パリの生活、そしてマネロン・テロ資金対策
FATF Policy Analyst 楢舘 一生*1
FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)は、マネー・ローンダリング(以下「マネロン」という。)やテロリスト・テロ活動につながる資金の供与、そして、大量破壊兵器の拡散につながる資金供与を防止するための国際基準の策定と、基準実施の推進を目的とした組織であり、事務局はパリのOECD内部に置かれている。
筆者はFATF事務局にて、マネロン等対策のために送金に適用される基準の改訂作業に携わっており、それゆえ、着任以降、日常生活でも旅行中でも常に“Payment(ペイメント)”という言葉が頭にちらつき、様々な“Payment(ペイメント)”行為に関心を抱いて生活している状況である。
ペイメントについて、海外生活で体験したことや感じていることをお話させていただく前に、そうした視点の背景となる、FATFが取り組んでいるプロジェクトについて紹介させていただきたい。計40から成るFATF勧告のうち、勧告16は、金融機関が送金者の依頼に基づき送金を行う際、マネロン・テロ資金対策のためにとるべき措置を定めている。具体的には、顧客から依頼を受けた送金について、送金元となる金融機関(「仕向金融機関」とも呼ぶ。)は、送金者と受取人に関するどのような情報を送金メッセージに含めて、送金先となる金融機関(「被仕向金融機関」とも呼ぶ。)に伝達しなければならないか、そして、その送金メッセージに含まれた情報をもとに、中継金融機関を含め、送金に関わる金融機関はどのようなことを行わなければならないか、を定めた基準である。そして、送金メッセージに含まれるべき情報が不足している場合やマネロン等の疑いのある取引は、リスクに応じ、取引の中断・拒絶を含めた適切な処理を行うことを求めている。
当該基準(FATF勧告16)は当初、2001年の米国同時多発テロの発生を受け、テロ資金対策のための基準として策定されたものである。それから20年以上が経過し、人々が行う支払いや送金の様相はまったく異なるものになった。例えば、20年前には、スマートフォン片手に送金を手軽に行うことはできなかったし、現金やクレジットカード、公共交通機関のチケットをそれぞれ携帯せずとも、デジタルウォレットを利用してノンストップで支払いを行うことはできなかった。また、オンラインのマーケットプレイスに個人が売り主として参加し、モノやサービスを売ってその対価を受けるという行為は、現代ほど広く一般に行われれてはいなかった。
なぜ、当該基準が策定されてからの発展を想像することが意味を持つか。それは、この20年の間でペイメントに関わる多くのことが変わり、人々が行う支払い・送金とそれに応じてお金を受け取る行為の利便性が大きく高まった一方、ペイメント行為をサポートする様々なツールやサービス業者が出現し、銀行間のみでやり取りされる旧来の送金を想定した国際基準ではマネロンやテロ資金供与を企図した送金に有効に対応できないのではないか、言い換えれば、これまで適用されてきた基準が現在世界中で行われている多様なペイメントの在り方に沿ったものであるか、という問題意識を背景に、FATFは基準の見直しを検討している。
私にとって、そうした視点は決して仕事だけにとどまらず、日々の生活でもつきまとうことから、本稿では、パリでの生活を通じて「ペイメント(payment)」について感じることを紹介させていただきたい。
現金 vs カード
パリで生活をはじめ、一層、現金を持たなくなり、カード一枚だけポケットに入れて外出することが多くなった。それは、多くの場面において、パリでは現金での支払いは疎まれる行為であると感じていることと、また、仮にお釣りとして小銭をうけとっても、それを使う機会はなかなか巡ってこないため、小銭を受け取りたくない、という観念からである。FATFでカード支払いに関する議論になった際、ある出席者が「現代においてプラスチックのカードなんて持たず、みんなデジタルのカードしか持たないんだから」と発言したフレーズを聞き、プラスチックのクレジットカードを持ち歩くのは止めようかなと思うことはあったものの、不意に現金を必要としてATMでカードを利用したいという場面が訪れるかもしれないなどと考え、変わらずプラスチックのカードを持ち歩いている。「カード」と一口に言っても、支払いや送金に利用されるカードは、大別してクレジットカード、デビットカード、プリペイドカードが存在する。