財務局(沖縄総合事務局財務部を含む)は、財務省の総合出先機関として設置されている。各財務局は地域に根差し、各地域におけるニーズを踏まえながら、地域連携の取組を推進しており、毎年その内容を取りまとめ、「地域連携事例集」として公表している。本特集では、令和5年度の9分野・42事例から13事例を紹介する。
取材文向山勇
総論
財務局は、財務省の総合出先機関として、また、金融庁から事務委任を受けた組織として、地域に根差し、財政、国有財産、金融などの業務を通じて国の施策を実施している。また、財務省及び金融庁の施策の広報 、地域の声や経済の実態把握を通じて、地域に貢献することを使命としている。
こうした機能を発揮することで、財務局は、各々の時代の要請の中で地域とつながり、地域と財務省・金融庁をつなぐ結節点となり、財政健全化や地域経済活性化に向けた施策を推進している。加えて、地域の主体とのネットワークを形成し、活用することで、地域の課題解決等をサポートする 「地域連携」の取組を推進するほか、地方公共団体等が行う地方創生を支援している。
1 災害に関する取組
2 財政に関する取組
3 国有財産に関する取組
4 金融に関する取組
5 地域経済調査に関する取組
6 広報相談に関する取組
7 経済安全保障に関する取組
8 金融リテラシー向上や金融犯罪被害防止に向けた取組
9 地方創生支援に関する取組
災害に関する取組
CASE1
令和6年能登半島地震被害からの早期復旧に資する取組みを実施
北陸財務局及び管内財務事務所
令和6年1月1日に発生した能登半島地震により、石川県能登地方を中心に甚大な被害が発生した。北陸財務局及び管内財務事務所では、被災者への適時適切な情報発信を行うとともに、早期復旧に資する取組を行った。被災者の応急的な住まいとして国有財産である合同宿舎105戸を提供したほか、公共施設の早期復旧のため、手続きの効率化の枠組(早期確認型査定等)による災害査定立会業務を実施した。
また、人的支援として石川県災害対策本部へリエゾン1名を派遣したほか、対策本部からの応援派遣依頼に対して支援物資の積込に10名、1.5次避難所の運営に延べ135名の職員を派遣するとともに、地方公共団体からの罹災証明発行事務等の応援派遣依頼に対し、11市町へ職員を派遣した。
さらに、物資提供として輪島市、能登町、珠洲市に飲料水、非常食等を提供した。包括連携協定先である輪島市に対しては、地域連携の取組でつながりがある福井県永平寺町と協働することにより、1月中旬には物資を搬送した。
写真 災害ごみ仮置場
写真 災害査定立会
写真 支援物資の積込
写真 輪島市への物資提供
財政に関する取組
CASE2
同じ悩みを抱える複数の地方公共団体への課題解決型勉強会を実施
関東財務局及び管内財務事務所
関東財務局及び管内財務事務所では、地方公共団体からのニーズに応じ、各課題の解決に有効な講義内容の勉強会を令和4年度から継続開催している。令和5年度は6つの勉強会を開催し、千葉県茂原市、栃木県上三川町、埼玉県加須市等の延べ11団体の参加を得た。
この勉強会により、財務状況把握の手法での財務分析から新たな気付きが生まれたほか、多くの団体で共通の課題である遊休化施設活用方法や下水道経営改善に係る知識習得により、地方財政の健全化への寄与が期待できる。
勉強会の講義内容
①財務状況把握ツールを活用した各参加団体の現状・課題分析
②遊休化施設の有効活用のポイントと活用に当たっての民間活用(PPP/PFI※)
③公共施設の整備に際してのPPP/PFIの活用
④遊休化した施設の活用実践例『都市交流施設・道の駅保田小学校』
⑤良好な下水道経営の持続に向けた経営改善策等
⑥経費回収率に着眼した料金改定及び人工衛星を活用した漏水調査の各実施例
※PPP:官民連携事業、PFI:民間資金等活用事業
参加者の声
他団体の成功事例や住民との合意形成方法、講師を務めた有識者から得た知識を活用していきたい。
写真 参加団体の様子
CASE3
フューチャー・デザイン研修で持続可能な地域づくりを後押し
中国財務局岡山財務事務所
岡山県真庭市においては、職員に目先の課題解決だけを考えた施策や予算ではなく、市の未来や持続可能な地域づくりという視点を持って、政策に取り組んで欲しいという思いがあった。そこで、財務省が進めているフューチャー・デザイン※という考え方を取り入れることにより、職員の意識を変えることができるのではないかと考えた。
研修では財務省主計局職員による説明の後、同市の職員が「将来世代が生きる真庭市」をクリエイティブに想像し、現世代ヘメッセージを送った。議論は白熱し、笑い、驚きありの研修となった。
