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シ団引受方式入門-共同発行債と東京都債を事例に-*1

財務総合政策研究所 石田  良*2/東京大学 服部  孝洋*3


1.はじめに
本稿は、シ団引受方式(ナショナル・シ団方式)を説明することを目的としています。石田・服部(2024a, b)では市場公募地方債における、入札及び主幹事方式について説明しました。シ団引受方式は、歴史的に長く用いられており、現在でも多くの自治体で、5年・10年債の発行に用いられています。本稿ではシ団引受方式の概要を説明した後、その理解を深めるため、シ団引受方式を用いている共同発行債と東京都債の事例を取り上げます。
石田・服部(2024a)で指摘したとおり、一般的に、地方債といえばいわゆるローン形式を含む銀行等引受債なども含みますが、本稿ではシ団引受方式を説明することを目的としていることから、有価証券の形式をとる市場公募地方債を前提に議論を展開する点に注意してください。なお、筆者(服部)が記載してきた債券入門シリーズは、ウェブサイトにまとめて掲載してあります*4。

2.シ団引受方式
2.1 シ団引受方式とは
市場公募地方債の発行方式として、石田・服部(2024a, b)では、主に、シ団引受方式、主幹事方式、入札、さらにその組み合わせを紹介しました。歴史的には、統一条件交渉方式の下では、市場公募地方債の発行条件を決める際、総務省(自治省)が発行団体の窓口となり、金融機関から構成されるシンジケート団(シ団)と交渉を行っていました。その頃は市場公募地方債の発行条件(金利)はどの団体でも同一であり、そこでは総務省(自治省)とシ団が相対で交渉するシ団引受方式が取られていました。
その後、東京都とその他を分ける「2テーブル方式」が採用され、個別交渉方式が開始される中、東京都と横浜市が超長期債の発行に主幹事方式を導入したことを嚆矢に主幹事方式が普及していきました(石田・服部(2024b)を参照)。日本国債についても、歴史的にはシ団引受方式が用いられていましたが、2000年代の改革を経て、市場との対話を重視する入札制度へと移行しました(この詳細を知りたい読者は、齋藤・服部(2023)を参照)。
そもそも、引受(アンダーライティング)とは、発行体が債券を発行するのに際し、金融機関が一時的に当該債券を在庫として保有することで、投資家に販売する方法を指します。シ団引受方式も主幹事方式と同様、引受の一種と解されますが、主幹事方式では投資家の需要に応じて発行される債券の配分先が決まるのに対して、シ団引受方式の場合、各金融機関が引き受ける割合が既に決まっている点が大きな特徴です。例えば、国債の入札の場合であれば、高い価格(低い金利)で応札した投資家に多く配分されますし、主幹事方式においても証券会社を通じて高い価格(低い金利)で購入する投資家に多く配分されます。その一方で、シ団引受方式の場合、その割合が事前に固定されています。
その意味で、シ団引受方式の焦点は、シェアが予め決まっている中で、どのように金利(発行条件)を決めるかにあります。シ団引受方式では、発行体と金融機関(シ団)が相対で交渉して地方債の発行金利を決めます。具体的には、図表1 シ団引受方式のイメージのように、シ団は銀行を軸とした銀行団と証券会社を軸とした証券団で構成されます。典型的なシ団引受方式の流れとしては、銀行団と証券団の中にそれぞれ代表者がいて、発行体はその代表者と交渉するとともに、銀行団はシ団に含まれる銀行、証券団はシ団に含まれる証券会社の意見を集約し、発行体は、銀行団と証券団の代表者とコミュニケーションを行うことで、金利の交渉を行います。
銀行団と証券団で、引受の目的が異なる点にも注意が必要です。銀行は最終投資家であるため、当該債券をそのまま保有する可能性が高く、銀行自身が当該債券をどれくらい購入したいかということが金利に係る目線となります。その一方、証券会社は基本的には発行体と投資家を繋ぐ媒介です。証券会社が一時的に在庫で保有することもあるものの、基本的には引き受けた後、投資家に販売することが想定されるため、引き受けた後に販売する投資家が購入したい金利が応札の目線になります。もっとも、銀行についてもセカンダリー市場で当該地方債を売却することは可能である点に注意してください。

