このページの本文へ移動

租税犯罪等タスクフォース(TFTC)の概要と国際租税犯罪対策の展望

国税庁査察課 木村  元気*1

0.はじめに
 本年5月、パリのOECD本部で開催されたTFTC会合において、国税庁の武田一彦調査査察部長がTFTC議長に就任した。そこで、本稿では、TFTCの概要と2010年の創設以降の14年間を振り返るとともに、本年行われた第27回会合の概要をお示しすることを通じて、租税犯罪等に対する国際社会の取り組みの一端をご紹介したい。

1.国際租税犯罪とTFTC
 近年、国境をまたぐ巨額の消費税不正還付をはじめ、租税犯罪の国際化が著しい中、国際的に租税犯罪等に対処する枠組みの重要性が高まっている。そうした枠組みの一つに、経済協力開発機構(OECD)租税委員会(CFA)に属する会議体の一つであり、各国の租税犯則調査当局*2が執行面の議論を行う多国間枠組みである、「租税犯罪等タスクフォース(TFTC:Taskforce on Tax Crimes and Other Crimes*3)」がある。租税犯罪に関する執行面での多国間枠組みは他に類がなく、数あるOECDの構成体の中でも非常にユニークな存在である。
 構成国は、OECDメンバー国(38か国)及びアルゼンチンであり、実際の会合には、これらの国に加え、投票権や役職就任権がない参加国(中、印、星、伯、サウジアラビア等)、招待国(アフリカ諸国等)、オブザーバーの国際機関が含まれる。日本からは、国税庁査察課が参加をしている。
写真 TFTC会合の全体写真(議長は最前列中央)

2.TFTCの歩み:2010~2024
 TFTCは、租税犯罪が高度化・国際化する中にあって、税務当局も租税犯罪のみに着目するのではなく、テロ資金関連犯罪、マネーロンダリング、贈収賄等の凶悪な金融犯罪(Financial Crime)との関連も視野に入れていく必要性があるといった認識の下、2010年に設立され、前身であるWP8のサブグループ(マネロン等を議論)を改組する形でスタートした。当時は租税犯罪がマネロン罪の前提犯罪として注目を浴びた時期でもあり、TFTCの初期の議論は、前述のとおり、マネロンや贈賄等と租税犯罪の関わりを中心に行われていたようである。これらの議論は、2011年の第1回「税と犯罪に関するフォーラム」於オスロにおいて「政府一体アプローチ」(Whole of Government Approach)として打ち出され(オスロ対話)、その後、2012年の「租税犯罪及びその他の経済犯罪への対抗のための効率的な省庁間協力に関する報告書(Effective Inter-Agency Co-operation in Fighting Tax Crimes and Other Financial Crimes:ローマ報告書)」や「税務調査官・検査官のための贈賄・腐敗のハンドブック」等に結実する等、一定の成果を残した*4。また、同様の文脈で、2015年には、「疑わしい取引の報告(STR:Suspicious Transaction Report)」の活用方法等が議論され、報告書*5が公表されている。個別のセクターに関する研究も行われており、例えば、2013年には水産業における租税犯罪についての報告書*6が作成されている。
 一方で、2010年代半ばから国際的に注目の高まっている分野が、租税犯則調査及び租税犯の訴追に関する途上国への技術支援、いわゆるキャパシティビルディングである*7。この背景には、国際取引を通じた租税犯罪等を効果的に調査・訴追するためには、自国と経済関係が密接な周辺諸国との連携や、そういった連携の前提となる周辺諸国の調査能力・訴追能力も重要であるという(近年高まっている)認識がある。TFTCは、2017年に「租税犯罪と闘うためのグローバル10原則(Ten Global Principles to Fight against Tax Crime:グローバル10原則)」を公表(2021年に改訂、翌年、OECD理事会勧告として採択)し、以来、OECD加盟国のみならず、開発途上国を含むTFTCの参加国・招待国に広く同原則に基づく自己審査を求めている。同原則は、
・ 租税法違反を刑事罰の対象とすること
・ 租税犯罪に対処するための戦略を策定すること
・ 明確に示された責任を持つ組織体制と、適切な人員及び国内・国際協力のための効果的な枠組みを整備すること
