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PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~ 33

財務総研で実施している統計調査
財務総合政策研究所調査統計部調査統計課長 山本 貴司
統計企画専門官 阿部 桂三
(本稿における執筆者及びインタビューを受けた者の肩書は、2024年6月末現在)


はじめに
今月のPRI Open Campusでは、財務総合政策研究所の調査統計部が、財務(支)局・財務事務所、内閣府沖縄総合事務局(以下、「財務局等」)と協力して作成している統計である「法人企業統計調査」及び「法人企業景気予測調査」について、「ファイナンス」の読者の皆様にご紹介します。


1.統計調査を支える財務省のチームワーク
(1)統計調査で生かす財務局等のフットワーク
ア 企業の動きが見える統計調査
財務総研では、我が国の経済活動の主要部分を占める企業活動の実態を把握し、経済財政政策立案の基礎資料等として利用するために、「法人企業統計調査」と「法人企業景気予測調査」の2つの企業統計調査を実施し、結果を集計・公表しています。これらの統計調査においては、全国津々浦々の企業に対して調査票をお送りし、企業担当者のご協力を得て、調査票を提出していただいています。数多くの企業から協力を得るためには、日頃からの地域の企業とのつながりが大切ですが、霞が関にある財務総研だけでは対応ができません。そこで必要となるのが、日頃から地域の経済動向を調査するなど、地域に根差した施策を実施する財務局等の力です。
イ 地域に根差した財務局等の調査実施体制
実際の統計調査の実施に当たっては、全国の財務局等が重要な役割を担っています。
下の地図は、財務局等が都道府県単位の強固なネットワークを構築していることを示しています。財務局は地域ブロックごとに、9つの財務局(北海道、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州)及び1つの財務支局(福岡)が設置されています。また、財務局及び財務支局には、その出先機関として、全国主要の地に40の財務事務所が設置されています。沖縄県においては、内閣府の地方支分部局として沖縄総合事務局が設置されており、沖縄総合事務局長には財務局長と同等の権限が付与され、財務局の所掌事務については、沖縄総合事務局の内部部局である「財務部」が担当しています。
財務局等は地域における財政及び金融行政に関する総合出先機関であり、財務省の仕事のうち財政及び国有財産の仕事などを地域において総合的に実施しています。また、金融庁からの委任を受けて、金融機関等の検査・監督や証券市場の日常的な監視などの仕事を行っています。さらに、地域の経済情勢を調査し、国の施策等に活用するとともに、地域への情報提供も行っています。財務局等の経済調査を担当する職員は、地域の実情に即したきめ細かな調査を行うため、各種経済指標の分析に留まらず、様々な業種や規模の企業に対するヒアリングを実施しています。
このように、地域経済の特徴や動向を熟知し、地元企業との結びつきが強い職員が統計調査の実施に携わり、企業への提出のお願いや記入方法等の説明などきめ細かく対応することにより、企業側の回答負担の軽減や精度の高い正確な統計の作成に大きな役割を果たしています。法人企業統計調査と法人企業景気予測調査は、調査対象企業の協力はもちろんのこと、財務局等の担当職員の頑張りによって成り立っている、と言っても過言ではありません。
ウ 財務局等と一体となった集計作業
法人企業統計調査及び法人企業景気予測調査では、各財務局等において、調査対象法人への調査票の配付・回収、提出された調査票の審査・照会など、統計調査の実査を担当しています。具体的には、各都道府県に設置された各財務局等から、地元の調査対象法人に提出をお願いすることによって、統計精度を保つ回収率を確保しています。また、提出された調査票については、各財務局等で審査した後、財務総研でも審査を行い、さらにシステムによりエラーチェックを行い重層的に確認するなど、財務本省と各財務局等が一体となって正確な統計の作成に努めています。
