「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」報告書をとりまとめました
財務総合政策研究所総務課長 川本 敦/前 総括主任研究官 鶴岡 将司/前 主任研究官 伴 真由美/研究員 大川 隼人
財務総合政策研究所(財務総研)は、2023年11月から2024年5月にかけて「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」を開催しました。
研究会では、日本における経済部門間の資金の流れに関する基礎的なデータを踏まえつつ、資金の受け手と出し手の構図、貿易における為替変動の影響度合いの変化、経常収支の構造変化、高齢化や労働市場の変化と家計貯蓄の関係、企業による投資行動の変化、日本経済の構造変化と成長に向けたメカニズム等、幅広いテーマに関する有識者からの発表等を踏まえて、参加者の間で活発な議論が行われました。研究会での発表内容や、それらを踏まえてとりまとめられた報告書は、財務総研のウェブサイトに掲載されています*1。
本稿では、研究会の座長を務めていただいた宇南山卓京都大学教授に、本研究会の議論で特に印象的だった点等について伺ったお話に加え、各委員のコメントをご紹介いたします。
宇南山座長インタビュー
宇南山卓 京都大学経済研究所教授/財務総合政策研究所特別研究官
2004年に東京大学で博士号(経済学)を取得した後、神戸大学准教授、一橋大学准教授、財務省財務総合政策研究所総括主任研究官、一橋大学教授などを経て2020年から現職。専門は日本経済論,経済統計学で、家計行動の分析や統計の質に関する研究に多数従事している。
1.研究会の狙いと期待
―宇南山先生には昨年度の「生産性・所得・付加価値に関する研究会」に引き続き研究会の座長を引き受けていただき、感謝しております。今回の研究会を開催するにあたりどのような問題意識をお持ちだったのでしょうか。
昨年の研究会の出発点は、日本における長期にわたる経済成長の低迷が生産性の低さによるものではないかという問題意識でした。しかし、研究会の議論を通じて明らかになったのは、生産性は必ずしも低成長の原因とは言えないということでした。むしろ問題は、生産性の向上が賃金上昇につながっていないこと、企業の収益が有効な投資につながっていないことと考えられます。そこで、今回の研究会では、生産された付加価値が分配され支出されるまでの過程での「資金の流れ」に注目し、日本経済の成長に向けた課題を改めて整理すると有益なのではないかと考えました。また、資金循環を通じて、これまで指摘されてきた日本経済の課題を相互に関連づけることができるという点でもマクロで見た意義のある議論ができるのではと思いました。
―研究会では、資金循環から見た日本経済の課題の例として、家計部門での消費の低迷、企業部門での内部留保の積み上がり、政府債務の増大、経常収支の黒字の縮小という4つの課題が指摘されました。資金循環からみれば家計部門・企業部門の資金余剰と政府部門・海外部門の資金不足という1つのバランスのあり方を別々に見るだけでは捉えられない面があるということでしょうか。
マクロ全体では資金過不足はゼロとなるので、家計や企業の所得をそのままに家計消費や企業投資を伸ばしたいとすれば、財政赤字を縮小するか経常収支を赤字化するしかありません。その意味において、これらの課題は相互に関係しており、別個に議論している限りマクロ経済全体として整合性のある解決方法が見つかる保証はありません。国債残高の累増が進んで財政の持続可能性が問題になる現在では、現状の資金循環の姿をどのように維持するかに議論が集中しがちです。一方で、個別部門のあるべき姿に関しては、資金循環の観点を無視して議論が進められています。必要なのは「どのような資金循環の姿が望ましいのか」を明らかにした上で、マクロ的に整合的に各部門の行動を議論することだと思います。
2.研究会における議論
―「望ましい資金循環」と現在の資金循環を比較したとき、家計部門についてはどのような見方ができるでしょうか。高齢化が進む中であっても、高齢者と女性の就業率の増加(図1 女性の労働参加率)により就業者数やマクロの所得が維持された一方で、消費は伸び悩みました(図2 実質雇用者所得と消費)。こうした状況については、どのように評価できるでしょうか。
労働者の数が増えたことで、マクロ的に見ると雇用者報酬が伸び、一方で消費が相変わらず弱いという状況が続いたために、結果的には貯蓄率はプラスの状態が続き、家計は資金余剰の状態が続いています。なぜ消費が伸び悩んだのかについては色々な考え方がありますが、河野氏は社会保障制度の持続可能性に対する懸念で予備的動機での貯蓄が増えたのではないかという評価をされていました*2。
今後の就業者数は、2040年にかけて400万人程度減少すると予想されています(図3 就業者数・就業率の推移と見通し)。その中で、今まで貯蓄主体であった家計がどのような動きになっていくのかは注目すべき点です。