等、効率的かつ効果的に租税犯罪を防止、発見、調査(捜査)、訴追し、その収益を回収するための基本原則を規定するものである。自己審査の結果はOECDのホームページ上で公表される(執筆現在、51か国の自己審査報告書が公表されている)*8。同原則はいわゆるソフトローであり、拘束力のあるものではないが、効果的な租税犯罪対策の国際水準を示したものとなっており、足下でも途上国支援に活用される等、有意義な指標となっている。
 また、キャパシティビルディングに関するOECD全体のプログラムとして、先進国と途上国がペアとなり、集中的に途上国の税務調査に関する能力改善を行う「国境なき税務査察官(Tax Inspectors Without Borders-Criminal Investigation(TIWB-CI))」プログラムや、途上国等の租税犯罪調査官(査察官)に実践的な調査に係るノウハウの伝授を行う「OECD租税犯罪アカデミー」が開催されており、これらについてもTFTCの場で議論が行われてきた。特に、後者のアカデミーについては、日本の貢献も特筆してよい。当該アカデミーは2013年に発足したものであるが、イタリア財務警察が主催の全世界を対象とした当該アカデミーに加え、設立順にアフリカ(ケニア)、ラテンアメリカ(アルゼンチン)、アジア太平洋(日本)、南アジア(インド・本年よりパイロットプログラム実施)の4つの地域アカデミーが存在*9し、租税犯罪と戦う国際的な取組みの支援を行うために、それぞれの地域における査察官の教育に尽力している。日本は、2019年から「OECDアジア太平洋租税・金融犯罪調査アカデミー(OECDアジアアカデミー)」として、これまでに、アジア太平洋地域約30か国の政府当局の租税金融犯罪調査官及び関係する職員等約500名(いずれも累計)を受け入れている。日本の査察官も受講生として参加しているほか、査察部中堅職員による特別講義も行っており、OECD及び受講生から極めて高い評価を受けているところである。もちろん、当該アカデミーは貢献活動であるのみならず、特に日本との経済的つながりの強いアジア太平洋諸国とのネットワーク形成にもつながりうる活動と考えられる。
 2010年代後半からの傾向として、もう1点指摘できるのが、インフォーマルなネットワークへの関心の高まりである。2016年のパナマ文書、翌年のパラダイス文書は、国境を越える悪質な租税回避・脱税の存在と、グローバルな対策の必要性に再びスポットライトを当てる結果となった。この文脈で、2017年のForum on Tax Crime(TFTCの派生会合)においては、脱税請負人(Professional enablers)の役割が大きいこと、税務当局間で国際的にビッグデータを共有していく必要性、等が強調された。これを受け、一例として、米・英・蘭・加・豪の5か国の査察部長は「Joint Chiefs of Global Tax Enforcement(J5)」を設立し、2018年6月の初回会合以来、毎年1回以上の会合を行っている。J5は、当初の目的である迅速・大量の情報交換を行うほか、データ活用・暗号資産等に係る技術開発及び研修、強制調査における共助、銀行等への民間セクターへの共同での働きかけ等も行っており、査察行政協力の一つのモデルケースとなりうる存在と考えられる*10。
 TFTCの場における日本のプレゼンスは、近年飛躍的に高まってきた。日本が本格的に議論に参画するのは2012年頃からであるが、これは、この頃、当該会合の担当部局が国税庁国際業務課から査察課に移管され、より現場の状況等を踏まえた議論が容易になったことや、浅川副財務官(当時)が2011年にOECD租税委員会議長に選出され、その間接的な影響の下、日本に求められる役割も増大したことによると思われる。日本の貢献の認知度を上昇させるうえでは、2013年に日本が初めてビューロ(幹部会)メンバーに選出され、上述のSTR関連の報告書作成に携わったことや、2019年に上述のアジアアカデミーのホスト国となったことも有用であった。また、国内的には、2017年の組織犯罪処罰法改正による租税犯の前提犯罪化等、議論の前提となる法整備が進んだことも背景にあったと考えられる。
 そういった中で、2024年3月には、精力的にTFTCの地位向上に努めてきた豪(Australian Taxation Office:ATO)のBrett Martin前議長が退任し、同年5月、第27回TFTC会合において、国税庁の武田調査査察部長が、主要国の積極的支持を受け、全会一致の信任プロセスを経て、議長の任を担うこととなった。これまでの14年間の議長は全て欧米系(ほとんどが英語圏)であったが、OECD非加盟国の存在感の上昇や国際機関間の競争を背景に、OECD全体で包括性(inclusiveness)を重視する流れがあり、非欧米圏から一貫して議論に貢献してきた日本の指導力への期待は大きいと考えられる。