同市においては、今後、具体的な施策の検討に当たっても、フューチャー・デザインの手法を取り入れることを検討している。財務省では、今後も持続可能な社会の実現のため、研修等を通じて、自治体等に対してフューチャー・デザインの考え方の浸透に努めていく。
※社会の様々な課題を考える際、現在の世代だけではなく、その課題の影響が及ぶ「未来の人々」の立場も踏まえて議論しようという取組。
参加者の声
今の政策が未来につながるのか考えるきっかけになった。
将来世代の意見をひとつの視点として政策決定に当たり考慮していきたい。
写真 未来人の議論が白熱
国有財産に関する取組
CASE4
地域の課題やニーズを踏まえた国有地の売却・貸付を実施
福岡財務支局
福岡財務支局では、地方公共団体の要望を開発条件に反映させた二段階一般競争入札による売却や定期借地権貸付により、福岡市中心部の国有地を有効活用している。
その一つとしてMICE※関連施設の不足が課題である福岡市から、「国際ブランドの高級ホテルを誘致したい」との要望を受け、中央区大手門の国有地を対象とした二段階一般競争入札による売却を実施した。令和6年2月に約133億円で企業グループへ売却し、今後、国際ブランドの高級ホテルを核とする複合施設が建設される予定となっている。
※多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称(Meeting,IncentiveTravel,Convention,Exhibition/ Event)
また、福岡県は、県立美術館を現在の武道館の場所に移転するため、令和7年度までに武道館を移転させる必要があった。調整の結果、博多区東公園の国有地を武道館の移転用地とする貸付契約を令和5年7月に締結した(令和7年度完成予定)。なお、福岡市も、隣接する福岡市民体育館との相乗効果に期待しており、地域のニーズを踏まえたまちづくりに貢献している。
写真 完成イメージ図(建物全景)
写真 完成イメージ図(資料提供:福岡県)
金融に関する取組
CASE5
「業種別支援の着眼点」をテーマにセミナーを開催し、事業者支援を後押し
沖縄総合事務局
沖縄総合事務局は、地域の支援機関・金融機関等により構成される『おきなわ中小企業経営支援連携会議』とも協力の上、「業種別支援の着眼点」をテーマとしたセミナーを開催し、事業者支援を後押しした。当セミナーでは、企業再生支援の専門家で、「業種別支援の着眼点(R5.3に金融庁が公表)」の策定にも関わった北門信用金庫企業支援室長伊藤貢作氏(金融庁監督局総務課地域金融支援室専門調査員を兼ねる)が、講師として登壇。中小零細事業者の支援に着手する際のポイント、「小売業」「飲食業」「サービス業」の3業種にフォーカスした業種別支援の着眼点について、それぞれの事業者の特性やそれに応じた支援ノウハウ等、リアリティに富んだ内容の説明があった。
当日は金融機関、支援機関、士業の方々を含め、150人を超える者が来場するなど、関心の高さがうかがわれるセミナーとなった。沖縄総合事務局では、引き続きこのような事業者支援に資するセミナー等を通じ、関係機関における地域経済の課題解決に向けた取組を後押ししていく。
写真 当日資料・アーカイブ動画はこちら!
写真 伊藤講師による説明
写真 会場の様子
地域経済調査に関する取組
CASE6
国有地を活用した「にぎわいづくり」の経済波及効果を試算
中国財務局
広島市の都心部に所在する中央公園(都市公園)の土地のうち約39haは国有財産であり、昭和29年12月から、国が広島市に対して公園用地として無償貸付している。広島市は、中央公園全体をにぎわいやくつろぎなどのシンボル的な空間とするため「中央公園の今後の活用に係る基本方針」を令和2年3月に策定し、以下の施設整備に着手した。
また、中国財務局が管理する国有地を活用して行われる広島市都心部での活性化事業は、地域の関心の高い事業であり、地域経済へ与える影響も大きいものと考え、その経済波及効果を試算し、令和5年6月16日に公表した。経済波及効果の試算を公表することで、本活性化事業の効果を“見える化”して地域へ提供し、地域活性化の気運醸成に貢献した。さらに、経済波及効果の試算は、ニュースや新聞等多くのマスコミで取り上げられ、地域への影響を表す指標の一つとして活用されている。
■整備予定の施設
・サッカースタジアム(令和6年2月、開業)※Jリーグ所属のサンフレッチェ広島の本拠地として使用
・広場エリア(令和6年8月、供用開始)
・旧広島市民球場跡地イベント広場(令和5年3月、供用開始)
・広島城三の丸にぎわい施設(令和7年3月、供用開始予定)
経済波及効果の試算 1,161億円
写真 中央公園周辺の航空写真
広報相談に関する取組
