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PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~ 35

韓国との研究交流強化
財務総合政策研究所 総務研究部 総務課長 川本 敦/国際交流課課長 田畠 秀高/同国際交流専門官 織田 史郎/同企画調整係長 福本 満

 財務総合政策研究所(以下、「財務総研」)は、途上国への技術協力の他、中国、韓国、インド及びベトナム等の研究機関との研究交流を行っています。足下では、日韓関係が改善される中、韓国の研究機関との交流強化に注力しています。
 今月のPRI Open Campusでは、財務総研のこれまでの韓国との研究交流の取組みを概観した上で、新たな交流先である韓国租税財政研究院(KIPF:Korea Institute of Public Finance)及び韓国国際金融センター(KCIF:Korea Center for International Finance)との関係強化の取組みを中心にご紹介します。

1.韓国との研究交流強化の背景
 財務総研は、2006年度から、韓国対外経済政策研究院(KIEP:Korea Institute for International Economic Policy)、中国社会科学院(CASS:Chinese Academy of Social Sciences)との間で締結した覚書に基づく日中韓3ヵ国ワークショップの開催を通じて、韓国の研究機関との交流を行ってきました。また、1992年から2012年までの間で、韓国企画財政部職員7名を客員研究員として受け入れてきました。他方で、日韓の研究機関二者間の交流は行われていませんでした。
 韓国は、隣国かつアジアにおける数少ないOECD加盟国として民主主義の価値観を共有する先進国である他、日韓両国は、米国との外交・防衛上の面から強固な結び付きがあります。また、財務トラックでも、昨年6月に7年ぶりに日韓財務対話が東京で再開されるなど関係を強化しています。
 こうした中で、在韓国日本大使館を通じて、KIPFが韓国有数の政府系シンクタンクとして、税制、財政政策等を研究の柱としており、財務総研と研究分野が重なる部分が多く、研究交流先の候補になり得るのではとの助言を得ました。また、2023年12月に4年ぶりに東京で開催した日中韓ワークショップにKIPFの研究者が登壇し、少子化への政策対応について発表されました。

2.日韓財務対話に向けたKIPFとの覚書締結に係る調整
 財務総研の国際交流課職員が2024年3月に韓国・世宗市に所在するKIPFを訪問したところ、先方のキム院長から財務総研との関係強化に積極的な感触を得るとともに、財務総研がIMF財政局及びADBI(アジア開発銀行研究所)と共催する国際会議Tokyo Fiscal Forum(TFF)への参加にも前向きな返事を得ました。また、併せて訪問した韓国国際金融センター(KCIF)の院長からは、6月に開催される先方25周年の国際会議への登壇のオファーを受けました。
 6月25日の日韓財務対話(ソウル)を控える中、6月3日、川本総務課長と国際交流課はKIPFを再度訪問し、キム院長と研究交流促進のための覚書(MOI:Memorandum of Intent)の締結に向けた協議を行いました。その中で、双方にとって、MOI締結後の具体的な取組みについて協議を継続することが重要であるとの認識を共有しました。
 そして、6月20日、渡部所長、川本総務課長以下4名でKIPFを訪問して、KIPFとの間でMOIを締結し、共同活動を通じて協力関係を発展させることに合意しました。また、渡部所長とキム院長との個別面談、KIPF内の各種施設の見学ツアー、双方の活動紹介、今後の協力方針についての意見交換を通じて関係を深めることができました。
 同年6月25日に崔相穆(チェ・サンモク)韓国経済副総理兼企画財政部長官と鈴木俊一財務大臣との間で開催された第9回日韓財務大臣級対話において、以下のとおり財務総研とKIPFとの覚書の締結を歓迎することが示されました。
10.両大臣は、6月20日に韓国租税財政研究院(KIPF)と日本財務省財務総合政策研究所(PRI)の間で覚書(MOI)が署名されたことを歓迎した。本MOIを通じて、KIPFとPRIは両国にとって共通の関心事項についての研究成果を共有する。両大臣はまた、将来、研究機関の間での更なる協力を模索することにも合意した。
 当方からオンライン会議にて初めてMOI締結を打診したのが5月10日、日韓財務対話は6月25日と、非常に短期間での調整が求められましたが、財務総研より、少子化等の日韓共通の課題への政策対応についての研究交流を提案し、先方の了解を得ることができました。
写真 【渡部所長(左)とキム院長(右)によるMOI署名式】
写真 【MOI署名式のグループフォト(韓国・世宗市、KIPF会議室)】