フランスでは、銀行口座を開設すると、Carte Bleue(カルトブルー)と呼ばれるクレジットカードとデビットカード、ATMカードの機能が一緒になったカードが発行されるケースが多いと聞く。同僚に聞いてみたところ、「普段、デビットカードの機能しか使わないよ」とのことで、フランスではデビットカードの利用が最もポピュラーなのかもしれないが、あいにく、私が口座を開設している金融機関ではデビットカード機能のサービスは行っていないようで、私が使っているカードは、クレジットカードとATMカードの機能を備えたものである。フランス国内では、いずれの金融機関が営むATMであっても利用の際には手数料を支払う必要はほとんどない。また、国境を跨いだ送金であっても送金先が単一ユーロ決済圏(SEPA)内であれば、特別な送金メニューを選択しない限り、送金手数料は無料である。他方、そうしたサービスを利用する対価として、毎月、一定額の口座維持手数料を払っている。
パリでの生活において、現金が多用される代表的な場面はマルシェでの買い物ではないだろうか。店舗により、一定の金額以上の購入でカード支払いが可能な店舗はあるものの、マルシェでは現金のみ使用可能なお店が多い。我が家でも、ATMを利用する一般的な機会は、マルシェでの利用にあわせて必要な現金をATMで引き出す場合である。
カードでの支払いが多くの割合を占めるフランスでも不測の事態のために現金を持ち歩いておいた方が便利なことは間違いなく、また、街角で出会うストリートパフォーマーに心動かされ、感謝の気持ちをと思っても現金がなければ気持ちを表すことはできない。パリ市内でのバス乗車時の出来事。シンガポールやロンドンとは異なり、パリの公共交通機関では、改札にてクレジットカードやデビットカードをかざしてタッチレス決済するノンストップ方式はまだ導入されておらず、チケットを購入するかチャージ式の専用カードでの乗車が必要である。ある時、バスに乗ってから、チャージ式のカードに残高が不足していることに気づいた。幸い、その日はポケットに2€コイン2枚を入れていたので、咄嗟に運転手にその2枚のコインを渡したのだが、これにより1.5€のお釣りが発生してしまった。運転手は小さなお財布を取り出し、その中から必死にお釣りを探し始めてくれたのだが、どうやら0.5€に合う小銭が見つからない。パリでは、小銭のお釣りを求めることは、求める方が悪いという感覚にかられるので、(そして、何より早く運転に集中してほしいので)お釣りは不要ですよ、と運転手にお伝えしたものの、その運転手は、車内マイクで他の乗客の方に、「0.5€の小銭もってる人、両替できませんか」と呼びかけてくれた。結局、乗客の中にはその呼びかけに対応できる方はいなかったが、その後も運転手は小銭を探しつづけてくれ、どこから探したのか、いつの間にか0.5€コインを見つけて渡してくださった。
また、カード vs 現金で気にすることは、私の行きつけのパリの理髪店では、約3回に一回の頻度で「今日はカード決済端末が壊れているから。キャッシュ持ってなければ、すぐそこのATMでお金下ろしてきて」と言われ、その際には、いったん店を出てATMで現金を引き出してからお店に戻って支払いを行っている。あまりの頻度の高さに、本当に壊れてるのかなと少し疑いの気持ちも湧いてきたところである。
コラム1 SEPA送金
SEPAは単一ユーロ決済圏(Single Euro Payments Area)の略で、EU全加盟国(27か国)とイギリスやスイス、ノルウェーを含む非EU加盟国(9か国)を合わせた36か国の間で、企業や個人が、国内送金と同様に、簡便にコストをかけずにユーロ建ての送金・支払いを行うことを可能にする決済サービスの実施エリアを指す。SEPA圏内の金融機関に口座を有する人は、誰もがオンラインで気軽にSEPA送金を行うことができ、SEPA送金を行うために入力が必要な情報は主に、受取人の氏名とIBAN(国際銀行口座番号)のみである。即時送金のメニューを選ぶと、たとえ他国への送金であっても送金手数料が無料で、10秒以内に相手方の口座に着金させることができる。例えば、私はフランス語のレッスンをスペイン在住の先生に習っているが、SEPA送金を利用し、スマホでアプリを開く⇒送金元口座の選択⇒登録済みの送金先口座の選択⇒送金額の入力⇒confirmationボタンを押す、の10秒ほどの手間でフランスから他国(スペイン)の口座に送金を行っている。
写真1:賑わうマルシェの風景
プリペイドカード