3.第27回TFTC会合の概要
 TFTCの第27回会合はパリのOECD本部で5月28日・29日の2日間にわたって行われ、30日にはスピンオフ会合であるTax Crime Enforcement Network(TCEN:後述)が行われた。近年、コロナ禍によるオンライン化もあり、TFTCでは実務者級による技術的議題が中心となってきたが、今回会合では、これまでの活動の棚卸しと今後の戦略を議論すべく、各国の租税犯則調査機関の長(日本の調査査察部長に相当)の対面出席を求めた(例えば、米・内国歳入庁犯罪調査部(IRS-CI)チーフ、英・歳入関税庁(HMRC)犯則主席捜査官、星・内国歳入庁(IRAS)の査察部長級等が出席)。
 会合の冒頭では、武田部長が租税委員会の承認を受けて正式にTFTCの議長に就任することが報告された。続いて、武田部長が就任スピーチを行い、
・ 税務行政の「最後の砦」である査察部門の重要性と、その国際協力の(事実上)唯一の場である当該タスクフォースの独自性・重要性、
・ TFTCをよりOECD非加盟国にも開かれたinclusiveな場とすることで、TFTCの重要性・実効性を今後も維持していく必要性、
・ 上記を達成するため、特にアジア太平洋・ラテンアメリカ・アフリカ諸国への積極的な参加の呼びかけや、キャパシティビルディング活動を一層強化していく重要性、
等を強調した。
 続いて、2日間にわたって個別の議題についての議論が行われたところ、議題の一覧は参考に掲載したものに譲り、以下では3つのポイントに分けて議論の大枠を概観したい。
(1)ネットワークの強化
 各国にとり、国際協力における最大のメリットの一つとして考えられるのが、租税条約等に基づく情報交換(Exchange of Information:EOI)の更なる活用であり、特に租税犯則調査の中では、要請に基づく情報交換(Exchange of Information on Request:EOIR)が重要である。国際的な租税犯罪については、一般に、いわゆる反面調査先が国外に所在するケースが想定されるが、執行管轄権上の問題で、各国は他国で自ら証拠収集を行うことができない。こういった場合の証拠収集手段として有効活用されているのが当該EOIRであり、日本の査察調査においても国際事案の調査・告発に重要な役割を果たしているところである。TFTCでは、同じOECDの枠組みの中の税務長官会合(Forum on Tax Administration:FTA)と共同で、EOIRのやり取りの迅速化・効率化に向けた議論や、自発的EOI*11の更なる活用に向けた議論を行っているところである。日本としても、前回会合でEOIの積極的な運用改善に向けたプレゼンテーションを行う等、この分野で貢献をしてきている。
 また、EOIがフォーマルなネットワークだとすれば、前述したJ5のような、インフォーマルなネットワークの重要性も議論されている。刑事裁判の証拠として使用する情報であれば、証拠能力上、EOIRを通じた入手が必要と考えられるが*12、実際に国際的な租税犯罪を調査する上では、それに至らない様々な情報の交換も重要となり得る。この観点で、今回のTFTC会合では、租税犯罪捜査当局間のインフォーマルなネットワーク形成に関する試みとして「租税犯罪執行ネットワーク(Tax Crime Enforcement Network:TCEN)」がスピンオフ会合として開催された。参加者は、租税犯罪捜査に従事する職員及び検察等の法執行機関であり、米国IRSのGuy Ficcoチーフが議長を務めた。日本からは小職が参加をしたところ、非常に有意義な取り組みであったと考えている。
 また、国によって税務当局等の業務の分掌は異なっているため、こういった国際ネットワークが十分に機能するためには、外国から得た情報を最大限活用できるよう、国内機関間で適切な連携がとられていることも重要となる。その観点から、今回のTFTCにおいては、財産回復(Asset recovery)に対する税務当局の取組みにスポットライトを当てた議論も行われたところである。
(2)キャパシティビルディング
