋経済新報社 2024年7月 定価 本体1,600円+税
徳岡喜一 国際局為替市場課長
本書は、英語で仕事をしている/しようとしている若手への激励の書である。筆者の経歴からわかるとおり、筆者の英語は、国際舞台の最前線で通用する非常に高い水準なのだが、そんな筆者でもこんな失敗をしてきたのかというエピソードが本書には多く登場する。レストランで卵料理(egg)を注文したかったのに、メニューにあったeggという文字を探して注文したら、ナス(eggplant)が出てきたり。こうしたエピソードは、若手をはじめ英語で苦労が絶えない者(私も!)に希望を与える。
本書には、英語で仕事をする上での、実践的なアドバイスやフレーズも満載である。英語での会議の記録作りのためのメモとりの際、出席者が何を言っているかわからなくなったら、英語を理解しようとするのは棚上げし「聞き取れた英単語をずらずらと並べて書き取っておく」というアドバイスはその一例である。私自身は、筆者のこのアドバイスを過去に聞いており、窮地に陥った際に、これを思い出して幾度となくその場を切り抜けてきた。今般、こうした実践的なアドバイスが盛り込まれた書籍が世に出たことで、より多くの人が救われることが何より嬉しい。実践的なアドバイスに加え、本書のコラムでは、筆者が国際会議などで実際に発動した使えるフレーズがふんだんに紹介されている(逆に使って失敗したフレーズも)。
筆者が特に激励したかったのは若手だと推測されるが、本書を読み、私自身も英語学習のモチベーションを高めた。本書の中に、筆者が単語帳を作り繰り返し復習をしてきたというくだりがある。継続的な努力の重要性を改めて痛感し、私自身、も新しく単語帳を作った。本書のコラムに紹介されていた会議で使えるフレーズ(例えば、「Your proposal may end up with unintended consequences」)も早速単語帳に加えた。
瀧村晴人 アジア開発銀行総裁首席補佐官
本書は、国際舞台で英語を駆使してきた官僚のリアルな苦悩と挑戦を、軽妙な語り口で描いた一冊だ。著者の大矢氏は、私が財務省でお仕えした上司でもあり、本書のエピソードとして紹介されたメキシコ・ロスカボスでの国際会議出張に同行したこともある。その出張では大型ハリケーンに襲われ、急遽「特別な」飛行機で脱出するという事態に直面した。このエピソードを読むたび、あの時の緊迫感と、海外でのトラブルに慣れた大矢氏が見せた冷静な対応を思い出す。予期せぬ事態にもかかわらず、ユーモアを忘れずに冷静に対処する大矢氏の姿勢には、国際舞台で活躍するための重要な教訓が詰まっている。
本書は、国際交渉の現場でどのように英語を使えば効果的かについて、多くの経験談を通じて伝えている。特に国際会議で役立つ英語フレーズを紹介するコラムが随所にあり、教科書では学べない生の英語表現が実例とともに紹介されている。これらのフレーズは、国際交渉に携わる者がしばしば直面する場面を想定しており、非常に実践的だ。また、はじめて国際交渉に挑む若い官僚やビジネスパーソンにとっても、細かい点まで配慮されたアドバイスが満載である。例えば、国際交渉や会議でのメモ取りは若手の役割となることが多いが、英語の聞き取りに不安がある場合、日本語か英語のどちらでメモを取るべきか悩む人も多いだろう。本書では英語でメモを取るべきだと強く勧めており、その理由を具体的に解説することで、読者の迷いを取り除いてくれる。
本書を通して、海外で活躍するためには、英語だけではなく、どんなに困難な状況でも笑顔を忘れない柔軟さと、前向きな思考がいかに大切かということを教えてくれる。本書は、英語に対する苦手意識があるけれども国際的な舞台で挑戦したいと考えている人に勇気を与え、そっと背中をおしてくれるだろう。
川淵貴代 JICA広報部長
「牛乳を飲みながら読むな、キケン」
32ページに匿名で登場した者です。本書、大変実践的でタメになるのですが、爆笑してしまうので、標題の一言を添えて(大量の)友人・同僚に勧めています。
どのエピソードも「本当? too funny to be trueでは?」と思えてしまうくらいオモシロおかしいです。が、当の登場人物から言わせると、「きわめて的確かつ中立的な記載であり、驚くべき再現力」です。lavatoryもtofuも、間違いなくそういうやり取りが繰り広げられ、またそのようにしてADBでチームビルディングがなされていったのだろうと思います。その場に立ち会ってみたかったです。