CASE7
地元CATVに出演するなど新たな広報チャネルを開拓
四国財務局 松山財務事務所
国立大学の経済学部生が、財務省がどんな仕事をしているのかを知らない、更には財務局・財務事務所の存在自体を知らないという場面が多く、財務局・財務事務所業務の認知度の低さが目立っていた。四国財務局松山財務事務所は幅広い層の県民に「財務事務所」という存在をまずは認知してもらうために、新たにかつ継続的にできることはないか検討を行った。
地元CATVにおいて、まずは県内経済情勢の説明ができないかと考え、説明・プレゼンを経て、放送枠を取得した。令和6年2月に初収録、所長及び経済調査事務を担当する若手職員が出演。3月24日から地元CATVにおいて、30分程度の枠で放送開始。以降、ループして放送されている。今後、県内経済情勢報告の記者発表後に、新たな収録を行い、放送を継続していく予定。これまでも地元ラジオでの県内経済情勢の説明や地元新聞社での連載記事の寄稿(令和5事務年度は新NISAの記事を寄稿)等独自の取組を実施している。
反響
地元CATVでの県内経済概況の説明や愛媛新聞への連載記事等については、「資料も見やすく、分かりやすい解説であった」「全社員に見るように呼び掛けた」などという声も寄せられた。
写真 地元CATVでの収録の様子
経済安全保障に関する取組
CASE8
海外展開支援と経済安全保障に関するセミナーを開催
九州財務局及び鹿児島財務事務所
九州財務局では、令和5年2月に熊本で開催した「経済安全保障セミナー」を今回は鹿児島財務事務所と共に開催。今回のセミナーテーマは「未来を拓く海外進出と経済安全保障の共創セミナー」(経済安全保障セミナーin Kagoshima)で、地域への情報提供の充実等を図る観点から、我が国の経済安全保障の取組だけでなく、新たに海外展開支援の説明を加えた。
今回は前回のセミナーからプログラムを改善し、地域への情報提供の充実、参加者の満足度向上を図ることができた。今後も関係機関と連携して、経済安全保障の取組等に係る地域への情報提供により―層取り組んでいく。
セミナー概要
講師
●海外展開支援
・(株)日本政策金融公庫
・(株)海外需要開拓支援機構
●経済安全保障
・内閣官房国家安全保障局
・財務省国際局
・鹿児島県警察本部
参加者
企業、経済団体、金融機関等で
参加人数は30名程度(対面+Web)
参加者の声
海外進出に関する実例が直接聞けたのでよかった。
(経済安全保障について)重要な視点であると認識を深めた。
写真 セミナーの模様
金融リテラシー向上や金融犯罪被害防止に向けた取組
CASE9
啓発講演の実施や啓発チラシの配布で高齢者等の「金融犯罪被害防止」に貢献
北海道財務局及び管内財務事務所・出張所
北海道財務局及び管内財務事務所・出張所では、特殊詐欺被害が顕著である北海道の実情等を踏まえ、社会問題となっている高齢者の特殊詐欺被害防止を目的に、役場や公民館等において、悪質な勧誘等に関する注意喚起や心構え、特殊詐欺の各種事例等の最新情報について啓発講演を実施した。一方、大学では新入生に向けて、SNS等を介した金融トラブルについての注意喚起を中心とした講話を実施するなど、金融リテラシーの向上を図った。
また、警察署等と連携し、年金支給日に地域の高齢者が特殊詐欺に遭わないように、街頭において啓発チラシやポケットティッシュを配布し注意喚起を実施している。これらの活動により金融リテラシーの向上を図り、特殊詐欺被害等の防止に貢献している。
参加者の声
色々な例があり、勉強になった。
TV等で聞くことは多いが、具体的に説明を聞けてよかった。
一人で判断しないことを身に付けようと思う。
自分は大丈夫と過信せず、できることをしたいと思った。
写真 公民館等での啓発講演の様子
地方創生支援に関する取組
CASE10
空き地・空き家を活用した創業を支援
東北財務局山形財務事務所
東北財務局山形財務事務所は、山形県上山市、NPO法人かみのやまランドバンクと連携協定を締結し、空き地・空き家活用のためランドバンク事業を支援している。ランドバンク事業とは、人口減少や高齢化に伴い増加している空き地・空き家を―体的に再編し有効活用することで、地域の活性化につなげるもの。具体的な支援として、財務局が持つネットワーク(地方公共団体や地域金融機関等)を活用し、テーマに応じた講師を招聘し、課題解決のための研修会等を開催している。定期的な研修会を通して、関係者の創業支援等に関する知識や見識が深まり、空き家等の活用も進んでいる。
令和5年10月第5回研修会では、空き家等活用の流れを加速させるため、創業希望者の計画実現に向けた支援として「起業・創業に係る意見交換」を行った。開業を予定する事業者が金融機関等に対し事業計画を発表し、金融機関等から直接アドバイスを受け、今後も相談できる関係構築につながった。