3.日韓双方のイベントへの参加・登壇(2024年6月)
(1)韓国国際金融センター(KCIF)主催国際会議(2024年6月4日)
 財務総研は、6月4日に韓国・ソウルで開催されたKCIF設立25周年を記念した国際会議*1への招待を受け、川本総務課長が登壇しました。
 川本総務課長はセッション2の「アジア経済の2大巨人:中国と日本~その経済予測と課題」において、パネリストとして、財務総研の「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」の議論等を踏まえて、日本の現状を説明しました。モデレーターから、日本の高齢化の経験について、生産年齢人口の減少と65歳以上の雇用増加が経済の生産性に与える影響をどのように評価するかについて問われ、適宜回答するなど当該セッションの議論に貢献しました。
写真 【登壇者の集合写真、川本総務課長は最前列の右端】
写真 【川本総務課長の登壇の様子】
(2)財務総研主催国際会議(TFF)参加とPRIセミナー(2024年6月5日~7日)
 財務総研は、6月5日及び6日にIMF財政局及びADBIと開催したTFFに、KIPFのウォン・ジョンハク・シニアフェローをカントリーゲストとして招聘しました。また、翌7日のPRIセミナーにおいては、ウォン・シニアフェローから、「韓国の財政運営と政策評価」をテーマに、1997年のアジア通貨危機を契機として予算編成において支出分野別に財源を事前に配分するトップダウン手法を採用したことや、成果管理制度やデジタル予算会計システム(dBrain)*2の導入等の取組みについて背景を含めて丁寧にご説明頂き、財務総研幹部との間で活発な意見交換が行われました。

4.今後の交流について
 財務総研としては、隣国かつ少子化等の共通課題を有する韓国の研究機関との間で経済状況や財政政策等の違いについて、互いに理解を深める関係を継続的に有することは有益であると考えています。
 本年6月25日に行われた日韓財務対話において、両大臣は、主要な共通の構造的課題としての少子化問題に対処するための政策対応を共有しました。一方で、新たにMOIを締結したKIPFとの間では、まずは、インフォーマルな形で少子化等の共通課題について両国の研究者同士で意見交換を行うこととしています。財務総研としては、こうした機会を捉えて双方の活動状況を報告する他、双方の主催する国際会議への招聘、往来時の意見交換といった水平的交流を通じて、両機関ひいては両国にとって有益な関係を築いていきたいと考えています。
(以 上)
写真 【PRIセミナーの様子、写真左がウォン・シニアフェロー】

プロフィール

財務総合政策研究所 総務研究部 総務課長
川本 敦
2004年財務省入省。世界銀行シニアエコノミスト、総合政策課政策調整室長、国際局資金管理室長等を経て、2023年7月より現職。

財務総合政策研究所 総務研究部 国際交流課長
田畠 秀高
2005年財務省入省。在ニューヨーク総領事館、関東財務局等の勤務を経て、2023年7月より現職。

財務総合政策研究所 総務研究部 国際交流課
国際交流専門官
織田 史郎
1994年北陸財務局入局。2004年より財務省国際局勤務。JICAベトナム事務所、アジア開発銀行研究所等の勤務を経て、2023年7月より現職。

財務総合政策研究所 総務研究部 国際交流課
企画調整係長
福本 満
2019年東京税関入関。港湾、空港官署勤務を経て、2023年7月より現職。

財務総合政策研究所
POLICY RESEARCH INSTITUTE, Ministry Of Finance, JAPAN
過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html

*1) 国際会議には韓国企画財政部、韓国の中央銀行である韓国銀行、更には韓国銀行協会に加えて、AMRO(ASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス)、世銀等の国際機関、中国国家情報センター等も参加した。
*2) 韓国では、2007年に財政の全てのプロセスをオンラインで行い、国家財政情報を連結・分析する統合財政情報システムを構築。当該システムを用いて、国家財政計画の策定、予算編成、予算執行、国の財務諸表の作成、決算、成果評価等を行っている。