このページの本文へ移動

コラム 経済トレンド122

新聞事業の動向と在り方

大臣官房総合政策課 小守  菜々子/瀬尾  功


本稿では、日本における新聞の位置付けや、国内外の新聞事業を取り巻く環境とその対応例から、新聞事業の動向と在り方について考察する。

新聞事業の位置付け
新聞は、とりわけ日本において、マスメディア業界の中核を成してきた。
日本における新聞の発行部数は年間約3,085万部で、他の先進国と比して顕著に多い(図表1 先進諸国の新聞発行部数(2022年))。また、日本における新聞の情報信頼度は、他の先進国と比して高水準にある(図表2 先進諸国の新聞信頼度(2023年))。
日本では、情報源としての重要度において新聞はテレビやインターネットに劣後している一方、メディアとしての信頼度はインターネットを大きく上回り、テレビも僅差で上回っている(図表3 日本の新聞の重要度・信頼度(メディア間比較)(2023年))。
以上のとおり、日本の新聞は、発行部数において他の先進国を大きく上回る規模を有するとともに、信頼度においても高い水準を有しており、質・量ともに国内のマスメディア業界において存在感を発揮している。
(出所)日本新聞協会、国連、新聞通信調査会「第10回諸外国における対日メディア世論調査」、総務省「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」

新聞事業の現状(日本)
日本において重要な役割を果たしてきた新聞は、現在厳しい状況にある。人口減少を始めとした社会構造の変化やメディアのデジタル化・コンテンツの多様化を背景に、日本の新聞は発行部数・売上高いずれも減少が進んでいる(図表4 新聞発行部数・図表5 新聞社の総売上高)。
デジタル化に対応すべく、新聞社においても電子版・サブスクリプションサービスの提供や、自社サイトへの広告掲載等の取組を行っているものの、売上高のうちデジタル関連事業収入は1.6%に留まる(2019年時点)。
従来、新聞社は、販売収入と広告収入を主な収益源としてきたが、足元では、新聞事業等による「本業」での販売収入や広告収入の割合が減少する一方、その他の収入の割合が増加してきている(図表6 新聞社の収入構成の推移)。例えば、大手新聞社では、新聞事業を含むメディア・コンテンツ事業の赤字に対し、不動産事業の黒字をもって填補するかたちとなっているものもある。
雇用についても、新聞事業全体で減少傾向が続く。もっとも、電子メディア部門では従業員数は漸増している(図表7 新聞社の従業員数推移)。
(出所)電通メディアイノベーションラボ/電通総研「情報メディア白書2024」、日本新聞協会、株式会社朝日新聞社

新聞事業の現状(海外)
新聞事業は海外でも厳しい状況にある。世界全体の日刊紙の発行収入は減少している(図表8 世界の日刊紙発行による収入額推移)。その内訳を、デジタルと印刷による発刊で分けて見ると、日本の傾向と同様に、デジタル版の発行収入は伸びている一方、印刷版での発行収入が減っている。
広告収入を見ると、2019年から2024年までの5年間で約27%減少する見込み(図表9 世界の新聞の広告料収入)。
アメリカに絞って見てみると、アメリカでは、2005年に8,891紙あった地方紙のうち、1/3近くにあたる2,886紙が廃刊になっている(図表10 アメリカの地方新聞紙の数(2005年、2023年))。廃刊になった地域でも、印刷、デジタル、放送のいずれにおいても代替となる媒体が提供されていないケースが多く、地域によって情報アクセスの機会に差が出てしまうことが懸念される。
新聞事業の雇用についても、2005年と比較し、約1/3が減少した(図表11 アメリカの新聞事業の雇用者数)。新聞記者の雇用については、約60%も減少した(図表11)。
(出所)World Association of News Publishers「World Press Trends Outlook 2023-2024」、MEDILL School of Journalism, Northwestern University「The State of Local News 2023」

事業環境への適応による成功事例
海外でも新聞は苦境に立たされている中、アメリカの新聞大手であるニューヨーク・タイムズは、2023年決算において、売上高約24.3億米ドル/純利益約2.3億米ドルとなっており、いずれも過去5年間で最高の水準となった(図表12 ニューヨーク・タイムズの売上・利益)。特に、純利益は18年ぶりの水準となった。
ニューヨーク・タイムズは、2011年から電子版の有料化を導入するなど、デジタル化への対応を早期から進めてきた。ゲーム・料理レシピ等の報道以外のコンテンツの充実・多角化や、それらと新聞購読のパッケージ販売、動画・音声コンテンツ(ポッドキャスト含む)の強化によるマルチメディア化などの取組を行い、有料購読者数の増加を図ってきた(図表13 ニューヨーク・タイムズの取組例・図表14 パッケージ商品による読者の獲得状況(2023年12月末時点))。2023年末時点で紙・デジタル合わせて1,036万人の有料読者を抱え、うち970万人はデジタル関連の有料読者となっており、4年後の2027年末時点に総有料読者数1,500万人を達成する経営目標を設定している。購読料収益のほか、デジタル広告収益も増加させるため、生成AIを用いたターゲティング広告システムの開発を行うなど、広告収入面でもデジタルの活用を進めている。
足元では、購読料(サブスクリプション)収益・広告収益のいずれも、デジタルが紙媒体を上回っている(図表15 ニューヨーク・タイムズのデジタル収益の推移)。
(出所)ニューヨーク・タイムズ、各種報道
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。