写真 意見交換の様子
CASE11
持続可能なまちづくりを目指しセミナーを開催
東海財務局
多くの地方公共団体では、持続可能なまちづくりが重要課題のーつとなっている。東海財務局では、これまで地方公共団体との連携により、国有財産を通したまちづくり支援や最適利用など、地域の課題解決に向けた取組を推進してきた。
令和5年4月には「先進事例から学ぶ 魅力的なまちづくりの秘訣を教えます」と題して、地方公共団体、地域金融機関を対象にまちづくりに関するセミナーを開催。金融、行政、民間の実務者から、まちづくりの先進事例を紹介した。セミナーを通じて、地域の課題解決に向けて多様な関係者と連携して取り組むノウハウなど、一過性でない持続的なまちづくりを行うための知見を共有できた。
本セミナーで登壇した岡崎市とは、これまでも職員交流や勉強会などで連携を図っていることもあり、令和5年5月、包括連携協定を締結。今後も地域の活性化に向け相互に連携して取り組んでいく。
参加者の声
まちをより良くするため直接交流の場を多く持ち、実際に市民の交流の場を生むに至った話は参考になった。
地方が抱える問題について、マネタイズを含めてどう解決するか分かりやすく教えてもらえた。
写真 岡崎市との包括連携協定の締結
CASE12
大阪・関西万博開催に向けた機運醸成の取組
近畿財務局
近畿財務局では大阪・関西万博に向けた機運醸成の取組を行っている。令和5年5月30日には、管内金融機関の取引先と高速道路SA・PAのテナント等との「第3回関西交通ネットワーク大商談会」が開催された。約180社が参加した商談会にて万博PRブースを設置し、機運醸成に貢献した。
また、万博参画に意欲がある事業者がチャンスを逃すことがないよう、万博会場への参加や自治体との連携など幅広い万博活用方法をワンストップで紹介するセミナーを令和6年1月18日に実施した。現地・オンライン合わせて約100名が参加し、第2部では個別相談会を実施。ワンストップで万博の参画を支援した。
さらに、令和6年3月12日には、万博出展を目指す企業がピッチを行い、コメンテーターのアドバイスを元に展示の魅せ方等の知見を深めるイベント「大阪・関西万博リボーンチャレンジピッチフェス」※を開催。現地・オンライン合わせて約180名が参加し、現地参加者を対象とした大交流会では盛んに意見交換が行われた。
※リボーンチャレンジとは、大阪ヘルスケアパビリオンへの出展を目指す中小・スタートアップを支援する事業企画
写真 第3回関西交通ネットワーク大商談会の様子
写真 万博活用セミナーの様子
写真 大阪・関西万博リボーンチャレンジピッチフェス
CASE13
東京大学と奄美大島内教育関係者との「つなぎ」の役割を果たす
九州財務局鹿児島財務事務所名瀬出張所
奄美大島で研究活動を行っている東京大学医科学研究所と同大大気海洋研究所は、地域との更なる連携を模索していた。そんな中、財務省と東京大学のつながりで令和5年10月と11月に奄美市で同大主催のシンポジウムが開催されるとの情報提供があった。同大から島内の教育関係者との連携を希望しているとの話があったため、鹿児島財務事務所名瀬出張所では、同大関係者の来島に併せて様々な地元関係者に声掛けを行い、意見交換会を開催した。
意見交換会を機に群島内の全ての高校が参画する「奄美群島高校探究コンソーシアム」が設立され、同大大気海洋研究所が支援することとなった。また、鹿児島県立奄美図書館において、両研究所のPR誌等の掲示などに関する話が進んだほか、同大医科学研究所の研究者による大島高校での講演の実施、地元エフエム局への出演等の成果が出た。さらに本取組の効果として、名瀬出張所において、大島高校での金融経済教育の場を設けるなど、地元関係者との良好な関係構築につながった。
写真 意見交換の様子
写真 高校サミットin奄美
写真 大島高校での出前講座
今後の取組について
財務局はこれからも、地域の様々な主体と連携 ・協働し、地域課題の解決に向けて創意工夫を凝らしながら、社会の変化に伴う新たなニーズに対応していくことで、希望ある社会を次世代に引き継ぐため 、地域経済の発展に貢献し、地域住民の皆様にとって役立つ組織となることができるよう、引き続き地域と積極的に連携していく。
なお、地域連携事例集は、財務省財務局のホームページで公開している。令和5年度は、9 つのカテゴリー、42事例を紹介している。また、財務局ごとの地域連携事例や取組方針等も同ホームページから閲覧可能となっている。 (大臣官房地方課)
地域連携事例集