2.2 シ団引受方式が用いられる年限:主に5年・10年
現在の地方債市場では、主に5年・10年債についてシ団引受方式が用いられています。図表2 各団体の発行方式一覧は石田・服部(2024b)でも紹介した図ですが、これを見ると5・10年債についてはシ団引受方式が用いられる傾向があり、共同発行債(10年債)についてもシ団引受方式で発行されています。5・10年債にシ団引受方式が用いられている背景として、歴史的には地方債は5・10年債が中心であり、長い間シ団引受方式が用いられてきたことがあります。
前述のとおり、2000年以前は統一条件交渉方式であったことから、総務省とシ団で交渉した金利で地方債が販売されており、それが今でも継続していると解されます。一方で、2000年以降、地方債市場が自由化される中で、超長期債の発行など年限の多様化が行われていますが、新しい年限で発行される債券については主幹事方式が用いられる傾向にあります。

2.3 シ団引受方式におけるプレマ方式
シ団引受方式は「プレマ方式(プレマーケティング方式)」と表現されることもあります。これは実務家がシ団引受方式を指すときにしばしば使う表現ですが、条件決定においてプレマーケティングをすることから来ています。プレマーケティングとは、債券を発行する際、金利を決める(条件決定をする)前に、投資家の需要を証券会社がヒアリングすることを指します。その意味で、主幹事方式でもプレマーケティングは存在しますが、地方債の世界でプレマ方式という場合、シ団引受方式を指すのが一般的です*5。
シ団引受方式におけるプレマーケティングは、典型的には条件決定日の2営業日前から1営業日、実施します。銀行団と証券団は、発行体にプレマシートなどを通じて、自らが当該債券を引受けたい金利を提示します。それに基づき、発行体と引受団が交渉して金利を決めます。地方債の調達コストとなる金利は、一般的に「リスク・フリー・レート+スプレッド」に分解できますが、シ団と発行体で、金利における「スプレッド」の交渉を行い、条件決定日の夕方から夜にかけて、両者が折り合えるスプレッドが定まります。実際の債券の金利は、スプレッドが決まった後、前営業日のBBの引け値をリスク・フリー・レートとして用いて算出します(BBの引け値については服部(2023)の3章を参照してください)。
注意すべきなのは、起債する前に投資家へヒアリングするプレマーケティングそのものは、シ団引受方式だけでなく主幹事方式でも行われている点です。主幹事方式の場合、「主幹事プレマーケティング」と呼ばれています。

2.4 シ団引受方式と主幹事方式の違いの整理
ここで、シ団引受方式と主幹事方式の違いを整理しておきます。主幹事方式の説明については石田・服部(2024b)を参照してください。
債券市場における普及度合い
シ団引受方式は、今では主に地方債で用いられている方法である一方、主幹事方式は、社債など(国債を除く)債券全般で広く用いられています。
販売方法の違い
前述のとおり、シ団引受方式だと金融機関が引き受ける割合が既に決まっています。一方で、主幹事方式については、基本的には証券会社が投資家の需要をもとに配分を決めます。もっとも、主幹事方式では、主幹事間で販売額を割り振るリテンション方式と、主幹事団で情報をシェアして販売するPOT方式があり、両方式で証券会社が需要を募る方法が異なります(リテンション方式とPOT方式は次回の論文で議論します)。
発行タイミングの柔軟性
発行タイミングの柔軟性という観点では、シ団引受方式に比べ、主幹事方式の方が柔軟性があると指摘されています。特に近年では、発行年限やタイミングを柔軟に選択する「フレックス枠」が増える傾向があり、フレックス枠では主に主幹事方式が用いられています。
一方、シ団引受方式については、毎月定期的に発行していくことで、事務作業を単純化できるというメリットがあるとも指摘されています。マーケットを予測して起債することは簡単なことではないため、むしろ定期的に発行してしまうことで、発行タイミングを分散できるというメリットも指摘されるところです。
プライシングのタイミングの違い
地方債の調達コストとなる金利は、前述のとおり「リスク・フリー・レート+スプレッド」に分解されますが、投資家の需要等を考慮し、まずは「スプレッド」を定めます(この点は主幹事方式でもシ団方式でも同じです)。リスク・フリー・レートは同じ年限*6の国債の金利を用いますが、その国債の金利を定める上で、主幹事方式の場合、当日の9時半や10時のBBの板情報を用います(BBの板については服部(2023)の3章を参照してください)。一方、シ団引受方式だと、前営業日のBBの引け値をリスク・フリー・レートとして用います(ただし、東京都のように当日のBBの板情報を使うケースもある点に注意してください。)。


