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国家公務員等の旅費制度の見直しについて(政令編)

主計局給与共済課 前課長補佐 秋山 稔/前課長補佐 末松 智之/課長補佐 小谷 陽/前給与第5係長 久保 輝幸/給与第5係 谷 源太郎/
前給与第4係長 畝川 翔太/前給与第4係 絹川 真由/前給与第2係長 下田 滉太/前給与第1係 西山 隼矢

1.はじめに
 「旅費種目」という言葉を聞いて、皆さんは何を思い浮かべるだろうか。「鉄道賃」や「航空賃」といった交通機関の利用に関する旅費を思い浮かべる人もいれば、「宿泊料」といったホテル代に関する旅費を思い浮かべる人もいるだろう。
 旅費は、一般的には、旅行のために要する費用であるが、法令上は、旅行者に対してその旅行中の費用を償うための費用(実費)弁償として支給される金銭を指して用いられる*1。国の旅費制度は、国家公務員等が公務のため旅行(出張・赴任等)した場合に国が支給する旅費を規律する。公務の内容が多岐にわたり、様々な旅行のスタイルがありうる中で、国の旅費制度は、国家公務員等について、どのように旅行させるべきか、どのような費用を支給すべきか、という一般的な規範を定めている。
 このため、旅費制度が定める旅費種目やその内容は、その時代における旅行のスタイルを反映するものと言える。我が国の旅費制度の沿革は明治時代に遡るが、明治19年閣令第14号は、内国旅行における旅費種目として、汽車賃、汽船賃、車馬賃及び日当を規定し、明治20年閣令第12号は、外国旅行における旅費種目として、船舶料、汽車料、客 舎料、食卓料、日当及び支度料を規定していた。何とも古めかしいが、こうした旅費種目の名称は、当時の旅行のスタイルを色濃く反映したものだったのだろう。当然、航空機の利用は想定されていない*2。また、内国旅行と外国旅行に法令が分かれており、両者が全くの別物と捉えられていたことも興味深い。
 第二次世界大戦後に、国家公務員等の旅費に関する法律(昭和25年法律第114号。以下「旅費法」という。)が制定されると、(章立ては分かれているものの)内国旅費と外国旅費の規定が一つの法律に統合され、旅費種目としては、鉄道賃、船賃、航空賃、車賃、日当、宿泊料、食卓料、移転料、着後手当、扶養親族移転料、支度料、旅行雑費*3及び死亡手当が規定された。旅費法において規定する旅費種目やその内容は、現在まで基本的に維持されてきており*4、国家公務員にとっては、馴染みがあるものも多いだろう。
 しかしながら、現在の視点から改めて見てみると、違和感を覚える読者もいるかもしれない。例えば、宿泊と移動がセットになったパック旅行の利用が盛んになっている中で、パック旅行に対応する旅費の計算方法が制度上確立されていない。また、在宅勤務など働き方の多様化に伴い共働きの夫婦が増加し、赴任時に扶養していない配偶者も一緒に移転しうる中で、「扶養親族」のみを旅費の対象とするという線引きが適切なのかという疑問もあるだろう。さらに、旅費種目の内容に目を配ると、宿泊料や移転料等が定額で規定されていることは、為替・物価の急激な変動が起こり、需給状況に応じた価格設定(ダイナミックプライシング)も普及している中で、時代に即しているのかという疑問もあるだろう。旅費制度が定める旅費種目やその内容は、その時代における旅行のスタイルを反映するものである以上、時代の変化に合わせて適時適切に見直すことが必要である。
 今般、国内外の経済社会情勢の変化に対応するとともに職員の事務負担軽減を図るため、国の旅費制度が抜本的に見直されることとなった。その背景及び旅費法改正の概要については、既に『ファイナンス』7月号において紹介しているが、本稿では、その続編として、国家公務員等の旅費に関する法律施行令(令和6年政令第306号。以下「旅費法施行令」という。)の内容を紹介する。冒頭で触れた旅費種目やその内容は、今般の旅費法改正を経て、新たに制定する旅費法施行令において規定されるとともに、経済社会情勢の変化に合わせた見直し等を行っている。2章及び3章では、旅費法施行令の概要と各規定の見直し内容を紹介する。