 また、既に述べたように、キャパシティビルディングは近年TFTCが力を入れている分野であり、その背景には、途上国のSDGs政策に要する巨額の財源を賄うためには、まずは途上国自身の税務執行能力の担保が重要という発想がある。本年7月のG20財務大臣・中銀総裁会議(リオデジャネイロ)において採択された「国際租税協力に関するG20閣僚リオデジャネイロ宣言」においては、国内資金動員(Domestic Resource Mobilization:DRM)の重要性が強調されるとともに、前述のTIWBプログラム等、各種のキャパシティビルディングプログラムに言及がなされた*13。租税犯の確実な調査・訴追能力は、税務執行の最たるものである。TFTCとしても、既に述べたOECDアカデミーやTIWB-CI等の各種取組みの改善を支援するとともに、知見や成功例の共有を行うことで、先進各国にもプログラムへの参加を呼び掛けているところである。
 加えて、今回の会合では、TFTCが本年5月に公表した「租税戦略デザイン(Designing National Tax Strategy)」に関する報告書に関する議論も行われた*14。この報告書は、租税犯の効果的な調査・訴追体制を構築するにあたって、米・英等主要国の例を引きつつ、自国の直面している租税リスクの分析・事案選定における考慮要素等、「租税戦略」を当局が設定することの重要性を述べており、キャパシティビルディングの文脈で今後、参照すべき点が多いと思われる。*15
(3)知見の共有(新技術や特定のセクター等)
 今回のTFTCで議論された事項の3つ目は、実際の租税犯罪の捜査・調査に関する知見や情報の共有である。この文脈では、個別の事例研究、特定セクターにおける租税犯の事例の紹介、今後注視すべきリスクの共有、有効な調査・捜査手法の紹介、租税犯罪の類型(タイポロジー)等が行われた。特に今後議論を進めていくべき点として、新たな技術を悪用した租税犯罪等への対応や、逆に租税犯則調査においてそうした新技術を活用する方策等が挙げられたところである。
 また、知見の共有という文脈で言えば、重要なポイントとして、租税犯則調査部門におけるジェンダーバランスについても議論がなされている。前回会合では、ジェンダーバランスの確保の重要性について、
・ ジェンダーバランスの確保は、単に道徳的な議論ではなく、中長期的な租税当局のパフォーマンスを維持していくための議論。納税者からの信頼を維持していくためには、様々な声が等しく反映される組織である必要があるのではないか
・ 現状の男性中心主義は、今の仕事のやり方の自然な帰結。単に掛け声をかけるのではなく、仕事の在り方から見直す必要があるのではないか
等の指摘がなされ、TFTCのサブグループとしてGender Equality Action Groupが活発に活動を行っている。今回会合では、同アクショングループを主導する国々から今後の構想につき報告があり、議長である武田部長からも、日本の国税庁・調査査察部において、多様な職員が性別等を問わずそれぞれの事情・状況に応じて働きやすい職場づくりを目指した取組みを行っていることを紹介したところである。
写真 議事を進行する国税庁の武田部長
写真 OECD事務局メンバーと、武田部長(中央)、筆者(前列右から2番目)

4.おわりに:今後の展望
 租税犯罪は、特定の国家(地域)の国庫に対する犯罪であるという点で、様々な犯罪類型の中でも、本質的にドメスティックなものである*16。他方で、経済取引のグローバル化に伴い、租税犯の立証に必要な証拠が海外に存在することも有り得るし、また嫌疑者が、他国に課税権があるように仮装したり、国外に逃亡し、調査自体を免れる等して租税当局の手から逃れようとすることも生じ得る。そのため、海外当局との連携・協力は、日本の査察行政上非常に重要なものであり、これは各国にとっても同様であると考えられる。悪質な租税犯を追及する上での国際協力は、(リソースの問題等はあるものの)基本的にはプラスサムのゲームで、租税犯罪対策に「穴」のない世界を作ることが、結果的に自国の租税犯則調査の効率化にもつながると言って良いだろう。その意味で、TFTCの意義は今後も高まりこそすれ、低下することは無いと考えられる。
 中長期的な日本の査察行政にとって、租税犯罪対策に係る国際的な議論の進展の意義は大きい。その観点から、武田部長のTFTC議長就任は、日本が従来以上にその議論の中心的役割を担っていく好機と捉えている。特に、近年大きく注目を浴びている税務行政のキャパシティビルディングは、日本の得意分野であり、各国からの日本の貢献への期待も高い。OECDアジアアカデミーに象徴されるように、アジア太平洋地域の租税犯罪対策における日本の役割は特に大きく、また、我が国の国際租税犯罪の多くも、アジア諸国との取引を活用したものである。そのため、今後とも同アカデミーの参加国拡大や内容の充実を図っていく必要性は高いものと考えている。