提出された調査票の集計作業は、「法人企業統計等ネットワークシステム」を活用して、財務総研、財務局等の職員が一体となって行います。調査対象法人からの調査票の提出は、2つの方法によって行われます。
1つ目はオンライン調査票の提出で、調査対象法人は、財務総研から送付されたID及びパスワードを用いて政府統計オンライン調査窓口(e-Survey)にログインし、Excel調査票もしくはHTML調査票(HTML調査票は法人企業景気予測調査のみ対応)に計数を入力し、そのデータをe-Surveyに送信します。e-Surveyからシステムに取り込まれたオンライン調査票のデータは、財務局等で審査された上で、財務総研に引き継がれます。
2つ目は、紙面の調査票で提出する方法です。調査対象法人は財務局等から送付された紙面調査票に手書きで記入したうえで、財務局等に郵送します。財務局等では、提出された調査票を審査し、財務総研に郵送します。財務総研では郵送された紙面調査票を審査し、データ化した上で、そのデータをシステムに登録します。これらの提出された調査票について、さらに財務総研でも二次審査を行い、システムでの集推計を経て、調査結果が公表されます。
(コラム1)統計調査の第一線、東京財務事務所財務課
法人企業統計調査等において、最も発送する調査票の数が多いのは東京財務事務所です。そこで、東京財務事務所財務課の金子調査官にお話を伺いました。
問:統計調査を担当する東京財務事務所財務課の活動をご紹介ください。
答:東京財務事務所では、全調査対象法人(例:法人企業統計年次別調査で約3万8千社)の約1/3となる調査票の回収・審査等を実施しています。
問:統計調査を担当する中で、どのようなことにやりがいを感じますか。
答:調査対象法人の件数が多く苦労も多いのですが、その反面、統計調査の結果は、新聞記事にも掲載され、微力ながらその一旦を担えていることに、やりがいを感じています。
問:調査対象法人数が多い中で、特に苦労している点はどのようなことですか。
答:調査対象法人へ調査票を再送(郵送)する際は、誤送付が発生しないように、住所変更や郵便物の封入物の確認はダブルチェックを徹底するなど慎重に対応しています(昨年の1年間で約700件対応!)。また、法人企業統計の年次別調査や四半期別調査が重なる7月・8月は年間を通して一番の繁忙期になりますが、人事異動後でもあり、(東京財務事務所へ異動した直後は)私にとって初めての業務だったこともあるので、さらに大変であった印象があります。
問:統計調査を担当する財務局のみなさんに対してメッセージをお願いします。
答:調査対象企業の本店が東京都へ移転の際には、移転法人の連絡をいただきありがとうございます。皆様も法人企業統計等の調査業務では苦労されていると思いますが、「回収率アップのための策」等を含めて情報共有しながら業務を行っていきたいと思っていますので、引き続きよろしくお願いします。財務局の職員の中には、まだ統計調査の経験がない方もいると思いますが、統計調査は、あらかじめスケジュールが決まっており、プライベートの予定も立てやすいので、少しでも興味がありましたら、チャレンジしていただけるとうれしいです。
(2)陰の主役「法人企業統計等ネットワークシステム(FABNET)」
ア 調査の実施に不可欠なFABNET
統計調査で重要な役割を担うのが、平成15年度から運用している「法人企業統計等ネットワークシステム(以下FABNET:Network System of Financial Statements Statistics and Business Outlook Survey)」です。前述したとおり、FABNETは、法人企業統計調査及び法人企業景気予測調査を作成するための統合オンラインシステムとして、法人管理(調査対象法人の選定及び名簿管理)から調査票の印刷、調査票の回収・審査、調査の集計・推計から結果の公表に至るあらゆる業務で使用し、財務局等と一体となった調査実施において欠かせないシステムとなっています。特に、財務総研と財務局等を接続するだけではなく、政府統計共同利用システム(e-Survey及びe-Stat)とも連携し、オンラインでの調査票の回収や調査結果の公表においても中心的な役割を担っています。なお、災害等が発生した場合でも、FABNETを安定的に運用できるように、財務総研と受託業者一体となったバックアップ体制を整えています。
