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時代のニーズに合わせた貿易の円滑化へ「国際物流の動向を踏まえた保税制度のあり方」をとりまとめ


 保税制度は、江戸時代の「借庫規則」にその端を発した歴史ある制度で、平成9年に自主管理制度へ移行、現在の保税制度の根幹が確立された。その後も、平成19年から平成20年にかけての保税分野におけるAEO(認定事業者)制度の導入や平成23年の輸出通関における保税搬入原則の見直しなど、時代の変化に応じて必要な見直しを行ってきた。
 近年においても、輸入貨物の急増や物流業界の人手不足、港湾・空港分野における国際競争の激化等、保税制度を取り巻く国際物流の動向が大きく変化しており、こうした動きに併せて、保税業務における手続きの簡素化をはじめ、
保税制度に対するニーズや課題に関する様々な声が寄せられるようになった。
 このような状況を踏まえ、財務省関税局では、厳格な水際取締りの水準を維持しつつ、多様なニーズに応え、貿易の円滑化を図るため、「国際物流の動向を踏まえた保税制度のあり方について」をとりまとめ、令和6年6月14日に公表した。今号の特集では、とりまとめの概要について紹介する。取材・文 向山 勇

保税制度の変遷
写真 ▼かつて税関の保税倉庫として活用された横浜の赤レンガ倉庫
写真 ▼現在ではコンテナヤード等が指定保税地域となり国際物流を担っている
写真 ▼保税展示場を活用した国際的なアートフェア「Tokyo Gendai」

保税制度の見直しの背景
物流の変化に伴い、ニーズや課題も変化時代に即した制度・運用が求められる
アートフェア等の開催をはじめ制度の新たな活用事例も登場
 保税制度はこれまで、コンプライアンスの体制が整備された事業者にベネフィットを付与する「AEO制度」の導入をはじめ、貿易の円滑化や水際取締りに関する様々な施策を展開してきた。保税地域は、そのニーズに応じて活用の幅が広がり、インバウンドの増加に伴う市中保税売店や到着地保税売店のほか、近年は保税地域におけるアートフェア等の開催をはじめ、制度の新たな活用事例も登場している。
 一方で、現行の制度・運用に対しては、手続きの簡素化をはじめ、様々なニーズが寄せられている。国際的な物流の拡大、社会経済全体のデジタル化の急速な進展等、保税制度を取り巻く環境が益々変化する中、時代に即した制度・運用の見直しが求められている。
column 保税制度とは
 外国から到着した貨物を国内に引き取るためには、税関のチェックを受け、関税や内国消費税などの税金を納めた上で、税関長から輸入の許可を受けなければならない。輸入の許可を受ける前の貨物を、「外国貨物」という。この外国貨物を蔵置、加工・製造、展示、運送等を可能とする制度のことを保税制度という。保税制度によって貨物を税関の監督下に置くことにより、秩序ある貿易を維持し、関税等の徴収の確保を図るとともに、貿易の振興等に寄与することができる。
 税関による輸出入の許可は、貨物を「保税地域」(税関長の許可等を受けた倉庫や工場等)に搬入してから行うこととされており、これにより、輸入許可前や輸出許可後における貨物のすり替え等の防止を図っている。また、保税地域では、輸入貨物に係る関税等の徴収を留保した状態で保管、加工、展示等を行うことができるため、加工貿易や展示会・博覧会等に活用されている。

保税制度の課題
不正薬物の押収量は深刻な状況にあり保税制度の果たす役割はより重要に
港湾・空港分野の国際競争激化で保税制度の改善・活用がより重要に
 近年、輸入越境電子商取引(EC)の拡大に伴い、輸入許可件数が急増しており、海上貨物は、平成30年から令和5年の6年間で2.3倍に増加している。反面、物流分野においては、人手不足や労働生産性の低さを背景とした課題(いわゆる「2024年問題」)が顕在化しており、政府一体として取組が進められている。
 更に、港湾・空港分野における国際競争が激化する中、国際競争力の強化に向けた港湾・空港の機能強化に関する取組も進んでおり、国土交通省が令和6年2月に公表した「新しい国際コンテナ戦略港湾政策の進め方検討委員会 最終とりまとめ」においても、「集貨」「創貨」の取組の一環として、保税制度の改善や活用について言及されている。
 一方で、令和5年の税関における不正薬物の押収量は2トンを超え、極めて深刻な状況となっており、不正薬物の国内への流入防止など、厳格な水際取締りの実施にあたり、保税制度が果たす役割は大きい。

