令和6年1月に電子取引データ保存の義務化がスタートし、半年余りが経過した。中小企業の中には自社の対応が正しいのか不安を感じているケースもあるだろう。今号の特集では、令和5年度の税制改正により見直された電子帳簿等保存制度の内容を改めて紹介するとともに、電子取引データ保存への準備が間に合わない場合の猶予制度、会計ソフト等の導入を支援する補助金制度などについて紹介する。
取材・文向山勇
電子帳簿等保存制度とは
経理のデジタル化が可能になる3つの制度から構成されている
経理上の処理が一貫してデジタル化できる
電子帳簿等保存制度は、会計ソフトなどで作成した帳簿や書類をプリントアウトせずにデータのまま保存するルールや、紙の領収書などをスキャナやスマホで読み込んで保存するためのルールなどを定めた制度。
電子帳簿等保存制度を活用することで、①紙をファイリングする手間や保存スペースが不要となる、②日付や取引先名で検索できるので探したいデータがすぐに見つかる、などのメリットがある。紙で帳簿等を作成する方法と比べ、経理上の処理が一貫してデジタル化できるので、事務処理の効率化が可能だ。また、これまでテレワークが難しかった経理担当者も在宅勤務などがしやすくなる。
では、電子帳簿等保存制度の内容を具体的に見ていこう。この制度は次の3つの制度から構成されている。
保存義務が課されるのは「電子取引データ保存」のみ
「1電子帳簿等保存」では、税法によって保存などが必要とされている帳簿や書類のうち、自己が最初から一貫してデータ作成しているものについて、プリントアウトせずにデータのままで保存するための要件を定めている。
「2スキャナ保存」では、紙の請求書、領収書など、取引先などから受け取った書類や自社で作成した書類の写しを保存する際に、書類そのものを保存する代わりに、スキャナやスマホで読み取ったデータを保存するための要件を定めている。
「3電子取引データ保存」では、見積書、契約書、請求書、領収書などをデータでやり取りした場合、そのデータを一定の要件に沿って保存するための要件を定めている。
このうち、「1電子帳簿等保存」と「2スキャナ保存」は、希望者が利用することができる制度だが、「3電子取引データ保存」は、申告所得税、法人税に関して帳簿書類の保存義務が課されているすべての者において対応が必要となる。
次ページ以降では、「3電子取引データ保存」について詳しく紹介しよう。
電子取引データ保存
データでの保存が必要になるのはデータでやりとりした場合
受け取ったデータだけでなく送ったデータの保存も必要
「電子取引データ保存」の対象となるのは、紙でやり取りする場合に保存が必要な情報が含まれるデータ。取引先などから受け取ったデータだけでなく、送ったデータもそのまま保存する必要がある。
ただし、この制度はあくまでデータでやり取りしたものが対象で、紙でやり取りした書類をデータ化して保存する必要はない。
請求書などをデータでやり取りした場合には、そのデータをプリントアウトした書面のみを保存する方法は認められず、一定の要件に従って電子取引データそのものを保存する必要がある。保存するデータのファイル形式は問われないため、PDFに変換したデータやスクリーンショットをした画像データなどで保存しても問題ない。
電子取引データの保存には2つの要件がある
電子取引データ保存については、大きく2つの要件がある。真実性の確保と可視性の確保だ。
真実性の確保では、改ざん防止のための4つの措置のうち、いずれかを講じる必要がある(前ページの図参照)。どの方法が容易かは納税者ごとに異なると思われるが、一般的には、1(4)の「不当な訂正削除の防止に関する事務処理規程を制定し、遵守する」方法が最も導入しやすいと考えられる。国税庁ホームページには、事務処理規程のサンプルが掲載されているので、参考とされたい。
可視性の確保は、モニターや操作説明書などを備え付けて、データの内容を確認できる状態にしておくことが求められる。また、一定の検索が可能な状態にしておくことも必要だ。ただし、検索要件の充足は不要となる場合もあり、これについては次のページで説明する。
検索が可能な状態とは
専用システムを導入する方法のほか、より簡易な方法でも検索要件を満たせる
電子取引データ保存で満たすべき3つの検索要件
電子取引データ保存に関する検索要件は、次の3つから構成されている。
検索要件
要件1取引などの日付、金額、取引先で検索ができること。
要件2日付、金額について範囲を指定して検索ができること。【範囲指定検索】
要件3日付、金額、取引先を組み合わせて検索ができること。【組み合わせ検索】
これらの要件は、専用システムを導入する方法のほか、より簡易な方法でも充足することが可能となっている。
例えば次のようなケースが考えられる。
簡易な方法で検索要件を充足する方法の例
1規則的なファイル名を付す方法
2表計算ソフト等で索引簿を作成する方法
1の方法はデータのファイル名に規則性を持った所定の項目を入力し、特定のフォルダに集約しておくことで、フォルダの検索機能が活用できる。
2の方法は表計算ソフト等に所定の項目を入力してファイルと結びつくようにしておくことで、表計算ソフト等の機能を使って検索できる。なお、国税庁ホームページには、索引簿の作成例(ひな型)が掲載されている。
