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「茨城活性化サロン(特別回)」の開催 齋藤通雄氏基調講演~茨城経済活性化のチャンスとハードル~

関東財務局 水戸財務事務所 総務課長 熊谷 勇人

1.はじめに
関東財務局及び管内の財務事務所では、地域貢献の取組みの一環として、地域の実情等を踏まえ、地元の企業経営者や有識者とともに、地域経済の中長期的な課題について自由闊達な情報・意見交換を行う場として、「地域活性化サロン」を定期的に開催しています。
水戸財務事務所では、平成27年から7回にわたって「茨城活性化サロン」を開催してきましたが、令和2年以降、コロナ禍によって中断を余儀なくされてきました。この間は、地域との繋がりが希薄になってしまう状況が続きましたが、新型コロナウイルスの感染症法の分類が「5類」に移行した昨年の5月以降は、経済団体や地方公共団体、地域の有識者等との関係の再構築と深化を目指し、対話や講演、広報活動等の地域連携活動に取り組んでまいりました。その一つの大きな成果として、令和6年4月5日に開催した「茨城活性化サロン」について紹介します。

2.茨城活性化サロン開催まで
水戸財務事務所で地域活性化サロンを開催するのは実に5年ぶりとなることから、今回は、「特別回」として、前例を踏襲するのではなく、やり方や規模、声がけする参加者なども一から考えることとし、事務年度初め(昨年7月)から検討と準備を進めてきました。
「せっかくだから何百人も入る大きな会場を借りてやろうよ」と欲張りな梅村知巳所長に対し、「財務事務所として適切な規模で」と現実路線の企画係長、その間に立って苦労する総務課長という構図の下、各課長を交えて検討を重ねました。会場については、水戸財務事務所庁舎の隣に位置している水戸法務総合庁舎内の大会議室を借りることとしました。事務所の隣の庁舎であれば準備や運営の負担も少ないという企画係長の現実的な意見が通った形です。参加者については、会場の収容可能人数が60名程度であることを踏まえながら、コロナ禍明け以降に地域連携活動等で水戸財務事務所と関わった経済団体、地方公共団体、金融機関、大学に広く声をかけることとし、やり方は、基調講演の後、パネリストと参加者が近い位置で意見交換をできる場にしようということになりました。
そして一番悩んだのが、講師とパネリストを誰にお願いするかということでした。できるだけ注目度を高めたいという思惑と、財務局が中央と地方の架け橋の役割を担っていることや、経済を取り巻く環境が大きく変化するタイミングでの開催になることも踏まえ、考えに考えた末、所長が本省理財局でご一緒させていただいた縁を頼りに、前理財局長で現(株)野村資本市場研究所研究理事の齋藤通雄氏にお願いしてみることとなりました。齋藤氏は東海財務局長も歴任されており、中央と地方での実体験からお話をいただくことができることや、地域に対し財務省の本気度を示すという意味でも余人をもって代えがたい方との結論に至ったものです。事務局としては受けてもらえるのか不安ではありましたが、幸いにも、快く基調講演の講師とパネリストを受けていただくことができました。
また、茨城の活性化を語る上で、茨城県から参加いただくことが欠かせませんでした。業務を通じて、また県との連携活動を通じて築いてきた関係性を活かし、所長から横山征成副知事にお願いをしました。更に、県内経済や金融の面から的確なコメントをいただける方も必須であると考え、茨城愛が強く地域の方々からの信頼が厚い、(株)常陽産業研究所の尾家啓之チーフエコノミストにお願いをすることとしました。両氏からも、茨城活性化サロンを開催する意義を共感いただけ、快くパネリストを受けていただくことができました。
その後、3氏とはメールにより連絡をとりながら、要所においては直接伺い、当日の流れや講演内容の確認等について打合せを重ね、事務局としても企画係長を中心に各課の協力を得て、万端な準備の下サロン当日を迎えました。