望ましい資金循環という観点からは、日本経済の成長のためには、家計部門でもっと消費が増えて欲しいということは間違いないと思います。ただ、消費が単に増えると家計の資金余剰が減ってしまいますので、今度は政府部門で資金不足を減らしていく必要があり、そのためには家計と政府の間で給付と負担のバランスを変化させる必要があるということになります。これが1つ、今の日本の資金循環の中で変化を求められている部分だと思います。
家計の消費が増えて貯蓄が減る一方で政府部門の資金不足が十分に減らなければ、現在のマクロの資金循環のあり方は大きく変わることになりますので、それを何とか軟着陸させる必要があります。研究会では、労働市場の改革などを通じて家計の所得環境を改善することが最も有望な選択肢だと議論されました。
そこから逆算すれば、企業による積極的な投資が必要です。現状では日本企業の多くが国外では非常に活発に投資をしているようですが、それを何とか国内投資につなげていくべきだと思います。そうなれば企業部門も資金余剰を減らしていくことになりますが、それを増えた所得でカバーするというのが健全な姿だと考えています。
こうした資金循環の変化を考えなければいけないのは、今の資金循環の姿は持続不可能と考えられるからです。今、日本の家計部門は資産を非常にたくさん持っていて、金融資産は増え続けています。しかし、実は資産総額はそれほど増えていません。実物資産を金融資産に切り替えるという形で金融資産を増やしてきているわけです。それが要するに、国債として政府への資金の供給になっているわけです。家計は総資産を上回る金融資産を持つということはできませんので、必ずどこかでは資金循環のあり方は変化する必要があります。だからこそ、家計・企業部門がもっと消費や投資をできるような姿に資金循環が変わっていく必要があるのです。
―こうした家計部門や政府部門についての「望ましい資金循環」を実現するにあたって、企業部門についてはどのような見方ができるでしょうか。改めて、企業が果たす役割についてお考えをお聞かせください。
すでに家計の所得増加のためには国内での設備投資が必要であると指摘しました。戸村委員からも、企業部門は事業拡大のために銀行借入を伴って投資超過方向に動き、資金不足主体となることが期待されるとの意見がありました*3。しかし、実際には、海外直接投資によって国外でばかりリスクテイクがされてきたのが実態です。
研究会では、企業の成長が活発化し、日本経済全体の成長に結びつけるための提言もいくつかありました。田中委員からは、企業活動の最大の制約条件となっている労働市場の改革や、企業統治構造の改善が重要であり、また、海外直接投資と国内設備投資は代替的なものではないとの指摘がありました*4。さらに、松林委員からは、海外直接投資を通じた企業価値の向上が国内設備投資に結びつくメカニズムについて説明がありました*5。
いずれにしても、家計と企業、すなわち民間部門が、積極的に消費あるいは投資を行っていくことによって、資金循環全体の姿が変わっていく必要があると考えています。
―「望ましい資金循環」を考えるにあたって、海外部門との資金フローについては、研究会では、貿易における為替変動の影響度合いの変化(佐々木委員)や、経常収支の黒字が海外で留保されている点の指摘(唐鎌氏)がありました。財務総研からは、日本の対外直接投資の残高は諸外国(米・独・中・スイス)を下回り、対内直接投資はあまり増加していない点を指摘しました。研究会での議論から、国内部門と海外部門の関係についてどのように感じられましたか。
昨年の研究会後のインタビュー*6の際には、日本の企業がリスクをきちんと取っていないのはなぜかという疑問に対して、企業は投資活動自体はしているけれどそれは海外に行っているのではないかという話があり、その背景には為替レートが均衡水準よりも円高な状態だから海外に行った方が有利だという事情があるのではないかという問題意識がありました。均衡為替レートについては今回の研究会でも正面からは議論できませんでしたが、足元で為替レートが円安に振れていることのインパクトや背景については、河野氏や唐鎌氏、また佐々木委員が議論を提起されたと思います。
また、田中委員の議論などを見ていると、特に2010年代の前半は、国内設備投資と海外直接投資の代替関係が必ずしもあるわけではないということだと思います。そうではなく、松林委員の議論にあるように、真のグローバル企業は、利潤が取れそうならば国内・海外どちらでも投資するということなのだと思います。
―ここまで各部門のあるべき姿や課題についてお話しいただきましたが、これらを念頭においたときに、政府の役割については、どのような見方ができるでしょうか。
資金循環について議論する際に、政府の財政赤字をどうファイナンスするかというのが起点になることが多いですよね。しかし、政府部門のファイナンスのために家計と企業は貯蓄しろというのは、正しい解決策ではないと思います。