 また、世界主要国の査察部長級が集まる当該会合は、国際的なネットワークの形成・強化に極めて重要である。今回の会合でも、武田部長が複数のバイ会談を行い、主要国当局との執行面での連携等について議論をしたところである。査察課としては、これらの機会を活用しつつ、端緒情報等の収集、先端技術を活用した調査展開、インフォーマルネットワークの活用を通じた事案処理等を強化していく考えである。
 最後に、税務長官会合(FTA)が2020年に発表している「税務行政3.0(Tax Administration3.0)」報告書*17に触れたい。同報告書は、各国の税務行政のデジタル化によりコンプライアンスが省力化され、「Tax just happens」という環境が実現されるという将来像を示しており、その中でノンコンプライアンスについて、「意図的かつ手間暇かかるものに収れんする」*18と述べている。その世界観をあえて租税犯罪の世界にも敷衍するとすれば、歓迎すべき現象として、いわば「バレてもともと」的な租税犯罪が相対的に実行困難になる一方で、租税犯則調査は、意図的に手間暇かけて脱税を行う者、すなわち今以上に積極的かつ巧妙な隠ぺい工作を行う租税犯を相手にせざるを得ないということだと考えている。そもそも従来から、日本の租税犯は「複雑・巧妙化している」とされており、例えば消費税の不正還付のように、より詐欺的な色彩の強い事例も目立つようになっている*19。その中で、さらにその傾向が進展していくとすれば、当局の側もそれに対応した能力を戦略的に身に付けていく必要がある。国際的な租税犯罪への取組みは、息の長い投資であり、数年では必ずしも目に見える成果にはつながり難いかもしれない。他方で、こういった取組みは、長い目で見れば、国税当局の租税犯の訴追能力の向上に大きな影響を与えうるであろう。グローバル化が進展する中、TFTCでの議論や取り組みに継続的かつ積極的に参画し、査察の国際調査能力を維持・向上させ続けることが、結果的には査察における着実な国際事案の立件・告発に繋がることになる。真に悪質な脱税者を見逃すことなく、査察の使命である「一罰百戒」を実現していくことが、今後の査察行政、ひいては税務行政にとって極めて重要である。
(以上)
写真 武田部長と米・内国歳入庁(IRS)のGuy Ficco査察部長(Chief of Criminal Investigation)
写真 武田部長とシンガポール内国歳入庁(IRAS)のHan Hsien Low部長(Assistant Commissioner, Investigation &Forensics Division)

*1) 本文中の意見は筆者個人の見解を示したものである。また、本稿を執筆するに当たり、査察課審理2係長の櫛引友里香氏に大きな助力をいただいた。この場を借りて感謝申し上げる。
*2) TFTCにはイタリア財務警察等の犯罪捜査当局も参加しているが、本稿では便宜上、国税庁が一次的に犯則調査を行う日本の制度を踏まえ、Tax Criminal Investigationを「租税犯則調査」と訳している。
*3) 足元で、明確化の観点からTaskforce on Tax Crimes and Other Financial Crimesに改称すべきとの議論があるが、本質的な点ではないため、本稿では触れない。
*4) 他方で、省庁間の協力を議論するに当たっては、各国ごとに異なる制度的な制約・限界や、そもそも省庁間の信頼関係といった無形の要素も前提となる。この点、税務当局としては納税者の秘密の重要性(守秘義務)とのバランスに配慮することが必要であり、我が国を含め、各国ごとに異なる制約・限界を前提とした議論を行ってきたことに留意する必要がある。
*5) OECD(2015), Improving Co-operation between Tax and Anti-Money Laundering Authorities:Access by Tax Administrations to information held by financial intelligence units for criminal and civil purposes