3.共同発行債
3.1 共同発行債とは
ここから、シ団引受方式について具体的に考えるため、代表的な事例である共同発行市場公募地方債(共同発行債)と東京都債を取り上げます(東京都債は次節で説明します)。共同発行債は、2003年に発行が開始された市場公募地方債であり、多くの地方自治体が連帯して債券を発行する仕組みです。
現在、共同発行債は毎年1兆円程度の発行規模を誇り、地方債市場では最大規模といえます。具体的には、各自治体が調達したい金額を持ち寄り、市場公募地方債を発行することで、多くの自治体が共同発行債を通じてファンディングできる仕組みが取られています。図表3 共同発行債発行額の推移が共同発行債の発行額の推移です(共同発行債は毎月発行されています)。
共同発行債の発行額決定のプロセスは、具体的には、秋から冬にかけて、各自治体が共同発行債を経由してファンディングしたい額を持ち寄り、協議を経て発行額が決まります。共同発行債では、毎月10年債が1,000億円程度発行されており、その規模から地方債市場では注目が高いものの一つといえます(東京都など参画していない団体もいます)。発行スケジュールについては、毎年年末ごろに地方債計画において共同発行債の大枠が公表され、翌年4月ごろに総務省のウェブサイト等を通じ、具体的な発行スケジュールや各自治体がどのくらい調達するかの詳細が開示されます。
共同発行債では、月ごとにどの団体がどれくらい調達したいかが公表されています(図表4 共同発行債 2024年度(令和6年度)発行予定額を参照)。一般的に投資家は各共同発行債個別の違いを認識していないと指摘されますが、各債券は各自治体に紐づいており、ある投資家が購入した資金は、ある団体に振り込まれることで資金調達がなされます。共同発行債は各団体が連帯責任を負うとともに、何かあった場合に備えファンド(流動性補完措置)*7を事前に拠出するなど、安全性を高める工夫がなされています。
共同発行体の参加者は市場公募債を発行している自治体ですが、例えば東京都など共同発行債に参加していない自治体もいます。また、共同発行債には通常債とグリーン債がありますが、債券の種類によっても参加団体が異なります。