https://lfb.mof.go.jp/renkei/jireisyu.html
全国財務局の取組
https://lfb.mof.go.jp/renkei/torikumi.html
取材文向山勇
総論
財務局は、財務省の総合出先機関として、また、金融庁から事務委任を受けた組織として、地域に根差し、財政、国有財産、金融などの業務を通じて国の施策を実施している。また、財務省及び金融庁の施策の広報 、地域の声や経済の実態把握を通じて、地域に貢献することを使命としている。
こうした機能を発揮することで、財務局は、各々の時代の要請の中で地域とつながり、地域と財務省・金融庁をつなぐ結節点となり、財政健全化や地域経済活性化に向けた施策を推進している。加えて、地域の主体とのネットワークを形成し、活用することで、地域の課題解決等をサポートする 「地域連携」の取組を推進するほか、地方公共団体等が行う地方創生を支援している。
1 災害に関する取組
2 財政に関する取組
3 国有財産に関する取組
4 金融に関する取組
5 地域経済調査に関する取組
6 広報相談に関する取組
7 経済安全保障に関する取組
8 金融リテラシー向上や金融犯罪被害防止に向けた取組
9 地方創生支援に関する取組
災害に関する取組
CASE1
令和6年能登半島地震被害からの早期復旧に資する取組みを実施
北陸財務局及び管内財務事務所
令和6年1月1日に発生した能登半島地震により、石川県能登地方を中心に甚大な被害が発生した。北陸財務局及び管内財務事務所では、被災者への適時適切な情報発信を行うとともに、早期復旧に資する取組を行った。被災者の応急的な住まいとして国有財産である合同宿舎105戸を提供したほか、公共施設の早期復旧のため、手続きの効率化の枠組(早期確認型査定等)による災害査定立会業務を実施した。
また、人的支援として石川県災害対策本部へリエゾン1名を派遣したほか、対策本部からの応援派遣依頼に対して支援物資の積込に10名、1.5次避難所の運営に延べ135名の職員を派遣するとともに、地方公共団体からの罹災証明発行事務等の応援派遣依頼に対し、11市町へ職員を派遣した。
さらに、物資提供として輪島市、能登町、珠洲市に飲料水、非常食等を提供した。包括連携協定先である輪島市に対しては、地域連携の取組でつながりがある福井県永平寺町と協働することにより、1月中旬には物資を搬送した。
写真 災害ごみ仮置場
写真 災害査定立会
写真 支援物資の積込
写真 輪島市への物資提供
財政に関する取組
CASE2
同じ悩みを抱える複数の地方公共団体への課題解決型勉強会を実施
関東財務局及び管内財務事務所
関東財務局及び管内財務事務所では、地方公共団体からのニーズに応じ、各課題の解決に有効な講義内容の勉強会を令和4年度から継続開催している。令和5年度は6つの勉強会を開催し、千葉県茂原市、栃木県上三川町、埼玉県加須市等の延べ11団体の参加を得た。
この勉強会により、財務状況把握の手法での財務分析から新たな気付きが生まれたほか、多くの団体で共通の課題である遊休化施設活用方法や下水道経営改善に係る知識習得により、地方財政の健全化への寄与が期待できる。
勉強会の講義内容
①財務状況把握ツールを活用した各参加団体の現状・課題分析
②遊休化施設の有効活用のポイントと活用に当たっての民間活用(PPP/PFI※)
③公共施設の整備に際してのPPP/PFIの活用
④遊休化した施設の活用実践例『都市交流施設・道の駅保田小学校』
⑤良好な下水道経営の持続に向けた経営改善策等
⑥経費回収率に着眼した料金改定及び人工衛星を活用した漏水調査の各実施例
※PPP:官民連携事業、PFI:民間資金等活用事業
参加者の声
他団体の成功事例や住民との合意形成方法、講師を務めた有識者から得た知識を活用していきたい。
写真 参加団体の様子
CASE3
フューチャー・デザイン研修で持続可能な地域づくりを後押し
中国財務局岡山財務事務所
岡山県真庭市においては、職員に目先の課題解決だけを考えた施策や予算ではなく、市の未来や持続可能な地域づくりという視点を持って、政策に取り組んで欲しいという思いがあった。そこで、財務省が進めているフューチャー・デザイン※という考え方を取り入れることにより、職員の意識を変えることができるのではないかと考えた。
研修では財務省主計局職員による説明の後、同市の職員が「将来世代が生きる真庭市」をクリエイティブに想像し、現世代ヘメッセージを送った。議論は白熱し、笑い、驚きありの研修となった。
同市においては、今後、具体的な施策の検討に当たっても、フューチャー・デザインの手法を取り入れることを検討している。財務省では、今後も持続可能な社会の実現のため、研修等を通じて、自治体等に対してフューチャー・デザインの考え方の浸透に努めていく。