マネロン等のリスクを論じる際、プリペイドカードについてはクレジットカードやデビットカードと議論を異にする部分は多い。一口に「プリペイドカード」といっても、それが表す対象は様々で、特定のサービスやmerchantに対してのみ利用可能な商品ギフトカードのような性格のものから、広くあらゆる支払いに対して使うことができるもの、ATMでの引き出しも可能なプリペイドカードまで千差万別といえよう。利用目的も様々で、例えば生活費のコントロールのため食費や日用品の支払いにはクレジットやデビットカードではなく、特定のプリペイドカードに一定額を移してその金額内で使うというアイディアもあれば、親がプリペイドカードを子どもに持たせ、定期的にプリペイドカードにチャージしてその範囲内で子どもにお金を使うことを許容するという使い方もできる。一般に、特定の銀行口座と紐づいて利用額が直接その口座から引き落とされるものがクレジットカード・デビットカードであるのに対し、特定の口座に紐づかず、カードにチャージされた金額の範囲内だけで利用できるのがプリペイドカードであるという整理ができ、そうした性格の違いを利用して両者を使いこなしている方は、少なくないのではないだろうか。
FATFは2013年6月、プリペイドカードに伴うマネロン等のリスクに対応するためのガイダンスペーパー*2を公表している。10年前の公表レポートであり、その時点からプリペイドカードのマーケットはダイナミックに変化していることに留意しなければならないものの、マネロン・テロ資金供与に関わるリスクという観点で言えば、このレポートが示唆することは現在も有効であると考える。プリペイドカードが備える、カード保有者・使用者の匿名性の高さやカードを第三者に移転することの容易性など、高い利便性と表裏一体でマネロン等に対する脆弱性が存在することを挙げている。フランス当局が2023年に公表したマネロン・テロ資金供与のリスク評価書*3でもチャージ式プリペイドカードについて同様のリスク要因を挙げており、カードへのチャージ額について制限を導入することなどを含め、リスクに対応していることが述べられている。
利便性を体験してみようと思い、フランスで気軽に手に入れられるチャージ型のプリペイドカードを購入してみた。カード発行会社のウェブサイトにて、氏名、住所、電話番号、メールアドレスを入力して、約10€でプリペイドカードを購入。2枚セットの販売オプションがデフォルトになっているのは、1枚は家族のうち誰かに持たせることが想定されているようである。数日でカードが自宅に郵送され、カード番号と同封されている別のコードをもとに、カードのactivate手続きをオンラインで完了させてから、いざプリペイドカードへのチャージを、と向かったのは近所のタバコ屋さん。私が住むアパートの近所のタバコ屋さんには、一日中、ひっきりなしに人が出入りしていることを知っている。なぜそれほどまでにタバコ屋が人気なのか。それは、フランスには愛煙家が多い(※国別で見ると、フランスの喫煙率*4はG7で最も高く、G20ではインドネシアに次いで2番目に高い)という理由だけではなく、パリの多くのタバコ屋は、ロトやスポーツくじ、馬券などの販売所でもあるため、賭け事に興じる人にとっても欠かせない場所であること、更には、プリペイドカードの発行やチャージの代行まで営んでいるからである。
タバコ屋のカウンターに行き、プリペイドカードにチャージしたい旨とその金額を伝え、支払いを行う。すると間もなく、(紙レシートのような)バウチャーが発行される。バウチャーには12桁のコードが記載されており、この12桁の番号さえ知っていれば、他人のカードに対してもチャージ可能である。つまり、私の知り合いが保有するプリペイドカードに資金を移転したいのであれば、バウチャーを購入して、紙に記載の12桁のコードを相手に伝えるだけで済む。
私は早速タバコ屋を出てプリペイドカードのアプリを開き、12桁のコードを入力して、直ちに自分のプリペイドカードにチャージした。チャージされたプリペイドカードは世界中どこでも国際カードブランドに加盟しているmerchantで支払いに利用でき、また、ATMでの引き出しにも利用可能である。一か月にチャージできる金額に制限はあるものの、繰り返しチャージすることが可能であり、また、当該プリペイドカードに対して口座番号(IBAN)を付与するサービスを選択すれば、他の銀行口座からプリペイドカードに付与された口座番号への送金も可能である。
