国際収支統計からみた再保険市場の動向
大臣官房総合政策課 調査員 胡桃澤 佳子/木下 裕也
本稿では、国際収支統計における再保険の計上方法を整理した上で、再保険市場の動向について考察する。
再保険の仕組み/国際収支統計上の取扱い
再保険とは、保険会社が別の保険会社(再保険会社)に対して再保険料を支払って、自己の元受保険契約が負っているリスクの一部または全部を再保険会社に転嫁する取引のことを指す(図表1 再保険の仕組み)。
再保険取引が、国内外の保険会社間で行われる場合には、国際収支統計において「再保険料」「再保険金」が計上される。このうち「再保険料」については、保険金の原資となる純保険料部分、保険会社の事業費となる付加保険料部分に分けられる(図表2 保険料の成り立ち)。
純保険料部分の再保険料と再保険金は、資金の移転として第二次所得収支(その他経常移転)に計上されるが、付加保険料の支払は、再保険会社が提供するサービスを購入することと位置づけられるため、サービス収支(保険・年金サービス)に計上される(図表3 再保険取引の項目における国際収支統計上の分類)。
(出所)トーア再保険株式会社「再保険の概要」、一般社団法人日本損害保険協会「損害保険料の仕組み」、日本銀行国際局「国際収支関連統計項目別の計上方法」
「再保険料(純保険料)」と「再保険金」の分類
「再保険料(純保険料)」と「再保険金」は、ともに第二次所得収支のその他経常移転に計上され、収支相当の原則上、それらは長期的に見れば相殺されゼロ近傍になる。だだし、第二次所得収支のその他経常移転の推移をみると、自然災害や外貨建て保険契約の増加等を背景に、出再保険料も増加しており、ネットで赤字幅が拡大している(図表4 第二次所得収支におけるその他経常移転の推移)。
国内損害保険会社における海外再保険会社との再保険取引例をみると、想定外のリスクに備え、元受保険会社は出再保険料を支払い、再保険金支払に該当する大災害等のイベントが発生した際に、再保険会社から再保険金を受取ることができ、再保険料の支払一辺倒でないことが確認できる(図表5 損害保険会社の再保険取引推移(出再側視点))。
また、国内から海外へ出再する(再保険料を支払う)だけでなく、海外から国内に受再し(再保険料を受取り)、有事の際に再保険金を支払うといった取引も行われているが、後述の理由から出再の規模感には劣る(図表6 損害保険会社の再保険取引推移(受再側視点))。
(出所)財務省・日本銀行「国際収支統計」、一般社団法人日本損害保険協会「ファクトブック2023日本の損害保険」
「再保険料(付加保険料)」の分類
「再保険料(付加保険料)」は、サービス収支の保険・年金サービスに計上される(図表7 保険・年金サービス収支の推移)。再保険マーケットは欧米を中心に発展してきた経緯があり、国内に主たる再保険プレーヤーは存在しない。そのため、再保険のニーズ拡大に伴い、海外再保険会社に対する保険・年金サービスの支払は増加基調にあり、サービス収支の赤字要因となっている。
地域別保険・年金サービスの支払先をみると、米国や英国向けの支払が安定的に推移する中、近年中南米(ケイマン諸島、メキシコ、ブラジルを除く)やケイマン諸島向けの支払が大きく増加している(図表8 地域別保険・年金サービスの支払推移)。
主要なグローバル再保険会社をみると、米国や英国を始めとする欧州、国際収支統計上、中南米に分類されるバミューダにおける企業が複数あり、地域別保険・年金サービス支払先と一致していることがみてとれる(図表9 再保険業界の主要企業)。
(出所)財務省・日本銀行「国際収支統計」、日本銀行「国際収支統計からみたサービス取引のグローバル化」、S&P Global Ratings「TOP 30 Global Reinsurers by Premiums 2023」
再保険市場の展望
2025年度から導入が予定されている経済価値ベースのソルベンシー規制等を背景に(図表10 経済価値ベースのソルベンシー概要)、再保険を活用したリスク移転ニーズは底堅く推移していくものと考えられる。再保険サービスがグローバルに提供されている状況の下では、「再保険料(付加保険料)」の支払増加、つまり、保険・年金サービスの赤字が拡大する傾向は、今後も続く可能性が高い。
保険・年金サービスにおける再保険料の支払増加がサービス収支の赤字に寄与する一方で、国内保険会社が、再保険料をグループ内の再保険事業を営む海外子会社・関連会社へ支払うケースもみられ(図表11 海外再保険子会社・関連会社の例)、当該会社の収益が第一次所得収支(直接投資収益の配当金等)の受取として国内に還元されている側面もある(図表12 第一次所得収支の直接投資収益受取とサービス収支の保険・年金サービス支払推移)。
国内保険会社が、海外拠点の子会社・関連会社を通じた再保険事業を拡大する機運が高まっており、国際収支統計においても、配当収益等で黒字計上され、全体として赤字削減に寄与していくことを期待したい。
(出所)日本経済新聞「生損保、25年に資本規制 市場変動に備え契約を時価評価」、各社プレスリリース及び統合報告書等、財務省・日本銀行「国際収支統計」
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。