2.旅費法施行令の概要
 旅費法施行令は、国家公務員等の旅費に関する法律の一部を改正する法律(令和6年法律第22号)の施行に伴い、改正後の旅費法の委任に基づき、旅費の種目及び内容、旅行役務提供者の要件等を規定している。その概要は、【図1 「国家公務員等の旅費に関する法律施行令」について】【図2 旅費法施行令の構造】のとおりである。
 旅費法施行令は、令和6年7月29日から8月27日にかけてパブリックコメントを実施した上で、9月20日に閣議決定され、同月26日に公布された。施行日は、旅費法改正に合わせて、令和7年4月1日としている。

3.旅費法施行令の規定内容
(1)旅費の種目及び内容
 旅費法施行令は、改正後の旅費法第6条の委任(「旅行に要する実費を弁償するためのものとして政令で定める種目及び内容」)に基づき、旅費の種目及び内容を規定している。旅費の種目及び内容については、法定額と実勢価格との乖離の解消、実態・運用に即した規定の整備の観点から、現行の旅費法と比較して、主に、前掲の【図1】【図2】に掲げた見直しを行っている。これにより、旅費法施行令に規定する旅費の種目及び内容は、【図3 旅費の種目と主な改正内容】のとおりとなる。
 なお、改正前の旅費法は、内国旅費・外国旅費に章立てを分けて、旅費種目の内容を規定していた。しかしながら、旅行における本質的な差異は、内国・外国といった旅行先の差異ではなく、移動・宿泊・転居といった旅行形態の差異であると考えられる。このため、旅費法施行令では、内国旅費・外国旅費の章立てを統合した上で、(ア)交通費(移動に関連する費用)、(イ)宿泊費等(宿泊に関連する費用)、(ウ)転居費等(転居に関連する費用)、(エ)その他の種目、に区分して、旅費種目の内容を規定している。以下、上記の(ア)~(エ)に沿って、各旅費種目の概要と主な見直し内容を紹介する。
(ア)交通費
a.鉄道賃
〈概要〉
 鉄道賃は、鉄道及び軌道を利用する移動に対して支給する。鉄道賃の額は、運賃、急行料金、寝台料金、座席指定料金、特別車両料金及びその他の費用の実費額とする。また、運賃等級がある場合には、職階区分に応じて規定された運賃等級の額が支給額の上限となる。
〈現行旅費制度からの主な見直し内容〉
 内国旅行における特別急行料金(座席指定料金を含む。)の支給について、現行の距離による制限(片道100km以上)を廃止し、旅行の実情に応じて公務上必要であれば支給できることとする。これは、特別急行列車の運行・利用が一般化・多様化し、経路検索により合理的・効率的な経路を選択できるようになった中で、距離により一律にその利用を制限する合理性は失われているためである。
 また、外国旅行においても、旅行の実情に応じて公務上必要であれば、座席指定料金を支給可能とする。
 さらに、鉄道の利用に際して手数料等(旅行代理店等による手数料を含む。以下同じ。)が発生し、それが旅行の実情に照らして公務上必要である場合には、当該手数料等を支給可能とする。
 なお、これまでは鉄道賃の対象は鉄道のみであったが、その対象を軌道(路面電車やモノレール等)にも広げている。これは、旅行者・経理担当者にとって、鉄道と軌道の区別がつきにくい場合も多く、その区別が実務上煩雑であったためである。
b.船賃
〈概要〉
 船賃は、船舶を利用する移動に対して支給する。船賃の額は、運賃、寝台料金、座席指定料金、特別船室料金及びその他の費用の実費額とする。また、運賃等級がある場合には、職階区分に応じて規定された運賃等級の額が支給額の上限となる。
〈現行旅費制度からの主な見直し内容〉
 職階区分に応じた運賃等級について、等級区分の規定を合理化している。
 また、船舶の利用に際して手数料等が発生し、それが旅行の実情に照らして公務上必要である場合には、当該手数料等を支給可能とする。
c.航空賃
〈概要〉
