日本におけるジョブ型雇用の展望
大臣官房総合政策課 調査員 田矢 祐樹/齊之平 大致
本稿では、日本におけるジョブ型雇用の展望について考察する。
ジョブ型雇用とは
・日本の従来型の雇用管理制度は、メンバーシップ型雇用と呼ばれており、対して欧米諸国ではジョブ型雇用が採用されている。
・メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の特徴については、濱口(2021)が図表1 メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用に示しているような、多くの違いがある。
・ジョブ型雇用のメリット/デメリットについては、経営者目線と求職者目線で以下(図表2 【経営者目線】ジョブ型雇用のメリット/デメリット、図表3 【求職者目線】ジョブ型雇用のメリット/デメリット)の通り整理している。一方で個々の企業環境や職務、求職者の状況に応じて、変化するものであることには留意が必要である。
(出所)濱口桂一郎「ジョブ型雇用社会とは何かー正社員体制の矛盾と転機」、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「ワークスタイル変革に向けた「ジョブ型」人事制度導入の視点と実践的工夫 With&Postコロナの人事制度」、三井住友銀行「https://www.smbc.co.jp/hojin/magazine/personnel/about-job-based-employment.html」、パーソルグループ「https://www.persol-group.co.jp/service/business/article/405/」
メンバーシップ型雇用の評価とジョブ型雇用への関心
・メンバーシップ型雇用のメリットが多く存在する(図表4 メンバーシップ型雇用についてメリットと感じるところ)一方で、課題として、「人材育成に時間がかかること」、「専門性が付きにくいこと」が挙げられている(図表5 メンバーシップ型雇用について課題と感じるところ(2020))。近年の人材不足やDX人材等の専門人材への関心の高まりから、ジョブ型雇用への注目が高まっていると考えられる。
求職者目線では、『エン転職』のアンケート調査によると全体で76%がジョブ型雇用に対して好意的となっている。(図表6 求職者におけるジョブ型雇用に対する評価(2021))
・一方で、求職者目線において、ジョブ型雇用では解雇が容易になるという懸念が考えられるが、これは日本では当てはまらない。欧米諸国では整理解雇が最も正当な解雇理由とされるため、職務の喪失が雇用解除に繋がる。日本では、解雇に関して実定法規定(図表7 日本における整理解雇を規制する法令の内容)に関わらず、労使慣行として発達したものが判例法理として確立されており、社内に配転可能である限り解雇は正当とされにくいためである。
(出所)株式会社リクルートキャリア「「ジョブ型雇用」に関する人事担当者対象調査2020」、労働契約法第三章第十六条、エン・ジャパン株式会社「https://corp.en-japan.com/newsrelease/2021/26845.html」、濱口桂一郎「ジョブ型雇用社会とは何かー正社員体制の矛盾と転機」、首相官邸ホームページ「https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/bunka/koyou_hearing/dai1/siryou2.pdf」
日本におけるジョブ型雇用検討状況
・日本では、ジョブ型雇用を採用している欧米諸国とは異なり、メンバーシップ型雇用を中心とした人事制度・運用が根付いており、雇用制度をジョブ型雇用に入れ替えることは現実的ではないと考えられる。(図表8 日本の従来型雇用制度と諸外国との比較)
2021年に日本の企業を対象に実施されたアンケート調査によると、ジョブ型雇用管理制度を「すでに導入している」と答えた割合は18.0%にとどまり、「導入を検討している(導入の予定がある)」と答えた割合は39.6%であった。(図表9 日本のジョブ型雇用 導入状況)
・上記のアンケート調査において、ジョブ型雇用管理制度を導入済あるいは導入予定があるとした企業からは、導入の理由として、「従業員の成果に合わせて処遇の差をつけたい」(回答割合65.7%)、「戦略的な人材ポジションの採用力を強化したい」(同55.9%)、「従業員のスキル・能力の専門性を高めたい」(同52.1%)などが挙げられていた。(図表10 導入の理由(2021))
・導入目的から推察すると、日本企業におけるジョブ型雇用の導入は、従来のメンバーシップ型雇用からの抜本的な変更ではなく、ジョブ型雇用の一部を取り入れて、メリットを享受したいというニーズが多いと考えている。
(出所)第一生命経済研究所「ジョブ型雇用の4つのエッセンスとは?~国際比較から紐解く「自社版:ハイブリット型雇用制度」構築のススメ~」、パーソル総合研究所「https://rc.persol-group.co.jp/news/202106251200.html」
日本におけるジョブ型雇用導入の展望
・ジョブ型雇用制度の限定導入を進める企業は、日本の労働市場に即した形を取り、人材マネジメント手法を、メンバーシップ型からジョブ型への変革を企図している場合が多いと考えている(図表11 日本企業における「ジョブ型」導入)
・日本企業が目指す雇用制度の方向性として、メンバーシップ型雇用制度という基礎を活かして、ジョブ型雇用のメリットを取り入れたハイブリッド型雇用制度という考え方がある。(図表12 ハイブリッド型雇用制度)
・上記を踏まえて、現在の企業と労働者が求めるニーズを鑑みると、企業は業種や職種ビジネス環境、導入する目的に応じて、どのようなジョブ型雇用のメリットを取り入れたいかを考え、従来型のメンバーシップ型雇用と組み合わせることを検討することが、重要となる。そうした人事制度設計・運用の検討を行っていくことが、日本企業の成長へとつながる人事制度のアップデートとなる可能性を秘めていると考えている。
(出所)各社HP、第一生命経済研究所「ジョブ型雇用の4つのエッセンスとは?~国際比較から紐解く「自社版:ハイブリット型雇用制度」構築のススメ~」
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。