※社会の様々な課題を考える際、現在の世代だけではなく、その課題の影響が及ぶ「未来の人々」の立場も踏まえて議論しようという取組。
参加者の声
今の政策が未来につながるのか考えるきっかけになった。
将来世代の意見をひとつの視点として政策決定に当たり考慮していきたい。
写真 未来人の議論が白熱
国有財産に関する取組
CASE4
地域の課題やニーズを踏まえた国有地の売却・貸付を実施
福岡財務支局
福岡財務支局では、地方公共団体の要望を開発条件に反映させた二段階一般競争入札による売却や定期借地権貸付により、福岡市中心部の国有地を有効活用している。
その一つとしてMICE※関連施設の不足が課題である福岡市から、「国際ブランドの高級ホテルを誘致したい」との要望を受け、中央区大手門の国有地を対象とした二段階一般競争入札による売却を実施した。令和6年2月に約133億円で企業グループへ売却し、今後、国際ブランドの高級ホテルを核とする複合施設が建設される予定となっている。
※多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称(Meeting,IncentiveTravel,Convention,Exhibition/ Event)
また、福岡県は、県立美術館を現在の武道館の場所に移転するため、令和7年度までに武道館を移転させる必要があった。調整の結果、博多区東公園の国有地を武道館の移転用地とする貸付契約を令和5年7月に締結した(令和7年度完成予定)。なお、福岡市も、隣接する福岡市民体育館との相乗効果に期待しており、地域のニーズを踏まえたまちづくりに貢献している。
写真 完成イメージ図(建物全景)
写真 完成イメージ図(資料提供:福岡県)
金融に関する取組
CASE5
「業種別支援の着眼点」をテーマにセミナーを開催し、事業者支援を後押し
沖縄総合事務局
沖縄総合事務局は、地域の支援機関・金融機関等により構成される『おきなわ中小企業経営支援連携会議』とも協力の上、「業種別支援の着眼点」をテーマとしたセミナーを開催し、事業者支援を後押しした。当セミナーでは、企業再生支援の専門家で、「業種別支援の着眼点(R5.3に金融庁が公表)」の策定にも関わった北門信用金庫企業支援室長伊藤貢作氏(金融庁監督局総務課地域金融支援室専門調査員を兼ねる)が、講師として登壇。中小零細事業者の支援に着手する際のポイント、「小売業」「飲食業」「サービス業」の3業種にフォーカスした業種別支援の着眼点について、それぞれの事業者の特性やそれに応じた支援ノウハウ等、リアリティに富んだ内容の説明があった。
当日は金融機関、支援機関、士業の方々を含め、150人を超える者が来場するなど、関心の高さがうかがわれるセミナーとなった。沖縄総合事務局では、引き続きこのような事業者支援に資するセミナー等を通じ、関係機関における地域経済の課題解決に向けた取組を後押ししていく。
写真 当日資料・アーカイブ動画はこちら!
写真 伊藤講師による説明
写真 会場の様子
地域経済調査に関する取組
CASE6
国有地を活用した「にぎわいづくり」の経済波及効果を試算
中国財務局
広島市の都心部に所在する中央公園(都市公園)の土地のうち約39haは国有財産であり、昭和29年12月から、国が広島市に対して公園用地として無償貸付している。広島市は、中央公園全体をにぎわいやくつろぎなどのシンボル的な空間とするため「中央公園の今後の活用に係る基本方針」を令和2年3月に策定し、以下の施設整備に着手した。
また、中国財務局が管理する国有地を活用して行われる広島市都心部での活性化事業は、地域の関心の高い事業であり、地域経済へ与える影響も大きいものと考え、その経済波及効果を試算し、令和5年6月16日に公表した。経済波及効果の試算を公表することで、本活性化事業の効果を“見える化”して地域へ提供し、地域活性化の気運醸成に貢献した。さらに、経済波及効果の試算は、ニュースや新聞等多くのマスコミで取り上げられ、地域への影響を表す指標の一つとして活用されている。
■整備予定の施設
・サッカースタジアム(令和6年2月、開業)※Jリーグ所属のサンフレッチェ広島の本拠地として使用
・広場エリア(令和6年8月、供用開始)
・旧広島市民球場跡地イベント広場(令和5年3月、供用開始)
・広島城三の丸にぎわい施設(令和7年3月、供用開始予定)
経済波及効果の試算 1,161億円
写真 中央公園周辺の航空写真
広報相談に関する取組
CASE7
地元CATVに出演するなど新たな広報チャネルを開拓
四国財務局 松山財務事務所