 航空賃は、航空機を利用する移動に対して支給する。航空賃の額は、運賃、座席指定料金及びその他の費用の実費額とする。また、運賃等級がある場合には、職階区分に応じて規定された運賃等級の額が支給額の上限となる。
〈現行旅費制度からの主な見直し内容〉
 内国旅行における運賃等級について、規定を新設し、内閣総理大臣等*5に特別席の利用が認められてきた運用を本則化している。また、外国旅行における運賃等級について、4等級の区分(いわゆる、ファーストクラス、ビジネスクラス、プレミアムエコノミークラス、エコノミークラス等)が見られることを踏まえ、規定を適正化している。加えて、行政経費節減を推進する観点から、ファーストクラスの利用が国務大臣クラス以上に制限されてきたところ、当該運用を本則化している。さらに、著しく長時間の航空機移動をする者についてアップグレードを認めてきた運用を本則化している。
 また、航空機の利用に際して座席指定料金や手数料等が発生し、それらが旅行の実情に照らして公務上必要である場合には、その費用を支給可能とする。
d.その他の交通費(現行:車賃)
〈概要〉
 その他の交通費は、鉄道、船舶及び航空機以外を利用する移動に対して支給する。その他の交通費の額は、路線を定めて定期運行する乗合バスの運賃及び各種費用の実費額とする。旅費種目の名称を改めたのは、上述の鉄道賃、船賃及び航空賃以外の交通費が対象であることを明確にするためである。
〈現行旅費制度からの主な見直し内容〉
 現行の内国旅行における定額(1kmあたり37円)を廃止し、実費支給とする。
 路線を定めて定期運行する乗合バスの運賃については、一般的に利用が想定される公共交通機関に係る費用として推定されることからその額を支給することとする。また、それ以外の費用(タクシーの運賃その他の旅客運送に係る運賃、レンタカーの賃料その他の移動に直接要する費用及びこれらに付随する費用)については、旅行の実情に照らして公務上必要である場合には支給可能とする。
(イ)宿泊費等
a.宿泊費(現行:宿泊料)
〈概要〉
 宿泊費は、旅行中の宿泊について支給する。宿泊費の額は、実費額(上限付き)とする。
〈現行旅費制度からの主な見直し内容〉
 宿泊費は、定額支給方式を改め、上限付き実費支給方式としている。現行の旅費法は、多くの旅費種目で定額支給方式を採用しているが、これは、旅費法制定時において、証拠書類の確保が困難であったこと、事務を簡素化する要請があったこと、定額を規定することで冗費の節約を図ろうとしたことが背景にあったと考えられる。しかしながら、国費の適正な支出という観点からは、旅費制度本来の趣旨である実費弁償の考え方に沿って、実費支給とすることが適当である*6。また、現在では証拠書類の確保が容易となっており、実際の運用においても領収書の確認が行われていること、業務プロセスやシステムの改善により事務負担の軽減が見込まれること、上限額の設定等により華美な宿泊施設の選定や無用な旅費支給の抑制が図れることから、実費支給とした場合にも大きな問題は生じないと考えられる。このため、今回の見直しでは、宿泊料は上限付き実費支給方式に変更している。
 上限額となる宿泊費基準額は、地域の実情や旅行者の職務を勘案して、財務省令で規定することとしている。具体的な水準については、実勢価格の調査を行い、その結果等を踏まえて適切な水準に設定することを検討している。なお、宿泊費基準額以内で宿泊できない場合であっても、現行の運用を踏まえ、財務省令で定める一定の条件下においては、宿泊費基準額を超えて実費額を支給することを可能とする。
 また、現行の宿泊料は、宿泊代金、夕朝食代及び宿泊に伴う諸雑費を賄うための旅費と解釈されているところ、今般、宿泊費を実費支給方式に変更することや、宿泊代金に夕朝食代が含まれない場合があること等を踏まえ、夕朝食代の掛かり増しを含む諸雑費は宿泊手当の内容に含めることとしている(後述)。
b.包括宿泊費(新設)
〈概要〉