企業と家計がここまで話してきたような、自律的な望ましい姿になった時に政府部門の姿が決まってくるというのが自然な考え方なのではないかと思います。
したがって、政府の役割は、民間部門の所得と支出の循環を生み出していくために様々な政策を講じていくことにあると思います。
3.今後の課題
―今回の研究会の議論を踏まえて、今後必要とされる研究について、どのようなものが考えられるでしょうか。
高齢者の消費というのは1つのテーマとしてあり得ると思います。家計全体の消費をどう増やすかというときに、高齢者に増やしてもらうという発想です。高齢者が資産を取り崩さず消費が増えないという現象は世界各国で観察されていて話題になるのですが、実際、亡くなる間際の人の意思決定についての分析は進んでいません。その最大の理由がデータ、特に亡くなった時にどんな遺産を残しているかのデータがほとんどないのです。その意味では、最近始まった相続税の申告書データを使った研究には期待できると思います。高齢者の消費は、医療・介護の制度とも密接に関連していますし、なぜ遺産を残すのかといった観点を入れると、興味深いテーマになり得るのではないかと思います。
各委員のコメント
研究会に参加いただいた各委員から、報告のポイントや研究会全体を通じての感想などについてコメントをいただきました。以下、ご紹介いたします。
古賀麻衣子 専修大学経済学部教授
家計の資金余剰が今後どうなるかについて報告しました。現状で資産を多く持っているのは高齢者ですので、高齢世帯が増えるほど資産のストックは高水準を維持していくと考えられます。他方で、経済における変化に目を向けますと、例えば賃金カーブがフラット化したり、年金の所得代替率が低下することが家計部門の所得減少に効いて、それが貯蓄減少に効いてくると思います。その背景ですが、所得の変化に比べて消費の変化は緩慢であることが知られていますので、所得環境に対する重石が資金余剰の減少をもたらすと思います。資金循環と経済活性化というところに関しては、現時点の経済活動だけを考えると、消費が膨らんだ方がよいため、貯蓄や資金余剰は減ったほうがよいとなりますし、将来の経済成長を考えると、今ある資金余剰をいかに将来の資本ストック形成に活かすかが大切だと思います。それから、仮にこれだけ大きな家計の資金余剰が縮小するとしたら、どのようなケースがありえるのでしょうか。家計の資金余剰が減る反面で、政府の資金不足が減るケースを考えると、財政の資金不足の背景には、高齢化に伴う社会保障費の増加があるわけですから、社会保障の給付と負担のバランスが変化し、家計の負担が増える場合というのがあり得るかもしれません。しかしそれに国民が合意できるかは、なかなか難しく、負担増を受け入れるためには、家計の所得形成が盤石である必要があると考えます。この話は今後こうあるべきとか、こうなっていくだろうという話ではなくて、仮に資金余剰が変化するとしたらこういうストーリーが考えられるという話になります。
佐々木百合 明治学院大学経済学部教授
研究会ではこれまで行った2つの研究をアップデートして報告しました。1つ目が、日本全体を100ぐらいの産業に分けて、産業ごとに価格の影響、為替の影響、所得の影響をそれぞれ弾力性という形で輸出と輸入について見たものです。結果としては、リーマンショック後の2010年ぐらいを境に、若干構造変化が見られるということでした。今後、国内外の所得が同じように増えると仮定すると、輸入の方が増えがちで、どちらかというと貿易収支に関しては緩やかに赤字へ進んでいく可能性が見えました。2つ目が、特に為替相場の影響を取り出して、日本の輸入価格や日本のCPIに最終的に為替相場の影響がどのように出るのか測ってみました。為替相場が1%円安になると、0.02%ぐらいコアCPIが上がるという結果でした。要するに影響があるけれど、ものすごい大きいわけではない。ただ為替相場は非常に大きく動くときがありますから、累積すればある程度は大きくなります。研究会全体の感想ですが、経済学的に見て、なぜ日本が円安・物価安なのに、いろいろなモノが売れなかったのかというのが1つのキーワードかなと思っています。例えば労働が非常に安いのであればもっと海外に行けばいいとなります。なぜ行かなかったのか。情報がなかったとか、海外に行くよりは日本の方が快適に生活できるなど、いろいろな背景があると思います。円安は国内への直接投資とも関係があって、本来なら、外国が日本に支出することで、海外で得られないような安くていい労働・土地・環境を取得できるはずなのになぜ少ないのか考えると、文化、言語の問題のほか、いろいろな手数料といった問題があると思います。さらに、モノは安くて売れていますが、付加価値の高いサービスの輸出はそこまで増えていません。なぜそこが育っていないのかを考えて改善していくことが、日本の成長に繋がっていく鍵になると研究会を通じて考えました。