3.2 共同発行債におけるシ団引受方式の詳細
前述のとおり、共同発行債は、シ団引受方式により発行されています。金融機関と証券会社等によりシ団が作られ、事前に定められた割合で引き受けることになります。
共同発行債は多くの自治体が連帯債務を負った上で行うファンディングとなり、その発行条件等に関する事務は総務省自治財政局地方債課に委任されています。したがって、発行条件は、金融機関や証券会社により構成される銀行団および証券団と、総務省の地方債課の相対交渉により決定されます。シ団引受方式において、各証券会社や銀行がどの程度引き受けるかは、その金額が具体的に決まっています(シ団引受方式におけるシェアの内訳は、筆者の理解では公表されていません)。
共同発行債は、通常、毎月月初に実施される10年国債の入札の2営業日後に条件決定がなされます。条件決定のイメージについては、1~2週間くらい前から、総務省地方債課がシ団に対してスプレッドの目線のヒアリングを行います。10年債入札の1営業日後に、その時の市場実勢に基づいてシ団がスプレッドを地方債課に提示するなど、シ団と地方債課で相対交渉を行い、同日の夕方から夜にかけて、その金利が決定されるという形が取られています。ちなみに、総務省はこれ以外のタイミングでもシ団と定期的にコミュニケーションを取っています。
共同発行債は、毎月25日に発行がなされます。国債と異なり、リオープン(銘柄統合)という仕組みがなく、毎月新発債が100円で発行される仕組みになっています(これは他の地方債にも共通した仕組みです。リオープンについては服部(2023)を参照)。
前述の通り、月初に、10年債入札があり、地方自治体が月初に条件決定を行う場合、その1営業日後にプライシングがなされる傾向があります。共同発行債のシ団にとって、このプライシングの結果が重要な目線となり、それを考慮しスプレッドを総務省地方債課に提示します。
注意点は、国債と異なり、リオープンはなく、毎月異なる債券が発行されるため、国債と共同発行債の償還日が異なりうる点です。したがって、発行金利を決める上で、そのベースとなるリスク・フリー・レートは、条件決定日における国債のイールドカーブを引き、一定の条件の下で新しく発行する共同発行債と同じ年限となる金利を計算した上で決定されることになります(「カーブ+〇bps」という形でスプレッドを用いてプライシングがなされます)。例えば、条件決定日にスプレッドが10bpsである場合、その時の国債のカーブを引き、ちょうど年限が同じリスク・フリー・レート(国債の金利)が50bpsであれば、60bps(=10bps+50bps)が当該債券の利率となります*8(スプレッドに関するプライシングの詳細は別の論文で説明します)。

3.3 グリーン債における主幹事方式の採用
共同発行債は2023年からグリーン債を発行していますが、グリーン債の発行については主幹事方式が用いられています。そもそもグリーン債とは、発行体が当該地方債により調達した資金につき、その使途を環境関係に絞った上で明確化するものです。また、グリーン債を発行する際に、投資家がどの程度、当該債券を重視したかの指標として、いわゆる「グリーニアム」(通常債に対してどの程度グリーン債の金利が低く抑えられるか)が市場で注目を受けます。これらの観点を踏まえ、投資家の需要を重視した起債方法である主幹事方式がグリーン債に適しているとの指摘もあり、共同発行債のうちグリーン債については主幹事方式が活用されています。
グリーン債の発行についても、前述と同じプロセスで、各団体が調達したい額を持ち寄り、定期的に発行が行われています。もっとも、通常の共同発行債が毎月発行であるところ、現在、グリーン債は半年に一度という頻度で発行されています。
なお、各自治体が共同発行債でグリーン債を発行するメリットとして、以下のようなことが指摘されています。まず、グリーン債を発行する場合、認証機関や格付機関に対する支払いが生じることがあります。各自治体でグリーン債を発行した場合、このコストを様々な団体が各々で負担しなければならないところ、共同発行債の形をとることでそのコストを抑えることができる可能性があります。また、グリーン債を各団体が個別に発行した場合、その各々の発行規模が小さくなる可能性がありますが、共同発行債という形で多くの自治体の調達額をまとめて調達することで、債券の流動性を上げることが可能になります。

4.東京都におけるシ団引受方式と融合方式
4.1 東京都における発行の概要
シ団引受方式の事例として、本節では東京都債(都債)の事例を取り上げます。東京都は、10年債についてはシ団引受方式をベースにしていますが、後述する融合方式も活用されてきました。東京都は10年債を毎月発行しており、年間の発行総額は2,200億円程度になります。都債の年間発行総額が5,200億円程度ですから、10年債は都債の主軸ともいえるでしょう(図表5 東京都債の発行計画(2024年度)*10を参照)。
10年以外の年限の都債については、主幹事方式で発行されています。東京都からは、グリーンボンドやソーシャルボンド、さらに、フレックス、外債など多種多様な都債が発行されています*9。石田・服部(2024b)で説明したとおり、東京都は主幹事方式を地方債の自由化の中でいち早く導入した団体であり、市場を重視した起債が特徴といえます。