今後、デジタル技術を活用した報告者の負担軽減と統計ユーザーへの利便性向上を実現する観点から、法人企業統計等の基幹統計に対しては、「今後5年間でオンラインによる回答割合を8割以上になることを目指してシステムの改善等に取り組む」こととされています*1。オンラインで回答することによって、調査対象法人は、手書きや郵送の手間が省けることに加え、電子調査票における自動集計機能やメッセージの表示により、入力が容易になります。調査実施主体である財務総研や財務局等にとっても、提出された調査票の誤記入が紙面で提出されたものと比べて格段に少なくなることから、調査対象法人に対して調査票の計数に関する問い合わせ回数が減少し、業務の効率化が図られるといったメリットがあります。
特に、コロナ禍における外出制限等の影響で、統計調査におけるオンライン化の流れは急速に進展しました。テレワークの普及に伴い、勤務先に出勤しないと調査に協力ができない紙面調査票の提出件数は減少する一方、自宅でもPCさえあれば調査に協力ができるオンラインでの提出件数は増加しており、直近の法人企業統計令和6年1-3月期調査のオンライン回収率は58.2%と、調査対象法人の半数以上がオンライン調査を選択しています。オンライン調査に対するニーズは、今後も高まっていくと考えています。
イ 今後の取組み
このような中、今後財務総研としてオンライン調査を普及させていかなくてはなりませんが、そのためには様々な課題があります。現在、法人企業景気予測調査においては、HTML調査票を導入し、2種類の調査票を活用してオンライン調査を実施しています。その結果、法人企業景気予測調査では、Excel調査票からHTML調査票に切り替える企業も増えてきており、その利便性が確認されつつあります。今後とも、財務総研においては、法人企業統計も含め、企業の調査票作成業務やオンラインによる提出がより効率的に行えるよう環境を改善する方法を考えることによって、オンライン調査の利便性向上を図っていきたいと考えています。
さらに、FABNETの安定的な運用のために、「ガバメント・クラウド」への移行を進めることを予定しています。「ガバメント・クラウド」とは、デジタル庁が整備する政府共通のクラウドサービスで、この利用環境の下で運用することによって、これまで機器更改時に発生していたシステム構築費用や自前で用意していたミドルウェア(セキュリティやデータベース等システムの運用に必要なライセンス使用料など)を削減し、首都直下型地震等の災害に対しても強いシステムの運用を実現することが期待されます。統計調査の実施や結果の集計・公表に支障がないようにしつつ、FABNETの効率的かつ安定的な運用に取り組んでいくことを考えています。

2.「法人企業統計調査」と「法人企業景気予測調査」
(1)法人企業統計調査
ア 法人企業統計調査の概要
法人企業統計調査は、我が国における営利法人等の企業活動の実態を明らかにするとともに、法人を対象とする各種統計調査のための基礎となる法人名簿を整備することを目的として実施しています。調査の開始は古く、年次別調査は昭和23年、四半期別調査は昭和25年から実施しており、歴史のある統計調査となっています。調査対象は、四半期別調査では資本金1千万円以上の法人を対象としているのに対し、年次別調査では全ての資本金階層の法人を対象に実施しています。ただ、これら全ての法人(母集団)を調査することは困難なため、調査対象法人を資本金別及び業種別に無作為に抽出(資本金が一定額以上の法人は全数抽出)して調査を行い、その結果を基に、母集団の状況を推計しています。調査事項は、売上高、損益、資産・負債、固定資産の増減(設備投資)など、企業の活動を財務諸表ベースで把握しています。
なお、調査結果を集計して作成される法人企業統計は、統計法に基づき、国勢統計、国民経済計算と並んで行政機関が作成する重要な統計である「基幹統計」に指定されています。