話は変わるが、ギフトカードに近い用途でのプリペイドカードの利用例でいうと、米国に住む関係者とカード支払いへのFATF基準の適用について議論していた際、「子どもの学校の先生にプリペイドカードにお金を入れてプレゼントする際、FATF基準上、誰にどのような義務がかかるのか」と質問されたことがあり、「なるほど、先生へのギフトのため、あらかじめお金を入れたプリペイドカードを渡すという方法もあるな」と感じたものである。私も以前、プリペイドカードで餞別をいただき、とても感謝して使用させていただいたことがあることを思い出した。かくも、プリペイドカードは様々な場面で有効なツールとして使用されていることを感じている。
クラウドファンディング
FATFは、Crowdfundingを悪用したテロ資金供与を防止するためのガイダンスペーパー*5を2023年10月に公表した。同ペーパーは、Crowdfundingプラットフォームの正当性や有効性の一方で、それを悪用するテロリストやその支援者が、資金募集の目的や資金の最終的な受取人に関する情報、集めた資金の出所を仮装する等して、テロ資金を集めるツールとしてCrowdfundingプラットフォームを悪用しうるリスク要因を挙げ、それを防止するための取組例を提示している。
Crowdfundingツールを利用する場面、それは決して特別なイベントやプロジェクトのためだけではなく、日常生活でもCrowdfundingプラットフォームが活用される場面はよくやってくる。例えば、職場で同僚が退職する際、餞別や送別品購入のための資金を同僚から募る。その際はcrowdfundingプラットフォームを利用し、ポットに集められたお金は、そのまま相手が好きな用途に利用できるようオンラインでポットにお金を入れたままプレゼントするか、fund raisingを呼び掛けた人が一部資金を利用してプレゼンを購入し、残金はそのまま譲渡することが多い。
子どもが通う学校でもCrowdfundingプラットフォームの活用場面は訪れる。パリでは、クリスマスや一年が終わる際、先生に対して感謝の気持ちを込めてギフトを贈ることがあり、その際には、Crowdfundingシステムを利用して、クラスメイトの親同士で集金が行われる。また、特に幼児の場合、同級生みんなに声をかけ、子どものために誕生日会を盛大に開催することが多い。毎回、誕生日を迎えた子のために持ち寄るプレゼント選びに親は頭を悩ませることになるが、ある誕生日会では、その子どもの親御さんから、「プレゼントですが、我が家では○○(※誕生日を迎えたお子さんの名前)の誕生日にあわせ、ディズニーランドに行きたいと思っており、そのための資金を提供してくれたらうれしいです」と、fund raisingへの参加のお誘いの連絡が来た。こうした使い方もできるんだと気づかされるとともに、親として、誕生日会に参加するわが子に持たせるプレゼント選びに悩むことはないな、と少しほっとしたことがあった。
コラム2 パリのタバコ屋さん
オレンジがかった赤色のネオンが煌々と光るTabacの看板。パリの街を歩けば至るところで見かけるこの看板は、その目立つ色だけではなく、キャロットに似た愛らしい形ともあいまって、パリの景色を成す重要な存在であると感じる。1906年にフランス国内のすべてのたばこ販売店が、この看板を掲げることを義務付けられ、赤色でなければならないという拘束はないようであるが、明るい色でなければならないという決まりはあるようである。なぜ、フランスのタバコ屋の看板は、色も形もキャロットに似せた独特なものになっているのか。諸説あるようであるが、たばこの販売が拡大したフランス中世期、当時はたばこが葉っぱのまま売られ、それを噛んだり火をつけて楽しんでいたが、そのたばこの葉は筒状に紐で巻かれて売られ、その形がキャロットに似ていた、または、購入したその筒状のものをすりおろした上で使用する必要があり、その工程が人参をすり下ろして作るフランスの家庭料理の定番「キャロットラペ」を連想させるから、との理由が語られている。
なお、過去フランスでは、たばこ販売店の経営者らがたばこの値上げやたばこパッケージの変更に反対する抗議デモを行う際、道路や政党建物の前に自らのアイデンティティ(?)である人参を大量にばら撒くという行動に出たこともあったとのこと。
キャロット型の看板の形や文字はお店ごとにそれぞれ異なり、タバコ屋の看板にも意識しながらパリの街を散策するのも楽しい。
写真2:キャロットの形をしたタバコ屋の看板
パリの送金代理店