国立大学の経済学部生が、財務省がどんな仕事をしているのかを知らない、更には財務局・財務事務所の存在自体を知らないという場面が多く、財務局・財務事務所業務の認知度の低さが目立っていた。四国財務局松山財務事務所は幅広い層の県民に「財務事務所」という存在をまずは認知してもらうために、新たにかつ継続的にできることはないか検討を行った。
地元CATVにおいて、まずは県内経済情勢の説明ができないかと考え、説明・プレゼンを経て、放送枠を取得した。令和6年2月に初収録、所長及び経済調査事務を担当する若手職員が出演。3月24日から地元CATVにおいて、30分程度の枠で放送開始。以降、ループして放送されている。今後、県内経済情勢報告の記者発表後に、新たな収録を行い、放送を継続していく予定。これまでも地元ラジオでの県内経済情勢の説明や地元新聞社での連載記事の寄稿(令和5事務年度は新NISAの記事を寄稿)等独自の取組を実施している。
反響
地元CATVでの県内経済概況の説明や愛媛新聞への連載記事等については、「資料も見やすく、分かりやすい解説であった」「全社員に見るように呼び掛けた」などという声も寄せられた。
写真 地元CATVでの収録の様子
経済安全保障に関する取組
CASE8
海外展開支援と経済安全保障に関するセミナーを開催
九州財務局及び鹿児島財務事務所
九州財務局では、令和5年2月に熊本で開催した「経済安全保障セミナー」を今回は鹿児島財務事務所と共に開催。今回のセミナーテーマは「未来を拓く海外進出と経済安全保障の共創セミナー」(経済安全保障セミナーin Kagoshima)で、地域への情報提供の充実等を図る観点から、我が国の経済安全保障の取組だけでなく、新たに海外展開支援の説明を加えた。
今回は前回のセミナーからプログラムを改善し、地域への情報提供の充実、参加者の満足度向上を図ることができた。今後も関係機関と連携して、経済安全保障の取組等に係る地域への情報提供により―層取り組んでいく。
セミナー概要
講師
●海外展開支援
・(株)日本政策金融公庫
・(株)海外需要開拓支援機構
●経済安全保障
・内閣官房国家安全保障局
・財務省国際局
・鹿児島県警察本部
参加者
企業、経済団体、金融機関等で
参加人数は30名程度(対面+Web)
参加者の声
海外進出に関する実例が直接聞けたのでよかった。
(経済安全保障について)重要な視点であると認識を深めた。
写真 セミナーの模様
金融リテラシー向上や金融犯罪被害防止に向けた取組
CASE9
啓発講演の実施や啓発チラシの配布で高齢者等の「金融犯罪被害防止」に貢献
北海道財務局及び管内財務事務所・出張所
北海道財務局及び管内財務事務所・出張所では、特殊詐欺被害が顕著である北海道の実情等を踏まえ、社会問題となっている高齢者の特殊詐欺被害防止を目的に、役場や公民館等において、悪質な勧誘等に関する注意喚起や心構え、特殊詐欺の各種事例等の最新情報について啓発講演を実施した。一方、大学では新入生に向けて、SNS等を介した金融トラブルについての注意喚起を中心とした講話を実施するなど、金融リテラシーの向上を図った。
また、警察署等と連携し、年金支給日に地域の高齢者が特殊詐欺に遭わないように、街頭において啓発チラシやポケットティッシュを配布し注意喚起を実施している。これらの活動により金融リテラシーの向上を図り、特殊詐欺被害等の防止に貢献している。
参加者の声
色々な例があり、勉強になった。
TV等で聞くことは多いが、具体的に説明を聞けてよかった。
一人で判断しないことを身に付けようと思う。
自分は大丈夫と過信せず、できることをしたいと思った。
写真 公民館等での啓発講演の様子
地方創生支援に関する取組
CASE10
空き地・空き家を活用した創業を支援
東北財務局山形財務事務所
東北財務局山形財務事務所は、山形県上山市、NPO法人かみのやまランドバンクと連携協定を締結し、空き地・空き家活用のためランドバンク事業を支援している。ランドバンク事業とは、人口減少や高齢化に伴い増加している空き地・空き家を―体的に再編し有効活用することで、地域の活性化につなげるもの。具体的な支援として、財務局が持つネットワーク(地方公共団体や地域金融機関等)を活用し、テーマに応じた講師を招聘し、課題解決のための研修会等を開催している。定期的な研修会を通して、関係者の創業支援等に関する知識や見識が深まり、空き家等の活用も進んでいる。
令和5年10月第5回研修会では、空き家等活用の流れを加速させるため、創業希望者の計画実現に向けた支援として「起業・創業に係る意見交換」を行った。開業を予定する事業者が金融機関等に対し事業計画を発表し、金融機関等から直接アドバイスを受け、今後も相談できる関係構築につながった。
写真 意見交換の様子
CASE11