イ 法人企業統計調査の活用状況
四半期別調査の調査結果は、政府の景気に関する公式見解である「月例経済報告」において、「設備投資」及び「企業収益」の状況判断に用いられるなど、経済・財政政策立案の基礎資料として利用されています。また、「国民経済計算 四半期別GDP速報」の2次速報において、需要側推計値の基礎統計となっており、「民間企業設備」と「民間在庫品増加」(原材料在庫、仕掛品在庫)の推計に活用されています。四半期別調査の結果公表後、5営業日程度でGDP成長率等の2次速報が公表され、基礎統計の反映によって1次速報から改定されることから、四半期別調査の結果は、多くのエコノミストから注目されています。
また、年次別調査の調査結果は、国民経済計算年次推計の「固定資本減耗」等の推計の基礎資料として活用されています。このほか、内閣府「年次経済財政報告」や中小企業庁「中小企業白書」といった政府内での活用に加え、民間研究機関等におけるマクロ経済分析等に用いられるなど、官民で幅広く活用されています。
(コラム2)「法人企業統計からみえる企業の財務指標」について
法人企業統計調査の四半期別調査は足下の短期的な変動を確認することに適しているのに対し、年次別調査は企業の確定決算計数を調査しており、企業の構造的変化を長期時系列で確認することに適しています。「法人企業統計からみえる企業の財務指標」は、年次別調査によって集計された日本企業の貸借対照表や損益計算書にかかわる数字を使って計算した企業の財務指標を一覧にしたものです。財務指標の定義や計算式を分かりやすく紹介するとともに、年次別調査のデータを利用してこれまでの推移をまとめています。財務総研ホームページに掲載していますのでぜひご覧ください。
(2)法人企業景気予測調査
ア 法人企業景気予測調査の概要
法人企業統計調査が企業の実績の調査であるのに対し、企業活動の現状や今後の見通しを調査しているのが法人企業景気予測調査です。昭和58年度から旧大蔵省・財務省で実施していた「景気予測調査」と昭和59年度から旧経済企画庁・内閣府で実施していた「法人企業動向調査」を一元化し、平成16年度から実施しています。
調査対象は、法人企業統計四半期別調査と同様に資本金1千万円以上の法人を対象(ただし電気・ガス・水道業及び金融業、保険業は資本金1億円以上)とし、調査対象法人を資本金別及び業種別に無作為に抽出(資本金が一定額以上の法人は全数抽出)して調査を行い、その結果を基に、母集団の状況を推計しています。調査事項は、貴社の景況等の現状・見通しなどの「判断項目」のほか、売上高・経常利益・設備投資の年度見通しといった「計数項目」も調査しています。また、設備投資や利益配分のスタンスなど、四半期毎に異なる設問をアンケート形式でお聞きする「アンケート項目」を設定しています。
法人企業景気予測調査は、統計法に規定される一般統計調査のなかでも重要・広範に利活用される統計として「特定一般統計調査」に指定されています。
なお、法人企業景気予測調査では、「統計改革の基本方針」(平成28年12月経済財政諮問会議決定)等を踏まえ、効率化等の観点から、学識経験者との議論を経て平成31年度から抜本的な見直しを行いました。具体的には、判断項目の多くを廃止するなど、全体で調査項目数を50%超削減したほか、調査対象法人数を10%削減しました。一方で、「アンケート項目」についてはユーザーの注目度が高いことから、設問を毎期1問から2問に増設しました。特に、法人企業景気予測調査は実績を把握する法人企業統計調査に対して先行きに関する情報を得る調査との位置付けがあることから、「設備投資」の実態をより的確に捉えるため、「アンケート項目」において「今年度の設備投資の対象」、「今年度の設備投資計画と実績見込みとのかい離」などを新設しました。このほか、「計数項目」においてもユーザーニーズが高かった「設備投資の今四半期の実績見込み」を資本金10億円以上の企業に限定して調査することとしました。このように、回答者の負担軽減を図る一方、アンケート項目の充実などによりユーザーの利便性向上にも資する見直しを行いました。