タバコ屋と並び、ペイメントに関して私が気になるパリの街中のショップと言えば、フィリピン食材店である。近所のフィリピン食材店は、特に平日の夕方や週末に行列が作られ、その行列の先を覗くと、狭い店内を進んだ奥に送金代行のための個別カウンターがあることに気づく。こうした、送金サービスのカウンターを備えたフィリピン食材店は近所にたくさんある。その他、携帯電話をはじめとするIT機器を扱う小スペースのショップでも送金代行を営むお店は多い。いずれも非常に小さな店構えであるがゆえ、所狭しと並べられた商品と一緒に、送金や両替が同じ場所で行われていることに大きな関心を持っていた。
百聞は一見に如かずということで、近所のフィリピン食材店での送金受取を試してみた。まず、大手送金事業者のアプリでアカウントを作成し、送金メニューを選ぶ。送金の受取人が住んでいる国を選ぶと、お金の受取方法のオプションが示される。例えば、受取人がA国に住んでいるとすると受取方法は受取人の銀行口座への入金か送金代行が行われているショップ等のカウンターでのキャッシュの受け取り(cash pickup)の2種類しかないが、受取人がB国に住んでいると受取人の銀行口座への入金やcash pickupだけではなく、デビットカードやモバイルウォレットへの入金、更には受取人の住所への配達というオプションまで表示される。つまり、送金の受取人が居住している国によって受取方法のメニューは異なり、また、送金額が大きくなれば、マネロン等への対策上、受取方法のオプションは限定される。
私は、送金事業者のアプリを通じ、フランスに住む受取人(自分)の氏名を入力し、受取方法は代理店でのcash pickupを選び送金してみた。Cash pickupを代行する事業者のステッカーが貼ってあるお店(送金事業代理店)であれば、送金指図をしてから数分もかからず、フランス全土のいずれの代理店でも送金が受取可能となる。
さて、いよいよ送金の受け取りである。近所のフィリピン食材店に行ったものの、あいにく送金サービスを利用する人で混み合う時間と重なってしまった。送金カウンターに続く列に並んでいる間、食材店に並べられた見慣れない品々を眺め、また、どこにメニューがあるのかわからなかったが、常連のお客さんたちが、店内で即席で作られる美味しそうな食べ物・飲み物を注文し、買っていく姿を見て待つ時間は楽しい(送金カウンターのスペースの中にまで、手作りの食材が並べられている)。カウンターに着いたら取引番号を伝え、身分証の提示と電話番号を伝えるなどして、難なく現金を受け取ることができた。
こうした送金サービスを利用するメリットは、コストやスピード、手続きの手軽さにあろう。他国への送金であっても、たった数分で相手は送金を受け取ることが可能である。特に、多額の送金を必要とせず、小規模な送金を繰り返し行う必要がある場合、送金や受取の手間がかからず、手数料も安いサービスは送金者にとって非常に役立つサービスであると実感した。
写真3:パリの街中で見かける送金代行を営むショップ
おわりに
2015年に発生したパリ同時多発テロ事件は、多くの人々にとって癒えることのない悲劇をもたらした。本年春にパリで行われたサッカー・チャンピオンズリーグの試合に対して過激派組織「イスラム国」によるテロの予告があったように、パリでは、常に、テロリストに狙われているとの緊張感を感じる。マネロン・テロ資金対策の使命は、野心的かつ効果的な国際基準の策定とその実施を追求することにより、社会に安心・安全な暮らしをもたらすことであると解釈している。他方、進化するテクノロジーを活用し、送金や決済を効率的に行うための金融サービスの発展は不可欠である。時に相反するそれらのテーマの間で、これからも様々な場面や土地で“ペイメント”について考えてみたい。
図1 SEPA:単一ユーロ決済圏
*1) 本稿の内容は、筆者の個人的な見解であり、筆者の所属する組織を代表するものではない。誤りがある場合はすべて筆者の責任である。
*2) FATF Guidance for a risk-based approach – Prepaid cards, Mobile payments and Internet-based payment services(June 2013)
*3) Analyse nationale des risques de blanchiment de capitaux et de financement du terrorisme en France, Janvier 2023
*4) WHO World Health Statistics 2023
*5) FATF Report – Crowdfunding for Terrorism Financing(October 2023)