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外国為替取引等取扱業者のための外為法令等の遵守に関するガイドラインの適用について

国際局調査課為替実査室 為替実査室長 舟橋  聡
国際局調査課為替実査室 為替実査官 梶浦  猛成


財務省は、令和5年11月24日に外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)並びに犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯収法」という。)の遵守に関する考え方・解釈及び検査を行う検査官の検査指針を示す「外国為替取引等取扱業者のための外為法令等の遵守に関するガイドライン」(以下「外為ガイドライン」という。)を公表*1しました。外為ガイドラインは、令和6年4月1日より適用されており、これに併せ、財務省は外為ガイドラインに基づく外国為替検査(以下「検査」という。)を開始しております。本稿では、外為ガイドライン導入の背景やその内容、検査の方向性を分かりやすく説明します。なお、文中、意見等にわたる部分は筆者の個人的見解であることを予めお断りしておきます。


1.外為ガイドライン策定の経緯と背景
財務省は、国際的な協力の下で行われる資産凍結等経済制裁措置の実効性を担保する観点から外為法に基づいて課された諸義務の遵守状況を確認するため、金融機関等に対する検査を実施しております。また、検査においては、金融活動作業部会(Financial Action Task Force。以下「FATF」という。)の勧告*2を踏まえ、マネー・ローンダリングの防止等のために策定された犯収法に掲げる諸義務の遵守状況についても確認しております。
検査の実施にあたり、財務省はこれまで様々なガイダンス等を公表してきており、平成15年1月には、米国における同時多発テロ事件の発生を受け、検査事項及び検査方法等に関する実施細目をチェックリスト形式で定めた「外国為替検査マニュアル」を制定しました。その後、刻々と変わる国際情勢を受けて変化するリスクに、機動的かつ実効的に対応するという国際的な要請を踏まえ、平成30年9月には、マネー・ローンダリング対策及びテロ資金供与対策について、リスクを特定・評価し、リスクに見合った低減措置を講じるリスクベース・アプローチ(以下「RBA」という。)の考え方を導入し、必要な態勢整備等に関する具体的な検査項目を詳述した「外国為替検査ガイドライン」(以下「検査ガイドライン」という。)を、金融機関等検査対象者に向けた検査指針として制定しました。
更に、令和4年12月には改正外為法が成立し、経済制裁措置の実効性を一層高めるために新設された外国為替取引等取扱業者遵守基準により、外国為替取引等取扱業者*3は、外国為替取引等取扱業者遵守基準に基づき、経済制裁措置を適切に履行するためのRBAによる対応や態勢整備が外為法令に基づく義務として明示的に求められることとなりました。これを受け、外為ガイドラインは、外国為替取引等取扱業者による外為法及び犯収法に係る義務の遵守を確保するため、検査ガイドラインを発展的に改組する形で令和5年11月に策定されました*4。また、外為ガイドラインで対応が求められる事項の具体的対応例等を「外国為替取引等取扱業者のための外為法令等の遵守に関するガイドラインQ&A*5」(以下「Q&A」という。)として取りまとめ、外為ガイドラインと併せて公表しました。