検索要件が緩和されるケース
税務調査等の際に税務職員からの電子取引データの「ダウンロードの求め」に応じることができるようにしている場合には、要件2【範囲指定検索】、要件3【組み合わせ検索】は不要となる。ただし、税務職員がダウンロードを求めた電子取引データ全てについて応じられること等が必要となる。
検索要件の充足が不要になるケース
以下のいずれかに該当する場合で、税務調査等の際に税務職員からの電子取引データの「ダウンロードの求め」に応じることができるようにしている場合には、「検索要件の充足」の要件自体が不要となる。
・基準期間(2課税年度前)の売上高が「5,000万円以下」の保存義務者
・電子取引データをプリントアウトした書面を、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理された状態で提示・提出することができるようにしている保存義務者
なお、税務職員から「ダウンロードの求め」があった場合には、職員が求めた全ての電子取引データの提出に応じる必要があり、そのデータにおいて通常出力可能な範囲で、職員の求めに対応した方法(例えば出力形式の指定)で提出する必要がある。
例えば、求められた電子取引データのうち、一部について電子取引データの提出に応じられない、応じない、CSV形式で出力できるにもかかわらず、検索性等に劣る他の形式で提出する、などの場合は、この要件を満たしていないことになる。
電子取引データ保存の猶予措置
2つの条件を満たせば電子取引データを保存するだけでよい
猶予措置を受けるには2つの要件がある
システム対応が間に合わない場合などは、猶予措置が設けられている。次の2つの要件を満たす場合には、これまで説明したルールに沿った対応は不要となり、電子取引データを単に保存しておくだけでよい。
猶予措置が受けられる要件
1電子取引データ保存の一定のルールに従って電子取引データを保存することができなかったことについて所轄税務署長が相当な理由があると認める場合(事前申請は不要)。
2税務調査等の際に、電子取引データの「ダウンロードの求め」及びその電子取引データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合。
「所轄税務署長が相当な理由があると認める場合」とは、どんな場合か。例えば、次のような事情がある場合は、猶予措置を受けるための「相当の理由」があるとされている。
猶予措置を受けるための相当の理由
・システムや社内のワークフローなどの整備が間に合わず、要件に従った保存ができない場合。
・要件に従って保存できる環境が整っているが、資金繰りや人手不足などの理由で要件に従った保存ができない場合。
つまり、資金繰りや人手不足などの特段の理由がないにもかかわらず、あえて要件に従って保存していない場合には、この猶予措置の適用は受けられない。
電子取引データの保存方法には、さまざまなパターンがあるため、電子取引データを原則的なルールに従って保存できているか、猶予措置の対象となるかを確認するには、次ページのフローを利用するといいだろう。また、制度についてより正確、詳細に知りたい場合には、国税庁ホームページの「電子帳簿等保存制度特設サイト」に掲載されている電子帳簿保存法の取扱通達・一問一答(Q&A)などを確認されたい。
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電子帳簿保存法への対応に補助金も
電子帳簿保存法への対応には、ある程度の資金が必要になるケースもあるが、利用できる補助金がある。会計ソフトや受発注システムなどの導入に対するIT導入補助金だ。5つある類型のうち、通常枠では、中小企業・小規模事業者が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する際に経費の一部を補助してくれる。補助率は経費の2分の1以内で最大450万円となっている。
詳しくは、IT導入補助⾦事務局ホームページ(外部サイト)をご確認ください
column
市販の会計ソフトを導入するならJIIMA認証の確認を
市販の会計ソフトを導入する際には、そのソフトが電子帳簿保存法の要件を満たしているか確認するのがいいだろう。その場合には、JIIMA認証を確認することをおすすめする。
JIIMA認証は、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(通称JIIMA)が実施している市販ソフトの認証制度。各ソフトウェアベンダーからの申請に基づき、そのソフトが電子帳簿保存法の各要件を満たしているかをJIIMAが確認し、要件に適合していることが確認できたソフトには、パッケージなどに認証のマークを付けて販売ができる仕組みになっている。
認証を受けているソフトの一覧表がJIIMAのホームページに掲載されており、国税庁ホームページからもアクセスが可能。
また、自社専用のシステムを開発する場合に、電子帳簿保存法の要件を満たすことができるか疑問を持った際には、国税局および税務署に相談窓口が設けられている。