さて、大矢様には20年以上前に世界銀行日本理事室で大変お世話になりました。当時、折しもアルゼンチンがデフォルトを起こし、今はなき保証スキームであるRolling Reinstatable Guaranteeを発動した後の同政府とのやり取りが緊迫していた時期。ご着任早々、すごい勢いであらゆるスタッフや各国理事室にアポを入れ、現況を把握し、どんな会議でも常に議論をリード。
今思えば、独自の「英単語帳」を駆使し、周到に準備をされていたのでしょうが、そうは感じさせない軽やかなコミュニケーション。たちまち世銀のスタッフ、各国メンバーを魅了したのは言うまでもなく、ついスタッフが理事会の大矢様のネームプレートに「Mr Oya」ではなく「My Oya」と印字してしまった気持ちも分かります(そしてそんなミスに気づいた、大変お優しい当時の理事がスタッフをかばうかのように「私の独占欲がついネームプレートに出てしまいました」と発言され、理事会の爆笑をさらわれたことがつい昨日のことのように思い出されます)。
さて、この本です。秀逸です。素材は「エイゴ」なのですが、「好奇心を持つことがいかに人生を豊かにしてくれるか」に気づかせてくれる屈指の名著です。好奇心の根底には、相手の文化や歴史へのリスペクトがあり、その上で互いの違いや共通点を見出すことを楽しんでいるエピソードの数々には、これぞ理想的な信頼関係の構築方法!と思わず膝を打ちます。そして読み終わった後、なんだか無性に誰かとエイゴで話してみたくなります。エイゴに悩む人は当然のこと、人との距離感を縮めたい人にとってもヒントの玉手箱です。
最後になりますが、大矢様、私を「中東の前科者」となることから救って頂いて本当に有難うございました。
横堀直子 国際協力銀行 執行役員 外国審査部長
『エイゴは、辛いよ。』は、国際舞台での経験が豊かな著者が、英語学習の苦労と成功を赤裸々に語った一冊です。私は著者の部下として、本書に登場するいくつかの場面に立ち会ってきました。例えば、著者がウクライナ農業政策・食料省次官とビニールハウスの中でパイプ椅子に座りながら和やかに会話し、共同プロジェクト推進に向けて意気投合していくところ、混乱する空港で大きな荷物を抱えて走りながら、脱落しそうな部下(Y女史こと、私)を励ましつつ、空港職員に掛け合うところ、英国の政府高官と英語の単数・複数問題で楽しく議論しているところ、などなどです。その度に、著者の英語力、ユーモア、話題の引出しの多さ、そして国籍を問わず様々な相手と信頼関係を構築していく姿に尊敬の念を抱いてきました。
本書を読むと、著者がどのようにして英語の達人になったのかが分かります。切れる英語フレーズ(例えば「来世はイケメン男子にして下さい」とか)を都度書き留めているオリジナル英単語帳の作成をはじめとする日々の努力に加え、国際機関でリーダーシップを発揮しながら人事制度改革を進めていく様子、国際会議で異なる意見をまとめていく苦労などが活き活きと描かれています。また、それだけでなく、そうした経験を踏まえた英語でのメモの取り方、国際会議で議論をうまく進めるための素敵なフレーズをはじめ、今日から実践したい具体的なアドバイスも満載です。
しかし、本書には全くお説教くさいところはなく、とにかく面白く、読みながら思わず大爆笑してしまいます。そして、読み終わった後は、著者のパワーと温かい人柄にそっと背中を押されて、自分も国際的な舞台で様々な国の人々と分かり合う瞬間を感じたい、彼らと一緒に何かを作り上げていきたい、そのための努力を続けよう、という前向きな気持ちになるのです。
本書は、これから海外に赴任する方、国際機関や国際的な舞台でのお仕事に関心がある学生や若い社会人に特にお勧めであると共に、国際的な舞台でタフな交渉の前面に立っている方や国際会議で議論をリードされようとしている方にも力を与えてくれます。著者の経験から学び、国際的な舞台で、たとえ困難に直面したとしてもワクワクしながらそれを乗り越え活躍する方が増えることを願ってやみません。
アジア開発銀行総裁首席補佐官 瀧村 晴人
JICA広報部長 川淵 貴代