田中賢治 帝京大学経済学部教授
経済成長の観点からどのような資金循環が良いのかというと、企業が新しいビジネスに取り組み、投資を行い資金が流れていくのが望ましい形だろうと思います。しかし日本では1990年代の後半から企業部門が資金余剰になっている状況です。資金余剰・貯蓄超過ということはやはり投資がそこそこにしか行われていないということです。ではなぜ企業は国内でそこそこにしか投資を行わないのでしょうか。一番大きな要因には、日本経済の成長期待が弱いという点があると考えています。国全体で内需が弱い、だから儲からない国内で投資をするよりも、資金を海外に回して海外投資で儲けようというのが今の企業の姿になっていると思います。これは企業部門から見ると合理的な判断なのかもしれませんが、これだと日本経済が成長しないことになってしまいます。今世の中は大きなテクノロジーの変化があって、そのテクノロジーの変化の波に乗って、新しいビジネスをどんどん起こしていくことが企業に求められますがどうもそこが弱い。これは成長期待の弱さだけではなく、新陳代謝が弱いことも関係していると考えています。新しいビジネスを行うベンチャー企業が出てこない、ユニコーン企業が育ってこない。不採算部門に経営資源が張り付いてしまい国内全体でリソースのアロケーションがうまくいっていないのが大きな問題だと考えています。ここでボトルネックになっているのが労働市場だと思います。日本の労働市場は流動性に欠いていて、企業はなかなか自分たちの従業員のスキルの範囲内でしか新しいビジネスに取り組めないという側面もおそらくあるのではないかと思います。
戸村肇 早稲田大学政治経済学術院教授
財政赤字が増える結果として銀行預金が増えるという指摘があり、実は決済システムの理解としてこれは正しいという解説から私の報告は始まっています。それでは国債をどんどん出して問題ないのかと言うとそうではないという解説が続きます。国債が出ると預貯金は増える。ただ預貯金というのは家計の総資産の一部なので、家計の総資産は超えられません。総資産自体は対GDPで見ると横ばいですので、現状のように国債残高対GDP比がどんどん増えている状況が続くと、いつか国内消化の上限に達するという解説を決済システムの仕組みを踏まえてしています。国債の国内消化をしなくても問題ない国は基軸通貨国であるアメリカだけなので、日本も海外消化が必須になるような場合では、日本経済は途上国経済のように不安定化するという解説をしています。「政府の赤字は皆の黒字」という財政拡張のスローガンになぞらえますと、この「皆」は世界の皆です。政府の赤字で「皆」の黒字は作れますが、それは世界の皆が黒字になるということで、日本全体としては慢性的な経常赤字国になる。ひいては途上国のようになると言い換えることもできます。追加の論点として指摘したのは、インフレが起きるまで財政赤字を拡大していいという議論についてです。実はインフレが起きる代わりに輸入が増えて慢性的な経常赤字国になる可能性もあるので、インフレが起きるまで大丈夫と言っていると、やはり日本が途上国化してしまうことになるという解説をしております。日本は今、財政赤字からのキャッシュフローがメインの社会になっているわけですが、これを民間の借り入れからのキャッシュフローが循環していく社会に転換し、民間のキャッシュフローが日本の家計や企業の間でぐるぐる巡回する好循環を実現することが、足元の課題だと思っています。
松林洋一 神戸大学大学院経済学研究科教授
対外的な資金循環とマクロ経済の関係について報告しました。対外直接投資は拡大しているが収益は国内に還流しない。また対内直接投資はなかなか増えない。経済的な合理性に基づけば資金は収益の高い方に流れますので、資金循環としては、現在の動きというのは自然の流れなのかもしれません。したがってこうした対外的・対内的な投資、資金循環の流れの中でいかに国内成長を伸ばしていくかという課題は非常に難しいと思います。しかし、この研究会を通じて、実はその解決の糸口はないわけではないと感じました。ポイントは「時間をかけてじっくりと日本企業が真の意味でグローバル企業に進化していくこと」という点ではないかと考えます。具体的には、まず対外直接投資と国内成長についての関係です。対外直接投資の収益がなかなか国内に還流されず再投資されている。しかし、現地での増産増益には結びついていますので、それがその企業のいわば企業価値、会計上でいうと連結ベースの時価総額に的確に反映されるならば、実はグローバル企業全体としての価値が上昇しますので、それは国内設備投資の増加に結びつく可能性も十分あり得るだろうと考えます。ただし、その際には、いくつかの条件がありますし、今の現在の日本企業においては少しまだそこまでは至らない可能性もあります。中長期的に企業価値を上昇させていくためには、やはり企業自体がよりグローバル企業としての組織運営体に仕組みを変えていく、本社と海外子会社の関係の再構築のようなものが重要になってくると考えます。