図表 電子帳簿等保存制度
図表 電子取引データ保存の一定ルール
図表 検索要件を満たすための簡易な方法
図表 電子取引データ保存に関するフローチャート
取材・文向山勇
電子帳簿等保存制度とは
経理のデジタル化が可能になる3つの制度から構成されている
経理上の処理が一貫してデジタル化できる
電子帳簿等保存制度は、会計ソフトなどで作成した帳簿や書類をプリントアウトせずにデータのまま保存するルールや、紙の領収書などをスキャナやスマホで読み込んで保存するためのルールなどを定めた制度。
電子帳簿等保存制度を活用することで、①紙をファイリングする手間や保存スペースが不要となる、②日付や取引先名で検索できるので探したいデータがすぐに見つかる、などのメリットがある。紙で帳簿等を作成する方法と比べ、経理上の処理が一貫してデジタル化できるので、事務処理の効率化が可能だ。また、これまでテレワークが難しかった経理担当者も在宅勤務などがしやすくなる。
では、電子帳簿等保存制度の内容を具体的に見ていこう。この制度は次の3つの制度から構成されている。
保存義務が課されるのは「電子取引データ保存」のみ
「1電子帳簿等保存」では、税法によって保存などが必要とされている帳簿や書類のうち、自己が最初から一貫してデータ作成しているものについて、プリントアウトせずにデータのままで保存するための要件を定めている。
「2スキャナ保存」では、紙の請求書、領収書など、取引先などから受け取った書類や自社で作成した書類の写しを保存する際に、書類そのものを保存する代わりに、スキャナやスマホで読み取ったデータを保存するための要件を定めている。
「3電子取引データ保存」では、見積書、契約書、請求書、領収書などをデータでやり取りした場合、そのデータを一定の要件に沿って保存するための要件を定めている。
このうち、「1電子帳簿等保存」と「2スキャナ保存」は、希望者が利用することができる制度だが、「3電子取引データ保存」は、申告所得税、法人税に関して帳簿書類の保存義務が課されているすべての者において対応が必要となる。
次ページ以降では、「3電子取引データ保存」について詳しく紹介しよう。
電子取引データ保存
データでの保存が必要になるのはデータでやりとりした場合
受け取ったデータだけでなく送ったデータの保存も必要
「電子取引データ保存」の対象となるのは、紙でやり取りする場合に保存が必要な情報が含まれるデータ。取引先などから受け取ったデータだけでなく、送ったデータもそのまま保存する必要がある。
ただし、この制度はあくまでデータでやり取りしたものが対象で、紙でやり取りした書類をデータ化して保存する必要はない。
請求書などをデータでやり取りした場合には、そのデータをプリントアウトした書面のみを保存する方法は認められず、一定の要件に従って電子取引データそのものを保存する必要がある。保存するデータのファイル形式は問われないため、PDFに変換したデータやスクリーンショットをした画像データなどで保存しても問題ない。
電子取引データの保存には2つの要件がある
電子取引データ保存については、大きく2つの要件がある。真実性の確保と可視性の確保だ。
真実性の確保では、改ざん防止のための4つの措置のうち、いずれかを講じる必要がある(前ページの図参照)。どの方法が容易かは納税者ごとに異なると思われるが、一般的には、1(4)の「不当な訂正削除の防止に関する事務処理規程を制定し、遵守する」方法が最も導入しやすいと考えられる。国税庁ホームページには、事務処理規程のサンプルが掲載されているので、参考とされたい。
可視性の確保は、モニターや操作説明書などを備え付けて、データの内容を確認できる状態にしておくことが求められる。また、一定の検索が可能な状態にしておくことも必要だ。ただし、検索要件の充足は不要となる場合もあり、これについては次のページで説明する。
検索が可能な状態とは
専用システムを導入する方法のほか、より簡易な方法でも検索要件を満たせる
電子取引データ保存で満たすべき3つの検索要件
電子取引データ保存に関する検索要件は、次の3つから構成されている。
検索要件
要件1取引などの日付、金額、取引先で検索ができること。
要件2日付、金額について範囲を指定して検索ができること。【範囲指定検索】
要件3日付、金額、取引先を組み合わせて検索ができること。【組み合わせ検索】
これらの要件は、専用システムを導入する方法のほか、より簡易な方法でも充足することが可能となっている。
例えば次のようなケースが考えられる。
簡易な方法で検索要件を充足する方法の例
1規則的なファイル名を付す方法
2表計算ソフト等で索引簿を作成する方法
1の方法はデータのファイル名に規則性を持った所定の項目を入力し、特定のフォルダに集約しておくことで、フォルダの検索機能が活用できる。
2の方法は表計算ソフト等に所定の項目を入力してファイルと結びつくようにしておくことで、表計算ソフト等の機能を使って検索できる。なお、国税庁ホームページには、索引簿の作成例(ひな型)が掲載されている。
検索要件が緩和されるケース
税務調査等の際に税務職員からの電子取引データの「ダウンロードの求め」に応じることができるようにしている場合には、要件2【範囲指定検索】、要件3【組み合わせ検索】は不要となる。ただし、税務職員がダウンロードを求めた電子取引データ全てについて応じられること等が必要となる。