国際協力銀行 執行役員 外国審査部長 横堀 直子
大矢 俊雄 著
霞が関官僚の英語格闘記「エイゴは、辛いよ。」
東洋経済新報社 2024年7月 定価 本体1,600円+税
徳岡喜一 国際局為替市場課長
本書は、英語で仕事をしている/しようとしている若手への激励の書である。筆者の経歴からわかるとおり、筆者の英語は、国際舞台の最前線で通用する非常に高い水準なのだが、そんな筆者でもこんな失敗をしてきたのかというエピソードが本書には多く登場する。レストランで卵料理(egg)を注文したかったのに、メニューにあったeggという文字を探して注文したら、ナス(eggplant)が出てきたり。こうしたエピソードは、若手をはじめ英語で苦労が絶えない者(私も!)に希望を与える。
本書には、英語で仕事をする上での、実践的なアドバイスやフレーズも満載である。英語での会議の記録作りのためのメモとりの際、出席者が何を言っているかわからなくなったら、英語を理解しようとするのは棚上げし「聞き取れた英単語をずらずらと並べて書き取っておく」というアドバイスはその一例である。私自身は、筆者のこのアドバイスを過去に聞いており、窮地に陥った際に、これを思い出して幾度となくその場を切り抜けてきた。今般、こうした実践的なアドバイスが盛り込まれた書籍が世に出たことで、より多くの人が救われることが何より嬉しい。実践的なアドバイスに加え、本書のコラムでは、筆者が国際会議などで実際に発動した使えるフレーズがふんだんに紹介されている(逆に使って失敗したフレーズも)。
筆者が特に激励したかったのは若手だと推測されるが、本書を読み、私自身も英語学習のモチベーションを高めた。本書の中に、筆者が単語帳を作り繰り返し復習をしてきたというくだりがある。継続的な努力の重要性を改めて痛感し、私自身、も新しく単語帳を作った。本書のコラムに紹介されていた会議で使えるフレーズ(例えば、「Your proposal may end up with unintended consequences」)も早速単語帳に加えた。
瀧村晴人 アジア開発銀行総裁首席補佐官
本書は、国際舞台で英語を駆使してきた官僚のリアルな苦悩と挑戦を、軽妙な語り口で描いた一冊だ。著者の大矢氏は、私が財務省でお仕えした上司でもあり、本書のエピソードとして紹介されたメキシコ・ロスカボスでの国際会議出張に同行したこともある。その出張では大型ハリケーンに襲われ、急遽「特別な」飛行機で脱出するという事態に直面した。このエピソードを読むたび、あの時の緊迫感と、海外でのトラブルに慣れた大矢氏が見せた冷静な対応を思い出す。予期せぬ事態にもかかわらず、ユーモアを忘れずに冷静に対処する大矢氏の姿勢には、国際舞台で活躍するための重要な教訓が詰まっている。
本書は、国際交渉の現場でどのように英語を使えば効果的かについて、多くの経験談を通じて伝えている。特に国際会議で役立つ英語フレーズを紹介するコラムが随所にあり、教科書では学べない生の英語表現が実例とともに紹介されている。これらのフレーズは、国際交渉に携わる者がしばしば直面する場面を想定しており、非常に実践的だ。また、はじめて国際交渉に挑む若い官僚やビジネスパーソンにとっても、細かい点まで配慮されたアドバイスが満載である。例えば、国際交渉や会議でのメモ取りは若手の役割となることが多いが、英語の聞き取りに不安がある場合、日本語か英語のどちらでメモを取るべきか悩む人も多いだろう。本書では英語でメモを取るべきだと強く勧めており、その理由を具体的に解説することで、読者の迷いを取り除いてくれる。
本書を通して、海外で活躍するためには、英語だけではなく、どんなに困難な状況でも笑顔を忘れない柔軟さと、前向きな思考がいかに大切かということを教えてくれる。本書は、英語に対する苦手意識があるけれども国際的な舞台で挑戦したいと考えている人に勇気を与え、そっと背中をおしてくれるだろう。
川淵貴代 JICA広報部長
「牛乳を飲みながら読むな、キケン」
32ページに匿名で登場した者です。本書、大変実践的でタメになるのですが、爆笑してしまうので、標題の一言を添えて(大量の)友人・同僚に勧めています。