例えば、本社と海外子会社の運営は個別最適で、親会社と海外子会社を横串に刺すような全体最適を目指す経営システムにまで至っていないかもしれません。これを目指すには時間がかかります。この時間がかかることを丁寧に時間をかけて構築していくことによって、実は海外直接投資、企業価値、そして国内投資のリンクを太くすることは可能であると考えています。対内直接投資と国内成長の関係についてですが、対内直接投資は国内企業に貢献しないかというと、長期的には貢献し得ると思います。海外のグローバル企業の経営手法、経営の新しいビジネスモデルを日本企業が学ぶことを通じて、日本企業が練磨され、よりグローバルな企業として成長していく。それが究極的には日本企業の企業価値を高め、日本の国内成長にも貢献するというふうに考えています。
「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」の情報はこちらからご覧いただけます。
https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2023/junkan.html
※なお、本報告書の内容や意見はすべて執筆者個人の見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。
「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」報告書
「資金循環」とは、企業、家計、政府、海外といった経済主体の間での資金の貸し借りの状況を表す統計のことであり、経済の血液とも言える「お金」がどのように流れているかを示すものです。
本研究会では、生産された付加価値が分配され支出されるまでの過程での「資金の流れ」に注目し、日本経済の成長に向けた課題を整理することを目的に、日本における部門間の資金需給の今後の中長期的な変化の方向性や望ましい政策のあり方を検討しています。特に、個別の課題を日本経済全体の資金循環の観点から捉え、マクロ経済のバランスの中で位置付けることを意識して検討を行っています。それぞれの議論については、以下の各章にある報告をご覧ください。
(報告書目次)※肩書きは2024年6月時点
はじめに 宇南山 卓 京都大学経済研究所教授/財務省財務総合政策研究所特別研究官
第1章 資金循環と日本経済の構造変化
川本 敦 財務省財務総合政策研究所総務研究部総務課長
鶴岡 将司 財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官
第2章 マクロ経済理論から見た日本経済の資金循環表
齊藤 誠 名古屋大学大学院経済学研究科教授
第3章 資金循環の国際比較
伴 真由美 財務省財務総合政策研究所総務研究部主任研究官
篠原 裕晶 財務省財務総合政策研究所総務研究部財政経済計量分析室員
大川 隼人 財務省財務総合政策研究所研究員
小俣 喬尚 財務省財務総合政策研究所研究員
上酔尾 昂平 財務省財務総合政策研究所研究員
佐川 明那 財務省財務総合政策研究所研究員
西田 安紗 財務省財務総合政策研究所研究員
野村 華 財務省財務総合政策研究所研究員
第4章 国際通貨としての「円」の賞味期限―日本がアルゼンチンタンゴを踊る日―
河野 龍太郎 BNPパリバ証券株式会社チーフエコノミスト/
東京大学先端科学技術研究センター客員上級研究員
第5章 高齢化と家計資金余剰
古賀 麻衣子 専修大学経済学部教授
第6章 日本の賃金変化
川口 大司 東京大学公共政策大学院・大学院経済学研究科教授
第7章 企業行動から見た資金循環の論点
田中 賢治 帝京大学経済学部教授
第8章 海外直接投資の新たな潮流とマクロ経済:資金循環の視点から見た展望
松林 洋一 神戸大学経済学研究科教授
第9章 日本の貿易収支の要因分析と為替相場のパススルー
佐々木 百合 明治学院大学経済学部教授
第10章 円の需給環境と日本経済の構造変化
唐鎌 大輔 みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト
第11章 信用創造過程から考える日本の資金循環構造の変化と政府債務の維持可能性
戸村 肇 早稲田大学政治経済学術院教授
財務総合政策研究所
POLICY RESEARCH INSTITUTE, Ministry Of Finance, JAPAN
過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html
*1) https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2023/junkan.html
*2) 報告書第4章
*3) 報告書第11章
*4) 報告書第7章
*5) 報告書第8章
*6) 『ファイナンス』2023年9月号,pp.52-59