3.当日の模様
当日は、経済団体、地方公共団体、金融機関等の25団体56名の参加を得て、3部構成で開催しました。
第1部は、齋藤氏から「茨城経済活性化のチャンスとハードル」と題し基調講演をいただきました。経済における近年の環境変化やパラダイム転換について解説があった後、最近の経済を取り巻く環境の変化の中で、民間事業者や金融機関に必要とされる取組み、地方公共団体等のパブリックセクターが民間の取組みをどのような形でサポートするべきか、茨城の強みも含め、齋藤氏の知見と経験を踏まえた多角的な視点から講演をいただきました。特に「世の中が変わっていく中で、現状維持は相対的に後退を意味する」との含蓄ある一言は、参加者の心に響くものでした。
第2部は、横山氏から「「新しい茨城」への挑戦」と題して、茨城県における経済の更なる活性化の取組みについて紹介いただきました。社会・経済の構造的な変化に対応し、従来の常識や考え方にとらわれず、自ら未来を切り開いていく必要があるとして、企業誘致、第一次産業、観光、海外市場開拓、人材確保、ベンチャー支援といった差別化で利益を上げている県の産業政策について解説いただきました。県の政策や取組みを通じて「新しい茨城」への挑戦には何が求められるのかを考える機会となりました。
第3部は、齋藤氏、横山氏の講演を踏まえパネリストと参加者による意見交換が行われました。始めに、尾家氏から、近年の環境変化、人材確保の面から職場としての自社の魅力を高めていくことの重要性、県内金融機関のスタートアップ支援の紹介、茨城経済の特色や優位性、金融環境(マイナス金利解除)についての解説とコメントがあった後、横山氏から、「研究開発拠点・つくばの存在、製造業の集積といった茨城の強みを齋藤氏からご指摘いただき心強く感じる。改めて、茨城の持っているものを最大限活かした取組みを進めていきたい」、齋藤氏からも、「地域を活性化させたいとき、ほかと同じことをやるのではなく、地域ごとの個性や歴史的な経緯も含めた特色を踏まえ施策を講じていかなければならない。そういった意味で、横山氏が県の取組み紹介の中で“差別化”という言葉を使われていた、その着眼点に対して共感する」との発言がありました。
参加者との意見交換についても紹介します。大学関係者から、人材確保が茨城経済の活性化を長期的に実現するうえで重要な論点であるとの意見があった後、「人材育成のあり方」、「大学教育のあり方」について質問がありました。齋藤氏からは「近年の環境変化の中では、特に英語やITの素養が必須になっている。また、例えばパブリックセクターでも単なる“執行”ではなく、“企画”の意識が必要となるなど、AIにはできないクリエイティブさが求められているため、社会人になる前の教育段階で想像力や思考力を伸ばすことが重要である」とのコメントがありました。また、金融機関から、ベンチャー企業のグロースのIPO市場について質問がありました。齋藤氏からは「金融環境が変わる中、スタートアップを中心としたリスクマネーへの流れが滞らないよう、これまで以上にしっかりと支援しなければならない局面」としたうえで、「必ずしもIPOではなく、欧米各国では大企業への売却によるイグジットという選択もあり、日本でもその橋渡しを金融機関が担うことが可能ではないか」との見解が示されました。
議論が尽きる気配はありませんでしたが、最後に、尾家氏から「茨城の地域活性化のためにやるべきことの処方箋は既にある。あとは信念を持ってやり続けるのみ」とのコメントを、横山氏から「県も“トライアンドエラー、失敗をおそれるな”のマインドでやっているので、是非沢山のアイデアを県に向けて発信してもらいたい」との力強いコメントをいただいて、サロンは終了しました。
本紙では詳細まで書ききれませんが、水戸財務事務所ホームページに本サロンをまとめた「経済調査レポート」を掲載していますので、是非そちらをご覧いただければと思います。
写真 (株)野村資本市場研究所 研究理事 齋藤 通雄 氏
写真 茨城県 副知事 横山 征成 氏
写真 (右端)(株)常陽産業研究所 チーフエコノミスト 尾家 啓之 氏
写真 参加者との意見交換
写真 会場の様子

4.終わりに
齋藤氏、横山氏、尾家氏には、水戸財務事務所の取組みにご理解いただいて、本サロンの成功にご尽力いただけたこと、改めて感謝申し上げます。当日は、多くの報道機関から取材を受け、各紙の紙面や地元ラジオ局にも取り上げられたことからも、本サロンに対する関心の高さが感じられました。参加された方々からも、「新しい茨城」への挑戦に向けて感じたこと、心新たにしたことなど、多くの前向きな声をいただくことができました。「新しい茨城」への挑戦に向け、本サロンが少しでも参加された皆様のお役に立てたのであれば幸いです。水戸財務事務所としても、本サロンから得られたヒントや地域の方々との関係性を活かしながら、引き続き地域への貢献に取り組んでまいりたいと思います。
写真 (左から)梅村所長、齋藤氏、横山氏、尾家氏
※なお、職員及びサロン講師・パネリストの役職名は執筆時点のものです。