 包括宿泊費は、移動及び宿泊が一体となったもの(いわゆるパック旅行)について支給する。包括宿泊費の額は、交通費の額と宿泊費基準額の合計額を上限として、実費額とする。
〈現行旅費制度からの主な見直し内容〉
 改正前の旅費法は、移動及び宿泊が一体となったパック旅行を想定しておらず、パック旅行に係る旅費を請求するための旅費種目が規定されていなかったため、パック旅行の料金を宿泊料や航空賃等の旅費種目に振り分けて旅費請求書を作成するなど旅費請求に係る事務が煩雑となっていた。今般、パック旅行の利用が一般的となったことを踏まえ、パック旅行に関する新たな旅費種目を設ける。パック旅行は、移動と宿泊を別々に手配するよりも安価に旅行することを期待するものであることから、包括宿泊費の額は、交通費の額と宿泊費基準額の合計額を上限とする。
c.宿泊手当(現行:日当)
〈概要〉
 宿泊手当は、宿泊を伴う旅行に必要な諸雑費に充てるための費用として支給する。宿泊手当の額は、一夜当たりの定額とする。
〈現行旅費制度からの主な見直し内容〉
 宿泊手当は、現行の日当を見直したものであるが、その構成要素は大きく変わっている。
 現行の日当は、昼食代を含む諸雑費及び目的地内を巡回するための交通費を賄う旅費とされているが、昼食代は通常の勤務時でも必要となる費用であることから、昼食代は支給しないものと整理する。また、これまで出張先の細かなバス代など証拠書類による証明が困難と想定される交通費について、日当による定額支給を原則とすることで支給手続の合理化を図ってきたところであるが、現状、運賃の確認が容易となっており、運用上も交通費は全行程の実費を計算・支給していることから、日当の構成要素から目的地内の交通費を除くこととする。
 一方で、宿泊を伴う旅行では、通常の勤務時と比べて諸雑費(夕朝食代の掛かり増しを含む。)が発生する一方で、宿泊料を実費支給方式に変更することや、宿泊代金にそのような諸雑費が含まれない場合があること等を踏まえ、宿泊を伴う旅行に必要な諸雑費(夕朝食代の掛かり増しを含む。)を支給対象とする。
 以上を踏まえ、旅費種目の名称を日当から宿泊手当に改めるとともに、宿泊手当は、宿泊を伴う旅行に必要な諸雑費(夕朝食代の掛かり増しを含む。)に充てるための旅費として、宿泊を伴う旅行(2日以上の期間にわたる旅行)について一夜当たりの定額を支給することとする。
 宿泊手当の定額は財務省令で規定することとし、具体的な水準については、民間企業等に係る実態を調査した上で、宿泊を伴う旅行に必要な諸雑費に充てるための費用として通常要する費用の額を勘案して適切な水準に設定することを検討している。
 なお、上記の見直しを踏まえ、鉄道100km未満の旅行について日当を2分の1とする規定は廃止するとともに、食卓料についても廃止する。
(ウ)転居費等
a.転居費(現行:移転料)
〈概要〉
 転居費は、赴任に伴う転居について支給する。転居費の額は、転居の実態を勘案して財務省令で定める方法により算定される額を上限として、実費額としている。
〈現行旅費制度からの主な見直し内容〉
 転居費は、新旧在勤地間の距離に応じた定額支給方式を改め、新旧居住地間の移転に係る実費支給方式としている。支給方式の変更に至った考え方は、上述の宿泊費と同様である。
 なお、国内の転居については、令和2年から、引越しの依頼が集中する時期において引越し代金が高騰していること等を踏まえ、現行の旅費法第46条第2項の財務大臣協議に基づき、各府省等において実費支給することができる運用を実施している。実費を支給するにあたっては、転居に係る費用であっても旅費の支給対象とすることが適当ではない経費(追加料金等)を対象外とするとともに、経済性を担保するために複数の引越し業者による相見積りを取るなど一定の手続を行うことを求めている。詳細は財務省令等で規定することを検討しているが、このような現行運用における実費額の算定方法については、見直し後においても基本的に維持することを想定している。