イ BSIとは
法人企業景気予測調査の判断項目について、例えば「貴社の景況」では、前期と比べて「上昇」と回答した企業の構成比から「下降」と回答した企業の構成比を差し引いた指数として公表しています。この指数をBSI(Business Survey Index)と呼んでいます。具体的な計算方法は以下をご覧ください。
ウ 法人企業景気予測調査と日銀短観との違い
法人企業景気予測調査は、日本銀行で実施されている「日銀短観(全国企業短期経済観測調査)」と、図10 法人企業景気予測調査と日銀短観との比較のような違いがあります。四半期ごとの発表時期は、法人企業景気予測調査の方が日銀短観よりも3週間程度(10-12月期調査については1週間程度)早く、また、判断項目の指標については、日銀短観が調査票記入時点の水準(良い・悪い等)を調査するDI(Diffusion Index)を用いているのに対して、法人企業景気予測調査では、景況判断について前期と比べた方向性(上昇・下降等)を調査するBSIを用いています。また、法人企業景気予測調査では景況判断と合わせてその決定要因についても調査しています。そのほか、法人企業景気予測調査では、先行きの期間について2四半期先まで調査している点や、発表単位について全国に加え地域ブロック、各都府県別でも発表している点、調査対象法人について、資本金1千万円以上の法人を対象としており日銀短観よりもカバレッジが広いといった点に特色があります。
(コラム3)DIよりも景気の転換点を早く捉えるBSI
ここでは、前期と比べた変化方向を聞いているBSIと、調査票記入時点での水準を聞いているDIとの違いについてご説明します。
ある調査対象法人において、毎期の平均的な収益が100であり、この法人は各期の収益に基づいて景況感を判断している、と仮定します。この場合、DIで「調査時点において良いか悪いか」の判断を問われた場合には、その時の収益額が、平均水準の100よりも高ければ「良い」、低ければ「悪い」と回答すると思われます。
一方、BSIで「前期と比べ上昇したか下降したか」を問われた場合には、平均水準の100とは関係なく、収益が前期よりも増加していれば「上昇」、前期より減少していれば「下降」と回答すると思われます。
すると、上記の表の第3期と第7期をご覧いただくと、第3期ではDIは「良い」を維持しているものの、BSIでは「下降」に転じています。逆に第7期では、DIは「悪い」のままですが、BSIは「上昇」に転じています。
このように、景気の動向の変化、景気の転換点を、DIよりもBSIの方が早く捉えることができる、ということが期待されます。
エ 法人企業景気予測調査の活用状況
法人企業景気予測調査の調査結果についても、法人企業統計調査と同様に、経済・財政政策立案の基礎資料として利用されています。法人企業統計調査の項でも紹介した「月例経済報告」において「設備投資」の判断に用いられているほか、財務省でも法人税収の見積もりの基礎資料として、法人企業景気予測調査の経常利益の実績値及び見通しを活用しています。また、民間研究機関等におけるマクロ経済分析等に用いられるなど、官民で幅広く活用されています。
さらに、法人企業景気予測調査では、全国の調査結果のほか、各地域の財務局等において地域別の調査結果を公表していることから、地域経済の動向把握や分析を行うことが可能となっています。こうした各地域の調査結果(企業収益・設備投資)については、各財務局等が作成している「管内経済情勢報告」に活用されており、これらについては新聞報道等でも大きく取り上げられています。
(コラム4)法人企業景気予測調査でみる利益配分のスタンス「従業員への還元」の割合が増加
法人企業景気予測調査では、前記のとおり、「判断項目」や「計数項目」のほか、10個の選択肢の中から重要度の高い3項目を回答していただく「アンケート項目」を毎調査期に2問ずつ設定しています。そのうち「今年度における利益配分のスタンス」は、毎年1-3月期(平成23年度以前は10-12月期調査)に調査しています。調査結果の推移を大企業でみると、利益配分のスタンスについて、回答社数構成比の1位は「設備投資」、2位は「株主への還元」であり、ここ数年順位に変動はありませんが、「内部留保」が前年の3位から4位に下がった一方、「従業員への還元」が前年の4位から3位に上がっています。なお、「従業員への還元」の回答社数構成比は、大企業のみならず中堅企業、中小企業でも前年より高くなっており、今後、企業収益の改善が賃上げや設備投資に向かうことが期待されます。