「保税制度のあり方」の概要
3つの「保税制度のあり方に関する基本方針」と3つの具体的な施策例を公表
厳格な水際取締りを維持しつつニーズに合わせた貿易の円滑化を推進
 保税制度を取り巻く国際物流の動向の変化に対応するためには、税関の3つの使命である「安全・安心な社会の実現」「適正かつ公平な関税等の徴収」「貿易の円滑化」を踏まえ、厳格な水際取締りの水準を維持しつつ、多様なニーズに応え、貿易の円滑化を図ることが求められる。
 また、保税制度の利活用による企業の国際競争力の強化や地域経済の活性化等を通じ、我が国経済に貢献するとの観点も重要である。経済連携協定等が進展する中、我が国が目指すべき国際物流の方向性も踏まえ、その受け皿となるような制度・運用が求められる。こうした認識のもと、
●利用者の利便性向上:保税業務における手続きの簡素化等を進め、利用者の利便性向上を図る。
●保税制度の利活用促進:我が国経済に貢献する観点から、保税制度の潜在的なニーズの発掘を進め、制度の利活用促進を図る。
●厳格な水際取締り:保税地域に係る検査・取締りの高度化・効率化により、厳格な水際取締りの水準を維持する。
の3点を「保税制度のあり方に関する基本方針」と位置づけ、さらに、
(1)規定・運用の見直し
(2)手続きのデジタル完結
(3)利便性の向上に資する体制の整備とマインドの醸成
を具体的な施策例として掲げた。3つの具体的な施策例は次ページ以降で紹介する。

具体的な施策例(1)
水際取締りの水準を維持しながら、利便性の向上へ規定・運用の見直し
(1)規定・運用の見直し
 保税関係手続きについて、水際取締りの水準を維持しつつ、簡素化の余地があるものや対応が平準化されていないものについて、利用者の利便性を向上する観点から、規定・運用の見直しを図る。
トランシップ貨物の増加に対応し手続きの簡素化などをさらに推進
 見直しを行った手続きのひとつとして保税地域における工事に関する手続きがある。保税地域の施設や設備が多岐にわたることもあって、その取扱いにバラツキがみられ、事業者から簡素化や平準化を望む声が寄せられた。このため、手続きの対象となる工事について明確化を図るとともに、災害等により速やかに復旧工事に着手する必要がある場合には、税関に連絡の上、手続きする前に工事に着手することができるように運用の見直しを行った。
 このほか、積替(トランシップ)貨物への対応を進めていく。近年、我が国では、輸出入貨物だけでなく、日本を経由して第三国に向けて輸送されるトランシップ貨物の取り込みを進める動きがあり、特に港湾においては、混載貨物のトランシップに関する実証輸送等、新たな取組が始まっている。トランシップ貨物に関する税関手続きについては、本年の関税法基本通達の改正により、事業者の負担となっていた保税運送される貨物の価格の記載省略等、一部手続きの簡素化を図った。トランシップ貨物については、引き続き関係省庁・業界とも連携しながら、必要な対応を行っていく。