 また、現行の旅費法では、赴任時の旅費の支給対象(移転料や扶養親族移転料の対象となる者)について、職員の扶養親族に限定されているが、共働き夫婦の増加や働き方の変化を踏まえ、扶養しているか否かを問わず、職員と同一生計の家族に支給できることとする。それに加えて、職員の赴任に伴い転居を強いられる者の旅行について旅費を支給するという制度趣旨と、新旧居住地間の移転について転居費等を実費支給するという制度設計を踏まえ、赴任時の旅費の支給対象となる家族については、職員と同居している者であることを要する。(後述の家族移転費も同様。)
b.着後滞在費(現行:着後手当)
〈概要〉
 着後滞在費は、赴任に伴う転居に必要な滞在について支給する。着後滞在費の額は、内国旅行にあっては5夜分を、外国旅行にあっては10夜分を限度として、現に宿泊した夜数に係る宿泊費及び宿泊手当の合計額に相当する額とする。
〈現行旅費制度からの主な見直し内容〉
 現行の旅費法における着後手当は、日当及び宿泊料の定額を基に、実際に宿泊を要したかにかかわらず、原則として、規定の日数分(内国旅行5日分、外国旅行10日分)の日当と規定の夜数分(内国旅行5夜分、外国旅行10夜分)の宿泊料の合計額が支給されている。今般の見直しにおいて、宿泊料が実費支給となることを踏まえ、現行制度の夜数分を限度としたうえで、実際に宿泊した夜数に係る宿泊費及び宿泊手当に相当する額を支給することとする。
c.家族移転費(現行:扶養親族移転料)
〈概要〉
 家族移転費は、赴任に伴う家族の移転について支給する。家族移転費の額は、家族一人ごとに、職員の移転に相当する旅費の額(交通費、宿泊費、包括宿泊費、宿泊手当、着後滞在費及び渡航雑費(外国旅行の場合のみ)の合計額に相当する額)とする。
〈現行旅費制度からの主な見直し内容〉
扶養親族移転料の名称を家族移転費に改め、職員と同一生計の同居家族の移転について、旅費を支給可能とする。
 また、現行の旅費法では、職員に対する支給額を基礎として機械的に減算した金額を支給することとしていたが、移転の実態を勘案し、家族一人ごとに、職員に支給する額を上限として、実費額等を支給するよう改めている。
 また、外国旅行において、外国から本邦への赴任の場合であっても、職員に遅れて家族が移転する場合は、内国旅行と同様、一年以内の移転に限り旅費を支給可能とする。さらに、職員に遅れて外国に移転した家族について、その後、その家族のみ本邦へ単独で帰国する場合も、旅費を支給可能とする。
(エ)その他の種目
a.渡航雑費(現行:旅行雑費)
〈概要〉
 渡航雑費は、外国旅行に要する雑費について支給する。渡航雑費の額は、予防接種費用、旅券の交付手数料及び査証手数料、外貨交換手数料並びに入出国税その他財務省令で定める費用の実費額とする。
〈現行旅費制度からの主な見直し内容〉
 本邦から外国への旅行又は外国から外国への旅行に要する雑費に加えて、外国から本邦への旅行に要する雑費を支給可能とする。支給内容については、経済社会情勢等に合わせて対応できるよう、その一部を財務省令に委任する。
 また、現行の旅費法で定額支給としている支度料は、運用上、旅行命令権者に認められた保険料、医薬品等に係る費用を定額の範囲内で実費支給していることから、今般、同じく外国旅行に要する雑費について支給する渡航雑費に統合する。
b.死亡手当
〈概要〉
 死亡手当は、職員、その配偶者又は子が外国において死亡した際の諸雑費に充てるための費用として支給する。死亡手当の額は、定額とする。
〈現行旅費制度からの主な見直し内容〉
 職員又はその配偶者が外国で死亡した場合に加えて、職員の子が外国で死亡した場合を支給対象に加えている。死亡手当の定額は、外国における死亡に伴う諸雑費に充てるための費用として通常要する費用を勘案して、財務省令で規定することとする。
(2)旅行役務提供者の要件