検索要件の充足が不要になるケース
以下のいずれかに該当する場合で、税務調査等の際に税務職員からの電子取引データの「ダウンロードの求め」に応じることができるようにしている場合には、「検索要件の充足」の要件自体が不要となる。
・基準期間(2課税年度前)の売上高が「5,000万円以下」の保存義務者
・電子取引データをプリントアウトした書面を、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理された状態で提示・提出することができるようにしている保存義務者
なお、税務職員から「ダウンロードの求め」があった場合には、職員が求めた全ての電子取引データの提出に応じる必要があり、そのデータにおいて通常出力可能な範囲で、職員の求めに対応した方法(例えば出力形式の指定)で提出する必要がある。
例えば、求められた電子取引データのうち、一部について電子取引データの提出に応じられない、応じない、CSV形式で出力できるにもかかわらず、検索性等に劣る他の形式で提出する、などの場合は、この要件を満たしていないことになる。
電子取引データ保存の猶予措置
2つの条件を満たせば電子取引データを保存するだけでよい
猶予措置を受けるには2つの要件がある
システム対応が間に合わない場合などは、猶予措置が設けられている。次の2つの要件を満たす場合には、これまで説明したルールに沿った対応は不要となり、電子取引データを単に保存しておくだけでよい。
猶予措置が受けられる要件
1電子取引データ保存の一定のルールに従って電子取引データを保存することができなかったことについて所轄税務署長が相当な理由があると認める場合(事前申請は不要)。
2税務調査等の際に、電子取引データの「ダウンロードの求め」及びその電子取引データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合。
「所轄税務署長が相当な理由があると認める場合」とは、どんな場合か。例えば、次のような事情がある場合は、猶予措置を受けるための「相当の理由」があるとされている。
猶予措置を受けるための相当の理由
・システムや社内のワークフローなどの整備が間に合わず、要件に従った保存ができない場合。
・要件に従って保存できる環境が整っているが、資金繰りや人手不足などの理由で要件に従った保存ができない場合。
つまり、資金繰りや人手不足などの特段の理由がないにもかかわらず、あえて要件に従って保存していない場合には、この猶予措置の適用は受けられない。
電子取引データの保存方法には、さまざまなパターンがあるため、電子取引データを原則的なルールに従って保存できているか、猶予措置の対象となるかを確認するには、次ページのフローを利用するといいだろう。また、制度についてより正確、詳細に知りたい場合には、国税庁ホームページの「電子帳簿等保存制度特設サイト」に掲載されている電子帳簿保存法の取扱通達・一問一答(Q&A)などを確認されたい。
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電子帳簿保存法への対応に補助金も
電子帳簿保存法への対応には、ある程度の資金が必要になるケースもあるが、利用できる補助金がある。会計ソフトや受発注システムなどの導入に対するIT導入補助金だ。5つある類型のうち、通常枠では、中小企業・小規模事業者が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する際に経費の一部を補助してくれる。補助率は経費の2分の1以内で最大450万円となっている。
詳しくは、IT導入補助⾦事務局ホームページ(外部サイト)をご確認ください
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市販の会計ソフトを導入するならJIIMA認証の確認を
市販の会計ソフトを導入する際には、そのソフトが電子帳簿保存法の要件を満たしているか確認するのがいいだろう。その場合には、JIIMA認証を確認することをおすすめする。
JIIMA認証は、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(通称JIIMA)が実施している市販ソフトの認証制度。各ソフトウェアベンダーからの申請に基づき、そのソフトが電子帳簿保存法の各要件を満たしているかをJIIMAが確認し、要件に適合していることが確認できたソフトには、パッケージなどに認証のマークを付けて販売ができる仕組みになっている。
認証を受けているソフトの一覧表がJIIMAのホームページに掲載されており、国税庁ホームページからもアクセスが可能。
また、自社専用のシステムを開発する場合に、電子帳簿保存法の要件を満たすことができるか疑問を持った際には、国税局および税務署に相談窓口が設けられている。
図表 電子帳簿等保存制度
図表 電子取引データ保存の一定ルール
図表 検索要件を満たすための簡易な方法
図表 電子取引データ保存に関するフローチャート