2.外為ガイドラインの概要
外為ガイドラインの全体像は以下図表1 外為ガイドラインの項目の通りであり、第Ⅰ章から第Ⅴ章までの全5章で構成されております。第Ⅰ章では、外為ガイドライン制定の背景・目的や基本的な考え方を示しており、第Ⅱ章以降では、外国為替取引等取扱業者に求められる事項が明確となるよう、これまでの検査ガイドラインの記載ぶりを極力簡素化すると共に、金融庁の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」との整合性にも配慮しつつ、外国為替取引等取扱業者の各種義務を79項目の「対応が求められる事項」として列挙する形で再整理しております。
各章は細かな項目に分かれており、外為ガイドラインの中核的位置づけである第Ⅱ章「経済制裁措置に関する事項」では、Ⅱ-1からⅡ-5までの5項目において、経済制裁措置に関する内部管理態勢の構築や、制裁違反リスクの特定・評価、制裁違反リスクに応じた低減措置の実施等を求めています。
まず、Ⅱ-1(内部管理態勢の整備等(経営陣の主導的関与、統括責任者の任命等))においては、担当役員等を統括責任者として任命すると共に、統括責任者が関連部署を束ねて陣頭指揮をとり、制裁違反リスクに係るリスク評価書、リスク低減方針、リスク低減措置に係る手順書の作成・見直し等、外為ガイドラインが求める事項について対応し、必要に応じて役員会等の承認を得る、あるいは役員会等に報告行うことで、経営陣が主導的に経済制裁措置へ関与する態勢を構築することを求めています。
次に、Ⅱ-2(内部管理態勢の整備等(三つの防衛線等))においては、第1線、第2線及び第3線の独立確保や各部門が果たす役割の明確化により効果的な内部管理態勢を構築すること、Ⅱ-3(リスクの特定・評価)においては、経営陣が制裁違反リスクの評価過程に関与し、定期・随時にリスク評価を見直すこと等をそれぞれ求めております。
Ⅱ-4(リスク低減措置)は、経済制裁措置に関するリスク低減措置について、法令違反に繋がり得る非常に重要な事項が幅広く記載されており、顧客の送金等が外為法の規制対象でないかを取引実施前に適切に確認する「確認義務」の履行に加え、金融機関等が自ら行う取引についても、取引実施前に外為法の規制対象でないか適切に確認することを求めております。
最後に、Ⅱ-5(記録の作成及び保存)においては、リスク評価や手順書等の作成・見直しについて必要な記録を作成・保存すると共に、個々の外国為替取引等のリスク低減措置の実施状況についても、必要な記録を作成・保存することを求めています。
また、第Ⅲ章「両替業務における取引時確認等及び疑わしい取引の届出に関する事項並びに特定為替取引等における本人確認義務等に関する事項」においては、主に両替業者及び両替業務を行う金融機関等に、犯収法に基づくマネー・ローンダリング対策及びテロ資金供与対策に関する対応を求めておりますが、検査ガイドラインの内容を再整理したものであるため検査ガイドラインとの大きな相違点はなく、第Ⅳ章「銀行等又は資金移動業者による通知義務に関する事項」及び第Ⅴ章「特別国際金融取引勘定の経理等に関する事項」についても、同様に検査ガイドラインとの大きな相違点はありません。
更に、外為ガイドラインでは、以下の別紙を添付し、現在実施されている経済制裁等について一覧性のある形で参考資料として示しております。
・一部取引に係る支払等の規制が課されている特定の者等、告示により個別に指定されていないが資産凍結等の措置の対象となる者等(別紙1)
・現在実施中の特定国(地域)、特定の目的又は特定の取引等に係る支払等の規制(別紙2)
・現在実施中の特定の取引等又は特定の目的に係る取引等の規制(別紙3)
・外国通貨又は旅行小切手の売買に係る疑わしい取引の参考事例(別紙4)
・犯罪収益移転防止法に関する留意事項について(別紙5)
外為ガイドラインで対応が求められる事項の具体的対応例等を示したQ&Aにおいては、これまで外為法に関して財務省から周知した事項や、検査ガイドラインの内容のうち細かな対応例等をとりまとめており、令和6年7月には、同年3月に財務省がホームページで公表した「北朝鮮IT労働者に関する企業等に対する注意喚起」に関する事項が追加される等の拡充がされております。
また、外国為替業務を行う金融機関等のリスク及び外為法令等の遵守に係る内部管理態勢の状況を定期的かつ継続的に把握するためのオフサイト・モニタリングについては、引き続き実施することとしております。


3.外為ガイドラインによる検査の方向性
検査においては、検査対象先における外為法令等の遵守状況だけでなく、外為法令等を遵守するために導入したRBAが適切に機能しているか、経済制裁措置に関する内部管理態勢が適切に構築されているか等の確認を、外為ガイドラインの「対応が求められる事項」毎に行うこととなります。
金融機関等においては、これまでマネー・ローンダリング対策及びテロ資金供与対策に係る態勢整備やRBAの導入を進めてきているところかと思われますので、外為ガイドラインで対応が求められている事項について、既に実施している同対策に係る対応の中で抜け漏れがないかを、まずは確認いただくことが重要と考えております。


4.おわりに
近年、ロシアによるウクライナへの侵略戦争や、北朝鮮による累次のミサイル発射など、我が国を取り巻く安全保障環境は一段と厳しさを増しており、経済安全保障の重要性がこれまで以上に高まっております。経済安全保障を強化するためには、各金融機関等が外為法令を遵守し、経済制裁措置の実効性を確保することが必要であり、官民をあげた外為法令遵守に向けた取組が非常に重要となります。外為ガイドラインとそのQ&Aの公表及び外為ガイドラインによる検査が、金融機関等における更なる経済制裁措置の実効性確保につながるよう、引き続き取り組んで参ります。


*1) 外国為替取引等取扱業者のための外為法令等の遵守に関するガイドライン:
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/inspection/guideline_index.htm
*2) FATF勧告:
https://www.fatf-gafi.org/en/topics/fatf-recommendations.html
*3) 銀行等、資金移動業者、電子決済手段等取引業者等及び両替業者をいう。
*4) 策定にあたり実施したパブリックコメントに寄せられた御意見及び御意見への考え方等:
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=395122316&Mode=1
*5) 外国為替取引等取扱業者のための外為法令等の遵守に関するガイドラインQ&A:
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/inspection/guideline_index.htm