持続可能なまちづくりを目指しセミナーを開催
東海財務局
多くの地方公共団体では、持続可能なまちづくりが重要課題のーつとなっている。東海財務局では、これまで地方公共団体との連携により、国有財産を通したまちづくり支援や最適利用など、地域の課題解決に向けた取組を推進してきた。
令和5年4月には「先進事例から学ぶ 魅力的なまちづくりの秘訣を教えます」と題して、地方公共団体、地域金融機関を対象にまちづくりに関するセミナーを開催。金融、行政、民間の実務者から、まちづくりの先進事例を紹介した。セミナーを通じて、地域の課題解決に向けて多様な関係者と連携して取り組むノウハウなど、一過性でない持続的なまちづくりを行うための知見を共有できた。
本セミナーで登壇した岡崎市とは、これまでも職員交流や勉強会などで連携を図っていることもあり、令和5年5月、包括連携協定を締結。今後も地域の活性化に向け相互に連携して取り組んでいく。
参加者の声
まちをより良くするため直接交流の場を多く持ち、実際に市民の交流の場を生むに至った話は参考になった。
地方が抱える問題について、マネタイズを含めてどう解決するか分かりやすく教えてもらえた。
写真 岡崎市との包括連携協定の締結
CASE12
大阪・関西万博開催に向けた機運醸成の取組
近畿財務局
近畿財務局では大阪・関西万博に向けた機運醸成の取組を行っている。令和5年5月30日には、管内金融機関の取引先と高速道路SA・PAのテナント等との「第3回関西交通ネットワーク大商談会」が開催された。約180社が参加した商談会にて万博PRブースを設置し、機運醸成に貢献した。
また、万博参画に意欲がある事業者がチャンスを逃すことがないよう、万博会場への参加や自治体との連携など幅広い万博活用方法をワンストップで紹介するセミナーを令和6年1月18日に実施した。現地・オンライン合わせて約100名が参加し、第2部では個別相談会を実施。ワンストップで万博の参画を支援した。
さらに、令和6年3月12日には、万博出展を目指す企業がピッチを行い、コメンテーターのアドバイスを元に展示の魅せ方等の知見を深めるイベント「大阪・関西万博リボーンチャレンジピッチフェス」※を開催。現地・オンライン合わせて約180名が参加し、現地参加者を対象とした大交流会では盛んに意見交換が行われた。
※リボーンチャレンジとは、大阪ヘルスケアパビリオンへの出展を目指す中小・スタートアップを支援する事業企画
写真 第3回関西交通ネットワーク大商談会の様子
写真 万博活用セミナーの様子
写真 大阪・関西万博リボーンチャレンジピッチフェス
CASE13
東京大学と奄美大島内教育関係者との「つなぎ」の役割を果たす
九州財務局鹿児島財務事務所名瀬出張所
奄美大島で研究活動を行っている東京大学医科学研究所と同大大気海洋研究所は、地域との更なる連携を模索していた。そんな中、財務省と東京大学のつながりで令和5年10月と11月に奄美市で同大主催のシンポジウムが開催されるとの情報提供があった。同大から島内の教育関係者との連携を希望しているとの話があったため、鹿児島財務事務所名瀬出張所では、同大関係者の来島に併せて様々な地元関係者に声掛けを行い、意見交換会を開催した。
意見交換会を機に群島内の全ての高校が参画する「奄美群島高校探究コンソーシアム」が設立され、同大大気海洋研究所が支援することとなった。また、鹿児島県立奄美図書館において、両研究所のPR誌等の掲示などに関する話が進んだほか、同大医科学研究所の研究者による大島高校での講演の実施、地元エフエム局への出演等の成果が出た。さらに本取組の効果として、名瀬出張所において、大島高校での金融経済教育の場を設けるなど、地元関係者との良好な関係構築につながった。
写真 意見交換の様子
写真 高校サミットin奄美
写真 大島高校での出前講座
今後の取組について
財務局はこれからも、地域の様々な主体と連携 ・協働し、地域課題の解決に向けて創意工夫を凝らしながら、社会の変化に伴う新たなニーズに対応していくことで、希望ある社会を次世代に引き継ぐため 、地域経済の発展に貢献し、地域住民の皆様にとって役立つ組織となることができるよう、引き続き地域と積極的に連携していく。
なお、地域連携事例集は、財務省財務局のホームページで公開している。令和5年度は、9 つのカテゴリー、42事例を紹介している。また、財務局ごとの地域連携事例や取組方針等も同ホームページから閲覧可能となっている。 (大臣官房地方課)
地域連携事例集
https://lfb.mof.go.jp/renkei/jireisyu.html
全国財務局の取組
https://lfb.mof.go.jp/renkei/torikumi.html