 現行の旅費制度では、旅行代理店等の活用が想定されておらず、原則、旅行した職員本人のみが、旅費の請求主体・受給対象とされている。しかし、実際の運用においては、職員が旅行代理店を活用する場合には、旅行代理店との間で代理受領等指示書を取り交わすことにより、旅行代理店による旅費の代理受領を認めている。本運用においても、旅行する職員は一時的に旅行代金を立て替えていることから、このような職員による立替えをなくし、事務負担軽減を図る観点から、旅行代理店等の活用を更に拡大することが望ましいと考えられる。このため、改正後の旅費法では、事前に各府省等との間で旅行に係る役務の提供に係る契約(以下、「旅行役務提供契約」という。)を結んだ者(旅行役務提供者)は、各府省等に対して、旅費に相当する金額を直接請求・受給できることとしている。これにより、職員の出張・赴任に関する旅費精算に際して、いわゆるコーポレート契約(法人に属する職員に後払いで利用させ、法人が後から一括して代金を支払う契約)が可能となる。
 旅費法施行令では、旅行役務提供契約を結ぶことができる者として、旅行代理店のほかに、鉄道会社等、海運会社、航空会社、バス・タクシー事業者、ホテル等、引越し業者、クレジットカード会社を規定する。このため、これらの者が各府省等との間で旅行役務提供契約を結び、当該契約に従ってこれらの者が旅行者に旅行に係る役務等を提供した場合には、各府省等は、旅行者に対する旅費の支給に代えて、旅行役務提供契約に基づき、旅費に相当する金額を直接これらの者に支払うことができるようになる。

4.おわりに
 旅費法施行令では、旅費種目の内容もさることながら、その名称を含めて抜本的な見直しを行った。例えば、現行の「移転料」はいわゆる「引越し代」を意味するが、これを「転居費」と改めている。「移転料」と「転居費」の2つを比べてどちらの方が「引越し代」を連想しやすいかと問われると、後者と答える人が多いのではないだろうか。「移転料」に限らず、他の旅費種目の名称も長年使用されてきたわけだが、積み上げられた概念を壊すことも、制度を見直していく上では非常に重要だと考えている。
 一方で、旅費法施行令の検討に際しては、新設政令でありながらも既存制度との接続に配慮する必要があるという点で、政策的・法制的な困難を多く抱えていた。旅費法施行令を新設するための旅路の途中では、進むべきレールを見失い、暗礁に乗り上げ、乱気流に巻き込まれるなど様々な困難に直面したこともあったが、多くの方々の理解と協力、助言を得ながら、長い旅をまた一つ終えることができた。こうした旅の過程にこそ価値がある。関係者には改めて感謝申し上げたい。
 旅費法施行令によって、旅費種目の内容の外延を画することはできたものの、宿泊費基準額など、具体的・細部的な事項は財務省令に委任することとしている。令和7年4月の円滑な施行に向けて、新旅費制度が迷いなく歩み始められるよう引き続き準備を進めていきたい。
 なお、省令が公布された際には、改めて、この場を借りて紹介させていただきたいと思う。
※本稿内の意見に関する部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。

*1) 『法令用語辞典』(第11次改訂版)
*2) ライト兄弟が人類初の動力飛行に成功したのは、明治36年のことであった。
*3) 旅行雑費は、昭和25年の法制定当時には存在しなかったが、昭和27年の法改正によって追加されたものである。
*4) 必要に応じて金額や運賃の等級等の見直しは随時行っているものの、70年以上にわたり、法律の基本的な内容は維持されてきた。
*5) 内閣総理大臣等とは、内閣総理大臣、最高裁判所長官、その任免につき天皇の認証を要する職員及び特別職の職員の給与に関する法律(昭和二十四年法律第二百五十二号)第一条第五号から第四十一号までに掲げる職員並びに各庁の長が財務大臣に協議して定めるこれらに相当する職務にある者をいう。
*6) なお、民間企業では、内国旅行における宿泊料の支給方法として、67.7%が実費支給(上限付き実費支給を含む。)としており、28.9%が定額支給としている。(財務省「民間企業の旅費規定等に関する実態調査」(令和5年))