3.時代の変化やニーズに対応した調査の見直し
統計調査では、時代の変化やニーズに対応した不断の見直しが求められます。前述の第IV期基本計画において、「公的統計が、重要な情報基盤としての役割を果たすことができるよう、時代の変化や統計ユーザー等のニーズに対応した有用な統計の整備を推進する」こととされています。この基本計画を受け、法人企業統計調査における各種の課題について検討を行う中で、令和5年7-9月期調査から、開業準備中法人の取扱いを見直すこととしました。具体的には、これまで設立登記終了後であっても、まだ正常な営業活動を開始するに至っていない法人は開業準備中法人として、調査対象から除いていましたが、企業活動の実態をより的確に把握するという法人企業統計調査の目的を踏まえ、開業準備中法人であっても、費用等の発生が認められる法人は調査対象から除かないこととしました。
また、基本計画では、公的統計の整備に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、施策展開に当たっての基本的な視点及び方針、公的統計の整備に関する取組の方向性、令和5年度からの5年間に取り組む具体的な措置等を示しています。この具体的な措置の中で、法人企業統計調査については「欠測値の補完方法の改善について、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえつつ、引き続き、検討する」こととされているほか、法人企業景気予測調査については、財務省、内閣府において「(国民経済計算 四半期別GDP速報)1次QE推計の改善に資すると考えられる事項について、法人企業景気予測調査の活用可能性の検証を行い、その結果を踏まえ、法人企業景気予測調査の調査項目の見直しについて検討」することとされています。今後はこうした課題について対応するとともに、時代の変化や統計ユーザーのニーズに対応すべく、その他の課題についても明らかになった場合には、基本計画の趣旨に沿って、適時適切に見直しを行っていきたいと考えています。
おわりに
この場をお借りして、法人企業統計調査及び法人企業景気予測調査にご協力をいただいている法人企業の皆様、また調査結果をご利用いただいている統計ユーザーの皆様に厚くお礼を申し上げます。本稿により、調査の重要性や有用性をご理解いただき、より一層の調査へのご協力、ご活用をいただければ幸いです。

執筆者
山本 貴司
財務総合政策研究所 調査統計部 調査統計課長
1994年四国財務局に入局、
2020年7月に調査統計部電子計算システム課長、
2021年7月に北陸財務局経済調査課長として出向した後、
2023年7月より現職。
阿部 桂三
財務総合政策研究所 調査統計部 統計企画課 統計企画専門官
2002年仙台国税局に入局、
2023年7月より現職。

財務総合政策研究所
POLICY RESEARCH INSTITUTE, Ministry Of Finance, JAPAN
過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html

図1 各財務局等の管轄
図2 調査票の回収から集計までの業務フロー
図3 東京財務事務所財務課のみなさん
図4 調査期で多忙を極める金子調査官
図5 金子調査官の一日のスケジュール(繁忙期)
図6 法人企業統計調査の概要
図7 法人企業景気予測調査の概要
図8 「法人企業統計からみえる企業の財務指標」(抜粋)
図9 BSIの計算方法
図11 ある調査対象法人における収益と景況判断の仮設例
図12 「今年度における利益配分のスタンス」の推移(全産業)

*1) 令和5年3月に閣議決定された、第Ⅳ期の「公的統計の整備に関する基本的な計画」に盛り込まれています。