具体的な施策例(2)
手続きの実質的なデジタル完結を図りシステムの高度化・効率化を推進
(2)手続きのデジタル完結
 利用者の業務実態や技術の進展を踏まえた保税関係手続きの電子化のあり方を検討し、NACCSの利便性向上等により手続きの実質的なデジタル完結を図る他、保税取締り等の更なる高度化・効率化を図るため、システム上必要な対応を進める。
事業者へのシステムの利用の推奨やリーフレットによる広報・周知も
 保税地域の被許可者は、搬出入する貨物についての台帳を設け、適正な貨物管理を行う必要があるが、この台帳の保存に関する負担軽減の望む声が寄せられたことから、7月より、バックアップ・データを電子的に保存する場合に、クラウドサービス等を活用し簡易に保存することができるよう、運用を見直した。今後、メイン・データについても、負担軽減に向けた対応の検討を進めていく。
 このほか、空港間の混載トランシップ貨物の運送についてシステムで手続き可能とする等、新たなニーズや利用者に配慮した保税関係手続きの利便性向上のため、NACCSのプログラム変更等を含め、様々な対応を進めていく。
 また、手続きのデジタル化を進めていくため、事業者へのシステムの利用の推奨や、リーフレットによる広報・周知を進めるほか、申請者等の事情に応じ、WEB会議ツールや電子メール等の活用も進めていく。

具体的な施策例(3)
税関職員のマインドの醸成を進め“利用者が気軽に相談できる税関”を目指す
(3)利便性向上に資する体制の整備とマインドの醸成
 利用者からのニーズ等に対応するために必要な体制の整備や、税関(保税部門)職員のマインドの醸成を進めることにより、“利用者が気軽に相談できる税関”となることを目指す。
事業者が情報にアクセスしやすい「保税ポータル」を開設
 時代に即した制度・運用を実現するためには、税関の体制の整備やマインドの醸成も重要。利用者からのニーズを適切に汲み取り、手続きのボトルネック解消・ワンストップ化・平準化を図るとともに、保税地域の検査・取締りの高度化・効率化を進めるための税関の体制整備を進めていく。
 また、保税制度の利活用を促進していくためには、情報発信の強化も重要である。業界団体等に向けた制度の紹介やニーズのヒアリングのほか、保税制度の利用を考えている事業者等が保税制度に関する情報に対し、よりアクセスしやすくなるよう、本年5月20日に税関ホームページ内に「保税ポータル」を開設した。保税ポータルでは、手続き等に関する資料の提供に係る要望を踏まえ、これらの充実を図っていくほか、ニーズ収集の一環として「保税に関するご意見募集ページ」を設置し、保税行政に係る施策の検討の参考としていく。
保税ポータル:https://www.customs.go.jp/hozei/hozeiportal.html

具体的な施策の推進
とりまとめに基づき、適時適切に見直しを実施時代に即した制度・運用の実現へ
今後新たに顕在化する課題・ニーズにも必要な施策を検討
 具体的な施策例に位置づけられた施策については、着手できるものから速やかに進める。一方で、具体的な方向性について十分な議論が必要な施策については、今後予定されている港湾・空港施設等の整備・改修や、NACCS更改のスケジュール等も踏まえ、適時適切に見直しを行う。
 また、施策の検討にあたっては、貨物のセキュリティ管理とコンプライアンスの体制が整備された事業者であるAEO事業者との連携やベネフィットのあり方や、各種手続きがより円滑に行われるよう、「(1)規定・運用の見直し」と「(2)手続きのデジタル完結」を一体的に行う等の効果の最大化を図る観点にも留意していく。
 さらに、今後新たに顕在化した課題・ニーズについては、「保税制度のあり方に関する基本方針」を踏まえ、必要な施策を検討・推進する。
 保税制度は、秩序ある貿易を維持し、関税等の徴収の確保を図るとともに、貿易の振興等に寄与する制度として幕末に創設された。令和の時代において、国際物流の動向が大きく変化する中にあって、保税制度への期待やニーズは非常に大きく、多様化している。保税制度の利活用が、国際競争力の強化等を通じ、我が国経済に貢献するとの観点を踏まえ、とりまとめに基づき、時代に即した制度・運用の実現に努めていく。

図表 関係省庁、業界団体、事業者等からの保税制度に関する
主な要望・ニーズ
図表 保税地域の活用のイメージ
図表 航空・海上貨物の輸入許可件数の推移
図表 不正薬物の摘発件数と押収量の推移
図表 国際物流の動向を踏まえた保税制度のあり方について
図表 国際コンテナ戦略港湾における再混載の調査・検討イメージ
図表 第7次NACCSにおける検討事例(航空貨物における仮陸揚関連業務の改善)
図表 保税ポータル
図表 具体的な施策まとめ(イメージ)