web-archive.oecd.org/temp/2015-09-21/372247-improving-cooperation-between-tax-and-anti-money-laundering-authorities.htm
*6) OECD(2013), Evading the Net:Tax Crime in the Fisheries Sector report, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/9338d9b5-en.
*7) かのシャウプ博士が戦後間もない日本に勧告したことの一つが租税犯罪の着実な調査・訴追であったことを考えれば、途上国の財源確保策を考える上で、租税犯罪対策は一貫して重要なパーツであることは理解しやすいであろう。
*8) OECD(2024), Fighting Tax Crime – The Ten Global Principles:Country Chapters, May 2024, OECD, Paris,
https://www.oecd.org/tax/crime/fighting-tax-crime-the-ten-global-principles-country-chapters.pdf.
*9) さらに、アフリカにおけるフランス語圏の諸国へのアカデミーの構想も現在議論中である。
*10) IRS(2024), The J5 Report, http://www.irs.gov/pub/irs-ci/j5-report-7-25-2024.pdf.
*11) 他国からの要請を待つことなく、他国に課税権があると思料される事案に係る情報を自発的に共有する情報交換の一類型。
*12) また、税務職員の守秘義務との関係で許される情報交換であるかどうかも前提となる。
*13) Third G20 Finance Ministers and Central Bank Governors Meeting(2024), 
https://www.gov.br/fazenda/pt-br/assuntos/g20/declaracoes/1-g20-ministerial-declaration-international-taxation-cooperation.pdf
*14) OECD(2024), Designing a National Strategy against Tax Crime:Core Elements and Considerations, OECD Publishing, Paris,
https://doi.org/10.1787/0e451c90-en.
*15) 同時に、この報告書では、(他のOECDの報告書同様)各国の法制度や社会情勢が異なる中で、画一的な解決策はあり得ない点も冒頭で指摘しており、直ちに当該報告書の内容全てを各国に適用すること等を目指したものでないことに留意する必要がある。
*16) 金子宏『租税法』(第24版)によれば、租税犯には国家の租税債権自体を直接侵害する脱税犯と、国家の租税確定権及び徴収権の正常な行使を阻害する危険があるとされる租税危険犯に分かれるとされているが、いずれの類型にせよ、特定の国家(地域)との結びつきが特に強い犯罪類型であることに変わりはないと考えられる。
*17) 同報告書自体については、他の記事で扱われている。例えば、国税当局の受け止めにつき、大柳(2023).「ファイナンス」令和5年10月号.
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202310/202310e.pdf
*18) OECD(2020), Tax Administration3.0: The Digital Transformation of Tax Administration, OECD, Paris. http://www.oecd.org/tax/forum-on-tax-administration/publications-and-products/tax-administration-3-0-the-digital-transformation-of-tax-administration.htm
*19) 国税庁(2024)「令和5年度 査察の概要」
http://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2024/sasatsu/r05_sasatsu.pdf