4.2 東京都10年債:シ団引受方式
前述の通り、東京都は10年債に関し、シ団引受方式を軸とした発行を行っています。東京都についても、シ団は銀行団と証券団で構成され、銀行団の代表と証券団の代表が東京都と交渉することで、両者が折り合える金利を模索します。
図表6 都債引受グループ一覧(10年債引受シンジケート団)*11が現時点(2024年4月時点)での東京都10年債のシンジケート団の内訳です。図表6にあるとおり、銀行団と証券団にそれぞれ年間代表幹事がいます。年間代表幹事は、銀行団と証券団の代表者になります。彼らは、シ団各社の意見を取りまとめることに加え、シ団各社への事務連絡等を担います。また、図表6には「(プレマ前)ヒアリング対象者」と記載されていますが、これは以前、「指名代表幹事」と呼ばれていました。東京都は10年債に関し、以前は一定額について主幹事方式も実施していましたが(これを融合方式といいます)、この「指名代表幹事」とはその主幹事になりうる証券会社のことを指します(融合方式については後述します)。
プライシングについては、共同発行債と同様、2営業日前に、プレマーケティングが始まり、シ団からスプレッドのヒアリングをします。1営業日前に、銀行団と証券団と東京都で、相対交渉を行い、そのスプレッドを決めます。
他のシ団引受方式と異なる点は、他の団体の場合、リスク・フリー・レートを前営業日のBBの引け値を用いるところ(2.4節を参照)、東京都の場合、通常であれば条件決定日の9時30分の市場実勢を参照し(その時のBBの板を参照し)、ベースとなるリスク・フリー・レートを決めて、利率を定める点です。なお、10年の東京都債は、他の団体の10年債に比べ、1bps程度金利が低く(タイトに)決まる傾向があります。

4.3 融合方式
東京都の重要な特徴として、10年債の発行に際し、シ団引受方式だけでなく、これまで融合方式も用いてきた点があります。後述するとおり、2024年度から都債発行における融合方式は取りやめていますが、その後の主幹事方式を考える上でも融合方式を理解することは有益です。
前述のとおり、東京都は毎月、10年債をシ団引受方式により定額で発行しています。図表7 東京都10年債の発行額推移は、(コロナ禍前の)2018年と2019年に発行された10年債の発行額の推移ですが、例えば9月などに、通常より多めに起債を計画することがあります。このように通常発行額より多めに発行する部分について、主幹事方式を採用する方法が融合方式です。融合方式のイメージは図表8 融合方式のイメージのとおりです。
図表9 10年債における都の取組*13は、主幹事方式・融合方式・シ団引受方式を比較した資料になります。融合方式は、「シ団側が提案する発行水準と、主幹事が実施する需要積上げ水準を基に発行体と幹事団が協議のうえ決定」(p.23)とされており、「定例的な購入層及び大口購入層からの需要に対応」(p.23)としています。
融合方式を導入した背景には、2008年のリーマンショックがあります。東京都財務局主計部公債課(2012)によれば、リーマンショックを受けて2009年(平成21年)に大幅な税収減となったとしています。その上で、「都は、投資家との対話を重視した起債運営の重要性を強く認識し、2度(平成21年6月・10月)にわたる主幹事方式での10年債のスポット発行を経て、安定消化に適したシ団プレマ方式に主幹事方式的な要素を組み込むことで、中央・地方を問わず多くの投資家との対話を充実させる新たな条件決定方式の可能性を追求すべく、平成22年2月に初めて『融合方式』を試行実施しました」(p.64)としています。東京都は金融危機による税収減を受け、市場を重視した発行方法を取ることにしたのです。一般的に、主幹事方式や入札方式の方が市場を重視すると評価される中で、定期的に、主幹事方式を一部取り込んだ融合方式をとることで、市場実勢を確認しているとみることができます*12。なお、都では永らく半年に一度融合方式を採用していました。
融合方式のメリットとデメリット
東京都財務局主計部公債課(2012)では、融合方式のメリットとデメリットを整理しています。メリットとしては、「『投資家との継続的な関係の確保』や『幅広い投資家への販路の確保』を維持しつつ、より条件決定日に近いタイミングで各投資家との対話を行うことにより、時宜に適した、透明性の高いプライシングが可能になることです。積み上げ幹事1社への配分額が大きい(通常100億円)ことから、ロット確保を希望する投資家への対応が可能になることです」(p.64)とする一方、デメリットとして、「あくまでシ団プレマ方式を基本としているため、条件決定日や発行額の設定が機動性に欠けてしまうこと」(p.64)としています。
東京都の発行方針には一定の変化も見られます。例えば、2023年度は融合方式を用いませんでした。また、2024年度は、融合方式に代えて、主幹事方式を採用しています。