どのエピソードも「本当? too funny to be trueでは?」と思えてしまうくらいオモシロおかしいです。が、当の登場人物から言わせると、「きわめて的確かつ中立的な記載であり、驚くべき再現力」です。lavatoryもtofuも、間違いなくそういうやり取りが繰り広げられ、またそのようにしてADBでチームビルディングがなされていったのだろうと思います。その場に立ち会ってみたかったです。
さて、大矢様には20年以上前に世界銀行日本理事室で大変お世話になりました。当時、折しもアルゼンチンがデフォルトを起こし、今はなき保証スキームであるRolling Reinstatable Guaranteeを発動した後の同政府とのやり取りが緊迫していた時期。ご着任早々、すごい勢いであらゆるスタッフや各国理事室にアポを入れ、現況を把握し、どんな会議でも常に議論をリード。
今思えば、独自の「英単語帳」を駆使し、周到に準備をされていたのでしょうが、そうは感じさせない軽やかなコミュニケーション。たちまち世銀のスタッフ、各国メンバーを魅了したのは言うまでもなく、ついスタッフが理事会の大矢様のネームプレートに「Mr Oya」ではなく「My Oya」と印字してしまった気持ちも分かります(そしてそんなミスに気づいた、大変お優しい当時の理事がスタッフをかばうかのように「私の独占欲がついネームプレートに出てしまいました」と発言され、理事会の爆笑をさらわれたことがつい昨日のことのように思い出されます)。
さて、この本です。秀逸です。素材は「エイゴ」なのですが、「好奇心を持つことがいかに人生を豊かにしてくれるか」に気づかせてくれる屈指の名著です。好奇心の根底には、相手の文化や歴史へのリスペクトがあり、その上で互いの違いや共通点を見出すことを楽しんでいるエピソードの数々には、これぞ理想的な信頼関係の構築方法!と思わず膝を打ちます。そして読み終わった後、なんだか無性に誰かとエイゴで話してみたくなります。エイゴに悩む人は当然のこと、人との距離感を縮めたい人にとってもヒントの玉手箱です。
最後になりますが、大矢様、私を「中東の前科者」となることから救って頂いて本当に有難うございました。
横堀直子 国際協力銀行 執行役員 外国審査部長
『エイゴは、辛いよ。』は、国際舞台での経験が豊かな著者が、英語学習の苦労と成功を赤裸々に語った一冊です。私は著者の部下として、本書に登場するいくつかの場面に立ち会ってきました。例えば、著者がウクライナ農業政策・食料省次官とビニールハウスの中でパイプ椅子に座りながら和やかに会話し、共同プロジェクト推進に向けて意気投合していくところ、混乱する空港で大きな荷物を抱えて走りながら、脱落しそうな部下(Y女史こと、私)を励ましつつ、空港職員に掛け合うところ、英国の政府高官と英語の単数・複数問題で楽しく議論しているところ、などなどです。その度に、著者の英語力、ユーモア、話題の引出しの多さ、そして国籍を問わず様々な相手と信頼関係を構築していく姿に尊敬の念を抱いてきました。
本書を読むと、著者がどのようにして英語の達人になったのかが分かります。切れる英語フレーズ(例えば「来世はイケメン男子にして下さい」とか)を都度書き留めているオリジナル英単語帳の作成をはじめとする日々の努力に加え、国際機関でリーダーシップを発揮しながら人事制度改革を進めていく様子、国際会議で異なる意見をまとめていく苦労などが活き活きと描かれています。また、それだけでなく、そうした経験を踏まえた英語でのメモの取り方、国際会議で議論をうまく進めるための素敵なフレーズをはじめ、今日から実践したい具体的なアドバイスも満載です。
しかし、本書には全くお説教くさいところはなく、とにかく面白く、読みながら思わず大爆笑してしまいます。そして、読み終わった後は、著者のパワーと温かい人柄にそっと背中を押されて、自分も国際的な舞台で様々な国の人々と分かり合う瞬間を感じたい、彼らと一緒に何かを作り上げていきたい、そのための努力を続けよう、という前向きな気持ちになるのです。
本書は、これから海外に赴任する方、国際機関や国際的な舞台でのお仕事に関心がある学生や若い社会人に特にお勧めであると共に、国際的な舞台でタフな交渉の前面に立っている方や国際会議で議論をリードされようとしている方にも力を与えてくれます。著者の経験から学び、国際的な舞台で、たとえ困難に直面したとしてもワクワクしながらそれを乗り越え活躍する方が増えることを願ってやみません。