BOX 地方自治体が発行する外債について
東京都や横浜市など地方自治体の中には、ドル建て債など外債を発行する団体があります。もっとも、地方自治体が外債を発行する理由は、地方自治体が外貨を調達して外貨のまま使用したいというよりは、為替スワップや通貨スワップを用いてドルを調達し、円建てに変換することで調達コストを落としたいということにあります。為替スワップや通貨スワップの概要は、服部(2023)の12章を参照していただきたいですが、いわゆる通貨ベーシスのマイナス幅が大きくなった場合、ドル建て調達をしてスワップで円建てにしたほうが、円建てのまま発行するより調達コストを抑えられるため、通貨ベーシスのマイナス幅が大きくなった場合、ドル債を発行し、それを円建てに直すというファンディングの方法がとられることがあります。地方自治体が発行する外債は、相場環境に応じて発行するという意味で、基本的に主幹事方式に適しているともいえ、実際、主幹事方式に基づき発行されています。


5.おわりに
本稿では、市場公募地方債の発行で用いられるシ団引受方式の概要を説明し、共同発行債と東京都債の事例を取り上げました。次回は、POT方式とリテンション方式について解説する予定です。


参考文献
[1].石田良、服部孝洋(2024a)「引合方式入門―大阪府債の事例―」『ファイナンス』60(3),22-28.
[2].石田良、服部孝洋(2024b)「主幹事方式入門― 市場公募地方債を事例に―」『ファイナンス』60(4),22-29.
[3].齋藤通雄・服部孝洋(2023)「齋藤通雄氏に聞く、日本国債市場の制度改正と歴史(前編)」『ファイナンス』59(7),34-45.
[4].東京都財務局主計部公債課(2012)「東京都の起債運営の取り組みについて」『地方債』62-65.
[5].服部孝洋(2023)「日本国債入門」金融財政事情出版会.
*1) 本稿の意見に係る部分は筆者らの個人的見解であり、筆者らの所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者らによるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿にコメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。
*2) 客員研究員
*3) 特任准教授
*4) 下記を参照
https://sites.google.com/site/hattori0819/
*5) 筆者の私見では、シ団引受方式では銀行団と証券団が発行体に事前にプレマシートなどを提出することから、このように名付けられているのだろうと考えています。
*6) 年限が違う場合はモデル等を用いて補間した金利を用います。
*7) 下記のウェブサイトでは、「発行団体に災害等に伴う不測の事態があっても、遅滞なく元利金償還を行うため、連帯債務とは別に各団体の減債基金の一部を募集受託銀行に預け入れる形で流動性補完を目的とするファンドを設置しています。具体的には、37団体合計で、その年度において最も元利金支払の額が多い月の元利金支払額の1/10程度の額を積み立てることとしています。」(p.1)としています。詳細は下記をご参照ください。
https://www.chihousai.or.jp/03/pdf/01_04_02.pdf
*8) 厳密に言えば、10年の日本国債とちょうど同じ年限の共同発行債があるとは限りません。これは10年国債がリオープンを用いている一方、共同発行債はリオープンを用いていないからです。
*9) 2024年度からはサステナビリティボンド(外債)の発行も予定されています。
*10) 下記より抜粋。
https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/zaimu/tosai_keikaku_20240328-1
*11) 下記より抜粋。
https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/zaimu/tosaigroup_20240328
*12) 東京都のIRでは10年債に関し、「シ団引受方式に主幹事方式的なマーケティングを組み込んだ起債方式「融合方式」による発行を、半期に一度実施し、定例債においても投資家との継続的な対話の機会を確保」(p.31)としています。詳細は下記を参照してください。
https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/zaimu/R3ir_spring_main
*13) https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/zaimu/R4ir_autumn_date(p.23)